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裁判例


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主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2浅草税務署長が控訴人に対して平成20年3月14日付けでした平成16年
分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額2億4673万3649円及び納
付すべき税額549万9600円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税
賦課決定処分を取り消す。
3浅草税務署長が控訴人に対して平成20年3月14日付けでした平成17年
分の所得税に係る更正処分(同年12月24日付け減額更正処分により一部取
り消された後のもの)のうち総所得金額マイナス7億7028万2066円を
超える部分及び還付金の額に相当する税額6508万7940円を下回る部分
並びに過少申告加算税賦課決定処分(同年12月24日付け変更決定処分によ
り一部取り消された後のもの)を取り消す。
4浅草税務署長が控訴人に対して平成21年2月27日付けでした平成19年
分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額0円を超える部分及び還付金の額
に相当する税額4616万7528円を下回る部分並びに過少申告加算税賦課
決定処分を取り消す。
5国税不服審判所長が控訴人に対して平成21年8月28日付けでした前3項
の各処分に係る審査請求に対する裁決を取り消す。
6訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,自らの経営する病院において不正又は不当な診療報酬請求をしてこ
れを受領したとして,その返還債務を負うとともに,健康保険法等に基づき,
不正請求に係る加算金を課された控訴人が,平成16年分,同17年分及び同
19年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の申告において,事業所得
の金額の計算上,上記返還債務の額を総収入金額から控除し,又は必要経費に
算入し,また,上記加算金の額を必要経費に算入するなどしたところ,浅草税
務署長から,上記返還債務のうち現実に履行していない部分の金額を総収入金
額から控除し又は必要経費に算入することはできず,また,上記加算金の金額
を必要経費に算入することはできないなどとして,本件各年分につきそれぞれ
更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたため,控訴人が,被控訴人
に対し,上記各処分の取消しを求めるとともに,上記各処分に係る審査請求に
対して国税不服審判所長がした裁決には手続上の瑕疵があるなどと主張して,
同裁決の取消しを求めている事案である。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,控訴人が原判決を不服として控訴した。
2前提事実,争点及び当事者の主張の要旨は,次のとおり付加訂正するほか,
原判決の「第2事案の概要」の2ないし4(3頁12行目から17頁17行
目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)5頁6行目,8頁3行目,12頁14行目,21行目の各「別紙」を「原
判決別紙」にいずれも改める。
(2)5頁10行目の「9月」を「8月23日付けで,健康保険法その他医療保
険各法に基づく費用の不正請求があったとして,同年9月1日をもって保険
医療機関の指定を取り消され,同月」に改め,12行目の「引き継いだ」の
次に「そして,厚生労働省保険局医療課医療指導監査室作成の「平成17年
度における保険医療機関等の指導及び監査の実施状況について(概況)」に
よれば,控訴人の不正の形態は,「監査の結果,勤務実態のない医師及び非
常勤として勤務していた医師を常勤として虚偽の届出等を行い,医師等が著
しく不足していたにも拘わらず,入院時医学管理料等を減額せずに診療報酬
を不正に請求していた。」とされている。」を,12行目の「乙4,5」の
次に「,23,24」をそれぞれ加える。
(3)5頁21行目,6頁12行目,14行目の各「収入金額勘定」を「社保・
国保請求収入勘定」にいずれも改める。
(4)9頁21行目の「(イ)」の次に「a」を加え,10頁13行目末尾の次に
行を改めて,次のとおり加える。
「b所得税法は,費用と損失の取扱いを区分して規定しているところ,本
件返還債務は,そのうちの現実に返還された金額が同法51条2項,同
法施行令141条3号に規定する「無効な行為により生じた経済的成果
がその行為の無効であることに基因して失われたこと」による損失に該
当するのであって,本件未履行部分の額を含めた本件返還債務の総額を,
同法37条1項にいう事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額
に当たると解すべき余地はない。」
(5)13頁8行目の「(ア)」の次に「a」を加え,14頁7行目末尾の次に行
を改めて,次のとおり加える。
「b所得税法52条が貸倒引当金の算入を規定していることに照らすと,
後年の事業所得の計算上,支出準備金的な確定返還債務の金額を費用に
算入することができるものと解されるところ,本件未履行債務のように,
事業の性質から優先的に履行すべき未返還の債務は,その総額が同法3
7条1項にいう事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額に当た
る。」
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件各処分の適法性)について
(1)当裁判所も,本件各処分は適法であると判断する。その理由は,次のとお
り付加訂正するほか,原判決の「第3当裁判所の判断」の1(17頁20
行目から26頁13行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
ア19頁8・9行目,20頁4行目の各「失われ」の次に「,これにより
損失が生じ」を加え,19頁18行目の「これらは」を「これらのうち不
正請求等に係る部分についても」に改め,「不正請求等の」を削る。
イ20頁11行目の「(ア)」の次に「a」を加え,21頁3行目の「とい
うべき」から4行目の「解される」までを「。同法37条1項は,その年
分の事業所得等の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は,別段の定め
があるものを除き,これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該
総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,
一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却
費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とす
る旨規定し,同法51条2項,同法施行令141条3号は,事業所得等の
金額のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為
の無効であることに基因して失われたことにより生じた損失の金額は,そ
の損失の生じた日の属する年分の事業所得等の金額の計算上,必要経費に
算入する旨規定しているのであって,所得税法は費用と損失とを区別して
規定している」に,7・8行目の「あった場合の」を「あることに基因し
て生じる」に,10行目の「(イ)」を「b」に,10行目の「所得」を「利
得」に,14行目の「あるから」を「あって」に,17行目の「あって」
から22頁3行目の「相当である」までを「ある。そして,現に生じた利
得について,納税者に法律上の義務としてその返還義務が存在しても,実
際に利得の返還が行われない限り,納税者が無効な行為により生じた経済
的成果を支配管理し,自己のためにそれを享受している状態は何ら変動す
ることはない。したがって,所得税法52条2項の適用上,所得税法施行
令141条3号所定の事由により損失が生じたというためには,単に当該
利得について,返還債務が存在したり,その額が当事者間で明確になった
というだけでは足りず,当該利得についての返還義務が現実に履行される
など当該利得が消滅していることを要すると解すべきである」に,4行目
の「(ウ)」を「c」にそれぞれ改め,7行目の「あるが,」の次に「先に
判示したように,」を,8行目,10行目の各「失われ」の次に「,これ
により損失が生じ」をいずれも加える。
ウ22頁12行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「(イ)以上のとおり,本件返還債務は,控訴人がこれを現実に履行した
場合にその部分について経済的成果が失われ,これにより生じた損失
の金額を必要経費に算入することができるにとどまるのであって,本
件未履行債務の金額を含めた本件返還債務の総額が,同法37条1項
にいう「事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額」に当たる
ということはできない。
なお,控訴人は,所得税法52条が貸倒引当金の算入を規定してい
ることに照らすと,後年の事業所得の計算上,支出準備金的な確定返
還債務の金額は費用に算入することができ,本件未履行債務のように,
事業の性質から優先的に履行すべき未返還の債務総額が同法37条1
項にいう事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額に当たると
主張するが,本件返還債務は控訴人の不正請求等により支払を受けた
診療報酬の返還債務であって,支出準備金的な返還債務とは性質が異
なり,同法37条1項にいう「別段の定め」によるべきものであって,
これを同法37条1項にいう「事業所得を生ずべき業務について生じ
た費用の額」として,その年における必要経費に算入することはでき
ないというべきである。」
エ22頁13行目の「(エ)」を「(ウ)」に改める。
オ25頁15行目,21行目,26頁8行目の各「別紙」を「原判決別紙」
にいずれも改める。
(2)当審における控訴人の主張に鑑み,付言する。
ア控訴人は,本件返還債務は,北海道社会保険事務局等の監査等の結果に
基づき,保険者によって不正請求等に係る診療報酬の支払が取り消され,
その結果として返還請求されたものであるから,取り消された返還すべき
債務が確定した時点で損失が発生したこととなり,本件未履行債務の金額
も含めて必要経費に算入することができると主張する。
しかしながら,本件返還債務は,不正請求等により控訴人が支払を受け
た診療報酬の返還債務であって,この不正請求等に係る報酬については,
そもそも控訴人がこれを受領すべき法律上の原因自体が存在しないもので
あるにもかかわらず,控訴人は,不正請求等によってその支払を受け,現
にその利得を得ているものであるから,保険者に対して当然に返還義務を
負っているものであって,保険者が取り消すことのできる行為を取り消す
ことによって初めて発生するものではなく,健康保険法,国民健康保険法
等の規定をみても,保険医療機関等の不正の行為によって支払われた費用
の返還を求めるについて,その前提として,何らかの行為の取消しがされ
ることは予定されていない(健康保険法58条3項,国民健康保険法65
条3項参照)。
控訴人が得た不正請求等をすることよって得た経済的成果は,所得税法
施行令141条3号所定の「無効な行為により生じた経済的成果」にほか
ならないものであり,控訴人が,その経済的成果を当該行為の無効である
ことに基因してこれを失ったときに,これによって生じた損失の金額を必
要経費に算入できるにすぎないものであることは,所得税法51条2項,
同法施行令141条3号の規定から明らかというべきである。
イまた,控訴人は,加算金が損害賠償の性質を有しているとしても,控訴
人には所得税法施行令98条の2にいう故意又は重大な過失がないから,
これを必要経費に算入することができるし,また,加算金の割合40%の
うち,損害賠償の性質を有する部分は多くみても10%にすぎないから,
30%の割合に係る部分は必要経費に算入することができると主張する。
しかしながら,本件加算金は,前記前提事実(1)及び(2)記載のとおりの
経緯で,偽りその他不正の行為によって診療報酬の支払を受けたとして課
せられたものであり,控訴人は,これを受けて,本件加算金の額を3億9
422万1070円と計算し,平成17年分の総勘定元帳の前期損益修正
損勘定の借方に記載したものである。したがって,本件加算金は,所得税
法施行令98条の2にいう事業所得を生ずべき業務に関連して,故意又は
重大な過失によって他人の権利を侵害したことにより支払う損害賠償金又
はこれに類するものに該当するというべきであるから,その額は必要経費
に算入することはできない。
また,加算金は,その全体が損害の賠償たる性質を有しているというべ
きであって,そこに併せて行政上の制裁としての性質が含まれているとし
ても,加算金の額がそれぞれの性質に分けて区分されているものではない
から,その一部を必要経費に算入できると解することはできない。
2争点(2)(本件裁決の適法性)について
当裁判所も,本件裁決は適法であると判断する。その理由は,原判決の「第
3当裁判所の判断」の2(26頁15行目から29頁4行目まで)記載のと
おりであるから,これを引用する。
3以上のとおりであって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件
控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第7民事部
裁判長裁判官市村陽典
裁判官髙野輝久
裁判官齊木利夫

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