弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を長野地方裁判所松本支部に移送する。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添付してある弁護人吾妻源二郎作成名義控訴趣意書と題
する書面記載の通りである。
 (但し論旨第一点以外の論旨は省略する)
 これに対し当裁判所は左の如く判断する。
 論旨第一点について、
 記録によると論旨に指摘する如く原審は被告人に対する昭和二十三年十二月二十
三日附公判請求書のいわゆる旧事件と昭和二十四年二月二十六日附追起訴状のいわ
ゆる新事件とを併合審理し一箇の判決を以て両事件を処理し併合罪の規定を適用し
て一個の刑を言渡している。よつてその当否を勘案するに旧事件は旧刑事訴訟法に
従つて又新事件は新刑事訴訟法に従つて審判するものであるが両訴訟法は非常にそ
の性格を異にし第一審においてもその訴訟手続は色々重要な点に差異があるがこの
差異は特に上訴審において甚だしく旧訴訟法は三審制で一審、二審共に事実審三審
が法律審となつているのに反し新訴訟法は原則法して二審制で一審が事実審二審は
事実及法律審となつており例外として極めて制限された範囲内で法書審たる第三審
が許されている。
 更に右第二審の性格を比較すると旧訴訟法においては控訴審制は完全なる覆審で
いわゆる第二ノ第一審で第一審判決の当否を審査するのでなく自己が相当と思惟す
る裁判を更に第一審と同様になすのであるが新訴訟法においては審判はいわゆる事
後審で第一審の弁論終結のときに遡つてみて原判決の当否を審査し原判決を相当と
すれば控訴を棄却し不当とすればこれを破棄し原則として事件を原審に差戻し又は
他に移送し例外として自判するのであるかこの場合でも審理は続審であり覆審では
ない。斯様に性格が異るばかりでなく上訴期間も両者は異るのでおるから新旧事件
を併合審理して一箇の判決で処理し一個の主文を言渡したのでは当事者は何れの控
訴期間に従うべきかまた量刑不当に関する控訴趣意の如きはこれ如何にすべきかそ
の適従するところを知ら<要旨>ない。裁判所においても旧訴の事件は覆審新訴の事
件は事後審査審と区別して審判することができない。要するに新旧事件を併
合審判しては爾後収拾の付かない結果となるので両事件の併合審判は法の許さざる
ところと解するのが相当である。併合罪は法定の加重をなした一個の刑を言渡すべ
き旨刑法は規定しているがこれは同一手続で審判せられることを前提としているも
ので別個の裁判所で審判されるとか時を異にして審判せられるとかの場合は各罪に
ついて別々に刑を言渡すの外なくそれで差支ないのである。このことは訴訟手続上
併合審判が許されないときも同様でおる。
 しかれば原審が前記の如く新旧両事件を併合審判して一個の刑を言渡したのは違
法でとの違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから論旨は理由があり原判
決は破棄する以上爾余の論旨に対する判断は不必要であるから省略し刑事訴訟法第
三百九十七條、第三百七十九條第四百條本文の規定によつて主文の如く判決する。
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 野本泰)

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