弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決中,上告人らに関する部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は,被上告人の負担とする。
理由
上告代理人大河原弘,同宇多正行,上告復代理人吉川佳子の上告受理申立て理由
について
1本件は,第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」とい
う。)を所有し,上告人Yに賃貸している被上告人が,無断転貸を理由とする賃1
貸借契約の解除を主張して,①上告人Y並びに本件土地上の同目録記載2の建物1
(以下「本件建物」という。)を共有する上告人Y及び同Yに対し,本件建物を23
収去して本件土地を明け渡すことを,②本件建物を占有する上告人株式会社Yに4
対し,本件建物から退去して本件土地を明け渡すことを求めるとともに,③上告人
らに対し,賃料相当損害金を連帯して支払うことを求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人Yの父Aは,昭和21年ころ,被上告人の父Bが所有していた本件1
土地を賃借してその上に建物(以下「旧建物」という。)を建築し,以後そこに居
住して畳製造販売業を営んでいた。その後,Aの死亡に伴い旧建物を相続により取
得した上告人Yは,Bの死亡に伴い本件土地を相続により取得した被上告人との1
間で,昭和62年3月9日,本件土地の賃貸借契約を更新する旨合意した(以下,
上記合意更新後の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。本件賃貸借契約に
は,賃借人が本件土地上の建物をほかに譲渡するときは,あらかじめ賃貸人の承諾
を受けなければならない旨の特約がある。
(2)上告人Yは,旧建物に妻である上告人Y及び子であるCと共に居住する12
とともに,旧建物を本店所在地として,上告人株式会社Yを設立し,その代表取4
締役に就任し,引き続き旧建物において畳製造販売業を営んできたが,同年2月1
4日,Cが上告人Yと婚姻し,昭和63年3月30日,Cと上告人Yの間にDが33
出生し,上告人Y及びDも旧建物に同居するようになった。3
(3)Cと上告人Yは,平成9年ころ,旧建物の建て替えに反対していた上告人2
Yの了解を得ずに,被上告人との間で,建て替え後の建物の持分を上告人Y及び11
Cにつき各2分の1とすることを前提として,建物の建て替えの承諾条件につき交
渉を行った。被上告人は,Cとの間で,旧建物の建て替え及び本件土地の転貸の承
諾料を400万円とすることを合意した。
(4)その後,Cは,被上告人に対し,金融機関から融資を受ける都合上,建て
替え後の建物の共有者に上告人Yを加え,各人の持分を上告人Yにつき10分の21
1,Cにつき10分の7,上告人Yにつき10分の2にしたいとの申入れをし2
た。被上告人は,先に合意した承諾料の額を変更することなく,これを承諾した。
(5)旧建物の建て替え後の建物である本件建物は,平成10年3月完成した。
本件建物については,上記申入れの内容とは異なり,Cの持分を10分の7,上告
人Yの持分を10分の3としてC及び上告人Yが共有することとなり,その旨の22
所有権保存登記がされた。C及び上告人Yは,上告人Yが持分を取得しないこと21
を被上告人に説明すると,旧建物の建て替えについて承諾が得られず,承諾を得ら
れるとしても承諾料その他の条件が不利なものになる可能性があると考えて,上記
の事実を被上告人に説明しなかった。
(6)上告人Yは,最終的に,C及び上告人Yが本件建物を建築し,上記の持12
分割合でこれを共有することを容認し,これにより本件土地が上告人YからC及1
び上告人Yに転貸されることになった(以下,この転貸を「第1転貸」とい2
う。)。本件建物には,旧建物と同様に,上告人Y,同Y,C,上告人Y及び123
Dの5名が居住するとともに,上告人株式会社Yの本店が置かれてきた。4
(7)Cは,平成17年2月,上告人Yとの離婚の届出をし,財産分与として本3
件建物の持分10分の7を上告人Yに譲渡した。この財産分与に伴い,本件建物3
3の敷地である本件土地につきCが有していた持分10分の7の転借権も上告人Y
に移転した。上告人Yは,上記財産分与が行われたことを容認し,これにより本1
件土地が上告人Yから上告人Yに転貸されることになった(以下,この転貸を13
「第2転貸」という。)。
(8)Cは,同年6月に破産手続開始の決定を受けた。Cは,同年8月に本件建
物から退去したが,上告人Y及びDは,その後も上告人Y及び同Yと共に本件312
建物に居住している。
(9)被上告人は,同年6月17日ころ,本件建物の登記事項証明書を取り寄せ
て,①本件建物の所有権保存登記がC及び上告人Yを共有者としてされていて,2
上告人Yはその建築当初から持分を有しないこと,②本件建物のCの持分は同年1
2月22日財産分与を原因として上告人Yへ移転した旨の登記がされていること3
を知り,同年8月28日,上告人Yに対し,同月末日をもって本件賃貸借契約を1
解除する旨の意思表示をした(以下,この意思表示を「本件解除」という。)。
(10)上告人Yは,旧建物を建て替えた後,本件賃貸借契約に基づく賃料の支1
払を遅滞したことがない。
(11)被上告人は,本件解除においては,第2転貸が被上告人に無断で行われた
ことを理由としていたが,本件訴訟において,第1転貸が被上告人に無断で行われ
たことも解除の理由として追加して主張している。
3原審は,上記事実関係の下で,次のとおり,第1転貸及び第2転貸のいずれ
についても,被上告人に無断で行われたことにつき背信行為と認めるに足りない特
段の事情があるとはいえないと判断して,被上告人の上告人らに対する請求をいず
れも認容した。
(1)第1転貸については,①旧建物の建て替えの承諾条件について交渉を行っ
たCが,上記条件が不利なものになりかねないと考えて,建て替え後の本件建物の
共有持分を上告人Yが取得しないことをあえて被上告人に説明しなかったこと,1
②上告人Yが本件建物の共有者とならない場合,被上告人において承諾料の増額1
を要求していたと推認されることなどを勘案すると,これが被上告人に無断で行わ
れたことにつき賃貸人である被上告人に対する背信行為と認めるに足りない特段の
事情があるとはいえない。
(2)第2転貸についても,①Cの離婚を隣人である被上告人に話しにくいとい
う事情があったとしても,被上告人に無断で本件土地を上告人Yに転貸したこと3
を正当化すべき事由にはならないこと,②Cが破産手続開始の決定を受けたことに
より,上告人Y一家の生活状況や資産内容に少なからず影響があったと考えられ1
ることなどを勘案すると,上記特段の事情があるとはいえない。
4しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
1(1)前記事実関係によれば,第1転貸は,本件土地の賃借人である上告人Y
が,賃貸人である被上告人の承諾を得て本件土地上の上告人Y所有の旧建物を建1
て替えるに当たり,新築された本件建物につき,C及び上告人Yの共有とするこ2
とを容認し,これに伴い本件土地を転貸したものであるところ,第1転貸による転
借人らであるC及び上告人Yは,上告人Yの子及び妻であって,建て替えの前後21
を通じて借地上の建物において上告人Yと同居しており,第1転貸によって本件1
土地の利用状況に変化が生じたわけではない上,被上告人は,上告人Yの持分を1
10分の1,Cの持分を10分の7,上告人Yの持分を10分の2として,建物2
を建て替えることを承諾しており,上告人Yの持分とされるはずであった本件建1
物の持分10分の1が上告人Yの持分とされたことに伴う限度で被上告人の承諾2
を得ることなく本件土地が転貸されることになったにとどまるというのである。そ
して,被上告人は,上告人YとCが各2分の1の持分を取得することを前提とし1
12て合意した承諾料につき,これを増額することなく,上告人Y,C及び上告人Y
の各持分を上記割合として建物を建て替えることを承諾し,上記の限度で無断転貸
となる第1転貸がされた事実を知った後も当初はこれを本件解除の理由とはしなか
ったというのであって,被上告人において,上告人Yが本件建物の持分10分の1
1を取得することにつき重大な関心を有していたとは解されない。
そうすると,上告人Yは本件建物の持分を取得しない旨の説明を受けていた場1
合に被上告人において承諾料の増額を要求していたことが推認されるとしても,第
1転貸が上記の限度で被上告人に無断で行われたことにつき,賃貸人である被上告
人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるというべきである。
(2)また,前記事実関係によれば,第2転貸は,本件土地の賃借人である上告
人Yが,本件土地上の本件建物の共有者であるCにおいてその持分を上告人Yに13
譲渡することを容認し,これに伴い上告人Yに本件土地を転貸したものであると3
ころ,上記の持分譲渡は,上告人Yの子であるCから,その妻である上告人Yに13
対し,離婚に伴う財産分与として行われたものである上,上告人Yは離婚前から3
本件土地に上告人Yらと共に居住しており,離婚後にCが本件建物から退去した1
ほかは,本件土地の利用状況には変化が生じていないというのであって,第2転貸
により賃貸人である被上告人が何らかの不利益を被ったことは全くうかがわれな
い。
そうすると,第2転貸が被上告人に無断で行われたことについても,上記の特段
の事情があるというべきである。
(3)以上によれば,第1転貸及び第2転貸が被上告人に無断で行われたことを
理由とする本件解除は効力を生じないものといわなければならず,被上告人の上告
人らに対する請求はいずれも理由がない。
これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反が
ある。論旨は理由があり,原判決中上告人らに関する部分は破棄を免れない。そし
て,被上告人の上告人らに対する請求をいずれも棄却した第1審判決は正当である
から,上記部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中川了滋裁判官今井功裁判官古田佑紀裁判官
竹内行夫)

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