弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
    一 原判決中、上告人・附帯被上告人の被上告人・附帯被上告人B1株式
会社に対する請求のうち、金四五万円及びこれに対する昭和五三年一一月一日から
完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める部分につき、原判決を破棄
し、第一審判決を取り消す。
    同被上告人・附帯被上告人は、上告人・附帯被上告人に対し、金四五万円
及びこれに対する昭和五三年一一月一日から完済に至るまで年五分の割合による金
員を支払え。
    二 原判決中、被上告人B2火災海上保険株式会社の上告人・附帯被上告
人に対する遅延損害金請求のうち、年五分の割合を超えて請求を認容した部分につ
き、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
    右部分につき、同被上告人の請求を棄却する。
    三 原判決中、上告人・附帯被上告人の被上告人・附帯上告人B3火災海
上保険株式会社に対する本件上告及び附帯上告人・被上告人B3火災海上保険株式
会社の附帯被上告人・被上告人B1株式会社に対する請求のうち、金五六三万〇五
四〇円に対する昭和五五年二月二九日から同年三月一九日までの遅延損害金請求を
棄却した部分に係る本件附帯上告をいずれも却下する。
    四 その余の本件上告及び本件附帯上告をいずれも棄却する。
    五 訴訟の総費用は、上告人・附帯被上告人と被上告人・附帯被上告人B
1株式会社との間に生じたものはこれを四分し、その一を同被上告人・附帯被上告
人の、その余を上告人・附帯被上告人の負担とし、被上告人・附帯上告人B3火災
海上保険株式会社と上告人・附帯被上告人及び被上告人・附帯被上告人B1株式会
社との間に生じたものはこれを五分し、その一を同被上告人・附帯上告人の、その
余を上告人・附帯被上告人及び同被上告人・附帯被上告人の負担とし、上告人・附
帯被上告人と被上告人B2火災海上保険株式会社との間に生じたものはこれを三分
し、その一を同被上告人の、その余を上告人・附帯被上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告代理人笠井眞一の上告理由及び附帯上告代理人藤内博の上告理由につい

  原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、上告人・附帯被上告人(以下
「上告人」という。)の側にも過失があつたとして過失相殺を施した原審の判断は、
正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、
独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することがで
きない。
 二 上告人は、原判決中、被上告人・附帯上告人B3火災海上保険株式会社(以
下「附帯上告人」という。)に対する本件上告について、上告理由を記載した書面
を提出しないし、附帯上告人は、原判決中、附帯被上告人・被上告人B1株式会社
(以下「被上告人B1」という。)に対する請求のうち、認容金額の内金である五
六三万〇五四〇円に対する昭和五五年二月二九日から同年三月一九日までの年五分
の割合による遅延損害金請求を棄却した部分に係る本件附帯上告について、上告理
由を記載した書面を提出しない。
 三 職権によつて調査するに、原判決は、次のとおり法令の解釈適用に誤りがあ
り、一部破棄を免れないものというべきである。
 1 原審は、(一) 上告人は、D株式会社から、同社所有の冷凍イカ二万五三四
四キログラムを岩手県大船渡市から北海道釧路市まで運送することを依頼されてこ
れを引き受け、右冷凍イカを上告人所有の保冷車(最大積載量八〇〇〇キログラム。
以下「本件車両」という。)に積み込み、従業員のE運転手をしてその運送を担当
させた、(二) 上告人は、昭和五三年五月三〇日、E運転手を介し、被上告人B1
との間で、前記の冷凍イカを積載した本件車両を青森県a港から北海道b港まで被
上告人B1所有のフエリーボート「シルバークイーン号」で海上運送する旨の本件
運送契約を締結した、(三) 右フエリーボートは、同日一二時、a港を出港したが、
同日一六時三〇分ころ、c沖海上において、天候の急変に遭遇し、これに起因する
船体の大きな動揺により船首部分に保管中の本件車両がその場に横転し、その際の
本件車両の反復移動、接触等の衝撃により、本件車両の周囲に保管中の車両六台に
接触してこれらを毀損させるとともに、本件車両も車体、運転席、荷台等が破損し
全損となるという本件事故が発生した、(四) 本件事故による本件車両の車両損害
は三九〇万円である、(五) 本件事故の発生については、被上告人B1側には、船
長による車両の転倒防止装置の装着作業の遅滞及び本件車両の異常な過積状態の看
過の点に過失があり、上告人側には、E運転手による異常な過積をした車両の運送
申込とその使用者である上告人によるその容認の点で過失がある、(六) 附帯上告
人は、昭和五六年三月二七日、上告人に対し、本件車両について、上告人を被保険
者として締結していた自動車保険契約に基づき、本件車両の損害填補として、保険
金三〇〇万円を支払つた、(七) 本件事故における過失割合は、右過失の程度にか
んがみ、上告人五割、被上告人B1五割と認めるのが相当である、との事実関係を
適法に確定したうえ、本件車両の全損により上告人の被つた損害は前記三九〇万円
の五割の一九五万円になるところ、附帯上告人から本件車両損害の保険金として支
払を受けた前記三〇〇万円を損益相殺としてこれから控除すると、右損害はすべて
填補されたことになる、と判断して、上告人の本件運送契約の債務不履行を理由と
する本件車両損害に関する賠償請求を棄却すべきものとしている。
 しかしながら、原審の右の判断を是認することはできない。その理由は次のとお
りである。
 損害保険において、保険事故による損害が生じたことにより、被保険者が第三者
に対して権利を取得した場合において、保険者が被保険者に損害を填補したときは、
保険者は、その填補した金額を限度として被保険者が第三者に対して有する権利を
代位取得する(商法六六二条一項)ものであるが、保険金額が保険価額(損害額)
に達しない一部保険の場合において、被保険者が第三者に対して有する権利が損害
額より少ないときは、一部保険の保険者は、填補した金額の全額について被保険者
が第三者に対して有する権利を代位取得することはできず、一部保険の比例分担の
原則に従い、填補した金額の損害額に対する割合に応じて、被保険者が第三者に対
して有する権利を代位取得することができるにとどまるものと解するのが相当であ
る。
 これを本件についてみるに、前記の事実関係によれば、本件車両の損害は三九〇
万円であるのに、附帯上告人が上告人に対し支払つた保険金額は三〇〇万円であり、
上告人の被上告人B1に対する損害賠償請求権は過失相殺により一九五万円である
というのであるから、一部保険の保険者である附帯上告人は、前記の説示に照らし、
被保険者である上告人の被上告人B1に対する一九五万円の請求権を、保険金額三
〇〇万円の本件車両の損害額三九〇万円に対する割合に応じて、すなわち一五〇万
円の限度で代位取得するにとどまるものというべきであつて、上告人は、その反面
として、右金額の限度で被上告人B1に対する請求権を喪失するものの、残額の四
五万円については、なお右請求権を保有しているものということができる。そうす
ると、上告人の被上告人B1に対する請求のうち、本件車両の損害として右四五万
円及びこれに対する同被上告人に対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな
昭和五三年一一月一日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を
求める請求部分は認容すべきものといわなければならない。したがつて、前記理由
により右部分の請求をも棄却すべきものとした原判決には法令の解釈適用を誤つた
違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかというべきであるから、右
部分につき、原判決は破棄を免れず、第一審判決は取り消すべきものであり、前記
の説示に照らし、上告人の右請求は認容すべきである。
 2 原審は、前記事実のほか、(一) 被上告人B2火災海上保険株式会社(以下
「被上告人B2火災」という。)は、昭和五三年四月一〇日、被上告人B1との間
で、被保険者を同被上告人とし、前記フエリーボートの運送に際し発生することあ
るべき事故により生ずる損害を填補するため、自動車運送船賠償責任保険契約を締
結した、(二) 本件事故により、第一審判決別表記載の各被害者に対し、同表被害
額欄記載のとおりの損害が発生した、(三) 被上告人B2火災は、右保険契約に基
づき、右各被害者に対し、本件事故によつて生じた損害の填補として同表支払保険
金欄記載のとおり各保険金合計一五一七万七三一七円を支払つた、との事実を適法
に確定している。右事実関係によると、被上告人B2火災は、被保険者である被上
告人B1が上告人に対して求償し得べき範囲内において取得した、前記被害者らの
上告人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を保険代位により取得したものと
いうことができるから、右支払保険金合計額の五割に相当する金額の限度で被上告
人B2火災の上告人に対する請求を認容すべきものとした原審の判断は、結論にお
いて是認することができるところ、原審は、右の認容額に対する遅延損害金として、
昭和五四年一一月二日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払を命じて
いる。
 しかしながら、本訴において認容された被上告人B2火災の請求債権は、同被上
告人が保険代位により取得した不法行為に基づく損害賠償請求権にほかならないの
であるから、これをもつて商行為によつて生じた債権ということはできず、したが
つて、これに対する遅延損害金の利率につき商法五一四条を適用すべき根拠に欠け
るものであり、結局前記金員に付すべき遅延損害金は、民法所定の年五分の割合の
限度で認められるにとどまるものというべきである。そうすると、被上告人B2火
災の上告人に対する遅延損害金請求のうち、年五分の割合を超える部分の請求をも
認容すべきものとした原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法は
判決に影響を及ぼすことが明らかというべきであるから、右部分につき、原判決は
破棄を免れず、第一審判決は取り消すべきものであり、前記説示に照らし、被上告
人B2火災の前記請求部分は棄却すべきである。
 四 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条一項、三九九条の
三、三九九条一項二号、九六条、九三条、九二条、八九条に従い、裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一
            裁判官    林       藤 之 輔

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