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平成25年4月10日判決言渡
平成24年(ネ)第10079号特許権使用差止請求控訴事件
(原審東京地方裁判所平成22年(ワ)第46700号)
平成25年2月20日口頭弁論終結
判決
控訴人オービックインターナショナル株式会社
訴訟代理人弁護士藤原圭一郎
被控訴人株式会社マルヨシ鋲螺
訴訟代理人弁護士龍村全
同木村圭太
訴訟代理人弁理士原島典孝
訴訟復代理人弁護士川野智弘
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,別紙物件目録記載1ないし3の駐輪機を製造し,販売し,引渡
し,又は販売若しくは引渡しのために展示してはならない。
3被控訴人は,前項の物件を廃棄せよ。
4被控訴人は,控訴人に対し,3025万5000円及びこれに対する平成2
3年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要及び当事者の主張等
1事案の概要
控訴人を「原告」と,被控訴人を「被告」という。原審において用いられた略語
は,当審においてもそのまま用いる。
原審の経緯は,以下のとおりである。
原告は,駐輪施設に関する特許(特許第3966526号。本件特許)の専用実
施権者である。原告は,被告による別紙物件目録1ないし3記載の駐輪装置(被告
製品)の製造,販売等は,本件特許の専用実施権を侵害し,又は侵害するものとみ
なされる(特許法101条1号又は2号)と主張して,被告に対し,特許法100
条1項,2項に基づき被告製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,
民法709条,特許法102条1項に基づき3025万5000円及びこれに対す
る不法行為の後の日である平成23年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求めた。
これに対し,被告は,被告製品は本件発明の構成要件A,C,Dを充足しないな
どと主張して,これを争った。
原判決は,被告製品のうち,別紙物件目録1記載の駐輪装置(イ号物件)は,本
件発明の構成要件A,C,Dを充足せず,同目録2,3記載の駐輪装置(ロ号物件,
ハ号物件)は,構成要件C,Dを充足しないから,イ号物件については本件発明に
係る上下2段式の駐輪施設の生産に用いる物(特許法101条1,2号)に当たら
ず,ロ号物件及びハ号物件については本件発明の技術的範囲に属しないとして,原
告の請求を棄却した。
これに対し,原告は,原判決の取消しを求めて,本件控訴を提起した。
2前提事実
原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」,「2前提となる事実」(原
判決2頁10行目ないし4頁18行目)記載のとおりであるから,これを引用する。
3争点及び当事者の主張
次のとおり,当審における主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄
の「第2事案の概要」,「3争点」(原判決4頁19行目ないし15頁3行目)記
載のとおりであるから,これを引用する。
【原告の主張】
(1)争点2(構成要件C充足性)について
原告は,平成22年3月ころ,東京都新宿区●●所在のマンションに設置された,
被告製品であるM-2型昇降式駐輪装置を用いて実験を行った(以下「本件実験」
という。)ところ,空ラックを昇降用柱の中途において停止させ,手を離した場合,
空ラックは静止状態を保っていた。これは,空ラックの重量と主たるばねの荷重と
がほぼ等しい状態にあることを示している。
他方,上記実験において,自転車を搭載したラックを昇降用柱の最下部まで移動
させ,自転車をラックから降ろした場合,空ラックは昇降用柱の最上部まで上昇し
た。この点,ばね製品は,それぞれ荷重(引き戻り力)が定められているものの,
必然的に一定の誤差が生じるから,オートリターン機能(自転車を下ろした空ラッ
クが上昇柱を自動的に上昇する機能)を空ラックの重量と主たるばねの荷重の差分
によって生じさせることはできない。したがって,被告製品におけるオートリター
ン機能は,昇降用柱下部に設置された,ラックを下限位置から上方に向けて勢いよ
く起動するためのコイルばねとピンから構成された発射装置によって実現されてい
るものである。
以上によれば,被告製品は,空ラックの重量と主たるばねの荷重がほぼ等しい,
すなわち,「空ラックに,人間の手で少しの力を加えるだけで昇降させることができ
る」主たるばね装置を備えており,本件発明の構成要件Cを充足する。
(2)争点3(構成要件D充足性)について
本件実験において,自転車を搭載したラックは,昇降用柱の中途において静止し
たことからすれば,被告製品において,自転車を搭載したラックの重量と,主たる
ばね及び補助ばねの荷重の大きさの合計との差は,静摩擦力の大きさを超えないも
のいえる。
したがって,被告製品は本件発明の構成要件Dを充足する。
【被告の反論】
(1)争点2(構成要件C充足性)に対して
本件実験は,出荷から3年弱も経過した平成22年3月ころ,遮蔽されていない
屋外に恒常的に設置,使用されていたと思われる被告製品を対象とするものである
が,対象物が被告製品の本来の機能が発揮される使用状況ないし環境にあったか否
か,保守・整備がなされていたか否かなどが不明である。そして,被告が出荷時に
おける被告製品を対象として行った,原告と同様の実験における被告製品の動作と
も異なることからしても,本件実験の結果は信用性がない。
また,ばね製品の荷重について一定の差分(誤差)が生じるとしても,空ラック
の重量と主たるばねの荷重との差によるオートリターン機能が実現できないとはい
えない。主たるばねの荷重が空ラック重量より大きければ,空ラックが上昇するの
は明らかであり,これを利用したオートリターン機能は実現可能である。被告製品
は,原告主張のような発射装置によってオートリターン機能を実現しているもので
はなく,空ラックを昇降柱の途中で停止させた場合でも,その停止を解けば自動的
に上昇する。
以上のとおり,被告製品は,主たるばねの荷重がラック重量よりも所定量大きい
ものであり,空ラックを昇降させた位置に停止させることはできず,本件発明の構
成要件Cを充足しない。
(2)争点3(構成要件D充足性)に対して
上記のとおり,本件実験の結果には信用性がなく,被告製品は,自転車を搭載し
たラックを昇降させた位置に停止させることはできず,本件発明の構成要件Dを充
足しない。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,被告製品のうち,イ号物件は,本件発明の構成要件A,C,Dを充
足しないから,本件発明に係る上下2段式の駐輪施設の生産に用いる物(特許法1
01条1号,2号)に当たらず,ロ号物件及びハ号物件は,構成要件C,Dを充足
しないから,本件発明の技術的範囲に属しないものと判断する。その理由は,次の
とおり,当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事
実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」,「1争点1(構成要件A充足性)に
ついて」(原判決15頁5行目ないし16頁7行目),「2争点2(構成要件C充足
性)について」(原判決16頁8行目ないし21頁23行目),「3争点3(構成要
件D充足性)について」(原判決21頁24行目ないし23頁19行目)記載のとお
りであるから,これを引用する。
1争点2(構成要件C充足性)について
原告は,被告製品は,①本件実験において,空ラックを昇降用柱の中途において
停止させ,手を離した場合,空ラックは静止状態を保っていた,②オートリターン
機能は,昇降用柱下部に設置された発射装置によって実現しているものであるとし
て,本件発明の構成要件Cを充足すると主張する。
しかし,本件実験(甲47)に供された駐輪装置が被告製品に該当するものであ
るとしても,その設置期間,設置条件,保守・整備状況等が不明であり,被告製品
が本来有している機能を発揮するものか否かが判然とせず,これをもって,被告製
品は,空ラックを昇降用柱の中途において停止させ,手を離した場合,空ラックは
静止状態を保つものであると認めることはできない。
また,甲47により,被告製品におけるオートリターン機能が,昇降用柱下部に
設置された発射装置によって実現されているものと認めることはできず,むしろ,
出荷時における被告製品を対象として行った実験(乙14)によれば,被告製品の
オートリターン機能は,主たるばねの引き戻し力によって実現されているものと認
められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,被告製品の主たるばねは,
「空ラックに,人間の手で少しの力を加えるだけで昇降させることができるが,少
なくとも昇降用柱の下端の位置において,主たるばねの引き戻し力は空ラックの重
量よりも所定量大きく,人間の手で力を加えなくても,主たるばねの引き戻し力に
よって,空ラックは自動的に上昇するような引き戻し力を有するばね装置」であり,
「パレット重量とほぼ等しい引き戻し力を有する第1の定荷重ばね装置」(構成要件
C)に該当しないから,被告製品は本件発明の構成要件Cを充足しない。
2争点3(構成要件D充足性)について
原告は,本件実験において,自転車を搭載したラックは,昇降用柱の中途におい
て静止したことからすれば,被告製品において,自転車を搭載したラックの重量と
主たるばね及び補助ばねの荷重の大きさの合計との差は,静摩擦力の大きさを超え
ないものであるとして,被告製品は本件発明の構成要件Dを充足すると主張する。
しかし,上記のとおり,本件実験(甲47)に供された駐輪装置が被告製品に該
当するものであるとしても,その設置期間,設置条件,保守・整備状況等が不明で
あり,被告製品が本来有している機能を発揮するものか否かが判然とせず,また,
本件実験からは,実験に用いられたもの以外の自転車を搭載したラックが昇降用柱
の中途で停止するかは不明であり,これをもって,被告製品において,自転車を搭
載したラックは,昇降用柱の中途において静止するものと認めることはできない。
その他,被告製品における補助ばねが「自転車重量とほぼ等しい引き戻し力を有
する第2の定荷重ばね装置」(構成要件D)に該当すると認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,被告製品は本件発明の構
成要件Dを充足しない。
3結論
以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がなく,原告の請求を棄却した原判決
は相当である。よって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
西理香
裁判官
知野明
(別紙)
物件目録物件目録物件目録物件目録1111((((イイイイ号物件号物件号物件号物件))))
1商品名:M-2又はM2型昇降式駐輪装置。
2通称名:オートリターン,オートリターン式又はオートリターンタイプ昇降式
駐輪装置。
3構成
a車輪ホルダーを備えた水平方向に移動可能なラックをレールに対して複数
台設置した第1段目と,
b複数の支柱に沿ってそれぞれ昇降する車輪ホルダーを備えたラック及び該
ラックを昇降させるばね装置とを有する第2段目と
からなる上下2段式駐輪装置における第2段目であって,
前記ばね装置は,
cパレット重量より所定量大きな引き戻し力を有する主たるばねと,
d自転車重量より所定量小さい引き戻し力を有する補助ばねとからなり,
e自転車空のときは主たるばねで,自転車搭載時は主たるばねと補助ばねでラ
ックを昇降させる
f昇降式駐輪装置。
41又は2に示す商品名又は通称名は例示であり,3の構成を有する昇降式駐輪
装置であって,1に示す商品名の商品と同等の構成を有するものを含む。
(別紙)
物件目録物件目録物件目録物件目録2222((((ロロロロ号物件号物件号物件号物件))))
1商品名:M2-R型上下2段式駐輪装置。
2通称名:オートリターン,オートリターン式又はオートリターンタイプ上下2
段式駐輪装置(前後入れ)。
3構成
a車輪ホルダーを備えた水平方向に移動可能なラックをレールに対して複数台
設置し,それらラックの車輪ホルダーに自転車の前輪を保持させる前入れと後
輪を保持させる後入れが交互になるように使用される第1段目と,
b複数の支柱に沿ってそれぞれ昇降する車輪ホルダーを備えたラック及び該ラ
ックを昇降させるばね装置とを有する第2段目と
からなる上下2段式駐輪装置において,
前記ばね装置は,
cパレット重量より所定量大きな引き戻し力を有する主たるばねと,
d自転車重量より所定量小さい引き戻し力を有する補助ばねとからなり,
e自転車空のときは主たるばねで,自転車搭載時は主たるばねと補助ばねでラ
ックを昇降させる
f上下2段式駐輪装置。
41又は2に示す商品名又は通称名は例示であり,3の構成を有する上下2段式
駐輪装置であって,1に示す商品名の商品と同等の構成を有するものを含む。
(別紙)
物件目録物件目録物件目録物件目録3333((((ハハハハ号物件号物件号物件号物件))))
1商品名:M2-F型上下2段式駐輪装置。
2通称名:オートリターン,オートリターン式又はオートリターンタイプ上下2
段式駐輪装置(前入れ)。
3構成
a車輪ホルダーを備えた水平方向に移動可能なラックをレールに対して複数台
設置し,それら複数台のラックは平面視でレールに対し互いにずらして配置さ
れ,ラックの車輪ホルダーに自転車の前輪を保持させた状態で,隣り合う自転
車のハンドルが互いにずれるように使用される第1段目と,
b複数の支柱に沿ってそれぞれ昇降する車輪ホルダーを備えたラック及び該ラ
ックを昇降させるばね装置を有する第2段目と,
からなる上下2段式駐輪装置において,
前記ばね装置は,
cパレット重量より所定量大きい引き戻し力を有する主たるばねと,
d自転車重量より所定量小さい引き戻し力を有する補助ばねとからなり,
e自転車空のときは主たるばねで,自転車搭載時は主たるばねと補助ばねでラ
ックを昇降させる
f上下2段式駐輪装置。
41又は2に示す商品名又は通称名の上下2段式駐輪装置は例示であり,3の構
成を有する上下2段式駐輪装置であって,1に示す商品名の商品と同等の構成を
有するものを含む。

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