弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人長谷川毅の上告理由について。
 滞納処分は、元来、滞納税金の徴収のため、その滞納者の所有財産を対象として
執行されるべきものであるから、その対象とされた財産が滞納者以外の者の所有に
属するときは、その滞納処分は、もとより違法といわなければならない。しかし、
滞納者の所有財産に対する滞納処分が、その滞納者の滞納税金のみならず、誤つて
他の者の滞納税金をも徴収するために行なわれたような場合においては、その処分
の瑕疵は、他の滞納者の滞納税金に対するものとしてなされた部分についてのみ存
するものと解すべく、直ちにその滞納処分全体を違法ならしめるものではない。も
つとも、他の者の滞納税金を除外して、本人の滞納税金の徴収のみを目的とした場
合に、右滞納処分の対象とされた滞納者の所有財産の価額が滞納者の滞納税金額に
比して著しく過大となり、滞納処分がその必要の程度を超えた違法なものと認めら
れるような場合を生ずることも考えられないではないが、そのような事情の存しな
いかぎり、滞納者は、自己の滞納税金につき、その所有財産に対してなされた滞納
処分を適法なものとして受忍せざるをえない。
 本件についてみるに、被上告人が上告人の所有宅地に対してした公売処分は、上
告人の滞納市税一三五、九八〇円のほか、上告人の妻であつた訴外Dの滞納市税一
五二、五五二円の徴収を目的としてなされたものというのである。右訴外人の滞納
税金の徴収を目的とするかぎりにおいては、右公売処分が違法であることは明らか
であるが、他面、そのために上告人の滞納税金の徴収を目的とした右公売処分まで
が当然に違法となるものでないことは前叙のとおりである。そして、右公売の対象
となつた上告人の所有宅地は、公売当時、その借地権付の価額は、概ね八二〇、〇
〇〇円程度といわれるが、昭和三〇年四月頃の当初の公売では、見積価格は五三三、
〇〇〇円とされて入札者がなく、その後見積価格は一割ぐらいずつ低減され、漸く
第五回公売に至つて三〇六、〇〇〇円で落札されたのであつて、それが一般市価に
比し低額であつたとしても、右公売の経緯に照らせば、はなはだしく低廉とは認め
がたいこと原判決引用の第一審判決の判示のとおりであり、また、これを前記上告
人の滞納税金額に対比して著しく徴収金額を超過した違法な公売処分ともいいがた
い。
 してみると、上告人の滞納税金の徴収を目的とした右公売処分にはこれを取り消
しまたは無効とすべき理由はなく、これを前記訴外人の滞納税金に対するものとし
てしたことの瑕疵をとらえて取り消しまたは無効としても、それにより上告人の受
け得べき利益は、右訴外人の滞納税金に充当された公売代金額の還付を受けること
にすぎない。しかも、原判示によれば、被上告人は、すでに右訴外人の滞納税金に
対するものとしてした公売処分の非を認めて、これに対する公売代金の充当を訂正
し、右金額を上告人に還付(供託)した事実を認めることができる。されば、その
ような取消または無効確認の余地もないものとして、上告人の請求をすべて排斥し
た原判決は相当であつて、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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