弁護士法人ITJ法律事務所

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平成15年2月24日判決言渡 
平成11年(ワ)第2915号損害賠償請求事件
          判              決
          主              文
1 被告は,原告に対し,金10万円及びこれに対する平成12年1月14日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを15分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の
負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
         事  実  及  び  理  由
第1 請求
被告は,原告に対し,金300万円及びこれに対する平成12年1月14
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,詐欺等の被疑事実で逮捕・勾留され,取調べを受けていた原告
が,取調べにあたった千葉県警察の警察官であるA,B及びCから暴行・脅
迫を受けたとして,国家賠償法1条1項に基づき,精神的苦痛に対する慰謝
料を請求した事案である。
1 争いのない事実等(争いのない事実以外の事実は,甲4,17によってこ
れらを認める。)
(1)原告は,平成8年6月28日,「Dと共謀の上,千葉県松戸市内のE証
券株式会社松戸支店(以下「E証券松戸支店」という。)において,F名
義の中期国債ファンド等をFになりすまして解約し,解約金2000万円
余りを交付させた」という詐欺,有印私文書偽造,同行使の被疑事実によ
り,千葉県警察によって逮捕された。
(2)原告は,同年7月1日,千葉県警察松戸警察署に勾留された。
(3)上記逮捕・勾留の期間に,原告は,千葉県警察の警察官であるA及びB
から取調べを受けた。
(4)原告は,同年7月19日,詐欺罪で起訴され,同事件は,千葉地方裁判
所刑事第1部に係属した。
(5)原告は,同年9月3日,Fに対する殺人の容疑で再逮捕され,千葉県警
察の警察官であるC,A及びBから取調べを受けた。
(6)原告は,同月24日,殺人罪で,平成9年4月16日,犯人隠避教唆罪
で,それぞれ起訴された(以下原告に対する各被告事件を「本件刑事事
件」という。)。
(7)原告は,平成11年7月1日,被告に対し,損害賠償の履行を催告し
た。
2 争点
 原告は,取調べ中に,捜査官らから,暴行及び脅迫を受けたか。
3 争点に対する当事者の主張
(原告)
(1)アA及びBは,原告に対して,取調べ中に共謀して,以下の暴行・脅迫
を行った。
 (ア)平成8年6月28日ころ,原告が調書への署名を拒否したところ,
Aは,「いい加減にしろ。お前の田舎に刑事を走らせてやる。お前の
親や兄弟が田舎に住めないようにしてやる。」と大声で怒鳴り,机を
壊れんばかりに手でたたき,原告をにらみつけて,脅迫した。
   (イ)同月29日ころ,Bは,調書の用紙を広辞苑の厚さほどに束ねたも
ので原告の頭を約10分間たたき続ける暴行を加えた。また,同日こ
ろ,原告が署名を拒否していたところ,Aは,「お前の兄弟で,こっ
ちに来ているのはいないか。捜査員を神奈川や埼玉のあんちゃんやね
えちゃんの所に行かせて聞き込みするぞ。」と言って,脅迫した。
   (ウ)同年7月3日ころ,原告が供述調書の署名を拒否すると,Aは,
「お前がどうしても署名しないのなら,母親をここに呼んで取調べす
るしかないんだぞ。」と脅迫した。
   (エ)同月4日ころ,原告が黙秘すると言ったところ,Aは,「ふざける
な。お前みたいにほかのことで捕まっているやつには黙秘権とか供述
拒否権とかはないんだ。」と大声で怒鳴り,机を壊れんばかりにたた
いて,原告をにらみつけて脅迫した。この際,Bは,「調子にのって
んじゃねえぞ」と怒鳴りながら,調書の束で原告の頭を執拗に何度も
たたく暴行を加えた。さらに,Bは,「いい加減にしろ。Dが嘘をつ
くはずはないんだ」と叫んで,右手拳で原告の顔面左頬を殴打した。
また,原告が調書の修正を求めたところ,Bは,「俺にもう1回調書
をかけというのか。」と言って,調書で原告の頭を何度もたたく暴行
を加え,さらにAは,「今,刑事が20人で待機しているんだ。いつ
でもお前の田舎に全員で行って,近所や親戚に聞き込みできるんだ。
お前の田舎をめちゃめちゃにするぞ。10時まで待ってやる。それま
でに署名しろ。」と言って,脅迫した。
   (オ)同月6日ころ,Bは,怒鳴りながら,原告の頭を調書でたたき続け
る暴行を加え,Aは,「今から刑事を宮城までやって甥っ子や姪っ子
の学校や仕事先まで行かせるぞ。田舎が大事なら早く署名した方がい
いぞ。」と言って,脅迫した。
   (カ)同月8日ころ,Aは,「母親が心配じゃないのか。検事からは母親
を呼んで会わせろと指示が来ているんだ。早く認めた方がいいぞ。」
と言って,脅迫し,Bは,「何とか言えよ。」と叫んで,原告が座っ
ているパイプ椅子を蹴飛ばす暴行を加えた。
      さらに,Aは,「田舎がどうなってもいいのか。」と繰り返して,
脅迫し,原告が黙秘していると,Bは,「何とか言えよ。」と大声で
怒鳴り,Bは,「喋ってしまえよ。」と言いながら,右手拳で原告の
顔面左頬をゆっくりと殴る暴行を加えた。
   (キ)同月9日ころ,原告は,Bに殴られることを恐れ,Bの些細な動き
にも反応してしまう状態であったところ,Bは,「何をそんなにビク
ついているんだ。」「喋ってしまえよ。」と言い,原告の横に立っ
て,原告の背中を激しくたたき続ける暴行を加え,Aは,原告の向か
いに座って「喋ってしまえよ。」と言って,原告をにらんで脅迫し
た。
 (ク)同月22日ころ,AとBは,松戸警察署の取調室において,殺人被
疑事件の被害者の写真を原告の胸ポケットに入れさせて,「まっすぐ
姿勢を伸ばしてこれから一言もしゃべるな。」と言い,原告に長時間
にわたり同じ姿勢をとらせ,脅迫した。
 イ Cは,原告に対して,取調べ中に以下の脅迫を行った。
 (ア)同月20日ころ,Cは,「おまえを死刑にしてやる。おまえは,裁
判で死刑になるか,自分で首をくくって死ぬか,おれたちの言うとお
りにして少しでもまけてもらって15年刑務所に行ってくるか,その
3つのうち1つしか選べる道がないんだ。」と言い,さらに,「おま
え縄がなえるか。毛布の端をほどいて作るんだ。留置所だと難しい
が,拘置所は見回りが少ないから簡単に首が吊れるぞ。どっちみち死
ぬんだから水杯をしてやる。」と言って,原告を脅迫した。
 (イ)また,同日ころ,Cは,「お前の母親は,自分の子どもが警察に捕
まっていることがわかったら,家にいづらいだろう。たぶん,首を吊
るんじゃないか。母親にここまで来てもらって,お前の姿を見せた
ら,おそらく家に戻れないだろうな。生きていられないだろうな。」
等と言って,脅迫した。
(2)原告は,暴行・脅迫について,本件暴行・脅迫後の比較的短期間内に原
告が書きとめたものを基礎として,被取調状況報告書(甲2),報告書
(甲3)等具体的で,詳細な記録を作成し,原告本人尋問においてもこれ
らに沿ってその内容や状況を供述しているところ,その供述する暴行・脅
迫の内容,状況は,体験した者のみが説明しうる迫真的内容であり,合理
性を有するものである。
(3)ア本件の被疑事件は,被害額約2099万円の詐欺及び殺人であった。
捜査機関は,被害金員が原告名義の口座を経由して費消されているこ
と,詐欺被害者がすでに失踪し,同人の住民票が原告の経営する麻雀店
の従業員寮に移されていること等から,原告が詐欺の主犯格であり,詐
欺被害者の失踪にも関与しているのではないかという嫌疑を抱いてい
た。
   捜査官らは,自分らが抱いていた嫌疑内容に沿うDの供述内容を基
に,原告に対する追及を行ったが,原告は嫌疑を否認し,詐欺はDの発
案であり,原告自身は同人と共謀しておらず,お金をだまし取る決心を
していなかった,原告は同人を止めようとしていた等の主張をしてお
り,捜査官らは,原告がDに責任転嫁しているものと考え,原告に対し
厳しい態度で臨んでいたものである。
 こうした状況下であれば,原告の自白調書を作成するために,暴行・
脅迫が行われたことは十分考えられる。
イ 作成された調書の内容は,原告がDと共にお金をだまし取る決心を
し,同人と共謀して手続を同人に頼んで詐欺を行ったことを認めるもの
であって,原告がDに対して責任転嫁をする内容ではなく,責任を自認
する内容である。このように,自己の言い分と全く相違する内容の供述
調書に原告が署名してしまったのは,原告に対して,外部から相当強烈
な強制が加わったと見るのが自然である。
  詐欺被害者名義の口座開設の時期に関して,後に何の理由もなく前の
供述を訂正する旨の調書が作られているが(甲16),この点からも,
原告に対する取調べがDの供述を押しつける態様でなされたことは明ら
かである。
  Bは,Aと原告が議論して,Aが客観的な事実やDの供述を説明した
結果,原告が次第に納得して本当のことを言うようになったと証言する
が,取調べ担当の警察官と取調べ対象の被疑者が議論して,被疑者が次
第に納得したというのは,あまりに不自然である。
(4)Bは,①調書の下書用紙数枚を2つに折り,それを原告の頭に添える
ようにして1回軽くたたいて,「いいかげんにしなさい」と説得したこ
と,②「本当の話をしなさい。」と言って,右手の指をそろえてくの字の
ようにして,指の裏側(手の甲の方)を原告のおでこに軽く当てて,うつ
むいている原告の顔を起こすようにしたこと,③自供を促すために原告の
肩や背中を手のひらでポンと触れたことを認めているところ,このような
程度の,いわば温和な説得の結果,原告が言い分を変更し,自白調書に納
得して署名したという経過は,あまりに非現実的である。
(被告)
(1)原告の主張する暴行・脅迫の事実はすべて否認する。
(2)ア原告が主張する暴行・脅迫行為の内容は,極めて誇張され,極めて不
自然である。
 イ 原告は,殺人罪・詐欺罪・犯人隠避教唆罪で公判請求され,刑事第一
審及び控訴審判決で懲役14年の判決を受けているところ,原告が上記
刑責を逃れるためには,詐欺事件の取調べにおける自白調書が,取調官
からの暴行・脅迫により自己の意に反して作成されたものと主張せざる
をえなかったこと,原告は,自己の刑責を免れるためには犯人隠避教唆
までもする者であること,他方,A及びBは,ベテランの捜査官であ
り,否認事件で暴行を振るえば供述調書の任意性・信用性が争われ,捜
査全体に支障が生じることは十分に認識しており,それゆえ,細心の注
意を払って取調べに臨んだものであることからすれば,原告の主張は,
刑責を免れようとするための虚言に過ぎない。
ウ 原告は,上記暴行を受けたと主張するが,原告の供述によっても,①
殴られた時点の対応・感覚が極めて曖昧である,②傷害の結果が一切生
じていない,③痛いとは感じず,やめてくれと言った形跡も一切存在し
ない,④手等で何らかの防御をしたことも,身体を動かしてよけようと
したことも一切ない,⑤留置担当者に対して,暴行を受けたことや痛
み・身体の不調等を訴えたことは一切ない,⑥当番弁護士についての説
明を受けているにもかかわらず,当番弁護士の要請をしなかった,とい
うのであり,原告の主張・供述は矛盾に満ちている。
(3)Aは,本件刑事事件において,Bが手でこつんと原告を1回殴ったとい
う記憶がある,軽く1回ほどたたいているような記憶もある旨,証言して
いるが,それに加えて,これらは,正直に話すよう注意を促すためのもの
であり,弱いものであった,暴力と言われるほどではない,取調室では,
暴力を振るう,大きな声を出すという雰囲気は全くない旨の証言もしてお
り,Bの行為を暴行と捉えて証言したものではない。
(4)Bは,1度だけ,右手の指をそろえて指背側部を,うつむいていた原告
のおでこに軽くあてて原告の顔を起こすように   して,「本当の話をしなさ
い。」と説得をし,また,供述調書の用紙数枚を2つに折ったものを原告の頭の
上に添えるよ   うにして,1回軽く叩き,「いい加減にしなさい。」と説得
したことがあるが,このようなBの行為は,およそ暴行とい   えるものでは
ない。
  また,AとBは,殺人事件の被害者の写真を原告の胸ポケットに入れた
ことがあるが,原告から供述を引き出すように説得する捜査手法であり,
脅迫には当たらない。
第3 争点に対する判断
1 原告は,本件刑事事件における平成10年5月7日付「報告書」(甲
3),本件刑事事件における公判供述(甲5,6),本件における平成13
年2月26日付「陳述書」(甲9)及び原告本人尋問において,概要,第
2,3項争点に対する当事者の主張(原告)(1)記載のとおりの暴行・脅迫
が行われた旨供述している。
  他方,Bは,原告に身体に対する接触行為として,①供述調書の下書用の
ざら紙数枚を2つに折り,それを原告の頭に添えるようにして1回軽くたた
いて,「いいかげんにしなさい。」と説得したこと,②「本当の話をしなさ
い。」と言って,右手の指をそろえてくの字のようにして,指の裏側を原告
のおでこに軽く当てて,うつむいている原告の顔を起こすようにしたこと,
③自供を促すために原告の肩や背中を手のひらでポンと触れたこと,④A
が,原告に自供を促すため,Fの写真を原告の胸ポケットに入れさせたこと
があることを認めるものの,原告が主張する暴行・脅迫は一切なかった旨供
述し(乙1,証人B),Cも,本件刑事事件の公判において,原告が主張す
る脅迫は一切行っていない旨供述する(甲8)。
 また,Aは,本件刑事事件の公判において,①勾留後10日目ころ,Bが
原告を手でこつんと殴ったこと,②同じころ,Bが調書で軽く原告の頭を1
回ほどたたいたこと,③7月22日ころ,原告の胸ポケットにFの写真を入
れて,Bが原告の背中をとんとんと軽くたたいたことがあるが,それ以外に
は,原告が主張するような暴行・脅迫はなかった旨供述する(甲7)。
 このように,本件では,原告と捜査官らとの供述が対立し,その他に証拠
は存しないから,以下各供述の信用性について検討する。
2(1)前記争いのない事実と証拠(甲1ないし17,原告本人)及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告は,平成8年6月28日,有印私文書偽造,同行使,詐欺罪の容
疑で逮捕された。逮捕の時の弁解録取において,原告は,Dと共謀した
点について否認した。
   イ 原告は,同月29日,Aに対し,原告がD及びFと知り合った経緯,
平成7年9月当時,原告が経営していた麻雀店の資金繰りに窮していた
こと,Fの失踪を知り当初はF名義でサラ金からの借入れをしようと企
てたが,知人からFはE証券の口座に200万円から300万円を預け
ていると聞き,これをDに告げると,サラ金に何軒も行くよりその金を
取れば手っ取り早い,俺はそういうことは得意だとDが述べたため,原
告もE証券のF名義の口座の残金を確認することにしたこと,平成7年
10月下旬ころに,DとE証券松戸支店に行き,DがF名義の運転免許
証を使い,Fになりすまして,約2100万円を解約したこと,約21
00万円の騙取金は,麻雀店の運転資金等に費消したことなどを供述
し,その旨が記載された警察官に対する供述調書(甲11)が作成され
た。
   ウ 原告は,平成8年6月30日,検察官に対する弁解録取手続におい
て,事実はそのとおり間違いないと自白し,その旨の弁解録取書が作成
された。
   エ 原告は,同年7月1日,詐欺罪について勾留質問を受け,勾留決定が
された。
     その際の調書には,原告の陳述として,「DがE証券松戸支店にある
Fの預金を引き出す計画をし,その手続もDがやりました。私は,G銀
行H支店に振り込まれたお金を引き出しました。今回の件については,
私にも責任があると考えています。」と記載されている。
   オ 原告は,同月3日,Aに対し,原告が経営していた麻雀店の経営状
況,原告の金銭的な窮状,失踪していたFになりすまして,サラ金から
金を借りるため,原告が,F名義の健康保険証を取得したこと,それを
使ってサラ金から金を借りようとしたが失敗したことなどを供述し,そ
の旨が記載された警察官に対する供述調書(甲12)が作成された。
   カ 原告は,同月4日,Aに対し,原告がDに金銭的な窮状を話したこ
と,原告がFの運転免許証をFになりすまして取得してくれとDに頼ん
だところ,Dが承諾したこと,原告がDに,E証券にFの口座があるこ
とを話すと,Dはその金を取ればよいと言ったこと,原告とDは連れだ
って,E証券松戸支店に出向き,DがFになりすまして,Fの口座残高
を確認したところ,約1800万円くらいあることが判明したことなど
を供述し,その旨が記載された警察官に対する供述調書(甲13)が作
成された。
   キ 原告は,同月6日,Aに対し,原告がFの印鑑登録証明書を取得した
と思うこと,Dが,E証券から取得した金を送金するF名義の口座を開
設したこと,原告は,Fの署名をまねるため,Fの署名がなされた契約
書や書面がないか,知人にあたったこと,Dがその後,Fの口座の解約
手続を行ったこと,その際,原告はE証券松戸支店近くの車で待機して
いたこと,E証券から振り込まれた金の流れ,使途などを供述し,その
旨が記載された警察官に対する供述調書(甲14,15)が作成され
た。
   ク 原告は,同月14日,Aに対し,原告の従前の供述のうち,Fの印鑑
登録証明書を取得した時期及びF名義の口座を開設した時期を訂正する
供述を行い,その旨が記載された警察官に対する供述調書(甲16)が
作成された。
   ケ 原告は,同月19日,詐欺罪で起訴された。
(2)証拠(甲7,8,証人B)によれば,捜査官らは,原告の逮捕より前
に,客観的な事実関係についての捜査やDの逮捕,取調べも行っており,
その結果,本件詐欺事件について,原告が主導的な立場に立っていたとの
見方を有していたことが認められるところ,前記(1)の認定事実によれ
ば,原告は,逮捕時からDとの共謀を否認し,それ以降も,F名義の健康
保険証の取得を行い,それを使ってサラ金から金を借りることは企てた
が,E証券のFの口座の金を引き出そうとしたのは,Dが発案し,Dが積
極的な立場に立ってなされた趣旨の録取がされており,Dとの共謀を明確
に認めた捜査官らが録取した供述調書は存しないこと,暴行を受けて大変
なショックを受け,脅迫を受けて涙が止まらない思いをして,やむなく調
書に署名押印したというのに(甲3),その直後の勾留質問調書において
すら,暴行・脅迫について何ら記載されていないこと,執拗な暴行を継続
的に受けたというにもかかわらず,他覚的な結果は一切生じていないこと
(原告本人),並びにA,C及びBの供述内容に照らすと,原告が主張及
び供述(甲3,5,6,原告本人)するように,捜査官らから執拗な暴
行・脅迫を受け,それらにより,やむなく捜査官らが作文するままの調書
に署名押印したというのは不自然であり,前記原告の供述は,直ちに採用
することができない。
(3)原告は,原告が責任を自認し,原告の言い分と全く相違する内容の調書
に署名していることは,原告に対して,外部から相当強烈な強制が加わっ
たものとみるべきであり,捜査官との議論の末,原告が納得したというの
は不自然であると主張する。
 しかし,原告が署名押印した調書には,抽象的には原告の主導的な関与
や原告の内心的な犯意を自認している部分はあるものの,子細にみると,
具体的な事実経過の供述内容においては,詐欺事件の犯行を積極的に行っ
たことや,Dとの具体的共謀について認めている記載はなく,原告の主張
は前提を欠いているし,前記認定のとおり勾留質問時において,一定の責
任を認めていた原告に対し,裏付け捜査によって得られた客観的証拠に基
づいて,捜査官らが原告を取り調べたことによって,原告が認める部分が
拡大したという経緯は,何ら不自然ではなく,原告の主張は採用できな
い。
3(1)前記Aの供述は,本件刑事事件公判期日に,検察官からの尋問におい
て,一緒に取調べを行っていた部下であるBの行動について答えたもので
あり,しかも,Aは,「原告は,Bからげんこつで顔を殴られたと言って
いるんですが,思い当たることがありますか。」との質問に対して,「確
かにBが手でこつんと原告を1回殴ったという記憶はしております。」と
明確に答えており,捜査官自身が,取調べ中に一緒に取調べを行った者が
原告を「殴った」として,不利な事情を供述しているのであり,採用する
ことができるものである。
 そして,原告本人尋問の結果にも照らすと,Bは,原告を取調べ中の平
成8年7月上旬ころ,右手拳で原告の左頬を殴打したことが認められる。
(2)被告は,Aの供述を全体としてみれば,暴力,暴行といった事実を供述
したものではないと主張する。
 確かに,Aは,「痛いような,暴力といわれる程じゃな」いと供述して
おり,原告自身も,本件刑事事件の被告人質問において,Bの殴打行為に
つき痛くなかった旨の供述をしている(甲5)が,その程度が軽度のもの
であったとしても,顔面に対し手拳で攻撃行為を行ったことは,暴行行為
と認めるほかない。
4(1)以上より,原告は,取調べ中にBから暴行を加えられたものであって,
Bの暴行行為は,公権力の行使にあたる公務員の職務中の故意による違法
行為であるから,被告は,国家賠償法1条1項に基づき,原告の被った下
記精神的損害を賠償すべき義務がある。
(2)なお,証拠(甲7,乙1,証人B)によれば,Bは,紙数枚を2つに折
って,それを原告の頭に添えるようにして1回軽くたたいて,「いいかげ
んにしなさい。」と言ったこと,自供を促すために原告の肩や背中を手の
ひらで数回,軽く触れたことが認められるが,これらは極めて軽度な接触
行為であるから,その行為がされた状況及び捜査官の目的等に照らすと,
取調べ行為としての相当性を逸脱したものといえず,違法性を有しないも
のと判断すべきである。
  また,証拠(甲7,8,乙1,証人B)によれば,A及びBは,原告の
自供を促すために,Fの写真を原告の胸ポケットに入れたこと,Cは,原
告の自供を促すため,警察にいる原告の姿を母親に見せたとしたら,母親
は,家に帰れないだろうなと言ったことが認められるが,これらの行為に
よって,原告が何らかの精神的な圧迫感を受けたとしても,これらの行為
がされた状況及び捜査官の目的等を合わせ考慮すれば,いまだ,取調べ行
為としての相当性を逸脱したものといえず,上記各行為はいずれも違法性
を有しないものと認めるのが相当である。
5 原告は,Bの前記暴行により何がしかの精神的苦痛を被ったものと認めら
れ,暴行の回数,程度,態様,身柄拘束中の被疑者に対する警察官による暴
行であること,その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると,原告の精
神的苦痛を慰謝するには,10万円をもって相当とするというべきである。
6 よって,原告の請求は,被告に対し,金10万円及びこれに対する違法行
為の後である平成12年1月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合
による遅延損害金の支払を請求する限度で理由があるから,その限度で認容
し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につ
き,民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき,同法259条1
項をそれぞれ適用し,その免脱宣言については,これを宣言することは相当
でないから同条3項により宣言しないこととして,主文のとおり判決する。
      千葉地方裁判所民事第2部
          裁判長裁判官小   磯   武   男
             裁判官  見   米       正
             裁判官  多   田   裕   一

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