弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役二年六月及び拘留二九日に処する。
     原審における未決勾留日数中一三〇日を右懲役刑に算入する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、検察官玉井直仁作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁
は、弁護人中野林之助作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、
これらを引用する。
 論旨は、要するに、「原判決は、原判示第一ないし第五の各事実を認定し、主文
において、被告人を懲役二年六月及び拘留二九日に処した上、原審における未決勾
留日数中右拘留の刑期に満つるまで算入するほか一〇〇日を右懲役刑に算入するも
のとした。しかし、右拘留は勾留状の発せられていない原判示第五の軽犯罪法違反
の罪の刑であるところ、(1)刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの
で、以下、同様とする。)二一条の未決勾留日数の算入が非勾留事実の刑に認めら
れるためには、当該事実につき勾留の要件を具備していることを要すると解すべき
であるが、被告人は定まつた住居を有しており、右軽犯罪法違反の事実について
は、刑訴法六〇条三項の規定により勾留の要件を欠き、法律上勾留することができ
ない場合に該当することが明らかであるから、原判決が勾留事実である建造物侵
入、窃盗罪の未決勾留日数を、勾留要件を具備していない軽犯罪法違反の罪の拘留
刑に算入したのは、刑法二一条の解釈適用を誤ったものであり、(2)未決勾留日
数の本刑算入に当たっては、まず勾留の基礎となった事件について言い渡すべき刑
に算入し、当該未決勾留日数が右の刑を超過する場合に、勾留の基礎となっていな
い他の事件について言い渡すべき刑にその超過部分を算入すべきものであって、本
件では、まず、勾留事実である窃盗等の事実の刑に未決勾留日数を算入しなければ
ならないから、原判決は、未決勾留の算入順序についても刑法二一条の解釈適用を
誤ったものであり、右(1)、(2)の違法が判決に影響を及ぼすことは明らかで
ある。」というのである。
 そこで、検討すると、原審記録によれば、被告人は、平成六年一二月八日、原判
示第五の軽犯罪法違反の事実で現行犯逮捕されたが、翌九日、同事実につき検察官
への送致前に釈放されたこと、同日、右釈放直後、本件とは別個の窃盗事実により
通常逮捕され、同月一一日勾留されたが、同事実については、同月三〇日処分保留
で釈放され(後日不起訴処分に付された。)、右釈放直後、原判示第一の窃盗事実
により通常逮捕されて、平成七年一月一日勾留され、同月二〇日、同事実について
は勾留中のまま、同第五の軽犯罪法違反の事実については在宅で起訴されたこと、
同年二月七日、同第二ないし第四の建造物侵入、窃盗等三件の事実により通常逮捕
され、同月九日勾留され、同月二八日、同第二の建造物侵入、窃盗事実、同第三の
建造物侵入事実についてのみ勾留中のまま追起訴されたこと、次いで、同年三月三
〇日、同第四の建造物侵入、窃盗事実について在宅で追起訴されたこと、右各公訴
事実の併合審理の結果、平成七年六月一九日原判決が言い渡されるまで、右二個の
勾留は更新されたこと、原審における未決勾留日数は一六九日であることが認めら
れる。そして、原判決は、原判示第一ないし第五の各事実を認定し、法令の適用に
おいて、科刑上一罪の処理、刑種の選択、累犯の加重をした後、同第一ないし第五
の罪は刑法四五条前段の併合罪であることから、同第一ないし第四の罪について同
法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い同第四の罪の刑に同法一四条の制限
内で法定の加重をし、同法五三条一項によりその法定の加重をした同第四の罪の懲
役と同第五の罪の拘留とを併科することとし、各所定の刑期の範囲内で被告人を懲
役二年六月及び拘留二九日に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日
数中右拘留の刑期に満つるまでこれを算入するほか一〇〇日を右懲役刑に算入する
旨判示した上、主文において、所論のとおりの未決勾留日数の算入を行っているこ
とが明らかである。
 <要旨>ところで、裁判所が同一被告人に対する勾留状の発せられている公訴事実
と、これと併合罪関係にあり勾留状の発せられていない別個の公訴事実とを
併合して審理し、被告人に対し二個の刑を言い渡す場合の未決勾留日数の裁定通算
は、まず、勾留状が発せられた罪に対する刑を本刑として、これに算入すべきであ
り、その刑の刑期を未決勾留日数が超過する場合など特段の事情がない限り、他の
勾留状が発せられていない罪に対する刑に算入することは許されないものと解すべ
きである(大審院大正九年三月一八日判決・刑録二六輯一九五頁、最高裁判所昭和
三〇年一二月二六日第三小法廷判決・刑集九巻一四号二九九六頁、同裁判所昭和三
九年一月二三日第一小法廷判決・刑集一八巻一号一五頁参照)。そうすると、前記
のとおり、原判決が右のような事情もないのに、勾留状の発せられた罪に対する刑
に算入するのに先立って、勾留状の発せられていない軽犯罪法違反の罪に対する拘
留の刑に、原審における未決勾留日数をその刑期に満つるまで算入したのは、未決
勾留日数の算入順序について刑法二一条の解釈、適用を誤ったものであり、これが
判決に影響を及ぼすことは明らかである。したがって、この点の違法をいう(2)
の論旨は理由があり、原判決は、(1)の論旨について判断するまでもなく、破棄
を免れない。
 そこで、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄した上、同法四〇〇
条ただし書により被告事件について更に判決する。
 原判決挙示の各証拠により、原判示第一ないし第五のとおりの各事実を認定し、
これらの事実に原判決挙示の各法条を適用し(科刑上の一罪の処理、刑種の選択、
累犯加重、併合罪の加重を含む。)、その各刑期の範囲内で処断すべきところ、本
件各犯行の態様、結果、被告人の前科等の諸事情を考慮して、被告人を懲役二年六
月及び拘留二九日に処し、前記改正前の刑法二一条を適用して、原審における未決
勾留日数中一三〇日を右懲役刑に算入し、原審及び当審における訴訟費用について
は、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして、主
文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 松尾昭一 裁判官 西田眞基)

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