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平成29年10月26日判決言渡
平成29年(行ケ)第10128号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年9月5日
判決
原告株式会社松尾モータース
同訴訟代理人弁護士佐藤俊
古庄俊哉
髙田奈月
同訴訟代理人弁理士永井道彰
被告軽スタジオ茅ヶ崎株式会社
同訴訟代理人弁護士小林幸夫
河部康弘
藤沼光太
神田秀斗
平田慎二
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が無効2016-890060号事件について平成29年5月11日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,
本件商標と引用商標の類否判断の誤りの有無である。
1本件商標
被告は,次の商標(以下,「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,23)。
(1)登録商標軽スタ(標準文字)
(2)登録番号第5817753号
(3)出願日平成27年7月15日
(4)査定日平成27年11月16日
(5)登録日平成28年1月8日
(6)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第35類自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提
供,自動車の部品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
2特許庁における手続の経緯
原告が,平成28年10月14日に本件商標についての商標登録無効審判請求(無
効2016-890060号)をしたところ,特許庁は,平成29年5月11日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月19日,原
告に送達された。
3審決の理由の要点
(1)本件商標は,前記1のとおり,「軽スタ」の文字からなるところ,その構成
は,漢字1字と片仮名2字を結合した極めて簡潔な構成からなり,また,これらの
文字は,同一の書体,同一の大きさ,同一の間隔で表されており,外観上,まとま
りよく一体的に看取,把握されるというのが相当である。
そして,本件商標からは,その構成文字に相応して,「ケイスタ」の称呼を生じる
ものであり,この称呼も4音と短く,一気に称呼し得るものである。
また,本件商標は,辞書等に載録のない語であって,一般に親しまれた意味を有
する成語ということもできないから,その構成全体をもって一体不可分の造語を表
したものと認識されるとみるのが相当である。
したがって,本件商標は,「ケイスタ」の称呼を生じ,特定の観念を生じない。
(2)登録第5445390号商標(以下,「引用商標」という。)は,下記のと
おり,「軽スタジオ」の文字を横書きしてなり,平成23年4月13日に登録出願,
第35類「自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,
自動車の部品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自
動車リース事業の運営及び管理,自動車の売買契約の媒介」を指定役務として,同
年10月21日に設定登録され,その商標権は,現に有効に存続しているものであ
る。
引用商標は,上記のとおり,「軽スタジオ」の文字からなるところ,これらの文字
は,同一の書体,同一の大きさ,同一の間隔で表されており,外観上,まとまりよ
く一体的に看取,把握されるというのが相当である。
そして,引用商標からは,その構成文字に相応して,「ケイスタジオ」の称呼が生
じるものであり,その称呼も6音と冗長とはいえず,一気に称呼し得るものである。
また,引用商標は,辞書等に載録のない語であって,一般に親しまれた意味を有
する成語ということもできないから,その構成全体をもって一体不可分の造語を表
したものと認識されるとみるのが相当である。
したがって,引用商標は,「ケイスタジオ」の称呼を生じ,特定の観念を生じない。
(3)ア本件商標は,「軽スタ」の文字からなるのに対し,引用商標は,「軽スタ
ジオ」の文字からなるところ,本件商標と引用商標は,「軽スタ」の文字を同じくす
るとしても,これに続く「ジオ」の2文字の有無という顕著な差異を有するもので
あるから,外観上,相紛れるおそれはない。
イ本件商標より生じる「ケイスタ」の称呼と引用商標より生じる「ケイス
タジオ」の称呼とは,「ケイスタ」の音を同じくするとしても,これに続く「ジオ」
の音の有無という差異を有するものであるから,両称呼は,前者が4音,後者が6
音という比較的短い音構成よりなる上,差異音の「ジオ」の音は,いずれの音も比
較的強く発音され,明瞭に響く音といえるから,この差異音が称呼全体に及ぼす影
響は小さくなく,それぞれの称呼を全体で称呼した場合において,その語調,語感
が相違し,称呼上,十分聴別できるものである。
ウ本件商標と引用商標とは,いずれも特定の観念を生じないものであるか
ら,観念において比較することはできない。
エ以上のとおり,本件商標と引用商標は,共に特定の観念を生じないから,
観念において比較することができず,外観及び称呼において相紛れるおそれのない
ものであるから,これらを総合して判断すると,両商標は,非類似の商標とみるべ
きである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。
第3原告主張の審決取消事由~本件商標と引用商標との類否判断の誤り
1本件商標と引用商標とは,後記2~5のとおり,「軽自動車に関する役務の提
供が行われる場所や施設」という同一の観念が生じるから,少なくとも観念におい
て同一の関係にあり,仮に外観及び称呼において両商標が類似するとはいえないと
しても,外観及び称呼の相違はわずかなものにすぎない。
また,本件商標の出願人・商標権者である被告自身が,「軽スタジオ」に代えて「軽
スタ」(本件商標)の使用を開始した等の実情もある。
これらを踏まえて,本件商標と引用商標の指定役務の需要者に与える印象,記憶,
連想等を総合して判断すると,指定役務に両商標を使用した場合,役務の出所につ
き誤認混同のおそれがあるから,両商標は類似の商標というべきである。
2審決は,本件商標及び引用商標は,いずれも,その構成全体をもって一体不
可分の造語を表したものと認識されるとみるのが相当であるとして,いずれの商標
からも特定の観念が生じないと判断した。
しかし,本件商標と引用商標が「構成全体が一体不可分の造語である」ことは,
これらの商標から特定の観念が生じないことの根拠とはならず,商標を構成する語
を具体的に検討し,指定商品・指定役務の需要者がいかにその商標を認識するかと
いう観点で観念の認定判断をすべきである。
3引用商標は,「軽スタジオ」の文字からなり,本件指定役務の需要者のみなら
ず,通常の理解能力を備えた一般人であれば,「軽」という漢字の単語と「スタジオ」
という片仮名の単語の組合せからなることは容易に認識し得る。
「軽」は,その一語が名詞として使われる場合には,一般に「軽自動車」の意味
を有し,引用商標の指定役務が第35類「自動車の小売又は卸売の業務において行
われる顧客に対する便益の提供,自動車の部品の小売又は卸売の業務において行わ
れる顧客に対する便益の提供,自動車リース事業の運営及び管理,自動車の売買契
約の媒介」(以下,「本件指定役務」という。)であることに鑑みても,「軽」の部分
が,「軽自動車」を意味することは明らかである。
また,「スタジオ」は,広辞苑によると,「①美術家などの仕事場,②写真屋の撮
影室,③映画の撮影所,④放送局の放送室など,録音・録画のできる施設」などの
意味を有する(甲4)。一般にも,「スタジオ」は,美術家等にとっては仕事をする
場所を意味し,写真家にとっては写真を撮影する場所を意味する一方,映画の撮影
所など映画を撮影するための場所や施設をも意味する外来語として,敢えて日本語
訳されることなく,日本国内において広く浸透している言葉である。また,自動車
の販売を業として行う会社や店舗の名称として「カースタジオ」との語を用いる例
が全国に多く存在し(甲24),「CarstudioDome(カースタジオド
ーム)」という中古車販売を行う販売店(甲25)や,「16studio(ジュウ
ロクスタジオ)」という車の点検や各種修理を行う店舗(甲26)なども存在するこ
とに照らすと,「スタジオ」という言葉が本件指定役務に使用される場合,本件指定
役務の需要者においては,広辞苑記載の上記意味に限定されず,「自動車関連の役務
の提供が行われる場所や施設」といった観念が想起されるといえる。
以上によると,本件指定役務の需要者は,引用商標を構成する「軽」は「軽自動
車」,「スタジオ」は「自動車関連の役務の提供が行われる場所や施設」の意味を容
易に想起するから,引用商標全体からは,「軽自動車に関する役務の提供が行われる
場所や施設」という観念が生じる。
4本件商標は,「軽スタ」の文字からなり,本件指定役務の需要者のみならず,
通常の理解能力を備えた一般人であれば,「軽」という漢字と「スタ」という片仮名
からなる語であることは容易に認識できる。
そして,「軽」の部分が,「軽自動車」を意味することは,引用商標と同様である。
また,「スタ」の部分は,単独では特定の意味をなさないが,「スタ」の文字が「○
○スタ」,「スタ○○」といった形で他の言葉と組み合わされて用いられるときには,
「○○スタジオ」,「スタジオ○○」など,「スタ」部分が「スタジオ」という外来語
の「ジオ」を省略したものとして用いられている例が多数存在する。例えば,「おは
スタ」(甲5の1・2),「さがスタ」(甲6),「スタねっと」(甲7),「オースタ」(甲
8)などである。これらの多数の実例からすると,「○○スタ」,「スタ○○」という
語全体からは,「○○スタジオ」,「スタジオ○○」との語を構成する「スタジオ」と
いう外来語の「ジオ」部分を省略している語であると一般的に認識され得るという
べきである。したがって,本件指定役務の需要者において,本件商標の「軽スタ」
との語全体が,「軽スタジオ」の「ジオ」部分を省略しているものであると認識され
る。
被告は平成28年6月頃まで「軽スタジオ」を商標的に使用していたが,原告か
らの商標権侵害の警告を受け,「軽スタジオ」に代えて「軽スタ」という本件商標の
使用を開始したこと,その後も「軽スタ」と表記した自己のウェブサイトに誘導す
るために「軽スタジオ」というキーワードメタタグを用いていること,被告は,被
告の店舗において,自動車の小売等と自動車の修理等という密接に関連する自動車
関連の役務について,「軽スタ」と「軽スタジオ」とを混在して継続使用することを
自ら表明していることに照らしても,被告自身が,「軽スタ」という語が「軽スタジ
オ」の「ジオ」部分を省略した言葉として,「軽スタジオ」と同一の観念を有し,需
要者に対して同一の印象を与える語であるということを自認しており,本件指定役
務の需要者において,本件商標の「軽スタ」との語全体が,「軽スタジオ」の「ジオ」
部分を省略しているものであると認識されることが裏付けられている。
以上によると,本件商標の「軽スタ」との語は,本件指定役務の需要者には,「軽
スタジオ」の「ジオ」部分を省略しているものであって,「軽スタジオ」と同義のも
のだと認識されるから,本件商標から,引用商標と同一の観念,すなわち,「軽自動
車に関する役務の提供が行われる場所や施設」という観念が生じる。
なお,「スタ」で始まる外来語としては,「スタジオ」のほかにも「スタイル」,「ス
タート」,「スター」,「スタッフ」等も存在するが,「軽スタ」の語が本件指定役務と
の関係で用いられる場合に,本件指定役務の需要者が「軽スタ」との語から「軽ス
タイル」,「軽スタート」,「軽スター」,「軽スタッフ」等の語を想起する根拠はない。
また,一つの商標から2以上の観念が生じることは否定されないから,仮に「軽ス
タ」との語から「軽スタジオ」以外の語を想起可能であるとしても,本件商標から
上記観念が生じることは否定されない。
5本件商標と引用商標とは,語頭の3文字が完全に一致しており,引用商標の
末尾に「ジオ」の2文字が存在することは,外観として顕著な差異があるとまでは
いえない。
同様に,本件商標の称呼「ケイスタ」と引用商標の称呼「ケイスタジオ」は,語
頭の4音が完全に一致し,「ケイスタ」は,一般に「ケ」と「ス」にアクセントを置
いて発音される一方,「ケイスタジオ」も,一般に「ケ」と「ス」にアクセントを置
いて発音されることからすると,「ジオ」の2音が存在することは,称呼としても顕
著な差異があるとまではいえない。
6加えて,本件においては,本件商標の出願人・商標権者である被告の屋号・
商号は「軽スタジオ茅ヶ崎株式会社」であること,被告が「軽スタジオ」に代えて
「軽スタ」という本件商標の使用を開始したこと,その後も,「軽スタ」と表記した
自己のウェブサイトに誘導するために「軽スタジオ」というキーワードメタタグを
用いていることなど,被告自身が本件商標「軽スタ」と「軽スタジオ」とを同一な
いし類似のものとして使用している実情がある。
また,原告自身も,本件商標の登録出願前から,軽自動車販売等の役務を提供す
る営業所である「軽スタジオ大蔵谷」の広告宣伝物において「軽スタジオ」の略称
として「軽スタ」,「Keiスタ」という表記を行ってきた(甲18~甲20の1・
2)。
被告は,本件指定役務の需要者は店舗に来店するのが通常であるところ,原告と
被告の店舗が地理的に離れているから,同一の営業主体と誤認混同されるおそれは
ないなどと主張するが,原告と被告の店舗は需要者及び営業形態が完全に一致して
いるし,原告と被告はいずれもウェブサイトで店舗の宣伝広告を行っており,原告
は「軽スタジオ」,被告は「軽スタ」の表示を用いていることからすると,両店舗が
地理的に離れているとしても同一の営業主体であると誤認混同されるおそれはある
というべきである。また,現実に出所混同が生じることは商標法4条1項11号に
該当する要件とされていない。被告の主張は失当である。
第4被告の主張
1本件商標と引用商標とは,後記2~8のとおり,特定の観念を生じず,その
外観・称呼も明確に異なる上,取引の実情からしても,両者は非類似である。
2「軽」は,「軽自動車」を意味するから,本件指定役務に引用商標が使用され
た場合,本件指定役務と密接に関連する「軽」(軽自動車)という用語からは,出所
識別標識としての観念は生じ得ない。
また,「スタジオ」は,放送,映画,アトリエ,写真撮影所など芸術的な活動を行
う場所という意味であるから(甲4,乙1~5),本件指定役務とは語義的には何ら
関係がなく,本件指定役務との関係で特定の観念を生じさせることはない。
以上からすると,引用商標は全体として特定の観念を生じない。
3「スタ」という用語は辞書になく,原告も自認するとおり,単独では特定の
意味をなさない。
また,「○○スタ」や「スタ○○」という用語が存在する場合であっても,例えば,
「夏スタ!」(「スタ」はスタジアムの略。乙6),「味スタ」(「スタ」はスタジアム
の略。乙7),「たの★スタ」(「スタ」はスタッフの略。乙8),「チーム・まちスタ」
(「スタ」はスタートの略。乙9)のように,「スタジオ」の略称でない例は多数存
在するから,本件商標に接した需要者において,「軽スタ」から直ちに「軽スタジオ」
を想起するとはいえない。例えば,軽自動車の販売スタッフを「軽スタ」と略した
としても何ら不自然ではない。
「おはスタ」,「さがスタ」,「スタねっと」,「オースタ」などは,いずれも,放送
局,録音場所,コスプレなどの写真撮影所において使用される例であり,本件指定
役務との関連で「スタジオ」が「スタ」と省略されている例ではないから,本件指
定役務との関連で使用される本件商標に接した需要者において,「スタ」を「スタジ
オ」であると認識することはない。
以上からすると,本件指定役務との関係でも,本件商標の「スタ」が「スタジオ」
の略であるとはいえず,「スタ」からは特定の観念が生じない。
4原告は,被告が「軽スタジオ」に代えて「軽スタ」を用いていること,「軽ス
タジオ」というキーワードメタタグを使用していることから,被告が「軽スタ」と
「軽スタジオ」を同一の観念だと自認している旨主張するが,原告指摘の上記事情
は,本件商標が特定の観念を生じさせる理由にならないし,被告が「軽スタジオ」
に代えて「軽スタ」を用いていることをもって,需要者に両者が同義であると認識
されるということは,論理の飛躍がある。
原告が本件商標の出願以前から「軽スタジオ」の略称として「軽スタ」という表
記を行っていたという事実も,同様の理由により,需要者において本件商標と引用
商標とが同義であると理解される根拠にはならない。
5前記2~4からすると,引用商標も本件商標も特定の観念を生じ得ないから,
これを前提とする審決の判断に誤りはない。
6本件商標は3文字,引用商標は5文字であるから,本件商標と引用商標とは,
引用商標を基準として,文字数として全体の5分の2(2文字)も異なるのであっ
て,本件商標と引用商標のように短い単語である場合には,その外観上の違いは非
常に大きなものである。
したがって,本件商標と引用商標とは,外観上非類似である。
7本件商標と引用商標とは,短い単語間において文字数としては2文字(「ジオ」)
も異なる上,相違点である「ジオ」は濁音を含んだ部分であり,清音と比較して明
瞭に発音されるから,両商標の称呼上の違いは明白である。
8本件指定役務は自動車の小売等であるから,主な需要者は自動車を購入しよ
うとする者であり,需要者は,外観や性能を確認するため,店舗に来店し,実際に
自動車を見分することが通常である。そして,被告が神奈川県茅ヶ崎市で営業する
法人であり,原告が兵庫県で営業する法人であり,地理的に相当程度離れているこ
とからすると,自動車を購入しようと店舗に来店する需要者において,本件商標を
付した被告の店舗と引用商標を付した原告の店舗が同一の営業主体であると誤認混
同されるおそれはない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,本件商標は,引用商標に類似する商標(商標法4条1項11号)に
当たるものではないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1本件商標は,前記第2の1のとおり,「軽スタ」という漢字1字と片仮名2字
を結合した構成の標準文字からなり,外観上,一体的に看取,把握されるものであ
る。
また,本件商標からは,その構成文字に応じて,「ケイスタ」の称呼を生じ,この
称呼は4音と短いことから,一気に称呼し得るものである。
2本件商標は,辞書等に載っていない造語であると解されるから,直ちに特定
の観念を生じるものではない。
もっとも,本件商標の指定役務は,自動車及びその部品の小売又は卸売の業務に
おいて行われる顧客に対する便益の提供であること,「軽」が「軽自動車」の略称と
して用いられていること(甲3の1~4)からすると,「軽」という漢字部分からは
「軽自動車」が想起される。
他方,「スタ」という片仮名部分は,それ自体に特定の意味がないところ,これと
結合する「軽」という漢字部分からは指定役務との関係で「軽自動車」が想起され
ること,本件商標の査定日である平成27年11月16日以前から,「新しいまちづ
くりをスタートさせるスタッフ」を意味するものとして4音の「まちスタ」が使用
されていたほか(乙9),「おはようスタジオ」というテレビ番組を「おはスタ」と
略称する(甲5の1・2)など,「スタ」が略称として用いられることが少なからず
あったこと(弁論の全趣旨)からすると,本件商標の指定役務の需要者には,「スタ」
という片仮名部分も特定の単語の略称であると想起されることがあり得るというこ
とができる。
しかし,「スタ」という片仮名部分が特定の単語の略称であると想起されるとして
も,冒頭2字を略称にするとは限らないし,「スタ」から始まる片仮名の単語につい
ては,広辞苑(第6版)掲載のものに限っても,「スター」,「スタート」,「スタイリ
ッシュ」,「スタイル」,「スタジアム」,「スタジオ」,「スタッフ」,「スタディー」の
ほか(甲4),「スタミナ」,「スタメン」,「スタンダード」,「スタンド」,「スタンバ
イ」などがあり,いずれも「スタ」と略称される可能性があるということができる
(甲5の1・2,甲6~9,乙6~9)。そして,本件商標の指定役務との関係や,
「軽自動車」の略称と考えられる「軽」という漢字部分との組み合わせを考えても,
本件商標の指定役務の需要者において,これらの「スタ」から始まる多数の単語の
うち,いずれかのみを強く想起するということはできない。
そうすると,本件商標に接した本件商標の指定役務の需要者は,本件商標が軽自
動車と「スタ」から始まる何らかの単語を組み合わせたものの略称と考えられるこ
とまでを想起するとしても,本件商標全体から特定の観念を想起することはできな
いというべきである。
3引用商標は,前記第2の3(2)のとおり,「軽スタジオ」という漢字1字と片
仮名4字を横書きした構成からなるが,これらの文字は,同一の書体,同一の大き
さ,同一の間隔で表されており,外観上,一体的に看取,把握されるものである。
また,引用商標からは,その構成文字に応じて,「ケイスタジオ」の称呼を生じ,
この称呼は6音であることから,一気に称呼し得るものである。
さらに,引用商標は,「軽」という漢字と「スタジオ」という片仮名から構成され
るものであるところ,その指定役務が「自動車及びその部品の小売又は卸売の業務
において行われる顧客に対する便益の提供,自動車リース事業の運営及び管理,自
動車の売買契約の媒介」であること,「軽」が「軽自動車」の略称として用いられて
いることからすると,「軽」という漢字部分からは「軽自動車」が想起される。他方,
「スタジオ」は,①画家,彫刻家,写真家,デザイナーなど芸術家の仕事場,②映
画や写真の撮影所,③音楽の録音室・練習室,④放送局の放送室などといった意味
を有する単語であり(甲4,乙1~5),引用商標の指定役務と直ちに結びつくもの
ではないが,「軽自動車」の略称である「軽」と結合して用いられていることから,
引用商標全体からは,「軽自動車に関する役務の提供が受けられる場所」といった観
念を想起するものと認められる。
4前記1~3によると,本件商標と引用商標の外観は,「軽スタ」という文字部
分が共通であるものの,本件商標が3字であるのに対し,引用商標は5字であり,
離隔的観察においても,外観上の相違を十分認識することができる。
また,本件商標と引用商標の称呼は,「ケイスタ」が共通であるものの,本件商標
が4音であるのに対し,引用商標は6音である上,差異音である「ジオ」は,濁音
を含む明瞭に発音されるものであるから,離隔的観察においても,称呼上の相違を
十分認識することができる。
さらに,引用商標からは,「軽自動車に関する役務の提供が受けられる場所」とい
った観念が生じるが,本件商標からは,特定の観念を想起することはできないから,
本件商標と引用商標とは,観念が共通するものではない。
以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観及び称呼において相紛れるおそれ
はなく,観念が共通するものでもないから,これらを総合して判断すると,本件商
標は,引用商標に類似する商標に当たらない。
5原告は,「スタ」の文字が「○○スタ」,「スタ○○」といった形で他の言葉と
組み合わされて用いられるときには,「○○スタジオ」,「スタジオ○○」など,「ス
タ」部分が「スタジオ」という外来語の「ジオ」を省略したものとして用いられる
例が多数存在するから,本件指定役務の需要者において,本件商標の「軽スタ」と
の語全体が,「軽スタジオ」の「ジオ」部分を省略しているものであると認識される
などと主張する。
しかし,原告が「○○スタ」,「スタ○○」の例として指摘する「おはスタ」(甲5
の1・2)は放送局の放送室,「さがスタ」(甲6)と「スタねっと」(甲7)は音楽
の録音室・練習室,「オースタ」(甲8)はコスプレスタジオの意味で,「スタジオ」
を「スタ」と略称しているものであり,いずれも,「スタジオ」という単語を前記3
で認定した本来の語義に従って用いている例にすぎず,本件商標の指定役務である
自動車及びその部品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提
供という,「スタジオ」の語の本来の語義とは直ちに結びつかない場面において,「○
○スタ」,「スタ○○」を「○○スタジオ」,「スタジオ○○」の略称として用いてい
る例ではない。
また,原告が折込チラシ等において「軽スタ」,「Keiスタ」を「軽スタジオ大
蔵谷」という届出済未使用車の販売店舗の略称として使用していることが認められ
るものの(甲18~甲20の1・2),原告の折込チラシの一部は神戸市須磨区,垂
水区など特定の地域に限って配布されたことがうかがわれ(甲20の2),本件全証
拠によるも,「軽スタ」を「軽スタジオ」の略称として用いることが広く知られてい
たとは認められない。
さらに,中古車や自動車の部品を販売する少なくとも七つの業者が「カースタジ
オ」を含む屋号を使用していること(甲24,25),自動車の修理,板金塗装を行
う業者が「16studio(ジュウロクスタジオ)」という屋号を使用しているこ
と(甲26)が認められるが,本件全証拠によるも,これらの業者が「○○スタ」
又は「スタ○○」を略称として使用しているとは認められない。
かえって,「○○スタ」,「スタ○○」の「スタ」が「スタジオ」以外の語の略称と
して用いられる例として,「Koboスタ宮城」(「スタ」は「スタジアム」の略称。
甲9),「夏スタ」(「スタ」は「スタジアム」の略称。乙6),「味スタ」(「スタ」は
「スタジアム」の略称。乙7),「たの★スタ」(「スタ」は「スタッフ」の略称。乙
8),「まちスタ」(「スタ」は「スタート」,「スタッフ」の略称。乙9)などが認め
られる。
そうすると,本件商標の指定役務(自動車及びその部品の小売又は卸売の業務に
おいて行われる顧客に対する便益の提供)の需要者が,本件商標「軽スタ」に接し
た場合に,「軽スタジオ」の「ジオ」部分を省略しているものであると認識するもの
とは認められない。
なお,原告は,被告の商号が「軽スタジオ茅ヶ崎株式会社」であること,被告が
「軽スタジオ」に代えて「軽スタ」という本件商標の使用を開始したこと,その後
も被告が「軽スタ」と表記した自己のウェブサイトに誘導するために「軽スタジオ」
というキーワードメタタグを用いていること,被告は,被告の店舗において,「軽ス
タ」と「軽スタジオ」を混在して継続使用することを表明していることなどを指摘
するが,これらは,いずれも商標権者である被告に係る個別具体的な事情であって,
本件商標の指定役務全般に係る一般的,恒常的な取引の実情ではないから,上記判
断を左右するものではない。また,被告が,「軽スタジオ」と「軽スタ」のいずれの
標章も使用してきたとしても,被告の認識が,本件商標と引用商標を離隔的に(場
所と時間を異にして)観察する需要者の認識と一致するものとする根拠はないから,
この点からしても上記判断を左右するものではない。
6原告は,一つの商標から2以上の観念が生じることは否定されないから,仮
に「軽スタ」との語から「軽スタジオ」以外の語を想起可能であるとしても,本件
商標から引用商標と同一の観念,すなわち,「軽自動車に関する役務の提供が行われ
る場所や施設」という観念が生じることは否定されないなどと主張する。
しかし,前記2のとおり,「スタジオ」は,「スタ」という片仮名部分の略称であ
る単語として多数考えられる候補の一つにすぎず,そのように多数考えられる候補
の中から,本件商標の指定役務と直ちに結びつくものではない「スタジオ」を想起
するということはできない。
そうすると,1個の商標から複数の観念が生ずることがあり得るとしても,本件
商標である「軽スタ」から「軽スタジオ」を想起し,「軽自動車に関する役務の提供
が行われる場所や施設」という観念を想起するものとは認められないから,原告の
主張は理由がない。
7以上によると,本件商標は,引用商標に類似する商標(商標法4条1項11
号)には当たらないから,これと同旨の審決の結論に誤りはなく,原告主張の審決
取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
森岡礼子
裁判官
古庄研

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