弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人張有忠の上告理由について。
 土地の賃借人がその地上に所有する建物を他人に賃貸した場合において、土地賃
貸借と建物賃貸借とは別個の契約関係であるから、前者の終了が当然に後者の終了
を来たすものではない。もつとも、土地の賃貸借が終了するときは、その地上に借
地人所有の建物が存立しえないこととなる結果、建物賃借人は、土地賃貸人に対す
る関係においては、その建物を占有することによりその敷地を占有する権原を否定
され、建物から退去して敷地を明け渡すべきこととなり、結局、建物の賃貸借契約
も、その事実上の基礎を失い、賃貸人の債務の履行不能により消滅するに至るであ
ろうが、土地の賃貸借が終了したときにただちに右履行不能を生ずるものというべ
きではない。建物の賃借人がこれを現実に使用収益することに支障を生じない間は、
建物の賃貸借契約上の債権債務がその当事者間に存続することは、妨げられないも
のと解される。したがつて、土地の賃貸借が借地人の債務不履行により解除された
場合においても、その地上の建物の賃貸借はそれだけでただちに終了するものでは
なく、土地賃貸人と建物賃借人との間で建物敷地の明渡義務が確定されるなど、建
物の使用収益が現実に妨げられる事情が客観的に明らかになり、ないしは、建物の
賃借人が現実の明渡を余儀なくされたときに、はじめて、建物を使用収益させるべ
き賃貸人の債務がその責に帰すべき事由により履行不能となり、建物の賃貸借は終
了するに至ると解するのが相当であつて、それまでは、建物賃借人の建物賃貸人に
対する賃料債務は依然発生するものというべきである。
 原判決の確定したところによれば、被上告人と訴外Dとの間の本件士地の賃貸借
契約は、昭和四一年一月三日、Dの賃料不払により解除され、被上告人と上告人と
の間の訴訟において、同年一一月八日、上告人は被上告人に対し本件建物部分から
退去して本件土地を明け渡すべき旨の第一審判決が言い渡され、昭和四四年二月四
日、右判決が確定し、右確定判決に基づく建物退去土地明渡の強制執行が同年四月
二二日施行され完了したのであるが、上告人は、右強制執行のあるまでは、Dとの
間の賃貸借契約に基づいて、本件建物部分を占有使用していたというのである。し
てみれば、上告人に右建物敷地の明渡を命ずる前記判決が確定した昭和四四年二月
四日までは、少なくともDの上告人に対する契約上の義務の履行が不能状態にあつ
たものとはいえず、Dと上告人との間の本件建物賃貸借契約は存続していたもので、
上告人はその間Dに対し約定の賃料債務を負担していたものというべきである。そ
して、被上告人は、Dに対する金銭債権の強制執行として、Dの上告人に対する本
件建物部分の昭和四一年一一月一日から昭和四二年一一月三〇日まで一三ケ月分の
賃料債権合計七八万円につき差押および転付命令を得て、上告人に対しその支払を
求めているのである。したがつて、被上告人に転付された右賃料債権はその存在を
否定されないこと前記のとおりであるから、その支払を求める本訴請求を認容した
原判決の判断は正当であつて、なんら所論の違法はない。論旨は採用することがで
きない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三

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