弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
     右部分につき、被上告人の本件控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人大蔵敏彦の上告理由第三点について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 本件土地は、もとD工業株式会社の所有であつたが、同社が破産したため破
産管財人の管理に属していたところ、上告人は、昭和四八年八月ころ破産管財人か
ら右土地の処分を委ねられていたEを通じてこれを一億〇五〇〇万円で買い受けた。
 2 Eは、上告人の承諾のもとに、同年九月二九日F建設工業株式会社(以下「
訴外会社」という。)との間で、代金を一億〇五〇〇万円とするが、坪当りの価格
を五七一三円とし、後日実測のうえ精算するとの約定で本件土地につき売買契約を
締結し、訴外会社は同日手付金として金額九〇〇〇万円の小切手をEに交付し、E
はこれを上告人に交付した。
 3 Eが自己の名で右売買契約をしたのは、本件土地にEを権利者とする所有権
移転仮登記がされており、Eにおいて破産管財人との関係を慮つて、そのようにす
ることを主張したためである。
 4 上告人は、翌三〇日Eが訴外会社に働きかけて本件土地の実測面積を実際よ
りも少なくし、その分の代金相当額を両者で折半しようとしているとの情報を得た
ので、Eとの間で本件土地の所有者が上告人である旨の覚書を取り交わすとともに、
Eをして訴外会社からの残代金受領のための委任状を差し入れさせたうえ、同年一
〇月二六日訴外会社に対し、本件土地の所有者は上告人であるから残代金を上告人
に支払つて欲しい旨並びに所有者が上告人であることの証拠として右の覚書及び委
任状の写を別便で送る旨を通知した。
 5 訴外会社は、売買の際Eから、測量士を知らないので訴外会社が知つていれ
ば頼んで欲しい旨の申出を受け、Eの承諾のもとに、自らの名義で土地家屋調査士
である被上告人に対して本件土地の測量を依頼した。
 6 現地での測量は同年一〇月中旬に行われたが、現地に行つたのはE及び訴外
会社の代表者であるGだけであつたので、被上告人は、隣接地所有者の立会を求め
て境界を確認してからでなければ測量できないと言つて断つたが、Eから「測量図
は取引の資料にするにすぎないので、取りあえず指示する側点に従つて測量し、そ
の中に食い込む形になる守屋某所有の土地についてはその公簿面積を差し引くとい
う方法で本件土地の面積を算出して欲しい。隣接地との境界は後日確定する。」と
いわれたので、Eの指示どおりに測量して、本件土地の面積を一万五一九一坪と算
出し、同月二五日ころ訴外会社に測量図及び面積計算書を交付した。
 7 上告人は、訴外会社を通じて右側量図を入手したが、いくつかの疑問点があ
り、改めて独自に専門業者に依頼して測量してもらつたところ、被上告人の測量結
果よりも約七二〇坪多かつたため、昭和四九年三、四月ころ訴外会社の事務所に上
告人、被上告人、Gら関係者が参集した席上、右測量を担当した業者をして被上告
人の採つた測量方法が当を得ていないことを説明させ、被上告人もその測量が前記
の方法によつたものであることを認めたので、訴外会社に対し上告人の依頼した専
門業者の測量結果に基づいて残代金の精算をするよう要求したが、訴外会社は被上
告人の測量結果を盾にとつてこれに応じようとしなかつた。
 8 そこで、上告人は、昭和五〇年四月二一日付内容証明郵便で、被上告人に測
量を依頼したのは上告人であることを前提として、その測量結果に誤りがあつたた
め損害を被つたことを理由に五〇〇万円の支払を請求したが、被上告人は、測量は
訴外会社の依頼に基づきEの指示に従つて実施したもので、上告人との間には直接
のかかわりがないことを理由に右請求を拒絶した。
 9 なお、Eと訴外会社との間では、同年六月一〇日ころ両者が改めて依頼した
別の業者による測量結果に基づき、上告人には内密にして残代金を精算した。
 10 上告人は、被上告人が上告人の依頼に基づき本件土地の測量図を作成した
際過小に測量したため、実際の面積より不足する分の土地代金五四四万五〇〇〇円
をもらえず同額の損害を被つたとして、被上告人に対して損害賠償を求める前訴を
提起したが、被上告人に測量を依頼したのは訴外会社であつて上告人ではないこと
を理由として、昭和五五年七月一八日上告人敗訴の第一審判決が言い渡され、右判
決は昭和五七年九月一四日上告人の控訴取下により確定した。
 11 上告人は、前訴の提起当時、訴外会社に対する本件土地の売主はEではな
く上告人であり、被上告人に対する測量の依頼も訴外会社を通じて上告人がしたも
のであると思つていたが、これは上告人が本件土地の実質上の所有者であつたため
である。
 12 被上告人は、前訴の追行を弁護士に委任し、その報酬等として八〇万円を
支払つた。
 二 原審は、右事実関係のもとにおいて、被上告人の実施した測量結果により算
出された本件土地の面積が実際のそれより少なかつたからといつて、上告人が被上
告人に対し、委任、請負等の契約上の責任はもとより、不法行為上の責任も問いえ
ないことは明らかであり、上告人が前訴において敗訴したことは当然のことである
としたうえ、前訴の提起に先立ち、まず、被上告人に対し測量図等が何人のどのよ
うな指示に基づいて作成されたかについて事実の確認をすることが通常人の採るべ
き常識に即した措置というべきところ、上告人が右のような措置を採つていれば、
容易に測量図等が作成されるまでの経過事実を把握することができ、被上告人に対
して損害賠償を請求することが本来筋違いであることを知りえたものというべきで
あるのに、上告人は右の確認をすることなくいきなり前訴を提起したのであるから、
前訴の提起は被上告人に対する不法行為になるとし、上告人は被上告人に対し、被
上告人が前訴の追行を委任した弁護士に支払つた報酬等相当の八〇万円を損害賠償
として支払う義務がある旨判示している。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは、法治国家
の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなけ
ればならず、不法行為の成否を判断するにあたつては、いやしくも裁判制度の利用
を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のこと
である。したがつて、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として
正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによつて、直ちに当
該訴えの提起をもつて違法ということはできないというべきである。一方、訴えを
提起された者にとつては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任
しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応
訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあ
るのもやむをえないところである。
 以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合に
おいて、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟におい
て提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律
的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれ
ば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起
が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる
ものと解するのが相当である。けだし、訴えを提起する際に、提訴者において、自
己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要
請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果とな
り妥当でないからである。
 これを本件についてみるに、原審の確定した事実関係は前記のとおりであり、上
告人は、被上告人が上告人の依頼に基づき本件土地の測量図を作成した際過小に測
量したため、実際の面積より不足する分について土地代金をもらえず損害を被つた
と主張し、被上告人に対して損害賠償を求める前訴を提起し、被上告人に実際に測
量を依頼したのは訴外会社であつて上告人ではないことを理由とする敗訴判決を受
けたが、前訴提起の当時、訴外会社に本件土地を売り渡したのは上告人で、被上告
人に対する測量の依頼も訴外会社を通じて上告人がしたことであつて、被上告人の
誤つた測量により損害を被つたと考えていたところ、本件土地が上告人の買い受け
たもので、Eは、破産管財人との関係を慮り、上告人の承諾を得たうえ自己の名で
これを訴外会社に売り渡す契約をしたのであり、しかも、右契約は精算のため後日
測量することを前提としていたのであるから、実質上、Eが上告人の代理人として
売買契約及び測量依頼をしたものと考える余地もないではないこと、上告人が、E
において訴外会社に働きかけて本件土地の面積を実際の面積よりも少なくし、その
分の代金相当額を訴外会社と折半しようとしているとの情報を得て、訴外会社に対
し、本件土地の所有者は上告人であるから残代金を支払つて欲しい旨の通知をして
いたのに、訴外会社が被上告人の測量結果を盾にとつて精算に応じようとしなかつ
たことなどの事情を考慮すると、上告人が被上告人に対して損害賠償請求権を有し
ないことを知つていたということはできないのみならず、いまだ通常人であれば容
易にそのことを知りえたともいえないので、被上告人に対して測量図等が何人のど
のような依頼や指示に基づいて作成されたかという点につき更に事実を確認しなか
つたからといつて、上告人のした前訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著し
く相当性を欠くものとはいえず、したがつて、被上告人に対する違法な行為である
とはいえないから、被上告人に対する不法行為になるものではないというべきであ
る。そうすると、原審の前記判断には法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法
が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、
原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した前記
の事実関係及び右に説示したところによれば、被上告人の本訴請求は理由がないか
ら、これを棄却した第一審判決は相当であり、被上告人の本件控訴は理由がないの
で棄却すべきである。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇八条一号、三九六条、
三八四条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長   島       敦
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    坂   上   壽   夫

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