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平成27年6月30日判決言渡
平成26年(行ケ)第10236号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年6月16日
判決
原告株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士碓氷裕彦
中村広希
被告カルソニックカンセイ株式会社
訴訟代理人弁理士豊岡静男
廣瀬文雄
河本健二
主文
1特許庁が無効2012-800143号事件について平成26年9月
30日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文同旨
第2事案の概要
本件は,被告の特許無効審判請求により原告の特許を無効とした審決の取消訴訟
である。争点は,訂正に関しての新規事項の追加の有無及び進歩性の有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成8年5月23日,名称を「車両用指針装置」とする発明につき,特
許出願をし(特願平8-128704号),平成15年10月3日,特許登録を受
けた(特許第3477995号。請求項の数4。甲16。以下,この特許を「本件
特許」といい,この特許権を「本件特許権」という。)。
被告は,平成24年9月3日,本件特許の請求項1~3につき特許無効審判請求
をした(無効2012-800143号)ところ,特許庁は,平成25年4月26
日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(甲14)。
そこで,被告は,同年6月4日,当庁に対し,上記審決の取消しを求める訴えを
提起し(平成25年(行ケ)第10154号),同年12月24日,上記審決を取
り消す旨の判決を受けた(以下「前訴判決」という。甲15)。
原告は,特許庁における審判手続において,平成26年7月25日付け訂正請求
書(甲17の1・2。以下「本件訂正請求書」という。)により,特許請求の範囲
を含む訂正をし(以下「本件訂正」という。本件訂正後の請求項の数5。),特許
庁は,同年9月30日,「平成26年7月25日付け訂正請求において,訂正事項
eないしh(請求項2,3及び5からなる一群の請求項に係る訂正)を認める。特
許第3477995号の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効
とする。」とする旨の審決(以下,単に「審決」というときは,この審決を指す。)
をし,その謄本は,同年10月9日,原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
(1)本件訂正前
本件特許の特許公報(甲16)によれば,本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,
以下のとおりである(以下,請求項1ないし3に係る発明を,それぞれ「本件発明
1」と呼称し,これらを総称して「本件発明」という。また,同公報に記載された
明細書又は図面を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
「目盛り板(20)と,この目盛り板上にて指示表示する指針(30)と,前記
目盛り板を光により照射する照射手段(50)とを備えた車両用指針装置において,
車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を
徐々に低下させるように制御する制御手段(112,112A,113,113A,
121乃至124,130,130A)を備えることを特徴とする車両用指針装置。」
【請求項2】
「目盛り板(20)と,この目盛り板上に指示表示する発光指針(30)と,前
記目盛り板を光により照射する目盛り板照射手段(50)と,前記発光指針を光に
より照射して発光させる指針照射手段(31)とを備えた車両用指針装置において,
車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段及び指針照射手段
の各照射光の輝度を徐々に低下させるように制御する制御手段(112,112A,
113,113A,121乃至124,130,130A)を備えることを特徴と
する車両用指針装置。」
【請求項3】
「前記制御手段が,その制御を,前記目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照
射光の輝度低下度合を相互に異ならしめるように行うことを特徴とする請求項2に
記載の車両用指針装置。」
(2)本件訂正後
本件訂正請求書(甲17の1)によれば,本件訂正に係る特許請求の範囲の記載
は,以下のとおりである(下線部は,訂正箇所。以下,同請求書に添付された明細
書(甲17の2)を「訂正明細書」といい,本件訂正後の請求項1ないし3に係る
発明を,それぞれ「訂正発明1」と呼称し,これらを総称して「訂正発明」という。)。
【請求項1】
「目盛り板(20)と,この目盛り板上にて指示表示する指針(30)と,前記
目盛り板を光により照射する照射手段(50)とを備えた車両用指針装置において,
車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を,
前記キースイッチのオン状態の当該目盛り板照射手段の照射光の初期輝度から徐々
に低下させるように制御し,
前記キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度が徐々に低下
している状態で前記キースイッチがオンされると,前記目盛り板照射手段の照射光
の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで零にし,このキースイッチが
オンされるタイミングから遅延させて前記目盛り板照射手段の輝度を前記初期輝度
に戻すように制御する制御手段(112,112A,113,113A,121乃
至124,130,130A)を備えることを特徴とする車両用指針装置。」
【請求項2】
「目盛り板(20)と,この目盛り板上に指示表示する発光指針(30)と,前
記目盛り板を光により照射する目盛り板照射手段(50)と,前記発光指針を光に
より照射して発光させる指針照射手段(31)とを備えた車両用指針装置において,
車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段及び前記指針照射
手段の各照射光の輝度を,前記キースイッチのオン状態の前記目盛り板照射手段及
び前記指針照射手段の各照射光の初期輝度から徐々に低下させるように制御し,
前記キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段及び前記指針照射手段の各照
射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンされると,
前記指針照射手段の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで前記初期輝
度に戻すと共に,
前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミング
で零にし前記指針照射手段の輝度が前記初期輝度に戻るタイミングから遅延させて
前記目盛り板照射手段の輝度を前記初期輝度に戻すように制御する制御手段(11
2,112A,113,113A,121乃至124,130,130A)を備え
ることを特徴とする車両用指針装置。」
【請求項3】
「前記制御手段が,その制御を,前記目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照
射光の輝度低下度合を相互に異ならしめるように行うことを特徴とする請求項2に
記載の車両用指針装置。」
3審判における請求人(被告)の主張
(本件の争点と関連しないものは記載を省略した。)
(1)本件訂正の違法性
被請求人(原告)が行った本件訂正後の請求項1及び4において,「目盛り板照射
手段」の輝度を,キースイッチのオンから遅延させて初期輝度に戻す制御を追加す
る訂正は,特許法134条の2第9項で準用する126条5項の規定に適合せず,
不適法である。
したがって,請求項1及び4に係る一群の請求項の訂正は認められない。
(2)本件発明の進歩性欠如
本件発明1及び2は,甲1に記載された発明(以下「引用発明」という。),甲2
ないし7に記載された周知技術(以下「周知技術1」という。)及び甲8に記載され
た公知技術(以下「公知技術1」という。)に基づいて,本件発明3は,引用発明,
周知技術1,公知技術1及び甲9に記載された公知技術2(以下「公知技術2」と
いう。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法2
9条2項の規定により特許を受けることができないから,その特許は同法123条
1項2号に該当し,無効とすべきである。
甲1:実願平3-81935号(実開平5-90323号)のCD-ROM
甲2:特開昭58-53535号公報
甲3:実願平3-39144号(実開平6-25033号)のCD-ROM
甲4:実願平3-109047号(実開平5-49494号)のCD-ROM
甲5:特開平5-326182号公報
甲6:特開平5-238309号公報
甲7:特開平5-13176号公報
甲8:実公平1-32592号公報
甲9:特開平4-266536号公報
(3)訂正発明の進歩性欠如
訂正発明1及び2は,引用発明,周知技術1,公知技術1及び甲9及び13に記
載された周知技術2(以下「周知技術2」という。)に基づいて,訂正発明3は,引
用発明,周知技術1,公知技術1,公知技術2及び周知技術2に基づいて,当業者
が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許
を受けることができないから,その特許は同法123条1項2号に該当し,無効と
すべきである。
甲13:特開平6-201410号公報
4審決の理由の要点
(1)訂正事項1について
ア請求項1及び4からなる一群の請求項についての訂正(以下「訂正事項
1」という。)は,前記2のとおり,本件訂正前の請求項1から本件訂正後の請求項
1に訂正する訂正事項(以下「訂正事項a」という。)を含むものであるところ,訂
正発明1において,目盛り板照射手段の輝度を初期輝度に戻すように制御するタイ
ミングは,車両のキースイッチがオンされるタイミングとの関係で規定され,指針
照射手段の輝度を初期輝度に戻すタイミングとの関係では規定されていないもので
ある。
しかし,本件明細書には,車両のキースイッチがオンされた場合の目盛り板照射
手段の輝度制御のタイミングを,車両のキースイッチがオンされるタイミングとの
関係で規定し,指針照射手段の輝度を初期輝度に戻すタイミングとの関係で規定し
ないような記載は存在しない。かえって,目盛り板照射手段の輝度を初期輝度に戻
すタイミングを,車両のキースイッチがオンされたタイミングではなく指針照射手
段の輝度を初期輝度に戻すタイミングとの関係で規定する記載(【0021】)が存
在する。そして,本件明細書には,車両のキースイッチがオンされた場合の目盛り
板照射手段を初期輝度に戻すタイミングを,指針照射手段の輝度を初期輝度に戻す
タイミング以外のタイミングとの関係で規定してもよい旨の記載や,両照射手段の
関係が任意である旨の記載も存在しない。
イ本件明細書の【0002】,【0003】,【0021】及び図6の記載に
接した当業者ならば,指針照射手段(発光素子31)及び目盛り板照射手段(光源
50)の各発光輝度が低下している状態で車両のキースイッチ(イグニッションス
イッチIG)がオンされた場合の目盛り板照射手段の輝度制御に関して,【0021】
及び図6には,従来の技術と同じ制御,すなわち,「車両のキースイッチのオンに伴
い,指針を発光させた後所定時間の経過に伴い文字板を発光させて,乗員に対し視
認性の斬新さを与える」制御が開示されていると理解し,指針照射手段及び目盛り
板照射手段の各発光輝度が低下している状態で車両のキースイッチがオンされた場
合の目盛り板照射手段の輝度制御において,「指針を発光させた後所定時間の経過に
伴い文字板を発光させ」ることは「乗員に対し視認性の斬新さを与える」ために必
須の構成であると理解する。
そうすると,本件明細書には,車両のキースイッチがオンされた場合の目盛り板
照射手段の輝度を,車両のキースイッチがオンされたタイミングに基づいて制御し,
指針照射手段の輝度を初期輝度に戻すタイミングとの関係で制御しない構成は,記
載も示唆もされていない。
ウ原告は,【0018】,図5(第1実施の形態),【0021】及び図6の
(第1実施の形態の変形例)を挙げて,訂正事項aについて本件明細書等に記載し
た事項の範囲内であるとするが,第1実施の形態(【0018】)と第1実施の形態
における変形例(【0021】)とを同列に論ずることはできない。
すなわち,当業者は,【0018】,本件訂正前の請求項1,【0035】の記載か
ら,第1実施の形態のうち,目盛り板照射手段の構成のみを取り出した発明が請求
項1に記載されていると理解する。一方,第1実施の形態における変形例では,【0
021】に,目盛り板照射手段の発光輝度を初期輝度Aに戻すタイミングを,指針
照射手段の発光輝度に比べて,所定時間T2だけ遅延させて実施する態様は開示さ
れているけれども,(指針照射手段の輝度の制御を特定せず)目盛り板照射手段の発
光輝度を初期輝度Aに戻すタイミングを遅延させて実施する態様は開示されていな
い。また,本件訂正前の請求項1には,キースイッチをオンしたときの輝度の制御
の発明自体が記載されていない。さらに,【0035】の示唆に従って,自発光指針
30に代えて光源50からの光を導入して発光する発光指針を採用すると,「光源5
0の発光輝度を初期輝度Aに戻すタイミングを,発光素子31の発光輝度に比べて,
所定時間T2だけ遅延させて実施」することができなくなる。したがって,当業者
がこれらの記載に接しても,第1実施の形態の変形例において目盛り板照射手段の
構成のみを取り出す契機が存在しない。
本件訂正前の請求項1に目盛り板照射手段の制御に関する発明が記載されている
からといって,それをそのまま図6の実施例の場合に延長できることにはならず,
発明の詳細な説明を離れて理解されるべきではない。
また,甲13を参照しても,目盛り板照射手段の輝度が初期輝度に戻るタイミン
グと指針照射手段の輝度が初期輝度Aに戻るタイミングとの関係が任意である制御
手段の構成は,開示されていない。
エ以上と同じ理由により,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な記載の整
合を図ることを目的とした訂正事項cも,本件明細書に記載した範囲内でしたもの
とはいえず,訂正事項dについて検討するまでもなく,訂正事項a及びcを含む,
請求項1及び4の一群の請求項についてする訂正事項1は,認められない。
(2)本件発明1の進歩性について
後記の引用発明,周知技術1及び公知技術1に基づいて,当業者が容易に発明を
することができたものである。
(3)訂正発明3の進歩性について
ア引用発明(甲1)
「目盛板2には透過して照明する目盛板照明装置3が設けられ,指針4にはこの
指針4に塗布された反射塗膜4aに反射して照明する指針照明装置5が設けられた,
車両用計器1において,
指針4を駆動するためのステッピングモータ8,イグニッションキー10のオン,
オフに応動するものとされ,イグニッションキー10がオフされたときには所定数
の逆転パルスを発生し,オンされたときには所定数の正転パルスを発生する,ステ
ッピングモータ8に接続された演算回路9を具備し,
走行を停止しイグニッションキー10をオフすると目盛板照明装置3と指針照明
装置5とが消灯すると同時に,演算回路9は所定数の逆転パルスを発生した後に自
らも動作を停止するものとなり,この逆転パルスにより指針4はゼロ目盛20aか
ら更に下方,すなわち,マイナスの振れ角側に回転し,指針マスク板7により覆わ
れる範囲内に移動するものとなり,運転の再開に当たって,イグニッションキー1
0をオンすることで目盛板照明装置3と指針照明装置5とが点灯すると同時に,演
算回路9は所定数の正転パルスを発生して指針4をゼロ目盛20aにリセットする
ので,これより後の時点においては通常の車両用計器1としての機能が保たれるも
のとなり,イグニッションキー10のオフ時に,直射日光など外光の窓ガラスへの
照射により特に外部から観視されやすいものとなる反射塗膜が施された指針4を指
針マスク板7で隠蔽することでブラックアウト効果を保つものとし,もって,観者
に違和感を与えるのを防止する効果を奏する,
車両用計器1。」
イ周知技術及び公知技術
(ア)周知技術1(甲2ないし7)
「車両に関する照明である室内灯,キーシリンダ照明灯,足下照明灯,ヘッドラ
イトや住宅用照明灯を消灯する際に,照射光の輝度を徐々に低下させるように制御
すること」は,一般にフェードアウトと呼ばれる周知技術である(周知技術1)。ま
た,フェードアウトによって「何らかの心理的な効果」がもたらされることも周知
であり,さらに,フェードアウトによる何らかの良好な心理的効果を得ようとする
ことは,照明技術における一般的な課題である。
(イ)公知技術1(甲8)
「メータ類の照明(目盛り板の照明)において,消灯に際し明るさを徐々に低下
させること」は,公知である(公知技術1)。
(ウ)公知技術2(甲9)
「キーオフ時に,まず,指針の照明を消灯し,次いで,計器板の照明を消灯する
こと」,すなわち,「指針の照明の消灯と計器板の照明の消灯とのタイミングをずら
すようにした車両用計器類照明装置」は,公知である(公知技術2)。
(エ)周知技術2(甲9,13)
甲9及び13によれば,「キースイッチがオンされたときに目盛り板照射手段は発
光せずに照射光の輝度は零のままであり,キースイッチがオンされてから一定の遅
延時間後に目盛り板照射手段の輝度を所定輝度とするように制御すること」は,被
告(請求人)主張のとおり,車両用計器において周知技術である。ただし,原告(被
請求人)が周知性について争っていることを考慮して,便宜上,甲13の記載で書
き改めると,以下のとおりとなる(周知技術2)。
「(a)指針が回動する指示計器と,
(b)前記指針の動きに応じて目盛りや記号等の表示部分を配設した計器盤と,
(c)前記指示計器の前記指針を発光させる第1の発光体と,
(d)前記計器盤の前記表示部分を発光させる第2の発光体と,
(e)前記第1,第2の発光体と電源とを接続するキースイッチと,
(f)このキースイッチのONにより前記第1,第2の発光体へ電力が供給される
際に,前記第1の発光体への電力供給時期に対して前記第2の発光体への電力供給
時期を遅延させる遅延手段を備え,
使用者に不快感を与えないことに加え,まず指針が発光するため,すなわち,目盛
りや記号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,使用者に指針を
鮮明に認識させることができ,指示計器の高精度感を使用者に与えることができる,
計器装置の照明装置。」
ウ引用発明と訂正発明3との一致点・相違点
【一致点】
「目盛り板(20)と,この目盛り板上に指示表示する発光指針(30)と,前記
目盛り板を光により照射する目盛り板照射手段(50)と,前記発光指針を光によ
り照射して発光させる指針照射手段(31)とを備えた車両用指針装置。」
【相違点】
訂正発明3は,「車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段
及び前記指針照射手段の各照射光の輝度を,前記キースイッチのオン状態の前記目
盛り板照射手段及び前記指針照射手段の各照射光の初期輝度から徐々に低下させる
ように制御し,前記キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段及び前記指針
照射手段の各照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンさ
れると,前記指針照射手段の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで前
記初期輝度に戻すと共に,前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッ
チがオンされるタイミングで零にし前記指針照射手段の輝度が前記初期輝度に戻る
タイミングから遅延させて前記目盛り板照射手段の輝度を前記初期輝度に戻すよう
に制御する制御手段(112,112A,113,113A,121乃至124,
130,130A)」を備え,かつ,「前記制御手段が,その制御を,前記目盛り板
照射手段及び指針照射手段の各照射光の輝度低下度合を相互に異ならしめるように
行う」構成を具備するのに対し,引用発明は,このような制御を行う制御手段を具
備しない点。
エ相違点についての判断
照明装置を用いた意匠演出において,複数の照明灯についてタイミングをずらし
て消点灯ないし減増光して一定の演出効果が得られることはありふれたことである
から,ブラックアウト効果という意匠演出を保ちつつ,観者に対する違和感の払拭
という心理的効果を目指した引用発明において,いっそうの意匠演出ないし良好な
心理的効果を観者に与えるべく,引用発明の車両用計器の目盛板照明装置3及び指
針照明装置5に対して,周知技術1及び2並びに公知技術2のような,タイミング
をずらして消点灯ないし減増光する構成を合わせて採用することは,当業者が容易
にできることである。また,車両用計器において公知技術1及び2が存在すること
を考慮すると,車両用照明のタイミングをずらして消点灯ないし減増光する構成を
採用することに,技術的困難性はない。
そうしてみると,引用発明の「走行を停止しイグニッションキー10をオフする
と目盛板照明装置3と指針照明装置5とが消灯すると同時に,演算回路9は所定数
の逆転パルスを発生した後に自らも動作を停止するものとなり,この逆転パルスに
より指針4はゼロ目盛20aから更に下方,すなわち,マイナスの振れ角側に回転
し,指針マスク板7により覆われる範囲内に移動するものとなり」の構成に対して,
目盛板照明装置及び指針照射手段の制御手段として意匠演出ないし良好な心理的効
果を目指した周知技術1及び公知技術2を適用して,「走行を停止しイグニッション
キー10をオフすると,目盛板照明装置3を点灯状態から徐々に暗くなるよう制御
し,目盛板照明装置3の制御タイミングから遅れて指針照明装置5を点灯状態から
徐々に暗くなるように制御し,両者が消灯すると同時に,演算回路9は所定数の逆
転パルスを発生した後に自らも動作を停止するものとなり,この逆転パルスにより
指針4はゼロ目盛20aから更に下方,すなわち,マイナスの振れ角側に回転し,
指針マスク板7により覆われる範囲内に移動するものとなり」の構成に変更すると
ともに,引用発明の「運転の再開に当たって,イグニッションキー10をオンする
ことで目盛板照明装置3と指針照明装置5とが点灯すると同時に,演算回路9は所
定数の正転パルスを発生して指針4をゼロ目盛20aにリセットするので,これよ
り後の時点においては通常の車両用計器1としての機能が保たれるものとなり」の
構成に対して,使用者に不快感を与えないことに加え,目盛りや記号等の表示部分
が発光していない時に指針が発光するため,使用者に指針を鮮明に認識させること
ができ,指示計器の高精度感を使用者に与えることができる周知技術2を適用して,
「運転の再開に当たって,イグニッションキー10をオンすることで指針照明装置
5に電力を供給して点灯すると同時に,演算回路9は所定数の正転パルスを発生し
て指針4をゼロ目盛20aにリセットし,指針照明装置5への電力供給に遅延させ
て目盛板照明装置3に電力を供給して点灯し,これより後の時点においては通常の
車両用計器1としての機能が保たれるものとなり」の構成に変更することは,当業
者が容易に想到することである。また,イグニッションキー10のオン操作は,観
者(操作者)がキーを回すという操作であるから,イグニッションキーをオフした
直後にイグニッションキーがオンされる場合もある。そして,イグニッションキー
をオンした観者の関心は,走行の停止ではなく運転の再開に向かっているから,フ
ェードアウト中に観者(操作者)がイグニッションキーをオンした場合には,直ち
に周知技術2の制御を提供するのが自然であり,周知技術2の制御に際して,いっ
たん,目盛りや記号等の表示部分が発光していない状態に制御すること,すなわち,
「イグニッションキー10をオンすることで指針照明装置5に電力を供給して点灯
すると同時に目盛板照明装置3を消灯し,演算回路9は所定数の正転パルスを発生
して指針4をゼロ目盛20aにリセットし,指針照明装置5への電力供給に遅延さ
せて目盛板照明装置3に電力を供給して点灯」することは必然である。
したがって,訂正発明3は,引用発明,周知技術1及び2,並びに,公知技術1
及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)訂正発明2の進歩性について
訂正発明2の発明特定事項をすべて含み,他の発明特定事項を更に付加したもの
に相当する訂正発明3が,前記(3)のとおり,容易に発明をすることができたもので
あるから,訂正発明2も同様に,当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。
(5)訂正発明1の進歩性ついて(予備的判断)
訂正発明1の発明特定事項をすべて含み,他の発明特定事項を更に付加したもの
に相当する訂正発明2が容易に発明をすることができたものであるから,訂正発明
1も同様に,当業者が容易に発明をすることができたものである。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(訂正事項1の判断の誤り)
(1)本件特許の請求項1は,訂正前後を問わず,目盛り板を照射する光源50
と指針を照射する光源31のうち,目盛り板を光により照射する照射手段50に着
目し,乗員に対しキースイッチのオフ後の斬新な視認性を目盛り板の照明を用いて
提供するものである。
したがって,キースイッチのオフ後の斬新な視認性を得るために,目盛り板照射
手段の照射光の輝度を制御することが本件発明1にとって必須であり,指針照射手
段の制御タイミングは,そもそも本件発明1に関しては必須の要件ではない。
審決の判断は,本件出願が本件発明1(目盛り板照明)と本件発明2(目盛り板
照明及び指針照明)との別々の発明を当初から有し,その二つの発明を同じ実施例
を用いて説明していることを看過している。
(2)本件発明1において,目盛り板照射手段の輝度を初期輝度に戻すのは,イ
グニッションスイッチIGをオンしたタイミングとの関係となるのであり,このこと
は,本件明細書の【0021】の「発光素子31及び光源50の各発光輝度が低下
している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合」との説明及び図6
より明白である。
この点,審決は,本件明細書の【0021】に記載された制御について,【000
2】及び【0003】を引用して,従来技術に記載された制御(車両のキースイッ
チのオンに伴い,指針を発光させた後所定の時間の経過に伴い文字板を発光させて,
乗員に対し視認性の斬新さを与える。)と同じであると認定する。しかし,本件明細
書の【0002】及び【0003】の記載に係る従来技術である甲13は,キース
イッチオン後における視認性の斬新さを与えることはできるものの,キースイッチ
オフに伴う視認性の斬新さを与えることはできない。【0021】及び図6はイグニ
ッションスイッチIGをオフした後,目盛り板の照明が暗くなった後で,再びイグニ
ッションスイッチIGをオンするというような単純なオフとオンとの組合せを述べ
ているのではなく,「発光素子31及び光源50の各発光輝度が低下している状態で
イグニッションスイッチIGがオンされた場合」として,イグニッションスイッチ
IGをオフした際(目盛り板の照明が暗くなっているまさにその時点)の演出につい
て記載しているのである。
したがって,【0021】の記載を従来の技術と同じ制御とする審決は,従来技術
(甲13)に関する誤った認識に基づくもので,誤りである。
(3)審決は,第1実施の形態(【0018】)と第1実施の形態における変形例
(【0021】)とを同列に論ずることはできないとするが,その理由は不明確であ
る。結局のところ,第1実施の形態における変形例については,【0021】の記載
がすべてであるというものと解されるが,このような判断は,誤りである。また,
審決が指摘する【0035】は,審決が述べるように,これによって目盛り板照射
手段の構成のみを取り出す契機が存在しないと解釈するのではなく,むしろ,目盛
り板照射手段の構成のみを取り出す契機が存在することの例示となるべきものであ
る。
(4)審決は,訂正発明1では,本件発明1の効果は得られないとするが,徐々
に暗くなりつつあるが,まだ十分視認できた目盛り板が,キースイッチのオンと同
時にいきなり真っ暗となり,そして所定時間遅延して初期輝度でパッと見えるよう
になるのが,訂正発明1の演出である。審決の述べるように,操作者が驚くことが
あれば,それは慌てるとか不快に感じるとするのではなく,演出としての斬新な視
認性と理解すべきである。
(5)以上のとおり,訂正事項aは,本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正
であるから,審決のした訂正事項1の判断は誤りである。
2取消事由2-1(訂正発明2の進歩性判断の誤り)
(1)周知技術2の認定について
周知技術は,進歩性の判断に影響を及ぼすおそれがあるので,慣用されている技
術でなければ安易に用いるべきではないところ,イグニッションキーのオン時に指
針のみ照明し,目盛り板が一定の遅延時間後に照明することは,車両用指針装置で
慣用されていた技術ではない。審決が周知技術2の根拠として挙げるのは,甲9と
甲13の二つのみであり,わずか2件の公知技術により,あたかも車両用指針装置
で慣用されている技術かのように認定するのは誤りである。
慣用されていない技術に関しては,公知か否かを確認の上,公知であれば,訂正
発明2と引用発明との相違点の判断に際し,組合せの動機付けや阻害要因等を個別
に検討すべきである。
(2)引用発明及び周知技術1と周知技術2との組合せについて
ア審決は,引用発明と周知技術1との組合せに関して,引用発明のイグニ
ッションキーオフ時のブラックアウト効果を組合せの動機付けとする一方,イグニ
ッションキーをオフした直後にオンする場合,観者の関心は,走行の停止ではなく
運転の再開に向かっているから,直ちに周知技術2の制御を提供するのが自然であ
るとする。
しかし,この審決の認定では,引用発明と周知技術1とを組み合わせる契機とな
るブラックアウト効果が全く奏されないこととなる。
すなわち,引用発明は,イグニッションキーのオフ時に反射塗膜が施された指針
を前記指針マスク板で隠蔽することでブラックアウト効果を保つこととしているの
であるから,イグニッションキーのオフ時の意匠演出のためには指針4を指針マス
ク板7で覆うことが必須である。これに対し,審決の認定する状態(イグニッショ
ンキーをオフして指針照明装置5を点灯状態から徐々に暗くなるように制御した場
合は,イグニッションキーをオフした直後でも指針4が輝度を持っている状態)は,
まだ演算回路9が逆転パルスを発生していないから,指針4を指針マスク板7で覆
うことができず,指針4が目視されてしまい,引用発明のブラックアウトの効果が
全く発揮できない状況である。
したがって,審決認定の状況では,そもそも引用発明に周知技術1を組み合わせ
ることの動機付けが得られない。換言すれば,周知技術2を組み合わせようとする
審決認定の状況は,引用発明が特徴とするブラックアウト効果を発揮させない状況
となり,逆に,引用発明に周知技術1を組み合わせようとすれば,周知技術2の組
合せは不能となるのである。
したがって,引用発明に周知技術1を組み合わせる状況において,更に周知技術
2と組み合わせることには,阻害事由がある。
イ審決は,「キースイッチオフに伴う照明による斬新な視認性」と,「キー
スイッチのオフに伴い消灯される際の挙動と,キースイッチのオンに伴い点灯させ
る際の挙動との単純な結合」によって得られる視認性とは相違しないと認定する。
しかし,訂正発明2は,キースイッチオフ後のタイミングに特徴があるのであっ
て,フェードアウト途中にキースイッチをオンすると,目盛り板をいったん真っ暗
にすると同時に指針を初期輝度でパッと光らせ,そのタイミングから所定時間T2
経って目盛り板をいきなり初期輝度でパッと光らせるのである。訂正発明2を,キ
ースイッチのオフに伴い消灯される際の挙動と,キースイッチのオンに伴い点灯さ
せる際の挙動との単純な結合であるとの審決の認定は明らかに誤りである。
被告は,周知技術1と周知技術2との組合せを根拠付けるために,図6を含めた
本件明細書の記載を参照するが,これらは公知技術ではないから,後知恵の主張で
あるといわねばならない。
(3)引用発明及び周知技術1と甲13との組合せについて
ア甲13に記載された技術は,照明装置が点灯していない状態から点灯状
態への変化を取り上げ,発光体の輝度が零の状態から発光する際に各発光体の発光
のバラ付きに伴う不快感をなくすため,発光体への電力供給時期を積極的にずらす
ようにしたものである。一方,訂正発明2は,目盛り板照射手段は照射光がまだ残
っており,指針も照射光が残っている状態でのキースイッチのオン作動に注目した
ものである。このように,訂正発明2の「キースイッチオフ後で目盛り板及び指針
の照射光が徐々に低下している状態」の挙動は,そもそも,甲13の技術が前提と
する発光体の輝度が零の状態から発光する際の挙動とは相容れないものである。な
ぜなら,この状態では,目盛り板照射手段,指針照射手段ともに輝度を有している
ので,仮に部品間の特性にばらつきや組付け誤差が生じたとしても,発光時期のず
れの問題は全く生じないからである。
したがって,公知技術として甲13を用いるとしても,引用発明に周知技術1を
組み合わせたものと更に組み合わせることに,動機付けが認められない。
イ甲13は,スイッチ手段としてキースイッチ301を用いており,キー
スイッチオン時に,直流電源302の直流電流がトランスモジュール303及び遅
延回路304に直接供給される。これにより,キースイッチ301のオン時には発
光の順序を制御して視認性の斬新さを与えることができる。しかし,甲13の構成
では,キースイッチのオフ時には,直流電源302からトランスモジュール303
及び遅延回路304に供給される直流電流が直ちに断たれ,指針照明(冷陰極放電
管22,32,42,52)及び目盛り板照明(蛍光管110)の輝度は直ちに零
となる。
したがって,キースイッチオフ後にフェードアウト効果を得る引用発明と周知技
術1とを組み合わせて用いることはできない。
ウ審決は,キースイッチをオンした操作者の関心は,走行の停止ではなく
運転の再開に向かっているから,周知技術2の制御を直ちに提供するために,キー
スイッチのオンと同時に,指針照明装置5を点灯し,目盛板照明装置3を消灯すべ
きであるとする。しかし,この判断も,甲13に開示された電気回路300の構成
から全く遊離した判断である。訂正発明2の進歩性判断で検討しなければならない
のは,キースイッチオフ後のフェードアウト途中の操作であって,甲13を公知技
術として捉えればフェードアウトとの組合せができないことは,上記イのとおりで
ある。
また,被告は,甲13の記載から大きく逸脱した周知技術2を想定して,引用発
明において周知技術2の内容が実現されるようにするためには,甲13の技術の構
成を変更するのは当然と主張する。しかし,いかに考えても,甲13の技術は,フ
ェードアウト時の訂正発明2の挙動には繋がらない。すなわち,甲13にフェード
アウト効果を持たせるためには,トランスモジュール303及びトランスモジュー
ル305に蓄電機能を持たせるしかないが,この場合には,遅延回路304が機能
せず(計器盤6用蛍光管110はトランスモジュール305の蓄電機能で輝度を有
しているため),目盛り等の表示部分が発光していない時にまず指針を発光させて,
所定時間後に表示部分を発光させるという技術ではなくなってしまう。
さらに,引用発明に甲13を組み合わせたとしても,キースイッチオン時には若
干の時間ずれ後に指針照明装置5が点灯し,所定時間遅延して目盛板照明装置3が
点灯し,所定数の正転パルスを発生して指針4をゼロ目盛20aにリセットするこ
ととなる。この場合,指針4がリセットされて視認できるタイミングと目盛板照明
装置3が遅延して点灯するタイミングとの先後が不明である。したがって,指針輝
度が初期輝度に戻ったタイミングから所定時間経過後に,目盛り板が初期輝度で照
射される訂正発明2の構成とはならない。
(4)甲9を公知技術と捉えた場合について
ア引用発明と甲9との組合せについて
甲9では,【従来の技術】に,指針2が照明されてからタイマ8の設定時間後に計
器全体部分3が照明される技術が記載されている。しかし,甲9には,この従来技
術には,タイマ8のコストがかかるという課題があり,この【課題を解決するため
の手段】として,一部(計器)は電源を車両のキースイッチのアクセサリ電源端子
と接続し,他の手段(指針)はイグニッション電源端子に接続する構成をとったこ
とが記載されている。
そうすると,甲9を公知技術として把握すれば,計器用点灯回路への電圧供給を
遅らすタイマ8は,甲9において問題があるとして避けている技術であり,イグニ
ッションスイッチをオフした後に再度オンし,指針と目盛り板とで発光に所定時間
の時間差を生じさせる技術に想到するために,甲9を引用発明に組み合わせること
は,阻害要因がある。
イ引用発明及び周知技術1と甲9との組合せについて
甲9に記載された技術は,キースイッチ4を活用する点に特徴があり,従来技術
の説明も,バッテリ5-キースイッチ4-電源回路6-タイマ8-計器用点灯回路
となっている。そのため,キースイッチ4のオフとともに,電源回路6へのバッテ
リ5からの電圧供給も断たれることとなる。その結果,指針用点灯回路7及び計器
用点灯回路9への直流電圧の供給も直ちに終了し,指針用放電灯2a及び計器用放
電灯3aの輝度は,徐々に低下することなく瞬時に零となる。
したがって,甲9の技術は,引用発明に周知技術1を組み合わせて行うフェード
アウトの意匠演出とは相容れないものである。
ウ仮にイのように組み合わせても訂正発明2は想到できないこと
仮に,甲9に周知技術1を組み合わせてキースイッチオフ後のフェードアウトを
行わせようとすれば,電源回路6に蓄電機能を持たせ,指針用点灯回路7と計器用
点灯回路9とでフェードアウトを行うことが想定されるが,この場合には,キース
イッチのオフ後のフェードアウト途中にキースイッチをオンしたとしても,タイマ
8へは電源回路6からの直流電圧が供給されており(さもなければ計器用点灯回路
9はフェードアウト作動ができない。),指針をパッと明るくするとともに計器をい
ったん暗くし,指針が明るくなってから所定時間後に計器をパッと明るくするよう
な制御を行うことはできない。
このように,甲9を引用発明と周知技術1との組合せ技術に更に組み合わせたと
しても,訂正発明2のようなきめ細やかな制御は到底得られるものではない。
(5)以上のとおりであるから,審決のした訂正発明2に係る進歩性判断は誤り
である。
3取消事由2-2(訂正発明3及び1の進歩性判断の誤り)に対し
前記2に述べたとおり,訂正発明2に係る進歩性判断は誤りであるから,その従
属項である訂正発明3についての進歩性判断も誤りである。
また,前記2で述べたのと同様の理由により,訂正発明1についての進歩性判断
も誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
(1)原告の主張1(1)に対し
訂正発明に新規事項が追加されているか否かの判断においては,訂正発明の外延
を特定し,訂正発明に含まれる技術的事項が,当業者によって,明細書又は図面の
すべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな
技術的事項を導入しないものであるか否かを判断する必要がある。
訂正発明1には,指針照射手段の輝度に関する記載はないから,指針照射手段の
輝度の変化は任意であり,「前記キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段の
照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンされると,前記
目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで零
にし,このキースイッチがオンされるタイミングから遅延させて前記目盛り板照射
手段の輝度を前記初期輝度に戻すように制御する」際に,訂正発明2に規定されて
いるように,「前記指針照射手段の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミング
で前記初期輝度に戻す」ように制御する構成以外に,少なくとも,「前記指針照射手
段の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで零にし,このキースイッチ
がオンされるタイミングから遅延させて前記初期輝度に戻す」ように制御する構成
(同期した構成)を含むことになる。
したがって,本件明細書に,上記の同期した構成が記載されておらず,かつ,当
該構成が記載するまでもなく自明な事項といえないから,本件訂正により新たな技
術的事項が導入されたことになる。したがって,審決の判断は妥当なものである。
(2)原告の主張1(2)に対し
本件明細書には,イグニッションスイッチIGのオン時の斬新な視認性に関して,
【0002】の【従来の技術】に,「従来,車両用指針装置においては,例えば,特
開平6-201410号公報(甲13)にて示されているように,当該車両のキー
スイッチのオンに伴い,指針を発光させた後所定時間の経過に伴い文字板を発光さ
せて,乗員に対し視認性の斬新さを与えるようにしたものがある。」と記載されてい
るが,この場合にも,指針を発光させた後所定時間の経過に伴い文字板を発光させ
ることが条件となっている。すなわち,イグニッションスイッチIGのオン時の斬
新な視認性を提供するという作用効果は,指針照射手段又は目盛り板照射手段の一
方の発光輝度を制御することだけで実現できるとは記載されておらず,両照射手段
の発光のタイミングを異ならせることにより実現できることが記載されているので
ある。
そうすると,【0021】に記載された変形例を,【0035】の示唆に従って,
指針照射手段に対し目盛り板照射手段に付随的な輝度制御とすると,イグニッショ
ンスイッチIGのオン時の斬新な視認性を得ることはできなくなるから,訂正発明
1が本件明細書に記載ないし示唆されているとはいえない。
(3)原告の主張1(3)に対し
原告の主張は,審決の判断を正解しないものである。すなわち,審決は,第1実
施の形態には,(指針照射手段の輝度の制御を特定せず)目盛り板照明手段の輝度を
徐々に低下させる態様である本件発明1は開示されていないが,出願当初の請求項
1の記載,及び【0035】の記載によれば,当業者は,第1実施の形態のうち目
盛り板照射手段の構成のみを取り出した本件発明1が記載されていると理解するが,
第1実施の形態における変形例については,【0021】の記載によれば,指針照射
手段は,目盛り板照射手段から独立して輝度制御されるものであって付随的なもの
とは理解できないから,【0035】の示唆に従って,変形例の形態のうち目盛り板
照射手段の構成のみを取り出した訂正発明1が記載されていると理解することはで
きない旨説示したのである。
上記のように,訂正発明1については,「目盛り板照射手段の照射光の輝度が徐々
に低下している状態で前記キースイッチがオンされる」場合と限定されているから,
出願当初の請求項1に記載されておらず,本件明細書の【0021】の記載しか該
当しないのであるが,【0021】に記載された変形例を,【0035】の示唆に従
って,指針照射手段に対し目盛り板照射手段に付随的な輝度制御とすることはでき
ないから,訂正発明1が本件明細書に記載ないし示唆されているとは認定できない。
(4)原告の主張1(4)に対し
原告の主張する訂正発明1に係る斬新な視認性については,本件明細書の【00
21】に,光源50の発光輝度を初期輝度Aに戻すタイミングを,発光輝素子31
の発光輝度に比べて,所定時間T2だけ遅延させて実施した場合に,イグニッショ
ンスイッチIGのオン時にも自発光指針30及び目盛り板20の斬新な視認性を提
供できるということが記載されているのみである。
したがって,原告の主張は,本件明細書の記載に基づかない主張であって,考慮
されるべきものではない。
2取消事由2-1に対し
(1)原告の主張2(1)に対し
審決は,甲13の記載及び甲9の【0002】,【従来の技術】の記載に基づいて,
周知技術を認定したが,被請求人(原告)が周知性について争っていることを考慮
して,甲13の記載のみから「周知技術2」を認定し,当該「周知技術2」を根拠
として,訂正発明2の進歩性を否定した。
したがって,審決は,甲9と甲13の二つで周知技術2を認定したのではないか
ら,原告の主張は前提において誤っている。
また,周知技術とは,その技術分野において一般的に知られている技術であって,
証拠の数だけで決まるものではない。審決は,甲13が業界に知れわたっているこ
とを周知の根拠としているところ,実際,甲13は,特願昭63-233056号
を原出願とする分割出願であり,原出願は平成2年に特開平2-80916号公報
として公開され,さらに,本件出願前である平成8年2月14日に特公平8-14
500号公報(乙1)として公告され,異議申立てが2社からなされた後に特許査
定となっている。このように,2社から異議申立てがなされたということは,各社
が公開公報の公開時から当該技術に注目し,先行技術文献の調査を行い,公告され
た時点で適当な文献を発見し,特許査定となることを阻止したいと思った2社が異
議申立てを行ったことを意味するから,当該技術は本件出願前には業界に知れ渡っ
ていたことを示している。
したがって,審決が,甲13のみで周知技術2を認定したことに誤りはない。
(2)原告の主張2(2)に対し
ア甲1には,【0007】に,「車両を使用しないときには車両用計器1は
ブラックアウトするものとされている点は従来例のものと同様である。」と記載され,
【0011】及び【0012】より,ブラックアウト効果は車両を使用しないとき
に実現されていればよいものである。
したがって,引用発明に周知技術1を適用して,イグニッションキーをオフした
直後で指針が輝度を持っている状態でイグニッションキーをオンにしたときは,車
両を使用しないときには相当せず,ブラックアウト効果を実現する必要性はないの
であるから,引用発明に周知技術1を適用し,更に周知技術2を適用することに阻
害要因はない。
イ審決がいう「車両のキースイッチのオフに伴い消灯される際の挙動」と
は,一般にフェードアウトと呼ばれる周知技術1のことであり,「車両のキースイッ
チのオンに伴い点灯させる際の挙動」とは,キースイッチのオンに伴い指針のみを
発光させ,計器盤の表示部分は発光させず,所定時間後に計器盤の表示部分を発光
させる周知技術2のことである。そして,車両のキースイッチがオンで指針及び計
器盤の表示部分が発光している状態から,キースイッチをオフとし,キースイッチ
をオフした直後にキースイッチがオンされる場合を想定して,これらを単純に結合
すれば,キースイッチオフによりフェードアウトしている途中でキースイッチがオ
ンとなり,指針のみを発光させ,計器盤の表示部分は発光させず,所定時間後に計
器盤の表示部分を発光させることになるから,原告の主張する訂正発明2の挙動と
同じである。
そして,本件明細書の図6を参照すると,最初にイグニッションスイッチがオン
になったときの発光素子31及び光源50の挙動と,発光輝度の低下途中でイグニ
ッションスイッチがオンになったときの発光輝度の挙動は,同じである。すなわち,
一般にフェードアウトと呼ばれる周知技術1と,キースイッチのオンに伴い指針の
みを発光させ,計器盤の表示部分は発光させず,所定時間後に計器盤の表示部分を
発光させる周知技術2とを単純に結合させれば,訂正発明2と同じ挙動をするもの
となる。
(3)原告の主張2(3)に対し
ア審決は,訂正発明3の相違点の判断において,引用発明は,ブラックア
ウト効果という意匠演出や観者に対する心理的効果を目指すものであるから,周知
技術1及び2並びに公知技術2のような,タイミングをずらして消点灯ないし減増
光する構成を合わせて採用することは,当業者に容易である旨説示している。上記
説示のうち,引用発明に周知技術1及び公知技術2を適用することが容易である点
については,前訴判決が判示した事項であり,前訴判決の拘束力の及ぶ範囲といえ
る。そして,周知技術1とは,「車両に関する照明である室内灯,キーシリンダ照明
灯,足下照明灯,ヘッドライトや住宅用照明灯を消灯する際に,照射光の輝度を徐々
に低下させるように制御する」技術であるのに対し,周知技術2は,上記のように,
「キースイッチのONにより指針及び計器盤の表示部分を発光させる際に,まず指
針を発光させ,所定時間後に計器盤の表示部分を発光させる」技術であり,キース
イッチのオフ時かオン時かの相違はあるが,いずれも意匠演出ないし良好な心理的
効果を観者に与えるものである点で共通しているから,前訴判決の判示事項に従え
ば,周知技術1と同様に,周知技術2を引用発明に適用することも容易といえる。
また,甲13は,キースイッチのオン時に意匠演出ないし良好な心理的効果を観
者に与えるものであるから,引用発明と周知技術1に適用することも容易である。
イ甲13から,引用発明と周知技術1に適用する技術は,キースイッチの
オン時にまず指針を発光させ,所定時間後に計器盤の表示部分を発光させる技術で
あり,キースイッチのオフ時の構成ではないから,原告の主張2(3)イは,甲13の
技術を引用発明と周知技術1に適用できるか否かとは関係のない事項である。
ウ甲13には,「キースイッチ301をONすると」と記載されているから,
公知技術であろうと,周知技術であろうと,キースイッチがオンした時の照明動作
を認定することが妥当である。進歩性を判断する際に認定する技術として,公知技
術と周知技術とで認定の仕方に変わりはない。
甲13から,引用発明と周知技術1に適用する周知技術2とは,「・・・(f)こ
のキースイッチのONにより前記第1,第2の発光体へ電力が供給される際に,前
記第1の発光体への電力供給時期に対して前記第2の発光体への電力供給時期を遅
延させる遅延手段を備え,・・・まず指針が発光するため,すなわち,目盛りや記号
等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,使用者に指針を鮮明に認
識させることができ,指示計器の高精度感を使用者に与えることができる,計器装
置の照明装置。」であり,キースイッチのオン時に,目盛り等の表示部分が発光して
いない時にまず指針を発光させて,所定時間後に表示部分を発光させる技術である
から,指針及び計器盤の表示部分の輝度が徐々に低下している状態でキースイッチ
がオンされるときに周知技術2を適用した場合には,計器盤の表示部分が発光して
いない状態で指針を発光させ,所定時間後に計器盤の表示部分を発光させることに
なるから,キースイッチのオン時に指針を発光させて計器盤の表示部分を消灯する
ことになる。このことは,キースイッチのオン時に指針及び計器盤の表示部分の両
者が発光したのでは,使用者に指針を鮮明に認識させ,指示計器の高精度感を使用
者に与えることができなくなることからも明らかである。
原告の主張は,引用発明に甲13に記載された回路構成をそのまま適用しても,
訂正発明2の構成にはならないとの主張とも解されるが,甲13に記載された周知
技術2を適用するとは,甲13に記載された回路構成をそのまま適用することでは
なく,引用発明においても周知技術2の内容が実現されるように構成を変更するこ
とを意味している。そして,本件明細書においても,訂正発明2を実現できる回路
構成は記載されておらず,そのような回路構成は,当業者が適宜設計できる範囲の
ものと解されるから,引用発明に周知技術1及び周知技術2並びに公知技術1を適
用して,訂正発明2のように構成することは,当業者に容易である。
(4)原告の主張(4)に対し
審決は,甲9に記載された公知技術は使用しておらず,原告の主張は,審決取消
事由とはなり得ない。
仮に,甲9を公知技術として把握するとしても,進歩性を判断する際に,副引用
例に記載された技術を認定する際には,進歩性を否定するための論理付けに必要な
技術を認定すべきであり,他の箇所にタイマに問題があると記載されているとして
も,そのことは進歩性を判断する際の公知技術の認定には関係のないことである。
(5)以上のように,訂正発明2は進歩性を有しないものであるから,その旨判
断した審決に誤りはない。
3取消事由2-2,2-3に対し
前記2のとおり訂正発明2には進歩性を有しないものであるから,訂正発明3の
進歩性を認めるべき理由はない。審決は,本件発明3は,引用発明(甲1),周知技
術1(甲2~7),公知技術1(甲8)及び公知技術2(甲9)に基づいて,当業者
が容易に発明をすることができたとする前訴判決の拘束力に従ってしたものであり,
適法である。
また,訂正発明2が進歩性を有しないので,訂正発明2の上位概念に相当する発
明である訂正発明1にも進歩性はない。したがって,審決の予備的判断にも誤りは
ない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(訂正事項1の判断の誤り)について
(1)本件発明について
ア本件明細書(甲16)によれば,以下のことが認められる。
本件発明は,車両用指針装置に関するものである(【0001】)。
従来,車両のキースイッチのオンに伴い指針を発光させた後,所定時間の経過に
伴い文字板を発光させて,乗員に対し視認性の斬新さを与えるようにしたものがあ
るが(特開平6-201410号公報:甲13)(【0002】),これでは,キース
イッチのオン後における視認性の斬新さを与えることができるのみで,キースイッ
チのオフに伴う視認性の斬新さを与えることはできなかった。
そこで,車両用指針装置において,キースイッチのオフに伴う指針や目盛り板の
明るさの変化に工夫を凝らし,キースイッチのオフ後の視認性の斬新さを乗員に与
えるようにすることを目的として(【0003】),特許請求の範囲の請求項1~3に
記載の構成とした。すなわち,本件発明1は,制御手段が,キースイッチのオフに
伴い目盛り板照射手段の照射光の輝度を徐々に低下させるように制御することによ
り,目盛り板の明るさがキースイッチのオフ後徐々に低下するので,乗員に対し,
この種指針装置におけるキースイッチのオフ後の斬新な視認性を提供できるもので
あり(【0004】),また,本件発明2及び3は,制御手段が,キースイッチのオフ
に伴い目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照射光の輝度を徐々に低下させるよ
うに制御することにより,目盛り板及び発光指針の各明るさがキースイッチのオフ
後徐々に低下するので,乗員に対し,この種指針装置におけるキースイッチのオフ
後の斬新な視認性を提供できるものである(【0006】)。さらに,本件発明3のよ
うに,制御手段が,その制御を,目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照射光の
輝度低下度合いを相互に異ならしめるように行えば,本件発明2による斬新な視認
性とは異なる斬新な視認性を提供できるものである(【0008】)。
イ実施例の記載
本件明細書には,実施例に関し,次の記載がある。
【0011】ここで,目盛り板20は,透明樹脂板の表面に目盛りを印刷して構成
されており,この目盛り板20は,断面コ字状のケーシング40の底壁に設けた光
源50により下方から投光されて目盛り表示機能を発揮する。光源50は,図3に
て示すごとく,複数の発光ダイオード50aの並列回路により構成されている。ま
た,自発光指針30は,透明のアクリル樹脂からなる指針本体内に発光素子31を
配設してなるもので,この自発光指針30は,発光素子31の発光により発光機能
を発揮する。発光素子31は,図3にて示すごとく,複数の発光ダイオード31a
に並列回路により構成されている。なお,図1にて符号32は,指針カバーを示す。
【0013】次に,発光素子31及び光源50の駆動回路構成につき図3を参照し
て説明する。マイクロコンピュータ80は,図4にて示すフローチャートに従いコ
ンピュータプログラムを実行し,この実行中において,当該車両のイグニッション
スイッチIGの操作に基づき,発光素子31及び光源50に接続した各駆動回路9
0a,90bの駆動処理を行う。なお,マイクロコンピュータ80は,当該車両に
搭載したバッテリBaから常時給電されて作動している。また,上記コンピュータ
プログラムは,マイクロコンピュータ80のROMに予め記憶されている。
【0014】駆動回路90aは,マイクロコンピュータ80による制御のもと,各
発光ダイオード31aを発光駆動させる。また,駆動回路90bは,マイクロコン
ピュータ80による制御のもと,各発光ダイオード50aを発光駆動させる。この
ように構成した本第1実施の形態において,イグニッションスイッチIGのオン状
態では,マイクロコンピュータ80は,図4のフローチャートに従うコンピュータ
プログラムの実行のもと,ステップ100にて,発光輝度Yを初期輝度Aとセット
し,ステップ110にてNOとの判定をし,ステップ120にて各発光ダイオード
31a,50aの発光駆動処理をしている。なお,発光輝度Yは,発光素子31及
び光源50の発光輝度を表す。
【0015】しかして,上記発光駆動処理に伴い,駆動回路90aが,発光素子3
1の発光輝度をY=Aとするように各発光ダイオード31aを発光駆動し,また,
駆動回路90bが,発光素子50の発光輝度をY=Aとするように各発光ダイオー
ド50aを発光駆動する。これにより,目盛り板20が,光源50の各発光ダイオ
ード50aにより初期輝度Aにて照射される。また,自発光指針30が発光素子3
1の各発光ダイオード31aにより初期輝度Aにて照射されて発光する。
【0018】このため,図5にて示すように,イグニッションスイッチIGのオフ
に伴い,発光素子31及び光源50の各発光輝度は,各直線L1,L2に沿い順次
低下していく。したがって,自発光指針30の明るさ及び目盛り板20の明るさも
共に同様に低下していく。このように,イグニッションスイッチIGオフ後には,
自発光指針30及び目盛り板20が瞬時に暗くなることなく時間データtの増大に
比例して暗くなっていくので,イグニッションスイッチIGオフ後の自発光指針3
0及び目盛り板20の斬新な視認性を乗員に提供できる。
【0021】なお,上記第1実施の形態において,発光素子31及び光源50の
各発光輝度が低下している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合に
は,図6にて示すように,光源50の発光輝度を初期輝度Aに戻すタイミングを,
発光輝素子31の発光輝度に比べて,所定時間T2だけ遅延させて実施してもよい。
この場合には,イグニッションスイッチIGのオン時にも自発光指針30及び目盛
り板20の斬新な視認性を提供できる。
図5
図6
(第2実施の形態)図7は,本発明の第2実施の形態の要部を示している。
【0022】この第2実施の形態では,上記第1実施の形態におけるフローチャー
トにおいてステップ111以後のフローチャート部分が図7にて示すように変形さ
れている。その他の構成は上記第1実施の形態と同様である。このように構成した
本第2実施の形態において,上記第1実施の形態にて述べたと同様にステップ11
1にて時間データtがt=0とクリアされると,次のステップ111aにおいて,
光源50の発光輝度(以下,発光輝度Y1という)が,上記第1実施の形態にて述
べた初期輝度Aよりも低い所定輝度B(図8参照)にセットされる。
【0023】以後,ステップ112A,113,113A,130Aを循環する処
理がなされる。この処理においては,ステップ113にて繰り返し加算更新される
時間データt=t+1に応じ,ステップ112Aにて発光輝度Yが上記数1の式に
基づき算出されるとともに,発光輝度Y1が次の数2の式に基づき算出される。な
お,本第2実施の形態では,ステップ112A以後における発光輝度Yは,発光素
子31のみの発光輝度として処理される。したがって,数1の式における値Tは,
発光素子31のみに対応する。
(2)本件訂正に関しての新規事項の追加の有無について
訂正事項1のうち,訂正事項aは,請求項1において,キースイッチのオフに伴
い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイ
ッチがオンされると,前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチが
オンされるタイミングで零にし,このキースイッチがオンされるタイミングから遅
延させて前記目盛り板照射手段の輝度を前記初期輝度に戻すように制御する,とい
う構成要件を付加するものである。
そこで,訂正事項1が,本件明細書に記載した範囲のものといえるか否かについ
て検討する。
前記(1)アのとおり,本件発明は,キースイッチのオフに伴う指針や目盛り板の明
るさの変化に工夫を凝らし,キースイッチのオフ後の視認性の斬新さを乗員に与え
るようにすることを目的とし,その斬新な視認性を提供する構成について,本件発
明1~4までの構成が示されているところ,本件発明1は,そのうち,車両のキー
スイッチ(IG)のオフに伴い目盛り板照射手段の照射光の輝度を徐々に低下させ
るように制御することにより,乗員に対し,この種指針装置におけるキースイッチ
のオフ後の斬新な視認性を提供できる,としたものであり,照射手段としては,目
盛り板照射手段のみを対象とする発明であると解される。
ところで,本件明細書には,前記(1)イのとおり,発光輝度が徐々に低下している
状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合の記載として,【0021】
及び図6がある。この【0021】において,「・・・発光素子31及び光源50
の各発光輝度が低下している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合
には,図6にて示すように,光源50の発光輝度を初期輝度Aに戻すタイミングを,
発光輝素子31の発光輝度に比べて,所定時間T2だけ遅延させて実施してもよ
い。・・・」と記載され,目盛り板照射手段の光源50を発光させるタイミングを,
指針照射手段の発光素子31の発光のタイミングと比較して遅延させることが明ら
かにされているが,イグニッションスイッチのオンのタイミングから遅延して初期
輝度Aに戻ることについての記載はない。
しかし,以下に述べるとおり,図6には,キースイッチのオフに伴い光源50(目
盛り板照射手段)の照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチが
オンされた時点で,光源50(目盛り板照射手段)の照射光の輝度が零となり,そ
の時点から所定時間T2だけ遅延して,光源50(目盛り板照射手段)の照射光の
輝度が初期輝度Aに戻る態様が記載されているものと認められる。
すなわち,まず,前記(1)イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の本文中に
は,発光輝度が低下している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合
について,目盛り板照射手段の光源50を発光させるタイミングを,指針照射手段
の発光素子31の発光のタイミングと比較して遅延させることのみが記載されてい
るが(【0021】),指針照射手段を構成に含まない本件発明1において,イグ
ニッションスイッチのオンではなく,発光素子31の挙動に光源50の挙動タイミ
ングを合わせるべき技術的意義を示す記載はない。また,【0011】,【001
3】~【0015】,【0018】及び図3(駆動回路)によれば,目盛り板の輝
度制御を行う駆動回路90bと指針の輝度制御を行う駆動回路90aが個別に制御
されていることが明らかであり,技術的に目盛り板の輝度制御が指針の輝度制御に
連携して制御されているわけではないことが理解できる。そして,イグニッション
スイッチIGのオフ後における第1実施の形態における光源50及び発光素子31
の各発光輝度の変化を示す図5には,イグニッションスイッチIGのオン,オフ挙
動を示す図の下に光源50(目盛り板照射手段)の発光輝度が,更にその下に発光
素子31(指針照射手段)の発光輝度が記載されており,イグニッションスイッチ
IGのオフを示す線の直下に,それぞれ補助線が引かれ,これを起点に徐々に発光
輝度が低下する様子が示されている。この場合において,目盛り板照射手段の発光
輝度が徐々に低下するタイミングが,イグニッションスイッチIGのオフにかかっ
ていることは,本件明細書の請求項1,【0018】の記載からも明らかである。
一方,図6においても,図5の場合と光源50と発光素子31の位置を入れ替える
ことなく,イグニッションスイッチIGの図の下に,光源50の発光輝度,発光素
子31の発光輝度を示す記載が順に並べられ,イグニッションスイッチIGがオフ
となり各発光輝度が徐々に低下している際に同スイッチをオンした場合に,その挙
動を示す線の直下に補助線が引かれ,光源50はその直下で輝度が零とされ,その
補助線からT2遅れたタイミングで初期輝度Aに復帰する一方,発光素子31はそ
の補助線を起点として直ちに初期輝度Aに復帰することが示されている。そうする
と,図6の記載に触れた当業者は,図5において目盛り板照射手段の発光輝度が徐々
に低下するタイミングをイグニッションスイッチのオフにかからせたのと同様に,
目盛り板照射手段のみを対象とした本件発明1の構成において,同照射手段の発光
輝度が徐々に低下している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合,
これを契機として,光源50の発光輝度が零となり,そこからT2時間経過した後
に,その輝度が初期輝度Aに戻ることを読み取るものと認められる。
したがって,上記付加された構成要件は,図6の記載によって十分に裏付けられ
ていると認められ,訂正事項aは,本件訂正前の本件明細書に記載した事項の範囲
内でしたものと認められる。
よって,取消事由1には,理由がある。
(3)被告の主張について
被告は,訂正発明1には,指針照射手段の輝度に関する記載はないから,指針照
射手段の輝度の変化は任意であり,「前記指針照射手段の輝度を前記キースイッチ
がオンされるタイミングで零にし,このキースイッチがオンされるタイミングから
遅延させて前記初期輝度に戻す」ように制御する構成(同期した構成)を含むこと
になり,新たな技術的事項が導入される旨主張する。
しかし,本件明細書の【0004】は,「請求項1,4に記載の発明によれば,
制御手段が,キースイッチのオフに伴い目盛り板照射手段の照射光の輝度を徐々に
低下させるように制御する。これにより,・・・キースイッチのオフ後の斬新な視
認性を提供できる。」とし,また,【0006】には,「請求項2乃至4に記載の
発明によれば,制御手段が,キースイッチのオフに伴い目盛り板照射手段及び指針
照射手段の各照射光の輝度を徐々に低下させるように制御する。これにより,・・・
キースイッチのオフ後の斬新な視認性を提供できる。」として,本件訂正前から,
目盛り板の輝度制御に係る本件発明1と目盛り板及び指針の両者の輝度制御に係る
本件発明2とを明確に分けて,それぞれの構成及び効果を開示しているところ,本
件発明1は,指針照射手段を構成に含まず,目盛り板照射手段の制御のみが記載さ
れている。そして,本件訂正後の請求項1にも,指針の輝度制御に係る構成は一切
記載されておらず,訂正発明1は,本件訂正により,目盛り板照射手段の照射光の
輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンされた後の制御に係る構
成が限定されたものであり,指針の輝度制御とは関係がないことが明らかである。
本件訂正後に訂正発明1が被告主張の上記同期した構成を含み得るとしても,本件
訂正の前後において請求項1は,目盛り板の輝度を制御するのみであるという点で,
訂正発明1の外延は本件訂正前と変わりがない。
したがって,被告の上記主張は,失当である。
また,被告は,本件明細書の【0035】の記載によれば,指針照射手段(発光
素子31)の輝度は,目盛り板照射手段(光源50)の輝度から独立して制御しな
くともよい付随的なものと解され,【0021】に記載された変形例を,【003
5】の示唆に従って,指針照射手段に対し目盛り板照射手段に付随的な輝度制御と
することはできないから,訂正発明1が本件明細書に記載ないし示唆されていると
はいえない旨主張する。
しかし,【0035】の「自発光指針30に代えて,適宜な光源からの光を導入
して発光する発光指針を採用してもよい。この場合,この光源には光源50の役割
をも兼用させ得る。」の記載からすれば,目盛り板と指針が同じ輝度に制御される
場合に適用があることが明らかであって,図5,図11及び図12に係る実施例に
おいて適用可能であるが,目盛り板と指針が同じ輝度に制御されていない図6,図
8に係る実施例においてその適用外となることは,当業者にとって直ちに理解でき
ることである。よって,【0035】の記載が【0021】の記載の理解や,図6
に記載された事項についての解釈に影響を与えるものではない。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
2取消事由2-1(訂正発明2の進歩性判断の誤り)について
(1)訂正発明2について
訂正明細書(甲17の2)によれば,訂正発明2について,以下のとおり認めら
れる。
訂正発明2は,照射手段として目盛り板照射手段及び指針照射手段の両方を有す
る発明である本件発明2において,特に,キースイッチのオフに伴い目盛り板照射
手段及び指針照射手段の照射光の輝度を初期輝度から徐々に低下させるように制御
し,そのような状態でキースイッチがオンされた場合に着目し,この場合に,指針
照射手段の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで初期輝度に戻すとと
もに,目盛り板照射手段の照射光の輝度をキースイッチがオンされるタイミングで
零にし,指針照射手段の輝度が前記初期輝度に戻るタイミングから遅延させて前記
目盛り板照射手段の輝度を前記初期輝度に戻すように制御することにより,目盛り
板及び発光指針の各明るさがキースイッチのオフ後徐々に低下している状態でオン
された場合に,乗員に対し,この種指針装置におけるキースイッチのオフ後のオン
時にも斬新な視認性を提供できるようにしたものである(【0006】,【0021】)。
(2)引用発明について
甲1によれば,引用発明につき,以下のことが認められる。
引用発明は,走行速度,エンジン回転数などを表示するための車両用計器に関す
るものであり,詳細には車両を使用しないとき,すなわち,イグニッションキーが
投入されていないときには全面が暗黒となる,いわゆるブラックアウト型とした車
両用計器に係るものである(【0001】)。
従来の車両用計器においては,目盛り板に対する目盛り板照明装置は透過照明と
する直接照明が可能であるが,指針に対する指針照明装置は,この指針自体をライ
トガイドとして指針の背面に例えば白色塗料などで形成された反射塗膜に反射させ
る間接照明となり,前記目盛り板照明装置と比較して効率の低い暗いものとなるこ
とは避けられないものであった(【0004】)。そのため,目盛り板と指針を覆うス
モーク板で形成された窓ガラスの透過率を設定するときには指針側が読取り可能な
程度に透過率を高いものとしなければならず,これによりイグニッションキーのオ
フ時においても車両用計器に直射日光が照射したときには前記指針,特に白色皮膜
が前記窓ガラスを透過して観視されるものとなり,使用者に甚だしく違和感を与え
る問題点を生じていた(【0002】,【0005】)。
そこで,イグニッションキーのオフ時には内部照明の消灯と窓ガラスとして採用
されたスモーク板とによりブラックアウトする構成とした車両用計器において,前
記車両用計器の目盛り板のゼロ目盛り以下で,かつ,前記窓ガラスと指針との間と
なる位置には少なくとも前記窓ガラス側を暗色とした不透明部材により指針マスク
板を設け,前記イグニッションキーのオフ時には前記指針をゼロ目盛り以下に旋回
させて前記指針マスク板内に収納することを特徴とする車両用計器を提供すること
で,直射日光が照射したときにも指針が観視されることを防止してブラックアウト
効果が保たれるようにし,もって,観者に違和感を与えるのを防止するとの効果を
奏するようにしたものである(【0006】,【0014】)。
(3)周知技術2について
審決は,引用発明におけるイグニッションキーをオフした際の挙動に,周知技術
1及び公知技術2を適用して,目盛り板照射装置及び指針照明装置を点灯状態から
徐々に暗くなるよう制御して消灯させる構成に変更するとともに,引用発明を登載
した車両の運転の再開に当たって,イグニッションキー10をオンした際の挙動に
ついて,使用者に不快感を与えないことに加え,まず指針が発光するため,すなわ
ち,目盛りや記号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,使用者
に指針を鮮明に認識させることができ,指示計器の高精度感を使用者に与えること
ができる周知技術2を適用することは,当業者が容易に想到することであるとした
上で,イグニッションキーをオフした直後にイグニッションキー10がオンされる
場合もあり,イグニッションキーをオンした観者の関心は,走行の停止ではなく運
転の再開に向かっているから,フェードアウト中に観者(操作者)がイグニッショ
ンキー10をオンした場合には,直ちに周知技術2の制御を提供するのが自然であ
り,周知技術2の制御に際して,いったん,目盛りや記号等の表示部分が発光して
いない状態に制御すること,すなわち,「イグニッションキー10をオンすることで
指針照明装置5に電力を供給して点灯すると同時に目盛板照明装置3を消灯し,演
算回路9は所定数の正転パルスを発生して指針4をゼロ目盛20aにリセットし,
指針照明装置5への電力供給に遅延させて目盛板照明装置3に電力を供給して点
灯」することは必然であると判断した。
これに対し,原告は,周知技術2の認定が誤りであると主張するので,まず,こ
の点について検討する。
ア甲9について
甲9(特開平4-266536号公報)には,従来例として,「【0002】【従
来の技術】複数の照明灯を用いて車両用計器類の指針や,目盛,文字などの計器全
体部分をそれぞれ別々に照明する照明装置が実用に供されている。図2はこの種の
照明装置の回路を示し,図3はその照明装置により照明される速度計を示す。速度
計1の指針2は指針用放電灯2aによって照明され,目盛や文字などの計器全体部分3
は,計器用放電灯3aによって照明される。車両のキースイッチ4をON位置にすると,
バッテリ5からキースイッチ4のイグニッション電源端子4aを介して速度計1の照明
用電源回路6へ電源が供給される。電源回路6は,バッテリ電圧を安定化して直流電
圧を出力する。この直流電圧は,指針用点灯回路7およびタイマ8へ供給され,指
針用点灯回路7が起動するとともに,タイマ8がスター卜する。指針用点灯回路7は,
交流電圧を出力して指針用放電灯2aに印加し,指針用放電灯2aが点灯して指針2が
照明される。一方,タイマ8は,設定時間後にタイムアップして計器用点灯回路9へ
直流電圧を供給する。計器用点灯回路9は,交流電圧を出力して計器用放電灯3aに
印加し,計器用放電灯3aが点灯して目盛や文字など計器全体部分3が照明される。
つまり,指針2が照明されてからタイマ8の設定時間後に計器全体部分3が照明され
る。」との記載がある。
しかし,上記のように制御することが,「使用者に指針を鮮明に認識させること
ができ,指示計器の高精度感を使用者に与えることができる」ことについては何ら
の記載がなく,かえって,甲9は,従来の装置では,タイマによって指針用放電灯
及び計器用放電灯の点灯に時間差をもたせているので,このタイマのコストがかか
るという問題があることから,複数の照明灯をそれぞれ別の電源系統から給電し,
各照明灯を時間差で点灯させる車両用計器類照明装置を提供することとしたもので
(【0003】,【0004】),そのために,車両のキースイッチをOFF位置
からACC位置にすると計器用放電灯が点灯し,その後,更にキースイッチをAC
C位置からON位置にすると指針用放電灯が点灯するという従来例における点灯順
序と逆の実施例が開示されているものであるから,使用者に指針を鮮明に認識させ
るとの技術的意義を読み取ることはできない。
イ甲13について
甲13(特開平6-201410号公報)によれば,以下のことが認められる。
従来,指針と目盛りとを,それぞれ別々の発光体で発光させる照明装置において
共通の発光体で発光させる構成で実施されてきた指針と目盛りとの同時発光を実施
すると,発光体が別々であるため,部品間の特性のばらつき,組付け誤差等により,
発光体間で発光時期のずれが生じるおそれがあり,乗員等の使用者に不快感を与え
るという問題点が発生した。そこで,別々の発光体を常に一定方式で発光させて使
用者の不快感を解消することが可能な計器装置の照明装置の提供を目的とし(【0
003】~【0007】),指針が回動する指示計器と,前記指針の動きに応じて
目盛りや記号等の表示部分を配設した計器盤と,前記指示計器の前記指針を発光さ
せる第1の発光体と,前記計器盤の前記表示部分を発光させる第2の発光体と,前
記第1,第2の発光体と電源とを接続するスイッチ手段と,このスイッチ手段の投
入により前記第1,第2の発光体へ電力が供給される際に,前記第1,第2の発光
体のうちの一方の発光体への電力供給時期に対して他方の発光体への電力供給時期
を遅延させる遅延手段とを備えることとし,その結果,第1,第2の発光体が常に
一定した順序で発光するため,指針と目盛りや記号等の表示部分が常に一定した順
序で発光するので,使用者に不快感を与えず,また,期間をおいて指針と目盛りや
記号等の表示部分とが順に発光するので,使用者に高精度感を与えることができる
との効果を奏するものである(請求項1,【0008】,【0010】,【005
1】)。さらに,前記遅延手段は,前記第1の発光体への電力供給時期に対して前
記第2の発光体への電力供給時期を遅延させたことにより,まず指針が発光するた
め,すなわち,目盛りや記号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するた
め,使用者が指針を鮮明に認識させることができ,使用者に高精度感を与えること
ができる効果を奏するものである(請求項2,【0009】,【0011】,【0
052】)。
以上によれば,車両用のキースイッチのオンにより,指針計器用発光体及び計器
板用発光体へ電力を供給する際に,指針計器用発光体への電力供給時期に対して計
器板用発光体への電力供給時期を遅延させる遅延手段を備えることで,目盛りや記
号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,指針を鮮明に認識させ
て,使用者に高精度感を与えることが理解でき,審決が前記第2,4(3)イ(エ)におい
て「周知技術2」と認定した技術が記載されていると認められる。
ウ周知性について
甲13からは,上記イの技術が読み取れるものの,証拠(乙1,2)を斟酌した
としても,当該技術事項が,車両用指針装置の技術分野において,当業者に一般に
知られている技術であると認めることはできない。上記アの甲9における従来技術
の記載を併せて考慮したとしても,甲9の従来例の目的や意義は明らかでなく,審
決の認定した「周知技術2」を基礎付けるものとはなり得ない。したがって,審決
の認定した「周知技術2」が周知の技術であると認めることはできないから,これ
を周知の技術であるとした審決の認定には誤りがある。
したがって,目盛り板照射装置及び指針照明装置の各発光輝度がキースイッチの
オフによって徐々に低下している状態でキースイッチがオンされた場合に,引用発
明に周知技術1及び周知技術2を適用することによって,訂正発明2が容易に想到
できることとした審決の判断には誤りがある。
(4)周知技術2の適用について
ア仮に,審決の認定した「周知技術2」の事項が周知であるとしても,以
下のとおり,本件において,引用発明に周知技術1を適用して,指針照射手段(発
光素子31)及び目盛り板照射手段(光源50)の各発光輝度が徐々に低下してい
る状態で,更に周知技術2を適用することは,容易といえないと解される。
すなわち,審決の認定した「周知技術2」は,前記第2,4(3)イ(エ)のとおり,目
盛りや記号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,指針を鮮明に
認識させることができ,使用者に高精度感を与えるとするもので,目盛り板や指針
が発光していない状態でキースイッチがオンされた場合に関する技術である。これ
に対し,訂正発明2は,キースイッチのオフに伴う指針や目盛り板の明るさの変化
に工夫を凝らし,キースイッチのオフ後の視認性の斬新さを乗員に与えることを目
的とし(甲17の2【0003】),「各発光輝度が低下している状態でイグニッ
ションスイッチがIGがオンされた場合には,イグニッションスイッチIGのオフ
後のオン時にも自発光指針30及び目盛り板20の斬新な視認性を乗員に提供でき
る。」(甲17の2【0021】)という効果を奏するものである。そして,引用
発明に周知技術1を適用した場合,目盛り板を光により照射する目盛り板照射手段
と,発光指針を光により照射して発光させる指針照射手段とを備えた車両用指針装
置において,車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段及び
前記指針照射手段の各照射光の輝度を,前記キースイッチのオン状態の前記目盛り
板照射手段及び前記指針照射手段の各照射光の初期輝度から徐々に低下させるよう
に制御するという態様となり,目盛り板照射手段及び指針照射手段が初期輝度から
低減しているものの,未だ点灯していることになるが,審決の認定した「周知技術
2」は,あくまで「指針及び目盛り板がともに発光していない状態」を前提として,
その場合に,「キースイッチがオンされたときに目盛り板照射手段は発光せずに照
射光の輝度は零のままであり,キースイッチがオンされてから一定の遅延時間後に
目盛り板照射手段の輝度を所定輝度とするように制御すること」であり,「照射手
段の輝度が徐々に低下している状態」でキースイッチがオンされる場合における制
御を示すものではない。
したがって,引用発明に周知技術1を適用した場合に想定される「照射手段の輝
度が徐々に低下している状態」と,周知技術2の前提となる「指針及び目盛り板が
ともに発光していない状態」は,その態様が相違するものであるから,上記周知技
術2を適用することは,当業者が容易に想到するものではない。
イさらに,審決は,周知技術2を適用することは容易に想到するとした上
で,イグニッションスイッチのオフの直後にオンにされる場合には,運転操作に向
かっているのであるから,直ちに周知技術2を適用することが自然であり,周知技
術2の制御に際して,いったん,目盛りや記号等の表示部分が発光していない状態
に制御すること,すなわち,「指針照明装置5に電力を供給して点灯すると同時に目
盛板照明装置3を消灯し,・・・指針照明装置5への電力供給に遅延させて目盛板照
明装置3に電力を供給して点灯」することは必然であると判断する。
しかし,イグニッションスイッチをオフした後,運転を再開するためスイッチを
オンにした場合,運転に向けてすべての照明手段を点灯させる必要がある中で,徐々
に輝度を低下させている照明手段のうち一方をいったん完全に消灯させることが自
然であるとは考え難い。また,周知技術2の適用の前提となる,「指針及び目盛り板
がともに発光していない状態」を作出しようとするならば,いったん目盛り板照明
手段及び指針照明手段のいずれも消灯させた上で,指針照明手段を先に点灯させる
などの構成を採り得るのであるから,上記の構成を必然であるとした審決の判断は
採用できない。
ウ被告は,周知技術1と周知技術2はともに,キースイッチのオンかオフ
時かの相違があるが,いずれも意匠演出ないし良好な心理的効果を観者に与えるも
のである点で共通しているから,前訴判決の判示事項に従えば,周知技術1と同様
に周知技術2を引用発明に適用することも容易であると主張する。
しかし,訂正発明2は,引用発明に対して,キースイッチのオフ時に周知技術1
を適用して各照明手段が消灯した後に,キースイッチをオンする際に単純に周知技
術2を適用する場面とは異なっており,引用発明に周知技術1を適用したとしても,
その輝度を低下している状態でオンする場合に,周知技術2を適用することが容易
に想到し得ることではないことは,前記のとおりである。
仮に,周知技術2に代えて,指針の照明の消灯と計器板の照明の消灯とのタイミ
ングをずらすようにした公知技術2を考慮し,照明装置を用いた意匠演出において,
複数の照明灯についてタイミングをずらして消点灯ないし減増光して一定の演出効
果を得ることを併せて考慮したとしても,スイッチキーのオン時に目盛り板照射手
段の輝度をあえて零にする構成を容易に想到するとは認め難い。すなわち,上記の
各照明装置のタイミングをずらす演出について,スイッチがオンされれば,各照明
装置の点灯のタイミングないし増光の程度を,スイッチがオフされた場合には,各
照明装置の消灯のタイミングないし減光の程度を,それぞれ制御することが想到可
能な演出と考えられるとしても,これとは異なり,スイッチがオンされたにもかか
わらず,そのオンのタイミングで発光輝度を零にして消灯するという構成が容易想
到とはいえず,また,本件における全証拠においても,キースイッチのオンされる
タイミングで目盛り板照射手段の輝度を零にして消灯する構成は記載されていない。
(5)小括
以上によれば,当業者が,「キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段の照
射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンされると,前記目
盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで零に
し」た構成を容易に想到するとは認め難い。
よって,取消事由2-1には理由がある。
3取消事由2-2(訂正発明3及び1の進歩性判断の誤り)について
前記2と同様の理由により,訂正発明1が容易に想到できたとする審決の進歩性
判断は誤りである。また,訂正発明3は,訂正発明2を技術的に限定したものであ
るから,訂正発明2が容易に想到できたとする審決の進歩性判断に誤りがある以上,
訂正発明3に係る判断(の一部)にも誤りがあることが明らかである。
なお,被告は,審決の訂正発明3に係る判断は,前訴判決の拘束力によるもので,
適法である旨主張するが,前訴判決で判断がなされたのは,本件発明3の進歩性に
ついてであって,目盛り板照射手段及び指針照射手段の各発光輝度が徐々に低下し
ている状態でキースイッチをオンした場合に適用すべき技術に関しては,前訴にお
いて何らの判断がなされているものではないから,上記主張は失当である。
したがって,取消事由2-2には理由がある。
第6結論
以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がある。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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