弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告は之を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告代理人は「原決定を取消す。本件を名古屋家庭裁判所本庁に移送する。抗告
費用は相手方の負担とする」との裁判を求め、その理由として、抗告人は昭和二十
八年四月一日瀬戸市a町b番地にその住所を定めたから本件家事調停事件の管轄裁
判所は瀬戸市を管轄する名古屋家庭裁判所本庁であり、尚、抗告人は軽度の脳溢血
と強度の喘息のため右住所地より本件の係属する同裁判所岡崎支部へ出頭すること
は困難であるから、何れの点よりみるも、本件は名古屋家庭裁判所本庁へ移送さる
べきものであるに拘らず、抗告人の移送申立を却下した原決定は不法であるから本
抗告に及んだと申立て、疏明として、証明書一通を提出した。
 依て、先ず、本件移送申立却下の審判に対し不服申立をすることができるか否や
を考察すると、家事審判規則第四条ノ二は移送の審判については即時抗告の申立を
なすことができる旨規定しているに反し、移送申立却下の審判については同規則、
家事審判法並びに同法により準用せられる非訟事件手続法第一篇を通覧するも、特
段の規定がないから、右審判に対しては即時抗告の申立をなすことができないもの
と言わねばならないが、家事審判法第七条により準用せられる非訟事件手続法第二
十条第一項は裁判により権利を害せられたりとする者はその裁判に対し抗告をなす
ことを得る旨規定して居り、同条に言う裁判又は権利は実体法上の裁判又は権利に
止まらず、訴訟法上のそれ等をも含むものと解すべきであるから、家事事件に於け
る移送申立却下の審判決定により訴訟法上の権利を害せられたとする当該移送申立
人は右審判決定に対し所謂通常抗告の方法により不服の申立をなすことができるも
のと解すべきである。従つて本件に於て、移送申立却下審判に対してなした抗告人
の不服申立は即時抗告としては不適法であるが、通常抗告として適法であると言う
べきである。
 次に、本件に於て、抗告人は名古屋家庭裁判所岡崎支部より同裁判所本庁へ移送
を求めるものであるが、かかる場合移送申立が許されるや否やにつき判断するに、
地方裁判所又は家庭裁判所の支部は裁判所法第三十条、第三十一条ノ五、地方裁判
所及家庭裁判所支部設置規則により当該地方裁判所又は家庭裁判所の事務の中区域
的に制限せられた一部の事務を取扱うものであるが、之は行政上の事務分配に関す
るものに過ぎないから本庁と支部との間には裁判上の土地管轄の問題は生じない。
即ち土地管轄は当該地方裁判所又は家庭裁判所の管轄を以て一単位となすべきもの
であるから、その地方裁判所又は家庭裁判所の管轄に属する以上支部の取扱事務範
囲に属しない事件と雖も、之に対し土地管轄違の故を以て移送をなすことができな
いのであつて、支部がその本庁の取扱事務範囲に属する事件を受理したときは裁判
上の移送の決定をなすべきではなく、只行政処<要旨>分として事件を本庁に送付す
べきであり、当事者も亦かかる場合右行政処分の発動を促すに止まり、移送の申 要旨>立をなすことができないものと言うべきである。仍て、本件に於て、抗告人は
名古屋家庭裁判所岡崎支部より同裁判所本庁へ家事審判法上の移送の申立をなすこ
とは許されないのであるから、右移送申立は不適法として却下すべきである。原審
判は原裁判所に適法に係属したことを理由として本件移送申立を却下しているか
ら、本件に於て移送申立をなし得ると言う見解をとつていること明かである。従つ
て、此の点に於て法の解釈につき誤があると言うべきであるが、移送申立を却下し
たことは結局に於て相当と認むべきものであるから、本件抗告は理由がないものと
して之を棄却すべきものとする。仍て、家事審判法第七条、非訟事件手読法第二十
五条、第二十六条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条第二項を適用し、主
文の通り決定する。
 (裁判長裁判官 北野孝一 裁判官 伊藤淳吉 裁判官 小沢三朗)

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