弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一、原告
「被告が、原告の昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の
法人税について、昭和四三年六月二八付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決
定処分は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。
二、被告
主文と同旨の判決。
第二 当事者の主張
一、原告の請求原因
(一) 原告は、その昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年
度の法人税について、同年五月三一日、別表(一)A欄記載のとおり、課税所得金
額を六一〇万九、〇七〇円、税額を一四八万〇、一一〇円として確定申告したとこ
ろ、被告は、昭和四三年六月二八日付をもつて、同表B欄記載のとおり、課税所得
金額を七〇八万七、九八三円、税額を一七八万二、〇〇〇円と更正する処分をし、
且つ、過少申告加算税一万五、〇〇〇円を賦課決定する処分をした。
(二) 原告は、右更正及び加算税賦課決定の各処分を不服として、昭和四三年七
月二三日、高松国税局長に対し審査請求をしたが(なお、右各処分は、昭和四五年
法律八号による改正前の国税通則法七九条二項二号に該当したので、課税庁である
被告に対する異議申立をすることなく、直接審査請求に及んだものである。)、昭
和四四年二月四日付でこれを棄却する旨の裁決があり、同月一二日その送達を受け
た。
(三) しかし、右更正処分及び加算税賦課決定処分は違法であるから、その取消
しを求める。
二、請求原因に対する被告の認否
請求原因(一)(二)の事実を認める。
三、被告の主張(処分の適法性)
(一) 原告の本件係争事業年度の法人税の課税所得金額については、その主張の
とおり、原告が六一〇万九、〇七〇円としているのに対し、被告において七〇八万
七、九八三円であるとみており、その間に九七万八、九一三円の差違を生じている
が、右所得金額のそれぞれの計算根拠は別表(二)記載のとおりであつて、要する
に、右差違を生じた原因は、被告が後述のとおり原告の受取配当のうち支払配当を
こえる額の一〇〇分の二五に相当する右差額を租税特別措置法(昭和四五年法律三
八号による改正前のもの。以下同様で、単に措置法と略称する。)四二条の二に則
り益金の額に算入したのに対し、原告はその益金算入をしなかつたところにある。
(二) しかして、原告は、訴外関西電業株式会社(以下訴外会社という。)の株
式八万株を所有していたところ、本件係争事業年度において、訴外会社が右株式の
うち四万株を利益をもつて消却し(商法二一二条一項但書)、これにより訴外会社
から九五六万円の交付を受けたが、これにつき法人税法二四条一項一号、二項一
号、二三条三項を適用して益金に算入しないみなす配当の額を計算すると、七九一
万五、六五五円となる。他方、原告には、本件係争事業年度において、措置法四二
条の二の一項にいわゆる「所得等からした配当等の金額」が四〇〇万円ある。とこ
ろで、同条項は、「内国法人・・・・・・・・・・・・
が・・・・・・・・・・・・各事業年度において受けた益金に算入しない配当等の
金額・・・・・・・・・・・・が、所得等からした配当等の金
額・・・・・・・・・・・・をこえる場合には、そのこえる金額の一〇〇分の二五
に相当する金額は、法人税法第二三条の規定にかかわらず、当該事業年度の所得の
金額の計算上、益金の額に算入する。」と規定しているが、右規定にいう「益金に
算入しない配当等の金額」とは、同法四二条一項本文かつこ書の規定から明らかな
ように、法人税法二三条の規定により益金の額に算入しない金額をいうものであつ
て、本来の配当のみならず、みなす配当も、これに該当する。従つて、右益金に算
入しないみなす配当の額七九一万五、六五五円のうち右所得等からした配当等の金
額四〇〇万円をこえる三九一万五、六五五円の一〇〇分の二五に相当する九七万
八、九一三円は、措置法四二条の二の一項の規定により、当然、益金の額に算入す
べきである。しかるに、原告は右益金算入をせずに申告したので、被告はその算入
をして本件更正処分をし且つこれに伴つて加算税賦課決定処分をしたものである。
(三) 右のとおり、本件更正処分は、法律上の根拠に基づくものであつて、もと
より適法であり、従つて、また、加算税賦課決定処分も、それだけの根拠を備え、
適法である。
四、右被告の主張に対する原告の認否と反論
(一) 被告主張の事実関係はすべて認めるが、後述のとおり、本件のような場合
に措置法四二条の二の規定を適用するのは、同条及び同法四二条の立法趣旨に反し
違法である。
(二) そもそも、措置法四二条及び四二条の二は、昭和三六年三月、同法の一部
改正法として制定されたもので、その立法趣旨は、企業の資本の充実に資するため
の配当課税の特例措置として、法人利益のうち支払配当に対する法人税を軽課し、
反面、法人間の配当益金不算入の取扱いについて、右軽課に対応する調整を加え、
法人の受取配当が支払配当をこえる場合には、そのこえる金額の一〇〇分の二五に
相当する金額を益金に算入する措置を講ずる、というところにある。すなわち、右
改正当時においては、通常の法人税率は三八パーセントであつたが、配当支払法人
の法人税につき支払配当に対する税率を二八パーセントに軽減するとともに、これ
に対応して、配当受取人の法人税に関し、28%(軽減税率)/38%(通常税
率)=73.68%となるところを、法人に有利に七五パーセントとみて、これだ
けを益金不算入額とし、受取配当の二五パーセントを法人税法二三条の規定にかか
わらず益金の額に算入することとしたものである。このように、措置法四二条及び
四二条の二は、相互に関連する規定であるから、受取配当が支払配当をこえる場合
において、受取配当につきその支払側法人が軽減税率の適用を受けているときは、
受取側法人において右こえる額の二五パーセントを益金に戻入れ算入すべきことは
当然であるが、支払側法人につき軽減税率が適用されていないときは、右の益金戻
入れはすべきでないというべきである。しかるに、原告が訴外会社から交付を受け
た九五六万円(みなす配当)については、訴外会社において軽減税率の適用を受け
ていないのであつて、それにもかかわらず、被告が受取法人である原告につぎ右二
五パーセントの益金算入をすべきものとして本件更正処分をしたのは、措置法四二
条及び四二条の二の規定の立法趣旨ないしは相互の関連性を無視し、四二条の二の
みを形式的に文理解釈した結果であつて、違法であるというべく、従つて、これを
前提としてなされた加算税賦課決定処分も違法たることを免れないものである。
(三) なお、被告は、原告の前記受交付金(みなす配当)につき、所得税法五条
三項、七条一項四号、一七四条二号、二四条一項、二五条により原告に所得税の納
税義務ありとして、これを徴収している。しかし、同法五条三項は、内国法人の所
得税納税義務について規定しているが、同法一七四条二号及び七条一項四号にいう
配当等とは、同法二四条一項に示すもの(本来の配当)のみに限定されるのであつ
て、同法二五条のみなす配当については、右各条を準用する旨の規定がないから、
所得税の納税義務はないものというべく、従つて、右所得税の徴収は違法である。
そして、右違法は、当然、本件更正処分及び加算税賦課決定処分をも違法たらしめ
るものというべきである。
五、右原告の反論に対する被告の認否と弁駁
(一) 措置法四二条及び四二条の二の規定の立法趣旨は、一応、原告主張のとお
りであり、右両規定間に一般的な対応関係はあるが、このことを考慮しても、結
局、本件更正処分及び加算税賦課決定処分は適法というべきである。その理由は、
別紙準備書面三項以下に記載のとおりである。
(二) なお、被告が原告主張のとおり所得税を徴収していることは認めるが、所
得税法二五条は、同法の規定の適用につき、株式消却による受交付金等を利益の配
当又は剰余金の分配の額とみなす旨規定しているのであるから、その主張のような
準用するという形での規定がなくても、みなす配当につき所得税の納税義務がある
ことは、文理上明白である。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一、原告が、その昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の
法人税について、同年五月三一日、課税所得金額を六一〇万九、〇七〇円、税額を
一四八万〇、一一〇円として確定申告をしたところ、被告が、昭和四三年六月二八
日付をもつて、課税所得金額を七〇八万七、九八三円、税額を一七八万二、〇〇〇
円と更正する処分をし、且つ、過少申告加算税一万五、〇〇〇円を賦課決定する処
分をしたこと、原告が本訴に先立ち適法な審査手続を経たことは、当事者間に争い
がない。
二、そこで、双方の主張に鑑み、右更正処分の適否について判断する。
原告が訴外会社の株式八万株を所有していたところ、本件係争事業年度において、
訴外会社が右株式のうち四万株を利益をもつて消却し、これにより原告は訴外会社
から九五六万円の交付を受けたこと、原告の右受交付金につき、法人税法二四条一
項一号、二項一号、二三条三項を適用して益金に算入しないみなす配当の額を計算
すると、七九一万五、六五五円になること、原告には、本件係争事業年度におい
て、措置法四二条の二の一項にいわゆる「所得等からした配当等の金額」が四〇〇
万円あること、原告が右受交付金のあることを全く考慮の外において確定申告をし
たのに対し、被告は、措置法四二条の二の一項の規定により、右益金に算入しない
みなす配当の額七九一万五、六五五円のうち所得等からした配当等の金額四〇〇万
円をこえる三九一万五、六五五円の一〇〇分の二五に相当する九七万八、九一三円
が益金の額に算入されるべきであるとして、本件更正処分をしたこと、なお、訴外
会社は原告に対する右交付金につき措置法四二条による軽減税率の適用を受けてい
ないこと、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
ところで、原告は、措置法四二条及び四二条の二は、相互に関連する規定であつ
て、前者が適用されるときに限り、後者が適用されるべきであるから、右九七万
八、九一三円を益金の額に算入してした本件更正処分は右両規定の立法趣旨に反し
違法である旨主張する。
なるほど、措置法四二条は、企業の資本の充実に資するため、支払配当に充てた所
得に対する法人税の軽減を図ることを趣旨とした規定である。すなわち、企業の資
金調達方式として、他人資本である借入金によるか、自己資本である増資払込金に
よるかのいずれかを選択する場合に、法人税法上、借入金によつたときは、それに
伴う支払利子は損金の額に算入されるのに対して、増資によるときは、それに伴う
支払配当金は損金の額に算入されない、という相違があるため、配当は企業が法人
税を支払つた残りの利益から支払わなければならず、自己資本による調達資金のコ
ストは借入金のそれに比して高いものとなるから、勢い、企業をして借入金の方法
を選ばせることになり、その結果、企業の自己資本構成比率が著しく低くなつて企
業としての安定性を欠くに至る。そこで、措置法四二条は、かかる結果を是正し、
企業の資本を充実させるため、支払配当に充てた部分について概ね二五パーセント
程度の法人税率の軽減を図ることとしたものである。
そして、措置法四二条の二は、右のごとき意義を有する同法四二条の規定に対応し
て設けられたものであつて、法人税が法人所得の終局的帰属者たる株主に対し課税
されるのをその分配前に予め課税されるものであるとの考え方から配当を受取つた
株主の段階で二重に課税されることを防止するためにある法人株主についての受取
配当益金不算入制度(法人税法二三条)に修正を加え、配当支払法人についての前
記軽減税率の適用に伴い、右益金不算入の割合も二五パーセントだけ減じて、税率
軽減分を配当受取法人の段階で取戻すことを意図した規定である。
このように、措置法四二条及び四二条の二は、一応、相互に関連する規定であり、
この関連性を保つて資本充実の要請と法人課税の必要とを調和させるという基本的
構想に立脚しているものであることは否定し難いところである。
しかしながら、株式消却による受交付金等、みなす配当は、本来の配当ではないけ
れども、法人が既に課税ずみの利益のうち配当等により他に流出することをしない
で留保した積立金を配当以外の形で株主に分配帰属させるもので、実質上は利益分
配であると考えられ、これを受取つた株主の利益として課税することは二重課税に
なることに鑑み、専らその二重課税を避けるため政策的に配当とみなされて、益金
不算入の規定を適用することとされているものであり、しかも、そのみなされるの
は、あくまで受取法人側の問題としてであつてその点支払法人側には関係のないこ
とであるうえ、その金額の算定上も被告主張のような(別紙準備書面四項(三))
支障があり、これを支払法人側において一様に支払配当とみることは妥当でないか
ら、結局、みなす配当は、措置法四二条にいう軽減税率の対象たる「各事業年度に
係る利益の配当又は剰余金の分配」には該当しないものといわなければならない。
従つて、訴外会社が原告に対する交付金につき同条の軽減税率の適用を受け得なか
つたことは、当然である。
しかるところ、他面、措置法四二条の二の一項の文理を解釈すれば、被告主張のと
おり、前記の九七万八、九一三円は、益金の額に算入すべきこととなることが明ら
かである(同条項にいう「益金に算入しない配当等の金額」とは、措置法四二条一
項本文かつこ書の規定からみて、法人税法二三条の規定により益金の額に算入しな
い金額をいうのであるが、同法二四条は、同法の規定の適用につき、株式消却によ
る受交付金等を利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨規定しているのである
から、みなす配当が右の金額に含まれるのは当然である。)。従つて、被告のした
本件更正処分は、規定の文理に違背するところは全くない。
ところで、右のような結果は、みなす配当については、その支払法人側では課税が
軽減されないのに、受取法人側では二五パーセントを益金に算入すべきこととなつ
て、前記のような措置法四二条及び四二条の二が制定された趣旨ないし基本的構想
からすると、一見、整合を欠く憾みがある。
しかしながら、もともと、租税に関する特別措置は、経済政策、社会政策等の政策
的理由に基づいて、租税制度に加えられた臨時的な特別措置である。そして、措置
法四二条及び四二条の二は、前記のとおり、法人の配当負担を軽減し、これによつ
て法人の資本構成の是正充実を図るため設けられたものであるが、それは、資本充
実のための方策としては配当金を支払利子と同様に損金の額に算入する方法による
ことも考えられるけれども、そうすると、法人課税と受取配当に対する課税との二
重課税を調整する原則的方法である受取配当についての益金不算入(個人株主につ
いては配当控除)制度を廃止すべきことになり、その廃止をすれば、投資者の投資
意欲を阻害し経済に及ぼす影響が大きいことから、今後の検討にまつことにして、
かかる徹底した方策の実施を暫時見合わせ、いわばその一部を軽減税率の適用とい
う形で実施しようとしたものである。従つて、右両規定による特例措置は、あくま
で臨時の措置であり、多分に過渡的な性質を有し、また、試行的な意味をもつもの
である。
そうして、右両規定を仔細に検討しても、事業年度単位で法人間の調整を規定しな
がら、各法人の事業年度はそれぞれ異なるはずであるのに、そのことを考慮に入れ
た対応性ないしは関連性を維持するような明文はなく、その他、あらゆる場面で対
応関係を保つべきことを窺わせるに足る規定上の根拠も見出せない。
また、みなす配当につき、措置法四二条の二が適用されたとしても、その性質上、
前記のような資金コストの高低による資本充実の阻害を直ちに招くものとも思われ
ない。
かかる諸点から考えてみると、措置法四二条及び四二条の二は、基本的には一応の
対応関係にあることは前記のとおりであるが、それは、決して絶対的個別的な対応
ではなく、相対的一般的なそれにすぎないものとみるのが相当であり、措置法自体
がそのことを予定し認容しているものとみるほかない。
しかして、それにもかかわらず、措置法四二条及び四二条の二は、それなりの合理
性を有するものとみられるのであつて、その理由は、被告の主張するとおり(別紙
準備書面五項)であると考える。
従つて、被告が前記のとおり措置法四二条の二を適用して九七万八、九一三円を益
金に算入したことは、適法であるといわざるを得ない。
なお、原告は、訴外会社からの受交付金につき所得税を徴収されたことが違法であ
り、それが本件更正処分の違法をもたらす旨主張するが、原告に右所得税の納税義
務があることは被告主張のとおりであるから(この所得税額は原告の法人税の前払
とみられるから法人税法六八条により右法人税の額から控除されている。この点当
事者間に争いがない。)、右主張は前提を欠き、採るを得ない。
以上のとおりであつて、被告のした本件更正処分は適法であり、従つて、また、加
算税賦課決定処分も、それだけの根拠を備えているものといわなければならない。
三、よつて、原告の本訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき、行
訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 林 義一 山脇正道 仲渡 衛)
(別紙)
準備書面
被告が、本件課税処分の計算過程で、「受取配当のうち支払配当を超える一〇〇分
の二五に相当する額」を、租税特別措置法(以下「措置法」という)四二条の二の
規定によつて益金の額に算入したことが適法であることについて、従前の主張を補
足する。
一、原告は、訴外関西電業株式会社(以下「訴外会社」という)の株式八万株を所
有していたところ、本件係争年度において訴外会社は原告所有の右株式のうち四万
株を利益をもつて消却した。それにより、原告は、訴外会社より、みなす配当九五
六万円を受取つている。ところで、措置法四二条の二にいう「益金に算入しない配
当等の金額」とは、同法四二条一項本文括弧内の規定のうえから明らかなように、
法人税法二三条の規定により益金の額に算入しない金額をいうものであるから、本
来の配当のみならず「みなす配当」も、それに該当する。したがつて、原告が受取
つたみなす配当九五六万円について、法人税法二四条一項一号、二項一号、同法二
三条三項を適用して計算した益金に算入しない(みなす)配当七九一万五、六五五
円は、当然に措置法四二条の二にいう「益金に算入しない配当等の金額」に該当す
る。他方、原告には「所得等からした配当等の金額」が四〇〇万円ある。それで、
それを超える「益金に算入しない配当等の金額」三九一万五、六五五円について、
措置法四二条の二により、その一〇〇分の二五である九七万八、九一三円を益金の
額に算入したものである。
二、この点について、原告は、被告の右に述べた益金の額に算入したことを誤りで
あるとして、その理由を次のように述べているもののようである。
元来、措置法四二条および四二条の二は、相関連する条文であつて、その立法趣旨
は、企業の資本の充実に資するための配当課税の特別措置として、法人利益のうち
支払配当に対する法人税について軽課し、反面、法人間の配当益金不算入の取扱に
ついて、これに対応する調整を加え、法人の受取配当が支払配当を超える場合に
は、その超える金額の一〇〇分の二五を益金に算入する措置を講じようとするもの
である。したがつて、支払配当について措置法四二条により基本税率の三八%の代
りに二八%の税率が適用され、法人税が軽課された場合に、その配当を受取つた法
人(以下「配当受取法人」という)の側で支払配当を超える受取配当の一〇〇分の
二五が益金に算入されるのは当然であるが、支払配当について軽減税率が適用され
なかつた場合にまで、それを受取つた法人の側で一〇〇分の二五の益金算入を行な
うのは妥当でない。ところで、本件についてみるに、訴外会社の側では本件の配当
に対して軽減税率の適用がない(基本税率が適用されている)にもかかわらず、そ
の配当を受取つた原告会社の側で一〇〇分の二五の益金算入が行なわれるのは妥当
でない。本件のような場合には受取配当に対し益金算入を行なうべきではない。
三 確かに、措置法四二条は、企業の資本の充実に資するため、支払配当に充てた
所得に対する法人税の軽減を図ることを趣旨としたものである。現在、わが国の企
業の資本構成については、戦前にくらべ、あるいは主要諸外国にくらべて、自己資
本の薄弱、他人資本(借入金)の肥大の状況にあるといわれ、このことは企業経営
の基盤を不安定にしているものとして憂慮されている。このような企業の株式資本
の充実を妨げる原因の一つが税制にあるといわれている。すなわち、現在、法人の
借入金の利子は法人の所得の計算上損金に算入されるのに対し、支払配当は損金に
算入されない。つまり、配当は企業が法人税を支払つた残りの所得から支払わなけ
ればならないから、資本を調達しようとする企業にとつては、株式資本のコスト
は、借入金のそれよりも割高になつているということができる。これが企業をして
増資より借入金を選ばせる大きな原因となつているといわれている(もつとも、税
制上は、配当を支払う法人(以下「配当支払法人」という)の段階で支払配当を含
めた所得に対して法人税を課する反面その配当を受け取る株主の段階で、法人株主
にあつては受取配当を原則として益金に算入せず、個人株主にあつてはその納付す
べき税額から配当控除を行なつて二重課税の調整を図つている。しかし、企業の所
有と経営の分離とが進むにつれて、企業は、法人税の負担を自己の負担と考えるよ
うになり、その負担を株主に転稼し配当率を引き下げるという慣行は一般には存せ
ず、したがつて、企業にとつて増資コストが借入金コストよりも割高とうけとられ
ているのである)。そこで、企業がその年度の所得のうち配当の支払に充てた部分
に対する課税率を三八%から二八%まで引下げること(約四分の一の軽減)によ
り、企業の自己資本コストを引下げ、利益率(自己資本に対する純利益の割合)の
低い企業でも増資に踏みきれるように、自己資本充実の誘因とする制度が措置法四
二条として設けられたものである。
他方、措置法四二条の二は、同法四二条に対応して設けられた規定である。現行の
税制上における法人税の基本的な考え方は、法人の所得は終局的には株主に対して
分配されるものであり、法人税はその株主に対して課税するものをその分配前に課
税するという考え方、つまり株主に対する課税の源泉的課税として法人税を課する
ものである((法人擬制説)といわれている。したがつて、配当を支払う法人の段
階で課税するが、その法人の課税済みの所得のうちから配当を受取つた株主の段階
において、その所得について二重に課税されることを防止するため、個人株主の場
合には配当控除、法人株主の場合には配当の益金不算入の制度が設けられている。
そこで、措置法四二条の二は、配当受取法人について配当の四分の一を益金に算入
することとし、配当支払法人の段階で軽減した分だけ取り戻すというのが基本的な
考えになつている。なお、配当を受取る株主が個人の場合には、配当控除の割合を
四分の一だけ減じて同様の取扱をすることが規定されている(措置法八条の五)。
四、次に、原告会社が訴外会社より受取つたみなす配当九五六万円についていえ
ば、それは、措置法四二条にいう軽減税率を適用すべき支払配当には該当しないと
解される。その理由を述べると、次のとおりである。
(一) みなす配当は、もともと利益の配当または剰余金の分配にあたらないもの
を、既に法人税課税済みの利益を株主等に分配するところから、税法上これを配当
とみなしているに過ぎないので、措置法四二条にいう「内国法人
が・・・・・・・・・各事業年度に係る利益の配当又は乗余金の分配をした場合」
という規定の文理解釈上、それに含めることに無理がある。
(二) みなす配当の金額は、いずれも既往の事業年度における所得の蓄積部分が
分配されるものであるので、同条にいう「当該事業年度の所得のうちから配当又は
分配をしたものとして政令で定める金額」に該当しない。
(三) みなす配当の金額というのは、例えば、株式の消却等によつて株主の金銭
等の支払を受けた場合に、その受取つた株主の取得価額を基準として、その取得価
額を超える金額の交付を受けた場合に、その超えて交付を受けた金額のうち配当支
払法人の積立金の金額に対応する部分ということで計算するもので、配当支払法人
の側では株主が幾らで株式を取得したのか通常は不明であるので、みなす配当の金
額を計算することが困難であるという事務上の難点がある。
これらの理由から、みなす配当は措置法四二条にいう軽減税率を適用すべき支払配
当には該当しないと解され、国税庁長官昭和三六年九月八日通達「改正租税特別措
置法(昭和三六年三月改正)等の施行に伴う法人税の取扱について」(直法一-二
四六)にもその旨が規定されているところである(乙一号証参照)。それで、配当
支払法人である訴外会社においても、前記みなす配当については措置法四二条によ
る軽減課税を行なつていない。
他方、右みなす配当は、冒頭に述べたように措置法四二条の二にいう「益金に算入
しない配当等の金額」に該当するので、原告会社は同条の規定にしたがつて一〇〇
分の二五について益金の額に算入すべきことになる。
そうすると、みなす配当については、支払法人の側では課税が軽減されないのに、
受取法人の側ではその四分の一を益金に算入することになる。これは、前記のよう
に措置法四二条に対応して四二条の二が設けられた基本的構想からすると斉合しな
いとの観を免れない。けれども、これは、措置法四二条および四二条の二の規定の
うえから明らかなように、軽減課税の対象となる支払配当としては「利益の配当の
金額で、当該事業年度の所得の金額のうちから配当したものとして政令で定める金
額」と規定されているのに対し、益金算入の対象となる受取配当としては「益金の
額に算入しない配当等の金額」と規定されていて、両者の範囲がかならずしも一致
していないからである。すなわち、措置法自体がそのような不斉合の生ずることを
認容しているからにほかならない。
五、もともと、措置法四二条の二の規定は、配当支払法人に対する法人税を株主段
階でどう調整するかという、配当をめぐる二重課税の調整措置の一環として設けら
れたものである。このような二重課税の調整方法としては、諸外国の立法例が区々
に分かれていることからも知られるように、種々の方法が存するところである。ま
た、調整措置を全くとらないことも立法上はありうることであつて、結局、どのよ
うな調整措置を設けるかは立法政策上の問題であるといわねばならない。
いま、もし、配当支払法人の段階で軽減課税された配当に対してのみ、配当受取人
の段階で取り戻すような、厳密に斉合した立法を行なうとすると、例えば、次のよ
うな問題が生じてくる。
(一) 配当受取法人の側では、通常、受取配当が果して軽減課税の対象となつた
配当であるのかどうか判定することが困難である。例えば、配当がその事業年度の
所得以外の利益──既往の事業年度の利益の蓄積たる利益積立金──の分配(みな
す配当にはこのような性格のものが多い)である場合には、軽減課税の対象となら
ない。したがつて、配当受取法人の側では、受取配当が、当期の利益か既往の利益
か、あるいはその双方が含まれている場合はそれがどのような割合になるのか、知
ることは通常できないところである。それ故、配当受取法人の側に、受取配当が軽
減課税の対象となつたものか否か、また配当の一部が対象となつた場合はその割合
を、それぞれ知らせるための規定が必要となる。
(二) 現行の法人税法二三条三項によると、益金の額に算入しない配当の金額
は、受取配当からそれにかかる負債の利子を控除して計算することになつている。
そして、受取配当が軽減課税の対象となつたものと対象とならなかつたものとの双
方から構成されるときでも、現行法ではそれを区分せず一括して負債の利子を控除
することになつている。ところが、もし、軽減課税の対象となつた部分についての
み四分の一の益金算入をする制度をとるとすると、その前提として、負債の利子の
控除も、受取配当の区分にしたがつて個別に行なわなければならず、そのために新
たな規定が必要となる。
右のような問題を解決するためには、相応の規定を設ける必要があり、その結果と
して税法が複雑となることは避けられなくなる。また、配当支払法人が多数の株主
に前記の通知をする事務や、配当受取法人が多数の法人から配当を受取つた場合に
行なわねばならない負債の利子を控除する計算事務を考えると、配当支払法人、配
当受取法人の双方にとつて、実施面での事務が煩雑になることも明らかである。
ところで、現行の法人税法の制度は申告納税の建前をとつており、そこでは税制の
簡明化ということが強く要請されるところである。このような観点からすると、前
記のように税法が複雑となり、或いは事務処理が煩雑となるようなことは努めて避
けなければならない。
このようにみてくると、みなす配当のみならず既往の事業年度の利益の蓄積たる利
益積立金の取り崩しによる配当をも含めて、それに対する二重課税の調整措置をど
のように定めるかは、結局、税制の複雑化は避けられないとしても個別的に対応さ
せた調整措置を講ずるか、それとも理論的な斉合性はある程度犠牲にしても税制の
簡明化を図る見地から一律的な調整措置を講ずるかの選択の問題であつて、すぐれ
て立法政策的な問題であるといえよう。措置法四二条の二は後者の立場を選んだも
のであり、それなりに合理的な制度といえる。
六、おつて、配当をめぐる二重課税の調整措置を検討してみると、理論的な斉合性
をある程度犠牲にしても税制の簡明化を図る見地から一律的な調整措置を定めた事
例として、以下のような例を指摘することかでき、措置法四二条の二のみが異例の
立法でないことを知ることができる。
(一) 措置法四二条、同八条の五による配当軽課制度がとられる前においては、
個人株主が受取る配当にかかる二重課税の調整措置としては所得税法で一律に配当
所得に一定率(二〇%)を乗じた金額を税額控除する方法が行なわれていて(昭和
三七年法律四四号による改正前の所得税法一五条の六)、たとえば所得税において
受取株主の所得の階層によつて税率が異なるのに対応して配当控除の率ないし額を
変動させるような厳密で個別的な調整措置は講じられていない。
(二) 措置法四二条、四二条の二による配当軽課制度がとられる前においては、
法人株主が受取る配当にかかる二重課税の調整措置としては、原則として受取配当
を益金に算入しないという方法をとつていた(昭和三六年法律三六号による改正前
の法人税法九条の六)。しかし、法人税は配当支払法人および配当受取法人につい
ても税率の適用が二段階になつている結果(昭和三七年法律四五号による改正前の
法人税法一七条)例えば、配当支払法人が三八%の税率の適用を受けた場合に、そ
れより配当を受取つた法人が三三%の税率の適用を受けたとすると、国が三八%と
三三%との差額を得することになる。逆に、その反対であれば、企業側が得をする
ことになる。このように法人税法が税率を区分して採用している限りにおいては、
厳密な調整措置は講じられていない。
(三) 個人株主が受取る配当にかかる二重課税の調整措置としては、従前は一律
に配当所得に二〇%を乗じた金額を税額控除する方法が行なわれた。ところが、配
当についての課税を軽減するため措置法四二条が設けられ、それに対応して右の軽
課分を取り戻すため措置法八条の五が設けられ、配当控除の割合が従前の二〇%よ
り一五%に引き下げられた。けれども、みなす配当等の措置法四二条によつて軽減
課税の対象にならないものについても、同法八条の五の適用があり、厳密な調整措
置がとられていないことは、配当受取法人についての調整措置(同法四二条の二)
と同様である。

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