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平成27年6月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成26年(ワ)第23732号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成27年5月11日
判決
横浜市<以下略>
原告株式会社ニューテックジャパン
同訴訟代理人弁護士千木良正
同渡邊茉樹
同訴訟代理人弁理士竹内裕
同木村浩幸
京都府京田辺市<以下略>
被告株式会社さくらコーポレーション
同訴訟代理人弁護士久世勝之
同訴訟代理人弁理士谷田龍一
同杉本丈夫
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,販売の申出をしてはな
らない。
2被告は,別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,4620万円及びこれに対する平成26年11月15
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「妻面を有する折り畳み自在な屋根構造体」とする特許
(特許第4576395号。以下「本件特許」という。)についての特許権(以
下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告に対し,被告の製造,販売及
び販売の申出(以下「販売等」という。)に係る別紙「物件目録」記載の各製品
(型式番号により材質が異なるが,構造は同一であるため,以下,両者を併せて
「被告製品」という。)が,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係
る各発明(以下,請求項の番号に従い,「本件特許発明1」などといい,これら
を併せて「本件各特許発明」という。)の技術的範囲に属すると主張して,特許
法100条1項及び2項に基づき,被告製品の販売等の差止め及び廃棄を求める
とともに,不法行為(特許権侵害)に基づく損害賠償金4620万円及びこれに
対する平成26年11月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法
所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実等(証拠等を付記しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア原告は,スポーツ用品,釣具用品,日用品雑貨,園芸品,園芸資材の販売等
を目的とする株式会社である。
イ被告は,各種テント製品の開発及び販売等を目的とする株式会社である。
(2)本件特許権
原告の有する本件特許権の内容は,次のとおりである。
特許番号第4576395号
発明の名称妻面を有する折り畳み自在な屋根構造体
出願日平成19年2月15日
出願番号特願2007-035319
公開日平成20年8月28日
公開番号特開2008-196276
登録日平成22年8月27日
(3)発明の内容等
ア本件特許の特許請求の範囲(以下,明細書及び図面と併せて,「本件明細
書」という。参照の便宜のため,本件特許に係る特許公報の写し〔甲4〕を本判
決末尾に別添1として添付する。)における請求項1ないし請求項3の記載は,次
のとおりである。
【請求項1】
少なくとも4本の支柱と,該支柱を相互に折り畳み自在に連結する複数のシザー
組立体と,幕体の中央部を間隔をおいて山型の屋根形状に支持する複数の幕体支持
ポールとを含み,シザー組立体は2本のバーをX字状に回動自在に連結してパンタ
グラフ状に折り畳み自在とした構造とし,屋根構造体の短手方向に支柱を連結する
シザー組立体の中央部に前記幕体支持ポールを垂直に連結し,支柱の上端に固定さ
れる固定ブラケットと支柱の途中にスライド自在に挿着されるスライドブラケット
で支柱とシザー組立体を相互に連結し,且,幕体支持ポールの下端に固定される固
定ブラケットと幕体支持ポールの途中にスライド自在に挿着されるスライドブラケ
ットで,幕体支持ポールとシザー組立体を相互に連結した屋根構造体において,最
も外側に位置するシザー組立体の中央に設置する幕体支持ポールと該シザー組立体
と隣接するシザー組立体の中央に設置する幕体支持ポールとの間に補強フレームを
着脱自在に張設し,該補強フレームの一端は最も外側に位置する幕体支持ポールの
上端位置に,補強フレームの他端は隣接する幕体支持ポールに挿着されたスライド
ブラケットに近接した位置において,幕体支持ポールに係止させて,補強フレーム
により幕体支持ポールの上端を上方に押し上げるとともに,スライドブラケットを
下方に押し下げ,シザー組立体の伸長を助勢しテントを展張して側面の強度を向上
しつつ,直立する妻面を構成するようにしたことを特徴とする妻面を有する折り畳
み自在な屋根構造体。
【請求項2】
補強フレームは,2本以上のバー部材からなり,伸縮自在であることを特徴とす
る請求項1記載の妻面を有する折り畳み自在な屋根構造体。
【請求項3】
補強フレームは,両端に幕体支持ポールの太さと略同一の凹部を有するブラケッ
トを備えており,該凹部で幕体支持ポールを狭持して幕体支持ポールとスライドブ
ラケットの間に張設したことを特徴とする請求項1又は2記載の妻面を有する折り
畳み自在な屋根構造体。
イ構成要件の分説
本件各特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件
を符号に対応して「構成要件1A-①」などという〔枝番(ハイフン)を付した構
成をまとめていうときは「構成要件1A」などという。〕。)。
(ア)本件特許発明1
1A-①少なくとも4本の支柱と,該支柱を相互に折り畳み自在に連結する複
数のシザー組立体と,幕体の中央部を間隔をおいて山型の屋根形状に支持
する複数の幕体支持ポールとを含み,
1A-②シザー組立体は2本のバーをX字状に回動自在に連結してパンタグラフ
状に折り畳み自在とした構造とし,
1A-③屋根構造体の短手方向に支柱を連結するシザー組立体の中央部に前記幕
体支持ポールを垂直に連結し,
1A―④支柱の上端に固定される固定ブラケットと支柱の途中にスライド自在に
挿着されるスライドブラケットで支柱とシザー組立体を相互に連結し,
1A―⑤且,幕体支持ポールの下端に固定される固定ブラケットと幕体支持ポー
ルの途中にスライド自在に挿着されるスライドブラケットで,幕体支持
ポールとシザー組立体を相互に連結した屋根構造体において,
1B最も外側に位置するシザー組立体の中央に設置する幕体支持ポールと該
シザー組立体と隣接するシザー組立体の中央に設置する幕体支持ポール
との間に補強フレームを着脱自在に張設し,
1C-①該補強フレームの一端は最も外側に位置する幕体支持ポールの上端位置
に,補強フレームの他端は隣接する幕体支持ポールに挿着されたスライ
ドブラケットに近接した位置において,幕体支持ポールに係止させて,
1C-②補強フレームにより幕体支持ポールの上端を上方に押し上げるとともに,
スライドブラケットを下方に押し下げ,シザー組立体の伸張を助勢しテ
ントを展張して側面の強度を向上しつつ,直立する妻面を構成するよう
にしたことを特徴とする
1D妻面を有する折り畳み自在な屋根構造体。
(イ)本件特許発明2
2C補強フレームは,2本以上のバー部材からなり,伸縮自在であること
を特徴とする
2D請求項1記載の妻面を有する折り畳み自在な屋根構造体。
(ウ)本件特許発明3
3C補強フレームは,両端に幕体支持ポールの太さと略同一の凹部を有
するブラケットを備えており,該凹部で幕体支持ポールを狭持して幕
体支持ポールとスライドブラケットの間に張設したことを特徴とする
3D請求項1又は2記載の妻面を有する折り畳み自在な屋根構造体。
(4)被告の行為
ア被告は,平成23年頃から,業として,被告製品を製造し,被告のウェブサ
イト及び関東営業所(埼玉県春日部市<以下略>所在)において,その販売及び販
売の申出を行っている。
イ被告製品の具体的構成は,別紙「被告製品説明書」(以下,単に「被告製
品説明書」という。)記載のとおりであり,本件各特許発明との対比の便宜上,
これを分説すると,次のとおりとなる(以下,分説に係る構成を符号に対応して
「被告構成a-1」などという〔枝番(ハイフン)を付した構成をまとめていう
ときは「被告構成a」などという。〕。)。
a−16本の支柱3と,該支柱を相互に折り畳み自在に連結する22のシザー
組立体2と,幕体6の中央部を間隔をおいて山型の屋根形状に支持する5
本の幕体支持ポール4とを含み,
a−2シザー組立体2は2本のバーをX字状に回動自在に連結してパンタグラフ
状に折り畳み自在とした構造とし,
a−3屋根構造体の短手方向に支柱3を連結するシザー組立体2α,2βとの
連結部に幕体支持ポール4を垂直に連結し,
a−4支柱3の上端に固定される固定ブラケット33aと支柱3の途中にスライ
ド自在に挿着されるスライドブラケット33で支柱3とシザー組立体2
α,2βそれぞれとを相互に連結し,
a−5に,幕体支持ポール4の下端に固定される固定ブラケット44aと幕体
支持ポール4の途中にスライド自在に挿着されるスライドブラケット44
で,幕体支持ポール4とシザー組立体2α,2βそれぞれとを相互に連
結した屋根構造体において,
最も外側に位置するシザー組立体2αと同2βとの連結部に設置する幕体支
持ポール4aとシザー組立体2α,2βと隣接するシザー組立体2α’と同
2β’との連結部に設置する幕体支持ポール4との間に補強フレーム5を
着脱自在に架設し,
c−1該補強フレーム5の一端は最も外側に位置する幕体支持ポール4aの上端
位置に係止し,補強フレーム5の他端は隣接する幕体支持ポール4に挿
着されたスライドブラケット44’に固定させて,
c−2補強フレーム5により幕体支持ポール4aを支持しており,
c−3該補強フレーム5は,2本のバー部材からなり,固定部材により所定の
長さで固定されるようになっており,
c−4該補強フレーム5は,一端に幕体支持ポール4の太さと略同一の凹部を
有するブラケット55aを備えて該凹部で幕体支持ポール4aを狭持し,
他端には挿通穴を有するブラケット55を備えており,該ブラケット5
5とスライドブラケット44’を,相互に重ね合わせ,それぞれの挿
通穴に挿通ピンを挿通して固定した,
d妻面を有する折り畳み自在な切妻型テント。
2争点
(1)被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか否か(争点1)
なお,被告は,被告製品が本件特許発明1における構成要件1D,本件特許発明
2における構成要件2Cを充足することは争っていない。
(2)損害額(争点2)
第3争点に対する当事者の主張
1争点1(被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか否か)について
(原告の主張)
(1)本件特許発明1について
被告構成a「6本の支柱3と,該支柱を相互に折り畳み自在に連結する22の
シザー組立体2と,幕体6の中央部を間隔をおいて山型の屋根形状に支持する5本
の幕体支持ポール4とを含み,シザー組立体2は2本のバーをX字状に回動自在に
連結してパンタグラフ状に折り畳み自在とした構造とし,屋根構造体の短手方向に
支柱3を連結するシザー組立体2α,2βとの連結部に幕体支持ポール4を垂直に
連結し,支柱3の上端に固定される固定ブラケット33aと支柱3の途中にスライ
ド自在に挿着されるスライドブラケット33で支柱3とシザー組立体2α,2β
それぞれとを相互に連結し,に,幕体支持ポール4の下端に固定される固定ブラ
ケット44aと幕体支持ポール4の途中にスライド自在に挿着されるスライドブラ
ケット44で,幕体支持ポール4とシザー組立体2α,2βそれぞれとを相互に
連結した屋根構造体において」は,構成要件1A「少なくとも4本の支柱と,該支
柱を相互に折り畳み自在に連結する複数のシザー組立体と,幕体の中央部を間隔を
おいて山型の屋根形状に支持する複数の幕体支持ポールとを含み,シザー組立体は
2本のバーをX字状に回動自在に連結してパンタグラフ状に折り畳み自在とした構
造とし,屋根構造体の短手方向に支柱を連結するシザー組立体の中央部に前記幕体
支持ポールを垂直に連結し,支柱の上端に固定される固定ブラケットと支柱の途中
にスライド自在に挿着されるスライドブラケットで支柱とシザー組立体を相互に連
結し,且,幕体支持ポールの下端に固定される固定ブラケットと幕体支持ポールの
途中にスライド自在に挿着されるスライドブラケットで,幕体支持ポールとシザー
組立体を相互に連結した屋根構造体において」を充足する。
被告構成「最も外側に位置するシザー組立体2αと同2βとの連結部に設置す
る幕体支持ポール4aとシザー組立体2α,2βと隣接するシザー組立体2α’と
同2β’との連結部に設置する幕体支持ポール4との間に補強フレーム5を着脱
自在に架設し」は,構成要件1B「最も外側に位置するシザー組立体の中央に設置
する幕体支持ポールと該シザー組立体と隣接するシザー組立体の中央に設置する幕
体支持ポールとの間に補強フレームを着脱自在に張設し」を充足する。
被告構成c「該補強フレーム5の一端は最も外側に位置する幕体支持ポール4a
の上端位置に係止し,補強フレーム5の他端は隣接する幕体支持ポール4に装着
されたスライドブラケット44’に固定させて,補強フレーム5により幕体支持
ポール4aを支持しており,該補強フレーム5は,2本のバー部材からなり,固定
部材により所定の長さで固定されるようになっており,該補強フレーム5は,一端
に幕体支持ポール4の太さと略同一の凹部を有するブラケット55aを備えて該凹
部で幕体支持ポール4aを狭持し,他端には挿通穴を有するブラケット55を備
えており,該ブラケット55とスライドブラケット44’を,相互に重ね合わ
せ,それぞれの挿通穴に挿通ピンを挿通して固定した」は,構成要件1C「該補強
フレームの一端は最も外側に位置する幕体支持ポールの上端位置に,補強フレーム
の他端は隣接する幕体支持ポールに挿着されたスライドブラケットに近接した位置
において,幕体支持ポールに係止させて,補強フレームにより幕体支持ポールの上
端を上方に押し上げるとともに,スライドブラケットを下方に押し下げ,シザー組
立体の伸張を助勢しテントを展張して側面の強度を向上しつつ,直立する妻面を構
成するようにしたことを特徴とする」を充足する。
(2)本件特許発明2について
被告構成dは,構成要件2D「請求項1記載の妻面を有する折り畳み自在な屋根
構造体」を充足する。
(3)本件特許発明3について
被告構成cは,構成要件3C「補強フレームは,両端に幕体支持ポールの太さと
略同一の凹部を有するブラケットを備えており,該凹部で幕体支持ポールを狭持し
て幕体支持ポールとスライドブラケットの間に張設したことを特徴とする」を充足
する。
被告構成dは,構成要件3D「請求項1又は2記載の妻面を有する折り畳み自在
な屋根構造体」を充足する。
(4)まとめ
被告製品の作用効果は,本件各特許発明の効果と実質的に同一であり,被告製品
は,本件各特許発明の技術的範囲に属する。
(5)被告の主張に対する反論
ア構成要件1A-③及び同1Bについて
被告は,「シザー組立体の中央部」のうち,シザー組立体は,2本のバーで構成
されているX字状のもので,シザー組立体の中央部とは,シザー組立体のXの2本
のバーの交差する箇所と解されるとし,被告製品における幕体支持ポールは,シザ
ー組立体のXのバーの交差する箇所で連結していないとして,構成要件1A-③及
び同1Bを充足しないと主張する。
しかし,本件明細書の段落【0016】には,「図4に示すように屋根構造体は,
長手方向にシザー組立体(2)を4つ,短手方向にシザー組立体(2)を2つ連結した
構造とし,中央のシザー組立体(2)同士が連結される位置に前記幕体支持ポール
(4)が固定されている。」と記載されており,二つのシザー組立体の中央部に幕体
支持ポールが連結されるもので,「屋根構造体の短手方向に支柱を連結するシザー
組立体の中央部」が二つのシザー組立体が連結される中央部を意味していることは
明らかである。
また,被告は,シザー組立体は,2本のバーで構成されているX字状のもので1
単位であると主張するが,屋根構造体の短手方向に支柱を連結するシザー組立体が
一つに限定されるとは記述されておらず,そのように解する必然性もない。本件特
許の審査過程において引用された文献である実開平1-119757号公報(以
下「甲7公報」という。)に開示された組立てテントにおいても,幕体支持ポー
ルは,二つのシザー組立体の中央部に連結される構造を有しており,特許庁審査官
は,本件特許発明1におけるシザー組立体を甲7公報記載のものと同様の構造であ
ると理解していたものと推察される。
これに対し,被告製品も二つのシザー組立体(2α),(2β)が連結される中
央部に幕体支持ポールが連結されており,構成要件1Aの構成と同一である。また,
被告製品説明書の図4は,本件明細書の図4と同一である。
したがって,被告製品は,構成要件1A-③及び同1Bを充足する。
イ構成要件1C-①について
(ア)被告は,被告製品の補強フレームが,幕体支持ポールに装着されたスライド
ブラケットそのものに固定され,スライドブラケットと独立して幕体支持ポールに
係止されていないことを理由に,被告製品は,構成要件1C-①を充足しない旨主
張する。
しかし,構成要件1C-①は,補強フレームの下端でスライドブラケットを下方
に押し下げて,その反力で最外端の幕体支持ポールの倒れ込みを阻止する作用を果
たすことを目的としているのであって,補強フレームの係止の位置は問題ではない。
補強フレームが幕体支持ポールに直接的に係止している場合も,間接的に係止して
いる場合も含めて解釈すべきである。文言上も,スライドブラケットから「独立し
て」とは記載されておらず,仮に,補強フレームがスライドブラケットに係止した
としても,それは「スライドブラケットに近接した位置」であることに変わりはな
く,そのスライドブラケットが幕体支持ポールに係止されているのであれば,間接
的に幕体支持ポールに係止されているということができる。
したがって,被告製品の補強フレームの他端は,スライドブラケットに近接した
位置において,幕体支持ポールに係止されているといえる。
(イ)本件特許発明1の目的は,本件明細書の段落【0005】及び同【0007】
によれば,複数のテントを並べて配置したときに屋根が連続するように,屋根に直
行する妻面を有するテントを得ることを目的としている。これに対し,被告製品の
広告には,「複数のテントを連棟して設営できる!」,「屋根の側面がピッタリ合
うので,連棟に向いています。」などと説明されており,本件特許発明1の目的と
同一である。また,本件特許発明1は,本件明細書の段落【0012】によれば,
屋根構造体の「最も外側の幕体支持ポールが直立状態で内側に倒れ込むことなく安
定に支持されるため,妻面を長手方向に沿った2枚の屋根に対し直立した状態に維
持することが出来る。この妻面の存在により雨水が妻面側に流れ落ちることを防止
でき,これにより折り畳み式のテントを長手方向に複数並べた場合であっても,並
べたテント間に雨水が滴り落ちることを防止でき,連続した屋根下空間を有効に使
用することが出来るという効果を有する。又,2枚の屋根面をそれぞれ平面に形成
することが出来るため,該屋根面に施した模様・広告等を美麗に表示できるという
効果を有する。」というものである。
被告製品も,支えポール(補強フレーム)により,屋根構造体の最も外側のフレ
ーム(幕体支持ポール)が内側に倒れ込むことがないように直立状態で支持されて
いるので,妻面を二つの屋根に対して直立状態で維持することができ,複数のテン
トを長手方向に連棟して,連続した屋根下空間を使用できるとしており,本件特許
発明1と同様の効果を有している。また,天幕面積が大きいので,大きな文字入れ
が可能との効果も,本件特許発明1の2枚の屋根面をそれぞれ平面に形成すること
ができる効果から付随的に生ずる効果であり,実質的に同様の効果を有するもので
ある。
被告製品は,本件特許発明1の特徴をすべて満足しているのであり,仮に,補強
フレームの係止位置が幕体支持ポールか,スライドブラケットかという点で相違す
るとの見解によるとしても,このような係止位置の相違は,当業者が必要に応じて
行う単なる設計変にすぎない。被告製品はこのような設計変によっても,本件
特許発明1の特徴を十分に満足しており,本件特許発明1の作用,効果を有してい
る。
したがって,被告製品は,本件特許発明1とその目的,作用及び効果を同一にす
るもので,構成要件1C-①を充足する。
ウ構成要件1C-②について
被告は,本件明細書の段落【0018】の記載から,本件特許発明1の補強フレ
ームは,弾性体による付勢力を有するものであり,弾性体を有せず,単なる「つっ
かえ棒」にすぎない被告製品の補強フレームは,本件特許発明1の作用効果を奏し
ない旨主張する。
しかし,上記段落【0018】は,本件特許発明1において,最も好ましい実施
の形態を説明した記載であって,必ず弾性体による付勢力が必要だと述べているも
のではない。本件特許発明1の補強フレームは,最外端の幕体支持ポールの上端と
これに隣接する幕体支持ポールに取り付けられたスライドブラケットとの間に架け
渡された「つっかえ棒」であり,最外端の幕体支持ポールの上端と隣接する幕体支
持ポールのスライドブラケットとが,相互に接近するのを阻止する機能を果たして
いる。この相互の接近を阻止することにより,力学上の帰結として,最外端の幕体
支持ポールの上端は上方に押し上げられるとともに,隣接する幕体支持ポールのス
ライドブラケットは下方に押し下げられる。このような補強フレームによるスライ
ドブラケットの下方への押し下げにより,シザー組立体の伸張が助勢され,テント
を展張すると共に,最外端の幕体支持ポールが内側へ倒れ込むのを防止し,テント
の妻面を垂直に直立させることができる。かかる機能は,単なる一本のつっかえ棒
である補強フレームによってもたらされるもので,補強フレームに内蔵されたスプ
リングを必要としない。
(被告の主張)
(1)本件特許発明1について
ア構成要件1A-②及び1Bについて
本件特許発明1において,「幕体支持ポール」は,「シザー組立体の中央部に」
「垂直に連結」されている(構成要件1A-③)。「シザー組立体」は,構成要件
1A-②において,「2本のバーをX字状に回動自在に連結してパンタグラフ状に
折り畳み自在とした構造」のものとされているから,「シザー組立体」は,2本の
バーで構成されているX字状のものということになる。また,本件明細書の段落
【0016】には,「図4に示すように屋根構造体は,長手方向にシザー組立体
(2)を4つ,短手方向にシザー組立体(2)を2つ連結した構造」とされている。そ
うすると,「シザー組立体」が2本のバーで構成されているX字状のものを1単位
としていることは明白であり,構成要件1A-②及び同1B中の「シザー組立体の
中央部」とは,Xの2本のバーの交差をする箇所と解するほかない。
これに対し,被告製品は,「屋根構造体の短手方向に支柱3を連結するシザー組
立体2α,2βとの連結部に幕体支持ポール4を垂直に連結し」(被告構成a-
3),「最も外側に位置するシザー組立体2αと同2βとの連結部に設置する幕体
支持ポール4aとシザー組立体2α,2βと隣接するシザー組立体2α’と同2β’
との連結部に設置する幕体支持ポール4との間に補強フレーム5を着脱自在に架
設し」(被告構成)ており,幕体支持ポールはシザー組立体のXのバーの交差す
る箇所で連結していない。
したがって,被告製品は,本件特許発明1構成要件1A-②,同1Bを充足しな
い。
イ構成要件1C-①
本件特許発明1では,「補強フレームの他端が隣接する幕体支持ポールに挿着さ
れたスライドブラケットに近接した位置において,幕体支持ポールに係止」されて
いるのであるから,補強フレームの他端(下端)は,スライドブラケットとは別の
位置で幕体支持ポールに係止されており,その係止位置はスライドブラケットと近
接した位置であるといえる。また,同発明では,「補強フレーム下端のブラケット
が,当該幕体支持ポールのスライドブラケットに当接して押し下げることによって,
シザー組立体の伸長が助勢されてテントが展張する」ことが解決原理の要素となっ
ており,この解決原理を併せて考慮すると,本件特許発明1における補強フレーム
の下端は,幕体支持ポールに装着されたスライドブラケットとは独立して,当該ス
ライドブラケットの上部で同ブラケットに当接するように幕体支持ポールに係止さ
れているものと解される。
これに対し,被告製品の補強フレームは,幕体支持ポールに装着されたスライド
ブラケットそのものに固定され,スライドブラケットと独立して幕体支持ポールに
係止されてはいない。
したがって,被告製品は,構成要件1C-①を充足しない。
ウ構成要件1C-②
本件特許発明1の構成要件1C-②は,作用効果を記載したものであって,その
具体的な構成が明らかでないところ,本件明細書の段落【0018】によれば,同
発明は,補強フレームを単なる「つっかえ棒」ではなく,付勢力を持たせて特有の
設置方法を採用することで,幕体支持ポールの押し上げとスライドブラケットの押
し下げという作用を持たせ,この作用により,幕体支持ポールの内倒現象を防止し
て直立する妻面を構成できるようにし,にシザー組立体の伸張を助勢し,テント
を展張して側面の強度を向上するという効果を奏するようにしたものというべきで
ある。そうすると,係止された補強フレームが弾性体による付勢力を有しないもの
は,構成要件1C-②を充足しないことになる。
被告製品の補強フレームは,固定部材で固定された固定長のもので,単なる「つ
っかえ棒」であって,何ら付勢力を有していないため,本件特許発明1の作用効果
を奏することはない。
したがって,被告製品は,構成要件1C-②を充足しない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2の構成要件2Dは,本件特許発明1の構成要件を引用するもので
あるから,被告製品がこれを充足しないことは明らかである。
(3)本件特許発明3について
本件特許発明3の構成要件3Dは,本件特許発明1の構成要件を引用するもので
あるから,被告製品がこれを充足しないことは明らかである。
また,本件特許発明3の構成要件3Cによれば,補強フレームの両端にあるブラ
ケットは,いずれも幕体支持ポールの太さと略同一の凹部を有しており,かつ,い
ずれの凹部も幕体支持ポールを挟持していなければならない。これに対し,被告製
品の補強フレームは,他端(下端部)では,幕体支持ポールの太さと略同一の凹部
を備えておらず,他端(下端部)の凹部が幕体支持ポールを挟持していない(被告
製品の補強フレームの他端(下端部)では,「挿通穴を有するブラケットを備えて
おり,該ブラケットとスライドブラケットを,相互に重ね合わせ,それぞれの挿通
穴に挿通ピンを挿通して固定」するようになっており,幕体支持ポールを挟持して
いない。)。したがって,被告製品は,この点からも,構成要件3Cを充足しない。
2争点2(損害額)について
(原告の主張)
(1)特許法102条1項に基づく主張
被告は,被告製品を過去3年間に少なくとも600台は製造販売していると推測
される。上記被告製品の製造販売がなければ,原告が販売することができたテント
1台あたりの利益の額は少なくとも7万円である。
したがって,原告の損害額は,原告が販売するテント1台当たりの利益額7万円
に被告製品の製造販売台数600台を乗じた4200万円と算定される。
また,弁護士費用としては,上記4200万円の10パーセントに当たる420
万円が相当である。
(2)特許法102条3項に基づく主張(予備的主張)
被告製品の標準価格は,型式番号「KG/8W」が1台当たり22万6800
円,型式番号「KG/8WA」が1台当たり24万3000円である。少なくとも
1台当たりの販売価格を15万円として計算した場合,販売台数が600台であれ
ば,売上高は9000万円となる。また,本件各特許発明に関する技術分野,被告
製品の市場,コスト構造,類似事例,実務慣行に鑑みれば,本件各特許発明の実施
に係る実施料率は,売上高の10パーセントを下らない。
したがって,原告の損害額は,被告製品の売上高9000万円の10パーセン
トに当たる900万円を下らない。
また,弁護士費用としては,上記900万円の10パーセントに当たる90万
円が相当である。
(被告の主張)
争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか否か)について
(1)本件特許発明1について
ア本件明細書の発明の詳細な説明の欄には,要旨,以下の記載がある。
(ア)技術分野
この発明は,テント,日除け等の骨組を構成する折り畳み自在なテントの屋根構
造体であって,特に妻面を有する屋根構造体に関するものである(段落【000
1】)。
(イ)背景技術及び発明が解決しようとする課題
従来,天蓋やタープとも呼ばれる支柱で屋根幕を支える形式のテントには,屋根
幕を支柱と紐で緊張させて設置するものや頂点部を中心に傘型に拡がり,その裾野
を支柱で支えるもの,或いは屋根幕支持構造を施して,雨水等の重みによる屋根幕
の弛みを軽減するように工夫されたものがあった(屋根幕支持構造を施してなるテ
ントの代表例として,特許公報第2836956号があげられる。)(段落【00
02】)。
しかし,このようなテントは,比較的小型のテントしか作ることが出来ず,大型
や長方形等の形状のテントを形成することは困難であった。そこで,特開2005
-002699号公報に示されるようなテントが開発された。当該テントは比較的
大型なテントであるが,雨天時の使用に際しては屋根の四方から雨水が滴り落ちて
しまい,複数のテントを近接して並べたとき,テント間に雨水が落ちてしまい,結
果,複数のテントを並べても連続した屋根下空間を確保できないという欠点があっ
た(段落【0004】)。
そこで,テントを並べたときに屋根が連続するように,妻面を有する組み立て式
テントが望まれた。しかし,この種の組み立て式テントは,可搬性を重視するため
屋根構造体や支柱に比較的軽量で曲げ強度の低い部材を使用するのが一般的であり,
妻面を形成するために屋根構造体からフレームを立設させる構造をとると,張設し
た幕体の重量が妻面に立設したフレームの頂点にかかり,フレームが屋根構造体中
央側へ撓んでしまうという問題が発生した(段落【0005】)。
(ウ)発明の目的
この発明は,屋根構造体や支柱に比較的軽量で曲げ強度の低い部材を使用した可
搬性の折り畳み式のテントでありながら,従来のスチールパイプ製の組み立て式テ
ントのように,常に屋根に直行する妻面を有するテントを得ることを目的とするも
のである(段落【0007】)。
(エ)課題を解決するための手段
上記課題を解決するためにこの発明が採った手段は,少なくとも4本の支柱と,
該支柱を相互に折り畳み自在に連結する複数のシザー組立体と,幕体の中央部を間
隔をおいて山型の屋根形状に支持する複数の幕体支持ポールとを含み,シザー組立
体は2本のバーをX字状に回動自在に連結してパンタグラフ状に折り畳み自在とし
た構造とし,屋根構造体の短手方向に支柱を連結するシザー組立体の中央部に前記
幕体支持ポールを垂直に連結し,支柱の上端に固定される固定ブラケットと支柱の
途中にスライド自在に挿着されるスライドブラケットで支柱とシザー組立体を相互
に連結し,且,幕体支持ポールの下端に固定される固定ブラケットと幕体支持ポー
ルの途中にスライド自在に挿着されるスライドブラケットで,幕体支持ポールとシ
ザー組立体を相互に連結した屋根構造体において,最も外側に位置するシザー組立
体の中央に設置する幕体支持ポールと該シザー組立体と隣接するシザー組立体の中
央に設置する幕体支持ポールとの間に補強フレームを着脱自在に張設し,該補強フ
レームの一端は最も外側に位置する幕体支持ポールの上端位置に,補強フレームの
他端は隣接する幕体支持ポールに挿着されたスライドブラケットに近接した位置に
おいて,幕体支持ポールに係止させて,補強フレームにより幕体支持ポールの上端
を上方に押し上げるとともに,スライドブラケットを下方に押し下げ,シザー組立
体の伸張を助勢しテントを展張して側面の強度を向上しつつ,直立する妻面を構成
するようにしたことを特徴とする(段落【0008】)。
(オ)発明の効果
本発明によれば,補強フレームにより妻面を形成する,屋根構造体の内,最も外
側の幕体支持ポールが直立状態で内側に倒れ込むことなく安定に支持されるため,
妻面を長手方向に沿った2枚の屋根に対し直立した状態に維持することが出来る。
この妻面の存在により雨水が妻面側に流れ落ちることを防止でき,これにより折り
畳み式のテントを長手方向に複数並べた場合であっても,並べたテント間に雨水が
滴り落ちることを防止でき,連続した屋根下空間を有効に使用することが出来ると
いう効果を有する。又,2枚の屋根面をそれぞれ平面に形成することが出来るため,
該屋根面に施した模様・広告等を美麗に表示できるという効果を有する(段落【0
012】,【0022】)。
(カ)発明を実施するための最良の形態
①屋根構造体の構造について
屋根構造体は,四隅及び中間に垂直に立設される支柱(3),隣接する2本の支柱
を水平に連結するシザー組立体(2),並びに幕体を展帳する幕体支持ポールから構
成される。シザー組立体(2)は,2本のバーを中央でX字状に回動自在に連結して
パンタグラフ状に屈伸自在としたものであり,各バーの自由端の一方は支柱(3)の
上端に固定され,他の一方は支柱に沿ってスライド自在に支柱(3)に連結される。
幕体支持ポール(4)は,下端を支柱間短手方向,即ち妻面(7)と並行する方向に連
結されたシザー組立体(2)の下側連結部に固定されると共に,幕体支持ポール(4)
に挿着したスライドブラケットを介して上方連結部に固定され,シザー組立体(2)
が伸張されるとき,伸張に応じて自動的に上方に持ち上げられる。幕体支持ポール
(4)に折り畳み自在な防水性及び耐久性を有し所望の強度を備える合成樹脂製シー
ト,或いは織物からなる幕体(6)を被覆し,テントの屋根を作出する(段落【00
14】)。
図3は屋根構造体を伸張し,幕体を被覆した状態の透視図である。図示のように
シザー組立体(2)は一端を支柱(3)の上端に固定ブラケット(2a)を介して固定さ
れつつ,他端をスライドブラケット(2)を介して支柱に対しスライド自在に固定
されている。又,支柱のない連結部においてはシザー組立体(2)の上下端が交差し
て連結されている。幕体支持ポール(4)は,支柱(3)を上下逆に取り付けたように
シザー組立体に接続されている。すなわち,幕体支持ポール(4)の下端は固定ブラ
ケット(2a)を介してシザー組立体(2)の下方の一端に接続され,スライドブラケ
ット(2)を介してスライド自在に固定され,シザー組立体(2)の伸張に伴い,上
方に持ち上げられるように固定されている(段落【0015】)。
図4に示すように屋根構造体は,長手方向にシザー組立体(2)を4つ,短手方向
にシザー組立体(2)を二つ連結した構造とし,中央のシザー組立体(2)同士が連結
される位置に前記幕体支持ポール(4)が固定されている。これにより屋根構造体を
伸張したとき,長手方向中央列を頂点とする。2枚の屋根面及び妻面(7)を有する
テントを展帳することができる。該幕体支持ポール(4)の頂点には幕体(6)を破損
させないように保護キャップ(41)が装着されている(図7参照)。尚,シザー組
立体(2),支柱(3)及び幕体支持ポール(4)の数はこれに限定されるものではなく,
任意の数を設定することが出来る(段落【0016】)。
従来のテントにあっては,シザー組立体(2)と幕体支持ポール(4a)(4)(4
c)のみで幕体(6)を展帳しようとすると,幕体(6)の重みで妻面(7)を支持する
幕体支持ポール(4a)が屋根構造体中央側,すなわち幕体支持ポール(4)側へ傾
斜してしまう。そこで,本発明ではこれを解消するために,図3,4に示すように,
幕体支持ポール(4a)の頂点と隣接する幕体支持ポール(4)の下方に位置するス
ライドブラケット(2)に近接した位置に補強フレーム(5)を張設させる。これに
より,幕体(6)の重量により幕体支持ポール(4a)が内側に倒れ込んでしまうこと
を防ぐことが可能となり,屋根面に対し直立する妻面(7)を得ることができる。尚,
該補強フレーム(5)は屋根構造体とは別体のものであり,任意に取り外し出来る構
造である(段落【0017】)。
②補強フレーム(5)の屋根構造体への取り付け方法
補強フレーム(5)を適切な長さにするために,収納状態(図5a)から固定部材
(57)を開放して太径バー(51)と細径バー(52)とを互いにスライド可能な状態
にした後,細径バー(52)を太径バー(51)より引き出す。規定の長さで固定部材
(57)により締結して,両バー(51)(52)を使用状態(図5)とする。次にこ
の補強フレーム(5)の細径バー(52)側のブラケット(55a)を,幕体支持ポール
(4a)に係止させる。係止は図7に示すように幕体(6)を展帳した状態で幕体支持
ポール(4a)の上端を,ブラケット(55a)の係止凹部(55c)で狭持させるよう
に行う。尚,幕体支持ポール(4a)の上端には保護キャップ(41)が固定されてい
るため,係止凹部(55c)は該保護キャップ(41)の下面に当接し,幕体支持ポー
ル(4a)から飛び抜けることなく幕体支持ポール(4a)の上端に係止することが出
来る(段落【0020】)。
前記幕体支持ポール(4a)への係止を行った後,太径バー(51)を細径バー(5
2)側へ向け,スプリング(54)に抗するように押圧しスライドさせる。これによ
り,スライド部材(53)内に細径バー(52)が入り込み,補強フレーム(5)の全長
を短縮させることができる。次に該短縮状態の補強フレーム(5)の他端のブラケッ
ト(55)の係止凹部(55c)を,前記幕体支持ポール(4a)に隣接する幕体支持
ポール(4)のスライドブラケット(2)近傍を狭持させるようにセットした後,
太径バー(51)のスライドを解除する。スライドを解除された補強バー(5)はスプ
リング(54)の力により全長を復元するため,ブラケット(55)は幕体支持ポー
ル(4)に沿って下方へ移動する。この時,支持バー(4)上に位置するスライド
ブラケット(2)に前記ブラケット(55)が当接し,該スライドブラケット(2)
を押し下げつつ係止する。これにより幕体支持ポール(4a)(4)間に補強フレー
ム(5)が斜めに張設され,幕体支持ポール(4a)を妻面(7)側へ押し出すことが出
来,幕体の重量が幕体支持ポール(4a)にかかっていても妻面(7)を屋根面に対し
直立した状態に保つことが出来る(段落【0021】)。
イ(ア)特許請求の範囲の記載のほか,本件明細書の上記記載に照らせば,本件特
許発明1は,屋根構造体や支柱に比較的軽量で曲げ強度の低い部材を使用した可搬
性の妻面を有する折り畳み式テントにおいて,妻面を形成するために屋根構造体か
ら立設したフレームが,張設した幕体の重量により屋根構造体中央側へ撓んでしま
うという課題を解決するための発明であると解される。そして,同発明は,上記の
課題を解決するため,最も外側に位置するシザー組立体の中央に設置する幕体支持
ポールと該シザー組立体と隣接するシザー組立体の中央に設置する幕体支持ポール
との間に着脱自在の補強フレームを張設することとした上,当該補強フレームの取
付方法としては,補強フレームの一端を最も外側に位置する幕体支持ポールの上端
位置に,他端を隣接する幕体支持ポールに装着されたスライドブラケットに近接し
た位置で幕体支持ポールに係止させることとし,このような位置に補強フレームを
設置する方法で,補強フレームが幕体支持ポールの上端を上方に押し上げるととも
にスライドブラケットを下方に押し下げることにより,シザー組立体の伸張を助勢
し,テントを展張して側面の強度を向上させようとするものである。つまり,張設
した幕体の重量により屋根構造体中央側へ撓んでしまうという課題に対し,同発明
は,単に補強フレームを最も外側に位置する幕体支持ポールと隣接する幕体支持ポ
ールとの間に補強フレームを設けるという構造を採用しただけでなく,補強フレー
ムの取付方法も併せて具体的に規定することにより,上記の課題を解決しようとし
たものと解するのが相当である。
(2)以上を前提に,被告製品が本件特許発明1の技術的範囲に属するか否かに
ついて検討する。
ア構成要件1A-②及び1Bについて
構成要件1A―②において,「シザー組立体は2本のバーをX字状に回動自在に
連結してパンタグラフ状に折り畳み自在とした構造」と明確に規定されていること,
本件明細書の段落【0016】によれば,「図4に示すように屋根構造体は,長手
方向にシザー組立体(2)を4つ,短手方向にシザー組立体(2)を2つ連結した
構造」としていることからすれば,本件特許発明1における「シザー組立体」とは,
2本のバーでX字状に構成されたものを1単位としているものと解される。そして,
上記の「シザー組立体」の定義を前提とすれば,構成要件1B「最も外側に位置す
るシザー組立体の中央に設置する幕体支持ポールと該シザー組立体と隣接するシザ
ー組立体の中央に設置する幕体支持ポール」の「シザー組立体の中央」とは,2本
のバーがX字状に交わった箇所を指すものと解すべきである。
これに対し,被告構成a-2は,「シザー組立体2は2本のバーをX字状に回動
自在に連結してパンタグラフ状に折り畳み自在とした構造」を有しているから,こ
の点に関する限り,被告製品は,構成要件1A-②を充足するものといえる。
しかし,被告製品における幕体支持ポールは,「最も外側に位置するシザー組立
体2αと同2βとの連結部に設置する幕体支持ポール4aとシザー組立体2α,2
βと隣接するシザー組立体2α’と同2β’との連結部に設置する幕体支持ポール
4」(被告構成)として設置されている。したがって,被告製品においては,
構成要件1Bの「シザー組立体の中央」,つまり,2本のバーがX字状に交わった
箇所に幕体支持ポールが設置されていないことは明らかであって,被告製品は構成
要件1Bを充足しない(その前提として,屋根構造体全体のシザー組立体と幕体支
持ポールの位置を規定した構成要件1A-③「シザー組立体の中央部に前記幕体支
持ポールを垂直に連結し」も充足しないこととなる。)。
付言するに,本件明細書の【図2】,【図4】には,二つのシザー組立体の連結
部に幕体支持ポールを設置することが示されているが,図面が特許請求の範囲を画
するものではないことはいうまでもないところであるし,本件明細書の発明の詳細
な説明には,段落【0008】のように,構成要件1A-③及び1Bに対応する記
載も存するところであるから,これらの構成要件に係る特許請求の範囲の記載が単
なる誤記にすぎないことが明らかであると認めることは,困難であると言わなけれ
ばならない。
イ構成要件1C-①について
(ア)被告構成c-1は,「該補強フレーム5の一端は最も外側に位置する幕体支
持ポール4aの上端位置に係止し,補強フレーム5の他端は隣接する幕体支持ポー
ル4に挿着されたスライドブラケット44’に固定させ」としており,補強フ
レーム5は,幕体支持ポールに装着されたスライドブラケットそのものに固定され,
スライドブラケットと独立して幕体支持ポールには係止されていないことが明らか
である。
したがって,被告製品は,少なくとも構成要件1C-①の文言を充足しない。
(イ)この点,原告は,補強フレームは直接的でも間接的でも幕体支持ポールに係
止されていればよく,また,被告製品の補強フレームの取付方法においても,本件
特許発明1の作用効果を有するから,補強フレームの取付方法(係止位置を幕体支
持ポールとするか,スライドブラケットとするか)は,単なる設計事項にすぎない
などと主張する。
しかし,前記のとおり,本件特許発明1においては,妻面を有する折り畳み式テ
ントにおいて,張設した幕体の重量により屋根構造体中央側へ撓んでしまうという
課題を解決するため,両幕体支持ポールの間に補強フレームを単に設置する構造を
採用しただけでなく,その取付方法をも具体的に規定して課題を解決しようとする
ものであって,この点は,単なる設計事項とはいえない。また,そもそも,補強フ
レームが幕体支持ポールに直接係止されるか否かにより,作用効果の発生機序も異
なるというべきである。
すなわち,補強フレームを屋根構造体の最も外側に位置する幕体支持ポールとこ
れに隣接する幕体支持ポールとの間に設け,単に補強フレームをつっかえ棒として
用いるとすれば,補強フレームの係止方法がどのような形態であっても,最も外側
に位置する幕体支持ポールが,張設した幕体の重量によって,隣接する幕体支持ポ
ール側(屋根構造体中央側)に撓むのを防止する機能を一様に有するというもので
はなく,本件特許発明1においては,補強フレームを幕体支持ポールにどのように
係止するかという具体的な取付方法をも,上記課題の解決方法として特許請求の範
囲に記載したものと解される。
この点,被告製品において,スライドブラケット44’が,幕体支持ポール4
の途中にスライド自在に挿着され,かつ,シザー組立体とも連結されている点は,
本件特許発明1と共通する。しかし,被告製品においては,補強フレームが,幕体
支持ポールには係止されず,スライドブラケット44’に直接固定されているこ
とにより,補強フレームとスライドブラケット44’とシザー組立体の動きが一
体化するのであって,補強フレームは,スライドブラケット44’とシザー組立
体の動きと常に連動するものとして取り付けられているといえる。
そうとすれば,補強フレームをスライドブラケットに近接した位置の幕体支持ポ
ールに直接係止させ,補強フレームが幕体支持ポールの上端を上方に押し上げると
ともにスライドブラケットを下方に押し下げることにより,シザー組立体の伸張を
助勢し,かつ,テントを展張するという本件特許発明1における補強フレームと,
上述した被告製品における補強フレームとでは,その構成(取付位置)の違いによ
り,上記作用効果を発揮する機序が異なるというべきである。
したがって,原告の主張はいずれも採用することができない(なお,原告は,
「単なる設計事項」との主張はしているものの,均等論による侵害の主張はしてい
ないが〔そもそも,被告製品が本件特許発明1の構成要件1C-①を文言上充足す
るといえないことは,原告が提出した訴状及び2通の訴状訂正申立書(平成26年
11月6日付け及び同月25日付け)の記載それ自体から相当に明白であったとこ
ろであり,原告が均等論による侵害の主張をしようとしなかったのは,不可解であ
る。〕,上記説示したところによれば,仮に,そのような主張がされたとしても,
これを認めることはできない。)。
2小括
以上より,被告製品は,少なくとも,本件特許発明1の構成要件1B(その前提
としての構成要件1A-③),構成要件1C-①を充足しないから,その余の構成
要件の充足性を検討するまでもなく,本件特許発明1の技術的範囲に属するものと
はいえないことが明らかである。
また,被告製品は,上記のとおり,本件特許発明1の技術的範囲に属するものと
いえない以上,本件特許発明2の構成要件2Dを充足せず,本件特許発明3の構成
要件3Dも充足しないといえるから,本件特許発明2及び同3の技術的範囲に属す
るものともいえないことが明らかである。
3原告が本件訴訟の係属後にした訂正審判請求について付言しておく。
(1)原告は,平成27年3月11日付けで訂正審判(訂正2015-39022。
以下「本件訂正審判」という。)を請求し,本件特許に係る明細書及び特許請求
の範囲の訂正を求めているが(甲8,9),明細書,特許請求の範囲又は図面の訂
正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変するものであってはならない(特
許法126条6項)から,本件訂正審判の結果によって,被告製品が本件各特許発
明の技術的範囲に属するものとは認められない旨の前記判断が覆ることは,理論上,
あり得ない(仮に,誤ってそのような訂正が認められたときは,特許法123条1
項8号所定の無効事由が生じたことになる。)。
(2)原告が本件訂正審判において求めている特許請求の範囲の訂正には,本件特
許発明1の構成要件1A―③及び1-Bについて,「尾根構造体の短手方向に支柱
を連結する複数のシザー組立体の中央部に前記幕体支持ポールを垂直に連結し」,
「複数のシザー組立体」(下線部は,いずれも訂正箇所を示す。)などとすること
が含まれる(甲8)。
しかし,構成要件1A-②は,「シザー組立体は2本のバーをX字状に回動自在
に連結してパンタグラフ状に折り畳み自在とした構造とし」としているから,シザ
ー組立体は2本のバーをX字状に連結したものを1単位と解すべきであるところ,
仮に,構成要件1A-③を「複数のシザー組立体の中央部」と訂正したとしても,
シザー組立体が三つ,又は,五つなど奇数単位存在する場合には,その中央部は,
シザー組立体とシザー組立体の間ではなく,2本のX字状のバーの交差する箇所を
中央部として幕体支持ポールを垂直に連結することを示すと解さざるを得ない。こ
のような例は,本件明細書に記載されておらず,シザー組立体の単位数が奇数か偶
数かで幕体支持ポールの位置が異なることになる。
したがって,本件訂正審判に係る訂正は,少なくとも,特許法126条5項に違
反するものであって,認められるべきものではないと思われる。
(3)原告は,本件訂正審判の請求後,特許庁長官に対し,審判請求書を補正する
旨の同年4月7日付け手続補正書(甲9)を提出したが,同補正書によれば,原告
が求めている特許請求の範囲の訂正には,構成要件1Cについて,「該補強フレー
ムの一端は最も外側に位置する幕体支持ポールの上端位置に係止し,補強フレーム
の他端は隣接する幕体支持ポールに挿着されたスライトブラケットに上方から当接
させることにより,幕体支持ポールを垂直に保持しながら,シザー組立体の伸張を
維持しテント側面の強度を向上しつつ,直立する妻面を構成するようにしたことを
特徴とする」(下線部は,いずれも訂正箇所を示す。)などとすることが含まれる
ようである(同補正書の1頁には,「補正対象項目名」として「請求の理由」とあ
り,「請求の趣旨」とは記載されていないが,訂正特許請求の範囲を含む同補正書
2頁以下の記載によれば,請求の趣旨を補正することが当然の前提となっているも
のと考えざるを得ないし,原告の同月8日付け準備書面2〔4頁〕にも,これに沿
う記載がある。)。
しかし,訂正審判における審判請求書について,請求の趣旨を補正することは認
められていない(特許法131条の2第1項1号)。
なお,仮に,原告が本件訂正審判に係る請求の趣旨の補正を求めていないとすれ
ば,同補正書の記載はおよそ無意味であるというほかはなく,原告がいかなる目的
で同補正書を特許庁長官に提出し,また,本件訴訟において書証として申し出たの
か,理解に苦しむところといわなければならない。
(4)以上より,本件訴訟において,原告が本件訂正審判において求めている訂正
を前提として,本件各特許発明の技術的範囲に被告製品が属するか否かを検討する
必要がないことは,明らかである。
第5結論
以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,原告の本件請求はいずれも理
由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
鈴木千帆
裁判官
天野研司

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