弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における未決勾留日数中一三〇日を原審の刑に算入する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人鈴木重一提出の控訴趣意書のとおりであるから、これを
引用し、これに対し次のように判断する。
 趣意、一、について、
 原判決引用の証拠によれば、被告人は洋品類を窃取した後、恰もこれを正当に購
入したもののように装い嘘言を弄して返金名義の下に金員等を騙取しようと企て、
原判示第一の(1)の各窃盗を犯し、次で、判示第二の(1)(2)(3)のよう
にその被害者方店員等に対し窃取にかかる衣類を提出して右趣旨の申出をし同人等
を欺罔し現金などを騙取、または、その未遂を犯したことが認められる。弁護人の
所論は、まず、本件の窃盗の動機は詐欺を犯すためのものであるから、一連の行為
として窃盗罪か詐欺罪かの一罪に問擬すべきものである。すなわち、窃盗罪とすれ
ば詐欺の行為は事後処分であつて別罪を構成しないと主張するのである。犯人がそ
の窃取にかかる<要旨第一>財物を処分しても事後処分として別に犯罪を構成しない
ことは論をまたないが、本件のように、窃取した洋品類を正当に買入れ
たものと詐つて金員等を騙取した場合は、更に新たな法益を侵害したもので、これ
を目して事後処分ということはできず窃盗罪のほか詐欺罪を構成するものと解する
を正当とするので、右所論は採らない(昭和三六年二月二八日東京高等裁判所第八
刑事部判決参照。)。次に、所論は、主観的には本件窃盗行為も継続して敢行され
ておるのであるから一連の一罪である。また、他面窃盗と詐欺との間には主観的に
手段結果の関係にあるから刑法第五四条第一項後段によつて一罪として処分すべき
である。仮に、併合罪としても原判決はどの分とどの分とを併合しているのか特定
していないというのである。しかし、本件犯行は昭和三六年二月中旬から同年六月
中旬迄の間時と場所を異にし(場所が同一のものもあるが)行われたもので未だも
つて包<要旨第二>括一罪とは認め難い。また、刑法第五四条第一項後段の牽連犯の
成立には罪質上通例手段結果の関係があることを要するものと解すべき
ところ、窃盗と詐欺との間にはその関係があるとは認められないので本件を牽連犯
ということはできない。従つて原判決が、窃盗、詐欺の併合罪として処断したのは
正当で、しかも、原判決は刑法第四五条前段、第四七条本文、第一〇条を適用し最
も犯情の重い前記第一の(1)別表一の10の窃盗の罪に法定の加重をしておるの
であつて、何らの誤りもない。論旨はいずれも理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 小林健治 判事 浜田潔夫 判事 松本勝夫)

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