弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は、上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士木崎為之上告理由について。
 原審における原告の主張は、必ずしも明確であつたということはできない。原告
準備書面によれば、「参議院議員選舉法第五十七条(衆議院議員選舉法第七十条)
には、当選人は選舉の期日後において被選舉權を有しなくなつたときは当選を失う
と規定しておるが、原告は選舉の期日後追放により、被選舉權を失つたのである。
而して其の追放の効力を争つているのである。訴訟の提起については同法第七十三
条によると衆議院議員の選舉又は当選の効力に関する訴訟の例により訴訟を提起し
うることになつている。……それで本件の当選の効力を争う点については、衆議院
選舉法第八十三条の規定により選舉長即ち選舉管理委員会委員長を被告とした次第
である」と述べている。かように
 (一)原告が参議院議員選舉法(以下參選という)第五七条及び第七三条を基本
として主張していることから言つても、又
 (二)明らかに「本件の当選の効力を争う」という字句を用いていることから言
つても、そして又
 (三)本件は最初神戸地方裁判所に提起されたが、全裁判所はこれを当選の効力
に関する訴訟であるとして、大阪高等裁判所の管轄に属するものと認め、原審に移
送され、原告はこれに対し即時抗告(旧民訴第三三条)をせず移送決定は確定した
経過から言つても、さらに又
 (四)原告が請求の原因として援用した前記移送決定理由記載事項の中には、「
原告は依然として前記選舉において決定された当選を失うものではないから、參選
第七十三条、衆議院議員選舉法(以下衆選という)第八十三条第一項に基き被告に
対し右当選の有効なることの確認を求めるために本訴に及ぶ」と表示されているこ
とから言つても、原審が本件を当選の効力に関する訴訟として取扱つたことは、む
しろ当然であつて所論のような違法は存在しない。
 次に參選第五七条(衆選第七〇条參照)に、「当選人は、選舉の期日後において
被選舉權を有しなくなつたときは、当選を失う」とあるは、選舉会における当選決
定を受けて当選人となつた者が、当選承諾の届出をすることによつて議員となるま
での間に、被選舉權を有しなくなつた場合について、当選人としての失格を定めた
ものと解するを相当とする。法律は当選人と議員とを明確に区別している。そして、
被選資格を失つた当選人の失格を定めたのが、前記法条であり、また被選資格を失
つた議員の失格については、国会法第一〇九条において「各議院の議員が、法律の
定めた被選の資格を失つたときは、退職者となる」と定めている。それ故、參選第
五七条の解釋に関する原審の見解は正当であつて、所論の見解には賛同することが
できない。しかも、本件は、上告人が当選承諾の届出をして議員となつて後失格し
たものではあるが、前記国会法第一〇九条により議員としての被選資格を失つたた
めに失格して退職者となつたものではない。すなわち、上告人は、通常の被選資格
を失つた者ではなく、いわゆる追放令(昭和二二年勅令第一号)第三条の適用によ
り、覚書該当者としてその指定があつた日から二十一日目仁おいて、參議院議員と
いう主要公職を失つた者である。従つて、原判決が、本件をもつて上告人の主張に
反し參選第五七条にいわゆる当選を失つた場合に該当しないとしたことは、その理
由づけにおいて本件の具体的事実に妥当しないところはあるが、その結果において
は正当であつて、この点に関する所論は理由がない。また仮りに、本訴を所論のご
とく「現在でも參議院議員であることを認めて頂きたい」という請求の趣旨である
とすれば、それは、理由の存否は免も角として、議員の資格に関する争訟であり、
これを裁判するものは憲法上各議院であつて、司法裁判所ではないと言はなければ
ならぬ。(憲法第五五条、国会法第一一一条以下)そして又、本件の被告が被告と
しての当事者適格を有しないことも明白でめる。だから、本訴は何れにしても不適
法として却下せらるべきものであつて、原判決の結論は結果において正当であると
言わなければならない。なお最後に、上告人が覚書該当者として指定せられたこと
が有効であるか否かと上告人の当選が有効であるか否かとは全く別個の問題である。
議員に当選しても又は当選しなくてもそれに拘わりはなく、覚書該当者としての指
定はあり得る訳である。それ故、所論の二つの訴訟が「必要的併合訴訟とも名ずく
べき性質のもの」ということはできないし、所論獨立して結審したことに何等の違
法はない。前述のごとく本件を分離して移送決定をしたのに対して上告人は即時抗
告をもせず、却つて移送決定理由記載事項を請求原因として援用した程である。従
つて、二つの別の裁判所に繋属する別の事件が別異に結審されることは当然であつ
て、何の不思議も違法も存在しないのである。されば、上告理由はすべて採用する
ことができない。
 よつて、民訴第四〇一条、第八九条、第九五条により主文のとおり判決する。本
判決は裁判官全員の一致した意見である。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    眞   野       毅
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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