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平成19年2月28日判決言渡
平成17年(行ケ)第10779号特許取消決定取消請求事件
平成19年2月14日口頭弁論終結
判決
原告富士ゼロックス株式会社
訴訟代理人弁理士木村高久
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人山崎慎一
同大日方和幸
同小池正彦
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が異議2002−71999号事件について平成17年9月14日に
した取消決定を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「印刷システム」とする特許第3254758号(平
成4年10月19日出願,平成13年11月30日設定登録。以下「本件特
許」という。)の特許の特許権者である。
本件特許に対し,特許異議の申立てがあり,特許庁がこの申立てを異議20
02−71999号事件として審理する過程で,原告は,平成15年1月7日,
願書に添付した明細書又は図面の訂正請求(以下「本件訂正」という。)をし
た。その結果,平成17年9月14日,特許庁は,上記訂正請求を認めた上で,
本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消す旨の決定をし,同年10月
3日,決定の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件訂正による訂正後の本件特許の請求項1ないし3(請求項の数は全部で
3項である。)は,次のとおりである。
「【請求項1】ホストコンピュータと印刷装置から構成される印刷システム
において,
前記ホストコンピュータは,
ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,印刷制御
用データと印刷データからなる印刷情報データを生成して出力するホストコン
ピュータデータ処理部と,
ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なり,前記ホストコン
ピュータデータ処理部から出力された前記印刷情報データを受信して該印刷情
報データを前記接続方式に対応した転送方式で前記印刷装置に転送するホスト
コンピュータインターフェース制御部と
を有し,
前記印刷装置は,
ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なり,前記ホストコン
ピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応した転送方式で転送
されてきた前記印刷情報データを受信する印刷装置インターフェース制御部と,
ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,前記印刷
装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御
を行う印刷装置データ処理部と
を有することを特徴とする印刷システム。
【請求項2】印刷装置と接続されるホストコンピュータであって,
ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,印刷制御
用データと印刷データからなる印刷情報データを生成して出力するデータ処理
部と,
ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なり,前記データ処理
部から出力された前記印刷情報データを受信して該印刷情報データを前記接続
方式に対応した転送方式で前記印刷装置に転送するインターフェース制御部と
を有することを特徴とするホストコンピュータ。
【請求項3】ホストコンピュータと接続される印刷装置であって,
印刷装置とホストコンピュータの接続方式によって異なり,ホストコンピュ
ータから前記接続方式に対応した転送方式で転送されてきた印刷制御用データ
と印刷データからなる印刷情報データを受信するインターフェース制御部と,
印刷装置とホストコンピュータの接続方式について共通であって,前記イン
ターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印
刷装置データ処理部と
を有することを特徴とする印刷装置。」
(以下,請求項1ないし3に係る発明をそれぞれ「本件発明1ないし3」とい
う。)
3決定の理由
別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明1ないし3は,いず
れも,特開昭63−185671号公報(甲第1号証。以下,決定と同様に
「刊行物1」という。),特開昭64−67354号公報(甲第2号証。以下,
決定と同様に「刊行物2」という。)及び特開平1−140328号公報(甲
第3号証。以下,決定と同様に「刊行物3」という。なお,これらの刊行物に
記載された発明を「刊行物1記載発明」などという。)の記載に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規
定により特許を受けることができないものであり,本件特許は拒絶の査定をし
なければならない特許出願に対してされたものであるから,特許法等の一部を
改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく特許法等
の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第2
05号)4条2項の規定により,請求項1ないし3に係る本件特許を取り消す
というものである。
決定は,上記結論を導くに当たり,刊行物1記載発明の内容及び本件発明1
ないし3と刊行物1記載発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)刊行物1記載発明の内容
「ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等にも適用することができる,
低速で安価なワイヤドットプリンタ103と高速なレーザプリンタ104の
2種類のプリンタをサポートする印刷処理システムにおいて,
ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等は,
テキスト,図形,グラフなど各アプリケーションに依存し,対応する編集
プログラムのデータから,OS(オペレーティングシステム)が用意する印
刷用コマンドを発生し,印刷制御プログラム206に対して,コマンド11
00aとパラメータ1100bからなる印刷コマンドをレーザプリンタ10
4に転送するファンクションを発行する印刷プログラム201と,
ワイヤドットプリンタ103を制御するワイヤドットプリンタドライバ2
08と,
レーザプリンタ104を制御するレーザプリンタドライバ209と,
基本的なタスク制御や入出力制御などを行うカーネル部207と,上述し
た印刷用コマンドからドットイメージを発生させるなどの印刷処理特有の機
能を実現し,レーザプリンタドライバ209を介してレーザプリンタ104
のコントローラ部210に印刷コマンドを転送する印刷制御プログラム20
6に別れるOS205と
を有し,
レーザプリンタ104は,
実際の印字を行うレーザプリンタエンジン211と,
ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等と通信を行い,ワードプロ
セッサやパーソナルコンピュータ等から転送されてきた印刷コマンドに基づ
き,頁メモリ650に展開された1頁の印刷イメージをレーザプリンタエン
ジン211に転送し,レーザプリンタエンジン211が印刷するように制御
するコントローラ部210と
を有する印刷処理システム。」
(2)本件発明1と刊行物1記載発明との対比
ア一致点
ホストコンピュータと印刷装置から構成される印刷システムにおいて,
前記ホストコンピュータは,
印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データを生成して出力す
るホストコンピュータデータ処理部と,
前記ホストコンピュータデータ処理部から出力された前記印刷情報データ
を受信して該印刷情報データをホストコンピュータと印刷装置の接続方式に
対応した転送方式で前記印刷装置に転送するホストコンピュータインターフ
ェース制御部とを有し,
前記印刷装置は,
前記ホストコンピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応
した転送方式で転送されてきた前記印刷情報データを受信し,受信した前記
印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷システムである点
イ相違点
本件発明1では,印刷装置は,印刷装置インターフェース制御部と印刷装
置データ処理部とを有し,ホストコンピュータデータ処理部と印刷装置デー
タ処理部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であ
って,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェ
ース制御部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なる
のに対して,
刊行物1記載発明では,印刷装置が印刷装置インターフェース制御部と印
刷装置データ処理部とを有していることや,ホストコンピュータデータ処理
部,印刷装置データ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,
印刷装置インターフェース制御部のうち,どれが,ホストコンピュータと印
刷装置の接続方式について共通で,どれが異なるのかが明らかでない点
(3)本件発明2と刊行物1記載発明との対比
ア一致点
印刷装置と接続されるホストコンピュータであって,
印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データを生成して出力す
るデータ処理部と,
前記データ処理部から出力された前記印刷情報データを受信して該印刷情
報データをデータホストコンピュータと印刷装置の接続方式に対応した転送
方式で転送されてきた前記印刷装置に転送するインターフェース制御部と
を有するホストコンピュータである点
イ相違点
本件発明2では,コンピュータデータ処理部が,ホストコンピュータと印
刷装置の接続方式について共通であって,インターフェース制御部が,ホス
トコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるのに対して,
刊行物1記載発明では,データ処理部,インターフェース制御部のうち,
ホストコンピュータと印刷装置の接続方式についてどちらが共通で,どちら
が異なるのかが明らかでない点
(4)本件発明3と刊行物1記載発明との対比
ア一致点
ホストコンピュータと接続される印刷装置であって,
ホストコンピュータから印刷装置とホストコンピュータの接続方式に対応
した転送方式で転送されてきた印刷制御用データと印刷データからなる印刷
情報データを受信し,受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う
印刷装置である点
イ相違点
本件発明3は,インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有し,
印刷装置データ処理部が,印刷装置とホストコンピュータの接続方式につい
て共通であって,インターフェース制御部が,印刷装置とホストコンピュー
タの接続方式によって異なるのに対して,
刊行物1記載発明では,インターフェース制御部と印刷装置データ処理部
とを有しており,印刷装置データ処理部,インターフェース制御部のうち,
印刷装置とホストコンピュータの接続方式についてどちらが共通で,どちら
が異なるのかが明らかでない点
第3原告主張の取消事由の要点
決定は,本件発明1と刊行物1記載発明との一致点の認定を誤って相違点を
看過し(取消事由1及び2),相違点を看過し(取消事由3),相違点につい
ての判断を誤った(取消事由4)ものであり,本件発明2についても本件発明
1におけると同様の誤り(取消事由5)があり,本件発明3についても本件発
明1におけると同様に,相違点を看過し,相違点についての判断を誤った(取
消事由6)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすこ
とは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)
刊行物1記載発明の「OS205」は,接続方式の違いを考慮しない,ある
いは,各接続方式の違いに対応した書き出しプログラムを用いるものであり,
「ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって」と明確に
特定する本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」に相当するもので
はない。
2取消事由2(一致点認定の誤り・相違点の看過)
刊行物1記載発明の「レーザプリンタドライバ209」は,ホストコンピュ
ータと印刷装置の接続方式によって異なるものでも,ホストコンピュータと印
刷装置の接続方式によって異なるインターフェース機能を有するものでもない
から,本件発明1の「ホストコンピュータインターフェース制御部」に相当す
るものではない。
3取消事由3(相違点の看過)
本件発明1は,ホストコンピュータデータ処理部,ホストコンピュータイン
ターフェース制御部,印刷装置インターフェース制御部及び印刷装置データ処
理部のそれぞれについて,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式との関係
を明らかに規定し(特許請求の範囲請求項1),ホストコンピュータと印刷装
置の接続方式の違いを踏まえて発明の詳細な説明に記載した二つの課題を達成
するために従来の書き出しプログラムと印刷処理プログラムに代えてなされた
発明である(発明の詳細な説明及び図面)のに対し,刊行物1記載発明は,コ
ンピュータと印刷装置の接続方式の違いに何ら関与する技術ではない。決定は,
この点を相違点として挙げておらず,本件発明1と刊行物1記載発明の相違点
を看過している。
4取消事由4(相違点判断の誤り)
(1)周知技術の認定
決定は,刊行物2及び3記載発明等を参照すれば,「印刷装置インターフ
ェース制御部と印刷装置データ処理部とを有する印刷装置において,印刷装
置データ処理部が,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通
であって,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インター
フェース制御部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異
なるようにすることで,外部のインタフェースが変更されても,ホストコン
ピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御部を切り
換えるだけで対応できる技術」が周知であることは明らかであると認定して
いる。
しかし,本件発明1には,①印刷装置インターフェース制御部が「ホスト
コンピュータデータ処理部で生成して出力された印刷情報データを,ホスト
コンピュータインターフェース制御部で,データ構造を変えずに転送したも
のを受信する」構成,②印刷装置データ処理部が処理する印刷情報データが
「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力されたデータ構造を,接
続方式,転送方式の違いで変えることなく,印刷装置に転送されたものであ
る」構成,③「転送方式の違いにより,ホストコンピュータデータ処理部で
生成されたデータの構造/フォーマットが変わるものではない」という構成
が含まれている。
これに対し,刊行物2及び3記載発明は,本件発明1のホストコンピュー
タインターフェース制御部,印刷装置インターフェース制御部及び印刷装置
データ処理部に相当するものを備えていないし,各接続方式に対応した書き
出しプログラムを用いる以上,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式に
ついて共通である印刷装置データ処理部では各接続方式に対応した書き出し
プログラムで生成出力された印刷情報データを処理することができず,当然,
ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制
御部を切り替えても外部のインターフェースが変更に対応することはできな
いから,決定がした周知技術の認定は誤りである。
(2)容易想到性の判断
ア刊行物1記載発明にはホストコンピュータと印刷装置の接続方式の違いに
対応する何らの技術思想がなく,ホストコンピュータ側では接続方式の違い
に対応する構成も備えていないから,刊行物1記載発明をもって接続方式の
違いに対応する技術に想到することは,当業者が容易になし得るものではな
い。
イ刊行物1記載の「コントローラ部210」は,たとえ2分割しても本件発
明1の課題を達成することができるものではないし,各接続方式との関係を
示唆する何らの記載もないから,本件発明1の「前記印刷情報データを受信
する印刷装置インターフェース制御部」と「前記印刷装置インターフェース
制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷装置デー
タ処理部」とを兼ねたものに相当しない。
ウ刊行物1記載発明の「OS205」をホストコンピュータと印刷装置の接
続方式が異なる場合についてもそのまま使えるようにする,つまり,ホスト
コンピュータと印刷装置の接続方式についても共通にすることは,当業者が
容易になし得ることではない。本件発明1でいう「ホストコンピュータデー
タ処理部」は印刷情報データを生成して出力するものであり,印刷情報デー
タの生成出力について具体的プログラムが明示されないCPU全体又は多種
の外部装置へのデータ処理を行うものの総体ではないから,乙第1ないし第
4号証が例示する周知技術は,本件発明1の「ホストコンピュータインター
フェース制御部」の先行技術としての周知技術ではない。
エ本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュ
ータインターフェース制御部」は,各接続方式に対応する書き出しプログラ
ムに代えて,2分割し,機能分けをしたものである。
5取消事由5(本件発明2についての認定判断の誤り)
本件発明1は「印刷システム」の発明,本件発明2は「ホストコンピュー
タ」の発明ではあるが,刊行物1記載発明との一致点及び相違点は両者で実質
的に同じであり,本件発明2についての決定の認定判断には,上記取消事由1
ないし4と同様の誤りがある。
6取消事由6(本件発明3についての認定判断の誤り)
本件発明1は「印刷システム」の発明,本件発明3は「印刷装置」の発明で
はあるが,刊行物1記載発明との一致点及び相違点は両者で実質的に同じであ
り,本件発明3についての決定の認定判断には,上記取消事由3及び4と同様
の誤りがある。
第4被告の反論の骨子
決定の認定判断はいずれも正当であって,決定を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について
刊行物1記載発明の「OS205」は,これに含まれる「印刷制御プログラ
ム206」が,レーザプリンタドライバ209を介して印刷コマンドを転送す
るものであり(刊行物1の6頁左下欄8行∼10行),接続方式の異同につい
て論じなければ,本件発明1の「印刷情報データ」に相当する「印刷コマン
ド」を生成し出力しているから,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処
理部」に相当するものである。なお,「OS205」が印刷装置との接続方式
によって共通であるか否かについて,決定は,相違点として挙げて判断をして
いる。
2取消事由2(一致点認定の誤り・相違点の看過)について
刊行物1記載発明の「レーザプリンタドライバ209」は,これを介して印
刷制御プログラム206がレーザプリンタ104のコントローラ部210に印
刷コマンドを転送するものであるから,印刷制御プログラムから出力された印
刷コマンドを受信して印刷コマンドを印刷装置に転送するものである(刊行物
1の6頁左下欄8行∼10行)。転送するに際し,何らかの接続方式があるこ
とは当然であるから,「レーザプリンタドライバ209」は,何らかの接続方
式に対応した転送方式で印刷コマンドを転送するものであり,接続方式の異同
について論じなければ,本件発明1の「印刷情報データ」に相当する「印刷コ
マンド」を受信して転送している点で,本件発明1の「ホストコンピュータイ
ンターフェース制御部」に相当するものである。なお,「レーザプリンタドラ
イバ209」が印刷装置との接続方式によって異なるか否かについて,決定は,
相違点として挙げて判断をしている。
3取消事由3(相違点の看過)について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において,「ホストコンピュータデー
タ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置インターフ
ェース制御部,及び,印刷装置データ処理部のそれぞれについて,ホストコン
ピュータと印刷装置の接続方式との関係を明らかに規定」しても,本件発明1
が「ホストコンピュータと印刷装置の接続方式の違いを踏まえて発明の詳細な
説明に記載した2つの課題を達成するために従来の書き出しプログラムと印刷
処理プログラムに代えてなされた発明」である根拠とはならない。また,それ
ぞれの処理部や制御部につき,接続関係の異同に関しては,決定は,相違点と
して挙げ,進歩性を判断しているから,看過したとされる相違点は存在しない。
4取消事由4(相違点判断の誤り)について
(1)周知技術の認定
本件特許の特許請求の範囲の記載によれば,本件発明1の「印刷情報デー
タ」は,ホストコンピュータ側の「ホストコンピュータデータ処理部」で生
成出力され,「ホストコンピュータインターフェース制御部」によって印刷
装置へ転送され,さらに印刷装置側の「印刷装置インターフェース制御部」
で受信されるものであり,「印刷装置データ処理部」は,「印刷情報デー
タ」に「基づく」印刷制御を行うものである。
しかし,「印刷装置データ処理部」が印刷制御を行うに際し「基づく」デ
ータは,「前記印刷情報データ」ではあるが,これが「ホストコンピュータ
インターフェース制御部」及び「印刷装置インターフェース制御部」を経る
間に,データストリームなりコマンド体系などが変化するか否かについては,
特許請求の範囲の記載において何らの特定もされていないだけでなく,「ホ
ストコンピュータと印刷装置の…中略…接続方式に対応した転送方式で前記
印刷装置に転送する」とされている。この記載からは,「ホストコンピュー
タインターフェース制御部」と「印刷装置インターフェース制御部」との間
は,むしろ,接続方式に合わせた形に変換されて転送されるものと解釈する
のが自然である。したがって,本件発明1は「印刷情報データをホストコン
ピュータインターフェース制御部でデータ構造を変えずに転送したものを受
信する」ものであるとの原告の主張は当を得ない。
刊行物2記載発明で使用されるプログラムが何であるかは別として,その
機能に着目すれば,刊行物2記載発明の「ホストインターフェース」及び刊
行物3記載発明の計算機9の有する「セントロニクス及びRS−232Cの
各インターフェース」を本件発明1の「ホストコンピュータインターフェー
ス制御部」に,刊行物2記載発明の「セントロニクス,RS−232C,I
BMチャネルなどの各種インタフェースから入力されるデータストリームを
共通のフォーマットに変換する入力管理部10」及び刊行物3記載発明の
「セントロニクスインターフェイス印字コード受信部11とRS−232C
インターフェース印字コード受信部12」を本件発明1の「印刷装置インタ
ーフェース制御部」にそれぞれ相当するとした認定に誤りはないから,決定
がした周知技術の認定に誤りはない。
(2)容易想到性の判断
ア刊行物1記載発明がホストコンピュータと印刷装置の接続方式の違いに対
応する技術でないとしても,刊行物2及び3記載発明等から認定することの
できる前記第3の4(1)の技術が周知技術であって,この技術も刊行物1記
載発明も共にホストコンピュータと印刷装置とからなる印刷処理システムで
あり,技術的関連性を有するから,刊行物1記載発明及び周知技術とに基づ
き本件発明1を想到することは当業者にとって容易である。
イ刊行物1記載発明の「コントローラ部210」は,「転送されてきた印刷
コマンドに基づき,…(中略)…印刷イメージを展開」して,後に「レーザプ
リンタエンジン211によって印刷」される機能を有するものであり(刊行
物1の6頁左下欄10行∼14行),本件発明1における「前記ホストコン
ピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応した転送方式で転
送されてきた前記印刷情報データを受信する」機能及び「前記印刷装置イン
ターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行
う」機能を共に有するものである。したがって,刊行物1記載発明の「コン
トローラ部210」が本件発明1の「印刷装置インターフェース制御部」と
「印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当する。
ウ接続方式の違いがあっても,「OS」は共通で用いられるものであること
は技術常識である。また,ホストコンピュータデータ処理部は接続方式によ
らず共通で,ホストコンピュータインターフェース制御部は接続方式によっ
て異なることは,乙第1ないし第4号証で示されるように周知である。
また,被告が乙第1ないし第4号証によって立証しようとすることは,
「ホストコンピュータと外部装置の接続方式(インターフェース)によって
インターフェース制御部が異なるが,ホストコンピュータデータ処理部が共
通であること」が周知であることであって,原告が主張する事項ではないか
ら,原告の主張は失当である。
エ原告は,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホスト
コンピュータインターフェース制御部」は,各接続方式に対応する書き出し
プログラムに代えて,2分割し,機能分けをしたものであると主張する。
しかし,特許請求の範囲には,「各接続方式に対応する書き出しプログラ
ム」の文言はなく,発明の詳細な説明にも,そのように限定的に解釈すべき
記載はない。本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホス
トコンピュータインターフェース制御部」を各接続方式に対応する書き出し
プログラムに代えて2分割し機能分けしたものであると限定的に解釈すべき
理由がない。
5取消事由5(本件発明2についての認定判断の誤り)について
前記取消事由1ないし4について述べたとおり,本件発明2についての決定
の認定判断に誤りはない。
6取消事由6(本件発明3についての認定判断の誤り)について
前記取消事由3及び4について述べたとおり,本件発明3についての決定の
認定判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について
刊行物1記載発明の「OS205」は,「基本的なタスク制御や入出力制御
のなどを行うカーネル部207と上述した印刷用コマンドからドットイメージ
を発生させるなどの印刷処理特有の機能を実現する印刷制御プログラム206
に別れる」ものであり(刊行物1の5頁左上欄16行∼20行及び第2図),
「OS205」に含まれる「印刷制御プログラム206」は,レーザプリンタ
ドライバ209を介して印刷コマンドを転送するものである(刊行物1の6頁
左下欄8行∼10行)。したがって,接続方式の異同を別にすると,「OS2
05」は,本件発明1の「印刷情報データ」に相当する「印刷コマンド」を生
成し出力しているから,この点において,本件発明1の「ホストコンピュータ
データ処理部」に相当すると認められる。また,「OS205」が印刷装置と
の接続方式によって共通であるか否かについて,決定が相違点として挙げて判
断をしていることは,前記第2の3(2)のとおりであるから,決定には原告の
主張する一致点認定の誤りはなく,相違点の看過もない。
2取消事由2(一致点認定の誤り・相違点の看過)について
刊行物1記載発明の「レーザプリンタドライバ209」は,これを介して印
刷制御プログラム206がレーザプリンタ104のコントローラ部210に印
刷コマンドを転送するものであるから,印刷制御プログラムから出力された印
刷コマンドを受信して印刷コマンドを印刷装置に転送するものである(刊行物
1の6頁左下欄8行∼10行)。ワードプロセッサ等からプリンタへの転送が
される(刊行物1の第7図)以上,何らかの接続方式があることは当然である。
したがって,「レーザプリンタドライバ209」は,何らかの接続方式に対応
した転送方式で印刷コマンドを転送するものであり,接続方式の異同を除き,
本件発明1の「印刷情報データ」に相当する「印刷コマンド」を受信して転送
している点で,本件発明1の「ホストコンピュータインターフェース制御部」
に相当するものである。また,「レーザプリンタドライバ209」が印刷装置
との接続方式によって異なるか否かについて,決定が相違点として挙げて判断
をしていることは,前記第2の3(2)のとおりであるから,決定には原告の主
張する一致点認定の誤りはなく,相違点の看過もない。
3取消事由3(相違点の看過)について
原告は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1において,「ホストコンピュ
ータデータ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置イ
ンターフェース制御部,及び,印刷装置データ処理部のそれぞれについて,ホ
ストコンピュータと印刷装置の接続方式との関係を明らかに規定」しているの
に対し,刊行物1記載発明は,コンピュータと印刷装置の接続方式の違いに何
ら関与する技術ではないところ,決定がこの点を相違点と認定せず,相違点を
看過したと主張する。
しかしながら,決定が認定した本件発明1と刊行物1記載発明との相違点は,
「本件発明1では,印刷装置は,印刷装置インターフェース制御部と印刷装置
データ処理部とを有し,ホストコンピュータデータ処理部と印刷装置データ処
理部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,
ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御
部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるのに対して,
刊行物1記載発明では,印刷装置が印刷装置インターフェース制御部と印刷装
置データ処理部とを有していることや,ホストコンピュータデータ処理部,印
刷装置データ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置
インターフェース制御部のうち,どれが,ホストコンピュータと印刷装置の接
続方式について共通で,どれが異なるのかが明らかでない点」であるから,決
定が印刷システムの各部間及びホストコンピュータと印刷装置との間の接続方
式の具体的関係を相違点として認定していることは明らかである。原告の主張
は,決定を正解しないものであって,失当である。
4取消事由4(相違点判断の誤り)について
(1)周知技術の認定
ア刊行物2及び3記載発明についてする原告の主張は,本件発明1に,①印
刷装置インターフェース制御部が「ホストコンピュータデータ処理部で生成
して出力された印刷情報データを,ホストコンピュータインターフェース制
御部で,データ構造を変えずに転送したものを受信する」構成,②印刷装置
データ処理部が処理する印刷情報データが「ホストコンピュータデータ処理
部で生成して出力されたデータ構造を,接続方式,転送方式の違いで変える
ことなく,印刷装置に転送されたものである」構成,③「転送方式の違いに
より,ホストコンピュータデータ処理部で生成されたデータの構造/フォー
マットが変わるものではない」という構成が含まれていることを前提にして
いる。
本件特許の請求項1において,印刷制御用データと印刷データからなる印
刷情報データの転送経路は,ホストコンピュータのホストコンピュータデー
タ処理部において印刷情報データが生成・出力され,ホストコンピュータイ
ンターフェース制御部においてこれが受信されて印刷情報データを接続方式
に対応した転送方式で印刷装置に転送され,印刷装置の印刷装置インターフ
ェース制御部において受信され,印刷装置データ処理部においてこれに基づ
く印刷制御がされること,ホストコンピュータデータ処理部及び印刷装置デ
ータ処理部はホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通である
が,ホストコンピュータインターフェース制御部及び印刷装置インターフェ
ース制御部は上記接続方式ごとに異なることの2点は確かに規定されている。
しかし,次の3点が本件特許の請求項1において特定されているとは認めら
れない。
①印刷装置インターフェース制御部がホストコンピュータデータ処理部で
生成して出力された印刷情報データを,ホストコンピュータインターフェ
ース制御部で,データ構造を変えずに転送したものを受信する構成である
か否か。
②印刷装置データ処理部が処理する印刷情報データが,ホストコンピュー
タデータ処理部で生成して出力されたデータ構造を,接続方式,転送方式
の違いで変えることなく,印刷装置に転送されたものである構成であるか
否か。
③転送方式の違いにより,ホストコンピュータデータ処理部で生成された
データの構造/フォーマットが変わるものではない構成であるか否か。
したがって,原告の上記主張は,請求項1の記載に基づかないものである。
「ホストコンピュータと印刷装置の…(中略)…接続方式に対応した転送方式
で前記印刷装置に転送する」との記載からは,むしろ,「ホストコンピュー
タインターフェース制御部」と「印刷装置インターフェース制御部」との間
は,接続方式に合わせた形に変換されて転送されるものと解釈するのが自然
である。
イ機能に着目すれば,刊行物2記載発明の「ホストインターフェース」及び
刊行物3記載発明の計算機9の有する「セントロニクス及びRS−232C
の各インターフェース」を本件発明1の「ホストコンピュータインターフェ
ース制御部」に,刊行物2記載発明の「セントロニクス,RS−232C,
IBMチャネルなどの各種インタフェースから入力されるデータストリーム
を共通のフォーマットに変換する入力管理部10」及び刊行物3記載発明の
「セントロニクスインターフェイス印字コード受信部11とRS−232C
インターフェース印字コード受信部12」を本件発明1の「印刷装置インタ
ーフェース制御部」にそれぞれ相当するとした認定に誤りはないから,決定
がした周知技術の認定に誤りはない。
決定が刊行物2及び3によって周知技術として認定したのは,「印刷装置
インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有する印刷装置におい
て,印刷装置データ処理部が,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式に
ついて共通であって,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装
置インターフェース制御部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式
によって異なるようにすることで,外部のインタフェースが変更されても,
ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制
御部を切り換えるだけで対応できる技術」であって,「本件発明1のホスト
コンピュータと印刷装置の接続方式について共通なホストコンピュータデー
タ処理部からの出力を受信して印刷装置に転送するホストコンピュータイン
ターフェース制御部に相当」する構成を有すること,印刷装置インターフェ
ース制御部が「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力された印刷
情報データを,ホストコンピュータインターフェース制御部で,データ構造
を変えずに転送したものを受信する」こと,印刷装置データ処理部が処理す
る印刷情報データが「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力され
たデータ構造を,接続方式,転送方式の違いで変えることなく,印刷装置に
転送されたものである」こと,「転送方式の違いにより,ホストコンピュー
タデータ処理部で生成されたデータの構造/フォーマットが変わるものでは
ない」ことではない。したがって,原告の主張は決定を正解しないものであ
り,失当である。
(2)容易想到性の判断
刊行物1には,OSに関連するものとして次の記載がある。
a「1.マルチタスクの制御が可能であり,メッセージの送受信によってプ
ログラム間の通信機能を実現するオペレーティングシステムと,プリンタ
と,テキスト,図形,グラフ等の編集プログラムに対応し,編集データに
より印刷コマンドを発生する複数の印刷プログラムと,印刷コマンドを上
記プリンタに転送し,かつ上記プリンタの動作を制御するプリンタドライ
バとを備えている印刷処理システムにおいて,・・・」(特許請求の範
囲)
b「[問題点を解決する手段]上記目的は以下の手段により実現することが
できる。レーザプリンタのコントローラ部には,レーザプリンタエンジン
とワードプロセッサからの割込みを処理する手段,割込みによって変化す
る状態に応じて,処理すべき内容を判定する手段を設ける。ワードプロセ
ッサ側では,各アプリケーションに対応した印刷処理用のプログラムと各
々のアプリケーションの印刷処理に共通な機能を提供するシステムプログ
ラム(印刷制御プログラムと呼ぶ)を分離して構成する。アプリケーショ
ンプログラムは印刷制御プログラムにファンクションを発行することによ
りシステムプログラムの機能を利用できる。システムプログラムのレーザ
プリンタをコントロールするレーザプリンタドライバには,レーザプリン
タのコントローラ部からの割込みによって,その状態を記憶する手段及び
印刷プログラムから発行されたファンクションの終了コードとして記憶し
ている状態を設定する手段を設ける。印刷処理用のプログラムは印刷処理
全体を管理する印刷管理プログラムと印刷管理プログラムから起動される
複数の印刷プログラムから構成し,印刷管理プログラムと印刷プログラム
の間にメッセージを交換する手段を設け,印刷制御プログラムには,印刷
プログラムからの異常メッセージを受けて,ユーザにその旨を通知し,必
要な異常処理を行う手段を設ける。」(3頁右上欄19行∼右下欄6行)
c「103と104はプリンタであり,第2図では,低速で安価なワイヤド
ットプリンタ103と高速なレーザプリンタ104の2種類のプリンタを
サポートするシステムの例を示している。106はIPL(イニシャルプ
ログラムローダ)用ROMである。第2図は,本発明の一実施例である印
刷処理システムのソフトウェア構成を示している。201と202は,テ
キスト,図形,グラフなど各アプリケーションに依存する印刷プログラム
群である。図では二つしか示されていないが,テキスト,図形,グラフ,
表,英文,囲み記事,イメージなどの様々なアプリケーションに対応する
印刷プログラムが考えられる。これら印刷プログラムは,対応する編集プ
ログラムのデータから,後で説明するOS(オペレーティングシステム)
が用意する印刷用コマンドを発生する。203は印刷管理プログラムであ
り,印刷プログラムの実行順序等を制御する。204は印刷条件設定プロ
グラムであり,印刷条件を入力して後,印刷管理プログラム203を起動
する。以上の201∼204の各プログラムは各々独立したタスクとして
OS205で制御される。OS205は基本的なタスク制御や入出力制御
などを行うカーネル部207と上述した印刷用コマンドからドットイメー
ジを発生させるなどの印刷処理特有の機能を実現する印刷制御プログラム
206に別れる。印刷制御プログラム206は,プログラム201∼20
4に対して高度な印刷処理機能を提供する。印刷プログラム201∼20
2は,それぞれ編集プログラムのデータからテキスト列描画,直線描画,
円描画などの描画コマンドを発生する。該コマンドにより,印刷制御プロ
グラムは所望の印刷用バッファに印刷用ドットイメージを展開する。20
8はワイヤドットプリンタドライバであり,209はレーザプリンタドラ
イバである。これらは各々ワイヤドットプリンタ103,レーザプリンタ
104を制御する。レーザプリンタ104は,実際の印字を行うレーザプ
リンタエンジン211と,レーザプリンタエンジン211を制御し,ワー
ドプロセッサ200と通信を行い,ワードプロセッサ200から転送され
た印刷データを,レーザプリンタエンジン211が印字できる形に変換す
るコントローラ部210からなる。」(4頁右下欄13行∼5頁右上欄1
6行)
d「印刷条件設定プログラム204は印刷管理プログラム203を起動して
処理を終了する。起動の方法は,OSが用意するタスク起動マクロを利用
する。」(6頁右上欄3∼6行)
e「印刷制御プログラム206は,レーザプリンタドライバ209を介して
レーザプリンタ104のコントローラ部210に印刷コマンドを転送する。
コントローラ部210は転送されてきた印刷コマンドに基づき,頁メモリ
650に1頁と印刷イメージを展開する。頁メモリ650に展開された印
刷イメージは,レーザプリンタエンジン211によって印刷される。印刷
プログラムは自分の領域のイメージの展開が終了すると,第7図に示すよ
うに,印刷管理プログラム203に終了したことを,OSが提供するメッ
セージ通信にてその旨通知する。」(6頁左下欄8∼18行)
f「割込みを受けたワードプロセッサ200のレーザプリンタドライバ20
9では,レーザプリンタ104の異常を記憶し,印刷プログラム201か
ら印刷制御コマンドが発行された時,OS205を介して終了コードとし
て異常状態が印刷プログラム201に伝えられる。」(9頁左上欄2∼7
行)
g「印刷制御プログラム206は,印刷プログラム201からのコマンドを
レーザプリンタドライバ209のマクロに変換したり,またレーザプリン
タドライバ209からの終了コードを印刷プログラム201に伝えたりす
る他,様々な機能を備えているが,本発明とは直接関係がないので,それ
らの機能や処理の詳細については省略する。本発明に関する限り,印刷プ
ログラム201や印刷管理プログラム203が,直接レーザプリンタドラ
イバ209のマクロを発行し,終了コードをそれらのプログラムに直接返
すようにしても一向に差しつかえない。」(10頁左下欄2∼12行)
h第2図には,ワイヤドットプリンタドライバ208に対応してワイヤドッ
トプリンタ103が,レーザプリンタドライバ209に対応してレーザプ
リンタ104が,それぞれ図示されている。
これらの記載によれば,刊行物1には,次の事項が記載されていると認め
られる。
①ワードプロセッサ200は,各アプリケーションに対応した印刷処理用
のプログラムと,各々のアプリケーションの印刷処理に共通な機能を提供
するシステムプログラムである印刷制御プログラムから構成されているこ
と。
②OS205は,基本的なタスク制御や入出力制御などを行うカーネル部
207と,印刷用コマンドからドットイメージを発生させるなどの印刷処
理特有の機能を実現する印刷制御プログラム206からなること。
③ワイヤドットプリンタドライバ208は,ワイヤドットプリンタ103
を制御し,レーザプリンタドライバ209は,レーザプリンタ104を制
御すること。
④印刷制御プログラム206は,レーザプリンタドライバ209を介して
レーザプリンタ104に印刷コマンドを転送すること。
上記の事項からは,刊行物1記載発明において,OSがアプリケーション
の印刷処理に共通な機能を提供する印刷制御プログラムを有し,印刷制御プ
ログラムはプリンタドライバを介してプリンタに印刷コマンドを転送するこ
と,プリンタドライバがプリンタを制御することが認められる。また,プリ
ンタドライバがプリンタとのインターフェイスを動作させる部分をOSから
独立させた別のプログラムであることは,コンピュータの分野では技術常識
であり,ワイヤドットプリンタとの接続方式とレーザプリンタとの接続方式
とは,異なるのが一般的であるから,刊行物1記載発明の各プリンタドライ
バが本件発明のホストコンピュータデータインターフェイス制御部に対応す
るものであることは,明らかである。したがって,刊行物1記載発明におけ
るOSの印刷制御プログラムの一態様として,プリンタドライバの機能以外
の,印刷処理に共通な機能のみを有する場合,すなわち,ホストコンピュー
タと印刷装置の接続方式について共通な機能のみを有する場合も含まれる。
以上によれば,刊行物1記載発明におけるOSの印刷制御プログラムは,
本件発明のホストコンピュータデータ処理部に対応するものと解するのが相
当である。刊行物1記載発明において,OS205は,ワイヤドットプリン
タドライバ208とレーザプリンタドライバ209を介して,低速で安価な
ワイヤドットプリンタ103と高速なレーザプリンタ104の2種類のプリ
ンタを制御しているから,印刷装置が異なる場合でもOS205をそのまま
使うことができ,刊行物1記載発明のOS205(本件発明1の「ホストコ
ンピュータデータ処理部」に相当)を,ホストコンピュータと印刷装置の接
続方式が異なる場合でも共通にすることは,当業者が容易になし得るとした
決定の判断は,是認し得るものである。
ア原告は,刊行物1記載発明にはホストコンピュータと印刷装置の接続方式
の違いに対応する何らの技術思想がなく,ホストコンピュータ側では接続方
式の違いに対応する構成も備えていないから,刊行物1記載発明をもって接
続方式の違いに対応する技術に想到することは,当業者が容易になし得るも
のではないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,刊行物1記載発明のOS205(本件発明
1の「ホストコンピュータデータ処理部」に相当)を,ホストコンピュータ
と印刷装置の接続方式が異なる場合でも共通にすることは当業者が容易にな
し得ることであるから,刊行物1記載発明及び周知技術とに基づき本件発明
1を想到することは当業者にとって容易である。
イ原告は,刊行物1記載の「コントローラ部210」は,たとえ2分割して
も本件発明1の課題を達成することができるものではないし,各接続方式と
の関係を示唆する何らの記載もないから,本件発明1の「前記印刷情報デー
タを受信する印刷装置インターフェース制御部」と「前記印刷装置インター
フェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷
装置データ処理部」とを兼ねたものに相当しないと主張する。
しかしながら,刊行物1によれば,刊行物1記載発明の「コントローラ部
210」は,「転送されてきた印刷コマンドに基づき,…(中略)…印刷イメ
ージを展開」して,後に「レーザプリンタエンジン211によって印刷」さ
れる機能を有するもの(刊行物1の6頁左下欄10行∼14行)であること
が認められる。したがって,「コントローラ部210」は,本件発明1にお
ける「前記ホストコンピュータインターフェース制御部から前記接続方式に
対応した転送方式で転送されてきた前記印刷情報データを受信する」機能及
び「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに
基づき印刷制御を行う」機能を共に有するものである。
上記のとおり,刊行物1記載発明の「コントローラ部210」が本件発明
1の「印刷装置インターフェース制御部」と「印刷装置データ処理部」とを
兼ねたものに相当するとの決定の認定に誤りはない。
ウ原告は,刊行物1記載発明の「OS205」をホストコンピュータと印刷
装置の接続方式が異なる場合についてもそのまま使えるようにする,つまり,
ホストコンピュータと印刷装置の接続方式についても共通にすることは,当
業者が容易になし得ることではないと主張する。
刊行物1記載発明のOS205(本件発明1の「ホストコンピュータデー
タ処理部」に相当)を,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式が異なる
場合でも共通にすることは,前記(2)のとおり,当業者が容易になし得るこ
とであるし,「OS」は,接続方式の違いがあっても,共通で用いられるも
のをいうのが技術常識である。
エ原告は,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホスト
コンピュータインターフェース制御部」は,各接続方式に対応する書き出し
プログラムに代えて,2分割し,機能分けをしたものであると主張する。
しかし,特許請求の範囲には,「各接続方式に対応する書き出しプログラ
ム」の文言はなく,発明の詳細な説明にも,そのように限定的に解釈すべき
記載はない。本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホス
トコンピュータインターフェース制御部」を各接続方式に対応する書き出し
プログラムに代えて2分割し機能分けしたものであると限定的に解釈すべき
理由がない。
5取消事由5(本件発明2についての認定判断の誤り)について
本件発明1は「印刷システム」の発明,本件発明2は「ホストコンピュー
タ」の発明ではあるが,刊行物1記載発明との一致点及び相違点は両者で実質
的に同じであり,前記取消事由1ないし4について述べたとおり,本件発明2
についての決定の認定判断に誤りはない。
6取消事由6(本件発明3についての認定判断の誤り)について
本件発明1は「印刷システム」の発明,本件発明3は「印刷装置」の発明で
はあるが,刊行物1記載発明との一致点及び相違点は両者で実質的に同じであ
り,前記取消事由3及び4について述べたとおり,本件発明3についての決定
の認定判断に誤りはない。
7結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由
がなく,決定を取り消すべきその他の誤りも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政
事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官三村量一
裁判官古閑裕二
裁判官嶋末和秀

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