弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人村井禄楼の上告理由について。
 論旨は、要するに、曳船D丸の船長及び海員の被曳船E丸及びその積荷に対する
本件救援救助行為が義務なくしてされたものとはいえないとして上告人らの海難救
助料請求を認めなかつた原審の認定判断を非難することに帰する。
 原審が確定したところによれば、(一)訴外株式会社F(以下訴外会社という。)
と被上告人B1株式会社(以下被上告人B1という。)との間に締結された本件曳
船契約に基づいて、昭和三七年一一月二八日訴外会社所有のD丸は、被上告人B1
所有のE丸を曳船し、日本の玉野市へ向けアメリカ合衆国ロスアンゼルス港を出港
したこと、E丸は、アメリカ合衆国法人である被上告人B2(以下被上告人B2社
という。)の所有に属する大型浚渫船とその附属品を積荷し、被上告人B1の派遣
した二等航海士ほか四名の海員が乗船していたこと、(二)同年一二月一一日D丸船
長であつた上告人らの被相続人亡Gは、被曳船E丸が左舷に約三度傾いているのに
気づき、直ちに同船乗組員に船艙内を調査させたところ、約二〇〇トンの浸水があ
ることが判明したので、同船備付けのポンプで排水するように指示するとともに、
このまま放置したのでは同船が航行不能ないしは沈没を免れえない状態にたちいた
ると判断して、急拠ハワイのホノルル港へ向かつて転進したこと、さらに同船の浸
水は約六〇〇トンに増加し、同船備付けのポンプ一台だけでは排水しきれないと判
断したG船長は、翌一二日D丸備付けのポンプを箱詰めにしたうえロープを用いて
これをE丸に送り込み、同船乗組員に指示して、同日午後五時ころから一四日の夕
方にかけては二台のポンプで、翌一五日正午からは一台のポンプによつて排水作業
を続けさせながら一六日午後ホノルル港に到着したこと、同港で検査したところ、
右浸水はE丸の船底になんらかの原因で生じた約二・五センチメートルの亀裂によ
るものであることが判明したこと、(三)被曳船E丸には、独力による航行能力がな
く、その乗組員は曳船中曳船D丸船長の指揮命令下におかれており、結局E丸は海
難に遭遇した際にも独自にこれに対処する能力も権限もなかつたこと、(四)本件曳
船契約においては、曳船中の海難事故による被曳船E丸及びその積荷の損傷につき
訴外会社は損害賠償責任を負わないと定められていたこと、(五)本件海難事故に関
して被上告人B1と訴外会社との間に救助料の支払について紛争が生じたが、昭和
三八年七月二五日曳航料とは別に同被上告人が訴外会社に解決金として八〇〇万円
を支払うことによつて紛争が解決されたこと、が認められるというのであり、右認
定は、原判決挙示の証拠に照らして是認することができ、その過程に所論の違法は
ない。
 右原審の適法に確定したところによれば、本件は、海難に遭遇した航海船とその
積荷に対する航海船の救援救助であり、救助船、被救助船ともに「海難における救
援救助についての規定の統一に関する条約」(大正三年条約第二号、以下海難救助
条約という。)の締結国である日本の国籍を有し、しかも積荷利害関係人たる被上
告人B2社はアメリカ合衆国法人であるから、海難救助条約一条、一四条、一五条
一項、二項二号により、本件海難救助料請求については同条約の適用があることが
明らかであるといわなければならない。ところで、海難救助条約は、救助料請求権
発生の要件として救助が義務なくしてされたことを積極的に規定せず、その四条に
おいて、曳船が曳船契約の履行と認められない特別の労務をしたときでないかぎり、
被曳船又はその積荷の救援救助について報酬を請求することができないとするにと
どまるのであるが、これは、最も多くの問題を生ずる曳船行為について争を避ける
ため、特に規定を設けたものにすぎないのであつて、救助料請求権が発生するため
に救援救助行為が義務なくしてされたものであることを要する点においては、同条
約は、わが商法八〇〇条と全く同一の立場をとるものと解せられる。
 おもうに、曳船の所有者は、通常生ずるとはいえない異常な事態が生じたため、
曳航作業自体に予想を超える労力あるいは費用を要する場合でも、自船に急迫な危
険が存在しないかぎり、曳船を途中で放棄することはできないものというべく、原
則として、被曳船のおちいつた危険に対しても信義則上相当と認められる程度の適
切な処置をとるべき契約上の義務を負担するものと解するのが相当である。したが
つて、曳船所有者は、右義務の範囲内にあるかぎり、被曳船所有者又はその契約上
の利益を享受しうる立場にある積荷の所有者に対して海難救助条約に基づく救助料
を請求することはできず、このような場合には、曳船の船長及び海員もまた右救助
料を請求することができないと解せられる。いまこれを本件についてみるに、前記
原審の確定した事実関係のもとにおいて、D丸の船長及び海員がE丸の浸水事故に
対してとつた本件救援救助行為は、その性質、程度に照らし、本件曳船契約上訴外
会社が負担すべき義務の範囲内のものであり、したがつてG船長は被上告人B1あ
るいは同B2社に対し、右救援救助行為について海難救助料の支払を求めることが
できないものと解するのが相当である。したがつて、これと結論を同じくする原審
の判断は、結局、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論
旨は、原審の専権に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するか、または判決の結
論に影響を及ぼさない部分をとらえて原判決を論難するに帰し、採用することがで
きない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫

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