弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2岩槻市長が控訴人に対して平成16年5月1日付けで原判決別紙物件目録記
載の土地の平成16年度固定資産税として2万0307円,同年度都市計画税
として2901円を賦課した処分をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は,原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につ
いて共有持分を有し岩槻市長から本件土地の平成16年度固定資産税・都市計
画税に係る各賦課処分(以下「本件各賦課処分」という。)を受けた控訴人が,
本件各賦課処分は,地方税法349条の3の2,702条の3に定める住宅用
地に対する課税標準の特例の解釈を誤った違法な処分であると主張して,その
取消しを求めた事案である(なお,原審の訴訟係属中に,岩槻市が廃止され,
その区域がさいたま市に編入されたため,岩槻市長の地位をさいたま市長が承
継した。)。
本件の争点は,本件土地について地方税法349条の3の2,702条の3
に定める住宅用地に対する課税標準の特例(以下「本件特例」という。)が適
用されるかどうかであるが,具体的には,本件特例の適用対象となるための土
地上の「家屋」(地方税法349条の3の2,702条の3,同法施行令52
条の11第1項)の意義について,本件土地に建っている区分所有権の目的と
なる店舗,駐車場及び住宅からなる複合ビル(以下「本件建物」という。)全
体を1個の家屋とみるか,区分所有権の目的である各専有部分を1個の家屋と
みるかである。
原判決は,本件特例の適用対象となるための用地上の「家屋」とは,区分所
有権の目的である各専有部分をいうのではなく本件建物全体のことをいうから,
本件各賦課処分は適法であるとして,控訴人の本件請求を棄却したので,控訴
人がこれを不服として控訴した。
本件事案の概要は,以下のとおり当審における控訴人の主張を付加するほか
は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」に記載のとおりであ
るからこれを引用する。
(当審における控訴人の主張)
1地方税法352条1項は,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所
有法」という。)の適用ある家屋の専有部分の所有者は,当該家屋に係る固
定資産税を区分所有法14条の規定による割合により按分した額を当該家屋
に係る各所有者の固定資産税として納付すべき旨を定め,同様に,地方税法
352条の2は,区分所有者の共有となっている区分所有家屋の敷地に係る
固定資産税について,同法10条の2の適用を除外し,各区分所有者がその
持分に応じる税額のみを負担すればよい旨を定めている。これらの規定の趣
旨からすると,区分所有建物の専有部分については,これをそれぞれ独立し
た課税対象としていることは明らかである。
2区分所有法の適用がある複数の区分所有者が専有部分を所有する複合ビル
と,一人又は数名が所有又は共有する建物とは実態が全く異なる。建物の一
部が商業用物件,一部が居住用物件の区分所有形態をとる複合ビルにおいて,
居住用の専有部分を取得した者は,商業用の区画とは無関係であるし,商業
用の専有部分を取得した者は,居住用の区画とは無関係である。これに対し,
一人又は数名が建物を所有又は共有する場合において,その建物の一部が商
業用,一部が居住用である場合においては,所有者又は共有者は,商業用部
分及び居住用部分の双方を有していることになる。このように区分所有建物
については,各専有部分ごとに所有,使用関係が別個であるのに,建物全体
の住宅部分の面積割合によって小規模住宅用地の特例が適用されなくなるの
は,建物の所有,利用関係を無視した不当な結果となる。また,一戸建の住
宅を所有する者と,区分所有法の適用ある家屋の住宅専有部分の所有者とは,
住居を所有している点においては社会的に全く同等であるのに,建物全体の
住宅部分の面積割合によって小規模住宅用地の特例が適用されなくなるのは,
税負担の公平の原則に反するものであり,そのような解釈は許されないとい
うべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,地方税法349条の3の2,702条の3及び同法施行令52
条の11第1項に定められた「家屋」とは,本件土地に建っている店舗,駐車
場の非居住用部分と居住用部分からなる複合ビルである本件建物全体をいうと
解すべきであり,区分所有の目的となる専有部分自体を上記「家屋」とみるこ
とはできないと判断するが,その理由は,原判決の「事実及び理由」欄の「第
3当裁判所の判断」の1,2に記載のとおりであるからこれを引用する。
なお,当審における控訴人の主張にかんがみ付言する。
控訴人は,地方税法352条1項及び352条の2の趣旨から区分所有建物
の専有部分についてこれをそれぞれ独立した課税対象としていることが明らか
であると主張するが,上記各条項は,固定資産税の課税対象となるのは区分所
有に係る1棟の建物及び共用土地であり,同法10条の2の適用を除外して,
各区分所有者が当該1棟の建物の共用部分ないし当該共用土地に係る持分に応
じた税額を負担することを定めているものであり,区分所有建物の専有部分に
ついてこれをそれぞれ独立した課税対象としたことを定めたものではないから,
控訴人の上記主張は失当である(同法352条1項は固定資産税の課税対象と
なるのは「区分所有に係る家屋」であることを定めており,複合ビルについて
はそのようなビル1棟が同「家屋」に該当することは先に判示したとおりであ
る。)。
また,控訴人は,一戸建の住宅を所有する者と,区分所有法の適用ある家屋
の住宅専有部分の所有者とは,住居を所有している点においては社会的に全く
同等であるのに,建物全体の住宅部分の面積割合によって小規模住宅用地の特
例が適用されなくなるのは,税負担の公平の原則に反すると主張するが,区分
所有に係る1棟の建物について区分所有権の内容ごとに評価をすることは極め
て困難な事柄であり,住宅用地に係る固定資産税及び都市計画税についての本
件特例を定めるに当たって,区分所有の目的となる専有部分自体を家屋とみて
課税対象とするのではなく,区分所有に係る1棟の建物を課税対象とし,その
利用状況によって本件特例の適用の有無を決することとした地方税法関係法令
の取扱いは不合理なものということはできないし,また,併用住宅該当性の基
準について,1棟の建物の全床面積に対する居住部分の床面積の割合が4分の
1以上という一定の基準を設けたこと自体も不合理なものとはいえないから,
租税公平主義の原則に反するということはできず,控訴人の上記主張も失当で
ある。
2以上によれば,控訴人の本件請求は理由がなく原判決は相当であるから,本
件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官太田幸夫
裁判官前田順司
裁判官森一岳

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