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裁判例


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       主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告Aに対し昭和五七年一二月一日以降毎月二〇日限り一か月金二四
万一五〇〇円の割合による金員を、同Bに対し昭和六〇年一一月一九日以降毎月二
〇日限り一か月金一八万〇七〇〇円の割合による金員をそれぞれ支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第2項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 被告は、もと日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)と称し、日本国有
鉄道法(以下「国鉄法」という。)に基づいて設立された公共企業体であつたが、
昭和六二年四月一日、日本国有鉄道改革法一五条、同法附則二項及び日本国有鉄道
清算事業法附則二条により、日本国有鉄道清算事業団と改称した。
(二) 原告A(以下「原告A」という。)は、昭和二〇年二月五日国鉄に雇傭さ
れ、同五七年一一月当時筑前前原駅運輸指導係の職にあつた。
(三) 原告B(以下「原告B」という。)は、昭和四四年四月一日国鉄に雇傭さ
れ、鳥栖駅の構内指導係として勤務したのち、同六〇年三月以降九州総局に勤務し
ていた。
2 被告は、原告Aは昭和五七年一一月一五日付けで、同Bは同六〇年一一月一八
日付けで、いずれも公職選挙法(以下「公選法」という。)一〇三条一項、国鉄法
二六条二項本文及び同法二〇条一号により国鉄職員たる地位を失つたと称して、こ
れを争つている。
3 原告Aの昭和五七年一一月当時の賃金月額は二四万一五〇〇円であり、原告B
の昭和六〇年一一月当時の賃金月額は一八万〇七〇〇円であつて、賃金支払日はい
ずれも毎月二〇日であつた。
4 よつて、原告らは被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確
認と、原告Aにつき昭和五七年一二月一日以降毎月二〇日限り一か月金二四万一五
〇〇円の割合による、原告Bにつき同六〇年一一月一九日以降毎月二〇日限り一か
月金一八万〇七〇〇円の割合による各賃金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
 請求原因1、2の各事実はいずれも認め、同3は争う。
三 抗弁
 原告Aは、昭和五七年一一月一四日実施の糸島郡前原町議会議員一般選挙に立候
補の届出をし、同月一五日同町選挙管理委員会から当選人決定の告知を受けた。ま
た、原告Bは、昭和六〇年一一月一七日実施の鳥栖市議会議員一般選挙に立候補の
届出をし、同月一八日同市選挙管理委員会から当選人決定の告知を受けた。
 しかし、国鉄法二六条二項は「第二十条第一号に該当する者は、職員であること
ができない。但し、市(特別区を含む。)町村の議会の議員である者で総裁の承認
を得たものについては、この限りでない。」と定めているところ、同法二〇条一号
は「国務大臣、国会議員、政府職員(人事院が指定する非常勤の者を除く。)又は
地方公共団体の議会の議員」というものであるから、町議会の議員及び市議会の議
員が兼ねて国鉄職員であることができないことは明らかである。そして、公選法一
〇三条一項は「当選人で、法律の定めるところにより当該選挙にかかる議員又は長
と兼ねることができない職に在る者が、第百一条第二項《当選人決定の告知》又は
第百一条の二第二項《名簿届出政党等に係る当選人の数及び当選人の決定の告知》
の規定により当選の告知を受けたときは、その告知を受けた日にその職を辞したも
のとみなす。」と規定しているところ、右にみたとおり、国鉄職員は「法律の定め
るところにより……議員又は長と兼ねることができない職に在る者」にあたるか
ら、原告らは、各々右当選人決定の告知を受けた日に国鉄の職員を辞したものとみ
なされることとなつたものである。
四 抗弁に対する認否及び原告らの主張
 抗弁前段の事実は認め、後段の主張はすべて争う。
1 国鉄法二六条二項と公選法一〇三条一項との関係について
(一) 公選法一〇三条一項は、法律の定めるところにより議員又は長と兼ねるこ
とができない職にある者が当選の告知を受けたときは、その告知を受けた日にその
職を辞したものとみなす旨定めているが、これは、兼職を禁止される議員等の範囲
が法律上明確であつて、兼職が無条件に禁止されている場合を前提とするものとい
わなければならない。すなわち、公選法は、選挙による公職と法律上両立しえない
職にある者の取扱いについて、公職選挙への参加意思と当選結果とを優先させる立
場から、公務員の服務など本人の現職の身分規律との調整をきわめて画一的に、明
確を期するように定めている。しかるに、国鉄職員については、国鉄法二六条二項
但書により、市(区)町村議会の議員との兼職が、国鉄総裁(以下「総裁」とい
う。)の承認を条件として、許されるのである(なお、このような規定は国鉄法以
外には例がない。)から、公選法一〇三条一項の規定は、国鉄職員は適用がないも
のというべきである。
 また、後述するとおり、国鉄法二六条二項但書は、国鉄職員が議員に当選したあ
とに総裁の承認を得ることを予定しているものと解すぺきところ、公選法一〇三条
一項の適用があるとすると、当選の告知によつて失職の効果が生じてしまい、事後
の承認を得る余地が全くないこととなり、極めて不合理である。
(二) 公選法一〇三条二項は、「第九十六条((当選人の更正決定))、第九十
七条((当選人の繰上補充))、第九十七条の二((名簿届出政党等に係る当選人
の繰上補充))又は第百十二条((議員又は長の欠けた場合等の繰上補充))の規
定により当選人と定められた者で、法律の定めるところにより当該選挙にかかる議
員又は長と兼ねることがでない職に在るものが第百一条第二項又は第百一条の二第
二項の規定により当選の告知を受けたときは、前項の規定にかかわらず、当該選挙
に関する事務を管理する選挙管理委員会(参議院比例代表選出議員の選挙について
は中央選挙管理会)に対し、その告知を受けた日から五日以内にその職を辞した旨
の届出をしないときは、その当選を失う。」としているところ、この場合であつて
も、国鉄職員については、総裁の承認があれば、辞職届出をしなくとも当選を失う
ことはないものと解されるのであるから、まず、その承認の有無を明瞭に確認する
手段を定めておく必要があるものといわなければならない。しかるに、同条はこの
点について何らの規定も置いていないのであつて、このことは、同条が、総裁の承
認によつて兼職の禁止が解除される国鉄職員のような場合への適用を予定していな
いことを示すものである。
(三) 公選法一〇三条一項は、候補者が自分のついている職につきいかなる兼職
の規制があるかを常に知悉しているとは限らず、他方、候補者となる以上は当選の
結果を優先させるであろうとの経験則の存在を前提とするものであるところ、国鉄
職員については、総裁の承認のあることを期待しうるわけであるから、必ずしも右
のような経験則があてはまるとは限らず、したがつて、同項のとる前提がそもそも
存しない。
2 国鉄法二六条二項の解釈としては、職員は当選して議員になることによつて、
総裁の承認のない限り、当然にその職員たる地位を失うと解するのではなく、むし
ろ、職員は、議員となることについて総裁の不承認の意思表示があつたときに限
り、当選人決定の告知により失職するものと解すぺきである。なぜなら、
(一) 労働基準法(以下「労基法」という。)七条は「使用者は、労働者が労働
時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するため
に必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又
は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。」
と定めている。同条は、主権在民主義・民主主義を宣言し、できるだけ広く、かつ
平等に国民の参政権を保障しようとする憲法の基本理念を体して設けられたもので
あるところ、国または地方公共団体の議会の議員の職につくことが同条の「公の職
務の執行」に含まれることはいうまでもなく、また、労働者が公職についたことを
理由に、使用者から労働関係を解消することは、実質において公職の執行を拒否す
るに等しいから原則として許されず、例外的に当該公職の執行が使用者の業務に著
しい支障を生ずる場合に限り、同条に違反しないと解する余地があるにとどまる
(最高裁判所昭和三八年六月二一日判決民集一七巻五号七五四頁参照)。
 国鉄その他の公共企業体とその職員との関係は私的労働関係とされ、労基法が適
用される。実質的にみても、公共企業体の少なくとも一般の職員については、公務
員のような政治行為に対する厳格な制限はなく、この点から議員兼職を一般的に禁
止する理由もない。また、日本専売公社職員については、日本専売公社法上、地方
議会の議員はもとより国会議員との兼職も禁止されておらず、日本電信電話公社職
員の場合は、市(区)町村議会の議員は法律上兼職禁止の範囲から除外されてい
る。
 ところが、仮に国鉄法二六条二項について、被告主張のとおり、承認が議員兼職
の要件であるとの見解をとると、国鉄職員は市(区)町村議会の議員との兼職を禁
止されるのが原則となり、また、議員に就任したというだげで失職(解雇予告手当
を要しない分、解雇以上に労働者にとつて不利益である。)せしめられ、これを争
い、是正する手段を奪われてしまうことになるのであつて、民間労働者ないし他の
公社職員との間に耐え難い不均衡を生じることになる。
(二) 国鉄法二六条二項但書は「市(特別市を含む。)町村の議会の議員である
者」との表現を用い、「議員となる者」とはしていない。したがつて、同法は、議
員の地位を取得したのち(「議員である者」となつたのち)に総裁の承認を受ける
という順序を予定しているものと解される。そもそも当選の告知があるまでは議員
としての地位を取得するかどうか法律的には全くの浮動状態にあるから、論理的に
も、また実態上も、承認は当選の告知後とならざるを得ない。
 なお、国鉄法においても、昭和二九年の改正前は、町村議会議員との兼職は無条
件に認められていたところ、同年一二月の第二〇回国会における同法の一部改正に
より、市(区)議会議員についても兼職禁止を綬和する措置をとるのと引換えに、
二六条二項但書が付加されるに至つたのであるが、右国会における審議でも、事後
承認制の採用が前提となつていた。
(三) 公選法一〇三条二項は、公務員の政治的中立性確保等の公序的要請に基づ
く兼職禁止の場合においても、一定期問内(告知を受けた日から五日間または辞職
の届出までの間)は、職員または長の地位と、それと兼ねることのできない職との
併存を認めている。使用者としての国鉄の利益の保護を目的とした国鉄法二六条
二項について、これより厳しい解釈をとる理由はないから、この点からも、議員と
なることによつて当然に職員たる地位を失うことになるとする被告の見解は操りえ
ない。
(四) 国鉄も、従来、市(区)町村議会の議員の選挙の当選人につき、総裁の不
承認があつてはじめて失職するとの解釈運用を行つてきた。
(1) 国鉄の昭和三九年一二月一〇日総秘達第三号「公職との兼職基準規程」
は、「市町村の議会の議員に当選した職員のうち、兼職を希望する者は、直ちに所
属長に兼職の承認願(別表第二)を提出し、その承認を受けなければならない。」
(第五条)、「前条に規定する承認願の提出を受けた所属長は、現場長その他これ
に準ずる一人一職の職にある者又は業務遂行に著しい支障があると認めたときは、
その承認をしてはならない。」(第六条)として、当選の告知によつて当然に失職
したものと扱わず、むしろ当選後直ちに承認願を提出させ、右第六条所定の事由の
有無を審査して承認の可否を決するという手続を規定している。そして、実際上、
兼職承認の決定には、告知から早く一週間ないし一か月を要しており、殊に、昭和
五一年四月七日総裁室秘書課長事務連絡が発せられてのちは、承認の可否につき、
総裁室秘書課長が合議に加わることになつたため、決定が承認申請から数か月後と
いうことも稀ではなかつた。
 また、繰上補充により市町村会議員に当選した国鉄職員についても、選挙管理委
員会から辞職届出あるいは兼職についての承認書等を要求されることなく、議員の
資格を取得し、兼職議員として活動してきた実例がある。
 なお、右「公職との兼職基準規程」は、労働契約の内容にかかわる性格の規程で
あるから、労基法八九条にいう就業規則に該当することになる(なお、国鉄では、
このような労働条件にかかわる規程、通達類を就業規則に相当するものとして取り
扱つていた。)が、右の各規定は、長年の慣行として労働契約の内容ともなつてい
たものである。
(2) 国鉄の公定的解釈を示したものとみられる日本国有鉄道法研究会(国鉄総
裁室法務課内)「日本国有鉄道法解説」も、「市(区)町村議会の議員について
は、当選の告知をもつて、当然失職とはならず、総裁が兼職の申し出を不承認した
ためとか、あるいは、その他の理由で本人の退職の申し出により、退職の発令をし
てはじめて失職するものと解される。」としている。
3 本件不承認の違法性
(一)原告Aが昭和五七年一一月一四日の前原町議会議員一般選挙に立候補の届出
をしたところ、国鉄は、国鉄門司鉄道管理局長名による同月八日付文書をもつて、
同原告に対し「国鉄の置かれた現状に鑑み」というほかは特段の理由を示すことな
く議員兼職を承認しない旨の通知を発し、同原告が右選挙において当選人となり、
同月一五日前原町選挙管理委員会から当選人決定の告知を受けたのち、直ちに兼職
の承認願を前記局長あて提出したにもかかわらず、その受領を拒否した。
 また、原告Bが昭和六〇年一一月一七日実施の鳥栖市議会議員一般選挙に立候補
の届出をしたところ、国鉄は、国鉄九州総局長名による同月一三日付文書をもつ
て、同原告に対し、やはり「国鉄の置かれた現状に鑑み」というほかは特段の理由
を示すことなく、議員兼職を承認しない旨の通知を発した。
(二)(1) 前記2(一)のとおり、民間労働者については、労働者が公職につ
いたことを理由に、使用者から労働関係を解消することは、原則として許されず、
例外的に当該公職の執行が使用者の業務に著しい支障を生ずる場合に限り、労基法
七条に違反しないと解する余地があるにとどまり、また国鉄職員について、民間労
働者との間に著しい差異を設ける合理的根拠は存しないから、国鉄法二六条二項但
書についても、総裁は、当該職員の地位、担当業務の実態、公務執行のために必要
な時間等を具体的に検討し、兼職が業務の遂行に著しい支障をもたらすと認められ
る場合を除き、これを承認しなければならないものと解すべきであつて、右以外の
事情を考慮することは他事考慮として許されない。
(2) 昭和二九年一二月第二〇回国会における国鉄法二六条改正に関する審議で
は、兼職に伴う業務の支障の有無が焦点であり、それも主に駅長、助役等の管理職
の兼職が論議の対象となつていた。すなわち、職務の遂行に著しく支障を及ぼす虞
れのある場合を除き、総裁は承認をしなければならないことが当然の前提をなして
おり、ただ、法文にそこまで書くことはなく、解釈運用上その趣旨は十分達成可能
であり、また達成すべきものとされていたのである。
(3) 前記2(四)(1)にあげた「公職との兼職基準規程」六条は、「現場長
その他これに準ずる一人一職の職にある者又は業務遂行に著しい支障があると認め
たときは、その承認をしてはならない。」としているが、これは、このような事情
のないときは承認すべきことを前提としたものというべきであり、事実、従来はこ
の基準にのつとり、承認がなされていた。
(三)(1) 兼職一律禁止の違法
国鉄は、昭和五七年九月一三日総秘第六六六号「公職との兼職に係る取扱いについ
て」で、同年一一月一日以降、新たに又は改選により、公職の議席を得た者に対し
ては兼職の承認は行わないとの一般的方針を打ち出し、原告らについても、この一
般的方針に基づき、議員としての公務の執行が国鉄職員としての業務に支障をきた
すか否かを問うことなく、不承認の扱いをしたものである。
 しかしながら、右の一般的方針は、そもそも国鉄法二六条二項但書の定める承認
制の趣旨を没却するものであつてとうてい許されるものではなく、また、それは、
国鉄の置かれている状況、経営状態などのいわゆる他事考慮に基づくもので、違法
たるを免れない。
 なお、国鉄が右一般的方針を決定するに至ったのは、政府及び自由民主党の政治
的圧力に屈したためであり、国鉄自身その違法性は十分認識していた。
(2) 具体的にみても、原告らについて議員との兼職により国鉄職員としての業
務の遂行に著しく支障を及ぼすおそれはない。
 原告Aは、約一二年にわたり前原町議会議員の地位にあつたが、その間、総裁
は、業務遂行に著しい支障があるとは認められないとして兼職を承認してきた。ま
た、右承認は一年の期間を限つてなされ、その間公務を理由とする欠勤が頻回にわ
たるなど業務に支障があつた場合には、所属長は勤務の改善を求めるものとされて
いたところ、同原告は右改善要求を受けたこともない。
 また、原告Bも約八年にわたり鳥栖市議会議員の地位にあつたが、その間、総裁
は、業務遂行に著しい支障があるとは認められないとして兼職を承認してきた。ま
た同原告もその所属長から前記の改善要求を受けたことはない。
(3) 仮に、国鉄のおかれた状況から総裁において議員兼職による業務支障の抑
止のために何らかの努力をする必要があるとしても、その目的達成のためには、例
えば承認の有効期間を一年限りとしたうえ、その間の勤務状況によつて更新を拒否
するといつた既存の施策の運用の厳格化、あるいは職員の申出による無給休職制度
の活用などの手段が考えうるのであり、このような手段の検討について一顧だにす
ることなくなされた兼職の一律禁止は、仮に総裁の裁量権を前提としても、裁量権
の濫用といわざるを得ない。
4 雇傭契約の存続
 右のとおり、本件においては、総裁に承認すべき義務があり、総裁が承認の意思
表示をなさなかつたことは違法である。そして、ある意思表示をなすべき義務を負
う者が、当該意思表示をしなかつたことが違法と認められる場合に当該意思表示が
なされたと同様の効果を認めうることは借地権譲渡が背信行為と認めるに足りない
特段の事情がある場合の賃貸人と借地権譲受人との関係に関する最高裁判所昭和三
九年六月三〇日判決民集一八巻五号二四七頁の示すところであるから、本件におい
ても、総裁の承認があつたのと同様の効果、すなわち雇傭契約の存続が認められね
ばならない。
五 原告らの主張に対する認否及び被告の反諭
1 原告らの主張1(国鉄法二六条二項と公選法一〇三条一項との関係について)
はすべて争う。
(一) 国鉄法二六条二項は、国鉄職員と議員との兼職を禁じ、例外的に、総裁の
承認を受けた場合に限つてその禁止を解除しているものであり、これによれば、当
選告知の日現在における総裁の承認の有無により兼職の許否が一律に定まるのであ
るから、同項が公選法一〇三条一項にいう法律の定めであることはいうまでもな
い。また、国鉄法二六条二項但書にいう総裁の承認は、事前に、すなわち、選挙前
になされるものであるから、原告らのいう不合理は生じる余地がない。
(二) 公選法一〇三条二項の繰上補充当選の場合においても、当該選挙に際し、
あらかじめ総裁の承認があれば、既にその時点で議員との兼職の禁止が解除され、
当該職員は、「法律の定めるところにより当該選挙にかかる議員……と兼ねること
ができない職に在る者」に該当せず、同項の適用の余地がないのであるから、原告
らの主張するような確認手段はそもそも必要がない。
(三) 原告らの主張1(三)は争う。
2 同2(国鉄法二六条二項の解釈)は争う。
(一) 国鉄法二六条二項は、労基法七条の規定を前提としつつ国鉄職員の地位や
職務の特殊性、職務専念義務等を考慮し特別法として市(区)町村議会の議員との
兼職を総裁の承認にかからしめたのであるから、国鉄職員については国鉄法が優先
して適用されるのは当然であり、労基法との抵触問題の生じることはない。そし
て、民間企業においても、市町村議会の議員に就任すること直接又間接の理由とし
て、懲戒解雇をすることは許されないものの、通常解雇とすることは許されるとさ
れているのである(原告ら引用の最高裁判所昭和三八年六月二一日判決参照。)。
 また、国鉄と、日本電信電話公社及び日本専売公社とが、いわゆる三公社と総称
されるとしても、その職務の内容、公共性等は一律ではないから、その職員に対す
る取扱いがすべて同一でなればならない理由はなく、その間で差が生じたとして
も、それは政策上の選択の問題である。現に、議員との兼職の取扱い以外にも、た
とえば、超過勤務を命じる場合ついての国鉄法三三条の規定と類似する規定は他の
公社性には存しないなど、その取扱いは必ずしも同一ではないのであって、兼職の
取扱いについてそれぞれ差があるとしても、それを異とするにはあたらない。
 なお、原告らは、兼職禁止による失職は、解雇予告手当を要しない分、解雇以上
に労働者にとって不利益であると主張するが、かかる失職は法律上当然生じるもの
で、職員は立候補の際に当然予想できるものであるところ、被告はあらかじめ原告
らに対し、当選した場合に総裁の承認を得ることはできず、失職することとなる旨
通知していたのであるから、解雇以上に不利益とされることはない(因みに、右通
知は事実上のものであつて、原告らのいう不承認の意思表示と目すべきものではな
い。)。
(二) 国鉄二六条二項但書の「市(特別区含む。)町村の議会の議員である者で
総裁の承認を得たもの」との表現をもって、議員となる者は議員となった後に総裁
の承認を得るという順を踏むべきことを意味していると読むのは、条文にその本来
有する意味以上のものを持ち込もうとするものであつて、解釈としてこれを採り得
ないことは明らかである。
 右但書の解釈としては、承認事前に、すなわち、職員が議員となる前に、なされ
るべきものと解するのが相当である。実際的にも、立候補した議員につき、当選し
た際兼職を承認すべきか否かは、当選しなければ判断できない性質のものではな
く、また、職員にとつても、選挙前に兼職の承認の有無が明らかになつている方が
有利であるから、事前に、当選を停止条件とする承認を与えるという解釈の方がす
ぐれている。
 なお、原告らの主張2(二)のうち、昭和二九年改正前の国鉄法において町村議
会の議員との兼職が無条件に認められていたこと、同年の改正により、市(区)町
村議会の議員につき兼職禁止が緩和されるとともに、二六条二項但書が付加された
ことはそれぞれ認めるが、その余は争う。
(三) 公選法一〇三条二項の場合は、同項により告知の日から五日以内に従前の
職を辞した旨の届出をしない限り当選そのものを失い、議員たり得ないとともに、
かかる届出をするまでは議員とはならず、届出をまつて議員としての資格を取得す
るものと解され、そうとすると、同項の場合も、議員たる地位と兼職を禁じられた
職とは全く併存しえないものというべきである。
(四) 国鉄において、従前、原告らの主張するような運用の行われてきた事実は
ない。すなわち、従前、国鉄職員が市(区)町村議会の議員に立候補した場合、総
裁は事前に黙示的に承認を与えていたのであり、兼職を認めるべきでない場合に
は、当選前(場合によつては立候補前)に、退職勧奨をするなどして、その旨を通
知していたものである。
(1) 原告らの主張2(四)(1)のうち、国鉄の昭和三九年一二月一〇日総秘
達第三号「公職との兼職基準規程」に原告ら主張のとおりの規定の存することは認
めるが、その余は争う。前記のとおり、従前の取扱いは、承認を相当とする場合に
は事前に黙示的承認を与えるというものであり、右規程に定める当選後の承認願及
びこれに対する承認は、後日これを手続上明確にしておくため形式的になされるも
のにすぎない。また、右規定の存在により国鉄法の解釈が左右される理由はない。
(2) 同2(四)(2)のうち、日本国有鉄道法研究会の「日本国有鉄道法解
説」に原告ら主張のような記述のあることは認め、その余は争う。右記述は右研究
会の見解にすぎず、国鉄の公式見解ではない。
3(一) 原告らの主張3(一)の事実中、議員兼職を承認しない旨の各通知につ
き、「国鉄の置かれた現状に鑑み」というほかは特段の理由を示さないとの点は否
認し、その余の事実は認める。
(二)(1) 原告らの主張3(二)(1)は争う。国鉄法二六条二項但書は、総
裁の承認につき、何らの基準・制限も定めていないのであるからこれらを総裁の自
由な裁量に委ねているものと解すべきであり、総裁は、兼職による職務遂行への支
障を含む、諸般の事情を考慮してこれを決すべきものである。なお、前記2(一)
のとおり、労基法七条の解釈として、民間労働者についても、市町村議会の議員に
就任することを直接または間接の理由として通常解雇とすることは許されるもので
あるところ、さらに、国鉄職員の地位や職務の特殊性、職務専念義務等に鑑みれ
ば、国鉄法の右規定が労基法七条と抵触することはないというべきである。
(2) 同3(二)(2)は争う。右改正に関する審議に際しては、議員兼職と職
務に与える影響などが質疑されたが、断片的な論議にとどまり、承認の具体的基準
についてまで審議されてはいない。また、右改正の趣旨は、国鉄職員について、市
議会の議員との兼職の禁止については緩和するが、市(区)町村議会の議員との兼
職を無条件に許すことは国鉄の業務運営上妥当でないので、特に総裁の承認を得た
者につきこれを認めるとともに、右承認につき、総裁の裁量に委ねることとしたも
のである。
 なお、制定当時から、昭和二六年改正までの国鉄法は、国鉄職員と地方公共団体
の議会の議員との兼職を全面的に禁止していた。
(3) 同3(二)(3)のうち、「公職との兼職基準規程」に原告ら主張のとお
りの規定のあることは認め、その余は争う。右規定は、そこに定める以外の場合に
兼職を認めるべきとするものではない。また、この規定があることにより国鉄法の
解釈が左右される理由はない。
(三)(1) 原告らの主張3(三)(1)(兼職一律禁止の違法)前段の事実は
認め、後段は争う。
 国鉄は、周知のとおり、当時きわめて逼迫した経営状態に置かれており、早急に
再建を図るべく、三年間にわたる職員の新規採用停止や、地方交通線の廃止等、各
種の方策がとられているところであつた。昭和五七年七月三〇日の臨時行政調査会
第三次答申は「国鉄の膨大な赤字はいずれ国民の負担となることから、国鉄経営の
健全化を図ることは、今日、国家的急務である」との認識のもとに、緊急にとるべ
き措置一一項目の一として「兼職議員については、今後、認めないこと」を挙げて
おり、また、この答申を受けて同年九月二四日に出された「日本国有鉄道の事業の
再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について」と題する閣議決定において
も、国鉄経営の危機的状況に鑑み国鉄が取り組むべき緊急対策の一として、兼職議
員の承認の見直しをして、兼職議員については当面認めないこととすべきことが掲
げられている。「公職との兼職に係る取扱いについて」の通達は、このような状況
に鑑み、当分の問に限り、議員との兼職を制限するというものであり、前記2
(二)(1)にみた総裁の裁量の適正な行使に基づくものである。
 なお、右通達を発するにあたり、`国鉄は、新聞・放送等の報道によつて広く周
知徹底を図つたうえ、当時の議員兼職者全員に対し説明をしている。
(2) 同3(三)(2)のうち、原告らがその主張のとおり議員の地位にあり、
その間総裁が兼職の承認をしていたこと、当時承認は原則として一年を限ってなさ
れ、兼職業務の改善要請をする場合があつたことは認め、その余は争う。
(3) 同3(三)(3)は争う。原告らの主張は、いずれも仮定の議論にすぎな
い。
4 原告の主張4(雇傭契約の存続)は争う。原告ら主張の判例は、承諾があった
のと同様の効果の生じることを認めたものではなく、承諾のないことを理由に解除
権を行使することを制限したものである。
弟三 証拠(省略)
       理   由
一 被告がもと国鉄法に基づいて設立された公共企業体であり、昭和六二年四月一
日をもつて日本国有鉄道清算事業団と改称したこと、原告Aが昭和二〇年二月五日
国鉄に雇傭され、同五七年一一月当時筑前前原駅運輸指導係の職にあつたこと、原
告Bが昭和四四年四月一日国鉄に雇傭され、鳥栖駅構内指導係として勤務し、同六
〇年一一月当時九州総局に勤務していたこと、被告が、原告Aについては昭和五七
年一一月一五日付けで、同Bについては同六〇年一一月一八日付けで、いずれもそ
の職員たる地位を失つたものとして取り扱つていること、以上の事実は当事者間に
争いがない。
二 当事者間に争いのない事実及び公知の事実に加え、いずれも成立に争いのない
甲第三ないし第五号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めら
れる乙第一、第二号証及び証人Cの証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の
事実が認められる。
1 国鉄法二六条二項は、「第二十条第一号に該当する者は、職員であることがで
きない。但し、市(特別区を含む。)町村の議会の議員である者で総裁の承認を得
たものについては、この限りでない。」旨定めており(同法二〇条一号に該当する
者とは「国務大臣、国会議員、政府職員(人事院が指定する非常勤の者を除く。)
又は地方公共団体の議会の議員」である。)、要するに、地方公共団体の議会の議
員のうち市(区)町村の議会の議員については、国鉄職員との兼職の可否を総裁の
承認の有無にかからしめているところ、同項但書は昭和二九年の改正(議員の発議
による。)によつて加えられたものであり、右改正前においては、地方公共団体の
議会の議員のうち、町村議会の議員については無条件に兼職を認め、その余の議員
については一律に兼職を禁止する旨定められていた。
2 国鉄の部内規程たる昭和三九年一二月一〇日総秘達第三号「公職との兼職基準
規程」は、職員が市(区)町村の議会の議員に立候補した場合には、所属長に立候
補届を提出することとし(三条)、また、当選して兼職を希望する場合には所属長
に兼職の承認願を提出してその承認を受けなければならず(五条)、その場合、所
属長は、現場長その他これに準ずる一人一職の職にある者又は業務遂行に著しい支
障があると認めたときは、その承認をしてはならない(六条)ものとしていたが、
国鉄は、昭和五一年四月七日付け総裁室秘書課長事務連絡(「公職との兼職の取扱
いについて」)により、右の承認の可否についてその都度総裁室秘書課長と合議を
したうえ決定することとした。なお、そのころ、実際に、右の承認願の提出後承認
の通知までに数か月を要した例があつた。
3 原告Aは、昭和四二年四月二八日、同四九年一一月一七日及び同五三年一〇月
二二日にそれぞれ実施された糸島郡前原町議会議員選挙に立候補・当選し、その都
度総裁の承認をうけて、合計三期一二年にわたり、国鉄職員を兼ねつつ同町議会議
員をつとめた。また、原告Bは、昭和五二年一一月二七日実施の佐賀県鳥栖市議会
議員選挙に立候補・当選し、国鉄総裁の承認をうけて、以後二期八年にわたり、国
鉄職員を兼ねつつ同市議会議員をつとめた。
 なお、国鉄は、昭和五五年一二月一一日第七三九号(通達)により同月一日以
降、承認は、原則として一年間の期限を限つてなされるが、兼職業務の改善要請を
する場合がある旨定めていたが、原告らはいずれも右の改善要請を受けたことがな
い。
4 国鉄は、昭和三九年度に欠損を出してから、その経営状態は悪化の一途をたど
り、同五五年度には欠損の額が一兆円を超えるという極度の危機的状態に至つた。
このような状況下で国の助成金も年々増加していたが、これは国の財政を大きく圧
迫するものとなっていた。
 右のような国鉄の状態については強い社会的批判が寄せられ、労使関係を含めた
国鉄の経営の改善が求められていたところ、臨時行政調査会は、昭和五七年七月三
〇日の「行政改革に関する第三次答申」において、国鉄経営の健全化を国家的急務
とした上で、その方策としては分割・民営化をとるべきものとするとともに、新形
態(分割・民営化)までの間緊急にとるべき措置の一項目として「兼職議員につい
ては、今後、認めないこととする。」ことを求めた。そして、右答申の趣旨に沿つ
て、昭和五七年九月二四日の「日本国有鉄道の事業の再建を図るために当面緊急に
講ずべき対策について」と題する閣議決定においても、「兼職議員については、当
面認めないこととする。」との一項が掲げられた。
5 右4記載の状況に鑑み、国鉄は、昭和五七年九月一三日総秘達第六六六号「公
職との兼職に係る取扱いについて(通達)」を発し、「国鉄のおかれている厳しい
現状にかんがみ、今後、当分の間」として、同年一一月一日以降新たに又は改選に
より公職の議席を得た者に対しては兼職の承認は行わないことを明らかにした。
6(一) 原告Aは、昭和五七年一一月一四日実施の糸島郡前原町議会議員一般選
挙に立候補の届出をしたが、国鉄は、国鉄門司管理局長名による同月八日付文書を
もつて、同原告が当選しても議員との兼職は承認しない旨通知した。同原告は、右
選挙において当選人となり、同月一五日前原町選挙管理委員会から当選人決定の告
知を受け、直ちに兼職の承認願を右局長宛提出したが、国鉄はその受領を拒否し
た。
(二) 原告Bは、昭和六〇年一一月一七日実施の鳥栖市議会議員一般選挙に立候
補の届出をしたが、国鉄は、国鉄九州総局長名による同月一三日付文書をもつて、
同原告が当選しても議員との兼職は承認しない旨通知した。同原告は、右選挙にお
いて当選人となり、同月一八日鳥栖市選挙管理委員会から当選人決定の告知を受け
た。
(三) 右(一)、(二)以降、原告らに対し、総裁の承認がなされたことはな
い。
三1 公選法一〇三条と国鉄法二六条二項との関係について
 公選法一〇三条一項は、「当選人で、法律の定めるところにより当該選挙にかか
る議員又は長と兼ねることができない職に在る者が、……当選の告知を受けたとき
は、その告知を受けた日にその職を辞したものとみなす。」としているところ、被
告は、国鉄職員も同項にいう「法律の定めるところにより……議員……と兼ねるこ
とができない職」に該当する旨主張する。しかしながら、一定の職のみを基準にし
てその職を辞したものとみなす旨の効果を画一的に及ぼしている同項の趣意に鑑み
ると、市(区)町村の議会の議員との兼職の可否については国鉄法二六条二項但書
により専ら総裁の承認に係らしめられ、従つてその承認の有無を個別に判断せざる
を得ないこととなる国鉄職員の場合は、これに該当しないものといわざるを得ず、
本件原告らについては、公選法一〇三条一項の適用はないものと解するのが相当で
ある。
2 国鉄法二六条二項の法意について
(一) したがつて、国鉄職員が国鉄法二六条二項によつて兼職を禁止される議員
等になつた場合の法的効果については、国鉄法自体の解釈によつて定めるべきとこ
ろ、「……に該当する者は、職員であることができない。」旨の同項本文の文理を
も併せ考えると、同項は、単に議員等との兼職を禁止される旨の国鉄職員の欠格事
由を定めたのみにとどまらず、国鉄職員が右議員等となつた場合においては、国鉄
職員であることができない、すなわち国鉄職員の地位を失う旨の効果をも定めてい
るものと解するのが相当である。
 しかして、原告らは、同項但書に規定する市(区)町村議会の議員となつた者に
ついては、総裁の承認が兼職禁止解除の積極的要件であると解すべきではなく、総
裁の適法な不承認があつてはじめて、右失職の効果が生じるものと解すべきである
旨主張するけれども、
しかし、本文で、議員である者は職員であることができない旨定め、但書で市
(区)町村議会の議員につき、総裁の承認を条件として右の制限を解除している同
項の基本的構造に照らすと、同項は、市(区)町村議会の議員となつた職員も、原
則として、そのとき、すなわち当選の告知のあつたときにその職員たる地位を失
い、ただ、あらかじめ総裁の承認を得た場合には、その例外として職員たる地位を
失わないこととしているものと解される。
(二) たしかに、労基法七条本文の趣旨に照らすと、一般に、使用者は、労働者
が公職に就任することが使用者の業務の遂行を著しく阻害するおそれがある場合に
限り、その程度に応じて休職または普通解雇に付しうるにとどまるものと解すべき
ことは、原告らの指摘するとおりであるけれども、基幹的交通機関としての国鉄の
業務の公共性に照らせば、国鉄法が労基法の例外を設け、議員等との兼職につき原
則としてこれを禁止し、右議員等となつたときは当然に職員たる地位を失うことと
したからといつて、それがただちに労基法七条の趣旨に反し、あるいは国鉄職員の
参政権を不当に侵害することになるということはできないし、また、国鉄法と、日
本専売公社法ないし日本電信電話公社法との間で、職員の議員兼職に関する規制の
仕方に差異があることも、その業務内容、職員の勤務形態等に相違に鑑みれば、立
法裁量上著しく合理性を欠くとはいい難いから、国鉄法二六条二項の解釈に関する
前記結論を左右するものではない。
 また、原告らは、国鉄が従来、市(区)町村議会の議員の選挙の当選人につき、
総裁の不承認があつてはじめて失職するとの解釈運用を行なつてきた旨主張する
が、国鉄法二六条は強行規定であると解すべく、その運用について仮に原告ら主張
のような慣行があつたとしても、それが同条の解釈を左右することはないものとい
わなければならない。
 なお、原告らは、国鉄法二六条二項但書の「議員である者」との文言を根拠に、
同項は、議員の地位の取得が承認に先行することを前提としている旨主張するが、
同項但書の主意は総裁の承認を得たものについては同項本文の制限が解除されるこ
とにあるのであつて、議員たる地位の取得と承認との先後関係まで定めたものとは
解されないから、原告らの右主張は採用し難い。
(三) してみれば、あらかじめ総裁の承認を得たことの主張立証のない本件にお
いては、原告らは、当選の告示があつた時点で、国鉄法二六条二項本文により当然
に国鉄職員たる地位を失つたものといわなければならない。
3 裁量権の濫用について
 もつとも、原告らは、本件について総裁が承認しなかつたことが裁量権の濫用に
該当し違法であることを前提に、このような場合においては、承認があつた場合と
同様の法的効果が生ずる旨主張するところ、右主張自体の理論的当否はしばらく措
き、本件事案の性質に鑑み、総裁が承認をしなかつたことにつき裁量権の濫用があ
つたといえるかについて判断することとする。
 国鉄法二六条二項の総裁の承認の要件については、同法上何ら定めるところがな
いから、同法は右の承認するか否かの判断については、総裁の自由かつ広汎な裁量
に委ねているものと解される。もとより、同条の解釈においても、労基法七条の趣
旨は十分尊重されるべきであり、右裁量が恣意にわたることは許されないといわな
ければならないが、そうでない限り、右判断はその裁量権の範囲内にあるものとし
て違法とはならないものと解される。
 これを本件についてみるに、国鉄は、原告らが本件にかかる各選挙に立候補した
昭和五七年ないし同六〇年ころには、極度の経営危機に陥つており(なお、これが
契機となつてその後、国鉄が、昭和六二年四月にいわゆる分割民営化を余儀なくさ
れたことは公知の事実である。)、従来の経営のあり方については厳しい社会的批
判が加えられ、また、臨時行政調査会の答申、さらには閣議決定においても、国鉄
再建のための抜本的改革が打ち出されるという状況下にあつたこと、したがつて、
国鉄としては、その公共性(業務自体公共性が高いものであるとともに、国鉄の経
営危機は、国庫の負担を増大させるものであった。)の観点からも、迅速に経営状
態の改善を図る必要に迫られており、職員に対し職務専念が一層強く求められると
ともに、業務内容の変更、組織の改変等様々な施策が予想されていたことは前記認
定のとおりであつて、こうした状況に鑑みると、総裁が、少なくとも抽象的な業務
阻害のおそれをもたらす議員との兼職を、今後当分の間一律に禁止するとしたこと
が、裁量権の濫用に該当するとまでは認め難いところである。
 従つて、原告らの右主張は、本件原告らに対し総裁が承認を与えなかつたことを
もつて裁量権の濫用にあたり違法であるとするその前提において既に理由がないも
のといわざるを得ない。
4 以上明らかなとおり、原告らの本訴請求は、その余の点について審究するまで
もなく、いずれも失当として排斥を免れない。
四 よつて、原告らの本訴請求はいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負
担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤浦照生 倉吉敬 久保田浩史)

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