弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中,被上告人に関する部分を破棄し,第1審
判決中,同部分を取り消す。
2被上告人は,上告人に対し,1000万円及びこれ
に対する平成15年7月2日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
3訴訟の総費用は,これを5分し,その1を上告人の
負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人小串典介,同渡辺勝志の上告受理申立て理由(ただし,排除されたも
のを除く。)について
1本件は,農業協同組合(以下「組合」という。)である上告人が,その監事
であった被上告人に対し,上告人の代表理事が資金調達のめどが立たない状況の下
で虚偽の事実を述べて堆肥センターの建設事業を進めたことにつき,被上告人によ
る監査に忠実義務違反があったなどと主張して,農業協同組合法(平成17年法律
第87号による改正前のもの。以下同じ。)39条2項,33条2項に基づく損害
賠償の一部を請求する事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人には,役員として理事及び監事が置かれており,平成12年当時,
理事の定数は18名,監事の定数は6名とされていた。
理事のうち1名は常勤で,通常,常勤の理事が代表理事兼組合長に選任されてい
た。定款上,組合長は,組合の業務を統括するものとされていた。
(2)A(以下「A」という。)は,平成12年8月19日に上告人の理事に,
同月29日に代表理事兼組合長に就任した。
(3)Aは,平成13年1月25日開催の理事会において,上告人が公的な補助
金の交付を受けることにより上告人自身の資金的負担のない形で堆肥センターの建
設事業を進めることにつき,理事会の承認を得た。
Aは,同年8月31日開催の理事会において,「予算面として,造成と建造物で
約4億円,水路修復と畦畔整備に約1億5000万円かかり,それを追加要請して
いたところ,ほぼ受諾いただけた。」,「農林水産省は決定しても来年です。そう
思い来年の確約書類化をと考えたのですが,無理でしたので,方向転換してB財団
へ働き掛けたわけです。」,「心配いりません。少しでも負担が必要であれば実施
しません。建ってしまってから後,実は負担が必要となれば,私が責任を持って負
担額を捻出して来ます。」などと発言した。
しかし,Aが,B財団に対して補助金の交付申請等をしたことはなく,同財団へ
働き掛けたというAの上記説明は,虚偽であった。
(4)Aは,その後の理事会においても,「堆肥センターは補助金が入らない限
りは着手しません。」と発言していたが,平成14年4月26日開催の理事会にお
いて,「補助金が出るまでの立替えとして,堆肥センター用地と代替地の費用につ
いて1500万円の限度で上告人が資金を支出することを承認願いたい。まず1棟
を造り,見ていただきたい。」との提案をし,その旨の理事会の承認を得た。
(5)Aは,平成14年5月10日以降,上告人の代表理事として,堆肥センタ
ー用地等合計11筆の土地を上記理事会において承認された限度を超える金額で購
入し,上告人の資金を支出しながら,理事会に対しては,その購入が理事会におい
て承認された限度内でほぼ完了した旨の虚偽の報告をした上,同年8月8日開催の
理事会で,堆肥センター建設工事の入札の実施について組合長等への一任を取り付
け,入札を実施し,同月28日開催の理事会で工事費用等の報告をして,同工事を
実施に移した。
(6)被上告人は,平成12年8月19日,上告人の監事に就任し,平成14年
5月18日まで監事を務めた後,同日,上告人の理事となったが,その間,Aに対
し,B財団への補助金交付申請の内容,補助金の受領見込額,その受領時期等に関
する質問をしたり,資料の提出を求めたりしたことはなかった。なお,被上告人以
外の監事においても同様であった。
(7)上告人は,平成14年11月1日,農水産業協同組合貯金保険法に基づ
き,岡山県知事から管理人による業務及び財産の管理を命じられ,弁護士藤浪秀
一,農水産業協同組合貯金保険機構及び岡山県農業協同組合中央会がその管理人に
選任された。
被上告人は,同日,理事を辞任し,Aは,同月6日,管理人らにより理事を解任
された。
(8)管理人らは,堆肥センターの建設事業については,数億円の資金を要し,
AがB財団に補助金の交付を働き掛けた事実もなく,その資金調達のめどが立たな
いため,上告人において同事業を実現することは不可能であるとして,同事業を直
ちに中止した。
その結果,上告人は,Aが締結した堆肥センター用地の売買契約の解消に伴う精
算費用,Aが実施した同用地の測量・造成工事費用,堆肥センターの設計費用等合
計5689万4900円の損害を被った。
なお,被上告人と同時期に上告人の監事であった者らは,上告人からの求めに応
じ,受給済みの役員報酬を任意に返還するなどした。
3原審は,上記の事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人の請求を棄却す
べきものとした。
上記事実関係によれば,B財団に堆肥センターの建設事業に係る補助金の交付を
働き掛けた旨のAの発言は,虚偽であったと認められるものの,上告人の役員は,
代表理事兼組合長のみが常勤であり,上告人においては,代表理事兼組合長が,自
ら責任を負担することを前提として,理事会の一任を取り付けた上で様々な事項を
処理判断するとの慣行が存在し,その慣行に基づき理事会が運営されてきたものと
認められ,代表理事兼組合長であるAは,その慣行に沿った形で,補助金交付の見
通しをあいまいにしたまま,なし崩し的に堆肥センター建設工事の実施に向けて理
事会を誘導しており,その間のAの一連の言動につき,特に不審を抱かせるような
状況もなかったといえるから,このような状況の中で,Aに対して更にその発言の
裏付資料を求めなければならないという義務を監事に課すことは,酷であるという
べきである。
したがって,当時,上告人の監事であった被上告人において,Aに対し,B財団
に補助金交付を働き掛けた旨の発言の裏付資料の提出を求めなかったからといっ
て,そのことが直ちに上告人に対する忠実義務に違反するものとは認められず,被
上告人は,農業協同組合法39条2項,33条2項に基づく責任を負わない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)監事は,理事の業務執行が適法に行われているか否かを善良な管理者の注
意義務(農業協同組合法39条1項,商法〔平成17年法律第87号による改正前
のもの。以下「旧商法」という。〕254条3項,民法644条)をもって監査す
べきものであり(農業協同組合法39条2項,旧商法274条1項),理事が組合
の目的の範囲内にない行為その他法令若しくは定款に違反する行為を行い,又は行
うおそれがあると認めるときは,理事会にこれを報告することを要し(農業協同組
合法39条3項,旧商法260条ノ3第2項),理事の上記行為により組合に著し
い損害を生ずるおそれがある場合には,理事の行為の差止めを請求することもでき
る(農業協同組合法39条2項,旧商法275条ノ2)。監事は,上記職責を果た
すため,理事会に出席し,必要があるときは意見を述べることができるほか(農業
協同組合法39条3項,商法〔平成13年法律第149号による改正前のもの〕2
60条ノ3第1項),いつでも組合の業務及び財産の状況の調査を行うことができ
る(農業協同組合法39条2項,旧商法274条2項)。
そして,監事は,組合のため忠実にその職務を遂行しなければならず(農業協同
組合法39条2項,33条1項),その任務を怠ったときは,組合に対して損害賠
償責任を負う(同条2項)。
監事の上記職責は,たとえ組合において,その代表理事が理事会の一任を取り付
けて業務執行を決定し,他の理事らがかかる代表理事の業務執行に深く関与せず,
また,監事も理事らの業務執行の監査を逐一行わないという慣行が存在したとして
も,そのような慣行自体適正なものとはいえないから,これによって軽減されるも
のではない。したがって,原審判示のような慣行があったとしても,そのことをも
って被上告人の職責を軽減する事由とすることは許されないというべきである。
(2)前記事実関係によれば,Aは,平成13年1月25日開催の理事会におい
て,公的な補助金の交付を受けることにより上告人自身の資金的負担のない形で堆
肥センターの建設事業を進めることにつき承認を得たにもかかわらず,同年8月3
1日開催の理事会においては,補助金交付をB財団に働き掛けたなどと虚偽の報告
をした上,その後も補助金の交付が受けられる見込みがないにもかかわらずこれが
あるかのように装い続け,平成14年5月には,上告人に費用を負担させて用地を
取得し,堆肥センターの建設工事を進めたというのであって,このようなAの行為
は,明らかに上告人に対する善管注意義務に反するものといえる。
そして,Aは,平成13年8月31日開催の理事会において,補助金交付申請先
につき,方向転換してB財団に働き掛けたなどと述べ,それまでの説明には出てい
なかった補助金の交付申請先に言及しながら,それ以上に補助金交付申請先や申請
内容に関する具体的な説明をすることもなく,補助金の受領見込みについてあいま
いな説明に終始した上,その後も,補助金が入らない限り,同事業には着手しない
旨を繰り返し述べていたにもかかわらず,平成14年4月26日開催の理事会にお
いて,補助金が受領できる見込みを明らかにすることもなく,上告人自身の資金の
立替えによる用地取得を提案し,なし崩し的に堆肥センターの建設工事を実施に移
したというのであって,以上のようなAの一連の言動は,同人に明らかな善管注意
義務違反があることをうかがわせるに十分なものである。
そうであれば,被上告人は,上告人の監事として,理事会に出席し,Aの上記の
ような説明では,堆肥センターの建設事業が補助金の交付を受けることにより上告
人自身の資金的負担のない形で実行できるか否かについて疑義があるとして,Aに
対し,補助金の交付申請内容やこれが受領できる見込みに関する資料の提出を求め
るなど,堆肥センターの建設資金の調達方法について調査,確認する義務があった
というべきである。
しかるに,被上告人は,上記調査,確認を行うことなく,Aによって堆肥センタ
ーの建設事業が進められるのを放置したものであるから,その任務を怠ったものと
して,上告人に対し,農業協同組合法39条2項,33条2項に基づく損害賠償責
任を負うものというほかはない。
5以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。この点をいう論旨は理由があり,原判決中,被上告人に関する部分は破
棄を免れない。
そして,前記事実関係によれば,被上告人が上記調査,確認を行っていれば,A
が補助金の交付申請をすることなく堆肥センターの建設事業を進めようとしている
ことが容易に判明し,同事業が進められることを阻止することができたものという
べきところ,上告人は,Aによって同事業が進められた後になって,同事業の資金
調達のめどが立たず,その中止を余儀なくされた結果,合計5689万4900円
の損害を被ったというのであるから,被上告人が任務を怠ったことと,上告人に生
じた上記損害との間には相当因果関係がある。
そうすると,被上告人に対し,農業協同組合法39条2項,33条2項に基づく
損害賠償の一部請求として,1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日で
ある平成15年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める上告人の請求は理由があり,これを認容すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中川了滋裁判官今井功裁判官古田佑紀裁判官
竹内行夫)

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