弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人栗原賢太郎の上告理由について。
 本件記録によれば、上告人は、訴外Dが実質上の債務者であり、上告人は保証人
たる地位以上のものではない旨、そしてこのことは被上告人も十分了知していたも
のであるから、上告人としては負担部分二分の一の限度でしか求償に応ずる義務は
ない旨主張していたことが明らかである。ところが、原判決(その引用する第一審
判決を含む。以下同じ。)は、この主張について、Dが実質上の主債務者ともみら
れるが、被上告人は連帯保証人であつたのであるから、上告人の分別の利益の主張
は理由がない旨判示して、右主張を排斥したうえ、被上告人が弁済して免責を得た
債務全額を含む金額につき上告人に求償義務があると判断しているのである(なお、
原判決の事実摘示には、上告人が分別の利益を主張したように記載されているが、
本件記録上、かかる主張をした形跡は認められない。)。
 しかしながら、分別の利益は、数人の共同保証人がある場合に、保証人の債権者
に対する関係における問題であつて、保証人と債務者、ないしは保証人相互の内部
関係については、なんらかかわりのない問題である。そして、債権者との消費貸借
契約の際には、主債務者として契約を締結しているため、債権者に対する関係では、
主債務者であることを否定しえない者であつても、内部関係においては、実質上の
主債務者でない場合には、実質上の主債務者ないし連帯保証人から求償権を行使さ
れても、当然に、これに応ずべき義務を負うものではない(最高裁判所昭和四〇年
(オ)第九八六号同四一年一月二八日第二小法廷判決、裁判集民事八二号一九七頁
参照)。すなわち、保証人と債務者、ないし保証人相互間の求償権の有無および範
囲は、内部の実質的な法律関係に従つて定められるべきものである。
 そして、本件においては、債権者である訴外株式会社E銀行に対する関係につい
てはともかく、D、被上告人および上告人の内部関係では、実質上の主債務者がD
であり、上告人が実質上の連帯保証人にすぎないとすれば、連帯保証人である被上
告人が、債務の全額を弁済した場合においても、被上告人は、民法四六五条一項の
規定により、自己の負担部分(特約がなければ平等の負担部分)をこえる部分につ
いてのみ、同法四四二条の規定の準用によつて上告人に対し求償権を行使しうるに
とどまることが明らかである(大審院大正八年(オ)第八八七号同年一一月一三日
判決、民録二五輯二〇〇五頁、同昭和六年(オ)第一一一三号同年一二月二三日判
決参照)。
 それゆえ、被上告人が連帯保証人であつたと認定するのみで、ただちに上告人の
前記主張を排斥して被上告人の主張する金員全額につき上告人に求償義務がある旨
判示した原判決の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなけれ
ばならず、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨は理由がある。
 したがつて、原判決は破棄を免れないが、上告人が実質上は主債務者であるか否
か、連帯保証人であるか否か、後者であるとすれば、被上告人との間に負担部分に
ついての特約があるか否か等につき、さらに審理を尽くさせる必要があるので、本
件を原審に差し戻すのを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項の規定に従い、裁判官の全員の一致により主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    関   根   小   郷

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