弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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 主      文
1 原判決を取り消す。
2被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
1本件は,A作成名義の平成10年7月30日付原判決別紙遺言書(以下
「本件遺言書」という。)が自筆証書遺言として無効であると主張する被控
訴人が,控訴人らに対し,本件遺言書がAの自筆証書遺言として無効で
あることを確認する旨の判決を求めた事案であり,原審が請求を認容す
る判決を言い渡したので,これに不服がある控訴人らが控訴したもので
ある。
 なお,被控訴人(Aの三男)は,原審に控訴人らの他4名の姉兄を被告
として訴えを提起したものであるが,B(長女)は原審口頭弁論期日に出
頭せず答弁書などの準備書面を提出しなかったので本件遺言書の有効
性を主張しておらず,C(二女)とD(六女)は本件遺言書の有効性を主張
せず,E(二男)は控訴人らとともに本件遺言書の有効性を主張した。原
審は,遺言無効確認訴訟は固有必要的共同訴訟でも類似必要的共同
訴訟でもないとして,各被告との関係で請求の当否を検討した上,いず
れも原告勝訴の判決をした。控訴したのは,原審において本件遺言書の
有効性を主張した控訴人ら3名(三女のF,四女のG,五女のH)のみで
ある。
2 争いのない事実
(1)B(長女),C(二女),控訴人F(三女),控訴人G(四女),控訴人H(五
女),D(六女),E(二男)及び被控訴人(三男)は,I(父)とA(母)との
間の子であり,Iは昭和63年9月6日に死亡し,Aは平成12年10月2
日に死亡した。
(2)A作成名義の本件遺言書が存在し,Aの自筆証書遺言として有効であ
るか否かについて,控訴人らと被控訴人との間で争いがある。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
A作成名義の本件遺言書は,Aの自筆証書遺言として有効であるか否

(1)控訴人らの主張
本件遺言書は,平成10年7月30日,Aが全文,日付及び氏名を自
署し,押印したものであるから,Aの自筆証書遺言として有効である。
すなわち,本件遺言書は,控訴人Gが平成10年7月30日Aのとこ
ろを訪れた際,Aの求めに応じて控訴人Gがバックの中に持参してい
たキャラクター便箋を渡したところ,Aが控訴人Gの面前で自ら全文を
記載して自署したものであり,印鑑が見つからなかったことから,印鑑
を捜して押すことにし,Aは控訴人Gに対し,同年8月10日,印鑑を押
した本件遺言書を手渡した。
なお,遺言の解釈にあたっては,文言を形式的に判断するのではな
く,遺言書全体の記載との関連,遺言書作成当時の事情及びAが置
かれていた状況などを考慮して,Aの真意を探求し合理的に遺言を解
釈すべきである。従って,遺言書の表題がなくても,内容から死亡後の
財産処分等についての意思が書かれていれば,遺言書として扱われ
るべきであるし,Aが所有権(共有権)をもつ土地は「岐阜市a町b番宅
地446.84平方メートル」しかないので,これをさすことは明らかであ
る。また,遺言書が書かれた状況を考えると,自分の死後Bの面倒を
控訴人Gと控訴人Fに頼む代償として土地を取得させる趣旨であると
解するのが素直であり,Aの意思にそうものである。
(2)被控訴人の主張
本件遺言書は,以下のとおり,Aの自筆証書遺言としては無効であ
る。
① 本件遺言書の全文,日付及び氏名は,Aが自署したものではない
し,Aは押印していない。
すなわち,Aは,平成10年7月30日当時92歳となるが,90歳ころ
から文字が書けず,老齢年金受取確認のはがきに記載する名前す
ら書けず,被控訴人の妻Jが代筆していた。
 また,A名下の印影も,A所有の印鑑によるものではない。
② 本件遺言書には,遺言との表題がなく,「私のけん利の土地をゆ
ずります」と記載されているが,「私のけん利の土地」がどの土地を
示すか判然としないし,土地を譲る相手が明示されていないなど,
文言自体が客観的かつ具体的に一義的に理解することができず,
不明確で不特定なものであるから,遺言としての効力はない。
第3 当裁判所の判断
 1 本件遺言書は,遺言書の表題はないものの,その記載内容から遺言書
であると認められるので,その作成者を検討するに,Aには,平成2年4
月20日作成の公正証書遺言(甲20)があり,全財産を三男Kに相続さ
せ,祖先の祭祀の主宰も三男Kに指定する旨の内容であるところ,これ
と内容が同一である平成5年3月18日付自筆証書遺言(甲21。以下「平
成5年遺言書」という。)の作成者はAであると推認することができる。
   平成10年7月30日当時Aが字を書くことができない状態であったと認め
るに足りる証拠はないので,本件遺言書(甲22,乙1)と平成5年遺言書
(甲21)の筆跡を対比して検討するに,以下の①ないし⑤の点によれ
ば,両者は同一人の筆跡によるものであると判断され,控訴人Gの当審
における本人尋問の結果及び陳述書(乙4)の内容を勘案すると,本件
遺言書はAが,全文,日付,署名のすべてを自署した上,名下に押印し
たものであると認められる。
① 本件遺言書の署名の「A」の文字と,平成5年遺言書の本文末尾にある
署名及び封筒裏面の署名の「A」の文字とは,「吉」の字が右上がりで
ある点などを含め,全体が酷似している。
② 本件遺言書の「私のけん利の土地」の「地」の字と,平成5年遺言書
の右の頁の9行目から10行目の「先祖の土地ホトケ守る土地」の2か
所の「地」の字は,いずれも,「地」の字の3画目の左下から右上への
線と,4画目の左下から右上への線が,つながって一画で表示されて
おり,類似する特徴である。
③ 本件遺言書の日付の「平成10年」の「年」の字と,平成五年遺言書の
本文末尾及び封筒裏面に記載された「平成五年」の「年」の字は,いず
れも本来4画目が上から下への縦の線であるのに,3画目の横の線と
平行に横の線となっており,この点も,類似が特徴的である。
④ 本件遺言書の1行目の「Kでは」の「で」の字と,平成5年遺言書の本
文左側の頁の2行目の「いわないで」の「で」や4行目の「何とぞ先々身
内で」の「で」の字とは,いずれも「て」の部分が「乙」に似ていて,しか
も下に降りてくる線がほぼ真下に向かっているという特徴が,類似して
いる。
⑤ このほか,「ゆ」の字(平成5年遺言書の本文右の頁の1行目,3行
目,5行目及び6行目や封筒の表の「ゆ」と,本件遺言書の「土地をゆ
ずります」の「ゆ」)や,「あ」の字(平成5年遺言書の本文左の頁の4行
目の「あらそうこと」の「あ」と,本件遺言書の「B」の「あ」)なども,特色
があって文字が似ている。 
2 以上のとおり,本件遺言書はAが,全文,日付,署名のすべてを自署し
た上,名下に押印したものであると認められるところ,甲第22号証,乙第
1号証,第4号証,控訴人Gの当審における本人尋問の結果及び弁論の
全趣旨によれば,Aは本件遺言書作成当時遺言能力を有していたこと,
本件遺言書は,共同遺言の禁止など法の定める遺言の方式に違背して
はいないことが認められる。
  また,遺言の解釈にあたってはAの真意を探求すべきところ,前掲各証
拠及び弁論の全趣旨によれば,本件遺言書の「G FにBの面倒をたの
みます 私のけん利の土地をゆずります」との記載は,控訴人G及び控
訴人FにAの死亡後Bの世話をすることを依頼するとともに,両控訴人に
対し,Aが所有する土地(正確には,Aの夫Iが所有していたもので,同人
が昭和63年9月6日死亡したことに伴って相続した分。甲5,23)である
「岐阜市a町b番宅地446.84平方メートル」を2分の1宛の持分割合で
死因贈与をする趣旨であると解することができる。
3 すると,本件遺言書は,Aが作成した有効な自筆証書遺言であると認め
られるから,被控訴人の本件請求はいずれも理由がないので棄却すべ
きところ,これと結論を異にする原判決を取り消した上,被控訴人の本件
請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
   名古屋高等裁判所民事第4部
       
  裁判長裁判官 小   川   克   介
         裁判官 鬼   頭   清   貴
     裁判官 濱   口       浩

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