弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主    文
1 被告三井鉱山株式会社は,原告らに対し,それぞれ1100万円並びにこれに対す
る原告A,同B,同C,同D,同E,同F,同G,同H及び同Iについては平成12年5月
26日から,原告J,同K及び同Lについては平成13年5月22日から,原告M,同N
及び同Oについては同年11月15日から,それぞれ支払済みまで年5パーセントの
割合による金員を支払え。
2 原告らの被告三井鉱山株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,①ないし③事件を通じて,原告らに生じた費用の2分の1,被告三井
鉱山株式会社に生じた費用の2分の1及び被告国に生じた費用を原告らの負担と
し,その余を被告三井鉱山株式会社の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告国及び被告三井鉱山株式会社(以下「被告会社」という。)は,原告らに対し,
連帯して,それぞれ別紙謝罪広告目録記載の広告を,西日本新聞,朝日新聞,毎
日新聞,読売新聞,日本経済新聞及び産経新聞並びに人民日報(北京市朝陽門
外金台西路2号),中国青年報(北京市東直門内海運送2号),解放日報(上海市
漢口路274号),河北日報(石家庄市裕華中路7号),明報(香港市柴湾嘉業街18
号),山西日報(太原市双塔東街24号),遼寧日報(瀋陽市瀋河区中山路339号)
及び中国電視報(北京市海淀区■興路11号)の各朝刊の全国版下段広告欄に,
2段抜きで1回掲載せよ。
2 被告らは,原告らに対し,連帯して,それぞれ2300万円並びにこれに対する原告
A,同B,同C,同D,同E,同F,同G,同H及び同Iについては平成12年5月26日
から,原告J,同K及び同Lについては平成13年5月22日から,原告M,同N及び
同Oについては同年11月15日から,それぞれ支払済みまで年5パーセントの割
合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,中華人民共和国(以下「中国」という。)の国民である原告らが,日本政
府が昭和17年11月27日に行った「華人労務者内地移入に関する件」(片仮名表
記は,適宜,平仮名表記にする。以下同じ。)と題する閣議決定により,昭和18年
及び昭和19年ころ,被告らによって日本へ強制的に連行された上,被告会社が経
営する三池鉱業所及び田川鉱業所等において過酷な労働を強制され(以下,それ
ぞれ「本件強制連行」,「本件強制労働」といい,併せて「本件強制連行及び強制労
働」という。),これによって,深刻な精神的苦痛を被ったとして,被告らに対し,謝罪
広告の掲載及び慰謝料の支払を求めた事案である。なお,被告国は,仮執行免脱
宣言の申立てをした。
第3 前提となる事実
1 本件強制連行及び強制労働に至る経緯
(1)ア 関東軍は,昭和6年9月18日,奉天郊外の柳条湖で南満州鉄道爆破事件
(柳条湖事件)を起こし,満州事変が始まった。続いて,関東軍は,昭和7年1
月,上海事変を起こし,同年3月,満州国の建国を宣言させ,同年9月,日本
政府は,満州国を承認した。昭和8年3月,日本は,国際連盟からの脱退を通
告し,同年5月,日中軍事停戦協定(塘沽停戦協定)が結ばれて満州事変は
終わったが,その後も,関東軍は,華北への進出の機会をうかがっていた。こ
うした中,昭和12年7月7日,北京郊外の盧溝橋で日中両国軍の衝突事件が
発生し(盧溝橋事件),戦線は中国各地に広がっていった。これに対して中国
国民の抗日救国運動が起こり,国民政府は,同年9月末,共産党と第2次国
共合作を行って,抗日民族統一戦線が成立した。日本政府は,昭和13年に
は,「国民政府を対手とせず。」,「日満華三国連帯による東亜新秩序の建設
が戦争目標である。」とする声明を発し,昭和15年には,それまで中国各地に
樹立していた中華民国臨時政府や中華民国維新政府といった日本の傀儡政
権を統合し,南京に新国民政府を成立させた。しかし,国民政府は,その後も
抗戦を続け,日本は,中国との全面的な戦争をするに至った。そして,昭和16
年12月8日,日本は,アメリカ及びイギリスに対して宣戦布告し,太平洋戦争
が開始された。
イ 日中戦争が長期化し,太平洋戦争が開始され,戦争が拡大していく中,戦争
遂行に必要な石炭等のエネルギー資源の確保が日本の至上命題となり,昭
和13年4月には国家総動員法が公布され,日本政府は,議会の承認なしに,
経済と国民生活の全体にわたって統制する権限を得た。昭和14年7月には,
国家総動員法に基づき国民徴用令が公布され,一般国民が軍需産業に動員
されるようになり,さらに,同年から労務動員計画中に移入朝鮮人労務者を計
上するなどして,朝鮮から日本内地に労務動員をするなど,朝鮮人労働者の
確保も図られるようになった。太平洋戦争開始の翌年である昭和17年2月13
日,日本政府は,「朝鮮人労務者活用に関する方策」を閣議決定し,多数の朝
鮮人労働者が日本内地に移入された。(甲37,甲39,弁論の全趣旨)
(2)ア 太平洋戦争開始後,日本国内の労働力は太平洋戦争の拡大と共に枯渇
し,特に重筋労働部門における労働力不足が著しくなった。
北海道土木工業連合会は,昭和14年7月,厚生大臣及び内務大臣に対
し,「支那労働者移入の『願書』」を提出し,中国からの中国人労働者の移入
の必要性を訴え,その後,土木工業協会も,日本政府に対し,中国人労働者
の使用を要請した。また,石炭鉱業連合会及び金属鉱業連合会は,昭和16
年8月,日本政府に対し,「鉱山労務根本対策意見書」を提出し,「支那苦力
移入積極促進」を訴えた。
他方,昭和15年3月には,「華人労務者移入に関する官民合同協議会」が
商工省燃料局内に設置され,石炭産業における中国人労働者の移入につい
て官民一体となった協議,対策が図られるようになり,昭和17年には,興亜院
により,極秘文書「華北労務者の対日供出に関する件」が作成された。その骨
子は,日本国内における労働力不足の現況にかんがみ,中国人労働者によ
ってその充足を図り,戦時経済の円滑な運営に資すると共に,中国人労働者
に対し,将来華北において必要となる労働技術に習熟させることを目的とし
て,募集,輸送,就労中の労務管理の一部並びに帰還を一貫して華北労工協
会が行い,供出に要する一切の費用は事業者の負担とし,募集費は一括して
華北労工協会に前納するというものであった。
土木工業協会は,同年10月20日,「華北労務者の使役に関する件」を作
成した。また,石炭統制会も,同月1日,各支部に対し,「炭鉱に俘虜並に苦力
使用の件」を発し,その中で「苦力使用に関しても現在企画院と種々交渉中に
て未だ具体的の結果を見ざるも各業者の熱意如何に依りては此も使用可能と
なる見込みある。」と述べた。
同年末,企画院の主催によって,厚生省,商工省,内務省,運輸省及び外
務省の各省関係官と,民間から石炭,鉱山,海運,土建の各統制団体及び企
業中視察希望者が参加して,華北労働事情使節団が組織され,華北労働事
情の調査と関係各団体(北京大使館,華北労工協会,華北運輸会社,北支開
発者,華北石炭関係事業主等)との協議が行われた。同使節団の調査及び
協議の結果,一部の港湾荷役と石炭山に試験的に少数の集団的移入を行
い,その結果,本格的移入をするかどうか決定することとされた。
イ 以上のような経緯を踏まえ,日本政府は,昭和17年11月27日,「華人労務
者内地移入に関する件」と題する閣議決定(以下「昭和17年閣議決定」とい
う。)を行い,中国人労働者を日本国内に移入して重筋労働部門における労
働力不足を補うという政策を採用し,差し当たり試験的に中国人労働者の移
入を行い,その結果を見て漸次本格的実施に移すこととした。
昭和17年閣議決定は,「第一 方針」の項で,「内地に於ける労務需給は
愈々逼迫を来し特に重筋労働部面に於ける労力不足の著しき現状に鑑み左
記要領に依り華人労務者を内地に移入し以て大東亜共栄圏建設の遂行に協
力せしめんとす」と定め,さらに,「第二 要領」の項では,中国人労働者を国
民動員計画中に組み込むことを明らかにすると共に,中国人労働者の移入,
輸送,就労,管理等についても定めている。
そして,昭和17年閣議決定があった日と同じ昭和17年11月27日,企画
院は,「華人労務者内地移入に関する件,第三措置に基く華北労務者内地移
入実施要領」を定め,これに基づき,試験的移入が実施に移された。
ウ 日本政府は,昭和17年閣議決定に基づき,昭和18年4月から同年11月ま
での間に,中国人労働者1411人を日本国内に試験的に移入し,移入の結果
が良好であったとして,昭和19年2月28日,「華人労務者内地移入の促進に
関する件」と題する次官会議決定(以下「昭和19年次官会議決定」という。)に
おいて,中国人労働者を毎年度国民動員計画に計上し,計画的な移入を図る
こととした。
昭和19年次官会議決定の「第一 通則」の一では,「本件に依り内地に移
入する華人労務者の供出又は其の斡旋は大使館,現地軍並びに国民政府
(華北よりの場合は華北労工協会)をして之に当たらしむ」ことと定められてい
る。
エ 昭和19年次官会議決定に基づき,日本政府は,「華人労務者内地移入手
続」において中国人移入の具体的な実施細目を定め,さらに,昭和19年8月
16日,「昭和19年度国民動員実施計画策定に関する件」との閣議決定にお
いて,昭和19年度国民動員計画において3万人の中国人労働者の供給を計
上して,中国人労働者の本格的な移入を促進することとした。この結果,同年
3月から昭和20年5月までの間に,3万7524人の中国人が日本内地に移入
された。(甲35,37)
2 関連条約の規定等
(1) 強制労働ニ関スル条約
  ILOは,昭和5年6月,第29号「強制労働ニ関スル条約」(以下「強制労働禁止
条約」という。)を採択し,被告国は,昭和7年10月15日,同条約を批准し,同年
12月6日,これを公布し(昭和7年12月6日条約第10号),同条約は,昭和8年
11月21日に発効した。
強制労働禁止条約は,2条1項において,強制労働は,「或者が処罰の脅威
の下に強要せられ且右の者が自ら任意に申出でたるに非ざる一切の労務を謂
ふ」と定義し,1条1項において,「本条約を批准する国際労働機関の各締盟国
は能ふ限り最短き期間内に一切の形式に於ける強制労働の使用を廃止するこ
とを約す」と規定すると共に,25条において,「強制労働の不法なる強要は刑事
犯罪として処罰せらるべく又法令に依り科せらるる刑罰が真に適当にして且厳格
に実施せらるることを確保することは本条約を批准する締盟国の義務たるべし」
と定めている。
また,強制労働禁止条約は,強制労働の廃止に至るまでの経過措置として,
1条2項において,「右完全なる廃止の目的を以て強制労働は経過期間中公の
目的の為にのみ且例外の措置として使用せらるることを得尤も以下に定めらる
る条件及保障に従ふものとす」と定め,そのような例外的な経過措置の適用を受
ける地域に関し,4条1項において,「権限ある機関は私の個人,会社又は団体
の利益の為強制労働を課し又は課すことを許可することを得ず」と規定し,21条
は「強制労働は鉱山に於ける地下労働の為使用せらるることを得ず」と定めてい
る。
他方,強制労働禁止条約は,2条2項本文で,「尤も本条約に於て強制労働と
称するは左記を包含せざるべし」と規定して,同項(d)において,同条1項で規定
した強制労働から除外されるものとして,「緊急の場合即ち戦争の場合又は火
災,洪水,飢饉,地震,猛烈なる流行病若は家畜流行病,獣類,虫類若は植物
の害物の侵入の如き災厄の若は其の虞ある場合及一般に住民の全部又は一
部の生存又は幸福を危殆ならしむる一切の事情に於て強要せらるる労務」を挙
げている。また,前記1条2項は,締盟国に強制労働の廃止に至る経過措置を
採ることを認めているが,この経過措置を実施する場合においては,権限ある機
関は,「強制労働の使用を規律する完全且精細なる規則を公布」しなければなら
ず(23条1項),また,実施する強制労働の内容に関して完全なる情報を国際労
働事務局に報告しなければならないとされ(22条),上記経過期間は条約の効
力発生から5年間とされ,その期間が満了した場合には,その後の延長に関して
は,理事会において総会に提起することとされている(1条3項)。
(2) 陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約
  日本政府は,明治44年11月6日,陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(以下「ハー
グ陸戦条約」という。)を批准し,明治45年1月13日,これを公布し(明治45年1
月13日条約第4号),同条約は,同年2月12日に発効した。
ハーグ陸戦条約は,占領地(42条)において守られるべき規定として,43条
において,「占領者は,絶対的の支障のない限,占領地の現行法律を尊重して,
成るへく公共の秩序及生活を回復確保する為施し得へき一切の手段を尽すへ
し」とし,46条において,「家の名誉及び権利,個人の生命,私有財産並宗教の
信仰及其の遵行は尊重すへし」とし,52条において,「現品徴発及課役は占領
軍の需要の為にするに非されは市区町村又は住民に対して之を要求することを
得す徴発及課役は地方の資力に相応し且人民をして其の本国に対する作戦動
作に加るの義務を負はしめさる性質のものたることを要す」としている。
また,同条約は,3条において,「前記規則の条項に違反したる交戦当事者は
損害あるときは之か賠償の責を負うへきものとす交戦当事者は其の軍隊を組成
する人員の一切の行為に付責任を負う」とし,同条約に違反する行為による損害
賠償請求権について定めている。
(3) 極東軍事裁判所条例
  極東軍事裁判所条例は,5条1項において,人道に対する罪とは「戦前又は戦
時中になされたる殺戮,殲滅,奴隷的虐使,追放その他の非人道的行為,若しく
は政治的又は人種的理由に基づく迫害行為であって犯行地の国内法違反たる
と否とを問わず本裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として又はこれに関連して
為されたるもの」をいうものとし,同条2項において,これを行おうとする「共通の
計画又は共同謀議の立案又は実行に参加せる指導者,組織者,教唆者及び共
犯者は,かかる計画の遂行上為されたる一切の行為に付,其の何人に因りて為
されたるとを問わず責任を有す」としている。
第4 争点
1 当事者の主張の骨子
原告らは,被告らに対する損害賠償請求等の根拠として,本件強制連行及び強
制労働について,
① 被告らの共同不法行為(以下「責任①」という。)
② 使用従属関係に基づく保護義務違反(以下「責任②」という。)
を主張し,また,被告らが,戦後,原告らに対して,賃金の支払等各種の給付を行
わず,本件強制連行及び強制労働による原告らの肉体的,精神的苦痛に対して慰
謝の措置を講じなかったこと,本件強制連行及び強制労働にかかる証拠資料を隠
滅したこと等について,
③ 本件強制連行及び強制労働に基づく保護義務違反(以下「責任③」という。)
④ 権利行使妨害の不法行為(以下「責任④」という。)
を主張し,さらに,被告国に対し,被告国が,戦後,本件強制連行及び強制労働を
積極的に隠蔽し,その実行者に対する刑事訴追を行わなかったことについて,
⑤刑事制裁義務の懈怠に基づく不法行為(以下「責任⑤」という。)
を主張している。
これに対し,被告らは,共同不法行為の成立及び保護義務違反をいずれも争
い,特に,責任①について,被告らは,民法724条後段の適用による損害賠償請
求権の消滅を主張すると共に,被告国は,いわゆる国家無答責の法理による被告
国の損害賠償責任の不存在を主張し,被告会社は,民法724条前段に基づく時
効の援用による損害賠償責任の消滅を主張している。
また,責任②及び責任③について,被告国は,保護義務が特定されないこと並
びに原告ら及び被告国との間に特別な社会的接触が存在しないことから,被告会
社は,原告ら及び被告会社間には事実上の支配ないし管理関係があるにすぎない
ことを理由に,それぞれ保護義務の存在を争っている。
さらに,責任⑤について,被告国は,原告ら個人に対しては,強制労働禁止条約
に基づく刑事制裁義務を負わないことなどを主張し,被告会社は,責任①ないし責
任③及び責任⑤について,日中共同声明及び日中平和友好条約において,中国
政府により戦争によって生じた被害に関する損害賠償請求権は放棄された旨主張
している。以下,それぞれの主張について,具体的に述べる。
2 被告らの責任原因について
(1) 原告らの主張
ア 原告らが主張する前提事実
(ア) 本件強制連行及び強制労働
a 被告会社は,被告会社と雇用契約を締結する意思は全く有していなかっ
た原告らを強制的に炭坑労働に従事させた。したがって,原告らと被告
会社は,事実上の雇用契約関係にあった。
被告会社は,この事実上の雇用主の地位に基づき,原告らに対し,過
酷な環境の下での危険労働である炭坑労働を強制し,その際,長時間に
わたり,炭坑労働についての安全教育を施さないまま,監督者により日
常的に暴行を加え,体調不良で働けない者に対しては全く食事を与えな
い取扱いを行い,官憲の見張りにより,原告らの逃亡を防止するなどし
た。
また,被告会社は,原告ら中国人労働者に対し,必要な質,量の食事
をさせず,けがや病気のときもごく簡単な治療を施すのみであった。この
ような栄養不良状態,適切な医療の欠如に加え,宿舎の不衛生,過酷な
炭坑労働の強制,本件強制連行によるストレス等の悪条件が重なったた
め,多くの中国人労働者が死亡した。
さらに,原告らの身体の拘束は,少なくとも1年半以上にわたり,原告A
については2年9か月にも及んだ。被告会社は,その間,原告らに対し
て,家族,友人との通信を禁じたほか,原告らから日常生活の一切の自
由を剥奪した。また,被告会社は,警察や在郷軍人らを動員して,このよ
うな非人間的な処遇に対して改善の要求を行った原告Aを含む中国人労
働者らを逮捕し,暴行を行ったり,食事を与えないといった制裁を加えた
のみならず,中国人労働者を互いに殴り合わせたり,地面にはいつくば
らせるなどの屈辱を与えた。
b 被告国は,原告らに対し公権力を法的に行使して労働を強制することは
なかったものの,被告会社に対する国家総動員法上の地位に基づき,被
告会社に対して公権力を行使することを介して,事実上原告らに炭坑労
働を強制した。
すなわち,被告国は,被告会社に対する国家総動員法上の地位に基
づいて,同法18条に基づく重要産業団体令により設立された石炭統制
会を介し,昭和19年1月から昭和20年7月まで,4回にわたり生産督励
を行い,目標量の石炭生産を命ずると共に,田川鉱業所及び三井鉱業
所の事業場の管理に当たり,従業規則を作成させ,労務管理官による石
炭生産確保のための指揮,命令を行った。また,被告国は,昭和19年次
官会議決定第4の1において,「工場事業場は華人労務者の防諜竝に逃
亡防止に付特段の配慮をなすこと」と明記し,昭和19年次官会議決定に
基づく「華人労務者内地移入手続」において,「移入華人労務者の移動,
災害,紛擾其の他事件発生したる時は特に捜索,防諜等の機密保持に
留意すると共に事業主をして速やかに警察署,国民職業指導所に報告
せしむること」とし,被告会社に対し,原告らの自由を剥奪し,その身柄の
管理を徹底するように指示した。
(イ)a 被告国は,労務者募集規則(昭和15年厚生省令第50号)上,中国人
労働者を募集し,雇主である被告会社に配置した募集従事者の立場に
あった。同規則によれば,募集従事者は,応募者に対して労働条件の詳
細を記した就業案内を交付し,その内容を懇示しなければならず(12
条,17条),また,応募者の外出,通信及び面接の確保を図り,自由の
拘束,過酷な取扱いの除去を図ったり,応募者とその保護者が相互に連
絡を保てるようにするなどの措置を講じなければならない(23条)ものと
されている。
b また,被告国は,国家総動員法により石炭を国家総動員物資に指定し,
石炭生産を総動員業務とした。被告国は,被告会社に対して石炭の生産
目標量や炭価を決定,命令し(8条,19条),生産目標量確保のために,
報告の徴求,現場の臨検,命令,処分,制裁などの管理,統制を行い(3
1条,31条の2以下),資材と労務者の投入,石炭生産に当たる労働者
の指揮,監督を行った(4ないし6条,国民徴用令,俘虜派遣規則)。さら
に,現場労務の指揮,監督については,昭和17年2月24日に重要事業
場労務管理令を定め,同施行規則が定める労働条件に基づいた従業規
則を各事業上に作成させ,これによる現場の労務統制を行うと共に,厚
生大臣の任命する労務管理官を配置して,従業規則に基づいた労務の
監督と報告の徴求,現場の臨検,命令,処分に当たらせた(21条)。
c 被告国は,昭和18年10月31日に軍需会社法(昭和18年法第108号)
を制定し,被告国が指定した軍需会社に対しては,政府が生産,加工,
修理を直接命ずる権限を持ち(8条),勤労の管理や資金調整,経理処
理について命令を行い(10条),その他管理上の命令を行うものとした。
また,軍需会社における生産目標量確保のため,生産責任者,生産担
当者は,政府に対して責任を負うものとされた(4条,5条,12条,14
条)。軍需会社の労働者は,生産責任者及び生産担当者の指揮,命令に
服すべきものとされ(7条),政府には軍需会社に対する報告の徴求,現
場の臨検,命令,処分権や(18条),取締役,監査役,生産責任者,生産
担当者,労働者の解任,譴責,解雇権も付与された(19ないし21条)。
被告国は,昭和19年4月17日,軍需省,陸軍省,海軍省,運輸通信省
連名の告示第1号により,被告会社を始めとする炭鉱会社を軍需会社に
していた。このようにして,被告国は,被告会社の経営権及び人事権の
大半を握ることになった。
(ウ) 被告国は,昭和20年8月14日,ポツダム宣言を無条件に受諾することを
決定すると,同月17日,内務省主幹防諜委員会幹事会において,「華人労
務者ノ取扱」と題する申合せを行い,関係者に通牒した。通牒では,「華人
労務者を全員帰国せしむること」とされ,当面の措置として,「作業続行を中
止し現在地において保護収容すること,華人労務者に対しては契約による
賃金,衣食を給し可及的処遇改善を図ること,華人労務者に対する危害,
暴行を厳に戒め一方傷病者の看護に意を用いうること,犯罪容疑を以て留
置取調中の者は釈放すること」が確認されている。また,被告国は,同年9
月2日,降伏文書に調印したが,同文書には,「日本帝国政府及日本帝国
大本営に対して現に日本国の支配下にある一切の連合国俘虜を直に釈放
すること竝に其の保護,手当,給養及指示せられたる場所への即時輸送の
為の措置を執ることを命ず」と記載されていた。
(エ) 被告国は,本件強制連行及び強制労働が,戦犯事案として追及されるこ
とを予想し,連合国側,特に中国調査団への説明に備えるべく,本件強制
連行及び強制労働の実情を調査し,中国人労働者に対する殺人や虐待と
いった真相を覆い隠す内容の華人労務者就労事情調査報告書(以下「外
務省報告書」という。)を作成した。また,被告国は,昭和20年8月16日,
戦時中の中国人及び朝鮮人に対する統計資料,訓令その他の重要書類を
焼毀し,中国人労働者らの遺骨を収集し,寺院に委託して秘匿するなどし
て,本件強制連行及び強制労働の証拠資料を積極的に隠滅した。さらに,
被告国の閣僚及び政府委員らは,一貫して外務省報告書の存在を否定し
続け,外務省報告書の存在が明らかになっても,本件強制連行及び強制労
働については半強制というあいまいな表現の答弁に終始し,公的な場にお
いて本件強制連行及び強制労働の存在を否定し,上記の刑事制裁義務に
違反した。加えて,被告国は,原告らに対する補償を全く放置したまま,被
告会社に対し,中国人労働者を使役したことに伴う損害として,約774万円
を支払い,手厚い補償を行った。
  また,被告会社は,本件強制連行及び強制労働の事実を調査した者らに
対し,有形無形の圧力を加え,調査活動を妨害した。
イ 本件強制連行及び強制労働における被告らの共同不法行為(責任①)
被告会社は,ア(ア)aのとおりの本件強制連行及び強制労働を行ったのであ
って,かかる行為は原告らに対する不法行為を構成する。
また,被告国は,強制労働禁止条約及び労務者募集規則により,本件強制
労働を即刻停止して原告らをその出身地に送り返す義務を負い,少なくとも原
告らに対する被告会社の虐待や非人道的取扱いを禁止し,原告らを保護すべ
き義務を負っていた。そうであるにもかかわらず,被告国は,原告らを保護す
べき義務を怠ったばかりか,かえってア(ア)bのとおり,被告会社に対する石炭
増産の督励,指令を次々に行って本件強制労働を押し進めると共に,中国人
労働者の管理の徹底や厳格化を求め,場合によっては官憲により原告らを逮
捕,拘束するなどした。被告国のこれらの行為は,ハーグ陸戦条約に違反し,
また,人道に対する罪を構成するものである。
以上の被告らの加害行為は,被告国と被告会社の共同意思の下に行われ
たものであるから,被告らは,民法709条,715条及び719条により,原告ら
に対し,連帯して,損害賠償をすべき責任を負う。
ウ 本件強制連行及び強制労働における使用従属関係による保護義務違反(責
任②)
原告らは,被告会社と雇用契約を締結する意思を有していなかったにもか
かわらず,被告会社は,ア(ア)aのとおり,原告らを支配下において隷属させ,
強制的に使役し,指揮,命令を行って炭坑労働に従事させた。したがって,被
告会社と原告らの間には雇用契約は成立していないものの,上記使用従属関
係に基づく事実上の雇用契約関係にあり,被告会社は,原告らに対してその
提供した労務に見合った賃金を支払うと共に,その生命,健康の保全に配慮
すべき保護義務を負っていたにもかかわらず,これらを全く履行しなかった。
また,被告国は,ア(イ)aのとおり,労務者募集規則により,募集従事者の立
場に基づき,原告らに対する本件強制連行を実施して,被告会社に配置した
こと,ア(イ)bのとおり,国家総動員法により,被告会社に対する指揮,命令,監
督を介して原告らと事実上の使用従属関係にあったこと,ア(イ)cのとおり,軍
需会社法により,昭和19年4月17日以降,原告らに対し雇主の立場にあった
ことに基づき,原告らを保護する義務を負っていた。
以上のとおり,被告らは,その提供した労務に見合った賃金を支払うと共
に,その生命,健康の保全に配慮し,少なくとも労務者募集規則が掲げる労
働者保護の最低基準が確保されるように原告らを保護する保護義務を負って
いたにもかかわらず,これを全く履行しなかったものであるから,民法1条2
項,415条及び416条に基づき,原告らに対し,連帯して,保護義務違反に
よる損害賠償をすべき責任を負う。
エ 戦後において,各種給付を行わず,慰謝の措置も講じなかったこと等につい
ての保護義務違反(責任③)
前記ア(ウ)のとおり,被告らは,原告らに対し,①未払賃金の支払,必要な
衣食・物資の支給,②帰郷費用の支給を含む帰還のための措置,③傷病した
原告らに対する十分な治療や療養の給付と補償,④本件強制連行及び強制
労働による肉体的,精神的苦痛に対する慰謝,⑤破壊された生活を回復し,
家族関係と家庭生活を修復していくための補償及び敵国に労務を提供したと
の非難に対する名誉回復のための措置,⑥本件強制連行及び強制労働の経
過と実情についての事実関係の情報の提供を行う保護義務があった。
しかしながら,被告らは,原告らを,それぞれの故郷ではなく塘沽に送り届
けたのみで,それ以外の義務の履行については,賃金すら支払わず,すべて
これを怠って現在に至っている。
以上のとおり,被告らは,民法1条2項,415条及び416条に基づき,原告
らに対し,連帯して,保護義務違反による損害賠償をすべき責任を負う。
オ 権利行使妨害の不法行為(責任④)
被告らは,本件強制連行及び強制労働の事実を解明し,原告らに情報を提
供し,それらに基づいて誠実に謝罪すると共に,原告らが被った損害を賠償す
る義務を負っていたにもかかわらず,また,何度もそのような機会が与えられ
ていたにもかかわらず,こうした義務を履行しないのみならず,ア(エ)のとおり,
共同して本件強制連行及び強制労働にかかる証拠資料一切を隠滅し,国会
において虚偽の答弁を繰り返し,調査活動を妨害してきた。被告らのこれら一
連の行為は,原告らがその損害賠償請求権を行使することを積極的に妨害す
るものであるから,原告らに対する新たな加害行為と評価しなければならな
い。
したがって,被告らは,民法709条,715条及び719条により,原告らに対
し,連帯して,損害賠償をすべき責任を負う。
カ 被告国による刑事制裁義務の懈怠に基づく不法行為(責任⑤)
我が国においては,憲法98条2項により,条約が国内法を構成することが
示され,条約の内容が国民の権利義務に関するものであれば,それは公布に
より国民を拘束し,国内法規としての性質を併有し,民事上の違法性判断基
準として適用されるところ,強制労働禁止条約は,締約国の管轄下にある個
人に統一的内容の権利を保障して個人の保護を義務づけるものであり,締約
国における社会規範としての法律上の義務の創設を目的とした立法条約であ
るから,当事国は,国民等自国の法律の効力が及ぶ範囲に居住する者に対
して同条約に基づく義務を負う。
そして,同条約は,2条1項で廃止されるべき強制労働を定めた上,強制労
働を重大犯罪として制圧することにより,自由な労働関係と労働環境に期待
する労働者個人の利益を保護するため,25条において,締約国に強制労働
を強要した者に対する刑事処罰を義務づけており,我が国においては,昭和7
年に同条約が批准され,翌年から国内的効力が生じている。
したがって,被告国は,同条約に基づき,本件強制連行及び強制労働の実
施者の刑事訴追及び処罰を行い,公益を維持,確保すると共に,本件強制連
行及び強制労働の事実関係を社会的に明らかにし,原告らに被害回復の機
会を与える義務を負っていた。
ところで,ア(エ)のような被告国の行為は,原告らがその損害賠償請求権を
行使することを積極的に妨害するものであると共に,本件強制連行及び強制
労働の事実の究明,関係者の処罰及び謝罪を待ちわびてきた原告らの期待
を裏切るものであり,単なる刑事訴追義務違反にとどまらず,原告らに対して
新たな精神的損害を加えるものである。
したがって,被告国は,民法709条及び715条により,原告らに対し,損害
賠償をすべき責任を負う。
なお,強制労働禁止条約2条2項(d)は,その列挙事由のとおり,緊急の対
応を必要とする突然の不慮の出来事に関する労働を強制労働の範囲から除
外するものであるから,条約でいう例外の範囲については,労働召集の権限
は,本質的な災害時において,国民を切迫した危険から守るための役務のみ
に適用されると解すべきである。したがって,長期間にわたる本件強制労働の
ごとき事案に対する同条項(d)の援用はあり得ない。また,日本政府は,1条
2項におけるような締約国に強制労働の廃止に至る経過措置を行う旨の通知
をしておらず,23条1項で要求されるような規則の制定もしないうちに経過期
間を満了しているので,当初から強制労働禁止条約に定める経過措置を実施
する際における条件等を適用する可能性は全く発生していない。
(2) 被告国の主張
  ア 戦前の民法下における本件強制連行及び強制労働に対する被告国の損害賠
償責任の成否(国家無答責の法理が認められるか)
原告らが主張する被告らの共同不法行為(責任①)は,戦時における経済
統制の一環として行われた国家の権力的作用に基づく行為である。そして,
国家賠償法施行(昭和22年10月27日)前においては,かかる行為について
の被告国の損害賠償責任は否定されている(国家無答責の法理)。
すなわち,国家無答責の法理とは,国又は公共団体の権力作用について
は,私法たる民法の適用はなく,その他,国家賠償責任を認める実定法の規
定がなかったことを根拠とする実体法上の法理である。その実定法上の根拠
は,明治23年に公布された行政裁判法(明治23年法律第48号)16条にお
いて,「行政裁判所ハ損害要償ノ訴訟ヲ受理セス」との規定が置かれ,続いて
司法裁判所の管轄権を定めた裁判所構成法制定の際に,国家責任に関する
訴訟を司法裁判所が受理するという明文規定が草案から削除され,さらに,
ボアソナードによる民法草案393条においては「公私ノ事務所」にも使用者責
任が認められていたものの,旧民法373条から「公ノ事務所」の文言が削除さ
れた結果,実体法においては,国家賠償責任を認める規定は存在しなくなっ
たことに求められる。また,大審院の判例も,権力的な作用に関する事項につ
いては,民法の適用はなく,国の損害賠償責任を否定するという態度で一貫し
ている。加えて,国家の権力行為に関して私法である民法の適用がないという
ことは,当時の学会の通説であった。
そして,国家賠償法附則6項は,同法施行前の行為に基づく損害について
は,「従前の例」によるものとしており,国家無答責の法理がこの「従前の例」
に当たることは明らかであるから,原告らが主張する被告らの共同不法行為
(責任①)に民法709条,715条及び719条を適用する余地はなく,原告らの
主張は失当である。
また,被告国による刑事制裁義務の懈怠に基づく不法行為(責任⑤)に関
する原告らの主張が,国家賠償法施行前の公務員の行為を問題とするので
あれば,やはり国家無答責の法理により,当該行為に対する民法の適用は排
除されるため,被告国が損害賠償責任を負うことはない。
イ 本件強制連行及び強制労働に基づく被告らの共同不法行為(責任①)につ
いて
ハーグ陸戦条約3条は,その文言上からも,交戦当事国間の国家責任を明
らかにしたものにすぎず,国家が,交戦当事国の被害者個人に対して直接損
害賠償責任を負う趣旨ではない。
さらに,人道に対する罪についても,ニュルンベルグ国際軍事裁判所条例6
条及び極東国際軍事裁判所条例5条の文言からすれば,明らかに違反者個
人の犯罪構成要件を規定しているものである上,各条例が,先の第2次世界
大戦に関連して行われた非人道的行為及び迫害行為を行った行為者個人の
刑事責任を明らかにし,これを処罰するために設けられたものであることを併
せて考慮すると,人道に対する罪の違反行為は,行為者個人の国際刑事責
任が追及されるという効果を有するにすぎず,違反行為者個人の所属する国
家の民事的責任を基礎づけるものではない。
したがって,本件強制連行及び強制労働が,ハーグ陸戦条約3条及び人道
に対する罪に違反しているとして,これが民法上の不法行為における違法性
を基礎づけるとの原告らの主張は理由がない。
ウ 本件強制連行及び強制労働における使用従属関係による保護義務違反(責
任②)及び戦後において各種給付を行わず慰謝の措置も講じなかったこと等
についての保護義務違反(責任③)について
(ア) 総論
安全配慮義務の主張に当たっては,履行が不完全であった事実に加え,
生命,健康等を侵害された者ごとに,その結果が発生した具体的状況を明
らかにした上で,発生した結果との関係から,義務者がそのような結果を予
見できたか,どのような措置を講じていれば結果の発生を回避できたか,義
務者と被害者との法律関係及び当時の技術やその他社会的な諸事情に照
らし,義務者に対し,結果の発生の防止措置を採ることを義務づけるのが
相当であるかといった点を判断するに足りる具体的な事実を明らかにする
必要がある。
また,安全配慮義務の成立の前提となるある法律関係に基づく特別の社
会的接触とは,当事者間に雇用契約ないしこれに準ずる法律関係が存在
し,かつ,直接具体的な労務の支配管理性が存在する場合に限定される。
そして,このような法律関係は,一般的あるいは一方的に発生する法律関
係に基づくものでは不十分であり,私法上の契約のように特定の目的達成
のために双方の意思の合致によって構築される結合関係に匹敵するような
個別的で強い法的結合関係でなければならないと解すべきである。
(イ) 本件強制連行及び強制労働における使用従属関係による保護義務違反
(責任②)について
原告らが主張する安全配慮義務は,当時の技術,社会的諸事情及び個
別的事情に照らした具体的内容ではなく,一般的,概括的かつ抽象的内容
にとどまるもので,被告国が採るべき具体的な措置の内容やその可能性も
不明である。また,労務者募集規則が職業紹介法8条2項を受けて制定さ
れた省令であり,同規則23条が募集従事者を名あて人としていることから
すると,同規則は募集従事者に対する行政上の取締規定であって,労務者
と募集従事者との私法上の法律関係を規定するものではないから,募集従
事者が労務者に対して原告らが主張する(1)ア(イ)aの事実に基づく安全配
慮義務を負うと解することはできない。仮に,原告らの主張が,被告国は,
被告会社を通じて(1)ア(イ)aに基づく義務を履行する義務を負っていたという
内容であるならば,それは国の行政作用としての一般的な労働者保護政策
上の責務をいうものであって,そのような責務をもって,私法上の信義則に
基づく安全配慮義務の内容とすることはできない。
原告らの主張は,本件強制連行という事実行為に基づくものであり,ま
た,被告国が,国家総動員法及び国民徴用令により,被告会社における労
働条件について公権的な介入を行い,これを規律し得る立場にあったとして
も,これは国民に対する一方的な処分にすぎず,原告らと被告国との間に,
上記のような個別的で強い法的結合関係があるとはいえない。
さらに,被告国は,軍需会社法(昭和18年法第108号)により,被告会
社の選任した生産責任者や生産担当者の指導,監督を介して,私企業の
自主的経営を前提とし,戦力の増強を図ろうとしたのであるから,被告国
が,私企業における具体的な生産現場での労働者の労務を直接的かつ具
体的に支配するものとはいえない。したがって,原告らと被告国との間に
は,雇用契約ないしこれに準ずる法律関係及び直接具体的な労務の支配
管理性は存在しない。
以上のとおり,原告らの主張は,安全配慮義務の特定及びその前提とな
る特別な社会的接触を欠くものであって,理由がない。
(ウ) 戦後において各種給付を行わず慰謝の措置も講じなかったこと等につい
ての保護義務違反(責任③)について
原告らが主張する降伏文書の規定は,連合国が我が国に対して命令し
た政治的方針であって,その規定をもって,被告国が,原告らに対して法的
義務を負ったと解することはできない。
また,安全配慮義務が根拠を置く信義則は,事件当時の信義則にほか
ならないから,その判断に当たっては,敗戦国である我が国の当時の社
会,経済情勢,技術水準等の諸般の事情を踏まえ,原告らの個々の事情を
具体的に検討し,当時,我が国が信義則上何らかの具体的な対応が容易
であり,これを行うことが原告らそれぞれに対して法的な義務として想定さ
れる程度のものであったかが検討されなければならないが,原告らの主張
は,終戦直後の敗戦国の混乱状況の下における事情を十分検討したもの
ではない。
さらに,前記のとおり,原告らと被告国との間には,安全配慮義務の発生
の前提となるある法律関係に基づく特別の社会的接触関係を認めることは
できない。
以上のとおり,原告らの主張は,安全配慮義務の特定及びその前提とな
る特別な社会的接触を欠くものであって,理由がない。
エ 被告国による刑事制裁義務の懈怠に基づく不法行為(責任⑤)について
原告らの主張は,刑事訴追の対象とすべき本件強制連行及び強制労働の
実施者が特定されておらず,その実施者と原告らとの関係も具体的に明らか
でないなど,不明確で漠然としており,それ自体失当である。
また,原告らは,民法の適用を前提としているが,国家賠償法施行前の被
告国の公権力に基づく行為については,アのとおり,民法の適用が排除され,
被告国は,損害賠償責任を負うことはない。そして,国家賠償法施行後の公
務員の行為については,当該行為が公権力の行使に該当するか否かにより,
国家賠償法1条と民法における不法行為の諸規定のいずれが適用されるか
が決定されるのであって,これらの法条が重畳的に適用される余地はないとこ
ろ,原告らが主張する被告国の行為が公権力の行使に該当することは明らか
であるから,民法709条,715条及び719条を根拠とする原告らの主張は失
当である。
仮に,原告らの主張が国家賠償法1条1項に基づくものであると解するとし
ても,同条項における違法性が認められるためには,国又は公共団体の公権
力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義
務に違背して当該国民に損害を与える必要があるところ,強制労働禁止条約
25条に基づく,強制労働の実施者に対して刑事訴追を行う義務は,被告国
が,同条約の他の締約国に対して負うべきものであって,原告らとの関係で負
担する義務ではない。
(3) 被告会社の主張
 ア 責任①について
   争う。
 イ 責任②について
原告らと被告会社は,明らかな契約関係又はそれに準ずる直接の契約関
係にはない。原告らは,原告らと被告会社が事実上の雇用契約関係にあった
旨主張するが,事実上の関係を契約準則に従って規律することはできないの
であって,事実上の支配ないし管理関係があるにすぎない場合には,安全配
慮義務は認められない。したがって,原告らの主張は理由がない。
仮に,被告会社と原告らとの間において,事実上の契約関係に基づく保護
義務が発生していたとしても,同関係は,昭和20年8月15日には終了してい
るから,同義務違反による損害賠償請求権は,同日から10年を経過した昭和
30年11月22日ころまでには,時効が完成している。被告会社は,本件訴訟
において,消滅時効を援用する。
ウ 責任③について
仮に,被告会社と原告らとの間において,事実上の契約関係が存在してい
たとしても,昭和20年8月15日にこの事実上の関係が終了した後には,被告
会社は,原告らに対して何らの保護義務も負わない。
エ 責任④について
  争う。
(4) 原告らの反論(国家無答責の法理について)
ア 被告国が主張する国家無答責の法理は,以下の理由から,法理そのものの
存在について疑わしいものであり,国家賠償法附則6項の「従前の例」に該当
するとはいえない。
すなわち,明治23年以前は,実定法規が訴訟上の請求を広く認めており,
旧民法審議過程においても損害賠償請求ができることが当然の前提となって
いた。旧民法373条において「公ノ事務所」の文言が削除されたのは,国及び
公共団体に対して損害賠償請求ができることを前提に,具体的運用を司法判
断に待つためであって,司法裁判所における国及び公共団体に対する損害賠
償請求を否定するためではない。実際にも,その後,裁判所に対しては,国及
び公共団体に対する損害賠償請求訴訟が数多く提起され,相当数の事件で
損害賠償の請求が認容されている。
また,国家賠償法施行前の判決においては,当初は,公共施設,公共工事
における管理監督や,在学関係に関する訴訟において,権力的規制又は特
別権力関係の側面から,国に対する損害賠償責任が否定されていたが,その
後次々と請求を認めるようになり,全体的に見れば,動揺を続けながら,次第
に国及び公共団体に対する民法の適用範囲を拡大していたということができ
る。このように,国家賠償法施行前の判決は多様で,大審院判例が権力的な
作用に関連する事項について,民法の適用はなく,国の損害賠償責任を否定
する態度で一貫しているとはいえない。これは,権力作用と非権力作用との限
界は必ずしも明確ではなく,あいまいさを伴った未成熟,未発達の概念である
ことに起因するものと考えられる。
さらに,国家賠償法施行前においても,学問,思想弾圧の激しい時期であっ
たにもかかわらず,実社会における市民感情,具体的衡平性,損害の社会経
済的衡平分担を考慮し,上記のような裁判例の検討,憲法,国家理論として
の天皇機関説論,使用者責任論を踏まえ,国及び公共団体に対する損害賠
償請求を肯定する学説も存在した。
このような事情に加え,国家賠償法施行前,日本の海軍機が揚子江上で米
艦パナイ号他小型船4隻を爆撃し,撃沈した事件において,日本政府は,直ち
に米政府に謝罪を行い,損害賠償を行っており(パナイ号事件),日本政府
が,日本軍の過失による不法行為により損害賠償責任を負うものと考えてい
たこと,現行憲法の制憲議会において,国家賠償請求権保障に関する憲法1
7条が議員により提案,採用され,公務員による違法な加害行為について,こ
の制憲議会に参加していた議員らが,国及び公共団体も賠償責任を負うもの
と考えていたことなどを考慮すると,被告国が主張する国家無答責の法理が,
その存在については異論が生じる余地のない程度に確立した法理であるとい
うことはできない。したがって,国家無答責の法理が,国家賠償法附則6項の
「従前の例」に該当するとはいえない。
イ 仮に,公務員の行為について国家無答責の法理の存在が認められるとして
も,国家の権力的作用,公権力の行使が存在するというためには,第1に,加
害行為が実質的に強制力ないし権力の行使といえる性質のものであること
(事実行為としての強制力の行使),第2に,適法に行使すれば,適法な公権
力の行使と評価されるような権限を与えられていること(適法な公権力行使権
限の存在),第3に,加害行為が国の統治権又は主権に服する者に対する行
為であること(公権力の人的,場所的限界)が必要である。
本件においては,銃剣を突きつけ又は詐言を用いた原告らに対する身柄の
拘束は,いずれも事実行為としての強制力の行使に当たるから,第1の要件
は満たされる。
しかし,公権力に基づく公法関係,権力関係又は管理関係は,いずれも実
定法により法的根拠が定められることに基づいて成立する法律関係であると
ころ,国家総動員法は,その対象となる人的範囲を「帝国臣民及び帝国法人
その他の団体」(4条,5条)としており,中国人労働者はこれに含まれていな
い。また,労務者募集規則は,労働者の募集主と募集従事者を規律するもの
であるから,中国人労働者が直接権力関係の当事者の立場に立つことはな
い。強制労働禁止条約においても,強制労働廃止のための強権的措置の対
象とされるのは,強制労働を行う雇主で,労働者は保護の対象にすぎない。
以上のとおり,本件強制連行及び強制労働の根拠となる実定法は存在しな
い。かえって,昭和17年閣議決定においては,本件強制連行及び強制労働
は,契約関係に基づく移入と就労であるとされており,戦後においても,被告
国は,本件強制連行及び強制労働は,華北労工協会等による募集又はあっ
せんにより成立した契約関係に基づく自由な労務の提供である旨の答弁を繰
り返してきた。したがって,日本の政府担当者や日本軍は,日本の主権の外
にあり,日本の統治権の及ばない中国において,原告らを強制力を用いて連
行し,拘束するいかなる法的権限も有していないのであるから,第2の要件は
満たされない。
また,行政法規は,これを規制する機関の権限の及ぶ全地域に限って効力
を有するところ,日本軍は,中国において,主要都市と周辺地域を点として占
領したのみで,征服したということはできないから,その地域に公権力を及ぼ
そうとしても,法的条件が熟していたとはいえない。また,たとえ征服したとして
も,文化的な諸条件の共通性を欠く地域に対して,征服国の行政法規を直ち
に適用できるわけではない。そして,原告らが日本国内に連行された後は,私
的生活においては市民法の適用を受けるものの,国又は公共団体との関係
では,自らの意思で入国した外国人と同列に考えることはできない。したがっ
て,中国国民である原告らは,日本の統治権の外にあったのであるから,第3
の要件も満たされない。
したがって,本件においては,国家無答責の法理の適用の前提としての国
家の権力的作用,公権力の行使が存在するということはできないから,被告
国の主張は理由がない。
ウ さらに,仮に,公務員の行為について国家無答責の法理の適用が認められ
るとしても,本件強制連行及び強制労働は,労働者募集取締令(大正13年内
務省令第36号)及び強制労働禁止条約に違反し,原告らに対して深刻な被
害をもたらしたものであるから,本件強制連行及び強制労働に関与した公務
員の著しい権限の濫用,逸脱を認定し,被告国の損害賠償責任を認めるべき
である。
3 因果関係及び損害
(1) 原告らの主張
原告らは,過酷な本件強制連行及び強制労働を受けたことによる怒りや悔し
さ,悲しさのみならず,最愛の妻子や親兄弟を侵略する敵国である日本の生産
活動に従事させられたことにより,深刻な精神的損害を被った。
また,原告らの精神的損害は,被告らによる本件強制連行及び強制労働の証
拠の隠滅及び事実の隠蔽という積極的な加害行為に加え,被告会社に対して手
厚い補償が行われたこと,及び本件強制労働の実施者に対する刑事制裁が全く
行われず,漫然と放置されたという新たな加害行為により,拡大し続けている。
このような被害の大きさ及び被害の質の特殊性を考慮するならば,被告らは,
まず,原告らに対して誠意ある謝罪を行い,原告らの苦痛に対する慰謝の措置
を講ずるべきである。また,上記謝罪広告が行われることを前提に,原告らが被
った精神的損害に対する慰謝料の額は,原告1人当たり2000万円が相当であ
る。また,その弁護士費用としては,本件が国際関係にわたり歴史性を帯びたも
のであって,その訴訟追行には高度の技術を要することを考慮すると,原告1人
当たり300万円が相当である。
(2) 被告らの主張
因果関係及び損害に関する原告らの主張は争う。
4 民法724条前段及び後段の適用の有無
(1) 被告国の主張
仮に,原告らが主張する被告らの共同不法行為(責任①)に民法709条,71
5条及び719条が適用されるとしても,かかる行為が本件提訴から20年以上前
の行為であることは明らかであるから,民法724条後段により,原告らの損害賠
償請求権は消滅している。
したがって,原告らの請求は,法的根拠を欠くものである。
(2) 被告会社の主張
ア 民法724条前段の適用
原告らは,昭和20年11月22日,日本を出国し,同月24日及び同月29日
ころには塘沽に到着し,そのころまでには不法行為状態を脱した。
また,原告らは,同年8月15日,本件強制労働から解放され,原告らによっ
て時期の遅早の差があるものの,遅くとも終戦から1年後の昭和21年8月15
日までには,中国に帰国して不法行為状態を脱した。
さらに,我が国と中国は,昭和53年10月23日,日本国と中国との間の平
和友好条約(以下「日中平和友好条約」という。)を締結し,正式に国交を回復
した。
したがって,昭和20年11月29日,昭和21年8月15日又は昭和53年10
月23日のいずれかの時点において,原告らは,被告会社に対して不法行為
に基づく損害賠償請求を行い得る状態となったものであり,これらいずれかの
日から3年を経過したときに,原告らの損害賠償請求権は,時効により消滅し
た。被告会社は,本件訴えにおいて,消滅時効を援用する。
イ 民法724条後段の適用
民法724条後段所定の20年の期間は,除斥期間と解すべきである。そし
て,原告らが主張する責任①の被告会社の不法行為は,遅くとも昭和21年8
月15日までには終了していたことが明らかであるから,同日から20年の除斥
期間を経過した時点で,原告らの損害賠償請求権は消滅している。
(3) 原告らの主張
ア 民法724条前段及び後段の法的性質
民法724条後段の沿革,立法趣旨,法文の文言,不法行為責任について
時効として二重の期間制限を設けている諸外国の立法例,及び被害者の権
利行使は予期しない外部的事情により妨げられることが多いことを考慮する
と,同条後段は,時効期間を定めたものと解すべきである。
そして,民法724条前段に定める3年の時効期間は,権利者の権利行使
の現実かつ具体的な可能性の存在という特殊な状況に対応する特殊な短期
時効であるのに対して,同条後段に定める20年の時効期間は,そのような特
殊な事情の有無とは無関係に,請求権の成立時から進行を開始し,20年の
経過により完成する通常の時効であって,不法行為責任は,原則として通常2
0年の時効にかかり,特に被害者において損害及び加害者を知り,権利行使
の現実的可能性がある場合に限って,通常の20年の時効の完成を待たずに
3年の時効の完成を認めるということにすぎないと解すべきである。
イ 民法724条の定める期間の起算点
(ア) 総論
民法724条前段の3年の期間の起算点は,被害者が,客観的に権利行
使が可能な状況の下において,具体的な事実関係に基づいて加害者に対
する権利行使ができることを認識したときと解すべきである。
また,民法724条後段の20年の期間の起算点については,加害行為の
時であるとする見解があるが,未だ発生していない権利の時効進行を認め
ることになりかねず,不当である。前述の民法724条の立法趣旨から,同
条後段の20年の期間の起算点は,不法行為の構成要件が充足されたと
き,すなわち,加害行為のみならず,損害が発生して被害者の権利行使が
客観的,一般的に期待できる状況になったときと解すべきである。そして,
加害行為から時間が経過して損害が発生する場合には,その損害の発生
時点である損害賠償請求権の成立時点から,時効の進行が開始するもの
と考えるべきである。
(イ) 本件における民法724条前段の時効期間の起算点
a 中国は,昭和24年に成立し,中国本土を実効的に支配していたにもか
かわらず,昭和27年に締結されたサンフランシスコ平和条約の締約国か
ら外されたため,日本と中国は,国交断絶の状態が続いた。その後,昭
和47年の日本政府と中国政府の共同声明(以下「日中共同声明」とい
う。)によって,国交が正常化され,同年から様々な実務協定が締結さ
れ,さらに,昭和53年10月23日,日中平和友好条約の締結によって,
初めて本格的かつ正常な国家関係の基礎が確立された。
日本に対する中国民間人の損害賠償請求の問題は,平成3年3月,
第7期全国人民代表大会第4回会議において,国家間の戦争賠償と民
間の被害賠償を区別し,前者は日中共同声明で放棄されたものの,後者
は,中国の民間人被害者及びその遺族は,日本に対して損害賠償請求
ができる旨の科学工業部幹部管理学院法学部教員の意見書により,初
めて公の場で取り上げられた。その後,江沢民国家主席は,平成4年4
月,日中戦争時の民間被害については,相互に協議して条理にかなう形
で妥当に解決すべきであることを主張してきた旨の発言を行った。さら
に,銭其?外相は,平成7年3月9日,対日戦争賠償問題について,日中
共同声明で放棄したのは国家間の賠償であって,個人の賠償請求は含
まれず,賠償の請求は国民の権利であり,中国政府は干渉すべきでない
旨発言した。
このように,原告らが,被告らに対し,本訴を提起することが政治的社
会的に可能となったのは,上記銭其?外相の平成7年3月の発言以降で
あり,それ以前に原告らが本訴を提起することは不可能であったというべ
きである。
b 原告らが本訴を提起するには,更に本件強制連行及び強制労働の具体
的な事実関係を明らかにした上,これを裏付ける資料が必要であった
が,被告国は,平成5年5月17日及び同年8月14日のNHKの報道によ
り,外務省報告書の存在が明らかとなるまで,戦後一貫して外務省報告
書の存在を否認し,本件強制連行及び強制労働の事実も確認できない
として,その責任を否定し続けた。
また,Pを始めとする中国人弁護士らは,平成8年8月以降,本件強制
連行及び強制労働における労働者の名簿を手掛かりにして原告らを訪
ね,原告らが本件訴訟を提起するために,外務省報告書及び事業場報
告書に基づき,本件強制連行及び強制労働の事実を確認し,本件訴訟
を受任する日本の弁護士を捜すなどして,本訴の提起について援助を行
った。
原告らから本件訴訟について協力を求められた日本の弁護士らは,
本件訴訟に伴う法的な問題点や諸費用の負担等を検討した上,平成11
年ころ本件訴訟を受任することを決め,同年11月17日及び平成12年4
月4日,原告らと直接面談した上,原告らから正式な委任を受け,同年5
月に本訴を提起するに至った。
c このような経過に照らせば,原告らが,本件強制連行及び強制労働の具
体的事実に基づいて原告らに対する被告らの不法行為を特定することが
でき,被告らに対する損害賠償請求権の行使が可能となったのは,中国
と日本の弁護士の支援,協力を取り付けることができた平成12年4月の
時点である。
したがって,民法724条前段の3年の時効期間の起算点は,平成12
年4月の時点であり,本件訴訟の提起は同年5月であるから,時効は完
成していないというべきである。
(ウ) 本件における民法724条後段の時効期間の起算点
被告国は,原告らに対し,2(1)エの保護義務を負っていたのであり,本件
強制連行及び強制労働により生じた被害の回復を図る措置を採るべきであ
った。しかしながら,被告国は,これらの保護義務を果たさなかったばかり
か,戦後,自ら作成した外務省報告書を廃棄処分して証拠と事実の隠蔽を
図り,国会等公の場においても,NHKが外務省報告書について報道を行っ
た平成5年5月までは,本件強制連行及び強制労働の事実を否定し続け,
中国に対する戦争責任も否定し続けてきたのであって,原告らに対し,名誉
回復措置等一切の補償,謝罪も行っていない。被告国のこれらの行為によ
り,戦後においても原告らは差別,偏見に苦しめられ,その被害感情も増幅
されてきた。
したがって,原告らの主張する被告国の加害行為は,現在も継続してい
るのであって,被告国に対する損害賠償請求権については,未だ時効は進
行していないということができる。
ウ 民法724条の適用の制限
(ア) 総論
加害者による民法724条の時効援用及びその結果が,著しく正義,公平
に反するときは,その時効援用は権利の濫用に当たるものとして排斥され
るべきである。また,仮に,同条後段所定の20年の期間が除斥期間である
としても,その適用が著しく正義,公平に反し,条理にもとるときは,同条後
段の規定は適用されるべきではない。そして,民法724条の適用が著しく
正義,公平に反するか否かは,具体的には,①被害者の権利不行使に対
する加害者の加担,②権利者の権利不行使に対する非難性の欠如,③時
効による加害者保護の不適格性,④時効・除斥期間がもたらす結果の著し
い不正義・不公正といった諸事情を考慮して判断すべきである。
(イ) 本件における民法724条の適用の制限
a 原告らの権利不行使に対する被告らの加担について
被告国は,「華人労務者内地移入手続」に基づき,中国人労働者を使
用する事業主に対し,中国人労働者の名前,人数,勤労状況,帰国状況
等を,厚生省,内務省,大東亜省等の関係機関,警察署及び地方自治
体に報告するよう義務づけていた。したがって,被告らは,戦時中から敗
戦直後においては,本件強制連行及び強制労働の実態を記録した大量
の文書を有していたはずである。また,外務省は,戦後間もなく,本件強
制労働が行われた事業場に対してその実態を明らかにする事業場報告
書を提出させ,これを基礎として外務省報告書を作成していた。特に,外
務省報告書及び事業場報告書は,戦犯追及を逃れるための対策として
作成されたという点はあるものの,本件強制連行の日時,場所,人数及
び中国人労働者名,また,本件強制労働の期間,場所,待遇,死亡者数
及び傷病者数等の内容はかなり正確であり,これらの文書が保存され,
かつ,公にされていれば,原告らを始めとする本件強制連行及び強制労
働の実態は,相当程度解明されたはずである。ところが,被告らは,本件
強制連行及び強制労働に対する責任を追及されることを恐れ,外務省報
告書及び事業場報告書を廃棄,隠匿し,本件強制連行及び強制労働の
事実確認と証明を困難にし,原告らの権利行使を意図的に妨害した。
また,被告らは,外務省報告書及び事業場報告書等の資料が存在し
ないことを奇貨として,本件強制連行及び強制労働の事実を正式に認め
ていない。特に,被告国は,戦後一貫して,事実を明らかにする資料がな
く,本件強制連行及び強制労働の事実は明らかではなく,本件強制労働
は中国人労働者の自由な意思による雇用契約であった旨主張し,平成5
年に至って外務省報告書の存在が明らかになっても,中国人労働者の
日本への移入が半強制的であったことを認めるにとどまっている。さら
に,被告らは,本件強制連行及び強制労働については何の調査も確認も
行っていない。特に,被告国は,昭和25年4月の衆議院外務委員会にお
いて,中国人に対する強制連行,強制労働については日本の刑法に違
反するものとして,日本の警察当局に捜査権限があることを認め,責任を
もって調査する旨答弁したにもかかわらず,かかる調査を怠っている。
このように,被告らが,外務省報告書及び事業場報告書を始めとする
本件強制連行及び強制労働に関する文書を廃棄処分して事実を隠蔽
し,これらの資料がないことを理由として,本件強制連行及び強制労働の
事実を公式の場において否認してきたことが,原告らの権利行使を阻害
したということができる。
b 原告らの権利不行使に対する非難性の欠如
原告らのほとんどは,戦後,農業に従事していたが,日本の侵略によ
る農村の荒廃とその後の内戦等により,原告らの生活は楽ではなかっ
た。原告らのほとんどは,教育も受けておらず,法的知識はおろか字の
読み書きができない者も多い。加えて,原告らは,中国において,敵国の
ために働いた者として扱われ,戦争の被害者としての正当な評価を受け
ることができず,原告Aに至っては,文化大革命時に反省文を書くことを
強いられた。このように,原告らの戦後の生活状況,教育程度,法的知
識及び社会情勢等を考えるとき,平成7年ころまでは,原告らが被告らに
対して訴訟を提起し,その被害の回復を求めることは事実上不可能であ
ったというべきである。
また,(3)イ(イ)aのとおり,日中共同声明における中国が日本に対する
戦争賠償の請求を放棄する旨の条項により,中国国民が直接被告国や
被告会社に対して戦争賠償を求めることができるか否かは不明確とな
り,昭和53年に日中平和友好条約が締結されるまで,中国と日本の国
交は断絶していたから,それ以前は,原告らが被告らに対する損害賠償
請求権を行使できない状態であった。中国国民が日本による戦争被害に
ついて損害賠償請求を行うことができることが明確になったのは,銭其?
外相が,平成7年3月9日,中国が日中共同声明で放棄したのは国家間
の賠償であって,個人の賠償請求は含まれない旨の発言を行った時点
である。このような日中関係により,同年ころまで,原告らは,本件訴訟を
提起することができない状態に置かれていた。
さらに,(3)イ(イ)aのとおり,原告らが本件訴訟を提起するためには,中
国と日本に,これを支援し,代理人となって活動する弁護士が必要不可
欠であったのであり,そのような弁護士の活動が日本で具体化したのは
平成11年以降である。
以上のとおり,原告らが戦後置かれていた状況,日中関係に基づく権
利行使の困難性,日本の裁判所に対する本件訴訟提起そのものの困難
性を考えると,原告らが同年以前に本訴を提起することは事実上不可能
であった。原告らは,訴訟提起が可能となるや,できるだけ速やかに本件
訴訟の提起に及んだのであって,原告らが権利の上に眠ってその権利
行使を長期間怠っていたという事実はない。
c 時効による被告ら保護の不適格性
本件強制連行及び強制労働が,被告国及び被告会社を始めとする企
業が,戦時下の日本国内における労働力不足を補うために,中国人労
働者を強制的に国内に移入し,労働を強いるために行ったものであるこ
とは歴史的事実である。本件強制連行においては,暴力や詐言が用いら
れ,軍隊,傀儡政権の警察力,軍隊による武力が行使された。また,本
件強制労働は,人間としての尊厳を否定した待遇下での過酷なものであ
った。したがって,本件強制連行及び強制労働が,当時の日本の法規に
照らしても違法なものであることは明白である。また,被告らは,ポツダム
宣言受諾によって,2(1)エのとおり,本件強制連行及び強制労働に基づ
く保護義務を負ったが,これを履行することなく現在に至っている。このよ
うな被告らに,原告らに対する損害賠償責任があることは明白である。
また,原告らは,本件訴訟において,外務省報告書及び事業場報告書
を書証として提出した。したがって,主張立証が困難な事情は存しないに
もかかわらず,被告らは,原告らの主張にかかる事実に対して認否及び
具体的な主張を一切行わない。
このように,時効制度の存在理由を,真の権利者を保護し,弁済者の
二重弁済を避けるための制度と解したとしても,また,証拠散逸による証
明困難を救済するための制度と解したとしても,被告らの責任は明白で
あり,被告らが損害賠償責任を果たしていないことが明白である本件に
おいては,時効又は除斥期間により被告らを保護する理由は全くないと
いうべきである。
d 時効・除斥期間がもたらす結果の著しい不正義・不公正
2(1)ア(ア)のとおり,本件強制連行及び強制労働は,長期にわたって原
告らの人間としての尊厳を踏みにじり,心身にわたる苦痛と被害を与えた
という悪質極まりない加害行為である。しかも,被告らは,戦後において
も原告らに対して一切の謝罪も補償もせず,本件強制連行及び強制労
働の事実さえ認めようとせず,原告らの感情を著しく傷つけ,苦痛を増大
させている。原告らは,いずれも年老いており,残された人生は短い。こ
のように,本件強制連行及び強制労働は悪質な加害行為であると共に,
原告らの被害は重大で,これを救済する必要性は高い。
被告会社は,原告らに対する賃金を全く支払わずに働かせたことによ
り,また,被告国も,中国の労働力を不当に奪い,本件強制労働に及ん
だことにより,不当な利益を得ている。特に,被告会社は,中国人労働者
に賃金及び休業手当を支払い,食事を支給していたことを前提に,本件
強制労働の実施による損失補償として,戦時中から敗戦直後にかけて,
合計774万5206円を受け取っている。このように,被告らは,本件強制
連行及び強制労働により,巨大な利得をしている。
これらの事情を考慮すると,時効又は除斥期間により,被告らがその
責任を免れることは,著しく正義,公平に反し,その結果は条理にも反す
るものである。
e 以上のとおり,被告らの主張が,著しく正義,公平に反し,条理にもとるこ
とは明らかであるから,本件において,民法724条は適用されるべきで
はない。
5 日中共同声明及び日中平和友好条約における損害賠償請求権の放棄
(1) 被告会社の主張
国際法においては,国際法上の損害賠償請求権は,原則として国家等の国
際法上の主体間に行われ,個人には国際法主体性が認められない。そして,戦
争行為に基づく損害の賠償請求権は,集団的性質の請求権あるいは集団的請
求権であって,国家間の関係において行われるものである。したがって,一般的
に,賠償その他戦争により生じた請求権の主体は,国際法上の他の行為により
生じた請求権の主体と同様,常に国家であり,国民個人の受けた被害は,国際
法的には国家の被害であるというべきである。
そして,被告国と中国は,昭和47年9月29日,日中共同声明に調印し,昭和
53年8月12日,日中平和友好条約に調印した。日中共同声明の第5には,「中
華人民共和国政府は,日中両国国民の友好のために,日本国に対する戦争賠
償の請求を放棄することを宣言する」とあり,この定めは日中平和友好条約の前
文において,厳格に遵守されるべきことが確認されている。
以上のとおり,原告らの損害は,中国の被害として国際法上取り扱われるべ
きものであるところ,かかる被害に関する損害賠償請求権の問題は,既に日中
共同声明及び日中平和友好条約により解決されているものであるから,原告ら
の請求は理由がない。
(2) 原告らの主張
原告らは,本訴において,国際法上の賠償請求権を主張しているものではな
い。また,我が国の政府は,「平和条約,日ソ共同宣言等に定められたいわゆる
請求権放棄の条項により,我が国は,外交保護権の放棄を約束させられたにす
ぎず,これによって,直接国民の権利,利益を処分したものでない」との立場を一
貫して取ってきている。この理は,原告らに対しても当てはまるのであって,日中
共同声明において放棄されたのは国家間の請求権のみであり,原告らの損害
賠償請求権は放棄されていない。したがって,被告会社の主張は理由がない。
第5 認定事実
前記第3前提となる事実及び証拠(甲1,2の1及び2,3ないし26,33の1ない
し6,34の1及び2,35ないし50,61ないし75,78,79,80の1及び2,81の1
及び2,83の1及び2,84の1及び2,85ないし88,89の1及び2,90ないし11
9,乙イ1ないし3,証人Q,同R,同P,原告A本人,同K本人)並びに弁論の全趣
旨によれば,以下の事実が認められる。
1 中国人労働者移入政策の実際
(1) 移入事情
ア 供出方法
中国人労働者は,昭和18年4月から昭和20年5月までの間に,試験移入
及び本格移入を併せて,華北地域から3万5778人,華中地域から2137
人,満州から1020人,合計3万8935人が日本国内に移入された。そのう
ち,圧倒的多数を占める華北出身者は,昭和19年次官会議決定に従い,華
北政務委員会指導の下,華北労工協会によって供出された。
中国人労働者の供出方法には,行政供出,訓練生供出,自由募集及び特
別供出の4方法があった。行政供出とは,中国側行政機関の供出命令に基づ
く募集で,各省,道,県,郷村へと,上級庁から下部機構に対し供出員数を割
り当て,責任数の供出を行わせるものである。訓練生供出とは,日本現地軍
が作戦により得た俘虜,帰順兵で,一般良民として釈放しても差し支えないと
認められた者,及び中国側地方法院において微罪者を釈放した者を,華北労
工協会において下渡しを受け,同協会の有する各地の労工訓練所において,
一定期間(約3か月),渡日に必要な訓練をした者を供出することである。ま
た,自由募集とは,主要労工資源地において,条件を示して,希望者を募るも
のであり,特別供出とは,現地において,特殊労務に必要な訓練と経験を有
する特定機関の在籍労務者を供出するものである。(甲1,35)
日本に移入された中国人労働者3万8935人のうち,行政供出による者は
2万4050人,訓練生供出による者は1万0667人で,これを合計すると,全
体の90パーセント近くになる人数であった。
イ 行政供出の実態
華北政務委員会は,中華民国臨時政府の管轄下に昭和15年に設置され
た,軍事と経済において広範囲の権限を付与された政府機関である。華北労
工協会は,昭和16年7月,華北政務委員会の下で,華北における労働者の
募集,供給等の労務の一元的統制を行うために設立された政府機関である。
昭和19年に入ると,八路軍は連合国の対日反攻にも助けられ,華北で抗
日根拠区の拡大に成功し,広大な農村地区を奪還した。華北労工協会は,従
来,地区別割当て方式による労働者の徴収を行っていたが,次第に行き詰ま
りを迎え始めた。そこで,華北労工協会は,同年1月,特定の地域で重点的に
割当て連行を行うこととしたが,同年に供給した労働者の数は,計画数85万
人に対し,44万2000人にとどまった。
日本政府は,同年8月,華北において労務者強制供出体制を採ったため,
これを受けた華北政務委員会は,傘下の各省,市,道,県に「重要労働力緊
急動員」の密令を発し,昭和19年8月から昭和20年3月までを緊急動員期間
とした。この期間に,華北政務委員会及び各省,市,道,県の行政長官は,自
ら率先して労務動員総部を組織し,その責任において労働者強制徴収計画を
立て,華北労工協会及び日本軍政当局がこれに協力し,あるいは武力でこれ
を支援した。行政供出といわれるものの実態は,このような強制徴収であっ
た。(甲37ー80頁,甲39ー543頁以下)
ウ 中国人労働者の素質等
中国人労働者の素質については,昭和19年次官会議決定の第一の二に
おいて,概ね40歳以下の男子で,素質優良,心身健全である者を選抜するこ
ととし,なるべく30歳以下の独身男性を優先的に選抜するよう努力する旨定
められている。
しかし,実際には,中国人労働者の年齢は11歳から最高は78歳に及び,
年齢構成の比率としては,20歳から29歳までが最も多く1万7044名(43.
78パーセント)であり,15歳以下が157名(0.4パーセント),70歳以上が1
2名(0.03パーセント)であった。
中国人労働者の健康状態については,特別供出及び自由募集による者
は,健康も概ね良好であったが,行政供出及び訓練生供出によるものは健康
が極めて悪く,多くの疾患を有し,衰弱が甚だしく,本邦上陸時もかろうじて歩
行できる程度の者が多数見受けられる状態であり,これが死亡率の高さ,作
業率の低さの有力な原因となった。華北労工協会からの行政供出による者に
関しては,その供出方法及び華北労工協会の不適切な処遇により,年齢,健
康,能力等いずれの点からも労働に不適であり,死亡率も高く,作業能率も低
かった。
中国人労働者の職業は,圧倒的に農業が多く,次いで商業が多かったが,
無職者も相当数あった。また,学歴についても,文盲の者から専門学校又は
大学を卒業した者,医師の資格を有している者など様々であった。
エ 訓練
中国人労働者の訓練について,昭和19年次官会議決定は,「第一 通則」
の三において,「中国人労働者の移入に先立って可成り一定期間(1か月以
内)現地の適当な機関において必要なる訓練をなすこと」と定めており,それ
に基づき,前記の手続で供出された中国人労働者は,中国国内の済南,石
門,青島,邯鄲,塘沽等の訓練地で訓練を受け,日本へ渡航することとなっ
た。本件においては,後述のとおり,原告らは,日本に渡航する前に,天津の
塘沽に集合させられ,木造家屋又は冷蔵倉庫に数百名の規模で収容された。
オ 輸送
中国人労働者の日本への輸送については,昭和19年次官会議決定にお
いて,「日満支関係に於て之が手配を為すこと」とされていた。また,「華人労
務者内地移入手続」の「第三 輸送」においては,就業地の国民職業指導所
長は,所轄警察署の発行する渡支身分証明書の裏面に引率者であることを
記入証明すること,中国人労働者の引継,輸送は,すべて隊編成によること,
中国人労働者の引継,輸送は,予め下船地及び乗船地を管轄する各警察
署,関係機関と事前に十分な打合せと連絡を行い,引率,輸送上遺憾のない
ようにすべきことが定められていた。
しかし,当時,船舶事情が逼迫していた上,航海が危険であった事情の下
において,石炭,塩等多量の原料の輸入の要請も充足しつつ,中国人労働者
を輸送することについては多くの問題があった。すなわち,船待ちの予定がつ
かず急遽乗船し,食糧その他の準備が不十分であること,また,これと反対
に,予定以上に船待ちをして,備蓄食糧の不足を訴えること,航海日数の予
定がつかず,集団輸送169件のうち未詳のもの26件を除いて86件は問題な
く4日から9日で到着したが,他の48件は10日から19日を要し,甚だしいも
のでは20日以上のものが6件,30日以上のものが3件あり,最高39日を要
したものがあった。また,飲料水,食糧等が欠乏することが度々あり,食糧,特
に白麺に砂のような不純物が混入することもあったこと,船は概ね貨物船であ
り,最初は医師を付き添わせたが,その後は諸般の事情によりその付添いも
なく,かつ,長期間,船倉内の石炭,塩,鉱石等の上に寝起きしなければなら
なかったこと,上陸後直ちに,長時間の汽車による輸送を受けたこと等の事情
があった。
このような事情により,3万8935人の乗船人数に対し,船中において546
人,事業場到着前において248人の死亡者が出た。
(2) 配置事情
ア 中国人労働者の配置に関しては,前述のとおり,昭和17年閣議決定の「第
二 要領」の一において,国民動員計画産業中,鉱業,荷役業,国防土木建
築業及びその他工場雑役に使用すべき根本方針を定め,試験移入として差し
当たって重要な鉱山,荷役及び工場雑役,殊に荷役業及び炭坑に使用すべ
きこととし,さらに,本格移入については,昭和19年次官会議決定の「第一 
通則」の四において方針を明らかにし,これを国民動員計画産業中,鉱山業,
荷役業,国防土木建築業及び重要工業,その他特に必要と認めるものに従
事させることとした。
上記の方針に基づき,昭和18年4月から試験移入を行って以来,3万894
5人の中国人労働者が,35事業者,135事業場に配置された。
これを産業別業者,事業場及び移入業者別に見ると,次のとおりである。
 業者数      事業場数      移入数
鉱  山  業15        47   16,368
土木建築業 15   6315,253
造  船  業4 41,215
港湾荷役業 1 216,099
合     計35 13538,935
このうち,被告会社は,10の事業場において,5517名の中国人労
働者を移入した。
また,これを事業目的別事業場数及び配置数で見ると,戦時における要請
を反映し,炭坑関係の42事業場1万7433人が最も多く,次いで,港湾荷役
の25事業場8073人,発電所建設の13事業場6076人という状況であっ
た。
さらに,これを地域別に見ると,北海道の58事業場1万9631人が最も多
く,中部地方の25事業場1万0188人,九州の23事業場9126人がこれに
次いでいる。これは,北海道及び九州における石炭採掘並びに中部山岳地方
における発電所,地下工場等の緊急不可欠の作業に従事させたためである。
イ 中国人労働者を使用する事業場の決定については,昭和19年次官会議決
定において,「華人労務者の使用を認むる工場事業場は華人労務者の相当
数を集団的に就労せしむることを条件とし関係庁と協議の上厚生省これを選
定すること。移入に関する細目手続は別に定る所によること。」とされ,その移
入手続の細目については,「華人労務者内地移入手続」において,次のように
定められた。
まず,「第一 通則」の一においては,中国人労働者の移入雇傭を認める事
業は国民動員実施計画産業中,緊要度が特に高い鉱業(石炭山及び金属
山),国防土木建築業,重要工業(鉄鋼,造船,軽金属,化学工業関係),港
湾及び陸軍荷役等とされ,これらの事業であっても労務管理が適当ではない
もの又は関係官庁の指示に従わないものについては,中国人労働者の移入
雇傭を認めないこととされた。
次いで,「第二 移入雇傭申請の処理」においては,庁府県が,厚生省から
中国人労働者の事業主別雇傭員数の割当予定通報を受けたときは,事業主
をして,「華人労務者移入雇傭願」(華人労務者斡旋申請書)正副二通を所轄
庁府県経由で提出させること,厚生省の割当てがないものの,「第一 通則」
に掲げる事業の事業主であって中国人労働者の移入雇傭を希望する者があ
る場合は,厚生省に稟議すること,厚生省がこれらの規定により割当てを決定
した場合は,「華人労務者斡旋申請書」添付の上,その旨を大東亜省に通報
すると共に,事業場別割当表を内務省あてに送付すること,大東亜省が前記
の通報を受けた際は,その中国人労働者の引継輸送年月日等を決定し,厚
生省に対しその都度これを通報すること,厚生省が同通報を受けた際は,関
係庁府県を通じ,これを事業主に通報し,中国人労働者の引継ぎ,輸送,到
着後の措置につき,遺憾のないように準備させると共に引率責任者を選定の
上,大東亜省あてに通報することとされた。
このように,事業主が「華人労務者移入雇傭願」を厚生省に提出し,厚生省
が中国人労働者の「割当」を決定することにより,中国人労働者の意思にかか
わらず,事業主との間に労使関係が生じることとされていた。
ところで,昭和19年次官会議決定は,「第一 通則」の五において,「華人
労務者の契約期間は原則として二年(ただし往復途中の日数を含まず)とし同
一人を継続使用する場合に於ては二年経過後適当の時期に於て希望に依り
一時帰国せしむること」と定めている。しかしながら,中国人労働者と事業者と
の間において,雇用契約あるいはこれに類する契約が締結されたことはなか
った。
(3) 就労事情
事業場における中国人労働者の配置期間は,平均13.3か月,最長28.4
か月,最短1.3か月であった。港湾荷役及び土建業においては,事業場を移動
した中国人労働者が多かったが,鉱山等においてはほとんど移動をせず,送還
に至るまで同一の事業場に定着就労していた者が大部分であった。したがって,
中国人労働者の実労可能日数は,終戦後の稼働停止,移入時の休養,中途移
動等の関係を考慮すると,平均9か月であり,さらに実労日数は平均7か月と推
算され,実労人員は,受入れ人員の7割5分程度と推定された。すなわち,作業
率についてみると,稼働人員から見る作業率は75.1パーセント,稼働日数から
見る作業率は78.0パーセント,両者の総合作業率は59.7パーセントという低
率を示していた。その原因は,熟練者,経験者が少ない上,労働者としての素質
及び健康状態が不良の者が相当数を占めていたためであると考えられる。そう
であるとはいえ,中国人労働者は勤勉実直な働きぶりであった。
作業内容については,これを港湾荷役,採炭採鉱,各種運搬,坑道掘進,造
船,切土盛土整地,骨材採取,除雪,機械選鉱,農耕,雑役等に大別することが
できる。中国人労働者が従事した作業は,大部分が物の運搬,押作業等,特別
の経験を要しない筋肉労働であった。
(4) 処遇及び紛争事情
ア 昭和19年次官会議決定は,中国人労働者の使用に当たっては,中国人の
民族性を考慮しその慣習に急激な変化を来さないようにすること,雇用主には
十分な同情と理解を持って中国人労働者を使用させるように留意させることを
その根本方針とした。
具体的には,「第一 通則」の三,「第二 使用条件」,「第四 其他」におい
て,管理における留意点として,まず事業場到着の後,十分な休息を取らせ,
必要な指導訓練を与え,できるだけ供出時の編成を利用し,作業に関する命
令は日系指導員及び華系責任者(隊長又は把頭)を通じてこれを発し,直接
命令をしないこと,そのため,事業場は現地から同行した日系指導員を中国
人労働者の直接の責任者として連絡世話に当たらせることとした。また,中国
人労働者の防諜,逃走の防止については特段の配慮を加え,特に朝鮮人労
働者や俘虜とは,事業場や住居を区別する方針を採った。
また,生活環境に関しては,「第二 使用条件」において,住宅は湿気予防
に留意すること,食事はなるべく中国人労働者の通常食を給するものとし,食
糧の手当については農商省において特別の措置を講ずること,慰安所及び娯
楽施設については工場事業場において適当な施策を講ずることとした。
さらに,労働条件に関しては,「第二 使用条件」の三において,中国人労
働者の賃金は日本国内における賃金を標準とするが,日本国内と中国現地
の賃金及び物価の間に甚だしい相違がある実情を考慮し,中国に残留してい
る中国人労働者の家族に対する送金及び持参金を確保するため,必要な措
置を講ずること,賃金,手当その他の給与の具体的細目及びこの支払方法,
防疫,保険,衛生,保護救済等については別に定めること,就労時間は日本
国内の例によること,四大節,旧正月三日並びに端午節,仲秋節各1日は,
必ず公休日の取扱いとすることとした。
これを受け,「昭和19年度華人労務者給与規定要綱」(昭和20年2月5日
次官会議報告)においては,郷里への送金及び持帰金を考慮し,食事の給与
のほか,就業1日につき平均5円とし,事業主としては,上記基準に従い,能
率に応じて日本における賃金統制の基準により支給し,上記の額が5円に満
たないときは不足額は国庫において負担することとした。
イ 日本政府は,かかる決定をし,中国人労働者の処遇について意を用いたが,
気候風土その他生活環境の変化は,移入当時相当衰弱していた中国人労働
者の健康に相当の影響を与えた。また,戦時下の食糧その他諸物資の不足
等が与えた影響も看過し難く,その他異民族労務者取扱いに対する不慣れ等
の事情,末端における指導の行き過ぎ,虐待,不正な取扱い等もあった。
指導取締りの面においては,思想容疑事件及び逃亡事故が続発した状況
から,その取締り指導は強化され,その取扱いに対する中国人労働者の反感
は相当強いものがあった。また,戦時における間諜,反日陰謀,逃走等の行
為取締りの必要性にかんがみ,警察当局の取締りは相当峻厳に行われた。
食糧に関しては,戦時中の重筋労働者に対する支給量を超えることはなく,
2500キロカロリーを超えることはなかったため,空腹に耐えかねて逃亡する
者も相当数あった。食用油,獣肉の支給も中国人の通常食から見れば十分に
は行き渡らなかった。その他,冬季におけるビタミン類の欠乏や食糧の質が良
くなかったことも加わって,中国人労働者の疾病や死亡の原因ともなった。
衣料の支給も十分といえるものではなく,布団や地下足袋の支給が遅れた
ことにより,凍傷等にかかる者もあった。
宿舎は,中国人労働者のために宿舎を特設したものが多く,135事業場の
うち67を占め,改造や転用等をしたものもあった。居室は1人当たり平均0.6
3坪であり,畳敷きのものが45パーセント,アンペラ敷きのものが27パーセン
ト,その他ござ敷き,板敷きのものがあった。逃走防止のため,通風採光は十
分とはいえず,一般に設備は十分とはいえなかったが,不良というほどでもな
かった。しかし,中には,中国人労働者の受入れまでに準備が整わず,そのた
め疾病,病死を誘発したと認められるものが若干あった。
医療衛生に関しては,戦時下で医師,薬品その他衛生材料の不足の状況
があったが,大きな問題はなかった。殊に,炭鉱等施設資材のあるところは健
康診断,防疫医療等に関して,行き届いたものが少なからず存在した。他方,
医療に対する事業場側の措置には問題があり,死亡数に比して受診数が極
めて少ない事業場もあった。
労働時間については,1日当たり平均9ないし10時間の事業場もあった
が,実労時間は概ね7時間以内であった。
(5) 死亡事情
死亡した中国人労働者の総数は6830人であり,これは移入中国人労働者
総数3万8935人の17.5パーセントを占める。場所別に見ると,移入途次の死
亡は812名,事業場内死亡は5999人,集団送還後死亡は19人であった。ま
た,これを事業場別に見ると,総死亡率30パーセント以上を示すものは,52.0
パーセントを最高として14事業場に及び,これを移入集団別に見ると,30パー
セント以上を示すものは65.0パーセントを筆頭として18集団に達した。
受傷し又は病気に罹患した中国人労働者の総数は467名であった。特異な
現象として,失明が圧倒的に多く,217名を数え,46.4パーセントを占めてい
た。次いで,16.9パーセントに当たる79名に視力障害が生じていた。さらに,
肢指欠損又はその機能障害は合計162名を数え,34.6パーセントに及んだ。
肢指欠損又はその機能障害の程度は,全く労働能力を失った者は135名で3
2.7パーセント,過激な労働に耐えられない者は9名で17パーセント,労働に支
障ある程度の者は305名で65.6パーセントであった。
外務省報告書は,死亡原因及び疾病原因について,以下のとおり記載してい
る。総死亡者数6830人のうち,疾病死は6434人(94.2パーセント),傷害死
は322人(4.7パーセント),その他自殺者が41人及び他殺者が33人である。
疾病死中,船中において死亡し,病名不詳の者は583人,一般疾病による者は
3889人,伝染病又は伝染性疾患による者は1962人である。これを病種別に
見ると,一般疾病においてはほとんど呼吸器病及び消化器病であって,前者は
1271人,後者は1180人である。呼吸器病は肺炎が圧倒的に多数を占め,97
6人に上り,気管支炎は187人でこれに次ぎ,消化器病は胃炎及び腸炎が954
名である。伝染病又は伝染性疾患は大腸カタルが最も多く662人,肺結核が36
0人,赤痢,敗血症,肺浸潤及び肋膜炎がこれに次いで多い。傷害死のうち,公
傷死は267人,私傷死は55人である。公傷者のほとんど全部は,炭坑及び発
電所の建設作業に従事していた者であり,原因は落盤落石,側壁崩壊によるも
のが最も多く71名を占め,車両によるものが30名であり,これに次いでガス爆
発は20名である。私傷死55名中35名は戦災死であって,渡船転覆の事故に
よるものは10人である。なお,他殺の33人はほとんど全部が中国人労働者同
士の殺戮行為に基づくものである。次に,疾病原因としては,公傷が186人(40
パーセント),私傷が133人(28.4パーセント),疾病が147人(31.6パーセン
ト)である。
(6) 中国人労働者の配置,就労及び処遇等に関する報告経路
「華人労務者内地移入手続」は,「第四 到着後の措置」において,中国人労
働者が日本に到着した後の手続として,次のように定めている。
まず,事業主は,中国人労働者が就業地に到着したときは,地方長官に労働
許可証の申請手続をすると共に,国民職業指導所に移入労務者名簿(出身地,
氏名,年齢)を提出し,輸送途中の概況を報告し,同報告を受けた国民職業指導
所は,到着した中国人労働者数,その到着年月日等を庁府県に報告し,庁府県
はこれを厚生省に報告することとされた。
また,事業主は,中国人労働者の移動,災害,紛擾その他事件が発生したと
きは,警察署,国民職業指導所に報告し,庁府県は,警察署,国民職業指導所
の報告を取りまとめて,厚生省,内務省,大東亜省に報告することとされた。
さらに,事業主は,毎月現在の中国人労働者の勤労状況を庁府県に翌月末
日までに報告し,庁府県は,これを業種別に取りまとめて,集計の上,翌月10日
までに厚生省,大東亜省に報告すること,事業主は,中国人労働者を帰国させ
るときは,名簿,下船地,予定日などを国民職業指導所,警察署を経由して庁府
県に報告すると共に,内務省,厚生省,大東亜省に報告するものとされた。
2 三池鉱業所及び田川鉱業所における本件強制連行及び強制労働の実態
(1) 三池鉱業所及び田川鉱業所における強制連行の実態
ア 被告会社全体における強制連行の概要
当時日本における最大の鉱山会社であった被告会社は,北海道及び九州にお
いて炭鉱を経営していた。そのため被告会社が経営する10の事業所において,
合計5517名の中国人が配置され,労働を行った。被告会社の事業所に連行さ
れた中国人の数は,日本港運業会の6099名に次いで第2位であった。
被告会社が経営していた炭鉱への配置状況は,次のとおりであり,三池鉱
業所への配置数2661名は,一事業場のそれとしては日本最多であった。
美唄炭鉱    574名
芦別炭鉱    684名
砂川炭鉱    435名
田川炭鉱    669名
山野炭鉱    651名
三池宮浦炭鉱  754名
三池萬田炭鉱 1907名(うち694名は四山炭鉱へ転出)
三池四山炭鉱  694名
イ 三池鉱業所における本件強制連行の実態
(ア) 三池鉱業所と華北労工協会との契約
三池鉱業所が作成した「華人労務者調査報告書」(甲34の2)によれば,
三池鉱業所は,昭和19年4月25日,華北労工協会と中国人の連行及び
労働に関する契約書を作成している。
これによれば,三池鉱業所は,「昭和19年5月下旬より向こう2年間の期
限で華北労工協会の供出する労工を使用する」ものとされていた(同契約
書1条)。そして,この使用条件は,華北労工協会が昭和19年4月25日に
定めた「華人労務者対日供出実施細目」によるものとされていた。
華北労工協会が昭和19年4月25日に制定している同実施細目の主た
る内容は,次のとおりである。
① 華北労工協会が,労工適格者を選出して目的地へ転送する。
② 労工輸送中の警戒保護は,華北労工協会がこれを定める。
③ 供出,輸送にかかる経費は,三池鉱業所の負担とする。
④ 労工の使用期限は2年とし,原則として坑内作業として採炭又は掘
進に従事させる。
⑤ 賃金は,3か月の訓練期間中は1日2円,訓練期間経過後は1日5
円及び出来高とし,個人払いとする。
⑥ 1日2円の積立金以外の送金は,労工の自由とする。
⑦ 労働条件は,内地人労務者と同一とする。
⑧ 送還は,三池鉱業所が責任者を付けて実施する。
その他の実施細目は,生活必需品,採用規格,到着後の予備訓練,逃
亡者に対する処置などについてである。
(イ) 三池鉱業所及び田川鉱業所への本件強制連行の実態
a 供出機関・供出方法・移入数
三池鉱業所及び田川鉱業所への供出機関,供出方法及び移入数は,
次のとおりである。三池鉱業所及び田川鉱業所への本件強制連行は,
華北労工協会が供出機関として実施し,その方法はすべて行政供出に
よるものであった(甲35-172頁)。
事業場名供出機関供出方法移入数
  田川第二坑華北労工協会行政     372
 田川第三坑華北労工協会行政     297
 三池宮浦華北労工協会行政     754
 三池萬田華北労工協会行政   1,907
 三池四山華北労工協会行政     694
ただし,三池萬田から転入
合計   4,024
     b 移入時期,訓練地,乗船地及び上陸地
本件強制連行の時期,訓練地,乗船地及び上陸地などは,次のとおり
である(甲35-307頁)。これによれば,三池鉱業所及び田川鉱業所へ
強制連行された中国人は,すべて塘沽を出港し,門司に着いており,こ
の間10日前後を要しているが,中には1か月近くを要したものもある。
 また,出港して門司に着くまでの間に,96名もの中国人が船中にて死
亡している。
事業場名訓練地乗船数乗船地出港日上陸地上陸年月日上陸数
田川第
二坑
 石門  134 塘沽S.18.7.3 門司S.18.7.10134
 石門  238 塘沽S.19.6.26 門司S.19.7.6237
田川第
三坑
 保定  179 塘沽S.19.10.18 門司S.19.10.29179
 保定  118 塘沽S.19.11.5 門司S.19.11.19118
三池宮

  231 塘沽S.19.5.17 門司S.19.5.24231
  343 塘沽S.19.10.18 門司S.19.10.29339
三池萬

  412 塘沽S.19.5.10 門司S.19.5.14412
  595 塘沽S.20.1.31 門司S.20.2.9564
  593 塘沽S.20.2.4 門司S.20.3.4539
  307 塘沽S.20.2.26 門司S.20.3.12301
三池四

三池萬
田から
転入
合計数3,1503,054
c 連行された中国人の出身地,職業,年齢
三池鉱業所及び田川鉱業所に連行された中国人労働者の出身地,年
齢,職業などは,次のとおりである(甲35-363頁)。三池鉱業所及び田
川鉱業所へ連行された中国人の出身地は,河北がほとんどで,その平均
年齢は31才くらいであり,家族のあるものが約70パーセントを占め,その
80パーセントが農民であり,残余は軍・警・自衛団出身者であった。また,
13歳から15歳の子供も日本に連行され,労働に従事させられていた。三
井鉱業所及び田川鉱業所の中国人労働者の体格は,概ね重労働に適し
ており,そうでない者は,坑外勤務を行っていたが,8割までは良好な健康
状態であった。出身地は河北省が多く,その大半は農民及び自由労働者
であり,教育程度については,日本語を解し得る者が45パーセント,華文
を解し得る者が60パーセント,英語を解し得る者が1パーセントであった。
(甲34の1の1)
事業場名出身地年齢
(最高,最低,平均)
家族職 業
田川第二坑河北 47, 16, 36独身 161
有  210
農業 276
田川第三坑主として 河

 60, 13, 31独身 60
有  237
農業 215
商業 47
三池宮浦主として 河

 61, 15, 31独身 30%
有  70%
農業 80%
三池萬田河北,河南,
山東
 59, 15, 31独身 30%
有70%
農業 80%
d 原告らに対する本件強制連行の実態
(a) 後述のとおり,原告らは,村役人から日本軍の工事現場等の人夫とな
る勧誘を受けて出かけて行き,途中から軍や警察に拘束されて塘沽ま
で連行され,収容されている者が多かった。また,原告Fと原告Hの2人
は,突然家に押し入ってきた日本兵に銃を突きつけられて,連行され
た。
このように,原告らは,欺罔又は脅迫を受けた上,その身体の自由を
拘束されたのであり,逃亡も反抗もできないままに日本へ連行された。
(b) 次いで,原告らは塘沽まで連行され,そこで一定期間収容された。塘
沽には多数の中国人が連行,収容されており,日本兵が見張り及び管
理をしていた。
原告らは,塘沽で船待ちをさせられている間,わずかな食事しか与え
られず,かなりの数の中国人が体調を壊して,死亡した。また,塘沽ま
で連行される途中に汽車から飛び降りるなどして逃亡を図り,死亡した
者もいた。
また,原告らは,塘沽から門司港まで,貨物船で輸送された。三池鉱
業所及び田川鉱業所へ連行される予定であった中国人労働者のうち9
6名が,船中で死亡した。
(2) 田川鉱業所及び三池鉱業所における強制労働の実態
ア 中国人労働者の構成
本件強制連行の対象となった中国人労働者は,田川鉱業所においては,
第二坑が2次にわたり計371名,第三坑が2次にわたり計297名であり,そ
の合計は668名であった。三池鉱業所においては,宮浦坑が570名,萬田坑
が1802名,四山坑が694名であり,その合計は3066名であった。
次に,年齢構成をみると,前記のとおり,昭和19年次官会議決定の「第一 
通則」の二において,「概ね40歳以下の男子にして素質優良,心身健全なる
者を選抜することとするも成るべく30歳以下の独身男性を優先的に選抜する
よう努力すること」とされていたが,実際には,田川鉱業所第二坑に関しては,
16歳から47歳までの中国人労働者が労働を行っており,その平均年齢は3
6歳である。同鉱業所第三坑に関しては,13歳から60歳までの中国人が労
働を行っており,その平均年齢は31歳であった。三池鉱業所は,13歳から6
1歳までの中国人労働者が労働を行っており,平均年齢は31.7歳であった。
家族構成の内訳は,田川鉱業所においては,単身者が221名,家族を有
する者が447名であり,三池鉱業所においては,単身者が30パーセント,家
族を有する者が70パーセントであった。
イ 中国人労働者に対する処遇及び管理等
田川鉱業所においては,前記昭和19年次官会議決定の「第二 使用条
件」の二(2)の定めのとおり,中国人は,隊組織,班組織編成することとされ,
隊長1名,副隊長1名,班長8名を置くこととし,中国人労働者10名に1名ない
し2名の割合で指導員を付し,作業指導に当たらせていた。そのため,第二坑
では,中国人371名に対して157名の管理者が(重複があるから10名内外
減),第三坑では,中国人297名に対して63名の管理者が,置かれていた。
後述のとおり,原告らのうち田川鉱業所で就労した者は,板塀で囲われた
宿舎の中で生活し,玄関の監視室から見張られ,宿舎から炭鉱の坑口までの
往復にも見張りをつけられた。また,原告らのうちには,労働の期間を当初2
年間と聞かされていたにもかかわらず,2年を経過しても帰国させてもらえな
かったため,事業所でストライキを起こし,警察による弾圧を受けた者もある。
三池鉱業所に関しても,宿舎には約2メートルの板塀があり,宿舎から炭鉱の
坑口までの往復に見張りがつけられた。
ウ 宿舎,食糧,衣類等
(ア) 宿舎等について
後述のとおり,原告らの宿舎は,田川鉱業所の場合,木製の大きな二階
建ての建物であった。二段ベッドが部屋の両側にあったが,毛布と掛布団
が与えられたのみで敷布団はなく,原告らは,板の上に直に寝た。また,三
池鉱業所の場合,宿舎は板張りで,原告らに対して1枚若しくは2枚の寝具
が与えられたにとどまった。
(イ) 食糧について
田川鉱業所の場合,1日3回の食事はあったものの,コーリャンかトウモ
ロコシを原料とした饅頭が毎食に1個若しくは2個配られるのみであり,これ
に具がほとんどない大根のスープがつくだけであり,肉,魚等はなかった。
三池鉱業所の場合も,コーリャンかトウモロコシを原料とした饅頭が1個
若しくは2個配られるのみであり,これに具がほとんどない野菜のスープが
つくだけであった。
原告らは,全員,常時空腹状態であったが,原告らが道端の野草を採っ
て食べたりすると,三池鉱業所では,原告らの食事量を減らすという取扱い
を行うことがあった。
(ウ) 衣料について
原告らは,被告会社から,作業衣,タオル,地下足袋等を1回支給され
た。それ以後は,実費を華北労工協会が負担することとされていたが,華北
労工協会がその実費を負担したことはなく,結局,原告らは,衣類を1回支
給されただけであった。
エ 労働の内容とその実態
後述のとおり,原告らは,よほどの重病でない限り,1日の休日も与えられな
いまま労働に従事させられた。原告らが従事させられた作業の内容及び平均
稼働率は,次のとおりである(甲35-703頁)。なお,被告会社は,原告らの
労働に対し,賃金の支払を行わなかった。
事業場中国人の稼働率就労作業内容
田川第二坑90%~95%採炭,仕繰,坑内外雑役
田川第三坑80%採炭,仕繰,坑内外雑役
三池宮浦80%採炭,仕繰,運搬,機械,電工
三池萬田80%採炭,仕繰,運搬,機械,電工
三池四山 80%採炭,仕繰,運搬,機械,電工
オ 死亡者,傷病者の実態
三池鉱業所では,2371人の中国人労働者のうち382名が死亡しており,
死亡率は16.1パーセントであった。死亡者の受入れから死亡までの平均日
数は,不明の者を除く379名に関しては,50日以内が163名,100日以内
が196名であり,10名については三池鉱業所に到着したその日のうちに死
亡している。死亡原因のうち,呼吸器系の疾患は45%,消化器系の疾患は2
6.2%で,栄養障害が原因と思われる疾患が5.6%含まれている。また,労
災死が65名となっている。
なお,三池鉱業所萬田坑では,炭坑事故により,24名の者が,肢指欠損又
は機能障害を負った。
田川鉱業所では,中国人労働者は1期から4期まで4回に分けて連行さ
れ,合計で762名が労働を強いられた。そのうち27名が死亡しており,その
死亡原因は,12名が呼吸器系の疾患,3名が消化器系の疾患で,6名が循
環器系,6名が事故による骨折であった。
(3) 企業に対する国家補償
ア 国家補償の実態
(ア) 被告会社を始め,中国人労働者の移入を受けた事業主は,戦争末期か
ら戦後にかけて,以下のとおり,本件強制連行及び強制労働によって生じ
た損害の補償を被告国に要求して,被告国から多額の補償金を獲得した
(甲35-705頁。甲44は,日本建設工業会の被告国に対する活動に関す
るもの)。
全 体被告会社
華労移入数38,9355,517
収入見積額53,977,46615,658,519
終戦前の経費125,972,63823,700,406
差引損失額69,995,1728,043,887
終戦後の経費69,673,00412,925,366
損失総額139,668,17620,967,252
政府補償額56,725,4747,745,206
損失純額82,942,70213,222,046
華労1人当り損失2,1302,395
(イ) また,終戦前及び終戦後における経費の内訳は,以下のとおりである(甲
35-705頁)。
終戦前の経費125,972,638円の内訳
移入費     44,447,336円
管理費     26,425,137円
組合費      7,913,519円
賃 金     45,186,606円
終戦後の経費69,995,172円の内訳
休業手当    16,218,072円
管理費     26,001,930円
不当要求その他 16,835,030円
送還費     10,617,972円
被告会社は,以下のとおり,中国人労働者による不当要求,暴行事件な
どによって,合計2240万円の損害を被ったとして(甲35-747頁以下,特
に757頁),被告国から774万円余を受け取っており,その金額は全体の
13.6パーセントを占めている。
事業場名事件名原因要求行動被害備考
田川不当要求損害189万円
山野旅客列車進
行妨害
戦勝解放
感情
列車自由運

損害10万円
三池萬田金品不当要

同上金品被服直接要求暴
行・掠奪
金品損害1814万円
三池四山同上同上同上暴行・拘束金員損害190万円
三池宮浦同上同上同上掠奪・暴行金品損害 35万円
三井日比同上同上同上面会要求金品
被服
損害 2万円
3 戦後,中国人労働者が中国に送還されるに至った経緯
(1) 日本政府は,昭和20年8月15日,ポツダム宣言を受諾し,太平洋戦争は終
結した。日本政府は,同月21日の閣議決定に基づき,戦争遂行のために設置さ
れた大東亜省,軍需省を廃止し,日本国内に居住する外国人に関する事務,満
州,中国及び南方地域における在留邦人,諸施設に関する事務を主管業務とす
る外務省管理局を新たに設置した。敗戦直後において,外務省管理局の最大の
業務の一つは,在外邦人の引揚げと共に,日本国内に連行してきていた中国人
や朝鮮人の本国への送還であった。
(2) 日本政府は,昭和20年8月17日,内務主管防諜委員会幹事会を開き,中国
人労働者全員を帰国させることを基本方針とする「華人労務者の取扱の件」を決
定した。同決定は,中国人労働者に対して差し当たり採るべき措置を次のように
定めている(甲35ー393頁)。
ア 作業続行を中止し,現在地において保護収容すること
イ 中国人労務者に対して,契約による賃金,衣食を給し,可及的に処遇改善を
図ること
ウ 中国人労務者に対する危害,暴行を厳に戒め,傷病者の看護に意を用いる
こと
エ 犯罪容疑をもって留置取調中の者は釈放すること
オ 食糧も,米,油,肉を支給するなど改善に努めること
(3) 日本政府は,昭和20年9月2日,降伏文書に調印した。同文書には,「日本帝
国政府及日本帝国大本営に対して,現に日本国の支配下にある一切の連合国
俘虜を直に釈放すること竝に其の保護,手当,給養及指示せられたる場所への
即時輸送の為の措置を執ることを命ず」との記載があった。
(4) 昭和17年閣議決定は,第二の七において,中国人労働者の契約期間は原則
として2年と定め,同決定を受けて定められた「華人労務者内地移入に関する
件,第三措置に基づく華北労務者内地移入実施要領」は,六の(11)において,契
約期間満了後は,各事業場等において,原則として中国人労動者を集合地まで
送還すること,疾病その他の理由により就労を継続することができない中国人労
働者についても同様に取り扱う旨定めていた。しかしながら,上記の規定に従
い,終戦前に中国へ送還された中国人労働者は1180人にとどまり,その他の
ほとんどの中国人労働者は,終戦後に中国へ送還されるに至った(甲35ー147
頁,234頁)。
戦後においては,中国人労働者は,昭和20年10月ころから,新潟,博多,室
蘭,長崎等の港を出発地として,日本船により1万0924人が,米軍の上陸用船
艇により1万9686人が,集団で中国に送還され,127人が個人で帰国した。三
池鉱業所及び田川鉱業所において本件強制労働に従事した中国人労働者304
0人のうち,中国へ帰還した者は2612人であった(甲35ー307頁)。
4 原告ら各自に関する事情
原告ら各自に関する事情は,別紙「原告ら各自に関する事情」のとおりである。
5 外務省報告書等の作成から公表に至る経緯及びこれに関する日本政府の対応
(1) 外務省管理局は,連合国側からの戦犯追及に備えるために,中国人労働者の
強制連行及び強制労働に関する調査を行い,中国人労働者を就業させた135
の事業所すべてから膨大な資料(華人労務者就労顛末報告書。以下「事業場報
告書」という。)を提出させ,調査員らによる現地調査報告の結果をまとめた現地
調査報告書及び日本政府の関係資料を踏まえた上で,これらを昭和21年夏こ
ろまでに,外務省報告書として取りまとめた。この外務省報告書は,合計30部
作成され,極秘扱いとされていたところ,その後,外務省は,戦犯追及に備える
必要性がなくなったと判断し,外務省報告書及びその基礎資料をすべて焼却す
ることとした。
しかし,外務省報告書の作成に携わった調査員の幾人かは,外務省報告書
及びその基礎資料を葬り去るのは忍びない,将来,世に問うことがあるかもしれ
ないと考え,外務省報告書及び事業場報告書を密かに持ち出し,昭和25年こ
ろ,東京華僑総会にその保管を委託した。以後,東京華僑総会は,外務省報告
書及び事業場報告書を公表することによって,本件強制連行及び強制労働に関
係した者が戦犯として追及されることや,日中間に新たな紛争が生じることを危
惧し,その公表を控えてきた。
NHKの記者は,平成5年ころ,東京華僑総会に外務省報告書等が保管され
ていることを知り,東京華僑総会の名誉会長を訪ね,外務省報告書等を公表す
るよう説得し,その結果,東京華僑総会の同意の下に,外務省報告書及び事業
場報告書の存在とその内容が公表されることになった。NHKは,平成5年5月1
7日放送の「クローズアップ現代」及び同年8月14日放送の「NHKスペシャル」
において,外務省報告書の存在及びその内容について報道を行い,本件強制
連行及び強制労働の実態が公に知られるところとなった。
外務省は,上記報道にかかる外務省報告書を調査検討し,昭和21年に外務
省が作成した公文書であることを国会において認め,さらに,そのコピーを外務
省外交史料館において保管し,国民の閲覧に供するに至った。(甲25)
(2) 被告国は,外務省報告書の存在が明らかになった平成5年までは,本件強制
連行及び強制労働の事実は資料がないため明確ではなく,中国人労働者らの
就労は自由な意思による雇用契約に基づくものであった旨の答弁を国会におい
て繰り返し行い,平成5年に至って外務省報告書の存在を認めると共に,中国人
労働者の日本への移入が半強制的であったことを認めた。その具体的な答弁等
は,次のとおりである。(甲10,14ないし19,22ないし29)
   ア 参議院厚生委員会(昭和29年9月6日)における外務省アジア局長中川融
の答弁
「戦時中に中国から労務者をこちらへ連れて参りました際には,これはやはり
労務者を募集いたしまして,それに応募してきたということになっております。
しかし,その労務者である人は,戦時中に日本軍と戦争いたしまして,日本軍
捕虜となって抑留されておった人が釈放されまして民間人となり,その民間人
を労務者として連れてきたというものが非常に多いようであります。したがっ
て,出身からいえば捕虜ともいえるわけではありますが,内地に参りました場
合には捕虜の身分で来たのではなくて,自由の身柄の人として来たことになっ
ております。」
イ 衆議院外務委員会(昭和33年3月12日)における内閣総理大臣岸信介の
答弁
「戦時中に中国人の労務省を連れて参りまして,これらが今おあげになりまし
たような,あるいは食糧の不足や,過度の労務,また,環境の適切でなかった
ために死なれた方も多数あり,行方不明になった方もあるだろうと思います。
一般に,この戦争中における中国の労務者が,そういう状況において死亡
された人々の遺骨の収集の問題につきましても,実は十分に当時の状況を明
確にしないために,すべてが明確にもなっておりません。」
ウ 参議院予算委員会(昭和33年3月29日)における内閣総理大臣岸信介の
答弁
「17年の東条内閣当時において,華人の労務者を日本に連れてきて何すると
いうことについて閣議決定があったではないかというご指摘でございます。こ
れは私正確な記憶ではございませんが,当時,日本の労務者が足りなかった
ので,華人労務者を連れてくる。しかし,これはすべて契約によって,当の本
人が受諾してくる,任意の者を連れてくるという建前であったと,明瞭にそうい
うふうに記憶しております。」
エ 衆議院外務委員会(昭和33年4月9日)における内閣総理大臣岸信介,内
閣官房長官愛知揆一及び外務政務次官松本瀧蔵の答弁
(本件強制連行について)
「政府として当時の事情を明らかにするような資料がございませんし,それを
確かめる方法が実は現在としてはないのであります。あの閣議決定の趣旨
は,そういう本人の意思に反してこれを強制連行するという趣旨ではないこと
は明らかでありますが,しかし,事実問題として,強制して連れてきたのか,あ
るいは本人が承諾して来たのか,これを確かめるすべがございませんので,
政府として責任をもってどうだということを,今の時代になって明らかにするこ
とは到底できないと思います。」(岸)
「資料が政府側にございませんので・・・事実がどうも明瞭でございませんとい
うことを申し上げるほかはないと思います。」(岸)
(外務省報告書の存在について)
「私,実ははっきりその事実を知りませんから・・・。」(岸)
「そういったものがあるということを承わったことはございますが,外務省には
そういう書類は今残っておりません。」(松本)
「現在それはございません。ないことだけは確かであります。」(松本)
「閣議の決定において,華人労務者の移入を取り決めた当時の事情というも
のは,閣議の決定としては,これはあくまで契約労務者の移入であったわけで
あります。その後の実情がどうであったかというようなことについては,私は申
し上げかねると思います。」(愛知)
オ 衆議院外務委員会(昭和33年7月3日)における外務事務官(アジア局長)
板垣修の答弁
(外務省報告書の存在について)
「判明いたしたところによりますと,一度外務省には,詳細に個人名を並べた
収容所調査簿があったわけでありますが,それが終戦直後焼失いたしまし
て,現在その詳細なものがないことは確実でございます。
原本は,遺憾ながら外務省のどこを探してもないということは確実でございま
す。」
(本件強制労働について)
「これはもともと雇用契約で入ったものでありますから,戦時中,就労中はもち
ろん賃金が払われておったものと思います。」
カ 衆議院日米安全保障条約等特別委員会(昭和35年5月3日)における外務
事務官(アジア局長)伊関祐二郎の答弁
(外務省報告書について)
「昭和21年3月に,外務省管理局においてそういう調書の作成をいたしたそう
でございますが,そういう調書がございますと,戦犯問題の資料に使われて,
非常に多数の人に迷惑をかけるのではないかということで,全部焼失いたした
そうでありまして,現在外務省としては,そうした資料を一部も持っておらない
次第でございます。」
キ 内閣総理大臣岸信介の衆議院議長あて昭和35年5月6日付け中国人強制
連行殉難者に関する答弁書
「戦時中我が国に渡来した中国人労務者が,国際法上捕虜に該当する者であ
ったか否かについては,当時の詳細な事情が必ずしも判明していないので,
いずれとも断定し得ない。」
ク 参議院厚生委員会(平成5年5月11日)における外務省アジア局地域政策
課長小島誠二の答弁
(本件強制連行について)
「昭和17年11月の閣議決定でございますけれども,その趣旨は,当時の国
内の労働力不足を背景に,中国人労働者の移入を目的として行われたものと
承知しております。これによりますれば,中国人労働者の移入は,契約に基づ
き行われることになっているわけでございます。しかしながら,当時の詳しい事
情については明らかではございません。」
(外務省報告書について)
「そういう調書を外務省が作成したということは聞き及んでおるわけでございま
すが,何分にも,同調書が現存していないということでございまして,確定的な
ことは申し上げられないということでございます。」
(事業場報告書について)
「今ご指摘のてん末書につきましても,私どもとしては,その内容等についてつ
まびらかにしないという状況でございます。」
ケ 衆議院予算委員会(平成5年5月21日)における外務省アジア局長池田維
の答弁
(外務省報告書について)
「従来,その資料はないということでございました。最近になりまして,政府以
外のところでそのような資料が存在するという話が出ております。
私どもとしましては,その資料をできるだけ早く見させていただいて,それが
真のものかどうかということを判断したいと考えているわけでございます。」
コ 参議院予算委員会(平成5年6月7日)における外務省アジア局長池田維の
答弁
(外務省報告書について)
「本件資料が外務省のものであるかどうか,直ちにお答えすることは困難では
ございますけれども,誠意をもって現在調査しております。
当時外務省がこのような調査を行ったということは事実でございまして,そう
いう意味からいいまして,かなり蓋然性の高いものだというように思っておりま
す。」
サ 参議院外務委員会(平成6年6月22日)における外務大臣柿澤弘治,外務
省アジア局長川島裕の答弁
(外務省報告書について)
「何分にも原本が外務省に見つからないものでございますから,聞き取り調査
等いろいろ調査を進めまして,一連の調査をやりました結果,本件報告書が,
当時外務省が作成したものであることは間違いない事実であると思われる次
第でございます。」(川島)
(本件強制連行について)
「こうした記述に基づきますと,やはり半強制的であったという事実は否定でき
ないものと思っております。
たとえ戦時下という異常な状況の中とはいえ,当時多くの中国人の方々が
半強制的な形で我が国に参りまして,厳しい労務に就かされたと,その中で多
くの苦難をお与えしたということはまことに遺憾なことであったと思います。」
(柿澤)
 6 日本と中国の外交関係及び中国国内の対日戦争損害賠償に関する議論等
(1)ア 日本政府は,昭和26年9月8日,戦争状態を終了させ,我が国の主権を完
全に回復すると共に,領域,政治,経済並びに請求権及び財産などの問題を
最終的に解決するため,連合国との間でサンフランシスコ平和条約を締結し
た。同条約14条(b)は,「この条約に別段の定がある場合を除き,連合国は,
連合国のすべての賠償請求権,戦争の遂行中に日本国及びその国民がとっ
た行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事
費に関する連合国の請求権を放棄する。」と規定している。しかし,中国は,同
条約の締約国とはならなかった。
サンフランシスコ平和条約締結に際して開催されたサンフランシスコ会議に
関し,中国の周恩来首相兼外相は,「中華人民共和国中央人民政府は,日本
が平和経済を健全に発展させ,また,中日両国間の正常な貿易関係を回復,
発展させ,日本人民の生活が2度と戦争の脅威や損害を受けず,本当に改善
されることのできる可能性があることを証明されることを望むものである。同時
に,かつて日本に占領され,甚大な損害をこうむったことがあり,しかも自力で
回復することの困難な国々は,賠償を要求する権利を保有すべきものであ
る。」と述べた。また,中国政府は,外交部スポークスマンを通じて,「日本軍
国主義者が,中国侵略戦争の期間中に,一千万人以上の中国国民を殺戮
し,中国の公私の財産に数百億米ドルに上る損害を与え,また,何千何万も
の中国人を捕らえて日本に連れて行き,奴隷のようにこき使ったり,殺害した
りした。日本政府は,中国人民がその受けた大きな損害について,賠償を要
求する権利を持っていることを理解すべきである。」と表明した。
イ 日本政府と中国は,昭和47年9月29日,日中間の戦争状態を終結させるた
め,日中共同声明を行った。同声明の第5においては,「中華人民共和国政
府は,日中両国国民の友好のために,日本国に対する損害賠償の請求を放
棄することを宣言する。」とされた。さらに,日本政府と中国は,昭和53年10
月23日,日中平和友好条約に調印した。日中共同声明以来,日中間では,
貿易,海運,航空,漁業等様々な実務協定が締結されていたが,本格的かつ
正常な国家関係の安定的な基礎が築かれたのは,上記条約の締結によって
であった。同条約の前文においては,日中共同声明の第5の上記宣言が「厳
格に遵守されるべきことを確認」するとされた。
(2) 中国国内では,昭和62年ころから,対日民間賠償請求問題の研究が開始さ
れた。また,民間においては,山東省,江蘇省及び浙江省の住民らが,昭和63
年,日本大使館を通じ,賠償請求書簡を日本政府あてに送付し,いわゆる花岡
事件の生存者4名が鹿島建設株式会社に対する公開状を発表するなどした。
平成3年3月には,第7期全国人民代表会議第4回会議が開催された。科学
工業部幹部管理学院法学部教員童増は,同月28日,大会信訪局(民衆からの
陳情,投書を受け付ける部局)を訪れ,「1931年から1945年にかけて,日本
の侵略者が中国に対して与えた損害に基づく賠償は,約3000億米ドルである。
その内訳は,戦争賠償が約1200億米ドル,被害に基づく賠償が約1800億米
ドルである。1972年に中国政府は,日本人民の負担を軽減する趣旨から,日
本に対する戦争賠償請求を放棄した。しかし,日本の侵略者が侵華戦争の過程
において戦争規則及び人道上の原則に違反して中国人民及びその財産に対し
て犯した重大な罪業に関する賠償要求,つまり1800億米ドルの被害に係わる
要求に関しては,中国政府はいかなる状況においても放棄するとは宣言してい
ない。」との意見書を提出した。同意見書は,同会議に参加した20の代表団のう
ち,8の代表団の支持を得た。
平成4年3月に開催された第7期全国人民代表会議第5回会議では,日本に
対して民間賠償を請求する議案が提起され,法定の支持者数を確保し,第7号
議案として上程された。また,上記会議とほぼ同時期に開催された全国人民政
治協商会議においても,「民間人および民間団体が日本国政府に対して戦争損
害賠償を要求することを許可することに関して」と題する提案が行われた。
(3) 当時の江沢民国家主席は,平成4年4月1日,日本人記者団との会見におい
て,「日本軍国主義が発動した侵華戦争は,中国人民に巨大な損害を引き起こ
した。戦争が残したいくつかの問題に関して,我々は,従来から事実に基づいて
真実を求める,厳粛に対処するという原則を主張し,相互に協議してこれらの問
題について条理にかなう形で妥当に解決すべきだと主張してきた。このようにす
ることが,両国の友好協力,共同発展及び両国人民の友好増進に有利である。
戦争賠償問題に関しては,中国政府は,既に1972年に発表した中日共同声明
の中で自らの立場を明らかに述べており,この立場は変わらない。」旨発言し
た。
当時の銭其?副首相兼外相は,平成7年3月9日,全国人民代表大会の開催
期間中,各省別の討議において,1972年の日中共同声明で放棄したのは国家
間の賠償であって,個人の賠償請求は含まれず,補償の請求は国民の権利で
あり,政府は干渉すべきでないとの見解を示した。(甲111)
第6 争点に対する判断
1 被告らの本件強制連行及び強制労働による共同不法行為(責任①)に基づく損害
賠償責任の有無について
(1) 前記のとおり,日本政府は,石炭連合会を含む日本の産業界からの強い要請
を受け,重筋労働部門の労働力不足に対応するため,これらの産業界と協議し
て,昭和17年閣議決定により,国策として中国人労働者の日本国内への移入を
決定し,これを実行に移したこと,中国人労働者を日本国内に移入するに当たっ
ては,行政供出その他3つの供出方法を採用し,昭和19年次官会議決定によっ
て,中国人労働者の素質,一定期間の訓練,日本への輸送の方法,契約期間,
日本での使用条件,管理体制等を定め,さらに,華人労務者内地移入手続にお
ける中国人労働者の取扱いの細則を定める措置を採ったこと,以上のような移
入に関する手続が定められていたにもかかわらず,行政供出等の実態は,前記
のとおり,欺罔又は脅迫により,原告らを含む中国人労働者の意思に反して強
制的に連行したものであったことが認められる。
また,中国人労働者の日本国内での就労状況についても,昭和19年次官会
議決定において使用条件が定められるなど,雇傭契約の存在を前提とする情況
があったことをうかがわせる事情があるものの,その実態は,原告ら中国人労働
者の意思にかかわらず,当該事業主との間に一方的に労使関係を生じさせるも
のであったこと,被告会社における原告らの本件強制労働の実態は,戦時下に
おいて日本全体が食糧不足に陥り,一般の日本人の労働条件も悪化していた
事情にあったことを考慮しても,居住及び食糧事情,被告会社の従業員による暴
力等の点に照らして,劣悪かつ過酷なものであったといわざるを得ない。
(2) 被告会社の責任について
  以上のような事情を考慮すると,本件強制連行及び強制労働は,被告らが共同
して計画しかつ実行したものであり,被告会社は,原告らに対して民法709条及
び715条の不法行為責任を負うというべきである。
(3) 被告国の責任について
ア しかしながら,被告国については,前記のとおり,被告国による原告らに対す
る本件強制連行及び強制労働の事実が認められるとはいえ,そのことから直
ちに,当時の法体系の下において,被告国に,民法709条,715条及び719
条に基づく不法行為責任が発生すると解することはできない。
すなわち,我が国では,国家賠償法の施行(昭和22年10月27日)前の法
制度においては,国の行為のうち,非権力的作用については,民法を始めと
する一般私法関係の規律に服させるべきものと解釈されていたが,権力的作
用については,これにより個人の損害が発生したとしても,民法の適用はな
く,国の賠償責任を認めた法律もなかったことから,その損害について,国の
賠償責任を認めることはできないとされていたことが明らかであり,当時の判
例も,一貫してこのような結論を判示していたものである。
また,行政裁判法16条は,「行政裁判所ハ損害要償ノ訴訟ヲ受理セズ」と
定めており,これは,公権力主体としての国家と,私経済主体としての国家を
区別し,国が民事上の活動を行う場合には,国は民法に従って責任を負い,
民事裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することができるが,官吏が,国権を
執行するに際し,義務違反の処置若しくは怠慢により,第三者に加えた損害
に対し,財産上の責任を負わないことを前提として,行政裁判所の事物管轄
の範囲を定めたものであること,旧民法草案において,国又は公共団体の権
力的作用にも民法を適用すべきことを前提に,「公ノ事務所」の損害賠償責任
を肯定する規定を設けたが,審議の結果,最終的には旧民法373条から国
家責任の規定が削除されることとなったこと,明治23年に制定された裁判所
構成法の立法過程において,国家責任に関する訴訟を司法裁判所が受理す
るとした規定が削除され,司法裁判所において,国家賠償請求訴訟を受理し
ないとされたことなどに照らせば,明治憲法下においては,国の権力的作用に
ついて民法の適用を否定し,その損害について国が賠償責任を負わないとい
う,いわゆる国家無答責の法理が,基本的法制度として確立していたものとい
うべきである。
このような法制度については,批判もあり,その後,「何人も,公務員の不法
行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団
体に,その賠償を求めることができる。」と規定した憲法17条等により,根本
的に否定されたものではあるが,大日本帝国憲法下の我が国の法制度の下
では,国の権力的作用による個人の損害については,国家の賠償責任が認
められないとの法理が採用されていたのであり,その後,憲法17条が,国又
は公共団体の損害賠償責任の根拠を明らかにし,同条に基づいて,国家賠償
法が制定されたことによって初めて,その損害の救済が図られることになった
ものである。
そして,国家賠償法附則6項には,「この法律施行前の行為に基づく損害に
ついては,なお従前の例による。」との経過規定が定められているところ,「従
前の例」に相当する大日本帝国憲法下の法制度においては,前記のとおり,
そもそも国家の賠償責任を肯定すべき実体法上の根拠法令がなかったので
あるから,国家賠償法が制定された現時点における解釈としても,同法の施
行前である被告国による本件強制連行及び強制労働当時においては,被告
国が,民法の規定によって,その権力的作用による損害について,不法行為
に基づく損害賠償責任を負担するものと解することはできない。
そして,被告国の本件強制連行及び強制労働が,日本国の軍隊による戦
争行為という権力的作用に付随するものとして,国の権力的作用に該当する
と考えられることに照らせば,本件においては,被告国が,当時の民法の規定
に基づいて,不法行為に基づく損害賠償責任を負担することはないと解され
る。
イ ところで,原告らは,本件強制連行及び強制労働を行った日本の政府担当
者や日本軍は,日本の統治権の及ばない中国において,強制力を用いて原
告らを連行し,拘束するいかなる法的権限も有していないこと,原告らは中国
国民であって,日本の統治権の外にある存在であることを理由に,国家無答
責の法理は原告らには適用されない旨主張し,その旨の有力な学説もある
(甲100)。
国家無答責の法理が適用される公権力の行使とは,国家権力に基づく優
越的な意思の発動たる作用をいい,公の権力の主体として命令し,強制する
作用をいうと解されているところ,被告国が原告らに対して行った本件強制連
行及び強制労働が,公権力に基づく行為であることは,以下のとおり,明らか
である。
すなわち,前記のとおり,国民徴用令に基づく国民の徴用は,支那事変勃
発後,労務者に対する需要の激増により,自由募集によっては必要な人員を
確保することができない状況になったため,被告国が行う総動員業務につい
て,強制的に労務者を徴用して,これに従事させようとしたものであり,さら
に,被告国は,昭和17年11月27日の閣議決定「華人労務者内地移入に関
する件」について,戦時下の経済を支えるために,重筋労働部門における労
働力不足を補うために,原告らを強制連行し,強制労働させることを決定し,
国民動員計画の一環としてこれを行うこととし,傀儡政府の機構である華北政
務委員会の下に設置された華北労工協会等を利用するなどして,原告らを強
制連行し,強制労働させたものであって,原告らの連行,管理及び取締り等に
おいて,深くかかわっていたものであるが,これは,権力をもって特定人に対し
て,一方的に公法上の勤務義務を命じる行政処分と解される国民徴用令によ
る強制連行と,運用の実態において同様に解されるべきものであるから,原告
らに対する本件強制連行及び強制労働は,被告国の権力作用によるものとい
うべきである。
これらの点にかんがみれば,被告国の行為は,公権力の行使に基づいて,
国策として行われたものであり,国家無答責の法理の原則が適用されるとい
わなければならない。
そして,原告らが中国人であったとしても,本件強制連行及び強制労働に関
する法律関係については,前記第3前提となる事実1記載の当時の中国の状
況からしても,日本の法体系の下で,原告ら主張の損害賠償請求が認められ
るか否かを決するほかないというべきである。そして,前記のとおり,当時の日
本の法体系の下では,国家の権力的な作用の行使として行われた本件強制
連行及び強制労働については,原告らの被告国に対する損害賠償請求の根
拠となる実体法上の規定が存しないというものであるから,統治権に服さない
中国人にはそもそも国家無答責の法理が適用されないと解すべき根拠は認
められず,原告らの主張は採用できない。
また,原告らは,被告国の国家無答責の主張は,禁反言の法理に照らして
排斥すべきである旨主張するが,前記のとおり,これは損害賠償請求の根拠
がないことによる結果であるから,主張自体失当である。
(4) 以上のとおり,被告会社は,責任①に基づき,原告らに対して損害賠償責任を
負うというべきであるが,被告国は,責任①に基づく損害賠償責任を負うというこ
とはできない。
 2 被告らの本件強制連行及び強制労働における使用従属関係による保護義務違反
(責任②)に基づく損害賠償責任の有無について
(1) 原告らは,被告らの本件強制連行及び強制労働における使用従属関係による
保護義務違反に基づく債務不履行責任を主張するところ,同保護義務の実質
は,いわゆる安全配慮義務の主張であると解される。
ところで,安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関
係に入った当事者間において,当該法律関係の付随的義務として,当事者の一
方又は双方が,相手方に対して信義則上負担する保護義務である。安全配慮
義務違反の法的性質は,広い意味での不完全履行の一種と解され,安全配慮
義務が発生するための当事者間の法的結合関係は,契約関係若しくはこれに
準ずる法律関係であることを要するものというべきであり,安全配慮義務は,契
約的接触から生じる付随義務としての,相手方の身体,生命及び財産等に対す
る保護義務であると解すべきである。そして,労務の供給,業務の執行関係とい
う社会的接触に基づき,使用者が被用者に対して負担する安全配慮義務は,使
用者が被用者の就業場所に必要な施設,器具等を設置管理し,又は被用者の
勤務条件等を支配管理することによるのであるから,このような社会的接触によ
って安全配慮義務が生じるためには,当事者間に上記の設置管理又は支配管
理関係があることを要するものというべきである。
本件強制連行及び強制労働においても,原告らと被告ら間に,ある法律関係
に基づく特別な社会的接触の関係が存在するというためには,両者の間に,雇
用契約等の契約関係,あるいはこれに準ずる法律関係が存在することが必要で
あると解するのが相当である。
ところで,本件においては,被告国と原告らの関係は,被告国が国策により一
方的に形成したものであり,これによって生じる社会的接触は,契約的接触であ
るということはできず,特に,本件強制労働については,前記のとおり,三池鉱業
所及び田川鉱業所の施設,器具等は,被告会社が設置管理しており,本件強制
労働を直接指揮監督し,衣食住の労働環境を整備し,労働条件の設定を直接実
施していたのは,被告会社であったのであるから,被告国が,直接的,具体的
に,原告らの労務を支配管理していたものと認めることはできず,被告会社を通
じて間接的に関与したものといわざるを得ないのであり,被告国による就業場所
の施設等の設置管理や,原告らの勤務条件等についての支配管理があったと
いうことはできない。
また,被告会社と原告らとの関係は,原告らの意思にかかわらず,被告会社
が,一方的に生じさせた労使関係であり,事実上の支配ないし管理関係にすぎ
ないことは,前記のとおりである。
したがって,被告らと原告らとの間に,雇用契約等の契約関係,あるいはこれ
に準ずる関係が生じていたと認定することはできない。
以上のとおり,原告らが主張する被告らの保護義務,すなわち安全配慮義務
は認められないといわざるを得ない。
(2) ところで,原告らは,被告会社と原告らとの間に,本件強制労働による使用従
属関係に基づく事実上の雇用契約関係があり,これに基づいて被告会社が契約
責任としての保護義務を負う旨主張するが,このような事実上の関係に基づき
特定人を保護する一般的義務が課せられる場合があるとしても,かかる法律関
係は,不法行為規範により規律されるべきものであるから,原告らの主張は採
用できない。
また,原告らは,被告国が,労務者募集規則による募集従事者の立場,国家
総動員法による被告会社に対する監督及び軍需会社法により,被告会社を軍
需会社として,その人事権及び経営権に介入したことに基づき,被告国が保護
義務を負う旨主張するが,このような事情を考慮しても,前記のとおり,被告国
は,被告会社を通じて間接的に原告らに対する本件強制労働に関与したものに
すぎないから,原告らと被告国との間に特別の社会的接触があったということは
できず,原告らの主張は採用できない。
(3) 以上のとおりであり,被告らが,責任②に基づき,原告らに対して損害賠償責
任を負うと解することはできない。
3 戦後において,各種給付を行わず,慰謝の措置も講じなかったこと等についての
被告らの保護義務違反(責任③)に基づく損害賠償責任の成否について
前記認定事実によれば,昭和17年閣議決定による行政供出の方法により,太
平洋戦争の遂行に伴う労働力の不足を補う目的のために,被告らが,共同して,そ
の意思に反して原告らを始めとする中国人労働者を強制連行し,強制労働させた
ものであるところ,日本が敗戦し,日本政府が,昭和20年9月2日に降伏文書に調
印したことによって,本件強制連行及び強制労働の目的自体が消滅したことが認
められる。
そして,被告国は,連合国軍最高司令部から,上記降伏文書のとおり,日本政
府の支配下にある一切の連合国俘虜及び被抑留者を直ちに解放し,その保護,手
当及び指示された場所への即時輸送のための措置などを採るように命じられたこ
と,同年8月17日に「華人労務者の取扱いの件」を決定し,被告会社を含む135
の事業主が差し当たり採るべき措置として,中国人労働者の作業を中止し,現在
地において保護収容し,契約による賃金,衣食を支給し,食糧の改善に努めるな
ど,できるだけ処遇改善を図った上,中国人労働者に対する危害・暴行を厳に戒
め,傷病者の看護に意を用いることを定めたことを考慮すると,被告らは,日本政
府による降伏文書の調印とこれに伴う本件強制連行及び強制労働の目的の消滅
により,当然に原状回復義務が生じ,原告らを含む中国人労働者に対し,これを保
護する一般的な保護義務を負ったと認めるのが相当である。
しかしながら,前記認定のとおり,原告らは,終戦直後に被告会社における労働
をやめていること,食事の質及び量,被告会社の原告らに対する態度も改善された
こと,最終的には,原告らは,いずれも終戦から数か月以内に中国に帰還している
ことなどの事情を考慮すると,十分とはいえないものの,敗戦後の混乱の中,原告
らに対する一応の保護義務は果たされていると解されるのであり,原告らのうちに
は,わずかな金銭の支給を受けた者があるにとどまり,大部分の者には賃金等の
支払が全くされなかったこと,原告らは,各自の出身地ではなく,いずれも塘沽の港
に送り届けられたにとどまったことなどの事情を考慮しても,被告らに,原告らに対
する上記保護義務の違反があったと解することはできない。
したがって,原告らの主張は採用できない。
4 被告らの権利行使妨害の不法行為(責任④)に基づく損害賠償責任の成否につい

前記認定事実によれば,被告国は,昭和21年,本件強制連行及び強制労働に
関し,被告会社を含む135の事業場に事業場報告書の作成を命じ,調査員を事業
場に派遣し,現地調査報告書を作成させ,これをもとに外務省報告書を作成した
が,後にその廃棄を命じたこと,そうであるにもかかわらず,被告国の内閣総理大
臣及び政府委員らは,昭和29年9月6日以降,国会において,本件強制連行及び
強制労働の事実関係は,資料がないため明確ではなく,原告ら中国人労働者の就
労は,原告らの自由な意思による雇用契約に基づくものであった旨の答弁を,繰り
返し行ったことが認められる。
しかしながら,被告らの上記の各行為が,直ちに,原告らが,本件損害賠償請求
権を行使することを妨げたとして,不法行為に当たると認めることができないことは
いうまでもない。
したがって,原告らの主張は採用できない。
5 被告国が刑事制裁義務を懈怠したことによる不法行為(責任⑤)に基づく損害賠
償責任の成否について
前記前提となる事実のとおり,強制労働禁止条約においては,一定の者に対す
る処罰義務を国家に課していると認められるが,条約上の処罰義務は国際法上の
責任である。国内法においては,同様の処罰義務は,行政上の責任として生じるも
のであるが,必ずしも被害者個人に対する関係で,その不作為が不法行為となる
ものではない。我が国においては,そもそも犯罪の捜査及び検察官の公訴権の行
使は,国家及び社会の秩序維持という公益目的で行われ,国家は犯罪被害者に
対して犯罪者の処罰義務を負うものではない。したがって,国家による犯罪捜査の
遅滞,捜査の不開始は,特別の事情がない限り,原則として犯罪被害者に対する
不法行為となるものではない。
本件においては,前記認定のとおり,被告国が,本件強制連行及び強制労働に
ついて,戦犯事案として追及されることを予想し,連合国側,特に中国調査団への
説明に備えるべく,本件強制連行及び強制労働の実情を調査し,中国人労働者の
死因等について一部の真相を覆い隠す内容の外務省報告書等を作成した上,こ
の外務省報告書を含む本件強制連行及び強制労働に関する関係書類を焼毀した
こと,その後,閣僚及び政府委員らがその存在を否定する答弁を行い,結果として
本件強制連行及び強制労働の事実の究明,関係者の処罰等を望んでいる原告ら
の期待が実現しなかった事情を考慮しても,被告国の責任⑤に基づく損害賠償責
任を認めることはできない。
6 民法724条前段及び後段の適用の有無について
(1)ア 前記認定のとおり,原告らは,太平洋戦争が終結した昭和20年8月15日こ
ろ,被告会社における本件強制労働をやめたことが認められる。そうであれ
ば,責任①及び責任②における被告会社の不法行為は,同日以前のもので
あるから,この不法行為から原告らによる本訴提起(①事件は平成12年5月
10日,②事件は平成13年5月10日,及び③事件は同年10月30日)まで
に,既に20年を超える期間が経過していることが明らかである。
この点につき,民法724条後段は,不法行為の時から20年を経過したとき
には損害賠償責任が消滅する旨規定しているから,被告会社の責任につい
ても,不法行為時から20年を経過したことにより消滅するかが問題となるの
で,以下検討する。
イ まず,原告らは,民法724条後段の規定は,時効期間を定めたものである
旨主張し,これが時効期間を定めたものであるとする有力な学説もある(甲1
09)。
しかしながら,民法724条後段の規定は,同条前段において3年の短期の
時効について規定し,更に同条後段で20年の長期の時効を規定していると
解することは,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の
規定の趣旨に沿わず,むしろ,同条前段の3年の時効は,損害及び加害者の
認識という被害者側の主観的な事情によってその完成が左右されるが,同条
後段の20年の期間は,被害者側の認識のいかんを問わず,一定の時の経
過によって法律関係を確定させるため,請求権の存続期間を画一的に定めた
ものと解するのが相当であるから(最高裁判所平成元年12月21日第1小法
廷判決・民集43巻12号2209頁参照),同条後段の規定は,不法行為によっ
て発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当であ
る。
したがって,原告らの主張は採用できない。
ウ また,原告らは,民法724条後段の規定が時効期間を定めたものであること
を前提として,同条後段の20年の期間の起算点は,原告らが中国と日本の
弁護士の支援,協力を取り付けることができた平成12年4月とすべきである
旨主張する。
しかしながら,同条後段の20年の期間を除斥期間と解すべきことは前記の
とおりであり,その起算点が不法行為時であることは,「不法行為の時」という
条文の文言上明らかである。また,「損害及び加害者を知りたる時」を起算点
とする同条前段の規定と対比すると,同条後段の「不法行為の時」について,
権利行使可能性の観点から解釈することはできないといわざるを得ない。
したがって,原告らの主張は採用できない。
(2)ア 原告らは,被告らの主張は,著しく正義,公平に反し,条理にもとることは明
らかであるから,本件において民法724条前段及び後段は適用されるべきで
はない旨主張する。
イ ところで,前記認定のとおり,本件損害賠償請求の対象とされる被告会社の
行為は,戦時下における労働力不足を補うために,被告国と共同して,詐言,
脅迫及び暴力を用いて本件強制連行を行い,過酷な待遇の下で本件強制労
働を実施したものであって,その態様は非常に悪質である。
また,被告国の外務省は,中国人労働者の日本への移入に関し,昭和21
年に被告会社を含む135の事業場に事業場報告書の作成を命じ,調査員を
事業場に派遣し現地調査報告書を作成させ,これをもとに外務省報告書を作
成したが,後にその廃棄を命じたこと,そうであるにもかかわらず,被告国の
内閣総理大臣及び政府委員らは,昭和29年9月6日以降,本件強制連行及
び強制労働の事実関係は,資料がないため明確ではなく,中国人労働者の就
労は自由な意思による雇用契約に基づくものであった旨の答弁を国会におい
て繰り返し行ったこと,平成5年に外務省報告書とその関係書類の所在が初
めて一般に知られるに至ったこと,昭和47年の日中共同声明及び昭和53年
の日中平和友好条約により,日本と中国の国交が正常化されたものの,日中
共同声明の第5においては,中国政府が日本に対する損害賠償請求を放棄
した旨の条項があり,同条項が民間人の損害賠償請求権を含むか否かにつ
いては,中国国内でも議論があったことなどの事情を考慮すると,被告らによ
り,原告らの権利行使を著しく困難にする状況が作り出されていたのであるか
ら,原告らが平成12年又は平成13年になって初めて本件訴訟を提起するに
至ったこともやむを得ないというべきである。
さらに,被告会社は,原告らにその労働の対価を支払うこともなく,十分な
食事を支給していなかったにもかかわらず,これを行ったことを前提に,本件
強制労働の実施による損失補償として,被告国から774万5206円を受け取
っており,これは現在の貨幣価値に換算すると数十億円にも相当する(弁論
の全趣旨)。このように,被告会社は,本件強制連行及び強制労働により,戦
時中に多くの利益を得たと考えられる上,戦後においても利益を得ている。
ウ ところで,前記のとおり,民法724条後段は除斥期間を定めたものであり,
除斥期間の規定が不法行為を巡る法律関係の速やかな確定を意図している
ものであることを考慮すると,基本的には20年の経過という一義的な基準で
これを決すべきものであることは否定できない。
しかしながら,そのような除斥期間制度の趣旨の存在を前提としても,本件
に除斥期間の適用を認めた場合,本件損害賠償請求権の消滅という効果を
導くものであることからも明らかなとおり,本件における除斥期間の制度の適
用が,直接,いったん発生したと訴訟上認定できる権利の消滅という効果に結
びつくのであり,取引安全の要請が存しない本件においては,加害者である
被告会社に本件損害賠償責任を免れさせ,ひいては,正義に反した法律関係
を早期に安定させるのみの結果に帰着しかねない点を考慮すると,その適用
に当たっては,正義,衡平の理念を念頭において判断する必要があるという
べきである。
すなわち,除斥期間制度の趣旨を前提としても,なお,除斥期間制度の適
用の結果が,著しく正義,衡平の理念に反し,その適用を制限することが条理
にもかなうと認められる場合には,除斥期間の適用を制限することができると
解すべきである。なお,一定の要件の下に除斥期間の適用制限を認めた最高
裁判所平成10年6月12日第2小法廷判決(民集52巻4号1087頁)は,除
斥期間の適用が信義則違反あるいは権利濫用であるという主張は,主張自
体失当であるとしているが,これは除斥期間と解する以上当然の結論であっ
て,このことと,当裁判所が除斥期間の解釈適用において上記のような判断を
することとは,何ら矛盾,抵触するものではない。
以上のことを前提に,前記本件強制連行及び強制労働の事情を考慮する
と,被告会社に対し,民法724条後段を適用してその責任を免れさせること
は,正義,衡平の理念に著しく反するといわざるを得ず,その適用を制限する
のが相当である。
エ また,民法724条前段の適用についても,中国と日本をめぐる政治的状況,
日中共同声明の第5が,民間人の対日損害賠償請求を放棄する趣旨か不明
確であったこと等を考慮すると,原告らが,本件損害賠償請求権の行使を怠っ
ていたとはいえず,時効制度の趣旨の1つである「権利の上に眠る者を保護し
ない」ことは,原告らには当てはまらないこと,また,本件訴訟提起の重要な資
料である外務省報告書及びその基礎資料は被告らの関与により隠匿されて
おり,証拠資料の散逸及び採証上の困難を趣旨の1つとする時効制度によっ
て,本件損害賠償請求権が消滅する不利益を原告らに負わせる結果は相当
ではないこと等の事情を考慮すると,被告会社が,原告らの本件損害賠償請
求権の行使に対して,民法724条前段の消滅時効を主張することは,信義則
に反し,失当であるといわざるを得ない。
7 日中共同声明及び日中平和友好条約による損害賠償請求権の放棄について
前記認定事実によれば,日中共同声明の第5においては,「中華人民共和国政
府は,日中両国民の友好のために,日本国に対する損害賠償の請求を放棄するこ
とを宣言する。」とされていること,日中平和友好条約においては,日中共同声明の
第5の上記宣言が厳格に遵守されるべきことが確認されたことが認められる。他
方,サンフランシスコ平和条約締結当時,中国は,中国国民が,日本政府に対し
て,日中戦争において被った損害の賠償を請求し得るとの立場を採っていたこと,
また,昭和62年ころから,中国国内では,日本政府に対して上記損害の賠償を行
い得るとの見解が支持されるようになり,当時の銭其?副首相兼外相は,平成7年
3月9日,日中共同声明で放棄したのは国家間の賠償であって,個人の賠償請求
は含まれず,補償請求は国民の権利であり,政府は干渉すべきではない旨の見解
を示したことなどの事情を考慮すると,日中共同声明及び日中平和友好条約によ
り,中国国民固有の損害賠償請求権が,中国政府によって放棄されたかについて
は,法的にも疑義が残されていたものといわざるを得ない。したがって,原告らの損
害賠償請求権が,日中共同声明及び日中平和友好条約により,直ちに放棄された
ものと認めることはできない。
ところで,被告会社は,一般的に,戦争により生じた請求権の主体は常に国家で
あり,国民個人が受けた被害は,国際法的には国家の被害である旨主張する。
しかしながら,損害賠償について国家間での合意が成立した場合,これに基づ
き,国民に対して,何らかの措置が採られることにより,国民が直接相手国に対し
て,損害賠償を請求できなくなることは考えられるとしても,このことから直ちに,す
べての場合に,国民個人が,相手国に対して,戦争において被った損害の賠償を
請求し得ないと解することはできないから,被告会社の主張は採用できない。
8 因果関係及び損害
前記のとおり,被告会社による本件強制連行及び強制労働によって原告らが被
った精神的苦痛の程度は著しく,それに本件における一切の事情を考慮すると,被
告会社の前記不法行為に基づいて原告らが被った精神的損害を慰謝するには,
原告らそれぞれにつき1000万円とするのが相当である。そして,本件訴訟が,国
際関係にわたり,歴史的背景に関するものであることから,その遂行には高度の訴
訟活動を要することを考慮すると,弁護士費用としては,原告らそれぞれにつき10
0万円とするのが相当である。
9 謝罪広告掲載の請求について
原告らは,本件訴訟において,被告らに対し,別紙謝罪広告目録記載の広告
を,日本及び中国の新聞に掲載することを請求している。しかしながら,別紙謝罪
広告記載の広告は,被告らが共同して原告らに陳謝する内容であるところ,前記
のとおり,原告らの被告国に対する責任①ないし責任⑤の主張は,いずれも理由
がない。また,被告会社については,責任①による不法行為が認められるものの,
本件訴訟の経緯等を考慮すれば,原告らの精神的損害の慰謝のためには,金銭
の支払をもってするのが相当であり,謝罪広告を掲載することが相当とは考えられ
ないことに照らせば,原告らの謝罪広告掲載の請求は理由がない。
10 結論
以上によれば,原告らの被告国に対する請求は,理由がないからこれをいずれ
も棄却することとし,被告会社に対する請求は,原告らそれぞれにつき1100万円
の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余の請求
は理由がないからこれをいずれも棄却することとし,仮執行宣言については,相当
でないからこれを付さないこととし,よって,主文のとおり判決する。
    福岡地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官   木村元昭
裁判官   宮尾尚子
裁判官   櫛橋明香
謝罪広告目録
(以下,見出し及び被告らの名は4号活字,その他は5号活字とする。)
日本国は,貴殿を第2次大戦中,中国本国において身体を拘束し監禁したうえ,日本
へ強制的に連行しました。そして,貴殿は弊社管理下の事業場に強制的に送り込まれ,
同事業場で1945年8月15日まできわめて過酷な条件の下で強制労働をさせられまし
た。しかも貴殿は弊社より賃金も受け取っておられません。
当時貴殿の祖国である中国と日本国は戦争状態にあり,貴殿が敵国である当国や弊
社のために働くいかなる根拠もありませんでした。にもかかわらず,これを強制したこと
は貴殿の人格と中国人としての名誉を著しく蹂躙したまったく不法なことであり,法律上
も人道上も許されないことでした。
ここに日本国と弊社は,貴殿に対し深くお詫び申し上げるとともに,その名誉を回復す
るため本書を公表致します。
※別紙「原告ら各自に関する事情」は省略

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