弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中判示第の罪に関する部分を破棄する。
     被告人を原判示第二の罪に付懲役壱年六月に処する。
     押収物件中約束手形五通(証第十五、十九、二十、二十一、二十九号)
委任状九通(証第十六、十八、三十二号、三十三号の三、三十四号の三、三十五号
の三、三十六号の三、三十七号の二、三十八号の二)売買予約証書(証第十七号)
連帯金員借用証書四通(証第二十二号二十三、二十四、三十一号)根抵当権設定契
約証書一通(証第三十号)印鑑及同証明書四通(証第三十四号の四、三十五号の
四、三十六号の四、同号の五)の各偽造部分及印顆二個(証第二十五、二十六号)
は孰れも之を没収する。
     当審に於ける訴訟費用(国選弁護人浦野光義に支給した分)は被告人の
負担とする。
     原判示第一の罪に付ての本件控訴は之を棄却する。
         理    由
 弁護人黒河衛の控訴の趣意は同弁護人作成名義の控訴趣意書と題する書面に記載
の通りであるから茲に之を引用するが之に対する当裁判所の判断は左の通りであ
る。
 控訴の趣意第一点(一)について
 論旨は原判決は判示第二の(十五)に於て事実の誤認及理由のくいちがいがある
と謂うにある
 記録に徴するに原判決は被告人の罪となるべき事実中判示第二の(十五)(控訴
趣意書に事実第一(十五)云々と記載しあるは第二(十五)の誤記と認める)に於
て被告人は昭和二十八年三月十八日当時の被告人居宅に於てA商事株式会社から金
三万六千円を借入れる為同会社に差入れる連帯金員借用証書一通(証第二十三号)
及右債務に関する公正証書作成嘱託に関する一切の権限を委任する旨の委任状(証
第三十五号の三)を作成するに当り該文書に於けるBと刻した偽造印(証第二十六
号)を押捺し以て右偽造印を不正に使用したとの事実を認定し之に対し刑法第百六
十七条第二項を適用したことは所論の通りである而して又同条項に所謂偽造印章使
用罪が成立するには偽造した印顆を或物体の上に押捺し之に表顕させた影跡を真正
な印影のように装つて現実に他人が認識し得べき状態におくことを要するものと解
すべきことも所論の通りである
 今本件につき之を観るに原判決が判示第二の(十五)に於て偽造印章使用罪を認
定する為挙示した関係の各証拠を綜合すれば被告人が判示日時場所に於て金銭借人
の為判示連帯金員借用証書及委任状各一通に判示偽造印を押捺し該文書二通をA商
事株式会社支配人Cに交付した事実を認めることが出来るので原判決は判示事実中
に前記の如く被告人はA商事株式会社から金三万六千円を借入れの為同会社に差入
れる連帯借用証書及委任状各一通に判示偽造印を押捺し以て右偽造印を不正に使用
した旨を記載したのであつて右記載事実を通覧すれば判示偽造印は連帯借用証書及
委任状各一通に押捺せられたのみに止らず該文書二通は金銭借入の為A商事株式公
社に差入られて他人の認識し得べき状態におかれた事実をも表現しているものと輙
く諒解し得るのみならず原判決の擬律説明に徴しても亦このことは明白である固よ
り原判決が罪となるべき事実の判示として前示文書二通を判示会社支配人に交付し
たことを記載せず偽造印使用事実の表現が適切でない憾みはあるけれどもそのこと
は判決に影響を及ぼす様な事実誤認又は法令違背があつたと謂うことはできないか
ら論旨は理由がない 同第一点(二)について。
 原判決は被告人の罪となるべき事実中判示第二の(十三)に於て被告人は予て入
手所持していた愛知県西加茂郡a村長Dの署名押印並Bと署名しある印鑑証明書用
紙の印鑑欄にBと刻しある偽造印を押捺して右DがBの印鑑なることを証明した旨
のa村長D名義の印鑑証明書一通(証第三十四号の四)の偽造を遂げた後Eに対し
右偽造に係る文書を交付行使して金員を騙取した事実を認定したのであるが之に対
し偽造印章行使罪の適用条文を示していないことは所論の通りである偽造した印顆
を印鑑証明書用紙に之を押捺して使用し印鑑なる私文書を作成する行為は刑法第百
五十九条第一項に該当するのであつてこの場合偽造した他人の印顆を使用する行為
は印鑑なる私文書を作成する所為に包含せられ同法第百五十九条の外別に同法第百
六十七条第二項の罪名に触れるものではないと謂わなければならない而して今本件
に付いて之を看るに原判決は前記の如くその認定する事実をa村長の署名押印並に
Bの署名ある印鑑証明書用紙の印鑑欄に偽造印を押捺して印鑑証明書一通を偽造し
と判示し、印鑑偽造と印鑑証明書の偽造を共に認定したことは明らかでその擬律の
部に於て印鑑偽造に関する刑法第百五十九条第一項と印鑑証明書偽造に関する同法
第百五十五条第一項を適用し偽造したBの印章を使用した所為に対しては同法第百
六十七条第二項を適用しなかつた原判決には所論の如き理由のくいちがいがなく論
旨は理由がない。
 同第二点について
 記録に徴するに本件追起訴状証載の第三の(五)の公訴事実には被告人は昭和二
十八年二月中旬頃岡崎市b町c番地F印房事G方に於て行使の目的を以てHに対し
愛知県西加茂郡a村大字d字ef番地のgBの印章に模したBと刻する印鑑の作成
を依頼し其の頃情を知らない右Hをして一見Bと誤認させるに足る印顆を作成せし
め以てBの印章を偽造したとしたのに対し原判決は右印章偽造の所為に対し独立し
た犯罪の成立を認めず公訴棄却の裁判をなさなかつたことは所論の通りである刑事
訴訟法第三日三十九条第一項第二号(控訴趣意書に第三百三十九条第一項第一号と
記載しあるは第三百三十九条第一項第二号の誤記と認める)に依り決定を以て公訴
棄却をなすべき場合に於けち起訴状に記載されている事実が真実であつても何等罪
となるべき事実を包含していない場合とは起訴状に記載されている事実が一見何等
法律上犯罪を構成しておらず訴因の変更によつて公訴を維持すろ余地すらない場合
を謂うのであつて斯る場合に<要旨>は公訴棄却の裁判を為すべきものであると謂わ
ねばならない然し乍ら偽造の所為が文書偽造罪の成立によつて同罪に吸収せ
られる場合には別罪を構成しないのであるから印章偽造なる字句があつたからと云
つて別罪を構成しない印章偽造に対し公訴棄却の裁判を為すべきものに非ずと解す
るを相当とする今本件に付いて之を看るに原判決は被告人が判示第二の(十三)の
日時Bと刻する印鑑(証第二十六号)を偽造し之を使用して判示連帯金員借用証書
(証第二十二号)判示委任状(延第三十四号の三)及判示印鑑(証第三十四号の
四)を作成して偽造しと判示し擬律の部に於て右私文書の偽造に関する刑法第百五
十九条第一項を各適用しBの印章を偽造した所為に対しては同法第百六十七条第一
項を適用していないので後者については前者に吸収せられ独立した一罪を認定して
いないこと明白であつて斯る場合公訴棄却の決定を為さなかつえ原判決は所論の如
き法令の適用を誤つた違法ありと謂うことが出来ないから論旨は採用するを得ない
 同第三点について。
 原判決挙示の各証拠共の他原審に於て取調べた証拠を検討すると原判示第一の罪
となるべき事実に付いては各犯行の動機、態様、回数、不正領得の全額共の他諸般
の事情を考量すると一部弁償の事情を斟酌しても原判決の量刑が不当に重きに過ぎ
て之を減軽しなければならないような事由が認められないが原判示第二の罪となる
べき事実については各犯行の動機、態様、回数、不正領得又は騙取金額等からすれ
ば原審が被告人に対し懲役二年に処したのは一応首肯することが出来るが飜て被告
人が所有財産を処分して被害者に対し被害の一部を弁償した点、家庭の状況其の他
諸般の事情に照し右科刑は些か重きに過ぎるものと認められるから論旨は理由があ

 仍て原判示第二の罪となるべき事実については前叙の如く控訴趣意第三点に対す
る判断に於て示した通りの理由により刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十一条
を適用し原判決中判示第二の罪に関する部分を破棄するが本件は原裁判所が取調べ
た証拠により当裁判所に於て直に判決するに適するものと認めるから同法第四百条
但書に則り当裁判所に於て判決することとし原判示第一の罪となるべき事実につい
ては破棄しなければならないような事由がないから同法第三百九十六条に則り本件
控訴を棄却すべきものとする
 原判示第一の事実につき罪となるべき事実は
 原判示第二の(十五)を昭和二十八年三月十八日当時に於ける被告人居宅岡崎市
b町h番地I方に於て予て被告人が同市i町j丁目k番地A商事株式会社から金員
借入の場合には保証人となることに付Bの承諾を得ていたので行使の目的を以て擅
に連帯金員借用証書用紙の連帯保証人欄に前記Bの署名を冒署しその名下に前記偽
造印顆を押捺してBが被告人等の連帯保証人として右A商事株式会社から金三万六
千円を昭和二十八年三月十九日から同年七月十八日迄の間に日賦弁済をする旨の記
載ある連帯金員借用証書一通(証第二十三号)該債務弁済に関する公正証書作成方
嘱託に関する一切の権限をJに委任する旨の委任状に委任者としてBの氏名を冒署
しその名下に前記偽造印顆を押捺して委任状一通(証第三十五号の三)更に同年三
月十八日行使の目的を以て擅に予て入手していた愛知県西加茂郡a村長Dの署名押
印並Bと署名しある印鑑証明書用紙の印鑑欄前記偽造に係るBの印顆を押捺してB
の印鑑であることを証明すべきa村長D名義の印鑑証明書一通(証第三十五号の
四)を偽造した上、同日前記A商事株式会社において同社支配人Cに対し前示連帯
金員借用証委任状と共に真正のものなりとして交付行使しと訂正し
 原判決判示第二の進行番号(十七)を(十六)に同(十八)を(十七)に各訂正
する外は原判決判示第二の摘示するところと同一であるから茲に之を引用する
 以上の認定に供した証拠は右訂正した判示第二の(十五)の証拠は原判決判示第
二の(十五)(十六)の証拠として挙示するところと同一であり訂正した判示第二
の(十六)の分の証拠は原判決判示第二の(十七)の証拠として挙示するところと
同一であり訂正した判示第二の(十七)の分の証拠は原判決判示第二の(十八)の
証拠として挙示するところと同一であるとする外は原判決に挙示した各関係証拠と
同一であるから茲に之を引用する
 法律に照すと被告人の判示第二の所為中(一)乃至(七)の業務上横領の点は各
刑法第二百五十三条に(八)の横領の点は同法第二百五十二条第一項に(九)
(十)乃至(十七)の私文書偽造の点は各同法第百五十九条第一項に同行使の点は
各同法第六十一条第一項第百五十九条第一項に(九)乃至(十二)(十四)の有価
証券偽造の点は各同法第百六十二条第一項に同行使の点は各同法第百六十三条第一
項に(十三)(十五)(十六)の公文書偽造の点は各同法第百五十五条第一項に同
行使の点は各同法第百五十八条第一項第百五十五条第一項に(九)乃至(十四)
(十六)(十七)の詐欺の点は各同法第二百四十六条第一項に(十)(十三)(十
四)(十六)の公正証書原本不実記載の点は各同法第百五十七条第一項罰金等臨時
措置法第二条第三条に(十五)の偽造印章使用の点は同法第百六十七条第二項第一
項に該当する処公正証書原本不実記載の罪に付ては所定刑中懲役刑を選択し(九)
の偽造私文書及偽造有価証券の行使(十三)(十五)(十六)の偽造私文書の行使
(十七)の偽造私文書の行使は夫々一個の行為にして数個の罪名に触れるから同法
第五十四条第一項前段第十条に則り且(十)(十三)(十四)(十六)中の私文書
(委任状)偽造と同行使と公正証書原本不実記載公文書私文書(前記(十)(十
三)(十四)(十六)中の委任状を除く)及有価証券の各偽造同行使及詐欺は夫々
手段結果の関係があるから同法第五十四条第一項後段第十条に則り結局(九)乃至
(十二)(十四)は各最も重い偽造有価証券行使罪の刑に(十三)(十五)(十
六)は最も重い各偽造公文書行使罪の刑に、(十七)は最も重い詐欺罪の刑に従い
処断すべき処以上は同法第四十五条前段所定の併合罪であるから同法第四十七条第
十条に則り最も重い(十六)のBの印鑑証明書に関する偽造公文書の罪の刑に併合
罪の加重をなした刑期範囲内に於て被告人を主文第二項掲記の如く量刑処断し押収
物件中約束手形一通(証第十五号)は判示第二の(九)約束手形一通(証第十九
号)の偽造部分は同(十)約束手形一通(証第二十号)の偽造部分は同(十一)約
束手形一通(証第二十一号)の偽造部分は同(十二)約束手形一通(証第二十九
号)の偽造部分は同(十四)の各有価証券偽造行為から生じたもの委任状二通(証
第十六、十八号)売買予約証書(証第十七号)は判示第二の(九)委任状(証第三
十三号の三)の偽造部分は同(十)連帯金員借用証書(証第二十二号)委任状(証
第三十四号の三)の偽造部分は同(十三)根抵当権設定契約証書(証第三十号)委
任状(証第三十八号の二、第三十七号の二)は同(十四)連帯金員借用証(証第二
十四号)委任状(証第三十六号の三)の各偽造部分は同(十六)金員借用証書(証
第三十一号)委任状(証第三十二号)の偽造部分は同(十七)の各私文書偽造行為
から生じたもの連帯金員借用証(証第二十三号)委任状(証第三十五号の三)中偽
造印を使用した部分は同(十五)の偽印の使用行為より生じたもの印鑑証明書(証
第三十四号の四)の偽造部分は同(十三)印鑑証明書(証第三十五号の四)の偽造
部分は同(十五)印鑑証明書(証第三十六号の四、五)の各偽造部分は同(十六)
の各公文書偽造行為から生じたものK名義の印鑑(証第二十五号)は同(十二)B
名義の印鑑(証第二十六号)は同(十三)の各私文書偽造の用に供したものであつ
て右各印鑑は被告人以外の者の所有に属さないし爾余のものは孰れも何人の所有を
も許さないものであるから同法第十九条第一項第二号第三号第二項に則り之を没収
し当審に於ける訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に則り被告人の負担
とする
 本件公訴事実中被告人は昭和二十八年二月中旬頃岡崎市b町c番地F印房事G方
に於て行使の目的を以てHに対し愛知県西加茂郡a村大字d字ef番地のgBの印
章に模したBと刻する印顆の作成を依頼しその頃情を知らざる右Hをして一見Bの
印章なりと誤認させるに足る印顆を作成させ以てBの印章を偽造したとの点に付て
は判示第二の(十三)に於て認定の如く被告人は右偽造した印章を使用してB名義
の連帯金員借用証書(証第二十三号)及委任状(証第三十四号の三)を偽造してい
るので右偽造印章使用の所為は右私文書偽造の各所為に吸収せられて単に私文書偽
造罪の一罪のみ構成するに止り別に偽造印章使用罪は構成しないものと謂わなけれ
ばならないから特に主文に於て無罪又は公訴棄却の言渡をたさない
 仍て主文の通り判決する
 (裁判長裁判官 羽田秀雄 裁判官 小林登一 裁判官 石田恵一)

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