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平成28年10月12日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成28年(行ケ)第10109号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年9月21日
判決
原告X
同訴訟代理人弁理士中川邦雄
被告特許庁長官
同指定代理人松浦裕紀子
土井敬子
冨澤武志
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2015-13533号事件について平成28年3月29日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)原告は,平成26年10月15日,別紙のとおりの構成からなり,第30
類「バウムクーヘン」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)の登録
出願(商願2014-86622号)をした(甲22)。
(2)原告は,平成27年3月12日付けの手続補正書により,指定商品を第3
0類「鉾田市産のバウムクーヘン」と補正した(甲25)。
(3)原告は,平成27年5月1日付けで拒絶査定を受けたので,同年7月16
日,これに対する不服の審判を請求した(甲26,27)。
(4)特許庁は,これを,不服2015-13533号事件として審理し,平成
28年3月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)
記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年4月8日,その謄本が原告に
送達された。
(5)原告は,平成28年5月7日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本願商標は,
商標法3条1項3号に該当するから,登録を受けることができない,というもので
ある。
3取消事由
本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1本願商標の商標法3条1項3号該当性について
(1)本願商標の構成態様について
本願商標の称呼は,「ホコタバウム」という6音数の構成であって,よどみなく
容易に一気に称呼できる語呂,音数である。
また,本願商標の外観は,「HOKOTABAUM」と欧文字の大文字10文字
からなり,同一フォント,同一ポイントの各文字を一連に横書きしたものであって
一体不可欠のものである。また,全体としてやや太字で,ゴジック体調の文字であ
り極めて特徴のある書体であって,「HOKOTA」の文字と「BAUM」の文字
との間にはスペースも存在しない。
さらに,本願商標は造語であるから,産地や販売地を直感させるものではなく,
特定の観念が生じることもない。
加えて,本願商標のように,「HOKOTA」の文字と別の文字とがスペースな
く結合した標章や,地域名を認識させる文字部分及び「バウム」の文字部分に照応
する各文字が全て欧文字表記された標章はない。
したがって,本願商標は「HOKOTA」と「BAUM」に分離して観察すべき
ではない。
(2)「HOKOTA」から生じる認識について
日本には少なからず鉾田姓も存在するから,需要者は,「HOKOTA」の文字
部分から「鉾田姓」も連想し,本願商標全体が鉾田市を産地又は販売地とするバウ
ムクーヘンであることを表したものと認識されることはない。
(3)取引状況について
鉾田市は,バウムクーヘンの産地,販売地として知られている地域では全くなく,
当該地名が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,取引者,需要者に認識さ
れているとはいえない。
(4)商標登録例について
「和バウム」,「グレースバウム」,「HOTBAUM」,「仙台伊達バウム」や,
「重信バーム」,「不来方バウム」,「LINDENBAUM\リンデンバウム」,「北
アルプスバーム」,「niitsuバウム」,「はりまや橋バウム」などと品質,産地,
販売地を表示する本願商標と構成態様が極めて似ている商標が多数登録されている
ことからすれば,本願商標は当然に登録されるべきである。
2使用による識別力の獲得について
本願商標の指定商品は,「モンドセレクション」などの世界三大大会等で受賞し
た評判の商品で,国際的品評会でも高い評価を得ているとともに,国内でも取引に
使用されており,極めて著名であるほか,本願商標を使用した商品の販売期間,販
売量,受賞歴,マスメディアに取り上げられた回数等によれば,本願商標は,商品
の出所が十分に認識されるほどの識別力を獲得している。
3結論
以上によれば,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものではなく,仮に
同号に該当したとしても,識別力を獲得しているから,商標登録を受けることがで
きる。
〔被告の主張〕
1本願商標の商標法3条1項3号該当性について
(1)本願商標について
ア本願商標は,全体として,ややデザイン化された書体で表されているものの,
いまだ普通に用いられる方法の域を脱しない方法で表示するものである。
また,本願商標は,その構成中に「BAUM」の文字を含んでなるところ,菓子
業界においては,当該文字及びその片仮名表記である「バウム」の文字を用いた
「○○BAUM」や「○○バウム」の表示をもって,その商品が「バウムクーヘン」
であることを表わしている事実がある。
そうすると,本願商標をその指定商品について使用した場合,これに接する取引
者,需要者は,その構成中の「BAUM」の文字部分を商品「バウムクーヘン」を
表したものと理解し,これに「HOKOTA」の文字を冠したものと認識するとい
える。
イそして,当該「HOKOTA」の文字は,「ほこた」の読みが自然に生じる
ものであり,その読みに照応する語としては,茨城県の市(自治体)を意味する
「鉾田」がある。
また,欧文字表記の「HOKOTA」(「Hokota」)は,茨城県の鉾田市を
指す語として使用されている事実がある。
さらに,菓子業界において,生産又は販売される地域名等と「バウム」の商品名
とを組み合わせた「○○バウム」の標章が用いられている事実がある。
ウそうすると,本願商標は,商品の生産又は販売が茨城県の鉾田市であること
を指す「HOKOTA」の文字と商品がバウムクーヘンであることを表す「BAU
M」の文字とを組み合わせてなるものとして認識されるといえる。
(2)以上によれば,本願商標は,ややデザイン化された文字により表されてい
るものの,いまだ普通に用いられる方法の域を脱しない方法で表示する標章のみか
らなるものであり,また,その構成全体をもって「茨城県の鉾田市で生産又は販売
されるバウムクーヘン」ほどの意味合いを容易に想起させるものである。
そうすると,本願商標をその指定商品について使用した場合,これに接する取引
者,需要者は,「鉾田市を産地又は販売地とするバウムクーヘン」であることを表
してなるものと認識するにとどまるというべきである。
したがって,本願商標は,その指定商品との関係において,商品の産地,販売地,
品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といえるから,商標
法3条1項3号に該当する。
(3)原告の主張に対する反論
ア本願商標の構成態様について
原告は,本願商標の構成態様からは,「HOKOTA」と「BAUM」に分離し
て観察されることはない旨主張する。
しかし,本願商標を構成する「HOKOTA」の文字及び「BAUM」の文字の
意味や使用状況,取引の実情等に照らすと,本願商標に接する取引者,需要者は,
これを商品の生産又は販売が茨城県の鉾田市であることを指す「HOKOTA」の
文字と,商品「バウムクーヘン」を表す「BAUM」の文字とを組み合わせてなる
ものとして看取,把握するといえる。
イ「HOKOTA」から生じる認識について
原告は,日本には少なからず鉾田姓も存在するから,本願商標から「鉾田市」と
の観念が生じることはない旨主張する。
しかし,たとえ,姓としての「鉾田」が存在するとしても,「鉾田」は,姓とし
て広く一般に馴染まれたものともいい難く,また,「鉾田」姓が存在することによ
り,「HOKOTA」の文字から茨城県の鉾田市の意味が生じることが否定される
わけではない。
ウ取引状況について
原告は,鉾田市が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,取引者,需要者
に認識されているとはいえない旨主張する。
しかし,商標法3条1項3号は,取引者,需要者に指定商品の品質等を示すもの
として認識され得る表示態様の商標につき,それゆえに登録を受けることができな
いとしたものであって,当該表示態様が,商品の品質等を表すものとして必ず使用
されるものであるとか,現実に使用されている等の事実は,同号の適用において必
ずしも要求されない。
エ商標登録例について
原告は,本願商標と構成態様が極めて似ている商標が多数登録されていることか
らすれば,本願商標は当然に登録されるべきである旨主張する。
しかし,登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するものであるか否か
は,当該登録出願の査定時又は審決時において,その商標が使用される商品の取引
の実情等に基づいて,個別具体的に判断されるべきものであるところ,原告の挙げ
る登録商標例は,いずれも本願商標と構成態様が異なるものであるから,本願商標
の同号該当性の判断に影響するものではない。
2使用による識別力の獲得について
原告は,本願商標の指定商品は,商品の出所が十分に認識されるほどの識別力を
獲得している旨主張する。
しかし,本願商標を使用した商品の販売期間,販売量,マスメディアに取り上げ
られた回数等の具体的な主張,立証はされておらず,本願商標をその指定商品につ
いて使用した結果,原告の業務に係る商品であることを取引者,需要者が認識でき
るものとなっていると認められる事実までは見いだせない。
第4当裁判所の判断
1商標法3条1項3号について
商標法3条1項3号は,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,
形状(包装の形状を含む。…),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特
徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,
用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用
いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができ
ない旨を規定し,同条2項は,「前項第3号から第5号までに該当する商標であっ
ても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認
識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受ける
ことができる」旨を規定している。
その趣旨は,商標法3条1項3号に該当する商標は,特定人によるその独占使用
を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章で
あって自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものとして,商標
登録の要件を欠くが,使用をされた結果,自他商品識別力を獲得するに至った場合
には,商標登録を受けることができるものとしたものである。
そして,商標登録出願に係る商標が商標法3条1項3号にいう「商品の産地又は
販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するとい
うためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産
され又は販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品
が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に
認識されることをもって足りるというべきである(最高裁昭和60年(行ツ)第6
8号同61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁)。
2本願商標の商標法3条1項3号該当性
(1)本願商標の構成態様について
ア本願商標は,別紙のとおりの構成からなり,「鉾田市産のバウムクーヘン」
を指定商品とするものである。
イまず,本願商標には,「BAUM」の欧文字が含まれている。
そして,証拠(乙1~14)によれば,菓子業界においては,取扱商品としてバ
ウムクーヘンを表示するに際し,「URUOIBAUM」,「HITOTSUGI
BAUM」,「PREMIUMBAUM」,「ThisIZUBAUM」,「KO
YAMA´SBAUM」,「WHISKYBAUM」,「WHITEBAUM」,
「EUCALYBAUM」,「ねこバウム」,「TERABAUM」などと,「BA
UM」との文字部分,又はその片仮名表記である「バウム」との文字部分と,その
他の文字部分を組み合わせた標章を用いることが少なからずあると認められる。
そうすると,本願商標のうち「BAUM」の部分は,需要者又は取引者にバウム
クーヘンを認識させるということができる。
ウまた,本願商標には,「HOKOTA」の欧文字が含まれている。
そして,「HOKOTA」の文字部分は,「ほこた」との称呼が自然に生じるとこ
ろ,証拠(乙15~17)によれば,「ほこた」との称呼を有する地方自治体であ
る鉾田市が茨城県に所在することが認められる。また,証拠(乙18~25)によ
れば,鉾田市を表示するに際し,「HOKOTA」又は「Hokota」との欧文
字を用いることが少なからずあると認められる。
そうすると,本願商標のうち「HOKOTA」の部分は,需要者又は取引者に茨
城県所在の鉾田市を認識させるということができる。
エ以上のとおり,本願商標は,需要者又は取引者に,「BAUM」の部分は,
バウムクーヘンを認識させ,「HOKOTA」の部分は,鉾田市を認識させるもの
である。
そして,証拠(乙26~33)によれば,菓子業界においては,取扱商品を表示
するに際し,「遠野バウム」,「広島バウム」,「箕面バウム」,「琉球バウム」,「原宿
バウム」,「御影バウム」と,その商品の生産又は販売がされる地域名と商品名であ
る「バウム」を組み合わせた標章を用いることが少なからずあると認められる。
したがって,本願商標が指定商品に使用された場合,本願商標は,その全体から,
鉾田市を産地又は販売地とするバウムクーヘンという意味を有するものとして,需
要者又は取引者に認識されるものということができる。
(2)普通に用いられる方法について
本願商標は,「HOKOTABAUM」という欧文字を,ゴジック体の太字で表
し,さらに,全体的に若干丸みを帯びるようにデザイン化させている。
そして,商取引において標章のデザイン化は一般に広く行われるものであるほか,
証拠(乙5~9,11)によれば,菓子業界においては,欧文字で表した標章を,
全体的に若干丸みを帯びるようにデザイン化させることもあると認められる。
そうすると,本願商標は,特殊なものとはいえず,「HOKOTABAUM」の
欧文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものということができ
る。
(3)原告の主張について
ア本願商標の構成態様について
原告は,本願商標の構成態様からは,「HOKOTA」と「BAUM」に分離し
て観察すべきではない旨主張する。
しかし,本願商標が指定商品である「鉾田市産のバウムクーヘン」に使用された
場合,「HOKOTA」の文字部分は「鉾田市」を意味し,「BAUM」の文字部分
は「バウムクーヘン」の意味を有するために,需要者又は取引者に対し,商品の出
所識別標識としての印象を与えないものである。
そして,本願商標を構成する「HOKOTA」の文字部分及び「BAUM」の文
字部分の意味や使用状況,菓子業界における取引の実情に照らすと,本願商標に接
する需要者又は取引者は,本願商標を,商品の産地又は販売地が鉾田市であること
を指す「HOKOTA」の文字部分と,商品「バウムクーヘン」を表す「BAUM」
の文字部分とを組み合わせてなるものとして認識するというべきである。
したがって,本願商標は「HOKOTA」と「BAUM」の各文字部分に分離し
て観察することができるものということができる。
イ「HOKOTA」から生じる認識について
原告は,日本には少なからず鉾田姓も存在し,「HOKOTA」の文字部分は鉾
田姓も連想させるから,本願商標から,鉾田市が商品の産地又は販売地として認識
されるものではない旨主張する。
しかし,本願商標が指定商品である「鉾田市産のバウムクーヘン」に使用された
場合,「HOKOTA」の文字部分が「鉾田市」を意味するものと認識されること
は明らかである。また,証拠(甲56,乙34~36)によれば,日本人の姓とし
て「鉾田」は,広く一般に存在するものではないと認められる。加えて,日本人の
姓として「鉾田」が存在するとしても,前記のとおり,「ほこた」との称呼を有す
る地方自治体である鉾田市が茨城県に所在し,さらに,鉾田市を表示するに際し,
「HOKOTA」又は「Hokota」との欧文字を用いることが少なからずある
と認められる。
そうすると,本願商標のうち「HOKOTA」の部分は,需要者又は取引者に,
茨城県所在の鉾田市を表示するものと容易に認識させるものということができ,さ
らに菓子業界の取引の実情を考慮すれば,鉾田市が商品の産地又は販売地であろう
と一般に認識されるものということができる。
ウ取引状況について
原告は,鉾田市が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,需要者又は取引
者に認識されているとはいえない旨主張する。
しかし,前記のとおり,商標法3条1項3号にいう商標に該当するというために
は,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は
販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商
標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識され
ることをもって足りるというべきである。
したがって,鉾田市が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,需要者又は
取引者に認識されているか否かは,本願商標の商標法3条1項3号号該当性の判断
を左右するものではない。
エ商標登録例について
原告は,本願商標と構成態様が極めて似ている商標が多数登録されていることか
ら,本願商標は当然に登録されるべきである旨主張する。
しかし,登録出願に係る商標が商標法3条1項3号や同条2項に該当するもので
あるか否かは,当該登録出願の査定時又は審決時において,その商標が使用される
商品の取引の実情等に基づいて,個別具体的に判断されるべきものである。
したがって,本願商標と構成態様が類似する商標が多数登録されているとしても,
このことは本願商標の商標法3条1項3号該当性の判断を左右するものではない。
(4)小括
以上によれば,本願商標は,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商
標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識され
るものであるから,商標法3条1項3号に該当する。
3使用による識別力の獲得について
原告は,本願商標の指定商品は,商品の出所が十分に認識されるほどの識別力を
獲得している旨主張する。
確かに,証拠(甲18~20)によれば,「HOKOTABAUM」などの標章
が付された原告の商品であるバウムクーヘンが,いくつかの品評会で受賞したこと
は認められる。
しかし,本願商標を使用した商品の販売期間,販売量,マスメディアに取り上げ
られた回数等は明らかではなく,本願商標について,使用をされた結果,自他識別
力を獲得するに至ったと認めることはできない。
4結論
以上のとおり,本願商標は,商品の産地,販売地を普通に用いられる方法で使用
する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するというべきであ
る。そして,本願商標が使用による自他商品識別力を獲得するに至ったとの事実も
認められないから,同条2項は適用されない。
よって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官柵木澄子
裁判官片瀬亮
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