弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、被告人Aa株式会社、同Ab株式会社及び同Acに関する部
分を破棄する。
     右被告人らは、本件各公訴事実につき、いずれも無罪。
     その余の被告人らの本件各上告を棄却する。
         理    由
 〔凡   例〕
 一 左に掲げる略称を用いることがあるほか、日常使用される略称を用いること
がある。
  略   称     正 式  名 称
 独  禁  法  私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
 公  取  委  公正取引委員会
 通 産 省    通商産業省
 通産大臣     通商産業大臣
 石     連  石油連盟
 オ ペ ツ ク  石油輸出国機構
 オアペ ツ ク  アラブ石油輸出国機構
 上告趣意(一)  弁護人眞子博次ほか三七名連名の上告趣意
 上告趣意(二)  弁護人澤田隆義ほか二名連名の上告趣意
 上告趣意(三)  弁護人八木良夫の上告趣意
 上告趣意(四)  弁護人福島幸夫ほか三名連名の上告趣意
 二 左の上段の文言は、下段の意味である。
 業    界   石 油 業 界
 元売り会社 石油製品元売り会社
 三 株式会社名については、名称中「株式会社」を単に(株)と表示する。
 四 被告人中自然人たる被告人は、例えば「被告人Ad」又は単に「被告人Ad」
と表示し、法人たる被告人は、例えば「被告会社Aa」と表示する。また、単に「
被告人ら」というときは、原則として自然人たる被告人らを指すが、自然人たる被
告人らと法人たる被告人らを総称して「被告人ら」ということもある。
 第一 上告趣意(一)第一点、第二点について
 所論は、独禁法八九条から九一条までの罪に係る訴訟の第一審の裁判権を東京高
等裁判所に専属させ、右各罪につき二審制を定めている同法八五条三号の規定は、
憲法一四条一項、三一条、三二条に違反する、というのである。
 しかしながら、裁判権及び審級制度については、憲法八一条の要請を満たす限り、
憲法は法律の適当に定めるところに一任したものと解すべきことは、当裁判所の判
例(昭和二二年(れ)第一二六号同二三年七月一九日大法廷判決・刑集二巻八号九
二二頁、同二三年(れ)第一六七号同年七月一九日大法廷判決・刑集二巻八号九五
二頁、同二七年(テ)第六号同二九年一〇月一三日大法廷判決・民集八巻一〇号一
八四六頁)のくりかえし判示するところである。もつとも、右各判例も裁判権及び
審級制度に関する定めにつき、立法機関の恣意を許すとする趣旨ではなく、ある種
の事件につき他と異なる特別の審級制度を定めるには、それなりに合理的な理由の
必要とされることを当然の前提としていると解すべきであるが、独禁法八九条から
九一条までの罪については、これらの対象とする行為がわが国の経済の基本に関す
るきわめて重要なものであつて、これに対する判断が区々に分れその法的決着が遅
延することは好ましくないこと等の特殊な事情があることなどに照らすと、独禁法
が、右各罪に係る訴訟につき、その第一審の裁判権を東京高等裁判所に専属させ裁
判官五名をもつて構成する合議体により審理させることとして、審級制度上の特例
を認めたことには、それなりに合理性がないとはいえないというべきである。そう
すると、同法八五条三号の規定が憲法一四条一項、三一条、三二条に違反するもの
でないことは、当裁判所の前記各大法廷判例の趣旨に徴して明らかであつて、所論
は、理由がない。
 第二 同第三点について
 所論は、独禁法八五条三号の規定は、本来裁判所の自主的な規則によつて定めら
れるべき刑事訴訟の管轄等の定めを法律によつて規定したものであるから、最高裁
判所の規則制定権を定めた憲法七七条一項に違反する、というのである。
 しかし、法律が一定の訴訟手続に関する規則の制定を最高裁判所規則に委任して
もなんら憲法に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第
二一二七号同二五年一〇月二五日大法廷判決・刑集四巻一〇号二一五一頁)の示す
ところであり、右判例が、法律により刑事訴訟の管轄等を定めることができるもの
であることを前提としていることはいうまでもない(最高裁昭和二八年(あ)第五
三九号同三〇年四月二二日第二小法廷判決・刑集九巻五号九一一頁参照)。そうす
ると、独禁法八九条から九一条までの罪に係る訴訟の第一審の裁判権が東京高等裁
判所に属することを定めた同法八五条三号の規定が憲法七七条一項に違反するもの
でないことは、当裁判所の前記大法廷判例の趣旨に徴して明らかである。所論は、
理由がない。
 第三 同第四点について
 所論は、独禁法八九条一項一号の規定は、その定める構成要件があいまい不明確
であるから、憲法三一条に違反する、というのである。
 しかし、独禁法八九条一項一号所定の罪の構成要件については、合理的な解釈に
よつてその意義を明確に理解しうるのであり(後記第五及び第六参照)、これが所
論のようにあいまい不明確であるとはいえないから、所論は前提を欠き、適法な上
告理由にあたらない。
 第四 同第五点ないし第九点について
 所論は、多岐にわたるが、その主張の要旨は、原判決が、石油製品価格に関する
通産省のガイドライン行政指導は本件当時慣行として定着していたとはいえないと
している点、本件の行為主体が石連の営業委員会とは別個の「価格の会合」であつ
たとしている点、被告人らの行為の性格につき「業界における主体的・自発的値上
げの合意」であつて、行政指導に対する協力行為ではないとしている点はすべて誤
りであり、かかる誤つた事実認定を前提として、被告人らが石油製品価格に関し独
禁法三条、八九条一項一号、九五条一項によつて禁止・処罰される不当な取引制限
行為(共同行為)を行つたと認めた原判決には、重大な事実誤認がある、というの
である。
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、原判決のうち、本件当時における石
油製品価格に関する通産省の行政指導の認定評価に関する説示部分及び本件各行為
の主体等に関する認定部分には一部首肯しえない点があるが、被告会社らの従業者
である被告人らが、その所属する被告会社の業務に関し、石油製品価格を各社いつ
せいに引き上げる旨の合意をしたものと認めた原判決の結論は、証拠上これを是認
することができる(但し、後記説示のとおり無罪とする被告人らの関係を除く。第
一五及び第一六参照)。その理由は、次のとおりである。
 一 原判決は、本件当時、石油製品価格に関し通産省によるおおむね次のような
行政介入が行われていたとしており、これらの事実は、記録上いずれもこれを肯認
することができる。
 1 オペツクの第一次ないし第三次原油値上げに伴い、業界による石油製品の値
上げが予測された昭和四六年二月ころ、通産省鉱山石炭局長は、石連会長に対し、
原油の値上がりを石油製品価格に転嫁する場合の基本方針を示すとともに、値上げ
する場合には、業界で勝手にこれを行わず、通産省に事前に連絡するように指示し
た。
 2 同年三月から四月にかけて、通産省担当官は、業界に対し、原油値上がり分
のうち一バーレル当り一〇セントを業界に負担させることを内容とする、いわゆる
「一〇セント負担」指導を行つて平均値上げ幅を示すとともに、これを油種別に展
開した油種別値上げ幅の数字を示してその遵守を要請し、種々の折衝ののち、業界
は、最終的に通産省の意向に副う値上げ案を作成し、その実行をした。
 3 同年一〇月から一一月にかけて、通産省は、石連会長らに対し、民生の安定
上重要であるとして、元売り各社の白灯油価格を同年冬は引き上げずに、前需要期
の各社それぞれの平均価格以下にするよう各社を指導する措置を講ずる旨通知した。
 4 同四七年二月、業界による「一〇セント負担」の解除の要請及び市況悪化を
理由とする値上げの要請は、通産省担当官によつていずれも拒否されたが、同省鉱
山石炭局幹部と業界首脳との会談ののち、業界の作成した油種別値上げ案が、結局
において同省により了承された。
 5 その際、通産省鉱山石炭局石油計画課長Aeは、石連営業委員長Afに対し、
今後値上げの必要が生じたときは、予め話しに来るように指示した。
 6 本件第一回の値上げに際し、同年一二月、業界による「一〇セント負担」解
除の要請が同局石油計画課総括班長Agによつて拒否されたため、業界は、「一〇
セント負担」を前提とする修正案を作成し、担当官の了承を得た。
 7 その後の第二回ないし第五回の値上げに際しても、通産省担当官は、業界に
よる値上げの実施前に、その作成した値上げ案に対する了承を与えた。
 8 同四八年六月一八日の営業委員会においては、Ag総括班長らが、文書に基
づき、新ジユネーブ協定による原油値上がり分は、円高による差益とほぼ相殺とな
るので、その分の製品値上げをしてはならないこと等を内容とする価格指導方針を
説明し(いわゆる「チヤラ論指導」)、なお、その際、市況調整値上げ分の製品値
上げは、十分説明のつくもの以外は認めない旨付言した。
 9 その直後、石連重油専門委員会(スタデイ・グループ)のAeが、被告会社
Ahの社内資料に基づき中間留分についての値上げ案の内容を説明して意向を打診
したが、Ag総括班長は、業界全体の資料による説明でなければ困るとして、その
回答を留保した。
 10 同月末、Ai課長は、業界の七月値上げ案をいつたん了承したが、国会が
開会中であることなどを理由に、その実施を一か月延期するよう要請し、業界は右
指導に従つた。
 11 同年九月、資源エネルギー庁石油部長Ajは業界に対し、家庭用灯油値上
げの撤回を申し入れたが、石連営業委員長の被告人Adはこれに応ぜず、結局、石
連Ak理事のあつせんにより、家庭用灯油価格を九月末の時点で凍結することで落
着した。
 12 同年一一月の値上げの際にも、Ag総括班長は、被告会社Ahの社内資料
に基づき値上げ案の説明をした右被告人Adに対し、業界全体の資料を要求した。
 二 以上によると、通産省は、昭和四七年以降の本件を含む一連の石油製品の値
上げに際しては、業界の値上げ案作成の段階において基本的な方針を示して業界を
指導し(前記一、4、6、8)、これによつて、業界作成の値上げ案に通産省の意
向を反映させたことが認められるが、同四六年の値上げの際と異なり、業界が作成
してきた値上げ案に対しその値上げ幅をさらに削減させたり、自ら油種別値上げ幅
の数字を示したりするような積極的・直接的な介入は、できる限りこれを回避して
いこうとする態度であつたことが窺われる。
 しかし、通産省がこのような基本的態度をとつていたということは、当時の行政
指導が必ずしも弱いものであつたことを意味するものではない。前記のとおり、業
界は、昭和四六年のいわゆる「一〇セント負担」を内容とする一連の行政指導によ
つて、石油製品の油種別上限価格を抑えられていたのであり(前記一、2)、その
後の値上げの際には、通産省担当官から事前に話しに来るように指示されており(
5) (なお、前後の経緯からすると、これは、値上げの上限に関し業界が事前に
通産省担当官の了承を得るように指示されていたことを意味すると認められる。)、
また、業界の値上げの希望は、同省の基本方針と抵触する限り事実上許容されなか
つた(4、6)ばかりでなく、時には、同省が積極的に示した方針を値上げ案に反
映させられたり(8)、いつたん了承を得た値上げ案の実施時期を延期せざるをえ
なかつたこともある(10)。また、業界が通産省の了承を得るには、必ず業界全
体の資料に基づく説明が要求された(9、12)のであつて、当時のこのような通
産省の行政指導(なお、右行政指導が違法とまではいえないことは、後記第一〇に
説示のとおりである。)を前提とする限り、石油製品価格を、通産省の指導を無視
して各社がその個別的判断によつて引き上げることは、事実上きわめて困難なこと
であつたといわなければならず、この点からすると、値上げに関する通産省の了承
を得るための業界の価格に関する話合いないし合意が独禁法上一切許されないと解
することは、業界に難きを強いる結果となつて、妥当とはいえない。したがつて、
オペツク及びオアペツク等による原油値上げという石油製品の客観的値上げ要因を
抱え、値上げの必要に迫られていた業界において、値上げの上限に関する通産省の
了承を得るために、各社の資料を持ち寄り価格に関する話合いを行つて一定の合意
に達することは、それがあくまで値上げの上限についての業界の希望に関する合意
に止まり、通産省の了承が得られた場合の各社の値上げに関する意思決定(値上げ
をするか否か、及び右上限の範囲内でどの程度の値上げをするかの意思決定)をな
んら拘束するものでない限り、独禁法三条、二条六項の禁止する不当な取引制限行
為にあたらないというべきである。しかしながら、これと異なり、各事業者の従業
者等が、値上げの上限に関する右のような業界の希望案を合意するに止まらず、そ
の属する事業者の業務に関し、通産省の了承の得られることを前提として、了承さ
れた限度一杯まで各社一致して石油製品の価格を引き上げることまで合意したとす
れば、これが、独禁法三条、八九条一項一号、九五条一項によつて禁止・処罰され
る不当な取引制限行為(共同行為)にあたることは明らかである。そうすると、本
件における被告人らの行為が同法によつて処罰されるべきものであるかどうかは、
それが証拠上右のいずれの場合にあたると認められるかによることとなる。
 三 そこで、この点につき検討するに、各被告会社の営業担当役員である被告人
らが、オペツク及びオアペツク等の原油値上げに対応して、昭和四八年一月から一
一月にかけ五回にわたり、石油製品価格の引上げを行うに際し、油種別の値上げ幅
とその実施時期について一定の合意に達したことは、記録上明らかなところである。
所論は、被告人らは、値上げの上限に関する通産省の了承を得るための業界の希望
案について合意したにすぎないと主張するが、原判決が共同行為の存在を推認させ
るものとして指摘する多くの客観的事実関係の中には、被告人らが、通産省の了承
の得られることを前提としてではあるが、各社いつせいに石油製品価格の引上げを
行うこと及びその際の油種別の値上げ幅と実施時期についてまで合意したと考える
のでなければ合理的に理解することのできないものが多数存在し(例えば、原判決
第三、三、(二)、1、(2)のニ、ホ、ト、チ、ヌなど)、これらの点について
は、所論によつても的確な反論がなされているとは認め難い。さらに、本件各合意
の直後に、各被告会社においてほぼ一致して、合意された価格と実施時期におおむ
ね対応する値上げの指示が支店等に対してなされていること、さらには、一致して
共同行為の存在を認めた被告人らの検察官調書の内容(なお、被告人らの検察官調
書は、証拠上否定し難い通産省の前記のような行政指導にほとんど全く触れておら
ず、捜査に欠けるところがあつてこれを全面的に措信することには問題が残るにし
ても、少なくとも前記一連の客観的事実関係とあいまつて、共同行為を認定するた
めの資料とはなりうるものと解する。)等記録上明らかな証拠関係に照らすと、被
告人らは、油種別の値上げの上限に関する業界の希望案を合意するに止まらず、右
希望案に対する通産省の了承の得られることを前提として、一定の期日から、右了
承の限度一杯まで石油製品価格を各社いつせいに引き上げる旨の合意をしたと認め
ざるをえないのであつて、所論は採用し難い。
 四 次に、右のような合意をしたのが石連の営業委員会とは別個の「価格の会合」
であつたとする原判決の認定には、前記のとおり疑問がある。たしかに、原判決の
指摘するとおり、右会合には、営業委員会の本来の構成員であるAl(株)(以下
「Al」という。)及びAm(株)(以下「Am」という。)の各代表が出席して
いないことが明らかであり、また石連事務局員の列席がなく、議事録の作成もなさ
れなかつたことも事実と認められるが、他方、右会合が右両社を除くその余の元売
り会社を代表する営業委員又はその代理人(これは、当時の営業委員会の現実の構
成員のほぼ全員である。)によつて構成されていたこと、右会合の責任者は営業委
員長自身であり、営業委員長の交代とともに右会合の責任者も交代していること、
右会合においては、営業委員会の下部機構である重油専門委員会(スタデイ・グル
ープ)を使つて基礎計算及び値上げ原案の作成を行わせていること、右会合におけ
る合意の内容は、営業委員会によつて行われたことに争いのない昭和四六年の値上
げの際の合意と実質において異なるところがないこと、AlとAmの代表の欠席は、
両社が外資系の会社であるところから、公取委の摘発を恐れてのことであるが、会
合における合意の結果は、その都度責任者から両社に連絡されていたこと、石連事
務局員の欠席も、石連自身が公取委に摘発された昭和四六年の値上げの際の経験に
かんがみ、累が石連に及ぶことを回避するため、右会合が石連とは無関係であると
の外観を作出しようとしたことの結果にすぎないことなどの点も、証拠上明らかな
ところであつて、これらの諸点を総合して考察すると、本件各合意の行われた会合
は、やや変則的な構成ながら、石連の営業委員会とその実体を同じくする会合であ
つたと認めるのが相当である。したがつて、本件における石油製品価格引上げに関
する合意が、石連という事業者団体の機関ひいては石連自身によつて行われたとい
う一面は、これを否定することができない。
 しかしながら、独禁法上処罰の対象とされる不当な取引制限行為が事業者団体に
よつて行われた場合であつても、これが同時に右事業者団体を構成する各事業者の
従業者等によりその業務に関して行われたと観念しうる事情のあるときは、右行為
を行つたことの刑責を事業者団体のほか各事業者に対して問うことも許され、その
いずれに対し刑責を問うかは、公取委ないし検察官の合理的裁量に委ねられている
と解すべきである。これを本件についてみると、前認定のとおり、各被告会社の営
業担当役員である被告人らは、AlとAmを除くその余の全元売り会社の営業担当
役員によつて事実上構成される石連の営業委員会において、石油製品価格の油種別
の値上げ幅と実施時期を定め、通産省の了承を前提として各社いつせいに値上げを
行う旨合意をしたものであるところ、かかる事実関係のもとにおいては、被告人ら
の右行為は、石連の営業委員としての行為であると同時に、その所属する各事業者
の業務に関して行われたものと認めるのが相当であるから、右合意をした会合を、
原判決の認定と異なり石連の営業委員会であると認定したからといつて、その点は、
各被告会社の刑責になんら消長を及ぼすものではない。
 五 以上のとおりであつて、本件価格協定の存否をめぐる原判決の認定には、前
記のとおりその行為主体を石連の営業委員会ではないとしている点等において一部
首肯しえないところもあるが、被告人らがその所属する被告会社の業務に関し石油
製品の価格をいつせいに引き上げる旨の価格協定を締結したとするその結論は相当
として是認することができるから、原判決の右事実誤認は、判決に影響を及ぼすも
のとはいえない。
 第五 同第一〇点について
 所論は、価格に関し独禁法三条にいう「不当な取引制限」行為が行われたといえ
るためには、その違反を防止する有効な手段を伴つた拘束力ある価格協定が締結さ
れる必要があるのであつて、右拘束力を事実上不要であるかのごとき説示をした原
判決は、法令の解釈を誤り、憲法三一条、三九条に違反する、というのである。
 所論は、違憲をいう点を含め、実質は独禁法三条、二条六項の解釈を争う単なる
法令違反の主張にすぎず、適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、原判決の認定したところによれば、
被告人らは、それぞれその所属する被告会社の業務に関し、その内容の実施に向け
て努力する意思をもち、かつ、他の被告会社もこれに従うものと考えて、石油製品
価格を各社いつせいに一定の幅で引き上げる旨の協定を締結したというのであり、
右事実認定はさきに説示した意味において当審としても是認しうるところ、かかる
協定を締結したときは、各被告会社の事業活動がこれにより事実上相互に拘束され
る結果となることは明らかであるから、右協定は、独禁法二条六項にいう「相互に
その事業活動を拘束し」の要件を充足し同項及び同法三条所定の「不当な取引制限」
行為にあたると解すべきであり、その実効性を担保するための制裁等の定めがなか
つたことなど所論指摘の事情は、右結論を左右するものではない。したがつて、こ
れと同旨の原判断は、正当である。
 第六 同第一一点について
 所論は、独禁法二条六項にいう「公共の利益に反して」とは、同法の定める趣旨・
目的を超えた「生産者・消費者の双方を含めた国民経済全般の利益に反した場合」
をいうと解すべきであるから、これと異なる見解に依拠した原判決は、法令の解釈
を誤つたものである、というのである。
 所論は、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、独禁法の立法の趣旨・目的及びその
改正の経過などに照らすと、同法二条六項にいう「公共の利益に反して」とは、原
則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが、
現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であつても、右法益と当該行為によ
つて守られる利益とを比較衡量して、一般消費者の利益を確保するとともに、国民
経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的(同法一条参照)
に実質的に反しないと認められる例外的な場合を右規定にいう「不当な取引制限」
行為から除外する趣旨と解すべきであり、これと同旨の原判断は、正当として是認
することができる。
 第七 同第一二点について
 所論は、原判決は「公共の利益に反して」という構成要件に該当するか否かの判
断の前提となる事実の認定を誤つたものである、というのである。
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 また、記録を調べても、原判決に、所論のような事実誤認があるとは認められな
い。
 第八 同第一三点について
 所論は、事業者たる法人の従業者によつて事実上独禁法違反の行為が行われた場
合には、右法人はもとより自然人たる従業者についても、これを処罰すべき罰則が
同法上存在しないから、被告人らを同法違反の罪に問擬した原判決は、法令の解釈
適用を誤り、憲法三一条、三九条に違反する、というのである。
 所論は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であつて、適法な上
告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、本件におけるように、事業者たる法
人の従業者である自然人が、その所属する法人の業務に関して、独禁法八九条一項
一号に違反する行為をした場合には、行為者たる自然人及びその所属する法人は、
いずれも、同法九五条一項及び同法八九条一項一号により処罰されると解すべきで
ある(最高裁昭和五四年(あ)第一四五一号同五五年一〇月三一日第一小法廷決定・
刑集三四巻五号三六七頁、同三三年(あ)第一五一二号同三四年六月四日第一小法
廷決定・刑集一三巻六号八五一頁各参照)。この点に関する原判決の説示中には、
措辞やや適切を欠く点もあるが、被告人らが独禁法八九条一項所定の刑罰(但し、
法人については罰金刑のみ)に処せられるべきであるとしたその結論は、正当であ
る。第九 同第一四点について
 所論は、独禁法八九条一項一号の罪の既遂時期は、共同行為によつて合意された
内容が現実に実施に移されたときと解すべきであるから、合意の時点又はその実施
時期の到来した時点において右罪が既遂に達するとした原判決は、判例(東京高等
裁判所昭和三一年一一月九日判決・行政事件裁判例集七巻一一号二八四九頁)に違
反し、同法の解釈を誤つたものである、というのである。
 所論のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は、共同行為が行われても合
意の内容が実施に移されない限り独禁法八九条一項一号の罪は成立しないという趣
旨まで判示したものとは認められないから、前提を欠き、その余は単なる法令違反
の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、事業者が他の事業者と共同して対価
を協議・決定する等相互にその事業活動を拘束すべき合意をした場合において、右
合意により、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争が実質的に制限さ
れたものと認められるときは、独禁法八九条一項一号の罪は直ちに既遂に達し、右
決定された内容が各事業者によつて実施に移されることや決定された実施時期が現
実に到来することなどは、同罪の成立に必要でないと解すべきである。原判決の記
載も、これを全体としてみれば、結局右に説示したところと同趣旨に帰着すると認
められるので、原判決に所論のような法令解釈の誤りがあるとは認められない。
 第一〇 同第一五点、第一七点について
 所論は、被告人らは、通産省による適法な行政指導に従つて行動していたのであ
るから、その行為は、全体としての法秩序に反せざるものとして違法性が阻却され
るというべきであつて、右違法性の阻却を認めなかつた原判決は、事実を誤認し、
法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。
 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらな
い。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、物の価格が市場における自由な競争
によつて決定されるべきことは、独禁法の最大の眼目とするところであつて、価格
形成に行政がみだりに介入すべきでないことは、同法の趣旨・目的に照らして明ら
かなところである。しかし、通産省設置法三条二号は、鉱産物及び工業品の生産、
流通及び消費の増進、改善及び調整等に関する国の行政事務を一体的に遂行するこ
とを通産省の任務としており、これを受けて石油業法は、石油製品の第一次エネル
ギーとしての重要性等にかんがみ、「石油の安定的かつ低廉な供給を図り、もつて
国民経済の発展と国民生活の向上に資する」という目的(同法一条)のもとに、標
準価格制度(同法一五条)という直接的な方法のほか、石油精製業及び設備の新設
等に関する許可制(同法四条、七条)さらには通産大臣をして石油供給計画を定め
させること(同法三条)などの間接的な方法によつて、行政が石油製品価格の形成
に介入することを認めている。そして、流動する事態に対する円滑・柔軟な行政の
対応の必要性にかんがみると、石油業法に直接の根拠を持たない価格に関する行政
指導であつても、これを必要とする事情がある場合に、これに対処するため社会通
念上相当と認められる方法によつて行われ、「一般消費者の利益を確保するととも
に、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という独禁法の究極の目的に実質
的に抵触しないものである限り、これを違法とすべき理由はない。そして、価格に
関する事業者間の合意が形式的に独禁法に違反するようにみえる場合であつても、
それが適法な行政指導に従い、これに協力して行われたものであるときは、その違
法性が阻却されると解するのが相当である。
 そこで、本件についてこれをみると、原判決の認定したところによれば、本件に
おける通産省の石油製品価格に関する行政指導は、昭和四五年秋に始まるオペツク
及びオアペツク等のあい次ぐ大幅な原油値上げによる原油価格の異常な高騰という
緊急事態に対処するため、価格の抑制と民生の安定を目的として行われたものであ
るところ、かかる状況下においては、標準価格制度等石油業法上正式に認知された
行政指導によつては、同法の所期する行政目的を達成することが困難であつたとい
うべきである。また、本件において通産省が行つた行政指導の方法は、前認定のと
おり、昭和四六年の値上げの際に設定された油種別価格の上限を前提として、値上
げを業界のみの判断に委ねることなく事前に相談に来させてその了承を得させたり、
基本方針を示してこれを値上げ案に反映させたりすることにより価格の抑制と民生
の安定を保とうとしたものであつて、それが決して弱いものであつたとはいえない
にしても、基本的には、価格に関する積極的・直接的な介入をできる限り回避しよ
うとする態度が窺われ、これが前記のような異常事態に対処するため社会通念上相
当とされる限度を逸脱し独禁法の究極の目的に実質的に抵触するものであつたとは
認められない。したがつて、本件当時における通産省の行政指導が違法なものであ
つたということはできない。
 しかしながら、すでに詳細に認定・説示したところから明らかなとおり、本件に
おいて、被告人らは、石油製品の油種別値上げ幅の上限に関する業界の希望案につ
いて合意するに止まらず、右希望案に対する通産省の了承の得られることを前提と
して、一定の期日から、右了承の限度一杯まで各社いつせいに価格を引き上げる旨
の合意をしたものであつて、これが、行政指導に従いこれに協力して行われたもの
と評価することのできないことは明らかである。したがつて、本件における被告人
らの行為は、行政指導の存在の故にその違法性を阻却されるものではないというべ
きであり、これと同旨に帰着する原判断は、正当である。
 第一一同第一八点について
 所論は、被告人らは、通産省担当官の行政指導に従つて行動していたのであつて、
違法性の意識を欠き、かつそのことに無理からぬ事情があつたのであるから、被告
人らには独禁法違反の犯意がないというべきであり、したがつて、被告人らの犯意
の阻却を認めなかつた原判決は、事実を誤認したものである、というのである。
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、被告人らの本件各行為が通産省担当
官の行政指導に従つて行われたと認められないことは前説示のとおりであり、また、
記録によれば、被告人らに違法性の意識があつたことはこれを否定し難いのであつ
て、これと同旨の原判断は、正当である。なお、所論は、原審において無罪の確定
している石油連盟ほか二名に対する独禁法違反被告事件の判決(東京高等裁判所昭
和四九年(の)第一号同五五年二月二八日判決、いわゆる生産調整事件判決)の判
示を援用して、本件についても右事件におけると同様犯意の阻却を認めるべきであ
ると主張するが、右事件と事案を異にする本件において被告人らの犯意の阻却を認
めないことは、なんら右判決の判示と矛盾・抵触するものではない。
 第一二同第一六点について
 所論は、本件において公取委から検事総長に提出された告発状には、独禁法三三
条一項、刑訴規則五八条一項に違反する方式上の瑕疵があり、右告発はその効力を
有しないというべきであるから、これを有効と認めた原判決には、法令の解釈を誤
つた違法がある、というのである。
 所論は、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、独禁法九六条は、同法八九条から九
一条までの罪につき、公取委の文書による告発を訴訟条件としているほか、告発の
方式につきなんら定めるところがないが、公取委が合議体の行政官庁であつて、委
員長がこれを代表するとされていること(同法三三条一項)、及び右告発状が起訴
後は当然に裁判所への提出を予定されたものであることなどに照らすと、右告発状
の方式には、刑訴規則五八条の適用ないし準用があり、委員長の署名押印が必要で
あると解すべきである。ところで、本件において検察官が訴訟条件の立証のため提
出した告発状等の書面には、公取委の記名と庁印の押捺はあるが、委員長の署名押
印がないのであるから、右告発状等には、刑訴規則五八条に違反する方式上の瑕疵
があるといわなければならない。
 しかしながら、告発状に刑訴規則五八条違反の方式上の瑕疵がある場合でも、そ
の体裁・形式・記載内容などから、これが告発人の真意に基づいて作成されたもの
であることが容易に推認されうるときは、右告発状の訴訟法上の効力は否定されな
いと解すべきである。右の観点から本件告発状等をみると、昭和四九年二月一五日
付の検事総長あて告発状の一枚目には、作成名義人として「公正取引委員会」の記
名と庁印の押捺があるほか、右告発状の二枚目以下に添付・契印されてその内容を
なすと認められる同日付の告発状と題する書面には、告発人として「公正取引委員
会、右代表者委員長An、右指定代理人Ao」、被告発人としてAh株式会社ほか
二四名の各表示及び本件一連の告発事実の各記載があり、また、やはり同日付の告
発代理人指定書と題する「公正取引委員会委員長An」の記名押印ある文書には、
告発人公取委が被告発人Ah株式会社ほか二四名に対する告発事件につき復代理人
選任以外の一切の告発に関する権限を公取委事務局勤務の検事兼総理府事務官Ao
に委任する旨の記載があるのであつて、これらの書面を全体として観察すれば、本
件告発状が公取委の真意に基づき作成されたものであることを容易に推認すること
ができるから、右告発状に関する前記のような方式上の瑕疵は、その訴訟法上の効
力に影響を及ぼすものではないと解すべきである。したがつて、この点に関する原
判断は、正当である。
 第一三 同第一九点について
 所論は、被告会社Apの営業担当役員であつた被告人Aq及び同Arは、本件各
価格協定に参加した事実がないのであるから、右被告人両名及び被告会社Apを有
罪と認めた原判決は、事実を誤認したものである、というのである。
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて記録を調査すると、右被告人両名が被告会社Ap
の業務に関し、本件各価格協定の行われた会合に加わり(被告人Aqは第一回ない
し第三回、同Arは第四回、第五回。但し、第五回は電話連絡による。)、その余
の被告人らと共同して石油製品価格の値上げに関する合意をしたと認めた原判決に、
所論の事実誤認があるとは認められない。
 第一四 同第二〇点について
 所論は、被告会社Asの営業担当役員であつた被告人Atは、本件各価格協定に
加わつておらず、少なくとも、違法性の意識がなかつたのであるから、右被告人両
名を有罪と認めた原判決は、事実を誤認したものである、というのである。
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 また、所論にかんがみ、職権をもつて記録を調査しても、被告人Atの行動等に
関する原判決の認定に、所論の事実誤認があるとは認められない。
 第一五 上告趣意(二)、(三)について
 所論は、被告人Acは、被告会社Aaの業務に関し、その余の被告人らと共同し
て石油製品価格のいつせい引上げを行う旨の合意に加わつていないから、右合意へ
の参加を肯定した原判決は事実を誤認したものであり、また、原判決が、被告会社
Aaの元売りしていないガソリン及びジエツト燃料油の両油種の価格協定について
まで被告人Acの共謀による加担を肯定した点は、判例(最高裁昭和二九年(あ)
第一〇五六号同三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一七一八頁)に違反
し、法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、原判決中被告人Ac及び被告会社A
aに関する部分は、次の理由により、破棄を免れない。
 一 原判決は、被告会社Aaの営業担当役員である被告人Acが、本件五回の価
格協定の行われた会合に終始加わつていたこと(但し、第五回については、電話連
絡による。)、同被告会社においては、右各協定ののち、合意された値上げの実施
時期にほぼ見合う時期に、ガソリン及びジエツト燃料油を除くその余の油種につい
て、支店等に対し値上げの指示を行つていることなどの事実を認定して、右両油種
以外の油種につき被告人Acが同被告会社の業務に関し独禁法三条、二条六項所定
の不当な取引制限行為にあたる価格協定に加わつたと認めたほか、本件においては、
全油種平均値上げ幅を計算したうえ、これを各油種に展開して各油種の値上げ幅が
決定されたものであつて、右両油種の各値上げ幅が同被告会社の取り扱うその余の
油種の値上げ幅に影響することを重視して、同被告人が同被告会社の業務に関し、
右両油種に関しても、他の被告人らと共謀して、同被告会社を除くその余の被告会
社らによる本件価格協定に加わつたものと認定した。
 二 しかしながら、原判決の認定した事実及び記録上明らかな事実を併せると、
被告会社Aaに関しては、その取り扱う油糧及び現実の値上げ指示の状況等に関し、
他社と異なる次のような事情の存したことを指摘することができる。
 1 被告会社Aaは、ジエツト燃料油を取り扱つておらず、また、ガソリンはそ
の全量を被告会社Asに、日銀の卸売物価指数にリンクした価格で売り渡すことを
契約上義務付けられているため、右両油種については他社と足並みを揃えて値上げ
することが客観的に不可能であり、現に、本件当時被告会社Aaにおいて、右両油
種に関する値上げの指示がなされたことは一度もないこと
 2 その余の油種については、同被告会社においてもある程度の値上げの指示が
なされているが、その状況は、合意された内容と金額及び実施時期の点で、かなり
のくいちがいがあること(例えば、原判決が第一回値上げに照応するものとして認
定した同被告会社の値上げ指示の内容は、その実施時期が合意されたそれより一月
遅れであつて、ナフサ、C重油についての指示を欠くほか、軽油、A重油、B重油
の値上げ幅も合意と相当大幅に異なるものであり、第二回値上げに照応するものと
して原判決が認定したところも、実施時期が二月遅れであつて、C重油についての
指示を欠き、その余の油種の値上げ幅も合意と大幅に異なるものである。原判決の
認定にかかる第三回値上げに照応する同被告会社の値上げの指示は、昭和四八年六
月、七月、八月の三回に分けて小きざみになされていて、他社が値上げを見送つた
七月にも一部値上げが断行されているほか、三回分の値上げ指示額の合計は、いず
れも合意された価格とかなりの相違を来たしている。第四回、第五回値上げについ
ても、多かれ少なかれ、同様の事情を指摘することができる。)
 三 また、右二に指摘した被告会社Aaの特異な行動と関連する事実として、証
拠上明白な次の諸点を指摘することができる。
 1 同被告会社は、業界におけるシエアがわずかに一・三ないし一・五パーセン
トの後発の元売り会社であり(業界最下位の第一四位)、ガソリン及びジエツト燃
料油に関し前記二1のような特殊な事情があるほか、その余の油種についても、そ
の約三分の二をAu商事(株)、Av商事(株)、Aw商事(株)及びAx(株)
の四商社に売り渡しており、支店等において同被告会社が独自に販売しているのは、
残り約三分の一にすぎず、右支店等における一般売りの販売価格も、基本的には右
四商社と取り決めた価格によつていること
 2 したがつて、同被告会社における石油製品価格は、同社において一方的に決
定することができず、四商社との協議に委ねられていること
 3 同被告会社と四商社との値上げ交渉は、原価主義に基づき、年間一〇億円の
利益を同被告会社に留保するという商社側との了解のもとに行われるのであり、現
に本件においてもそのような交渉による商社側との合意に基づき値上げが実行され
たのであるが、同被告会社が原油の相当量を右商社から購入している関係上、商社
側は原油値上りの状況を知悉しているため、商社への売渡し価格に関する交渉の余
地は、大きくないこと
 4 同被告会社は、現に合意の内容と大幅に異なる値上げ指示をしているにもか
かわらず、他社から協定違反の抗議を受けたことは一度もなく、また、通産省にお
いても、第三回値上げに際して行つた一か月延期の行政指導に従わない同被告会社
の行動を黙認していること
 四 以上の二及び三各指摘の事実関係に照らして被告人Acの行動をみると、同
被告人は、営業委員会における合意の内容に従い他社と足並みを揃えて石油製品価
格の引上げを行うことが被告会社Aaにとつて事実上不可能であるだけでなくそれ
ほど必要性の強いことでもなかつたところから、合意の内容の実施に向けて努力す
る意思を有しておらず、また、他社においても、同被告会社のかかる特殊性にかん
がみ、そのことを暗黙のうちに了解していたのではないかという合理的な疑いがい
まだ払拭されないというべきである。もつとも、原判決の認定するとおり、被告人
Acは、本件一連の価格協定の行われた会合に出席しているのであり、少なくとも
これに反対する意見を述べた形跡は証拠上見当らないのであるが、右協定の行われ
た会合がやや変則的な構成ながら石連の営業委員会であつて、右会合における被告
人らの行為の中に、石油製品価格引上げの上限に関する通産省の了承を得るための
業界の希望案の作成という性格のものがあつたと考えられることは、前説示のとお
りであり、右希望案の作成については同被告会社といえども利害関係を有していた
ものと認められ、被告人Acが右希望案の作成のみに関与する趣旨で会合に出席し
たということも考えられるのであるから、被告人Acが右一連の会合に出席してい
たということから、直ちに、同被告人が同被告会社の業務に関して、本件各価格協
定に参加したと認めることはできない。したがつて、右被告人両名に対する本件各
公訴事実については、犯罪の証明がないと認めるほかはない。
 五 そうすると、これと異なり、被告人Ac及び被告会社Aaを、本件各公訴事
実につき有罪と認めた原判決には、重大な事実誤認の違法があり、右違法は判決に
影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 第一六上告趣意(四)について
 所論は、本件起訴状によつて起訴された被告会社Abは、被告人Ayがその業務
に関して本件各価格協定に参加したAb(株)とは法人格を異にする別個の会社で
あり、被告会社Abは右犯行とは無関係なのであるから、これを有罪と認めた原判
決は、事実を誤認し、法令に違反し、かつ判例(最高裁昭和三八年(あ)第一九八
号同四〇年五月二五日第三小法廷決定・刑集一九巻四号三五三頁)にも違反する、
というのである。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、原判決中被告会社Abに関する部分
は、次の理由により、破棄を免れない。
 一 原判決は、被告会社Abの刑責の有無を判断するにあたり、おおむね次のよ
うな事実を認定している。
 1 商号をAb(株)とし、本店を東京都千代田区a町b丁目c番地に置き、資
本金を三〇億円とする株式会社が、昭和三五年一二月二〇日に設立され(以下、右
会社を「千代田区のAb」という。)、被告人Ayは、同会社の業務に関し、本件
各価格協定に参加したものである。
 2 右「千代田区のAb」は、その発行する額面株式一株の金額を五〇〇円から
五〇円に変更してこれに市場流通性を持たせる目的で、登記簿上のみ存在し実体を
欠くいわゆる休眠会社に吸収合併されることを企図し、Azを介して、休眠会社の
売買を行つていたBaにそのあつせんを依頼した。
 3 右Baは、昭和三七年ころ、清算人であるBbから買い取つてあつた休眠会
社Bc(株)(昭和一六年六月に設立され、同一九年七月に解散の決議をし、同年
一〇月その登記をする一方、残余財産の分配を終えて清算事務を終了したが、商法
四二七条一項所定の決算報告書の作成・承認及び清算結了の登記は未了のまま放置
されていたもの)につき、昭和四六年一月二六日、会社継続を内容とする株式会社
継続登記、商号 本店等の変更登記(変更後の商号はBd商事(株)、同本店は東
京都江東区d町e丁目f番f号)手続を経たうえ、吸収合併の準備として、同年六
月三〇日、Bd商事(株)の商号をAb(株)に、その目的を石油精製及び石油製
品の販売等にそれぞれ変更し(以下、同社を「江東区のAb」という。)、Bd商
事(株)の全取締役及び監査役が辞任し、代わつて「千代田区のAb」の社員がこ
れに就任したことを内容とする株式会社変更登記手続を行つた。
 4 「千代田区のAb」は、その後、株式上場の準備を進め、昭和四八年五月一
〇日、株式の額面金額の変更のみを目的として、「江東区のAb」との間で、後者
が前者を合併することを内容とする合併契約書を作成したうえ、所要の手続を経て、
同年一二月一日株式会社合併登記手続を完了し、同年一二月一七日には、「千代田
区のAb」の解散登記及び「江東区のAb」の本店を「千代田区のAb」の本店所
在地に移転する旨の変更登記手続をそれぞれ行つた。
 二 右の事実関係を前提とし、原判決は、「江東区のAb」は、その前身である
Bc(株)が清算事務の終了により消滅して以来登記簿上のみ存在する不存在の会
社であつたというべきであるから、これと「千代田区のAb」との合併は成立せず、
「千代田区のAb」は合併及びこれに基づく解散の登記にもかかわらず、引き続き
存在する(すなわち、被告会社Abがそれである)と解して、被告会社Abの刑責
を肯定したのである。
 三 しかしながら、清算の結了により株式会社の法人格が消滅したといえるため
には、商法四三〇条一項、一二四条所定の清算事務が終了したというだけでは足り
ず、清算人が決算報告書を作成してこれを株主総会に提出しその承認を得ることを
要し(同法四二七条一項)、右手続が完了しない限り、清算の結了によつて株式会
社の法人格が消滅したということはできない。本件についてこれをみると、原判決
は、「江東区のAb」の前身たるBc(株)が解散して清算事務を終了したとの事
案を認定するが、他方において、同会社につき、同法四二七条一項所定の手続が終
了していなかつたと認めているのであるから、右の事実関係のもとにおいては、同
会社はいまだ清算の結了によつて消滅したとはいえない。したがつて、同会社に対
する会社の継続及び「千代田区のAb」との間の合併契約等所定の手続を履践して
行われた本件吸収合併は、これを不成立ないし不存在と観念することは許されない
のであつて、合併無効の訴えによりその効力を否定されない限り、商法上有効であ
るといわざるをえない。右のとおりであるとすると、被告人Ayがその業務に関し
て本件価格協定に加わつた「千代田区のAb」は、その後「江東区のAb」に吸収
合併されてその法人格を喪失したものというべきであり、したがつて、右合併後現
に存在するAb(株)は「江東区のAb」であつて「千代田区のAb」とは別個の
法人であるといわざるをえない。
 四 ところで、本件起訴状にいう被告会社Abが現に存在するAb(株)を意味
すると解すべきことは、原審における検察官の主張及び記録上明らかな本件訴訟の
経過等に照らして明らかであるところ、右Ab(株)は、被告人Ayがその業務に
関して本件価格協定に参加した「千代田区のAb」とは前記のとおり法人格を異に
する会社であるといわざるをえないうえ、刑事責任については民事責任とは異なり
合併による承継を理論上肯定し難いのであるから、合併後現に存在するAb(株)
に対し、吸収合併により消滅した「千代田区のAb」の刑責を追及することは許さ
れず、結局、他に特段の事情の認められない本件においては、被告会社Abについ
ては、その犯罪の証明がないことに帰着する。(なお、本件起訴状の公訴事実中に
は、被告人Ayが被告会社Abの常務取締役として、その業務に関し本件各価格協
定に参加した旨の記載がある。しかし、原審第一回公判期日における検察官の意見
などによれば、検察官は、被告人Ayが、本件当時石油製品元売りの営業活動をし
ていたAb(株)すなわち「千代田区のAb」の業務に関し本件各価格協定に参加
したものとしてその刑責を追及していると認められるのであり、同被告人が右検察
官主張の立場において本件各価格協定に参加したこと自体は証拠上明らかなところ
であるから、被告会社Abに対する場合とは異なり、被告人Ayに対する本件各公
訴事実は、その証明が十分であるといわなければならない。)
 五 そうすると、これと異なり、「千代田区のAb」と「江東区のAb」との合
併が成立しないとして、被告会社Abを本件各公訴事実につき有罪と認めた原判決
には、清算結了による株式会社の法人格の消滅等に関する商法の規定の解釈を誤り、
ひいて刑罰法規の適用を誤つた違法があるというべきであり、右違法は判決に影響
を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 第一七 結   論
 以上のとおりであつて、原判決のうち、被告会社Aa及び被告人Acに関する部
分を刑訴法四一一条三号により、被告会社Abに関する部分を同条一号により、そ
れぞれ破棄したうえ、犯罪の証明がないものと認めて、同法四一三条但書、四一四
条、四〇四条、三三六条により、右被告人三名に対しいずれも無罪の言渡しをする
こととするが、その余の被告人らの本件各上告はその理由がないので、同法四一四
条、三九六条により、いずれもこれを棄却することとする。
 この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官川島興 公判出席
  昭和五九年二月二四日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次

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