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平成25年4月10日判決言渡
平成24年(行ケ)第10328号審決取消請求事件
平成25年3月6日口頭弁論終結
判決
原告ザプロクターアンドギャンブル
カンパニー
訴訟代理人弁護士吉武賢次
同宮嶋学
同大野浩之
同髙田泰彦
同柏延之
訴訟代理人弁理士勝沼宏仁
同中村行孝
同小島一真
被告特許庁長官
指定代理人森川元嗣
同竹之内秀明
同氏原康宏
同芦葉松美
主文
1特許庁が不服2009-10504号事件について平成24年5月8日にし
た審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2当事者間に争いのない事実等
1特許庁における手続の経緯等
原告は,発明の名称を「臭気中和化および液体吸収性廃棄物袋」とする発明につ
いて,1999年(平成11年)11月16日(パリ条約による優先権主張外国
庁受理1998年11月16日,米国)を国際出願日とする出願(特願200
0-582314号)をし,平成21年2月2日付け手続補正書により明細書及
び図面を補正したが,同月23日付けで拒絶査定がされた。これに対し,原告は,
平成21年6月1日,拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2009-1050
4号)をしたが,特許庁は,平成22年7月5日,「本件審判の請求は,成り立た
ない。」との審決(以下「第1審決」という。)をした。原告は,第1審決について,
知的財産高等裁判所に審決取消請求訴訟(当庁平成22年(行ケ)第10351号。
以下「前訴」という。)を提起したところ,平成23年9月28日,第1審決を取り
消すとの判決がされた(以下「前訴判決」という。)。特許庁は,本願について更に
審理し,平成24年5月8日,再び,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された
(附加期間90日)。
2特許請求の範囲の記載
平成21年2月2日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲(請求項の数
6)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を
「本願発明」といい,同補正後の明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。)
「【請求項1】
飲食物廃棄物の処分のための容器であって,飲食物廃棄物を受け入れるための開
口を規定し,かつ内表面および外表面を有する液体不透過性壁と,前記液体不透過
性壁の前記内表面に隣接して配置された吸収材と,前記吸収材に隣接して配置され
た液体透過性ライナーとを備え,前記容器は前記吸収材上に被着された効果的な量
の臭気中和組成物を持つ,飲食物廃棄物の処分のための容器。」
3第1審決及び前訴判決の内容
第1審決は,主引用例を実願昭62-152931号(実開平1-58507号)
のマイクロフィルム(本件審決の引用例4)とし,①本願発明と引用発明との相違
点1(吸収材に隣接して液体透過性ライナーを配置すること)については,周知例
1(実願昭56-194196号(実開昭58-101737号)のマイクロフィ
ルム),同2(特開平9-315507号公報。本件審決の主引用例),同3(実願
昭63-153557号(実開平2-74398号)のマイクロフィルム),同4(特
開平9-295680号公報),同5(特開平2-57583号公報)に記載される
ように周知の事項である,②相違点2(吸収材にゼオライト等の臭気中和組成物を
保持させるのに,その組成物を吸収材上に被着させて行うこと)については,周知
例6(特開平9-239903号公報。本件審決の引用例2),同7(欧州特許出願
公開第0811390号明細書)に記載されるように周知の事項であるとして,本
願発明は容易想到であるとしたものである(甲4)。
これに対し,前訴判決は,上記主引用例に記載された発明において,①相違点1
に係る構成を採用する動機付けがなく,同構成に至ることが容易であるとの結論に
至る合理的な理由が示されていない,②相違点2に係る構成を採用することは,特
段の事情のない限り回避されるべき手段であり,同構成に至ることが容易であった
とはいえないとして,第1審決を取り消した(甲5)。
4本件審決の理由
本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特
開平9-315507号公報(以下,「引用例1」といい,引用例1に記載された発
明を「引用発明」という。)に記載された発明及び特開平9-239903号公報(以
下,「引用例2」という。)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであり,特許法29条2項により特許を受けることができない,
というものである。
本件審決が認定した引用発明の内容,同発明と本願発明との一致点及び相違点は
以下のとおりである。
(1)引用発明の内容
「厨芥などのごみ袋であって,厨芥などを受け入れるための入口4を有し,かつ
内表面および外表面を有する液体の不透過性の表面材3と,前記液体の不透過性の
表面材3の前記内表面に隣接して配置された水分吸収体2と,前記水分吸収体2に
隣接して配置された液体の透過性の内面材1とを備えた厨芥などのごみ袋。」
(2)一致点
「飲食物廃棄物の処分のための容器であって,飲食物廃棄物を受け入れるための
開口を規定し,かつ内表面および外表面を有する液体不透過性壁と,前記液体不透
過性壁の前記内表面に隣接して設置された吸収材と,前記吸収材に隣接して配置さ
れた液体透過性ライナーとを備える飲食物廃棄物の処分のための容器。」
(3)相違点
本願発明では,容器は吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つ
のに対し,引用発明では,容器(ごみ袋)は臭気中和組成物を有していない点。
第3当事者の主張
1取消事由に係る原告の主張
(1)取消事由1(拘束力違反)
本件審決は,以下のとおり,前訴判決の拘束力に反するものである。
すなわち,本件審決で主に引用されている引用例1~4のうち,引用例1,2及
び4は,第1審決においても引用されていたものであるし,引用例3は,第1審決
前の審査段階における拒絶理由通知で引用されていたものである。そうすると,本
件審決における主な引用例は,第1審決と実質的に同一であり,主引用例としてい
たものと従たる引用例としていたものの役割を変更させて説明を継ぎ足したものに
すぎず,前訴判決の判断を実質的に蒸し返すものである。
また,前訴判決は,相違点2に関して,臭気中和組成物は,混合,被着のいずれ
もが想定される態様であるものの,引用発明(本件審決の引用例4)の練り込む態
様を被着する態様(周知例6=本件審決の引用例2)に変更することは容易でない
と判断した。その趣旨は,液体吸収層の上に臭気中和組成物を被着すると十分な消
臭効果を発揮できないため,このような問題が生ずる構成を採用することは回避さ
れるというものである。このことは,液体吸収層に練り込まれている臭気中和組成
物を被着された態様に変更する場合のみならず,臭気中和組成物が用いられていな
い液体吸収層に臭気中和組成物を被着させる場合にも同様に当てはまる。
したがって,本件審決において,臭気中和組成物を有さない引用発明に,引用例
2~4を適用して,臭気中和組成物を被着してなる本願発明に至ることが容易であ
ると判断することは,前訴判決の拘束力に反するものであり,行政事件訴訟法33
条1項に違反する。
(2)取消事由2(相違点に関する容易想到性判断の誤り)
本件審決は,引用発明において,効果的な量の臭気中和組成物を吸収材上に被着
して相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは,引用例2記載の事
項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであると判断する。
しかし,審決の容易想到性判断には,以下のとおり,誤りがある。
ア本件審決は,容易想到性判断の前提として,厨芥等の生ごみは臭気を発生す
るものであるから,生ごみの容器や袋等に脱臭剤や吸臭剤を配置して臭気を吸収さ
せる必要があることは周知の課題であり,引用発明においても脱臭剤などが必要で
あるという課題を有すると認定する。
しかし,引用発明と本願発明は,ごみ袋の発明という限りにおいて共通するもの
の,引用発明は,真空輸送設備により効率的にごみを輸送することを課題としてお
り,厨芥等のごみを収集機関により収集されるまで家庭等に置くことにより,腐敗
が進行し悪臭を生むような事態は想定されておらず,消臭剤等を適用して臭気を除
去することの動機付けを欠く。また,引用例1には,ごみ袋に水切り用孔を設ける
ことや,真空輸送中にごみ袋が破損してもよいことなど,本願発明のように臭気を
除去することとは全く相容れない記載があるから,引用発明に臭気中和組成物を組
み合わせることの阻害要因がある。
これに対して,被告は,厨芥等の生ごみを収容する容器であれば,いかなるもの
でも常に厨芥等から生ずる腐敗臭を除去するという課題が生じており,その課題解
決のためには当然,消臭剤等を施さなければならないと主張する。しかし,厨芥は
常に耐え難い腐敗臭を発生させるものではなく,ある程度高温の下で長期間放置さ
れることにより腐敗が進行し悪臭が発生するのであって,そのような使用態様が想
定されていない引用発明は,厨芥を収容する容器であっても悪臭を除去するという
解決課題自体が存在しない。
したがって,引用発明において消臭剤等を適用するという動機付けが存在しない。
イ本件審決は,引用発明においても脱臭剤などが必要であるという前提の下,
脱臭剤などを配置する際に,水分と臭いを吸収するシートに関する技術である引用
例2に記載された事項は当然に検討されるはずのものであるとして,引用発明にお
いて,効果的な量の臭気中和組成物を吸収材上に被着して相違点に係る本願発明の
発明特定事項のようにすることは,当業者が容易に想到し得たことであると判断す
る。
しかし,引用例2には,膨潤性シートに活性炭やゼオライトなどの脱臭剤が添加
されたものが記載されているが,化粧料や薬用ハップ剤の基材や新鮮食料品の保存
のためにトレイと食品との間に置くシートとして用いられるものであって,本願発
明や引用発明のような飲食物の廃棄物や食べ残しなどの生ごみを便利に入れて置く
ことのできるごみ袋とは,技術分野・目的・解決課題・作用効果・機能等を異にす
る。また,引用例2の段落【0005】には,「茶抽出物やゼオライトなどの吸着性
粉体を添加したり塗工する必要があるが,吸着性粉体が脱落するので,用途が制限
されている」との記載があり,吸収材上にゼオライト等の消臭剤を被着させると脱
落して十分な消臭機能を発揮しないため,ごみ袋を含めた他の分野にこのような構
成を用いるのを避けようとするのが通常であるから,引用発明に引用例2のような
構成を適用することには阻害要因が存在する。
さらに,引用例3のごみ容器の蓋に脱臭剤収容部を設けている態様に代えて本願
発明のように臭気中和組成物を吸収材に被着することは容易でなく,引用例4の練
り込む態様に代えて本願発明のような被着する態様に変更することも容易でない。
したがって,引用発明において消臭剤等を適用するという動機付けが存在すると
しても,臭気中和組成物を吸収材に被着するとの構成に想到することは容易といえ
ない。
ウ以上のとおり,本願発明と引用発明との相違点について,引用例2記載の事
項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるとした審決の容易想到性判断に
は誤りがある。
2被告の反論
(1)取消事由1(拘束力違反)に対して
原告は,本件審決は,前訴判決の拘束力に反すると主張する。
しかし,一般に,出願に係る発明と対比する対象である主たる引用例が異なれば,
一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる進歩性の判
断の内容も異なることになる。
この点,本件審決は,第1審決の引用発明(本件審決の引用例4)でなく,第1
審決の周知例2に記載された発明を引用発明として認定し,これを起点として,相
違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは,引用例2(第1審決の周
知例6)に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たと判断したもので
あるから,前訴判決の拘束力に反しない。
これに対し,原告は,前訴判決は,本件審決の引用例2(第1審決の周知例6)
の記載を基に引用例3,4(第1審決の主引用例)のような臭気中和組成物の態様
に代えて,本願発明のような臭気中和組成物を被着させる態様を採用することは容
易でない旨判示しているに等しいと主張する。しかし,前訴判決は,第1審決の引
用発明(抗菌性ゼオライトを吸収性ポリマーに練り込むこと)を起点として,周知
事項2(吸収材にゼオライト等の臭気中和組成物を保持させるのに,その組成物を
吸収材上に被着させて行うこと)を適用することにより当業者が容易になし得たも
のということはできないとして,第1審決を取り消したものにすぎない。
以上のとおり,第1審決の主たる引用例と異なる刊行物を主たる引用例として判
断した本件審決は,前訴判決の拘束力に反せず,行政事件訴訟法33条1項に違反
しない。
(2)取消事由2(相違点に関する容易想到性判断の誤り)に対して
原告は,本願発明と引用発明との相違点について,引用例2記載の事項に基づい
て当業者が容易に想到し得たことであるとした審決の判断には誤りがあると主張す
る。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
ア引用発明は,段落【0004】の記載によれば,液体不透過性の表面材によ
り,厨芥から出た水分をごみ袋の内部に閉じ込め,漏れ出しを抑制するものであり,
これにより腐敗臭,悪臭,汚水の発生しないごみ袋を提供するものである。
これに対し,原告は,引用発明は,家庭内で用いられることを想定したものでは
なく,真空輸送設備用のものであって,本願発明とは解決課題が異なると主張する。
しかし,引用発明は,厨芥,すなわち,腐敗しやすく悪臭を発生することが想定
されるごみを収容するごみ袋であり,腐敗臭,悪臭,汚水の発生を抑制すべき技術
課題を内在することは明らかであって,それは引用発明のごみ袋が真空輸送設備に
用いられるもの,すなわち業務用に用いられるものであっても否定されることはな
い。
また,原告は,引用例1には,水切り用孔を設置することや真空輸送中に破損し
てよいことが記載されているから,引用発明は,廃棄物から出た液体の漏出や悪臭
を放つことを効率よく抑制するという作用・機能を有さないと主張する。
しかし,引用例1には,事前に水切りを行えるなどの場合には水切り用孔を穿設
してもよい旨記載されているにすぎず,引用発明は,厨芥から出た液体の漏れ出し
を効率よく抑制するという作用・機能の点で本願発明と何ら変わるものではなく,
上記記載をもって,引用発明の作用・機能や内在する技術課題を否定することはで
きない。
したがって,引用発明においても消臭剤等を適用するという動機付けが存在する。
イ引用例2に記載されるように,食品類から出る液汁を吸収し,アンモニアや
アミン臭を低減するシートは周知のものであるところ,引用例2に記載された事項
は,食品容器内に敷くシートのみならず,吸液と脱臭を必要とする各種の用途に適
用できる技術であって,ごみ袋と技術分野・目的・解決課題・作用効果・機能等を
異にするものではない。
これに対し,原告は,引用例2には,吸着性粉体を添加ないし塗工する必要があ
るが,吸着性粉体が脱落するので用途が制限されているとの記載があり,ごみ袋へ
の適用が阻害されると主張する。
しかし,上記記載は,引用例2に記載された発明の課題との関係で,茶抽出物や
ゼオライトなどの吸着性粉体を添加ないし塗工するものにおいては吸着性粉体が脱
落することがあることを述べるものであって,審決で認定した引用例2に記載され
た事項を引用発明のごみ袋へ適用することについて阻害事由となるものではない。
したがって,引用発明において臭気中和組成物を吸収材に被着するとの構成に想
到することも容易である。
ウ以上のとおり,本願発明と引用発明との相違点について,引用例2記載の事
項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるとした審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,本件審決は,前訴判決の拘束力に違反しないが,相違点に係る容易
想到性判断に誤りがあり,これを取り消すべきものと判断する。その理由は,以下
のとおりである。
1取消事由1(拘束力違反)について
原告は,本件審決が前訴判決の拘束力に違反すると主張する。
しかし,前訴判決は,第1審決が本件審決の引用例4を主引用例とし,相違点1
(吸収材に隣接して液体透過性ライナーを配置すること)及び相違点2(吸収材に
ゼオライト等の臭気中和組成物を保持させるのに,その組成物を吸収材上に被着さ
せて行うこと)に係る構成は,いずれも周知例に記載された事項に基づいて容易に
想到し得たことであると判断したのに対し,主引用例に記載された発明において,
①相違点1に係る構成を採用する動機付けがなく,同構成に至ることが容易である
との結論に至る合理的な理由が示されていない,②相違点2に係る構成を採用する
ことは,特段の事情のない限り回避されるべき手段であり,同構成に至ることが容
易であったとはいえないとして,第1審決を取り消したものである(甲5。なお,
前訴判決の相違点2に関する判断は,上記のとおり,液体吸収層に練り込まれてい
る臭気中和組成物を被着された態様に変更することに関するものであって,臭気中
和組成物が用いられていない液体吸収層に臭気中和組成物を被着させることに関す
る判断まで包含するものとは認め難い。)。
これに対し,本件審決は,上記のとおり,第1審決において,相違点1に係る周
知例2として示された文献を主引用例とし,臭気中和組成物の有無を相違点として,
主として引用例2(第1審決の周知例6)に記載された事項から,上記相違点に係
る構成に想到することは容易であったとの判断をしたものである。
そうすると,本件審決は,主引用例を入れ替えたことにより,前訴判決とは判断
の対象を異にするものと認められるから,前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法33
条1項)に違反するとはいえない。
したがって,原告主張の取消事由1には理由がない。
2取消事由2(相違点に関する容易想到性判断の誤り)について
(1)事実認定
ア本願発明
(ア)本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりである。
(イ)本願明細書(甲1)には,以下の記載がある。
「【0002】
発明の背景
食事あるいは飲食品の調製および消費中に,食べることのできない,あるいは望
まれていない飲食物の食べ残しや廃棄物が生じるのが一般的である。・・・これらの
食べかすの安全で衛生的な処分は,飲食物の調整の終りに,かなりの量の余分な労
力を付け足す。
【0003】
一般に,これらの飲食物の食べかすは,紙製あるいはプラスチック製の廃棄物袋
に入れるか,注がれることによって処分される。この袋は,地元のごみ収集機関に
より収集されるまで,消費者の家あるいはその近くに置かれる。この飲食物廃棄物
の処分方法は,便利ではあるが,多くの問題がある。第一に,液状の飲食物廃棄物
は,しばしば袋を通りぬけて漏れ出し,このため飲食物廃棄物は,広範囲にわたっ
て広がる。第二に,もしこの袋が室温よりも十分な低温に置かれていなければ,飲
食物廃棄物の腐敗が,強く,不快な悪臭を生む。・・・」
「【0006】
・・・消費者は,飲食物の食べ残しや廃棄物を薄いプラスチック袋・・・の中に
入れ,袋を閉じ,そしてその袋を生ごみバケツに入れる。しかし,これは一時的な
解決方法でしかない。悪臭は,そのような袋を構成する薄いプラスチックからすぐ
に拡散して出ていき,またそのような袋は典型的に,液状の廃棄物を短時間だけし
か入れて置くことができないであろう。加えて,これらの袋は,一般に,液体を入
れて置けるようには設計されておらず,閉じたり,封止をする手段を持っていない
ので,液状の廃棄物が漏れ出すという別の可能性がある。
【0007】
したがって,本発明の利点は,飲食物の食べ残しと廃棄物の処分に適し,液状の
廃棄物を吸収する吸収材と不快な臭気を中和する臭気中和成分を含む経済的な漏れ
止めプラスチック袋を提供するということである。・・・」
イ引用例1
引用例1(甲8)には,次の記載がある。
「【請求項1】水分を透過する内面材と,水分を透過させない表面材と,上記内
面材と上記表面材とに挟まれ水分を吸収して凝固させる水分吸収体との多重構造の
シート材を袋状に形成したことを特徴とするごみ袋。
【請求項2】上記内面材に水分を透過させる開孔が穿設されていることを特徴と
する請求項1に記載のごみ袋。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,真空輸送に不適な厨芥など水分の多いごみ
を真空輸送する場合などに適用されるごみ袋に関する。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・従来は厨芥など水分の多いごみは真空輸送
設備により効率的に輸送することができず,これら真空輸送に不適な水分の多いご
みは別途に収集車などを用いて処理したり,スラリー輸送設備などを設置して処理
するなどしているため,人件費などが費かり,また設備費などが増大するうえ,ス
ラリー輸送には多量の水を必要とするために給水設備や輸送後の水処理設備などに
大きなスペースを要する。また,ごみ袋に詰めて真空輸送する場合は,輸送途中で
破袋して水分が飛散するなどのトラブルが発生する。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明に係るごみ袋は上記課題の解決を目的にし
ており,水分を透過する内面材と,水分を透過させない表面材と,上記内面材と上
記表面材とに挟まれ水分を吸収して凝固させる水分吸収体との多重構造のシート材
で袋状に形成されている。このような多重構造のシート材で形成されたごみ袋内に
厨芥など水分の多いごみを詰めることにより,ごみの水分がごみ袋の内部に閉じ込
められてごみが真空輸送設備の管壁に付着したり他の乾燥したごみを濡らして重く
したりすることなどがなくなり,厨芥など水分の多いごみが真空輸送に適した状態
となる。また,真空輸送中にごみ袋が破損しても水分がごみ袋の中で凝固している
ことにより,水分が飛散するなどのトラブルが発生しない。
【0005】また,本発明に係るごみ袋は,水分を透過する内面材と,水分を透
過させない表面材と,上記内面材と上記表面材とに挟まれ水分を吸収して凝固させ
る水分吸収体との多重構造のシート材で袋状に形成されているとともに,上記内面
材に水分を透過させる開孔が穿設されている。このような多重構造のシート材で形
成されたごみ袋内に厨芥など水分の多いごみを詰めることにより,ごみの水分がご
み袋の内部に閉じ込められてごみが真空輸送設備の管壁に付着したり他の乾燥した
ごみを濡らして重くしたりすることなどがなくなり,厨芥など水分の多いごみが真
空輸送に適した状態となる。また,真空輸送中にごみ袋が破損しても水分がごみ袋
の中で凝固していることにより,水分が飛散するなどのトラブルが発生しない。ま
た,内面材に開孔を穿設することにより,より一層ごみの水分が内面材を透過して
水分吸収体に吸収され易くなる。
【0006】
【発明の実施の形態】・・・図において,本実施の形態に係るごみ袋は厨芥など水
分の多いごみを真空輸送する場合などに使用されるもので,真空輸送に適さない厨
芥など水分の多いごみを真空輸送に適する状態に変えて輸送するため,中に水分を
吸収する凝固剤を含んだ多重構造のシート材を袋状に形成しており,本ごみ袋の中
に厨芥など水分の多いごみを入れることによりごみの水分を本ごみ袋が吸収して凝
固させ,本ごみ袋の凝固剤に吸収されて凝固した水分が本ごみ袋内に閉じ込められ
ることにより,ごみが真空輸送設備の管壁に付着したり他の乾燥したごみを濡らし
て重くしたりすることがなく,厨芥など水分の多いごみを真空輸送に適した状態に
して真空輸送することができ,本ごみ袋を用いることにより既存の真空輸送設備に
変更を加えることなく厨芥など水分の多いごみを容易に真空輸送することができる
ようになっている。」
「【0008】・・・本ごみ袋外面の表面材3は水分を通過させない材質のものが
採用されているが,厨房内などに水切り設備を設置して事前に水切りを行えるなど
の場合は,本ごみ袋の下部に水切り用孔6を穿設してもよく,この場合はより一層
効果的にごみの水分を取り除くことができる。このようにして,厨芥など水分の多
いごみは本ごみ袋内に入った状態で真空輸送され,仮に真空輸送中に本ごみ袋が破
損しても水分がごみ袋内で凝固しているため,ごみが真空輸送設備の管壁に付着し
たり,水分が他の乾燥したごみに透み込んだりするなど管内閉塞の原因となる可能
性が小さい。」
「【0010】
【発明の効果】本発明に係るごみ袋は前記のように構成されており,厨芥など水
分の多いごみが真空輸送に適した状態となるので,真空輸送設備でも容易に厨芥な
ど水分の多いごみを輸送することができて収集車などを用いて処理したりスラリー
輸送設備などを設置して処理する必要がなくなり,人件費や設備費などが低減され
るとともに省スペース化を計ることができる。」
(2)判断
本願発明は,上記特許請求の範囲及び本願明細書の記載によれば,飲食物廃棄物
の処分のための容器であって,液体不透過性壁と,液体不透過性壁の内表面に隣接
して配置された吸収材と,吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備
え,吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つものである。本願発
明は,上記構成により,一般家庭において,ゴミ収集機関により収集されるまで,
飲食物廃棄物からの液体の流出を防止し,腐敗に伴う不快な臭気を中和する,経済
的なプラスチック袋を提供することができるものである。
これに対し,引用発明は,上記引用例1(甲8)の記載によれば,厨芥など水分
の多いごみを真空輸送する場合などに適用されるごみ袋に関するものであるところ,
これらのごみをごみ袋に詰めて真空輸送すると,輸送途中で破袋により,ごみが管
壁に付着したり,水分が飛散して他の乾燥したごみを濡らして重くするなどのトラ
ブルの原因となっていたという課題を解決するために,水分を透過する内面材と,
水分を透過させない表面材と,上記内面材と上記表面材とに挟まれ水分を吸収して
凝固させる水分吸収体との多重構造のシート材でごみ袋を構成することにより,厨
芥などのごみの水分を吸収して凝固させ袋内に閉じ込めるようにしたものである。
ところで,上記引用例1(甲8)の記載等に照らすと,真空輸送とは,住宅等に
設置されたごみ投入口とごみ収集所等とを輸送管で結び,ごみ投入口に投入された
ごみを収集所側から吸引することにより,ごみを空気の流れに乗せて輸送,収集す
るシステムであって,通常,ごみ投入口は随時利用でき,ごみを家庭等に貯めてお
く必要がないものと解される。そうすると,引用発明に係るごみ袋は,真空輸送で
の使用における課題と解決手段が考慮されているものであって,住宅等で厨芥等を
収容した後,ごみ収集時まで長期間にわたって放置されることにより,腐敗し,悪
臭が生じるような状態で使用することは,想定されていないというべきである。
これに対し,被告は,引用発明は,厨芥,すなわち,腐敗しやすく悪臭を発生す
ることが想定されるごみを収容するごみ袋であり,腐敗臭,悪臭の発生を抑制すべ
き技術課題を内在すると主張する。
しかし,上記のとおり,引用発明は,厨芥等を真空輸送に適した状態で収容する
ためのごみ袋であり,厨芥等を長期間放置しておくと腐敗して悪臭を生じるという
問題点は,上記真空輸送により解決されるものと理解することができ,引用例1の
「厨房内などに水切り設備を設置して事前に水切りを行えるなどの場合は,本ごみ
袋の下部に水切り用孔6を穿設してもよく,この場合はより一層効果的にごみの水
分を取り除くことができる」(甲8・段落【0008】)との記載からしても,引用
発明が厨芥等から発生する腐敗臭,悪臭の発生を抑制すべき技術課題を内在してい
ると解することはできない。
以上のとおり,引用発明には,腐敗に伴う不快な臭気を中和するという課題がな
く,引用発明に臭気中和組成物を組み合わせる動機付けもないので,本願発明と引
用発明との相違点について,引用発明において,効果的な量の臭気中和組成物を吸
収材上に被着して相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは,引用
例2記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるとした本件審決の
判断には誤りがある。
3結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1には理由がないが,取消事由2には理由が
あり,本件審決は取消しを免れない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
西理香
裁判官
知野明

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