弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人小笠原稔の上告理由について
 所論は、要するに、亡D(本件事故当時満一四歳の女子で中学二年生。以下「D」
という。)の将来の得べかりし利益の算定に当たつては、女子労働者の平均賃金と
男子労働者の平均賃金との間には著しい格差があるので、これを是正するため、女
子労働者の平均賃金を基準として算定された収入額に家事労働分を加算すべきであ
るというものである。
 Dのような死亡時に現実収入のない就労前の年少女子の場合には、当該女子の将
来の就労の時期、内容、程度及び結婚後の職業継続の有無等将来につき不確定な要
因が多いのであるが、原審が、Dの将来の得べかりし利益の喪失による損害賠償額
を算定するに当たり、賃金センサス昭和五六年第一巻第一表中の女子労働者、旧中・
新高卒、企業規模計(パートタイム労働者を除いたもの)の表による平均給与額を
基準として収入額を算定したことは、交通事故により死亡した女子の将来の得べか
りし利益の算定として不合理なものとはいえず(最高裁昭和五四年(オ)第二一四
号同年六月二六日第三小法廷判決・裁判集民事一二七号一二九頁、同昭和五六年(
オ)第四九八号同年一〇月八日第一小法廷判決・裁判集民事一三四号三九頁参照)、
Dが専業として職業に就いて受けるべき給与額を基準として将来の得べかりし利益
を算定するときには、Dが将来労働によつて取得しうる利益は右の算定によつて評
価し尽くされることになると解するのが相当であり、したがつて、これに家事労働
分を加算することは、将来労働によつて取得しうる利益を二重に評価計算すること
に帰するから相当ではない。そして、賃金センサスに示されている男女間の平均賃
金の格差は現実の労働市場における実態を反映していると解されるところ、女子の
将来の得べかりし利益を算定するに当たつて、予測困難な右格差の解消ないし縮少
という事態が確実に生じるものとして現時点において損害賠償額に反映させ、これ
を不法行為者に負担させることは、損害賠償額の算定方法として必ずしも合理的な
ものであるとはいえない。したがつて、Dの得べかりし利益を算定するにつき、D
の受けるべき給与額に更に家事労働分を加算すべきではないとした原審の認定判断
は、正当として是認することができる。
 また、所論は、原審のした慰藉料額の算定をも非難するが、原審の適法に確定し
た事実関係のもとにおいて原審の算定した慰藉料の額が不当なものであるというこ
とはできない。原判決に所論の違法はなく、右の判断は所論引用の判例に抵触する
ものでもない。論旨は、違憲の主張を含め、独自の見解に基づいて、原判決の損害
賠償額算定の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一
            裁判官    林       藤 之 輔

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