弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告は之を棄却する
         理    由
 本件上告の趣旨は末尾添附の弁護人岡崎一夫、同柿原幾男名義の上告趣旨書と題
する書面に記載の通りでおる。
 之に対して当裁判所は次の様に中断する
 右上告論旨第一点について
 <要旨第一>軽犯罪法はその規定の形式においては警察犯処罰令に似たところがあ
るけれども、その官僚主義的な精神を踏襲したものではなく、寧ろ日本
國民の社会生活を文化的に向上せしめる爲最低限度に要請せられる道徳律を実体刑
法化したものである。この事は同法の立法の経過並に全規定の形式及び精神から容
易に看取せられる。されば所論日本國民の基本的人権を侵害する様なことは固より
本法の企図するところでなく、寧ろ本法は日本國民の社会的倫理を文化的に向上せ
じめて、國民をして自由で幸福な生活を営ましめることを目的としている。
 従つて本法は日本國憲法の條規に違反するものではなく、之を適用して被告人を
処罰した原判決に所論の違法は存しない。論旨は理由がない。
 同論旨第二点について
 <要旨第二>軽犯罪法第一條第三十三号に謂う「みだりに」とは社会通念上正当な
理由ありと認められない場合を指すのである。原判決が確定した事実
は、被告人は判示の様に横須賀市長の管理に係る倉庫の表扉に同市長の許諾なくし
てはり札をしたと云うのである。凡そはり札をされる他人はそれ相当の損害なり迷
惑なりを蒙るのが通例であるから、それについての許諾を得ないことは第一点に対
して説明した社会生活上の文化的義務に違背することとなり、それは即ち公序良俗
に反するとも謂えようし、又新しい文化生活上の通念から謂つても好ましくないの
である。殊に本件はり紙は記録上明かな様に縦約八十一糎横約二米十糎の大きいも
のであるばかりでなく、その内容は「A会社とB漁港の醜関係を突く」と題し、其
の内情を曝露する一面保守反動政権反対民主人民政府樹立を強調する特殊目的の宣
傳文であつて普通の廣告ビラ乃至ポスターの類とは著しくその性質を異にするので
おる。従つて之を貼られる建物の所有者又は管理人が其の貼付を異議なく認容する
か否かはその者の持つ思想、社会上の地位等の如何に依つては遽に予断を許されな
いであろう。故にかかる文書を他人の建造物に貼付しようとするならば仮令被告人
に於て所論の如く「公人としての立場から不正に抗し勤労者を支援するという目
的」を持つていたとしても右はり紙の形状内容等に鑑み一應予め管理者の了解を得
た上ですることが常識である。然るに被告人は右許諾を得ないで之を貼つたのであ
るからその行爲は社会通念上正当な事由あるものとは謂うを得ない。原審も亦之と
同様に法律を解釈し、被告人の行為の違法性を認めるに十分な程度に事実を審理し
て、原判決に及んだものと解するを相当とする。論旨は理由がない。
 同論旨第四点について
 <要旨第三>原判示倉庫が横須賀市の所有物でおり、その意味で公共の工作物であ
ることは明白である。従つてそれは社会的な意味において市民全体のも
のであるとは謂えるであろうが、法律的な意味では、たとい被告人が横須賀市の一
市民であつても、被告人の所有物ではなく、公法人たる横須賀市の所有物である而
して横須賀市は被告人にとつては他人であるから判示倉庫は被告人にとつては他人
の所有物である。而して右の倉庫が横須賀市長Cの管理に係るととは原判決が証拠
によつて認めるところであるから、それは軽犯罪法第一條第三十三号に所謂他人の
工作物に属するものと謂うべきである。
 されば判示事実に判示法條を適用した原判決は正当であり、論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
 仍つて旧刑事訴訟法第四百四十六條に従つて主文の様に判決する。
 (裁判長判事 佐伯顯二 判事 久札田谷喜 判事 正田満三郎)

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