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判決言渡平成21年11月26日
平成21年(行ケ)第10242号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年11月19日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士谷義一
同阿部和夫
同佐藤久容
同梅田幸秀
同登山桂子
同新開正史
被告マルコ株式会社
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2009−800064号事件について平成21年7月7日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1被告は,発明の名称を「衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダー
メイド方式」とする特許第3692084号(出願日平成14年2月13
日,登録日平成17年6月24日,請求項の数12)の特許権者(ただし,
特許料不払により平成20年6月24日消滅)であったところ,被告の取締役
であった原告は,平成21年3月27日付けで上記特許の請求項1∼12につ
いて無効審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告
がその取消しを求めた事案である。
被告は,適法な呼出しを受けたが本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁書
その他の準備書面も提出しない。
2審決において判断された事項は,請求項1∼12に係る発明(以下順に「本
件特許発明1∼12」という。)が下記の各刊行物に記載された発明との関係
で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。

・特開平8−260206号公報(発明の名称「イージオーダー化を可能に
したファンデーションおよびその縫製方法」,出願人株式会社ダッチェ
ス,公開日平成8年10月8日,甲1。以下これに記載された発明を「甲
1発明」という。)
・国際公開99/58007号公報(発明の名称「人体の支持・補正機構及
びこれを備えた衣服機構」,出願人A,公開日1999年(平成11年)
11月18日,甲2)
・実公昭51−9368号公報(考案の名称「イージーオーダー用採寸合せ
基本ズボン」,出願人大賀株式会社,公告日昭和51年3月12日,甲
3)
・米国特許3,763,866号明細書(発明の名称「ADJUSTABL
ESUPPORTGARMENT(調整可能な支持用衣料)」,発行日
1973年(昭和48年)10月9日,甲4)
・特開平8−158111号公報(発明の名称「ファウンデーション」,出
願人株式会社ダッチェス,公開日平成8年6月18日,甲5)
・「Dublev(デューブルベ)」と称する株式会社ワコールのセミオé
ーダーシステムに関するカタログ(カタログ有効期間2000年[平成12
年]8月1日∼2001年[平成13年]1月31日,甲6)
・特開平2−259102号公報(発明の名称「着脱自在のブラジャー」,
出願人B,公開日平成2年10月19日,甲7)
・「手作りランジェリー」レディブティックシリーズ通巻1404号(19
99年[平成11年]3月20日株式会社ブティック社発行,甲8)
・近藤れん子「近藤れん子の立体裁断と基礎知識」(1998年[平成10
年]12月15日五版株式会社モードェモード社発行,甲9)
・実願昭50−21222号(実開昭51−104125号)のマイクロフ
ィルム(考案の名称「ヒップ部にダーツを有するガードル」,出願人株式
会社ワコール,公開日昭和51年8月20日,甲10の1)
・特開平9−209203号公報(発明の名称「ガードル」,出願人グン
ゼ株式会社,公開日平成9年8月12日。甲11)
・実願昭50−84855号(実開昭52−3835号)のマイクロフィル
ム(考案の名称「X字形基本によるブラジャー用パターン」,出願人C,
公開日昭和52年1月12日,甲12の1)
3なお,本件特許に関しては,下記(1)の職務発明の対価請求訴訟が係属して
いるほか,下記(2)の無効審判請求及びその審決に対する下記(3)の審決取消訴
訟が存した。
(1)知財高裁平成21年(ネ)第10020号(原審大阪地裁平成18年
(ワ)第7529号)
控訴人・被控訴人(一審被告)マルコ株式会社(本件の被告)
控訴人・被控訴人(一審原告)D(本件特許の発明者)
(2)無効2007−800144号
請求人X(本件の原告)
被請求人マルコ株式会社
補助参加人D
結果請求不成立(平成20年5月8日)
(3)知財高裁平成20年(行ケ)第10232号
原告X
被告マルコ株式会社
補助参加人D
結果請求棄却(平成20年12月24日)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
被告は,平成14年2月13日,発明の名称を「衣類のオーダーメイド用
計測サンプル及びオーダーメイド方式」とする発明について,特許出願(特
願2002−34888号。公開特許公報は特開2003−239130
号)をし,平成17年6月24日特許第3692084号として登録を受け
た(請求項の数12。甲13。以下「本件特許」という。)。
原告は,平成21年3月27日付けで本件特許の請求項1∼12について
無効審判請求(甲14)をしたので,特許庁は,同請求を無効2009−8
00064号事件として審理した上,平成21年7月7日,「本件審判の請
求は,成り立たない」旨の審決をし,その謄本は平成21年7月17日原告
に送達された。
(2)発明の内容
本件特許は,上記のとおり請求項1∼12から成るが,その内容は,次の
とおりである。
【請求項1】
身頃のヒップ部にヒップカップサイズを調節可能なヒップカップ計測手
段を設けたオーダーメイド用ボトム計測サンプルで,該ヒップカップ計測
手段は,前記ヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって切り
込みを入れて分割され,分割された一片と他片とが連絡部材を介して着脱
自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能とされ,前記一片の他片と
の連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛が記されたことを特徴とす
るオーダーメイド用ボトム計測サンプル。
【請求項2】
前記ヒップ部の切り込みの内端位置は,ヒップトップの高さよりも下と
したことを特徴とする請求項1記載のオーダーメイド用ボトム計測サンプ
ル。
【請求項3】
身頃のウエスト部にウエストサイズを調節可能なウエスト計測手段を設
けた請求項1又は2記載のオーダーメイド用ボトム計測サンプルで,該ウ
エスト計測手段は,前記ウエスト部がその上端から略縦方向に切り込みを
入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に
止着可能でウエストサイズ調節可能とされ,前記一片の他片との連結位置
にウエストサイズ計測用の目盛が記されたことを特徴とするオーダーメイ
ド用ボトム計測サンプル。
【請求項4】
身頃の脚囲部にその下端の脚口サイズを調節可能な脚口計測手段を設け
た請求項1∼3のいずれかに記載のオーダーメイド用ボトム計測サンプル
で,該脚口計測手段は,前記脚囲部が脚口から略縦方向に切り込みを入れ
て分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着
可能で脚口サイズ調節可能とされ,前記一片の他片との連結位置に脚口サ
イズ計測用の目盛が記されたことを特徴とするオーダーメイド用ボトム計
測サンプル。
【請求項5】
前記脚口計測手段は,前記ヒップカップ計測手段と連続して形成された
ことを特徴とする請求項4記載のオーダーメイド用ボトム計測サンプル。
【請求項6】
身頃の胴部に胴部サイズを調節可能な胴部計測手段を設けた請求項1∼
5のいずれかに記載のオーダーメイド用ボトム計測サンプルで,該胴部計
測手段は,前記胴部がその上端から略縦方向に切り込みを入れて分割さ
れ,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能で胴
部サイズ調節可能とされ,前記一片の他片との連結位置に胴部サイズ計測
用の目盛が記されたことを特徴とするオーダーメイド用ボトム計測サンプ
ル。
【請求項7】
請求項1∼6のいずれかに記載のボトム計測サンプルに,カップ部を有
するトップが付設されたオーダーメイド用衣類計測サンプル。
【請求項8】
前記トップは,前記ボトム計測サンプルに着脱可能に付設された請求項
7記載のオーダーメイド用衣類計測サンプル。
【請求項9】
前記トップは,バージスサイズを変えた複数のカップ受部と,1つのバ
ージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部との組み合わせ
からなり,カップ受部に対してカップ部を着脱可能に設けてなる請求項7
又は8記載のオーダーメイド用衣類計測サンプル。
【請求項10】
前記トップは,バージスサイズを変えた複数のカップ受部と,1つのバ
ージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部と,一つのカッ
プ受部において寸法の異なる複数のバック部との組み合わせからなり,カ
ップ受部に対してカップ部及びバック部を着脱可能に設けてなる請求項7
又は8記載のオーダーメイド用衣類計測サンプル。
【請求項11】
前記衣類が体型補正機能を有する衣類である請求項1∼10のいずれか
に記載のオーダーメイド用計測サンプル。
【請求項12】
ヒップサイズを変えた請求項1∼11のいずれかに記載の計測サンプル
を複数用意し,着用者のヒップサイズに応じて計測サンプルを選択して着
用させ,カスタムサイズの計測をする衣類のオーダーメイド方式。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件
特許発明1∼12は,甲1発明及び甲2∼12に記載された発明に基づい
て容易に発明することができたものとはいえない,というものである。
イなお,審決が認定する甲1発明の内容,同発明と本件特許発明1との一
致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア)甲1発明の内容
「試着パーツとして着用者の寸法取りに供し得る,トップ部T,ウェ
スト部W及びボトム部Bの3つの部片からなるファンデーションであっ
て,前記3つの部片T,W,Bは,未縫製の横切断部4,5にて分割し
て形成され,横切断部4,5の重合度合いを選択して調節自在に重合す
るマジックテープ等の横縫製代T4,W4及びW5,B5を形成するこ
とにより,着用者の背丈に適合させると同時に,個体差による体形の曲
がりや肉付きに対してもきめ細かに適応させて縫製できるようにし,各
部片T,W,Bのそれぞれに人体の縦方向に沿う縦切断部6をさらに設
け,縦切断部6の重合度合いを選択して調節自在に重合するマジックテ
ープ等の縦縫製代T6,W6,B6を形成することにより,個体差によ
るバスト,ウェスト及びヒップの各サイズに対してもきめ細かに適応さ
せて縫製できるようにした,イージーオーダー化を可能にしたファンデ
ーション。」
(イ)本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点
<一致点>
「身頃のヒップ部にサイズを調節可能な手段を設けたオーダーメイド
用ボトム計測サンプル」である点
<相違点>
本件特許発明1は,ヒップカップサイズを計測するものであり,その
具体的手段として,身頃のヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央
に向かって切り込みを入れて分割され,分割された一片と他片とが連結
部材を介して着脱自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能とさ
れ,前記一片の他片との連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛が
記されるように構成されるのに対して,甲1発明は,ヒップサイズを計
測するものであり,上記具体的手段を備えていない。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法なものとし
て取り消されるべきである。
ア取消事由1(甲1発明認定の誤り)
(ア)a審決は,「…甲1発明では,…トップ部T,ウエスト部W及びボ
トム部Bのそれぞれについて,縦切断部6が着用者の背面に対応する
ファンデーションの後面を左右対称に分割するように設けられてい
る。このうちボトム部Bの縦切断部6は,後面の上縁から下方の股間
部近傍まで延びると考えられるが,少なくとも,左右の脚開口部3,
すなわち股口の縁に達するものではない。そして,甲1発明は,ボト
ム部Bに設けられた縦切断部6の重合度合を調節することによって,
着用者のヒップのサイズ,すなわちヒップ部頂部の周長に合わせるも
のというべきであり,ヒップ部の脹らみ具合であるヒップカップのサ
イズに合わせるものとはいえない。」(14頁下5行∼15頁5
行),「…甲第1号証の縦縫製代B6は,ボトム部Bの縦切断部6に
隣接して設けられており,前述したように,縦切断部6は股口の縁に
達するものではないから,縦縫製代B6によってヒップカップサイズ
が調節可能となっているとはいえない。」(16頁24行∼27行)
と認定している。このように,審決は,甲1の縦切断部6が股口の縁
に達するものではないことを理由に,甲1発明においては,ヒップカ
ップサイズが調節可能ではないと認定している。
bしかし,以下に示すとおり,甲1の縦切断部6によってもヒップカ
ップサイズの調節は可能であるから,甲1の縦切断部6が股口の縁に
達するものでないことをもって,甲1発明においてヒップカップサイ
ズが調節可能ではないということはできない。
(a)本件特許発明1において,ヒップカップ計測手段は,「前記ヒ
ップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって切り込みを入
れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自
在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能とされ」るという構成
であるところ,本件特許の明細書(甲13の特許公報,以下「本件
明細書」という。)には,ヒップカップサイズに関して,「ここ
で,ヒップカップサイズとは,(ヒップサイズ)−(脚の付根の水
平方向における周長寸法)で表され,脚の付根の水平方向における
周長が短い程,ヒップの膨らみの具合は大きくなり,ヒップカップ
サイズは大きくなる。また,ヒップ部とは,後身のうち左右一対の
ヒップカップ部と,その間の臀裂部とを含む概念であり,ヒップカ
ップ部とは,臀部の膨らみを包み込む部位を意味する。」(段落【
0018】)と記載されている。また,ヒップサイズに関して,
「…ガードルは,前身,後身,股下部及び必要に応じて股口に連設
される脚囲部を備えており,ヒップ部頂部の周長であるヒップサイ
ズ,ヒップ部の膨らみ具合であるヒップカップサイズ及びウエスト
の最もくびれた部分の周長であるウエストサイズが重要である。」
(段落【0002】)と記載されている。
本件特許発明1の上記ヒップカップ計測手段の構成からすると,
本件特許発明1において,ヒップカップサイズが調節可能であると
は,股口からヒップカップ部の略中央に向かう切り込みの全長にわ
たって,ヒップ部の膨らみに応じた調整が可能であることと解され
るが,ヒップカップサイズに関する上記定義からすると,少なくと
も,「ヒップ部頂部の周長」,「脚の付根の水平方向における周
長」が調節可能(計測可能)であれば,ヒップカップサイズは調節
可能と解されるから,本件特許発明1は,少なくとも,ヒップ部に
おける「ヒップサイズ」,「脚の付根の水平方向における周長寸
法」のうち,一箇所又は二箇所の寸法,すなわち,「ヒップサイ
ズ」及び/又は「脚の付根の水平方向における周長寸法」を調整で
きるようにした発明ということができる。
(b)もっとも,本件明細書(甲13)において,「脚の付根」と
は,どの部位をいうのか明らかでないが,①ヒップカップ部とは臀
部の膨らみを包み込む部位とされていること(段落【0018
】),②図2に,臀部の膨らみに相当する部分がジグザグ線で囲っ
て示されていることからすると,上記図2において,ジグザグ線で
囲って示された部位がヒップカップ部に相当すると解され,したが
って,「脚の付根」とは,上記図2においてジグザグ線で囲って示
された部位の水平方向最下方に引かれるラインの位置に相当する部
位を指しているものと解される。
また,上記定義からすると,ヒップカップサイズとは,左右それ
ぞれのヒップカップ部の膨らみ具合ではなく,ヒップ全体の膨らみ
具合を示すものであると解されるから,「脚の付根の水平方向にお
ける周長寸法」は,上記図2のジグザグ線で囲って示された部位の
最下方位置において計測される,水平方向でのヒップ部全周の寸法
と解される。ヒップカップサイズが,左右それぞれのヒップカップ
サイズを意味するとの記載は,本件明細書に見当たらないし,ヒッ
プカップサイズを,左右それぞれのヒップカップ部の膨らみ具合を
示すものであるとすると,ヒップカップサイズを「(ヒップサイ
ズ)−(脚の付根の水平方向における周長寸法)」によって割り出
すに当たり,「ヒップサイズ」についてはヒップ全体の計測値を用
い,「脚の付根の水平方向における周長寸法」については,左右そ
れぞれの計測値を用いるとするのは不自然である。さらに,ヒップ
カップサイズを,左右それぞれのヒップカップ部の膨らみ具合を示
すものであるとしても,左右それぞれにおいて,水平方向での周長
を測定できるのは,「股間部」に隣接する左右の脚部分であり,こ
の脚部分は,股口における切り込みの開始位置よりも下方となり,
調整のなされない部分であるから(本件明細書[甲13]の図4参
照),この脚部分の周長を測定することに意味はなく,いずれにし
ても,「脚の付根の水平方向における周長寸法」は,ヒップ部全体
で計測せざるを得ないと解される。また,上記図2から理解される
ように,この部位は,股間部のやや上方に位置している。本件特許
発明1において,この部位は,股口より上方である必要があり,股
口からヒップカップ部の略中央に向かう切り込みがこの部位を超え
るように,股口における切り込みの始端位置及び切り込みの長さを
設定しないと,ヒップカップサイズは調整できないと解される。審
決は,本件特許発明1においては,股口が切り込みによって分割さ
れ,股口におけるサイズ調整が可能であることをもって,ヒップカ
ップサイズが調節可能であると解釈していると推測されるが,「脚
の付根」の位置は,股口より上方にあると解されるから,このよう
な解釈は正しくない。もっとも,切り込みは,股口からヒップカッ
プ部の略中央に向かうのであるから,股口においてサイズ調整が可
能であれば,その上方の「脚の付根」位置においてもサイズ調整が
可能ということになる。
(c)そうすると,ヒップカップサイズは,少なくとも,「ヒップ部
頂部の周長」,「股間部のやや上方での水平方向における周長寸
法」のいずれかが調節可能であれば,調節可能であるといえるか
ら,甲1発明において股口の縁が切断されていないからといって,
ヒップカップサイズが調節可能でないとはいえない。
(d)審決の認定するとおり,甲1においては,縦切断部6は,「後
面の上縁から下方の股間部近傍まで延び」ている。
甲1には,縦切断部6が後面の上縁から下方のどの部分まで延び
ているのかについて明記はされていないが,この縦切断部6が,ヒ
ップに対応させて重合度合いを調整し,個体差によるヒップのサイ
ズに対してきめ細かに適応させるためのものであること(段落【0
010】)からすると,縦切断部6は,ヒップに対応させて重合度
合いを調整するに十分なほどに下方に延びていると解すべきであ
り,審決のいう「下方の股間部近傍」は,「ヒップに対応させて重
合度合いを調整するに十分なほどに下方の股間部近傍」と解釈する
限りにおいて是認できるものである。また,上記したとおり,本件
特許発明1において,「脚の付根」部分は,「股間部」よりもやや
上方に位置すると解される。そうすると,甲1の縦切断部6は,
「ヒップ部頂部」を通り,「脚の付根」部分を越えて下方に延び
て,この間の全長において(すなわち,ヒップの上下方向の全ての
部分において),重合度合いの調整を可能としているというべきで
あるから,当然に,ヒップカップ部における水平方向の周長の調節
を可能にしているといえる。
甲1において,ヒップカップ部における水平方向の周長の調節が
可能である以上,少なくとも,「ヒップサイズ」と「脚の付根の水
平方向における周長寸法」とが調整可能であるといえ,甲1発明も
ヒップカップサイズが調整可能なものであることは明らかである。
なお,脚の付根近辺の周長を調整して,ボトム衣類を,ヒップカ
ップ部の膨らみに沿った立体形状とすることは周知のことである
(特開2001−49503号公報[発明の名称「ボトム衣類及び
その製造方法」,出願人グンゼ株式会社,公開日平成13年2月
20日,甲17],段落【0020】∼【0025】)。そうする
と,甲1において,「脚の付根」部分を越えた下方部分でも,必要
であれば,縦切断部6の重合度合いの調整を試みることは,当業者
が普通に行うことというべきである。
また,ヒップカップサイズが,左右それぞれのヒップカップ部の
膨らみ具合をいうとしても,上記縦切断部6の重合度合いを調整す
ることにより,左右それぞれのヒップカップ部に沿った寸法調整も
なされることになり,上記縦切断部6の重合度合いの調整は,いわ
ば,左右それぞれのヒップカップ部における寸法調整を一度に行っ
ていることになる。
(e)仮に,甲1において,下方の股間部近傍が,「脚の付根」に相
当し,「脚の付根の水平方向における周長寸法」を調節できないと
しても,下方の股間部近傍より上方における部位の周長寸法は調節
できるのであるから,少なくとも,ヒップ部頂部の寸法は調節可能
である。この場合,「脚の付根の水平方向における周長寸法」は,
着用者のサイズ(着用者が選んで試着するボトム試着パーツが有す
る固定サイズ)により定まり,他方,「ヒップ部頂部」すなわち
「ヒップサイズ」は調節が可能であるから,「(ヒップサイズ)−
(脚の付根の水平方向における周長寸法)」を求めることはでき,
ヒップカップサイズは調節可能であるといえる。
(f)以上のとおり,審決が,甲1発明について,ヒップカップサイ
ズが調節可能ではないと認定したのは誤りである。
(イ)また審決の甲1発明の前記認定(前記第3,1(3)イ(ア))も誤り
である。甲1からは,試着パーツとしてのボトム部Bという一まとまり
の技術を認定できるのであるから,本件特許発明1と対比させるに当た
り,引用発明を,三つの部片からなるファンデーションであると認定す
るのは誤っている。また,審決の上記認定においては,縦切断部6が延
びる位置について言及されておらず,上記(ア)aの審決の認定と整合し
ていないし,甲1発明を,「体形の曲がりや肉付きに対してもきめ細か
に適応させて縫製できる」ものと認定しておきながら(前記第3,1
(3)イ(ア)),「着用者のヒップのサイズ,すなわちヒップ部頂部の周
長に合わせるものというべき」(上記(ア)a)と矛盾する認定をするな
ど,審決の甲1発明の認定は誤っている。
(ウ)したがって,甲1の記載からすると,甲1発明は,原告が審判請求
書(甲14)において主張したとおり,「身頃のヒップ部にヒップカッ
プサイズを調節可能な縦縫製代B6を設けたイージーオーダー用ボトム
試着パーツで,該縦縫製代B6は,前記ヒップ部が縦切断部を入れて分
割され,分割された一片と他辺とが接合部材(連結部材)を介して着脱
自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能とされたことを特徴とす
るイージーオーダー用ボトム試着パーツ。」と認定されるべきである。
イ取消事由2(一致点・相違点認定の誤り,相違点の判断の誤り)
(ア)審決は,本件特許発明1と甲1発明との一致点・相違点を,前記第
3,1(3)イ(イ)のとおり認定したが,この一致点,相違点の認定は,
以下のとおり誤りである。
a前記アのとおり,甲1発明もヒップカップサイズが調節可能なもの
である。また,甲1発明のイージーオーダー用ボトム試着パーツが,
オーダーメイド用ボトム計測サンプルであることは,審決が,「…甲
1発明のボトム部Bは,ヒップのサイズ取りに供し得る試着パーツで
あるから,この限りにおいて,本件特許発明1でいう『オーダーメイ
ド用ボトム計測サンプル』に該当する。」(15頁5行∼7行)と認
定するとおりである。そうすると,両者には,ヒップカップサイズを
計測するか,ヒップカップを計測するかにおける相違はないといえ,
両者は,「身頃のヒップ部にヒップカップサイズを調整可能な手段を
設けたオーダーメイド用ボトム計測サンプル」で一致している。
したがって,審決の一致点の認定は誤っている。
b本件特許発明1における「ヒップカップサイズを調節可能なヒップ
カップ計測手段」は,「前記ヒップ部が股口からヒップカップ部の略
中央に向かって切り込みを入れて分割され,分割された一片と他片と
が連結部材を介して着脱自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可
能とされ,前記一片の他片との連結位置にヒップカップサイズ計測用
の目盛が記された」というものであり,ヒップカップサイズの調節
は,「前記ヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって切
り込みを入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介し
て着脱自在に止着可能とされ」ることにより,また,ヒップカップサ
イズの計測は,「前記一片の他片との連結位置にヒップカップサイズ
計測用の目盛が記され」ることにより可能となっているものと解され
る。
そして,上記アのとおり,甲1発明も,ヒップカップサイズの調節
がなされるものであり,ヒップカップサイズの計測がなされるもので
ある。甲1発明が,オーダーメイド用の計測サンプルである以上,ヒ
ップカップサイズの調節後,何らかの手段を用いてヒップカップサイ
ズの計測を行うことは明らかである(甲1,段落【0008】)。ま
た,「ヒップ部頂部の周長」及び「脚の付根の水平方向における周
長」は,ヒップ部の膨らみ部分の頂部と膨らみ部分の下方部に相当す
るが,上記アのとおり,この部分の周長を計測することは周知であ
る。そうすると,本件特許発明1と甲1発明とは,身頃のヒップ部に
ヒップカップサイズを調節可能なヒップカップ計測手段を設けている
点で軌を一にし,ヒップカップサイズを調節するための具体的な調節
手段及びヒップカップを計測するための具体的な計測手段において相
違するだけである。
なお,本件特許発明1において,「前記一片の他片との連結位置に
ヒップカップサイズ計測用の目盛が記され」ているが,この目盛から
直ちにヒップカップサイズ(ヒップサイズ−脚の付根の水平方向にお
ける周長寸法)が判明するわけではない。また,ヒップカップサイズ
(上記の二つの周長寸法の差の値)を求めるとしても,これは,上記
二つの周長寸法を求めることの結果でしかなく,ヒップカップサイズ
を求めることが,本件特許発明1のオーダーメイド用計測サンプルに
おける格別の作用効果であるとはいえない。
cしたがって,本件特許発明1と甲1発明との一致点,相違点は,原
告が,審判請求書(甲14)において主張したとおり,両者は,「身
頃のヒップ部にヒップカップサイズを調節可能な縦縫製代B6(ヒッ
プカップ計測手段)を設けたイージーオーダー(オーダーメイド)用
ボトム試着パーツ(計測サンプル)で,該縦縫製代B6(ヒップカッ
プ計測手段)は,前記ヒップ部が縦切断部(切り込み)を入れて分割
され,分割された一片と他辺とが接合部材(連結部材)を介して着脱
自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能とされたことを特徴と
するイージーオーダー(オーダーメイド)用ボトム試着パーツ(計測
サンプル)。」(括弧内が,本件特許発明1における対応部分。)で
ある点で一致し,(A)切り込みが,前者においては,股口からヒッ
プカップ部の略中央に向かっているのに対し,後者においては,人体
の縦方向に沿う縦切断部である点,(B)前者においては,一片の他
辺との連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛が記されているの
に対し,後者においては,目盛が記されていない点,で相違すると認
定されるべきである。
(イ)審決は,上記の一致点,相違点の認定の下,相違点は容易想到では
ないと判断しているが,上記のとおり審決の一致点,相違点の認定は誤
っており,この誤った相違点の認定の下でなされた,相違点の判断も誤
りである。
上記正しく認定した相違点については,審判請求書(甲14)におけ
る原告の主張(31頁13行∼33頁18行)のとおり,当業者が容易
に想到できるものである。
ウ取消事由3(本件特許発明2∼12の進歩性判断の誤り)
審決は,本件特許発明1が容易に発明をすることができたものではない
ことを前提に,本件特許発明2∼12についても容易に発明をすることが
できたものではないと判断しているが,上記イのとおり,本件特許発明1
は容易に発明をすることができたものである。したがって,上記審決の判
断は前提を誤ったものである。
審判請求書(甲14)において原告が主張した(33頁19行∼46頁
3行)とおり,本件特許発明2∼12は,当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
したがって,本件特許発明2∼12について,容易に発明をすることが
できたものではないとする審決の判断は誤っている。
エ取消事由4(審決の論理の誤り)
仮に,甲1発明が,審決の認定するとおりのものであるとしても,審決
の一致点・相違点の認定,相違点の判断は,以下のとおり,認定及び判断
の手法についても,また,結果についても誤ったものである。
(ア)甲1発明においては,「…ボトム部Bの縦切断部6は,後面の上縁
から下方の股間部近傍まで延びる…」(審決14頁下2行∼下1行)の
であるから,本件特許発明1と甲1発明とは,「ヒップ部が切り込みを
入れて分割され」ている点でも一致し,また,甲1に,「…また可能な
らばマジックテープ(登録商標)等による接合が各縫製代に採用できる
こと言うまでもない。」(段落【0011】)と記載されていることか
らすると,甲1発明においても,「分割された一片と他片とが連結部材
を介して着脱自在に止着可能で」あるから,本件特許発明1と甲1発明
とは,「分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可
能で」ある点でも一致する。
(イ)他方,本件特許発明1における「ヒップカップサイズを調節可能な
ヒップカップ計測手段」は,「前記ヒップ部が股口からヒップカップ部
の略中央に向かって切り込みを入れて分割され,分割された一片と他片
とが連結部材を介して着脱自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可
能とされ,前記一片の他片との連結位置にヒップカップサイズ計測用の
目盛が記された」というものであり,ヒップカップサイズの調節は,
「前記ヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって切り込み
を入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自
在に止着可能とされ」ることにより,また,ヒップカップサイズの計測
は,「前記一片の他片との連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛
が記され」ることにより可能となっているものと解される。
(ウ)そうすると,甲1発明が,ヒップサイズを調節,計測するものであ
るとの認定の下では,本件特許発明1と甲1発明との一致点は,「身頃
のヒップ部にサイズを調節可能な計測手段を設けたオーダーメイド用ボ
トム計測サンプルで,該計測手段は,前記ヒップ部が切り込みを入れて
分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着
可能でサイズ調節可能とされたことを特徴とするオーダーメイド用ボト
ム計測サンプル。」となるはずであり,相違点は,(A’)切り込み
が,前者においては,ヒップカップサイズを調整可能とするために,股
口からヒップカップ部の略中央に向かっているのに対し,後者において
は,ヒップサイズを調整可能とするために,人体の縦方向に沿う縦切断
部である点,(B’)前者においては,一片の他辺との連結位置にヒッ
プカップサイズ計測用の目盛が記されているのに対し,後者において
は,目盛が記されていない点,となるはずである。
(エ)にもかかわらず,審決は,本件特許発明1と甲1発明におけるサイ
ズ調節,計測のための具体的手段について対比検討を行わず,あたか
も,甲1発明が,審決が相違点として認定する本件特許発明1の構成要
件を全て備えていないかのように認定している。本件特許発明1におい
て,切り込み,連結部材及び目盛りが全て揃わないと,ヒップカップサ
イズの調節,計測ができないというのであればともかく,本件特許発明
1において,切り込み及び連結部材は,ヒップカップサイズの調節のた
めの手段であり(しかも,切り込み及び連結部材は調節手段として周知
のものである[甲3,4])。目盛りは,ヒップカップの計測のための
手段であって(目盛り自体は周知である[例えば,甲3]。なお,この
目盛りからヒップカップサイズの値が直接求められないことは上述した
とおりである。),両手段は機能を異にするものであるから,相違点
を,「身頃のヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向って切り
込みを入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着
脱自在に止着可能でヒップカップサイズ調整可能とされ,前記一片の他
片との連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛が記されるように構
成されている」と,一括りで認定することは,本件特許発明1の本質を
理解しないものというべきである。
(オ)上記したとおり,仮に,甲1発明が,ヒップサイズを計測するもの
であるとしても,本件特許発明1と甲1発明との一致点,相違点を,上
記のとおり正しく認定するならば,相違点は,以下のとおり,容易想到
と判断される。
a審決が「…甲1発明のボトム部Bは,ヒップのサイズ取りに供し得
る試着パーツであるから,この限りにおいて,本件特許発明1でいう
『オーダーメイド用ボトム計測サンプル』に該当する。」(15頁5
行∼7行)と認定するとおり,甲1発明は,寸法を調整可能とした部
分を有する,オーダーメイド用ボトム計測サンプルに他ならない。
ところで,ボトムにおいては,種々の部位において,調整可能部分を
設けることが知られている(甲2,4,10の1,11)。そして,
甲1に,「…本発明の趣旨の範囲内において,横あるいは縦切断部の
位置,形状,数や,横および縦の縫製代の幅,形状,材質については
適宜採用できる他,縫製代の縫製形態についても,例えば縫製に代え
て高周波接合,熱溶着等が採用できる。」と記載され(段落【001
1】,審決8頁18∼23行参照),縦切断部の位置,形状を変更で
きる旨が記載されていることからすると,甲1発明において,調整可
能部分を変更すれば,その部位のサイズの計測サンプルとすることが
できることは,甲1に接した当業者であれば容易に理解できることで
ある。
bそうであれば,審決が,「甲第2号証には,平面的に形成され臀列
にフィットしなかった従来のガードル製品の問題を解消するため,臀
突位上の臀突部の下辺に,ヒップカップサイズに相当する臀部の丸み
に準じた形状を達成するためのダーツ65を設けることが記載されて
おり…,該ダーツ65は股口からヒップカップ部の略中央に向かう切
り込みに相当するといえる…」と認定するとおり(15頁20行∼2
5行),甲2には,ヒップカップサイズの調整手段が記載されている
のであるから,この調整手段を,甲1発明に適用して,ヒップカップ
サイズを計測可能な計測サンプルとすることは当業者が容易に想到で
きることというべきである。
c審決は,審決が認定した相違点が容易想到ではないことの理由とし
て,(甲2号証には)「切り込み(ダーツ)によって分割された一片
と他片を着脱自在に止着することや,ヒップカップサイズの計測のた
めに用いられることについては,記載も示唆もされていない。また,
甲第2号証のダーツ65は,個体差に応じて設計されるものではな
く,人の標準的な臀部の丸みを想定して設計され,縫製されるものと
いうべきである」(15頁25行∼29行)ことを挙げているが,甲
1において切り込み(ダーツ)がヒップサイズの計測のために用いら
れること,切り込み(ダーツ)が個体差に応じて設計されるものであ
ることは,自ら認定していることであるし(15頁17行,15頁5
行∼7行),切り込み(ダーツ)によって分割された一片と他片を着
脱自在に止着することは,甲1に記載されている。そうすると,甲2
に,これらのことが記載も示唆もされていないからといって,直ち
に,審決が認定した相違点が想到容易でないということにはならな
い。審決は,本件特許発明1と甲1発明との相違点を正しく認定した
上で,(A’)切り込みが,前者においては,ヒップカップサイズを
調整可能とするために,股口からヒップカップ部の略中央に向かって
いるのに対し,後者においては,ヒップサイズを調整可能とするため
に,人体の縦方向に沿う縦切断部である点が,甲2から容易に想到で
きるか否かを判断すべきであったといえる。審決の相違点の判断は,
本件特許発明1と甲2発明とに相違があることを認定したにずぎず,
本件特許発明1と甲1発明との相違点が,甲2発明から容易に想到で
きるか否かを検討していない。すなわち,審決は,本件特許発明1と
甲1発明,甲2発明との対比を行ったに過ぎず,甲1発明と甲2発明
とを組み合わせることができるかどうかについて何ら論じたものでは
ないというべきである。
また,審決は,①甲4の右太もも用調整可能サポート50a等は,
いずれもヒップカップサイズを調整するために設けられるものではな
い,②甲10の1のダーツ3は,股口から切り込まれるものではな
く,また,甲10の1には,切り込みによって分割された一片と他片
を着脱自在に止着することや,ヒップカップサイズの計測のために用
いられることが記載されていない,③甲11には,切り込み(ダー
ツ)によって分割された一片と他片を着脱自在に止着することや,ヒ
ップカップサイズの計測のために用いられることが記載されていな
い,甲11のダーツ12は,個体差に応じて設計されるものではな
く,人の標準的な臀部の丸みを想定して設計され,縫製されるもので
ある,④甲3はウエストの採寸に関するものである,⑤甲5ないし甲
9及び甲12の1はブラジャーに関するものであると認定し(15頁
30行∼16頁13行),甲2∼12のいずれにも,上記相違点に係
る構成は記載も示唆もされていないから,甲1∼12に記載された技
術をいかに組み合わせても,本件特許発明1が,当業者にとって容易
に想到し得るものであるということはできないと判断している(16
頁14行∼17行)。しかし,この審決の認定,判断は,本件特許発
明1と各甲号証に記載された発明を対比し,これらの間に相違点が存
在すること(すなわち,本件特許発明1には新規性があること)をい
うに過ぎないものである。審決は,甲3∼12について,「甲第4号
証には,右太もも用調整可能サポート50a,左太もも用調整可能サ
ポート50b及び前面の中央の裂け目に形成されるフラップ10e,
10fを備えたガードルが記載されている…」(15頁30行∼32
行),「甲第10号証に記載されたダーツ3は,ガードル素材片1に
おける股布付け位置附近の下方よりヒップの山に向かって二等辺三角
形状に切欠したものであり…」(15頁下4行∼下2行),「甲第1
1号証には,ガードルの後身頃における臀部の部位で,且つ裾部付近
にダーツ12を形成し,臀部に立体的な脹らみ部を形成することが記
載されている…」(16頁3行∼5行),「甲第3号証はウエストの
採寸に関するものであり,甲第5号証ないし甲第9号証及び甲第12
号証はブラジャーに関する…」(16頁11行∼12行)と認定して
おり,仮に,甲3∼12に記載の各発明がこのように認定できるので
あれば,本件特許発明1と甲3∼12記載の各発明との間の一致点な
いしは類似点に着目しつつ(ウエスト,ブラジャーに関するものであ
るとしても,寸法の調節技術であれば,本件特許発明1,甲1発明と
は関連の深いものである。),上記認定されたところに従い,甲1発
明及び上記各甲号証に記載された発明同士の組合せが容易に想到でき
るか否かを論じてしかるべきである。
dなお,上記相違点(B’)についても,当業者が容易に想到できる
ものである。なぜなら,甲1発明においても,サイズの計測が必須の
ものであるところ,甲3には,サイズ計測用の目盛を設けることが記
載されているから,甲1発明において,甲2発明を適用してヒップカ
ップサイズを調整可能なボトム計測サンプルとするに当たり,一片の
他辺との連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛(周長計測用の
目盛り)を記すことは,当業者が容易に想到できることといえるから
である。
(カ)以上のとおり,審決における本件特許発明1と甲1発明との一致点
・相違点の認定,相違点の判断は,認定及び判断の手法についても,ま
た,結果についても誤っており,審決は,本件特許発明1を容易想到で
ないとする論理を誤ったものといえる。
また,審決は,本件特許発明1が容易に発明をすることができたもの
ではないことを前提に,本件特許発明2∼12についても容易に発明を
することができたものではないと判断しているが,上記したとおり,本
件特許発明1は容易に発明をすることができたものである。したがっ
て,本件特許発明2∼12についても容易に発明をすることができたも
のではないとの上記審決の判断は前提を誤ったものであり,誤りであ
る。
オ取消事由5(手続違背)
(ア)審決は,無効審判請求において,原告が,甲1発明は,ヒップカッ
プサイズを計測するものであると主張したところ,甲1発明は,ヒップ
カップサイズを計測せず,ヒップサイズを計測するものであると認定
し,この認定を前提として本件特許発明1は進歩性を有していると判断
した。
しかし,審決の甲1発明の認定は,原告が主張した内容とは異なり,
しかも,被告からの反論がなく,当事者が争点としていない内容のもの
である。
そうすると,審決は,甲1発明の進歩性を,原告も被告も主張しない
甲1発明に基づいて判断したといえるから,当事者が申し立てない無効
理由について職権で審理したといえる。そうであれば,特許法153条
2項の規定により原告に意見を述べる機会を与えるべきであるにもかか
わらず,この機会は設けられなかった。
(イ)仮に,上記認定・判断が当事者の申し立てない無効理由について審
理したものでないとしても,上記認定は,甲1について,職権による証
拠調べを行った結果であるといえるから,特許法150条5項の規定に
より原告に意見を述べる機会が与えられるべきであるところ,この機会
は設けられなかった。
(ウ)また,原告は,本件特許発明1についての特許が無効である理由と
して,本件特許発明1は,甲1∼3に記載された発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであることを申し立てた(審判請
求書[甲14]33頁15行∼18行)。なお,このことを論証する過
程で,衣類にダーツを設けることが慣用手段であることを,甲2,甲
9,甲10,甲11,甲12により立証している(審判請求書[甲14
]31頁20行∼32頁9行)。
これに対して,審決は,「…本件特許発明1は,本件出願前に日本国
内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第12号証に記
載された発明に基いて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえ
ない。」(16頁18行∼20行)と判断している。
したがって,無効審判請求において,原告は,本件特許発明1が,甲
1ないし甲3に基づく進歩性欠如の理由を申し立てたのに対し,審決
は,原告の申し立てない,甲1∼12に基づく進歩性欠如の理由を判断
している。
そうすると,審決は,当事者が申し立てない無効理由について職権で
審理したといえるし,少なくとも,甲4∼12については,職権による
証拠調べを行ったといえるから,原告に意見を述べる機会が与えられる
べきであるところ,この機会は与えられなかった。
(エ)さらに,無効審判の審理は,両当事者に主張,立証を尽くさせた
後,事件が審決をするのに熟したときに終結されるものである。上記審
決の認定,判断と同旨の内容が,被請求人である被告から主張されたの
であれば,審理終結通知の前後において,原告は,少なくとも,その主
張に対して反論する機会はあったといえる。原告は,被告による具体的
な主張,立証がなされなかったため,甲1から原告の主張した甲1発明
とは異なる発明が認定されるとは全く予期できなかったのであり(その
ため,審理の再開を求めることもできなかった。),これは,原告に主
張,立証を尽くさせないまま,審理を終結するに至ったといえるから,
原告にとっては不意打ちに当たり,本件の審理は十分に尽くされたとは
いえない。
(オ)以上のとおり,無効審判審判における審理には,重大な手続違背が
ある。
2被告は,本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁書その他の準備書面も提出
しない。
第4当裁判所の判断
1被告は,上記のとおり本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁書その他の準
備書面も提出しないから,請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)
(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は明らかに争わないものとし
て,これを自白したものとみなす。
なお,被告が審判手続において提出した平成21年6月3日付け審判事件答
弁書(甲15)には,「本特許第3692084号については,年金未払いの
ため,平成20年6月24日をもって,権利が消滅しております。そのため,
本件無効審判の請求に対して,本件特許を防御する必要はありません。ついて
は,速やかに審決がなされることを希望します。」旨の記載がある。
2取消事由1(甲1発明認定の誤り)について
(1)本件明細書(甲13)には,特許請求の範囲として,前記第3,1(2)の
記載があるほか,「発明の詳細な説明」として,次の記載がある。
ア従来の技術
「ガードル等のフィット性及び/又は体型補正機能のある衣類は,様々
な型の既製品が市販されており,着用者はその中から目的に応じて体型に
合うものを購入する。ガードルは,前身,後身,股下部及び必要に応じて
股口に連設される脚囲部を備えており,ヒップ部頂部の周長であるヒップ
サイズ,ヒップ部の膨らみ具合であるヒップカップサイズ及びウエストの
最もくびれた部分の周長であるウエストサイズが重要である。」(段落【
0002】)
イ発明が解決しようとする課題
「本発明の目的とするところは,着用者の体型にフィットしたカスタム
サイズの衣類を提供し得るオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメ
イド方式を提供するところにある。また,着用者がカスタムサイズと同様
な計測サンプルを試着することができ,そのフィット感を確認した上で注
文することができる衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメ
イド方式を提供することを目的とする。」(段落【0008】)
ウ課題を解決するための手段
・「また,ヒップの頂部(ヒップの最も太い部分)を通る水平方向の周
長寸法で表されるヒップサイズが同じでも,ヒップの膨らみ具合,つま
り,ヒップカップサイズが異なることが多い。ヒップサイズのみのオー
ダーメイド方式では,顧客のヒップ形状に合わせることができない。ヒ
ップカップサイズは各種あるため,顧客に合ったヒップカップサイズの
カスタムサイズにオーダーできるのが好ましい。」(段落【0016
】)
・「そこで,本発明は,後身のヒップ部にヒップカップサイズを調節可
能なヒップカップ計測手段を設けたボトム計測サンプルを提供するもの
である。この構成によると,ボトム計測サンプルを顧客の身体に当てて
ヒップカップサイズを顧客のヒップカップサイズに調節できる。したが
って,カスタムサイズのヒップカップサイズを有するボトム計測サンプ
ルを試着させることができ,同時にその調節されたヒップカップサイズ
を計測することができる。」(段落【0017】)
・「ここで,ヒップカップサイズとは,(ヒップサイズ)−(脚の付根
の水平方向における周長寸法)で表され,脚の付根の水平方向における
周長が短い程,ヒップの膨らみの具合は大きくなり,ヒップカップサイ
ズは大きくなる。また,ヒップ部とは,後身のうち左右一対のヒップカ
ップ部と,その間の臀裂部とを含む概念であり,ヒップカップとは,臀
部の膨らみを包み込む部位を意味する」(段落【0018】)
・「ヒップカップ計測手段は,ヒップカップサイズを調節する機能と,
その調節量を計測する機能とを併せ持っている。ヒップカップサイズを
調節する機能は,前身の下端縁,後身の下端縁及び股下部の側縁によっ
て囲まれた股口のうち,後身の下端縁からヒップカップ部側に切り込み
を入れて分割し,分割した一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に
止着可能とする態様で発現できる。また,身頃の股口の一部を錐形につ
まんで周方向に折返した折返部を形成し,この折返部を折返した側の股
口に止着し,又は離反可能とする態様により,ヒップカップサイズを調
節する機能を発揮できるようにしてもよい。この折返しの量を変えるこ
とにより,ヒップカップサイズを調節することができる。また,ヒップ
カップ調節量を計測する機能は,ウエスト計測手段と同様な構成によっ
て発現される。」(段落【0019】)
・「…ヒップサイズを変えたボトム計測サンプルを複数種類用意し,着
用者のカスタムサイズに合ったヒップサイズのボトム計測サンプルを選
択して着用させる。そして,ウエスト計測手段,ヒップカップ計測手
段,脚口計測手段及び/又は胴部計測手段により,それぞれのサイズを
顧客のサイズに調節することにより,カスタムサイズとなったボトム計
測サンプルの試着させることができる。同時に,調節されたそれぞれの
サイズを計測することができる。」(段落【0031】)
・「これにより顧客はカスタムサイズのボトム計測サンプルを試着した
上で注文することができるので,着用者の体型に合った衣類を提供でき
るとともに,あらかじめそのフィット感を確認した上で注文することが
できるオーダーメイド方式を提供することができる。また,この方式に
よれば,メジャー等での計測だけでは分からない素材収縮率の調整,体
形補正を意図した修正なども実際の着用感を伴って実施することができ
る。また,同時に,カスタムサイズを計測することができるので,それ
に従ってカスタムサイズの衣類を製造し,提供することができる。」
(段落【0032】)
・「また,ヒップサイズを変えたものさえ複数用意すれば,ウエスト,
ヒップカップ等を調節して,多様な体型に対応することができる。した
がって,ボトム計測サンプル点数が少なくてすみ,保管場所をとらず,
持ち運びも容易となる。ボトムを有する衣類をオーダーメイド方式で店
舗販売する場合の試着式採寸に限らず,出張採寸にも適したオーダーメ
イド用ボトム計測サンプル及びオーダーメイド方式といえる。」(段落
【0033】)
エ発明の効果
・「以上の説明から明らかな通り,本発明の計測サンプルを使用すれ
ば,顧客の体型にフィットした計測サンプルとすることが容易であり,
顧客はカスタムサイズを有する計測サンプルを試着した上で注文するこ
とができるので,着用者の体型に合った衣類を提供できるとともに,あ
らかじめそのフィット感を確認した上で注文することができる利点を有
している。」(段落【0080】)
・「また本発明のオーダーメイド方式によると,顧客はカスタムサイズ
を有する計測サンプルを試着した上で注文することができるので,着用
時にフィット感のある衣類を提供できるとともに,あらかじめそのフィ
ット感を確認した上で注文することができるオーダーメイド方式となし
得たのである。また,このようなオーダーメイド方式によれば,メジャ
ー等での計測だけでは分からない素材収縮率の調整,体形補正を意図し
た修正なども実際の着用感を伴って実施することができる利点も有して
いる。」(段落【0081】)
(2)ところで,本件特許の請求項1は,前記のとおり「身頃のヒップ部にヒ
ップカップサイズを調節可能なヒップカップ計測手段を設けたオーダーメイ
ド用ボトム計測サンプルで,該ヒップカップ計測手段は,前記ヒップ部が股
口からヒップカップ部の略中央に向かって切り込みを入れて分割され,分割
された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能でヒップカップ
サイズ調節可能とされ,前記一片の他片との連結位置にヒップカップサイズ
計測用の目盛が記されたことを特徴とするオーダーメイド用ボトム計測サン
プル。」というものであり,この記載から,ヒップカップ計測手段は,股口
からヒップカップ部の略中央に向かって切り込みを入れて分割され,分割さ
れた一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能とされていること
が認められるから,ヒップカップ計測手段は,左右の各臀部のヒップカップ
サイズを測定するものであり,ここで「調節可能」とされているヒップカッ
プサイズも左右の各臀部のヒップカップサイズをそれぞれ意味し,「ヒップ
カップサイズの調節」とは,左右の各臀部のヒップカップサイズをそれぞれ
個別に調節することを意味することは明らかというべきである。そして,こ
の「ヒップカップサイズの調節」が,個々人の体型に応じて調節するもので
あることも明らかというべきである。
(3)一方,本件明細書には,上記(1)ウのとおり,「…ヒップカップサイズと
は,(ヒップサイズ)−(脚の付根の水平方向における周長寸法)で表さ
れ,脚の付根の水平方向における周長が短い程,ヒップの膨らみの具合は大
きくなり,ヒップカップサイズは大きくなる。また,ヒップ部とは,後身の
うち左右一対のヒップカップ部と,その間の臀裂部とを含む概念であり,ヒ
ップカップとは,臀部の膨らみを包み込む部位を意味する」(段落【001
8】)と記載されているが,これは,脚の付根の水平方向における周長とヒ
ップサイズ及びヒップカップサイズの大きさの一般的な関係について述べた
に過ぎないものと解される。本件特許の請求項1の記載から認められる「ヒ
ップカップサイズの調節」の意義は,上記(2)認定のとおりであって,本件
明細書の上記記載は,この「ヒップカップサイズの調節」の意義の認定を左
右するものとは解されない。
したがって,本件明細書の上記記載を根拠とする,上記(2)の認定に反す
る原告の以下の主張は,いずれも採用することができない。
①本件特許発明1は,少なくとも,ヒップ部における「ヒップサイズ」,
「脚の付根の水平方向における周長寸法」のうち,一箇所又は二箇所の寸
法,すなわち,「ヒップサイズ」及び/又は「脚の付根の水平方向におけ
る周長寸法」を調整できるようにした発明ということができる。
②ヒップカップサイズとは,左右それぞれのヒップカップ部の膨らみ具合
ではなく,ヒップ全体の膨らみ具合を示すものであると解されるから,
「脚の付根の水平方向における周長寸法」は,本件特許の図2のジグザグ
線で囲って示された部位(甲13「図2」参照)の最下方位置において計
測される,水平方向でのヒップ部全周の寸法と解される。
③ヒップカップサイズを,左右それぞれのヒップカップ部の膨らみ具合を
示すものであるとしても,左右それぞれにおいて,水平方向での周長を測
定できるのは,「股間部」に隣接する左右の脚部分であり,この脚部分
は,股口における切り込みの開始位置よりも下方となり,調整のなされな
い部分であるから,この脚部分の周長を測定することに意味はなく,いず
れにしても,「脚の付根の水平方向における周長寸法」は,ヒップ部全体
で計測せざるを得ない。
④審決は,本件特許発明1においては,股口が切り込みによって分割さ
れ,股口におけるサイズ調整が可能であることをもって,ヒップカップサ
イズが調節可能であると解釈していると推測されるが,このような解釈は
正しくない。
(4)ア甲1(特開平8−260206号公報,発明の名称「イージオーダー
化を可能にしたファンデーションおよびその縫製方法」,出願人株式会
社ダッチェス,公開日平成8年10月8日)には,以下の記載がある。
(ア)産業上の利用分野
「本発明は,サイズ調節によるイージオーダー化を可能にしたガード
ル,ボディスーツ,ウェストニッパー,水着等のファンデーションおよ
びその縫製方法に関する。」(段落【0001】)。
(イ)従来の技術
「従来,図4に示したように,ガードル,ボディスーツ,ウェストニ
ッパー,水着等のファンデーション等においては,それらを構成する素
材自身の伸縮性によって僅かな寸法上の柔軟性はあるものの,着用者の
体格の個体差や着用者自身の体格の変化に適応させるためには数種類の
寸法(ボディスーツ等においては図中Fなる寸法が適否を決する。)の
ものを揃える必要があった。」(段落【0002】)。
(ウ)発明が解決しようとする課題
「…本発明では,時間と労力をさほど要することなく安価で簡単に縫
製できて,さらにはデザイン的な組合せ変化をも楽しめるイージオーダ
ー化を可能にしたファンデーションおよびその縫製方法を提供するもの
である。」(段落【0003】)。
(エ)課題を解決するための手段
「上記課題を解決するために,本発明は,少なくともトップ部,ウェ
スト部およびボトム部の3つの部片からなるボディスーツ等のファンデ
ーションにおいて,前記ファンデーションは未縫製の横切断部にて少な
くとも前記3つの部片に分割されて形成されるとともに,これら部片間
の対向する前記各横切断部に隣接して該横切断部の重合度合いを選択し
て調節自在に重合する横縫製代を形成したことを特徴とし,また,前記
各部片のそれぞれに人体の縦方向に沿う縦切断部をさらに設け,これら
各縦切断部に隣接して該縦切断部の重合度合いを選択して調節自在に重
合する縦縫製代を形成したことを特徴とするもので,これらを課題解決
のための手段とするものである。また本発明は,未縫製の横切断部にて
少なくともトップ部,ウェスト部およびボトム部の前記3つの部片に分
割されたボディスーツ等のファンデーションの縫製方法において,これ
ら部片間の対向する前記各横切断部に隣接して形成された該横切断部の
重合度合いを選択して調節自在な横縫製代を重合させて縫製することを
特徴とし,また,前記少なくとも3つのトップ部,ウェスト部およびボ
トム部の各部片に形成された人体の縦方向に沿う縦切断部に隣接して形
成された該縦切断部の重合度合いを選択して調節自在な縦縫製代を重合
させて縫製することを特徴とするもので,これらを課題解決のための手
段とするものである。」(段落【0004】)。
(オ)作用
・「本発明では,少なくともトップ部T,ウェスト部Wおよびボトム
部Bの3つの部片からなるボディスーツ等のファンデーション1にお
いて,前記ファンデーション1は未縫製の横切断部4,5にて少なく
とも前記3つの部片T,W,Bに分割されて形成されるとともに,こ
れら部片T,W,B間の対向する前記各横切断部4,5に隣接して該
横切断部4,5の重合度合いを選択して調節自在に重合する横縫製代
T4,W4およびW5,B5を形成したことにより,未縫製の横切断
部4,5にて少なくともトップ部T,ウェスト部Wおよびボトム部B
の前記3つの部片に分割されて形成された対向する前記各横切断部
4,5に隣接して形成された該横切断部4,5の重合度合いを選択し
て調節自在な横縫製代T4,W4およびW5,B5を重合させて縫製
することができるので,ボディスーツ1の丈(F)を着用者の背丈に
応じて適切に適合させると同時に,前記横縫製代T4,W4およびW
5,B5を人体の前後および左右にて各別にその重合度合いを選択し
て調節して縫製するならば,人体の個体差による体形の曲がりや肉付
きに対しても,きめ細かに適応させることができる。」(段落【00
05】)
・「また,本発明では,前記各部片T,W,Bのそれぞれに人体の縦
方向に沿う縦切断部6をさらに設け,これら各縦切断部6に隣接して
該縦切断部6の重合度合いを選択して調節自在に重合する縦縫製代T
6,W6,B6を形成したことにより,これら縦切断部6の重合度合
いを選択して調節自在な縦縫製代T6,W6,B6を重合させて縫製
することができるので,着用者のバストやウェストおよびヒップ毎の
個体差に応じて,さらにきめ細かに対応することができる。このよう
に,本発明によれば,既成の半製品である分割形成された各部片を準
備するだけで,まるで高価なオーダーメイドによって縫製したかのご
とく着用者に適合したファンデーションを安価に得ることができる。
しかも,異なった生地や色彩の各部片を組み合わせてデザイン的な組
合せ変化をも楽しめる他,例えば,生理用のパンツ部との機能的な組
合せ等によってその利用範囲をさらに拡大することもできる。」(段
落【0006】)。
(カ)実施例
・「…さらに,上記各部片T,W,Bはそれら自体を製品として着用
者に供することもできる他,各部片T,W,Bを試着パーツとして着
用者の寸法取りのみに供する場合には,上記した試着時の各縫製代を
マークしたり,読取り記録をした後,これを製品としての各部片の縫
製代に転記してこれらを縫製することになる。」(段落【0008
】)。
・「…本実施例では,図1の第1実施例のものに加えて,前記各部片
T,W,Bのそれぞれに人体の縦方向に沿う縦切断部6をさらに設
け,これら各縦切断部6には前記実施例の横切断部と同様に,各縦切
断部に隣接して該縦切断部6の重合度合いを選択して調節自在に重合
する縦縫製代T6(トップ部),W6(ウェスト部),B6(ボトム
部)を形成したものである。」(段落【0009】)。
・「…本実施例によれば,ファンデーションの縦寸法および体形の曲
がりや肉付きに対応させることができるばかりでなく,個体差による
バスト,ウェストおよびヒップの各サイズに対してもきめ細かに適応
させて縫製することができるので,各部片T,W,Bについて,あま
り多数のサイズのものを揃える必要がなく,経済的である。」(段落
【0010】)。
・「以上,本発明の各実施例を説明してきたが,本発明の趣旨の範囲
内において,横あるいは縦切断部の位置,形状,数や,横および縦の
縫製代の幅,形状,材質については適宜採用できる他,縫製代の縫製
形態についても,例えば縫製に代えて高周波接合,熱溶着等が採用で
きる。また可能ならばマジックテープ(登録商標)等による接合が各
縫製代に採用できること言うまでもない。」(段落【0011】)。
イ上記アの記載及び甲1の図面の記載からすれば,甲1記載のファンデー
ションは,従来のガードル,ボディスーツ,ウエストニッパー,水着等の
ファンデーション等においては,着用者の体格の個体差や着用者自身の体
格の変化に適応させるために数種類の寸法のものを揃える必要があるとい
う課題を解決するためのもので,少なくともトップ部,ウエスト部及びボ
トム部の三つの部片からなるボディスーツ等のファンデーションにおい
て,未縫製の横切断部にて少なくとも上記三つの部片に分割されて形成さ
れるとともに,これら部片間の対抗する各横切断部に隣接して該横切断部
の重合度合いを選択して調節自在に重なり合わせる横縫製代を形成し,ま
た,各部片のそれぞれに人体の縦方向に沿う縦切断部をさらに設け,これ
らの各縦切断部に隣接して該縦切断部の重合度合いを選択して調節自在に
重なり合わせる縦縫製代を形成して,イージオーダー化を可能にしたもの
であると認められる。
また,上記アの記載及び甲1の図面の記載からすれば,甲1記載のファ
ンデーションのボトム部片Bには,身頃に縦切断部6が設けられ,この縦
切断部6に隣接して該縦切断部6の重合度合いを選択して調節自在に重な
り合わせる縦縫製代B6があるが,縦切断部6は,股開口部3まで達する
ものではなく,左右の各臀部のヒップカップサイズをそれぞれ個別に調節
可能とするものではないから,本件特許発明1における「ヒップカップサ
イズ」の調節を可能とするものではない。
ウなお,原告は,ヒップカップサイズが,左右それぞれのヒップカップ部
の膨らみ具合をいうとしても,上記縦切断部6の重合度合いを調整するこ
とにより,左右それぞれのヒップカップ部に沿った寸法調整もなされるこ
とになり,上記縦切断部6の重合度合いの調整は,いわば,左右それぞれ
のヒップカップ部における寸法調整を一度に行っていることになると主張
するが,上記のとおり,甲1において左右の各臀部のヒップカップサイズ
をそれぞれ個別に調節することができないことは明らかであるから,本件
特許発明1における「ヒップカップサイズの調節」を可能にするものでは
ない。
エ原告は,審決の甲1発明の認定(前記第3,1(3)イ(ア))につき,①
甲1からは,試着パーツとしてのボトム部Bという一まとまりの技術を認
定できるのであるから,本件特許発明1と対比させるに当たり,引用発明
を三つの部片からなるファンデーションであると認定するのは誤ってい
る,②審決の上記認定においては,縦切断部6が延びる位置について言及
されておらず,「…ボトム部Bの縦切断部6は,後面の上縁から下方の股
間部近傍まで延びると考えられるが,少なくとも,左右の脚開口部3,す
なわち股口の縁に達するものではない。」との他の部分の審決の認定(1
4頁下2行∼15頁1行)と整合していないし,甲1発明を,「…体形の
曲がりや肉付きに対してもきめ細かに適応させて縫製できる…」ものと認
定しておきながら(8頁下8行∼下7行),「…着用者のヒップのサイ
ズ,すなわちヒップ部頂部の周長に合わせるものというべき…」(15頁
3行∼4行)と矛盾する認定をしている旨の主張をする。
しかし,甲1発明の技術的意義は,上記イのとおり,少なくともトップ
部,ウエスト部及びボトム部の三つの部片からなるボディスーツ等のファ
ンデーションにおいて,未縫製の横切断部にて少なくとも上記三つの部片
に分割されて形成されるとともに,これら部片間の対抗する各横切断部に
隣接して該横切断部の重合度合いを選択して調節自在に重なり合わせる横
縫製代を形成し,また,各部片のそれぞれに人体の縦方向に沿う縦切断部
をさらに設け,これらの各縦切断部に隣接して該縦切断部の重合度合いを
選択して調節自在に重なり合わせる縦縫製代を形成することにあるのであ
るから,ボトム部Bのみを取り出して認定することは相当ではなく,この
点に関する審決の認定に誤りがあるということはできない。
また,審決の甲1発明の認定(前記第3,1(3)イ(ア))において縦切
断部6が延びる位置について言及していないのに対し,審決の他の部分に
おいて縦切断部6が延びる位置について言及しているからといって,審決
の判断が整合しないということはないし,甲1発明を「…体形の曲がりや
肉付きに対してもきめ細かに適応させて縫製できる…」ものと認定する
(8頁下8行∼下7行)一方で,「…着用者のヒップのサイズ,すなわち
ヒップ部頂部の周長に合わせるものというべき…」(15頁3行∼4行)
と認定することが矛盾しているということもできない。
オしたがって,審決の甲1発明の認定(前記第3,1(3)イ(ア))に誤り
があるということはできないから,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(一致点・相違点認定の誤り,相違点の判断の誤り)について
原告は,甲1発明がヒップカップサイズの調節がなされるものであることを
前提として,審決の一致点・相違点認定及び相違点の判断に誤りがあると主張
するが,前記2のとおり甲1発明は本件特許発明1における「ヒップカップサ
イズの調節」を可能とするものということはできないから,原告の上記主張を
採用することはできない。
したがって,取消事由2は理由がない。
4取消事由3(本件特許発明2∼12の進歩性判断の誤り)について
原告は,取消事由1及び2に理由があることを前提として,本件特許発明1
は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が
容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明2∼12も当業
者が容易に発明をすることができたものであり,審決の本件特許発明2∼12
の進歩性判断には誤りがあると主張するが,前記2,3のとおり,取消事由1
及び2には理由がないから,取消事由3も理由がない。
5取消事由4(審決の論理の誤り)について
(1)原告は,甲1発明においては,「…ボトム部Bの縦切断部6は,後面の
上縁から下方の股間部近傍まで延びる…」(審決14頁下2行∼下1行)の
であるから,本件特許発明1と甲1発明とは,「ヒップ部が切り込みを入れ
て分割され」ている点でも一致し,また,甲1に,「…また可能ならばマジ
ックテープ(登録商標)等による接合が各縫製代に採用できること言うまで
もない。」(段落【0011】)と記載されていることからすると,甲1発
明においても,「分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止
着可能で」あるから,本件特許発明1と甲1発明とは,「分割された一片と
他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能で」ある点でも一致する,と
主張する。
確かに,原告が主張するように,本件特許発明1と甲1発明とは,①「ヒ
ップ部が切り込みを入れて分割され」ている点で一致し,②「分割された一
片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能で」ある点でも一致する
ということができるが,これらは「身頃のヒップ部におけるサイズを調節可
能な手段」ということができる。
審決は,前記第3,1(3)イ(イ)のとおり,本件特許発明1と甲1発明の
一致点を「『身頃のヒップ部にサイズを調節可能な手段を設けたオーダーメ
イド用ボトム計測サンプル』である点」と認定しているのであるから,上記
の①②の各点は,この一致点の判断に含まれているということができる。
また,身頃のヒップ部にサイズを調節可能な計測手段を設けたとはいって
も,該計測手段は,本件特許発明1では,「ヒップ部が股口からヒップカッ
プ部の略中央に向かって切り込みを入れて分割され,分割された一片と他片
とが連絡部材を介して着脱自在に止着可能」としたものであるのに対し,甲
1発明では,「各部片T,W,Bのそれぞれに人体の縦方向に沿う縦切断部
6をさらに設け,縦切断部6の重合度合いを選択して調節自在に重合するマ
ジックテープ等の縦縫製代T6,W6,B6を形成」したものであって,切
り込みを入れて分割し,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自
在に止着可能とされている具体的な態様は大きく異なるのであるから,審決
が認定している上記の点に加えて,「ヒップ部が切り込みを入れて分割し,
分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能である」と
いう点を一致点とすることが相当であるとはいえない。
したがって,上記の①②の各点を個別に取り上げて一致点と認定しなかっ
たからといって,審決の一致点の認定が誤っているということはできない
し,相違点の認定も誤っているということはできない。
原告は,本件特許発明1と甲1発明との一致点は,「身頃のヒップ部にサ
イズを調節可能な計測手段を設けたオーダーメイド用ボトム計測サンプル
で,該計測手段は,前記ヒップ部が切り込みを入れて分割され,分割された
一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能でサイズ調節可能とさ
れたことを特徴とするオーダーメイド用ボトム計測サンプル。」となるはず
であり,相違点は,(A’)切り込みが,前者においては,ヒップカップサ
イズを調整可能とするために,股口からヒップカップ部の略中央に向かって
いるのに対し,後者においては,ヒップサイズを調整可能とするために,人
体の縦方向に沿う縦切断部である点,(B’)前者においては,一片の他辺
との連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛が記されているのに対し,
後者においては,目盛が記されていない点,となるはずである,と主張する
が,この主張は,上記述べたところに照らし採用することはできない。
また,原告は,切り込み及び連結部材は調節手段として周知のものである
(甲3,4)とも主張するが,甲3,4に開示されている技術は,後記(3)
のようなものであって,本件特許発明1とは大きく異なるから,上記認定を
左右するものではない。
(2)また甲2(国際公開99/58007号,発明の名称「人体の支持・補
正機構及びこれを備えた衣服機構」,出願人A,国際公開日1999年[
平成11年]11月18日)には,「…本発明は,伸縮素材を用い,正中位
の形に即して左右身頃の裁断線を設け,左右身頃の正中位を挟む股間部付近
は,接合前の状態で互いに遊離した形状とし,前記左右身頃の接合によって
股間部と左右大腿部との間の形状に準じた形成をなし,臀突位上の臀突部よ
り臀部下辺に至る部位に切替えダーツ部を設けて臀部形状に準じた形状と
し,着用時に機構全体に引張(緊張)関係が生じ,臀列部を含めボトム各部
に密接すると共に,腹部及び臀部下辺に補正を促す面圧力が加わるボトム機
構を提供するものである。」(13頁下2行∼14頁5行)及び「…臀突位
53上の臀突部54の下辺には臀部の丸みに準じた形状を達成するために,
ダーツ65が設けられている。」(28頁3行∼4行)の記載があり,図2
0,図21及び図22には,臀突部54の下辺に設けられたダーツ65が図
示されているから,ダーツ65は,股口からヒップカップ部の略中央に向か
う切り込みということができるが,分割された一片と他片とを連結部材を介
して着脱自在に止着可能とすることや計測のために用いることは,記載も示
唆もされていない。また,ダーツ65は,標準的な臀部の丸みに準じた形状
とするためのものであると解される。そうすると,甲2には,個々人の体型
に応じてヒップカップサイズを調節することは記載されておらず,示唆もさ
れていないことになる。
また甲1には,前記2(4)ア(カ)のとおり,縦切断部の位置,形状を変更
できる旨が記載されているが,具体的にどのような変更できるかについて
は,示唆さえされていない。また,甲1には,切り込み(ダーツ)がヒップ
サイズの計測のために用いられること,「ヒップ部が切り込みを入れて分割
し,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能であ
る」ことが記載されており,それは個々人の体型に応じて調節するものであ
るとしても,その具体的な態様は,前記(1)のとおり,本件特許発明1とは
大きく異なるものであり,また甲1発明はそもそも本件特許発明1における
「ヒップカップサイズの調節」を可能とするものではない。
そうすると,当業者が甲1発明に甲2記載の発明を組み合わせて本件特許
発明1を容易に想到することができるということはないことになる。
なお,原告は,ボトムにおいては,種々の部位において,調整可能部分を
設けることが知られているとして,甲2,4,10の1,11を引用してい
るが,甲2については,上記のとおりであるし,甲4,10の1,11は,
それぞれ後記(3)認定のようなものであって,それらを併せ考慮したとして
も,上記判断が左右されるものではない。
(3)甲3(実公昭51−9368号公報,考案の名称「イージーオーダー用採
寸合せ基本ズボン」,出願人大賀株式会社,公告日昭和51年3月12
日)には,ウエスト寸法を測定するためのイージーオーダー用採寸合せ基本
ズボン体に関する発明が記載されており,甲4(米国特許第3763866
号明細書,1973年10月9日発行)には,右太もも用調整可能サポート
50a,左太もも用調整可能サポート50b及び前面の中央上方端の裂け目
に形成されて重ね合わせることができるフラップ10e,10fが記載され
ているが,いずれも個々人の体型に応じてヒップカップサイズを調節するこ
とが記載,示唆されているものではない。
甲5(特開平8−158111号公報,発明の名称「ファウンデーショ
ン」,出願人株式会社ダッチェス,公開日平成8年6月18日),甲6
(「Dublev(デューブルベ)」と称する株式会社ワコールのセミオé
ーダーシステムに関するカタログ,平成12年8月1日発行),甲7(特開
平2−259102号公報,発明の名称「着脱自在のブラジャー」,出願人
B,公開日平成2年10月19日),甲8(「手作りランジェリー」レデ
ィブティックシリーズ通巻1404号,1999年[平成11年]3月20
日発行),甲12の1(実願昭50−84855号[実開昭52−3835
号]のマイクロフィルム,考案の名称「X字形基本によるブラジャー用パタ
ーン」,出願人C,公開日昭和52年1月12日)は,いずれもブラジャ
ーに関するものであり,甲9(近藤れん子「近藤れん子の立体裁断と基礎知
識」,1998年[平成10年]12月15日五版株式会社モードェモード
社発行)は,ダーツを用いて乳房に応じた衣服形状を調整することが記載さ
れたものであって,いずれも個々人の体型に応じてヒップカップサイズを調
節することが記載,示唆されているものではない。
甲10の1(実願昭50−21222号[実開昭51−104125号]
のマイクロフィルム,考案の名称「ヒップ部にダーツを有するガードル」,
出願人ワコール株式会社,公開日昭和51年8月20日)には,「…股布
付け位置附近の下方よりヒップの山に向ってダーツを形成したので着用時の
アウター部を美麗に保持すると同時に所謂ヒップの山附近にダーツによるゆ
とり部5が招来し,着用時のヒップが押圧されない自然な丸味が期待できる
のである。」(明細書3頁1行∼6行)との記載があり,図1及び図2に
は,下方よりヒップの山方向に向かって左右同長に切欠したダーツ3が図示
されているが,このダーツ3は,股口から設けられたものでない上,分割さ
れた一片と他片とを連結部材を介して着脱自在に止着可能とすることや計測
のために用いることは,記載も示唆もされていないのであって,個々人の体
型に応じてヒップカップサイズを調節することが記載,示唆されているもの
ではない。
甲11(特開平9−209203号公報,発明の名称「ガードル」,出願
人グンゼ株式会社,公開日平成9年8月12日)には,「…後身頃3にお
ける臀部4の部位で,且つ裾部10付近にダーツ12を形成されることによ
り,臀部4の部位に立体的な膨らみ部が形成されて臀部の包み込み効果並び
に補正や造形効果が向上し,着用感の優れたガードルが得られるのであ
る。」(段落【0006】)との記載があり,図1及び図2には,裾部付近
に設けられたダーツ12が図示されているが,分割された一片と他片とを連
結部材を介して着脱自在に止着可能とすることや計測のために用いること
は,記載も示唆もされていないのであって,個々人の体型に応じてヒップカ
ップサイズを調節することが記載,示唆されているものではない。
したがって,甲1発明に上記の各発明を適用したとしても,個々人の体型
に応じてヒップカップサイズを調節するという本件特許発明1を想起するこ
とができるものではない。
(4)以上のとおり,本件特許発明1は,甲1∼12に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
なお,甲16(特開平8−311704号公報,発明の名称「ガード
ル」,出願人株式会社カドリールニシダ,公開日平成8年11月26日)
及び甲17(特開2001−49503号公報,発明の名称「ボトム衣類及
びその製造方法」,出願人グンゼ株式会社,公開日平成13年2月20
日)から,本件特許出願当時(平成14年2月13日)ヒップカップという
概念が知られていたことが認められ,また,上記甲17には,ギャザー8に
よってヒップカップ部28が前方に引っ張られることにより臀部の左右の膨
らみを美しく整形できる点が記載されており,さらに,甲18(実願昭57
−31899号[実開昭58−134701号]のマイクロフィルム,発明
の名称「体型採寸用立体メジャー」,出願人日本訪販商事株式会社,公開
日昭和58年9月10日)から,本件特許出願当時,注文製作において臀
突位部及び脚の付け根の水平方向における周長寸法を計測することが知られ
ていたことが認められるとしても,既に述べたところからすると,本件特許
発明1は当業者が容易に発明をすることができたものということはできない
との上記判断を左右するものではない。
(5)したがって,本件特許発明1が容易に発明をすることができたものでは
ないとの審決の判断に誤りはなく,それを前提とする,本件特許発明2∼1
2についても容易に発明をすることができたものではないとの審決の判断に
も誤りはないから,取消事由4は理由がない。
6取消事由5(手続違背)について
(1)原告は,無効審判請求において,甲1発明は,ヒップカップサイズを計
測するものであると主張したところ,審決は,甲1発明は,ヒップカップサ
イズを計測せず,ヒップサイズを計測するものであると認定し,この認定を
前提として,本件特許発明1は進歩性を有していると判断した,と主張す
る。
しかし,そうであるとしても,審決は,原告が引用例として主張した甲1
(特開平8−260206号公報)について,その記載から,その発明の意
義を解釈した上,それを本件特許発明1と対比して進歩性の有無について判
断していたのであるから,原告が申し立てた無効理由について審理,判断し
たものであり,その証拠である甲1も原告が提出したものであって,職権で
証拠調べをしたということもできない。
したがって,特許法153条2項又は特許法150条5項の規定により原
告に意見を述べる機会を与えるべきであったということはできず,この点に
手続違背があるということはできない。
(2)また原告は,特許が無効である理由として,本件特許発明1は甲1∼3
に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あることを申し立て,このことを論証する過程で,衣類にダーツを設けるこ
とが慣用手段であることを,甲2,甲9,甲10,甲11,甲12により立
証しているところ,審決は,「…本件特許発明1は,本件出願前に日本国内
において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第12号証に記載され
た発明に基いて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。」
(16頁18行∼20行)と判断している,と主張する。
しかし,審決は,原告の主張する無効理由について「本件特許発明1は,
甲1∼3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
た」旨の主張であると摘示した(4頁21行∼5頁下2行)上,本件特許発
明1と甲1発明を対比し(12頁下2行∼15頁18行),その相違点につ
いて,甲2,3,9∼12を考慮しても当業者が容易に発明できたものであ
るとはいえない旨の判断をしている(15頁19行∼16頁17行)から,
原告の主張する無効理由について判断しているのであって,「…本件特許発
明1は,本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証
ないし甲第12号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明できた
ものであるとはいえない。」(16頁18行∼20行)との判断部分は,そ
の余の甲号証を考慮しても,本件特許発明1は当業者が容易に発明できたも
のであるとはいえないことを念のために示したに過ぎないものと解される。
したがって,審決が当事者が申し立てない無効理由について職権で審理,
判断したということはできないし,甲4∼12は原告が提出した証拠であ
り,職権による証拠調べを行ったともいえないから,特許法153条2項又
は特許法150条5項の規定により原告に意見を述べる機会を与えるべきで
あったということはできず,この点に手続違背があるということはできな
い。
(3)さらに,原告は,被告による具体的な主張,立証がなされなかったた
め,甲1から原告の主張した甲1発明とは異なる発明が認定されるとは全く
予期できなかったのであり,これは,原告に主張,立証を尽くさせないまま
審理を終結するに至ったといえるから,原告にとっては不意打ちに当たり,
本件の審理は十分に尽くされたとはいえない,と主張する。
しかし,甲1は,原告が提出した証拠であるから,その技術的意義につい
ては,原告において十分検討の上,主張する機会があったものである。した
がって,審決の判断が不意打ちに当たるとか,無効審判請求の審理が十分に
尽くされたとはいえないということはできず,この点に手続違背があるとい
うことはできない。
(4)以上のとおり,取消事由5は理由がない。
7結論
以上の次第で,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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