弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人らの上告理由について
 上告人らの訴訟被承継人であるDが訴外Eからその有する本件土地建物の持分二
分の一の贈与を受けてその共有権者になつたとし被上告人を相手として提起した共
有権確認及び共有物分割訴訟につき、原判決は、本件土地建物は亡Fまたは亡Gの
遺産であつて、被上告人と訴外Eが各二分の一の持分をもつて相続したものである
が、遺産の分割については当事者間においていまだ協議が調つていないことを確定
したうえ、共有持分権の譲受人であつても遺産分割以前に遺産を構成する個々の財
産につき民法二五八条に基づく共有物分割訴訟を提起することは許されないとして、
Dの右訴を却下したものである。
 しかし、共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的には民法
二四九条以下に規定する共有としての性質を有すると解するのが相当であつて(最
高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五月三一日第三小法廷判決・民集九巻六
号七九三頁参照)、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について同人
の有する共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができ
(最高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集
一七巻一号二三五頁参照)、他の共同相続人とともに右不動産を共同所有する関係
にたつが、右共同所有関係が民法二四九条以下の共有としての性質を有するもので
あることはいうまでもない。そして、第三者が右共同所有関係の解消を求める方法
として裁判上とるべき手続は、民法九〇七条に基づく遺産分割審判ではなく、民法
二五八条に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当である。けだし、共同相
続人の一人が特定不動産について有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該
譲渡部分は遺産分割の対象から逸出するものと解すべきであるから、第三者がその
譲り受けた持分権に基づいてする分割手続を遺産分割審判としなければならないも
のではない。のみならず、遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、こ
れを共同相続人の具体的相続分に応じ民法九〇六条所定の基準に従つて分割するこ
とを目的とするものであるから、本来共同相続人という身分関係にある者または包
括受遺者等相続人と同視しうる関係にある者の申立に基づき、これらの者を当事者
とし、原則として遺産の全部について進められるべきものであるところ、第三者が
共同所有関係の解消を求める手続を遺産分割審判とした場合には、第三者の権利保
護のためには第三者にも遺産分割の申立権を与え、かつ、同人を当事者として手続
に関与させることが必要となるが、共同相続人に対して全遺産を対象とし前叙の基
準に従いつつこれを全体として合目的的に分割すべきであつて、その方法も多様で
あるのに対し、第三者に対しては当該不動産の物理的一部分を分与することを原則
とすべきものである等、それぞれ分割の対象、基準及び方法を異にするから、これ
らはかならずしも同一手続によつて処理されることを必要とするものでも、またこ
れを適当とするものでもなく、さらに、第三者に対し右のような遺産分割審判手続
上の地位を与えることは前叙遺産分割の本旨にそわず、同審判手続を複雑にし、共
同相続人側に手続上の負担をかけることになるうえ、第三者に対しても、その取得
した権利とはなんら関係のない他の遺産を含めた分割手続の全てに関与したうえで
なければ分割を受けることができないという著しい負担をかけることがありうる。
これに対して、共有物分割訴訟は対象物を当該不動産に限定するものであるから、
第三者の分割目的を達成するために適切であるということができるうえ、当該不動
産のうち共同相続人の一人が第三者に譲渡した持分部分を除いた残余持分部分は、
なお遺産分割の対象とされるべきものであり、第三者が右持分権に基づいて当該不
動産につき提起した共有物分割訴訟は、ひつきよう、当該不動産を第三者に対する
分与部分と持分譲渡人を除いた他の共同相続人に対する分与部分とに分割すること
を目的とするものであつて、右分割判決によつて共同相続人に分与された部分は、
なお共同相続人間の遺産分割の対象になるものと解すべきであるから、右分割判決
が共同相続人の有する遺産分割上の権利を害することはないということができる。
このような両手続の目的、性質等を対比し、かつ、第三者と共同相続人の利益の調
和をはかるとの見地からすれば、本件分割手続としては共有物分割訴訟をもつて相
当とすべきである。
 したがつて、これに反する原審の判断には法令解釈を誤つた違法があり、その違
法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 なお、共有権確認の訴について、原審はなんら理由を開示することなく該訴を却
下しているが、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産についての共有持
分権を譲り受けたと主張するDが右譲受を争う被上告人を相手として提起した共有
権確認の訴が当然に不適法になる理由はないから、原審の右判断には法令の解釈を
誤つたか理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明
らかである。
 よつて、原判決を破棄し、本件はなお審理をつくす必要があるから、これを原審
に差し戻すべく、民訴法四〇七条一項に従い裁判官全員一致の意見で、主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    本   林       讓

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