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平成30年9月13日判決言渡
平成29年(ワ)第1142号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成30年6月21日
判決
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙店舗目録記載の被告店舗から,別紙被告店舗外観目録記載の看
板,暖簾及びガラス戸を廃棄せよ。
2被告は,原告に対し,471万3619円及びこれに対する平成29年4月
19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告に対し,別紙被告店舗外観目録記載の看板,暖簾及びガラス戸
の廃棄又は抹消までの間,1か月当たり116万8666円の割合による金員
を支払え。
第2事案の概要
1本件は,飲食店の経営等を業とする原告が,自らの運営に係る寿司を主たる
商品とする居酒屋である「A」(以下,原告が同屋号で営む居酒屋を総称して
「原告店舗」という。)の標準的仕様として用いられている店舗外観が,原告
の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)に当たることを前提とした上で,
被告が横浜市α区に出店した寿司を主たる商品とする居酒屋である「B」(別
紙店舗目録記載の被告店舗。以下「被告店舗」という。)において原告店舗の
前記店舗外観と類似する店舗外観を用いたことは,不正競争防止法2条1項1
号の不正競争行為に該当するとして,被告に対し,
⑴同法3条に基づき,前記侵害行為(不正競争行為)を組成したものである
別紙被告店舗外観目録記載の看板,暖簾及びガラス戸の廃棄を求めるととも
に,
⑵同法4条に基づき,損害賠償金として,①471万3619円及びこれに
対する訴状送達の日の翌日である平成29年4月19日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに②前記⑴の廃棄がされるまで
の間,1か月当たり116万8666円の支払を求めた事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実等。以下,書証番号は,特記しない限り枝番を含
む。)
⑴当事者等
ア原告は,平成10年頃から,「A1」,「A」等の屋号で,全国24都
府県において,飲食店を営んでいる株式会社であり,関東圏においても,
平成14年1月に東京都立川市で新規店舗を開店したのを契機として,店
舗数を増やしている(神奈川県内に最初の店舗が設けられたのは,平成1
9年7月である。)。平成29年2月末時点で,原告が現に営業している
「A」の店舗数の合計は,約140であった。(甲1,9,12,弁論の
全趣旨)
イ被告は,飲食店の経営等を主たる業務とする株式会社である。被告は,
平成28年11月16日以降,「B」の屋号で,寿司を主たる商品とする
居酒屋を営むようになった。(甲2,弁論の全趣旨)
⑵原告店舗及び被告店舗の外観等
ア原告店舗のうち,C店(福岡市β区所在)の店舗の店舗外観は,別紙写
真1のとおりである。(弁論の全趣旨)
イ被告は,平成28年11月16日,「BD店」(被告店舗)を開店し
たところ,その当時の店舗外観は,別紙写真2のとおりであった。なお,
被告は,被告店舗の店舗外観を,①平成29年1月20日に別紙写真3の
とおりに,②同年3月16日に本件訴えが提起された後,同月28日に別
紙写真4のとおりに,③同年4月7日に別紙写真5のとおりに,それぞれ
変更したが,遅くとも同年9月までに,被告店舗の所在地において寿司を
主たる商品とする居酒屋を営むことをやめた。(甲5,乙1,2,13,
15~18,顕著な事実,弁論の全趣旨)
⑶本件訴えの提起等
ア原告は,平成29年3月16日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
イ当裁判所は,平成30年6月21日の第2回口頭弁論期日において,責
任論(すなわち,被告の行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行
為に該当するか否か)についての判断を先行させるため,弁論を終結した。
(顕著な事実)
3責任論に関する争点
⑴原告店舗の店舗外観が商品等表示に該当するか否か(争点1)
⑵周知性の有無(争点2)
⑶類似性の有無(争点3)
⑷誤認混同の有無(争点4)
4前記3の争点に関する当事者の主張の要旨
⑴争点1(原告店舗の店舗外観が商品等表示に該当するか否か)
(原告の主張の要旨)
ア原告が,全国の原告店舗において標準的仕様としている店舗外観の構成
要素は,次の要素①~要素⑤のとおりである。こうした構成要素は,原告
において,握り寿司が元々は庶民の味であったという歴史的背景や,主と
して駅の周辺に出店していくという戦略から,気軽に足を運べる店を作る
という観点で作り上げたものである。
要素①(屋号の入った看板)
原告店舗の正面上部(黒色の外壁)において,暖かさ,落ち着き,安
らぎといった心理的効果を与える木目調の看板に,毛筆体(親しみを感
じやすい手書き調)で屋号が書かれており,「すし」を,親しみを感じ
やすい平仮名で記載している部分(別紙写真1以下省略)
要素②(メニューが表示された看板)
原告店舗の正面上部において,「いか●●円」(値段部分は赤字)
などと,木目調の看板に,毛筆体で比較的安価なネタの品名と値段が記
載されたものが,数品目ないし十品目程度並んでおり,気軽に入ること
ができる寿司屋であることが分かるようになっている部分(別紙写真1
以下省略)
要素③(店舗入口扉)
店舗入口扉が,木目調の枠,下部の板及びガラスで構成された広い引
き戸となっていて,ガラス部分から店内が見えるように作られていて,
入りやすい雰囲気となっている部分(別紙写真1以下省略)
要素④(暖簾)
原告店舗の入口扉付近に,白地に毛筆体で「本格職人握りA」と書
かれた暖簾が設置されており,それが短くなっていることで入りやすい
雰囲気となっている部分(別紙写真1以下省略)
要素⑤(内装)
内装を木の色で統一し,暖色系の照明を使用している部分
イ原告のように,同一の屋号で全国展開をする飲食店においては,全国共
通で用いる店舗外観(内装,看板,メニューの記載方法等を含む。)が,
営業主体を識別するために用いられており,現に,前記アのような原告店
舗の店舗外観は,安価に寿司を提供する寿司居酒屋という業態において,
他の店舗には見られない独自のものであり,長期間にわたって継続的に使
用されてきているから,需要者がこうした原告店舗の店舗外観を見た場合,
いかにも「A」らしいという視覚的な印象を得ることになり,その印象に
誘引されて,原告店舗においてサービスを受けることに結び付くところで
ある。
したがって,前記原告店舗の店舗外観そのものが,商品等表示に該当す
るものと解すべきである。近時,飲食店の店舗デザインが意匠法の保護の
対象となる方向での法改正の動きがあることからも,そのような結論が妥
当である。
(被告の主張の要旨)
原告店舗の店舗外観は,和風居酒屋という業態で一般的に用いられている
デザインであって,原告を他の同種店舗から識別し得るだけの顕著な特徴を
有していない。
具体的に述べると,木目調の四角い看板を中央に配置し,毛筆体を用いて
屋号等を黒字と赤字で記載する(要素①),木目調の四角形の看板に,居酒
屋のメニュー(もとより,これ自体は単なる普通名詞である。)を,メニュ
ー自体は黒字で,値段は赤字でそれぞれ記載する(要素②),和風居酒屋の
みならず,日本国内において一般に流通しているような,木目調の枠と下部
の板及びガラスで構成された引き戸を設ける(要素③),白い暖簾に黒の毛
筆体で屋号を記載する(要素④)といった各要素は,少なくとも和風居酒屋
においてありふれたものである。また,原告店舗の内装の色彩選択(要素⑤)
についても独自性はないし,居酒屋を含む飲食店舗においては,一般的に料
理の見栄えを考えて暖色系の照明が用いられるのであるから,照明の点にも
何らの独自性もない。
そして,要素①~要素⑤を組み合わせたとしても,居酒屋の一般的なデザ
インの範囲を出るものとはいえず,独自性のある特徴を有していない。現に,
類似する外観を有する店舗は他に多数存在する。
さらに,そもそも,原告店舗は,ビルの一区画にテナントとして入居して
いることから,構造上許される範囲内で看板,戸,暖簾等を設置しているに
すぎないため,原告店舗の店舗外観の全ての要素が統一的にデザインされる
ことにもならず,したがって,需要者が原告店舗の店舗外観から統一的な視
覚的印象を形成することなどあり得ないのであり,原告店舗の店舗外観をも
って,原告店舗と他の同業の店舗を識別し得るものではない。
⑵争点2(周知性の有無)
(原告の主張の要旨)
原告は,全国で約140店舗を経営しており,神奈川県内や東京都内など
関東地域においても,68店舗を営んでいるものであり,こうした店舗数の
多さ自体が,「A」という業態が需要者に広く受け入れられていることの証
左である。しかも,原告は,自社のウェブサイトのみならず,食べログなど
のインターネットサイトや,ホットペッパー等のフリーペーパーでも宣伝さ
れていて,知名度も高く,来店者数も多い。
よって,原告店舗の店舗外観は,需要者の間において広く知られているも
のといえる。
被告は,被告店舗が所在するE駅周辺に原告店舗がないこと等を問題とす
るが,E駅は様々な地域から来る多くの者に利用されていることが明らかで
あるから,需要者を,被告店舗周辺に勤務し,又は居住する者に限ることは
合理的ではない。そして,少なくともE駅に乗り入れる鉄道各線の沿線の各
駅まで広げて考えれば,それらの駅の周辺において生活する者の間で,原告
店舗の店舗外観が広く知られているといえる(前記のように考えた場合には,
E駅から乗換えを要することなく行くことができる原告店舗が16店舗,E
駅から30分以内に移動可能な原告店舗が6店舗あることとなる。)。
(被告の主張の要旨)
原告店舗の店舗外観は,需要者の間において周知性がない。特に,被告店
舗の商圏であるE駅周辺においては,そもそもその地域に原告店舗がないこ
ともあり(最も近い店舗でも,E駅から約10km離れたF駅前に,平成2
8年1月に店舗が設けられている程度である。),原告店舗に関する宣伝広
告等がされた事実はなく,需要者の間で,原告店舗の店舗外観が広く知られ
ているということはあり得ない。なお,被告店舗は,大衆的な価格帯の居酒
屋であって,需要者は,店舗の周辺地域に勤務し,又は居住する者に限られ
ると解すべきである。
⑶争点3(類似性の有無)
(原告の主張の要旨)
ア被告店舗の店舗外観につき,原告店舗の店舗外観と,各構成要素ごとに
比較検討すると,次のような要素が共通する。
要素①(屋号の入った看板)
被告店舗の看板は,原告店舗と同じように,店舗の正面上部中央に設
置されていて,木目調の看板に屋号が墨文字で記載されており,外壁の
色(黒色)や看板の字の配色(主として黒色,補助的に赤色)も同様で
ある。また,「寿司」をあえて平仮名表記している点も共通している。
さらに,原告店舗のロゴは,「す」の文字が「し」の文字よりも小さ
く書かれており,「し」の文字も,縦に伸びる部分より横に曲がった部
分の方が長くなっていて,ロゴ全体を下で受けるような体裁になってい
る点に特徴があり,これは当該ロゴを担当した書家に特有の顕著な特徴
であるところ,これらの特徴は,被告店舗のロゴにもみられる。
要素②(メニューが表示された看板)
被告店舗においては,原告店舗と同様に,前記看板の左右に,原告店
舗と同程度に安価な商品名が木目調の看板に墨文字で記載されたものが,
十品目分設置されていて,値段が赤色,それ以外が黒色で書かれ,品目
の下に値段が書かれている点も共通している。
要素③(店舗入口扉)
被告店舗においては,原告店舗と同様に,木目調の枠,下部の板及び
ガラスで構成された引き戸となっていて,ガラス部分から店内が見える
ように作られた店舗入口扉がある。
要素④(暖簾)
被告店舗においては,原告店舗と同様に,白地に黒の墨文字(毛筆体)
で屋号が記載された暖簾が,入口付近上部に設置されている。
要素⑤(内装)
被告店舗においては,原告店舗と同様に,内装についても,大部分が
木の色で統一され,暖色系の照明が用いられている。
イなお,被告が,原告店舗の店舗外観を模倣したことは,被告が原告店舗
の写真をイメージ写真として掲載していたこと,開店後わずかの期間で,
原告店舗との類似性を懸念する余り被告店舗の店舗外観を変更するに至っ
たことからも明らかである。
(被告の主張の要旨)
ア原告の主張する要素①~要素⑤の類似点は,いずれも抽象的なものにす
ぎない。具体的に見ると,次のような相違点がある(なお,前提として,
表示されている屋号等が異なっていることはいうまでもない。)。
要素①(屋号の入った看板)について
a原告店舗の看板は,濃い茶色で,木の年輪模様が強調されているば
かりでなく,四辺を細かく湾曲させ,木を切り出したかのような印象
を生み出しているのに対し,被告店舗の看板は,シンプルな薄茶色の
板であり,そのような印象は生じない(なお,この点は,要素②のメ
ニューが表示された看板についても同様である。)。
b原告店舗の看板は,縦の長さが横の長さの2倍近くあるが,被告店
舗の看板は,正方形に近い。
c屋号の記載は,毛筆体を用いる点は同じであるが,原告店舗の場合
は,線の太さ・細さを強調した繊細さを感じさせるフォントを用いて
いるのに対し,被告店舗の場合は,太く力強さを感じさせるフォント
を用いている(なお,この点は,要素②のメニューが表示された看板
についても同様である。)。
d原告店舗の看板の方が記載事項が多く(個々の店舗名,電話番号
等),雑然とした印象となっている。
e原告店舗の看板は上部1か所からライトアップされているのに対し,
被告店舗の看板は下部2か所からライトアップされている。
要素②(メニューが表示された看板)について
a原告店舗と被告店舗とでは,メニューが表示された看板の数が異な
る。
b被告店舗の看板は,一つ一つが下部からライトアップされているが,
原告店舗の看板はそのようにはなっていない。
要素⑤(内装)について
a原告店舗の内壁は,細長い木板が並べて貼り付けられていて,ログ
ハウス調となっているのに対し,被告店舗の内壁は,ベージュ,オレ
ンジなどの壁紙となっていて,ログハウス調とはなっていない。
b照明についても,原告店舗においては,吊り下げコードの長い特殊
な形状のペンダントライトが設置されているのに対し,被告店舗にお
いては,シンプルな埋め込み式ダウンライトが設置されている。
c被告店舗の内壁には,漁業にまつわる写真がパネルの形で貼られて
いるが,原告店舗にはそのようなものはない。
d被告店舗の天井には,赤白の提灯が多くぶら下がっているが,原告
店舗にはそのようなものはない。
イこのほか,被告店舗の入口扉上部には赤白の提灯がぶら下がっていて,
扉の左右に大きなメニュー表が掲示されているが,これらは原告店舗には
ない特徴である。
ウなお,要素③(店舗入口扉)及び要素④(暖簾)については,類似して
いるとしても,国内に大量に流通している一般的なデザインであるため,
需要者の印象への寄与は極めて小さく,全体としての類似性の判断には影
響しない。付言すると,要素③(店舗入口扉)に関し,被告店舗の入口扉
は,引き戸ではなく,押しボタン式の自動ドアである。
⑷争点4(誤認混同の有無)
(原告の主張の要旨)
前記⑶で述べた類似点に加えて,被告が原告店舗の写真を加工し,原告店
舗の看板をそのまま使用した広報文をウェブサイトに掲載していた事実等を
踏まえると,被告店舗の店舗外観は,原告店舗の店舗外観と極めて酷似して
おり,かつ,被告店舗を見た需要者は,これを原告店舗と誤認混同するおそ
れがある(なお,誤認混同のおそれについては,飽くまでも寿司を主たる商
品とする居酒屋を基準として考えるべきであって,大衆居酒屋全般を基準に
考えるのは妥当でない。)。
(被告の主張の要旨)
前記⑶で述べたとおり,原告の主張する類似点は,いずれも抽象的なもの
にすぎず,原告店舗の店舗外観と被告店舗の店舗外観から受ける印象は大き
く異なっているから,誤認混同が生ずるおそれはない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が
認められる。
⑴原告店舗の全国展開
原告は,原告店舗の店舗外観を構築するにあたって,握り寿司が元々庶民
の味として引き継がれてきたことも踏まえて,気軽に足を運べて,なぜか懐
かしく温かみが感じられる屋台ずしのコンセプトを構想し,そのコンセプト
の下に,全国に延べ約200店舗を展開し,平成29年2月末現在,約14
0店舗を経営するにまで至った。(甲3,12)
⑶被告による原告店舗の写真の流用
被告は,平成28年11月頃,被告が同月に開店した「BD店」(被告
店舗)のオープンリリースにおけるイメージ画像において,原告店舗の看板
の画像を使用していたところ,被告は,当該画像の修正をした上で,同年1
2月2日付けで,原告代表者宛てに,前記の事態を反省し,お詫びする旨の
文書を送った。(甲6)
2争点1(原告店舗の店舗外観が商品等表示に該当するか否か)
⑴判断の枠組み
不正競争防止法2条1項1号の趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表
示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用
を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,
同法の目的である事業者間の公正な競争を確保することにある。
店舗外観(店舗の外装,店内構造及び内装)は,通常それ自体は営業主体
を識別させること(営業の出所の表示)を目的として選択されるものではな
いが,場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを一つの目的
として選択されることがあり,店舗外観が特定の出所を表示する機能を有す
るに至る場合がある。そして,前記のような同号の趣旨に鑑みれば,①店舗
外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており,②
当該外観が特定の事業者(その包括承継人を含む。)によって継続的・独占
的に使用された期間の長さや,当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の
状況などに照らし,需要者において当該外観を有する店舗における営業が特
定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められ
る場合には,店舗外観の全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)
営業表示性を獲得し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に
該当する場合があると解すべきである。
以下,この点を前提として検討する。
⑵店舗外観を構成する各要素に関する検討
掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告店舗の中には,次のア~オの
の各要素を有する外観の店舗があることが認められるところ,以下に述べ
るとおり,①,そもそも原告店舗の店舗外観の標準
的仕様とは認められず,これらをもって,原告店舗が原告の営業する店舗で
あることを示すものとして統一的に把握することはできない。この点をおい
ても,②いずれの要素についても,客観的に他の同種同業の店舗の外観とは
異なる顕著な特徴があるとは認められないから,結論として,営業主体とし
ての原告が識別し得るといえるまでの顕著な特徴は認められない。
ア屋号の入った看板
原告店舗の外壁の正面上部においては,毛筆体で「A」などと記載さ
れた木目調の看板が掲げられている(以下「要素⒜」という。)。(甲
8,乙8,9,12)
なお,原告は,外壁が黒色であることも特徴として主張するが,乙第
12号証の2によれば,外壁が黒色であることは,全ての原告店舗に共
通の要素とは認められないから,外壁の色の点は,そもそも原告店舗の
店舗外観の標準的仕様として捉えることはできない。
この点,店舗の存在や業種等を認識させて集客力を高めるため,店舗
の外側の目立つ位置に屋号等が大きく書かれた看板等が掲げられるのは
ごく一般的である上,和風料理を主に提供する居酒屋であれば,看板か
ら店舗の業種や雰囲気が伝わるようにするため,その看板を木目調とし,
そこに記載する文字の表示に毛筆体を用いることも自然なところである
といえ,現に,居酒屋の店舗の入口の中央上部に,毛筆体で屋号が書か
れた木目調の看板が掲げられることは一般的であることがうかがわれる
(乙3)。そうすると,要素⒜が,客観的に他の同種店舗の外観とは異
なり,これによって営業主体としての原告が想起され得るといえるまで
の顕著な特徴であるとは認められない。
なお,原告は,看板の「すし」という一般名詞部分に平仮名を用いて
いる点についても,原告店舗の店舗外観の特徴として指摘するものと解
されるので,この点についても検討すると,屋号として「寿司」と記載
するか,「すし」と記載するかにより,看板から受ける店舗に対する印
象に違いが生ずる余地があるとしても,看板に「すし」という形で平仮
名による表記を用いるなど,店舗の雰囲気を印象付けるなどのために看
板に社会一般の用法とは異なる表記をすることが,直ちに営業主体の識
別に結び付くことは想定し難い。
イメニューが表示された看板
原告店舗の正面上部(要素⒜の看板の左右)に,「いか●●円」
(値段部分は赤字)などと,毛筆体で,比較的安価な寿司のネタの品名
と値段が記載された木目調の看板が,数品目程度並んでいる(以下「要
素⒝」という。)。(甲8,乙8,9,12)
要素⒝は,要素⒜と一体となって外壁のレイアウトを構成するものと
考えられるため,その前提で検討すると,別紙写真6及び別紙写真7
(AG店・H店・I店・J店・K店)に表れているように,要素⒜の
屋号の看板と要素⒝のメニューが表示された看板との位置関係は,店舗
が入っている建物のレイアウトなどに影響される面がないとはいえず,
必ずしも,左右に一列で並べられるという点において全ての原告店舗の
店舗外観に共通の要素とは認められないから,要素⒝が原告店舗の店舗
外観の標準的仕様であるとはいい難く,要素⒝をもって,原告店舗が原
告の営業する店舗であることを示すものとして統一的に把握することは
できない。
また,この点をおいて検討しても,要素⒜及び要素⒝と同様の要素
を有しているといえる居酒屋は,決して少なくなく,メニューが表示
された看板を屋号等の看板の横に掲げるということのみを捉えれば,
更に一般的であることがうかがわれる(乙5,特に乙5の4・8・1
3)。そして,メニューが表示された看板を店舗の外側に掲げる以上,
その主な目的が店舗のメニューや価格帯を認識させて集客力を高める
ことにあることは自明であり,この点も併せて考えれば,値段と併せ
て表示する際に,比較的安価な商品を記載した看板が主に掲げられる
ことも,一般的である。
そうすると,要素⒜と一体として考えたとしても,要素⒝が,客観
的に他の同種店舗の外観とは異なり,これによって営業主体としての
原告が想起され得るといえるまでの顕著な特徴であるとは認められな
い。
bなお,原告は,居酒屋一般を基準として,店舗外観の比較をするの
は適当でなく,飽くまでも寿司を主たる商品とする居酒屋という業態
において,原告店舗の店舗外観が顕著な特徴を有しているか否かが問
題であると主張する。
この点に関し,寿司を主たる商品とする居酒屋という業態に絞り込
んだ場合に,要素⒜及び要素⒝のような要素を有している店舗がなく,
かつ,その要素が原告店舗を想起させるようなものにまで至っている
か否かについては,客観的な資料があるとはいい難い。また,この点
をおいて,寿司を主たる商品とする居酒屋の中では,要素⒜及び要素
⒝のような看板の配置の仕方が原告店舗に独自のものであるという原
告の主張の前提に立ったとしても,屋号の看板の横などに,安価なメ
ニューとその値段を掲げた看板を配置するレイアウトは,ありふれた
形態のものであり,居酒屋において提供される食品が寿司を主体とす
るものになったからといって,そのようなレイアウトが,屋号などと
離れて,営業主体を識別させる力を有することになるとは,にわかに
考え難い。
したがって,原告の前記主張は,判断を左右するに足りない。
ウ店舗入口扉
原告店舗の店舗入口扉は,木目調の枠,下部の板及びガラスで構成さ
れた引き戸になっており,外から店内が見えるようになっている(以下
「要素⒞」という。)。(甲8,乙9,12)
この点についても,同様の要素を持っているといえる居酒屋は一定数
存在しており(乙4の1・2,5の9),外から店内を見やすくするこ
とで通行客に中に入りやすく感じてもらうということは,多くの飲食店
において一般的に行われているものと認められるから,要素⒞が,客観
的に他の同種店舗の外観とは異なり,これによって営業主体としての原
告が想起され得るといえるまでの顕著な特徴であるとは認められない。
エ暖簾
原告は,店舗入口扉付近に設置された,白地に毛筆体で「本格職人握
りA」と書かれた暖簾部分(以下「要素⒟」という。)についても,
原告店舗の店舗外観の特徴として指摘しているが,甲第8号証及び乙第
12号証によれば,必ずしも全ての原告店舗でこのような暖簾が常に掲
げられているとは認められず,要素⒟は,原告店舗に共通の要素とは認
められないから,これが原告店舗の標準的仕様であるとはいえず,要素
⒟をもって,原告店舗が原告の営業する店舗であることを示すものとし
て統一的に把握することはできない。
また,この点をおくとしても,屋号等を記載した白い暖簾を入口に掲
げることや,それを余り縦に長いものとせずに店内が見えやすいように
すること自体は,和風料理を提供する居酒屋としては,ごくありふれた
ものであって,要素⒟が,客観的に他の同種店舗の外観とは異なり,こ
れによって営業主体としての原告が想起され得るといえるまでの顕著な
特徴であるとは認められない。なお,暖簾における屋号を毛筆体で記載
した部分については,要素⒜の店舗上部の看板部分と同様の書きぶりと
なっているところであり,要素⒜について述べたのと同様に,顕著な特
徴を有しているとは認められない。
オ内装
原告店舗においては,内装を木の色で統一し,暖色系の照明を用いて
いる(以下「要素⒠」という。)。(乙6)
しかしながら,この点についても,飲食店全般,あるいは和風料理を
提供する居酒屋としては,ごく一般的にあり得るものであるというほか
なく,要素⒠が,客観的に他の同種店舗の外観とは異なり,これによっ
て営業主体としての原告が想起され得るといえるまでの顕著な特徴であ
るとは認められない。
⑶店舗外観の総合的検討
各要素に関する個別的な検討は,前記⑵のとおりであるところ,原告とし
ては,これらの要素を組み合わせたものを全体として見た場合に,その外観
が商品等表示に該当する旨も主張するものと解される。
要素⒠は,いず
れも,和風料理を提供する居酒屋として一般的なものの域を出ていないとい
うほかないところ,これらの要素の全部又は一部の組合せからなる原告店舗
の店舗外観を全体としてみても,その主要な特徴(特に要素⒜,⒝)を備え
た,和風料理を提供する店舗が他に一定数あることにも照らせば,当該外観
は,業種,雰囲気等を表示するためのありふれたものであると認められ(乙
5の4・13),客観的に他の同種店舗の外観とは異なり,これによって営
業主体としての原告が想起され得るといえるまでの顕著な特徴があるものと
は認められない。
なお,原告代表者の陳述書(甲12)において,原告店舗のインターネッ
ト上での広告においては,原告店舗の店舗外観の特徴が統一的に表示されて
いる旨の陳述がされているが,この陳述に即した事実を認めるに足りる客観
的な証拠はない。また,仮に要素⒜~要素⒠の全てが,広告において統一的
に表示されていたとしても,そもそも,それらの要素が他の同種店舗の外観
とは異なる顕著な特徴であるとは認められないというのが当裁判所の判断で
あるから,広告等の状況により判断が左右されるものではない。
⑷まとめ
以上によれば,原告店舗の店舗外観をもって,原告の商品等表示に当たる
と認めることはできない。したがって,その余の点について判断するまでも
なく,原告の請求には理由がない。
なお,前記1⑵の事実からは,被告が,原告店舗の店舗外観に依拠し,被
告店舗の当初の店舗外観を構想したこともうかがわれるが,仮にそうである
としても,そもそも原告店舗の店舗外観が商品等表示に当たらなければ,被
告に不正競争防止法上の責任が生ずる余地がないことは明らかであり,前記
の点により判断が左右されるものではない。また,原告は,店舗デザインを
保護する方向での意匠法改正が検討されている事情を指摘するが,本件で問
題となっているのは,美感を起こさせる店舗外観をデザインとして保護すべ
きか否かではなく,原告店舗の店舗外観に,客観的に他の同種店舗の外観と
は異なり,これによって営業主体としての原告が想起され得るといえるまで
の顕著な特徴があるかどうかであるから,前記の法改正が,店舗デザインの
類似性が争点となる訴訟を契機とするものであるにせよ,原告が指摘する事
情は,本件の争点に関する法的判断とは無関係である。
第4結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却すること
とし,訴訟費用の負担につき,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決す
る。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官角谷昌毅
裁判官佐藤政達
裁判官後藤隆大
(別紙省略)

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