弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一申立
一 原告
1 被告が、承継前の原告Aに対し昭和四六年一〇月二日別紙換地処分目録(一)
「従前の土地」欄記載の土地の換地として同「換地」欄記載の土地を、訴外Bに対
し同目録(二)「従前の土地」欄記載の土地の換地として同「換地」欄記載の土地
を各指定した処分はいずれも無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(本案前の申立)
主文第一、二項同旨
(本案の申立)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 主張
一 原 告(請求原因)
1 承継前の原告A(以下単に「原告」ということがある。)および訴外Bは、従
来、別紙換地処分目録「従前の土地」欄記載の各土地を所有していた。
2 被告は昭和四六年一〇月二日、原告およびBに対し、前項の土地の換地として
同目録「換地」欄記載の各土地を指定する処分(以下「本件各処分」という。)を
なした。
3 本件各処分にはつぎのとおり重大かつ明白な瑕疵があるので無効というべきで
ある。
(一) 土地改良法五三条一項二号によれば、換地処分を行なうにつき、従前の土
地の用途、地積、土性、水利、傾斜、温度その他の自然条件及び利用条件を総合的
に勘案して当該換地が従前の土地に照応していることを要する(照応の原則)とさ
れている。
(二) 原告の本件従前地(1)ないし(7)は部落内でも最も肥沃な土地であ
り、それらは地続きの土地であつた。被告は原告に対して原地換地を約束していた
にも拘らず、原告に換地された<地名略>の土地は、従前地とは位置を異にするこ
と、右<地名略>は肥沃な表土部分が削り取られ後には固い底地のみが残存してい
る劣悪な土質であること、右<地名略>の田は、底の高さが三段階に分かれている
ため高所は水持ちが悪く、そのため夷隔川排水路以外の冷水を引き込まざるを得な
いので稲の生育が悪く、収穫も減少し、自然条件、利用条件に著しい差異がある。
(三) 他方、Bに対する本件換地(<地名略>)は一つにまとめて土性のよい原
告の従前地があつた位置となつているが、Bの従前地は右<地名略>とは隔てて点
在していたし、それらの水田の土性は著しく劣つていたものである。
(四) 以上、被告の本件各処分は照応の原則に反する瑕疵があり、右瑕疵は重大
かつ明白というべきであるから、無効である。
4 よつて、本件各処分の無効確認を求める。
5 承継前の原告Aは本訴提起後の昭和五六年三月一八日死亡しその長女であるC
が唯一の相続人として、本訴を承継した。
二 被告
(本案前の主張)
1 原告の主張によれば、本件訴の無効確認の対象となる換地処分は原告、Bに対
するものに限られている。
2 ところで、無効確認訴訟が許容されるのは行政事件訴訟法三六条に定める場合
に限られる(無効確認訴訟の補充性)。本件の場合、原告・B間の訴訟形態によつ
て目的を達成することができ、そのような訴の提起が法律上可能である以上、具体
的勝訴の見込みの有無を問わず、本件訴訟は法の定める補充性の要件を具備してい
ないから不適法である。
(請求原因に対する認否)
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。ただし、原告の従前地の位置に換地処分を受けた者は別
紙換地処分目録(二)記載のとおりであつて、Bのみではない。なお、被告の行な
つた換地処分はすべて終了し、その所有権移転登記も了している。
3 同3、4は争う。
4 同5の事実は認める。
(本案の主張)
1 本件各換地処分は、法令の定める手続に従い、千葉県や県農業開発公社の適切
な指導のもとに行なわれ、昭和四五年三月三〇日の換地会議でも満場一致で本件各
換地処分も承認され、同年一二月二五日千葉県知事よりその旨の認可を受けた。
2 原告に対する本件各処分に関し、換地委員会はつぎの点を考慮した。
(一) 原告の自宅に近い場所に指定した。
(二) 原告は従前地の畑はいらないと述べていたので田のみ指定した。
(三) 原告宅の前を流れる排水路の位置とBの自宅前養鰻場の排水の状況、各土
地に至る道路の位置と幅員を考慮した(特に<地名略>と<地名略>につき)。
(四) 従前地の地目と土質、換地の地目と土質については特に慎重に考慮した。
3 右の考慮に基づく原告への本件処分につき、原告は当初、気に入つた土地の指
定をうけたことに喜んでいた。本件訴はその後一〇年近く経過してから提起されて
いる。
4 土地改良工事実施直後は、原告の換地にかぎらず、他の土地においても収益が
落ちるのが一般であり、その後原告地の収益は回復され、他よりも良くなつている
から、自然条件、利用条件が悪いということはない。道路位置の関係からいつても
土地の価格があがつており利用条件が劣つているということはない。
5 従つて、本件各処分は適法というべきである。
三 本案前の主張に対する反論(原告)
1 本件訴訟において目的とするところは、原告並びにBに対してなされた個々の
換地処分の無効確認であり、被告の行つた土地改良事業そのものや、換地計画の全
体を否定しようとするものではなく、又更に進んで、原告の従前地に換地指定され
た多数人に関する換地処分の無効を前提に、各所有者に対し土地所有権の確認、土
地明渡し、所有権取得登記の抹消登記手続等の請求を目的とするものでもないので
ある。
原告が本訴を提起した目的はあくまで請求の趣旨記載のとおり、原告の「従前の土
地」を「換地の土地」へ換地した個別的処分の無効確認を求めているにすぎないの
である。そして、この無効が確認されゝば、原告に関しては、換地の指定がなされ
ていない状態に復帰するだけであり、その結果被告としては、一定の修正を加え適
正な換地指定を行えばよいのである。
2 次に、行訴法三六条の「当該処分の有無を前提とする現在の法律関係に関する
訴えによつて目的を達することができない」との意味を「処分に基づいて生ずる法
律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟または民事訴訟によつては、本
来、その処分のため被つている不利益を排除することができないこと」と解する判
例がある。この判例を本件に当てはめて、原告から、原告の従前地に換地された者
らを相手とする土地所有権の確認等が法律上可能であるから、無効確認の訴を提起
することは許されないとの見解も有り得よう。しかし、右見解に立つならば、原告
が換地処分の無効を前提として原告の従前地を換地と指定された者らに対し、土地
所有権の確認等の訴訟を提起し勝訴した場合も、その効力は被告には及ばないので
ある。その結果当事者間においては、原告の従前地に対する所有権は確認されるも
のゝ、本件土地改良事業の主体たる被告との関係においては、換地は有効のまゝで
あり、原告としてはその目的を達することができないまゝ、原告と他の土地所有者
並びに被告との間において、いたずらに混乱を引き起こすだけである。また、行訴
法四五条を前提として争点効が被告に及ぶものと解するならば、原告が勝訴した場
合、被告が、土地改良事業の趣旨や全体的換地計画に基づき公法上の強権力の発動
としてなした換地処分を排除したうえ、あたかも原告の従前地を原告の換地とする
のと同様の効力を生ずることになるが、この様な訴訟が許されるとするならば、行
政機関が強制する義務付け訴訟を認容する結果となり、かゝる訴訟がそもそも認め
られないことは明白である(なお、土地区画整理法上の換地処分に関する新潟地判
昭三二・九・一三参照)。
すなわち、本件訴訟に関し前記の見解を適用するのは、原告がその目的を達しない
まま原告と他の土地所有者ならびに被告との間で不必要な混乱を導びくか、また
は、原告の権利救済の道を不当にとざすことになる。そもそも、原告が本件訴訟に
おいて目的とするのは、被告のなした原告に対する換地処分の無効確認であり、そ
れ以上に従前地の所有権の確認を意図しているものではない。また仮に、従前地の
所有権の確認を望んだとしても、前記のとおり原告としては、本訴訟以外の方法に
おいて、その権利救済の目的を達することができないのであり、原告は本訴訟にお
ける解決を求めざるを得ないのである。
第三 証 拠(省略)
○ 理由
一 (本件各処分の無効確認を求める訴の適否について)
1 昭和四六年一〇月二日、原告の従前地につきBおよび原告に対して本件各処分
がなされたことは当事者間に争いがなく、それらにつき換地処分を受けた者の名義
でそれぞれ所有権移転登記手続を経由したことは原告において明らかに争わないか
ら、これを自白したものとみなす。
2 本件訴は、右のように換地処分が終了した後、本件各換地処分の無効確認を求
めるものである(なお、原告は自己に対する換地処分とともに、自己の従前地の一
部に換地指定を受けたBに対する換地処分をも無効確認訴訟の対象としているが、
この点の訴の利益の有無の問題は一まず措くこととする。)が、行政事件訴訟法三
六条によれば、無効確認の訴を提起しうる場合は限られているから、本件訴が右法
条の要件に該当するかどうかについて判断する。
(一) 同条によれば、無効確認の訴は、「・・・・・・・・・当該処分の無効等
の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で当該処分の存否又はその効力の有
無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない
ものに限り、提起することができる」とされている。
この規定の後段の部分は私法上の権利変動を目的とした行政処分の場合には、処分
を不服として争う者の究極目的は該処分の是非そのものよりも、権利変動の結果を
是正することなのであり、しかもこのような権利変動の結果の是正はその是正を求
める民事訴訟によつて当該紛争の根本的かつ直接的な解決を図ることができる場合
が大部分であること、訴訟理論からいつても、通常、過去の処分の無効確認を求め
ることは許されないことなどからみて、無効確認の訴を提起することができる原告
適格を、処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴によつて目的を
達することができないものに制限したものと解されるのである。
従つて、右法条にいう「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することが
できない」とは、処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする
当事者訴訟または民事訴訟によつて、本来、その処分のためにこうむつている不利
益を排除することができないことをいうと解するのが相当である。そして、この場
合には法律上そのような訴訟の形態が許されるかどうかだけが問題となるにとどま
り、具体的に勝訴の見込があるかどうかとは関係がなく、そのような訴の提起が法
律上可能である以上、その処分により不利益を排除することができるものというべ
く、あえて右処分の無効確認の訴を提起することが許容されるというわけではない
(最判昭和四五年一一月六日民集二四巻一二号一七二一頁参照)。
(二) これを本件についてみれば、従前地の土地所有者である原告は、当該換地
処分が無効であることを理由として、原告の従前地について換地処分をうけた者に
対して、土地所有権の確認、土地の明渡、所有権取得登記の抹消登記手続の請求等
現在の法律関係に関する訴を提起することができ、これにより原告の従前地の土地
所有権の法律関係を明確にし、該処分により蒙るべき自己の不利益を排除すること
ができるものであるから、当該換地処分の無効確認の訴を許す理由はないと解する
のが相当である。
(三) もつとも、原告は右のような訴訟形態をとつたのでは、当該判決の効力は
被告に及ばないから目的を達することができない旨主張する。
しかし、かかる民事訴訟に関して被告(行政庁)は行政事件訴訟法四五条(争点訴
訟)によつて訴訟参加することが認められており、民訴法六四条の要件をみたす限
り、行政事件訴訟法四五条の規定にかかわらず、行政庁は補助参加することが許さ
れる(原告は訴訟告知をして、補助参加させることができる。)から、かかる措置
を講ずることで行政庁に対して判決の効力を及ぼすことも可能である。従つて無効
確認の訴を許さないからといつて、その目的を達することができないとはいえな
い。
(四) なお、原告の主張によれば、原告が本件各処分の無効確認を求める意図
は、原告とBに対してなされた処分を白紙の状態にもどし、被告をして、あらため
て右両名に対して適正な処分をなさしめることにある、とされている。そして本件
における一連の原告の主張によれば、右にいう「適正な処分」とは、原告について
はその従前地付近に換地をなすべきことを指していると解される。そうであれば、
右のような原告の意図をより直截に実現するためにも、無効確認の訴によるより
も、Bらを被告として民事訴訟を提起して争うほうがより適切というべきである
(原告も主張するように無効確認の訴でたとえ原告が勝訴しても、本件の紛争の解
決のためにはさらに被告によつてあらためて換地指定をうける必要があり、右勝訴
判決をもつて被告の換地処分-しかも原告の欲するような-を強制的になさしめる
ことはできないからである)。
二 以上の次第で、原告の本件訴は、行政事件訴訟法三六条により原告適格を欠く
ものというべきであるから不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 奈良次郎 合田かつ子 吉田健司)
換地処分目録(一)、(二)(省略)

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