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平成10年(行ケ)第396号 審決取消請求事件
         判    決
原     告 エス・エム・エス・シュレーマン-ジーマーク・アクチエン
ゲゼルシャフト
代表者      【A】
同         【B】
訴訟代理人弁護士八  掛 俊 彦
同   弁理士  【C】
同【D】
被      告  特許庁長官 【E】
指定代理人     【F】
同         【G】
同         【H】
同         【I】
主    文
原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事    実
第1請求
特許庁が平成9年審判第18312号について平成10年7月31日にした審決
を取消す。
第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
 原告は、平成元年3月6日、昭和56年10月13日(優先権主張1980年1
0月15日、ドイツ連邦共和国)に出願された特願昭56-162123号からの
分割出願として、発明の名称を「圧延機」とする発明(以下「本願発明」という)
につき特許出願(特願平1-52183号)をしたところ、平成6年9月7日出願
公告(特公平6-69578号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成9年8
月6日拒絶査定を受けたので、同年11月4日拒絶査定不服の審判の請求をした。
 特許庁は、この請求を平成9年審判第18312号事件として審理した結果、平
成10年7月31日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、
同年8月26日原告に送達された。
 2 本願発明の要旨
  (1) 請求項1に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨(別
紙2 本願第1発明図面参照)
 ワークロールが互いに軸方向に摺動可能であり、ワークロールの各々がロール胴
全長にわたって湾曲されている輪郭に従って形成されており、かつ両ワークロール
の湾曲された輪郭が互いに補完し合うように形成されている圧延機において、ワー
クロール(23′,24′)を支持するバックアップロール対(23,24)のバ
ックアップロール(23,24)が湾曲を有していない円筒形であることを特徴と
する、上記圧延機。
  (2) 請求項2に記載された発明(以下「本願第2発明」という。)の要旨
 ワークロール(23′、24′)を支持するバックアップロール対(23,2
4)のバックアップロール(23,24)が軸方向で摺動不能であることを特徴と
する、特許請求の範囲第1項に記載の圧延機。
 3 審決の理由
審決の理由は、別紙1審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のと
おりであり、審決は、本願を適法な分割出願とすることはできないから、本願の出
願日は、実際の出願日である平成元年3月6日となるところ、引用例(「アイアン
 アンド スチール エンジニア」64巻3号(1987年3月 ASSOCIATIONOF
IRONANDSTEELENGINEERS発行、昭和62年4月15日特殊法人日本科学技術情報
センター受け入れ))には、本願第1及び第2発明と同一の構成を持つ圧延機が記
載されているから、本願第1及び第2発明は、特許法29条1項3号の規定する発
明に該当し、特許を受けることができない旨判断した。
第3 審決の取消事由
1審決の認否
  (1) 審決の理由1(手続の経緯)及び同2(原査定の理由)は認める。
  (2) 同3(分割の適否についての当審(審決)の判断)のうち、審決書6頁8
行の「しかない。」、6頁12行、13行の「恣意的に取り出して、」、及び6頁
18行ないし7頁4行は争い、その余は認める。
  (3) 同4(発明の同一性についての当審(審決)の判断)のうち、審決書12
頁11行「上記3」から13行までは争い、その余は認める。
  (4) 同5(むすび)は争う。
 2取消事由
審決は、分割の適否の判断を誤った結果、本願発明が新規性を欠くと誤って判断
したものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
  (1) 分割に係る構成は、原出願明細書中に記載されているに等しい。
 すなわち、原出願明細書(甲第3号証)の特許請求の範囲の記載(別紙3 原出
願発明図参照)は、
   A ワークロールおよび/又はバックアップロールおよび/又は中間ロール
が相互に軸方向に摺動可能であり、
   B これらのロール対の少くとも一つのロール対の各々のロールがクラウン
端部の方向で走る彎曲したかつ両ロールにおいてそれぞれ相反する側で被圧延材の
幅の一部分にわたって延びている輪郭を有している様式の、
   C 場合によってはバックアップロールと/又は中間ロールに支持されてい
るワークロールを備えた圧延機において、
   D 彎曲した輪郭が両ロール(3,4;23,24;43″,44″)の全
クラウン長さにわたって経過しており、
   E かつ両クラウン輪郭が専らこれらのロール(3,4;23,24;43
″,44″)の一定の相対的な軸方向の位置で補完し合う形状を有していること、
   F を特徴とする圧延機
というものである。
  (2) 原出願明細書に添付の第1図ないし第3図(別紙3参照)に各記載のもの
の作動態様は共通している。
 すなわち、第1図のものについては、「ロールギャップ8が少なくとも帯板9の
幅にわたって、特にクラウンの全長にわたって、幾分S-字形に反らされてはい
る」(甲第3号証11頁12行ないし15行)と記載され、第2図のものについて
は、「第2図から、ワークロール23′と24′のクラウンは自体円筒形の形状を
有しているが、バックアップロールとの協働により必然的に幾分S-字形の曲がり
を強いられ、したがって帯板29が通り抜けるロールギャップ28も相応して幾分
S-字形の断面形状を示すことが伺がえる。」(同13頁13行ないし18行)と
記載され、第3図のものについては、「この際(中間ロール43″と44″が変形
を受ける際)、中間ロール43″と44″とによりワークロール43′と44′の
円筒形のクラウンに僅かにS-字形の彎曲が強制的に附与され、この彎曲は帯板4
9のためのロールギャップ48の形状を決定する。」(同15頁末行ないし16頁
4行)と記載されている。
 このように、第1図ないし第3図の作動様態の共通性は、帯板9(第1図)、2
9(第2図)、49(第3図)にわずかにS-字形の彎曲を与えることである。
 帯板9、29、49にわずかにS-字形の彎曲を与える原因となるのは、「中間
ロール43″と44″のクラウン輪郭(第3図参照)は根本的に第1図による二段
圧延機1の両ワークロール3と4のクラウン輪郭もしくは第2図による四段圧延機
21のバックアップロール23と24のクラウン輪郭に相当する。」(甲第3号証
15頁7行ないし12行)とあるように、第1図のワークロール3と4、第2図の
バックアップロール23と24、第3図の中間ロール43″と44″にあるとされ
る。
これらのロール対は、上記構成事項Eを満足し、補完し合う形状を有するという
意味で、以下「形状的な補完ロール対」と呼ぶこととする。
  (3) 第1図のワークロール対(3、4)は、形状的な補完ロール対であり、第
1図のものは、この補完ロール対のみからなっている。
 第2図のバックアップロール対(23、24)も、形状的な補完ロール対をなし
ていて、その内側に円筒形状のワークロール対(23′、24′)があるので、第
2図のものは、この補完ロール対の内側に、内側円筒ロール対を備えている。
 第3図の中間ロール対(43″、44″)は、形状的な補完ロール対であり、そ
の内側に円筒形状のワークロール対(43′、44′)と、その外側に円筒形状の
バックアップロール対(43、44)とを有し、これらを形状的に補完ロール対、
内側円筒ロール対、外側円筒ロール対と呼ぶと、第3図のものは、補完ロール対の
内外側に、内側円筒ロール対と外側円筒ロール対とを備えている。
 第1図ないし3図について共通していえることは、1つの補完ロール対があるこ
とが必須であって、加えるとしても円筒ロール対しか加えていないことである。こ
れが、原出願明細書の原則である。
  (4) 第1図ないし第3図のものの構成は、上記した原出願明細書の特許請求の
範囲の各構成事項AないしFのすべてを充足している。
  (5) 第1図のものでは、形状的な補完ロール対だけからなるので、補完ロール
対の形状がそのまま利用されている。したがって、構成事項Eはこの補完ロール対
そのもので充足される。
 第2図のものでは、形状的な補完ロール対に内側円筒ロール対が用いられてい
る。補完ロール対の形状そのものは変形されないでそのまま利用され、内側円筒ロ
ール対を変形させている。この場合、内側円筒ロール対の変形が利用されているの
で、構成事項Eは内側円筒ロール対の変形されたもので充足されるといえる。しか
し、形状的な補完ロール対の形状はそのまま残されているので、構成事項Eは、形
状的な補完ロール対で充足されるともいえる。
 第3図のものでは、外側円筒ロール対は形状的な補完ロール対に変形を及ぼし、
この2つの対は組として形状的な補完ロール対とは異なる「変形補完ロール対」と
いうべきものを形成している。
 その場合、内側円筒ロール対は、この組としての変形補完ロール対の影響を受け
て変形されることになる。この場合も、内側円筒ロール対の変形が利用されている
ので、構成事項Eは、内側円筒ロール対の変形されたもので充足されているといえ
る。しかし、この場合、形状的な補完ロール対の形状は残されることなく、外側円
筒ロール対で形状的な補完ロール対が変形され、変形補完ロール対としてその形状
が残されているので、構成事項Eは、変形補完ロール対で充足されるともいえる。
 すなわち、形状的な補完ロール対も変形補完ロール対も、補完ロール対としてみ
れば、いずれも1つの補完ロール対にすぎない。
  (6) 前記(2)のとおり、第1図ないし第3図のものは、補完の作動様態は共通
している。
 そうすると、第2図のものと第3図のものとは、第2図が形状的な補完ロール対
を用いているのに対し、第3図が形状的な補完ロール対と外側円筒ロール対とを組
とした変形補完ロール対を用いている違いはあるが、補完の意味では同様の扱いに
なっていてそれぞれ内側円筒ロール対を変形させ、構成事項Eを充足している。す
なわち、形状的な補完ロール対も、変形補完ロール対も補完という意味では同様で
ある。
 したがって、第2図のものの形状的な補完ロール対を変形補完ロール対に置換す
れば第3図のものとなり、第3図の変形補完ロール対を形状的な補完ロール対に置
換すれば第2図のものとなる。
  (7) 原出願明細書には、変形補完ロール対のみとして使用することの記載はな
い。
 しかし、形状的な補完ロール対も変形補完ロール対も補完ロール対としてみれば
いずれも1つの補完ロール対にすぎないものであるから、原出願明細書の記載は、
次のようにみることができる。
   ア 第1図の形状的な補完ロール対と第3図の変形補完ロール対とは共通す
る補完ロール対として置き換えることが当然できるので、変形補完ロール対のみと
して用いることは、原出願明細書に記載されているに等しい。
   イ 見方を変えるなら、第2図のものの形状的な補完ロール対に対する内側
円筒ロール対を取り除いて第1図のもののように形状的な補完ロール対のみとして
用いることは、第1図に記載されているのであるから、第3図のものの変形補完ロ
ール対に対する内側変形ロール対を取り除いて、変形補完ロール対のみとして用い
ることは、原出願明細書に記載されているに等しい。
  (8) 被告は、六段圧延機の中間ロール対とバックアップロール対を組として四
段圧延機のバックアップロール対と比較する議論は、圧延機の技術分野における技
術常識を無視したものであって、技術的に意味がないなどと主張する。
 圧延機一般としてみれば、例えば四段圧延機と六段圧延機とを比較して議論する
ようなことが、技術常識として許されないことは、被告のいうとおりである。しか
しながら、原出願明細書には、「第1図による二段圧延機1、第2図による四段圧
延機21或いは第3図による六段圧延機41のいずれにも共通して、第4~6図で
もって本発明による圧延機の作動態様を以下に説明する。」(甲第3号証16頁1
6行ないし20行)と記載されているように、二、四、六段圧延機である第1図な
いし第3図の作動態様は共通するとして比較して述べている。これは、上記した段
数相違により特有の機能及び構造の違いをもつという技術常識を一応おいて、段数
相違があっても原出願明細書のような配置であれば、補完するという作動態様では
共通するとして比較して述べているものである。すなわち、甲第3号証において
は、段数相違について、その段数特有の機能及び構造の違いは技術常識に一任した
ような形で、補完するという作動態様のみを問題にするときには、圧延機の段数の
相違があっても共通して考えてよいということである。
第4 審決の取消事由に対する認否及び反論
1認否
   原告主張の審決の取消事由は争う。
 2反論
  (1) 原告は、第1図ないし第3図(別紙3原出願発明図)について共通してい
えることは1つの補完ロール対があることが必須であって、加えるとしても円筒ロ
ール対しか加えていないことであり、これが原出願明細書の原則である旨主張す
る。
 しかしながら、「加えるとしても円筒ロール対しか加えていないこと」が原出願
明細書の原則であることは、特許請求の範囲をはじめ明細書のいずれの箇所にも記
載がない。
  (2) 原告は、第2図及び第3図のものでは、構成事項Eは内側円筒ロール対の
変形されたもので充足されるといえる旨、並びに第3図のものにおいては、構成事
項Eは変形補完ロール対で充足されるともいえる旨主張する。
 しかし、構成事項Eは「かつ両クラウン輪郭が専らこれらのロール(3,4;2
3,24;43″,44″)の一定の相対的な軸方向の位置で補完し合う形状を有
していること、」というものであって、両クラウン輪郭が専ら補完し合う形状を有
していることが明記されていることから、構成事項Eを充足するロール対は、原告
がいう「形状的な補完ロール対」そのものであることは明らかである。
  (3) 原告は、第2図のものと第3図のものとは、補完の意味では同様の扱いに
なっていてそれぞれ内側円筒ロール対を変形させ構成事項Eを充足しているとし、
第2図のものの形状的な補完ロール対を変形補完ロール対に置換すれば第3図のも
のとなり、第3図の変形補完ロール対を形状的な補完ロール対に置換すれば第2図
のものとなる旨主張する。
 しかし、第2図のものでは、バックアップロール対が「補完し合う形状を有する
ロール対」であるのに対し、第3図のものでは、中間ロールが「補完し合う形状を
有するロール対」であり、補完という意味で比較されるロール対は、第2図のもの
のバックアップロール対と第3図のものの中間ロール対である。そして、中間ロー
ル対とバックアップロール対とでは、中間ロール対は、主に、そのロール軸方向へ
のシフト動作により、ワークロールのそりを調整し、被圧延材の断面形状を制御す
る機能を有し、バックアップロールにより支持されているため小径のロールを用い
ることができるのに対し、バックアップロール対は、圧延荷重を最終的に受け持つ
機能を有し、剛性が要求されるため大径のロールが用いられ、また、ロールの表面
硬度も、中間ロールとバックアップロールとでは違えることが一般的である等、ロ
ールの機能及び構造を異にするものであり、圧延機の技術分野においては、相互に
常に互換性があるとはいえないものであって、六段圧延機の中間ロール対とバック
アップロール対を組として四段圧延機のバックアップロールと比較する議論は、圧
延機の技術分野における技術常識を無視したものであって、技術的に意味がない。
 よって、原告の主張するような「第2図のものの形状的な補完ロール対」と「第
3図のものの変形補完ロール対」は、置換ができるものではない。
  (4) さらに、原告は、変形補完ロール対のみとして用いることは原出願明細書
に記載されているに等しい旨又は第3図のものの変形補完ロール対に対する内側変
形ロール対を取り除いて変形補完ロール対のみとして用いることは原出願明細書に
記載されているに等しい旨主張する。
 しかし、第1図の「形状的な補完ロール対」と第3図の「変形補完ロール対」と
は、上記(3)で述べたとおり、置き換えることはできるものではない。また、内側円
筒ロール対を取り除くことは、中間ロール対又はバックアップロール対が、被圧延
材に直接接触するワークロール対として使用されることを意味しているが、ワーク
ロール対と中間ロール対及びバックアップロール対とでは、中間ロール対及びバッ
クアップロール対の機能及び構造については、上記(3)で述べたとおりであるのに加
え、ワークロール対は、被圧延材に直接接触して変形させる機能を有し、四段及び
六段圧延機においては、圧延荷重を減らすために比較的小径のロールが用いられ、
また、ロールの表面あらさが被圧延材に写しとられるため、いわゆる肌あれしにく
い材質であって、さらに、熱間圧延では耐熱性の高い材質が用いられる等、ロール
の機能及び構造を異にするものであり、中間ロールによって代用されるようなもの
ではない。したがって、上記のようなワークロール対を取り除くような議論は、圧
延機の技術分野における技術常識を無視したものであって、技術的に意味がない。
  (5) したがって、原出願明細書及び図面には、本願発明の構成である「湾曲さ
れている輪郭に従って形成されているワークロール」と「ワークロールを支持する
湾曲を有していない円筒形であるバックアップロール」との組合せを備えた圧延機
について記載されているに等しいという原告の主張は失当である。
理    由
1 分割の適否の判断の誤りについて
 (1) 本願発明は、その要旨から明らかなように、「湾曲されている輪郭に従って
形成されているワークロール(23′,24′)」と「ワークロールを支持する湾
曲を有していない円筒形であるバックアップロール(23,24)」との組合せを
備えた圧延機の発明である(別紙2本願発明図参照)。
 原告は、変形補完ロール対も形状的な補完ロール対も原出願明細書の特許請求の
範囲の構成事項Eを充足し、そのクラウン輪郭が補完し合う形状でありクラウン輪
郭が補完し合う形状であるものとしてみれば同様であることを前提に、原出願明細
書第1図(別紙3原出願発明図参照)の形状的な補完ロール対を第3図の変形補完
ロール対に置き換えること、又は第2図に係るものにおいて内側円筒ロール対を取
り除いて形状的な補完ロール対のみとして用いることは第1図に記載されているの
であるから、第3図に係るものにおいて内側円筒ロール対を取り除いて変形補完ロ
ール対のみとして用いることは、原出願明細書に記載されているに等しい旨主張す
る。
 しかしながら、原告主張の上記の点が原出願明細書(甲第3号証)に記載されて
いるに等しいものと認めることはできない。その理由は次のとおりである。
 (2)ア 甲第3号証によれば、原出願明細書には、「第1図による二段圧延機1、
第2図による四段圧延機21或いは第3図による六段圧延機41のいずれにも共通
して、第4~6図でもつて本発明による圧延機の作動態様を以下に説明する。作動
態様にとって、全クラウンの長さにわたって曲彎した輪郭を有しているロール対、
しかも両クラウン輪郭がロールの一定の相対的な軸方向の位置において補完し合う
ように曲彎した輪郭を有しているロール対のみが重要な要件である。説明を簡単に
するために、第4~6図との関連において、彎曲したクラウン輪郭を有しているロ
ール対が第1図による二段圧延機1のワークロール対3と4であるものと仮定す
る。」(16頁16行ないし17頁9行)、「この際両ワークロール対3と4との
間のロールギャップ8はクラウン全長にわたつて等しい高さを有しており、したが
って帯板9はロールギャップ8が僅かにS-字形に反った軌跡を備えているにも拘
らず等しい厚さに圧延される。」(17頁13行ないし18頁)、「重要なこと
は、ロールギャップ8の形状が、クラウンがその全長にわたつて彎曲された輪郭を
有するロール対の両ロールの軸方向摺動によつて決定できることである。
B」(19頁18行ないし20頁2行)と記載されていることが認められ、この記載
によれば、原出願明細書には、第1図ないし第3図のものがロールギャップの形状
をS-字形に規定するという作動態様が共通するものとして記載されていることが
認められる(なお、クラウンとは、通常、「圧延ロールのロール軸方向表面に与え
られた湾曲形状」を意味する。)。
  イ しかし、甲第3号証によれば、原出願明細書には、「中間ロール43″と
44″のクラウン輪郭は根本的に第1図による二段圧延機1の両ワークロール3と
4のクラウン輪郭もしくは第2図による四段圧延機21のバックアップロール23
と24のクラウン輪郭に相当する。」(15頁7行ないし12行)と記載されてい
ることが認められ、この記載によれば、原出願明細書には、ロールギャップの形状
をS-字形に規定するという作動態様を果たすために重要なクラウン輪郭につき、
第3図の中間ロール43″,44″は第1図のワークロール3,4、第2図のバッ
クアップロール23,24と対応関係にあり、同じ技術的意義を有する部材である
ことが明示的に記載されているものである。
  ウ しかも、乙第1号証によれば、日本鉄鋼協会編「第3版鉄鋼便覧Ⅲ(1)」
(昭和55年6月30日第2刷発行)には、「2重式圧延機はバックアップロール
がないためロールのたわみ量が大きいので仕上圧延機としては使用されず、粗圧延
機としてのみ使用されている。2重式圧延機は4重式圧延機に比較してロール径が
大きくなるので、圧延時の所要動力が大きくなり、4重式に比べ圧下量を小さく取
らざるを得ないため圧延能力は4重式に比べ低下する。」(244頁左欄13行な
いし19行)、「4重式圧延機は2重式および3重式圧延機から変遷した圧延機
で、現在では厚板圧延機として一般的に用いられている。4重式圧延機は2重式お
よび3重式圧延機に比べて高能率であり、バックアップロールを大きくできるので
製品の寸法精度が格段によくなる。」(244頁左欄下から13行ないし9行)、
 「(ロ)6重式圧延機 ワークロールとバックアップロールの間に中間ロールを
配して、これを板幅に合わせシフトさせる新6重式圧延機(図8・192)は4重
式圧延機より優れた形状矯正能力をもっているが、ワークロールのうける板端部の
余分な剪断変形がなくなり、弾性変形も少なくなるため、エッジドロップ改善効果
がある。」(573頁右欄下から2行ないし574頁左欄4行)、
 「a.ロールの材質 圧延用ロールの具備すべき条件としては、耐熱性、耐摩耗
性、強靱性に優れていることが上げられるが、これらの条件をすべて同時に満足す
ることは一般には困難なため、圧延の用途に応じロールの使分けが行なわれる。
 (i)ワークロール 厚板用ワークロールには鋳鉄系の合金グレンロールが広く用
いられる。最近の圧延機では、粗圧延機と仕上圧延機に共通のロールを使用する場
合が多い。このため粗圧延から仕上圧延までの全工程を同一ロールで行なう必要が
あり、特に耐熱性、耐摩耗性が要求される。したがって、この2つの性質を具備す
るため、65~73Hs程度の合金グレンロールが使用される。」(260頁左欄
下から3行ないし右欄10行)、
 「(ii)バックアップロール バックアップロールの具備すべき主要条件として
は、次の3項目が考えられる。
(1)強圧下に耐え、折損、変形および扁平化やたわみを生じにくいこと
(2)胴部表面が転がり疲労に強いこと、すなわち耐スポーリング性に富むこと
(3)耐摩耗性に優れていること
 厚板バックアップロールの材質は鋳鋼ロールと鍛鋼ロールに大別される。」(2
60頁右欄下から6行ないし261頁左欄4行)と記載されていることが認められ
る。
  エ さらに、乙第2号証によれば、特開昭53-108851号公報には、
「ワークロール、中間ロールおよびバックアップロールよりなり中間ロールをロー
ル軸方向に移動可能に構成した圧延機においてワークロールを材質ニッケルグレ
ン、ショア硬度Hs75゜~80゜とし、中間ロールを材質鍛鋼、硬度80゜~8
5゜、バックアップロールを材質鍛鋼、硬度60゜~65゜にしたことを特徴とす
る6段式圧延機。」(1頁左下欄4行ないし11行)と記載され、乙第3号証によ
れば、特開昭55-22421号公報には、「作業ロール(注;ワークロール)と
補強ロール(注;バックアップロール)の間に、軸方向に移動し得るように構成さ
れた中間ロールを配置せしめた圧延機において、ロールの表面硬さを補強ロールは
Hs60~80、中間ロールはHs82~90、作動ロールはHs90~97とし
たことを特徴とする6段圧延機。」(1頁左下欄5行ないし9行)と記載されてい
ることが認められる。
  オ これらの記載によれば、2段式、4段式、6段式の各圧延機において、ワ
ークロール、中間ロール及びバックアップロールは、それぞれに固有の役割を果た
し、それに応じて材質、形状等を異にしているものであり、このことは、当業者に
とって技術常識に属することであると認められる。
  カ 以上の事実によれば、第1図の「形状的な補完ロール対」と第3図の「変
形補完ロール対」とを置き換えたり、第2図のものと第3図のものから単純に内側
円筒ロール対を取り除くことができ、その結果も同じであることが原出願明細書に
記載されているに等しいものと認めることはできない。
 (3) 原告は、「第1図による二段圧延機1、第2図による四段圧延機21或いは
第3図による六段圧延機41のいずれにも共通して、第4~6図でもって本発明に
よる圧延機の作動態様を以下に説明する。」(甲第3号証16頁16行ないし20
行)と記載されていることを、圧延機一般の技術常識とは異なり、補完するという
作動態様のみを問題にするときには圧延機の段数の相違があっても共通して考えて
よいことの根拠として挙げるが、原出願明細書中の原告指摘箇所のみから、圧延機
についての技術常識を無視して原告主張のように原出願明細書を理解することはで
きないから、この点の原告の主張は理由がない。
 (4) 以上によれば、本願を適法な分割出願とすることはできないとした審決の判
断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
2 結論
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
(口頭弁論終結の日 平成12年3月7日)
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 塩  月  秀  平
    裁判官 市  川  正  巳

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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