弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
(主位的請求)
2渋谷区長が平成19年10月30日付け開発許可第○号をもってした原判決
別紙物件目録記載の各土地に係る開発許可が無効であることを確認する。
(予備的請求)
3渋谷区長が平成19年10月30日付け開発許可第○号をもってした原判決
別紙物件目録記載の各土地に係る開発許可を取り消す。
第2事案の概要
1渋谷区長は,平成19年10月30日,A株式会社(以下「A」という。)
に対し,原判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」または「本件開
発地」という。)に係る開発行為(以下「本件開発行為」という。)について,
都市計画法(平成20年法律第40号による改正前のもの。以下「法」とい
う。)29条1項に基づく許可(番号第○号)(以下「本件許可」という。)
をした。
本件は,本件土地の近隣等に居住する控訴人らにおいて,渋谷区長には開発
行為の許可をする権限がなく,また,本件許可に法33条1項に定める開発許
可の基準に適合しない違法があると主張して,主位的に本件許可の無効確認を
求め,予備的にその取消しを求めた事案である。
原審は,控訴人らには,本件抗告訴訟について,いずれも原告適格がなく,
本件訴えはいずれも不適法であるとして却下したので,控訴人らにおいて控訴
した。
当審において,被控訴人は,本件許可の申請者であるAから本件開発行為に
係る工事(以下「本件開発工事」という。)が完了した旨の工事完了届が提出
され,渋谷区長において,Aに対し,開発工事の検査済証を交付し,本件開発
工事が完了した旨を公告したので,本件抗告訴訟については,訴えの利益がな
くなった旨主張した。控訴人らは,いまだ本件開発工事は完了していないなど
と主張して被控訴人の上記主張を争っている。
2前提事実,争点及び当事者の主張の概要は,当審における被控訴人の主張
を次項3のとおり,控訴人らの主張を後記4のとおり,それぞれ付加するほか
は,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1及び2(原判決2
頁22行目から16頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用
する(ただし,原判決10頁11行目の「これを」の次に「一般的に禁止し
て」を加え,原判決別紙「付近見取図」中の「特別区道○○号」を「特別区道
○○号」に改める。)。
3当審における被控訴人の主張
(1)渋谷区長は,平成22年8月23日,本件処分の申請者であるAから,
本件開発工事が完了した旨の工事完了届(乙18)が提出され,検査したと
ころ,同工事が法29条に定める開発許可の内容に適合していたため,同月
26日,Aに対し,本件開発工事の検査済証(以下「本件検査済証」とい
う。)を交付し,本件開発工事が完了した旨の公告をした(乙19)。
(2)法29条に基づく開発許可処分について,許可の対象である開発工事が
完了し,その検査済証の交付がされた場合においては,開発許可を受けなけ
れば適法に開発行為を行うことができないという開発許可の効果が消滅し,
他にその取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないから,そ
の取消しを求める訴えの利益は失われると解すべきであり(最高裁平成5年
9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号4955頁。以下「平成5年の
最判」という。),また,開発許可処分の無効確認を求める訴えも,その取
消しを求める訴えと同様,当該開発工事が完了した場合には,その利益が失
われると解すべきである。上記のとおり,本件開発工事は,平成22年8月
26日に完了したから,本件訴えは,その利益を欠くに至ったものである。
4当審における控訴人らの主張
(1)訴えの利益について
ア法29条1項は,開発行為をしようとする者は,あらかじめ開発許可権
者の許可を受けなければならないと定めているところ,当該許可は,「開
発行為」の許可を意味しており,「開発工事」だけの許可を意味している
わけではない。すなわち,開発行為は,開発許可に係る工事の完了をもっ
て終了するのではなく,当該土地の区画形質の変更が存続する限り継続し
ているものと解すべきである。そうでなければ,違法な開発行為であって
も工事が終了してしまえば,そのまま許容されることになり,法の趣旨が
没却されることになる。開発行為は,当該開発工事が終了した後も,半永
久的に原型からの区画形質の変更がされた状態の土地として,それが存在
する都市計画区域の都市インフラの基盤の上に厳然として存在し続けるも
のであって,行政訴訟による審査の対象とされるべきである。平成5年の
最判は,法29条などが定める開発行為と開発許可の意味を誤って解釈し
ており,不当である。
イ本件開発行為に関する工事は,同工事の完了検査を行ったとされている
平成22年8月24日までに完了しておらず,本件検査済証の交付は,虚
偽又は偽装によるものである。
すなわち,Aは,平成22年9月に入ってから,本件土地の近隣住民宅
に,「工事名(仮称)α計画新築工事-改修工事」と題する文書(甲26
添付資料)を配布しているが,同文書には,南側改修工事を同月1日から
同月25日まで,西側改修工事及び北西部改修工事を同月1日から同月3
0日まで行う予定である旨の記載がある(以下「平成22年9月の工事」
という。)。しかしながら,本件開発工事が「完了」しているにもかかわ
らず,その直後から約1か月間の改修工事(平成22年9月の工事)をし
なければならないということ自体が不自然である上,同工事は,いずれも
本件開発地と外周道路との接続部分の工事で,それは,本件開発地の土地
の区画形質の変更に関する工事である。すなわち,本件開発工事の基本工
事に関するものであって,改修工事ではなく本件開発工事そのものである。
実際にも,例えば,本件開発地北西部に位置するいわゆる提供公園から区
道×号に上る階段の頂上付近は,道路,擁壁,切り土,盛り土等によって
土地の物理的形状の変更が行われている。また,本件開発地の北西側が外
部の道路と接する部分において,地盤の段差を生じさせ,さらに,擁壁等
により,本件開発地の西側が外部の道路と接する部分における地盤の掘り
下げ工事が行われ,土地の物理的形状の変更が行われている。Aの工事完
了届は事実に反する虚偽のものであるし,これに対する本件検査済証の交
付も虚偽又は偽装によるものである。
(2)本件許可の違法性について
アAのした本件開発許可申請において,予定建築物は,本件許可申請書
(乙10)に添付した土地利用計画図(乙20の2。以下「本件土地利用
計画図」という。)に記載されているように,10棟の建物(以下「本件
各建築物」という。)であることを前提にしており,渋谷区長は,これに
対して本件許可をした。しかし,本件各建築物は,10棟それぞれが独立
した建築物ではなく,用途上も,構造上も,機能上も一体となった1棟の
建築物(各棟が巨大な「ロの字」形に結合されている。)であって,土地
利用計画図記載の予定建築物は,本件各建築物の実体とは異なるものであ
る。本件許可は,開発行為に関する設計(法30条1項3号)について,
虚偽のものを用いた申請に基づくものである。
本件各建築物には,各棟に通じる片面ガラス張りの屋内共用廊下(以下
「本件廊下」という。)がある。ところが,本件廊下は,本件土地利用計
画図にも,その基になる「地下1階面積算定図」にも記載がない。本件廊
下は,本件各建築物にとって,構造上も機能上も不可欠な構造物である。
これを欠いた本件土地利用計画図は,本件各建築物の実際の計画と異なっ
た内容虚偽の申請である。また,本件土地は,第二種低層住居専用地域に
指定されている地域に存在し,建ぺい率は60パーセントとされていると
ころ,本件各建築物の建築面積合計の敷地面積合計に対する割合は45パ
ーセントであるが,「ロの字」に囲まれた中庭部分の面積を建築面積に算
入した場合は,法定の建ぺい率を超過することは確実である。さらに,本
件土地の有効敷地面積に対する法定許容容積率は200パーセントとされ
ているところ,本件各建築物の建築計画によれば,本件各建築物の建築面
積合計の敷地面積合計に対する割合は322パーセントとなり,これから
容積率対象床面積以外の面積を除いたとしても,上記中庭部分を床面積に
算入した場合は,法定の容積率を超過することは確実である。
Aは,予定建築物の容積率等に関する規制を逃れるため,実際には1棟
の建物であるにもかかわらず,ことさらに10棟と偽装した結果,多くの
矛盾が生じたのである。本件許可申請は,実体法上も違法に違法を重ねた
ものであり,これに基づきされた本件許可の違法性は重大かつ明白である
から,本件許可は,当然に無効であり,そうでないとしても取り消される
べきである。
イ本件開発地は,幅員9メートル以上の道路に接していることが開発許可
基準とされているにもかかわらず,その接する道路として申請された区
道○○号は,β町内は幅員9メートルを維持しているものの,その他の部
分では7.89メートルないし8.32メートルであって,上記基準に適
合していない。よって,本件許可は,法33条1項2号,同条2項,都市
計画法施行令25条2号,都市計画法施行規則20条に違反しており,そ
の違法性は重大かつ明白であるから,無効である。なお,Aは,本件の開
発行為の接要件を満たす道路として,当初「渋谷区特別区道○○号」を
挙げており,全くの架空の道路を挙げていた。実際には,本件開発地が接
しているのは「渋谷区特別区道○○号」であるから,それだけで本件処分
は無効である。
第3裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人らの本件訴えは既にその利益が失われたからいずれも不
適法であり,これを却下すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりで
ある。
2本件開発行為の工事完了の有無
(1)証拠(乙21,22の1~3,乙23,26~29)及び弁論の全趣旨
を総合すると,①Aは,平成22年8月23日付けで,渋谷区長に対し,
本件開発工事が同日完了した旨の工事完了届出書を提出したこと,②これ
を受けて,渋谷区都市計画課土地利用審査係のBほか1名において,同月2
4日,本件開発地に赴き,本件開発工事によって造成された提供公園,排水
施設,提供道路などの形状等が本件許可の内容に適合しているか検査をする
とともに,関係箇所の写真を撮影したこと,③その結果,Bは,上記工事
の結果が本件許可の内容に適合しているものと判断し,同月25日,本件開
発工事の検査済証の交付及び完了した旨の公告に関する書類を起案し,同月
26日,同区都市整備部長の決裁を受けた上,渋谷区長は,同日,Aに対し,
本件開発工事の検査済証を交付し,同工事が完了した旨の公告を行ったこと,
以上の事実が認められる。
(2)控訴人らは,「Aは,本件開発工事の完了検査を行ったとされている平
成22年8月24日以後である同年9月に入ってから,本件開発地の外周道
路の接続部分の工事(工事名(仮称)α計画新築工事-改修工事。平成22
年9月の工事)を行っているところ,これは,本件開発地の土地の区画形質
の変更に関する工事であるから,開発工事の基本工事に関するものであって,
改修工事ではなく開発工事そのものである。例えば,本件開発地北西部に位
置するいわゆる提供公園から区道×号に上る階段の頂上付近は,道路,擁壁,
切り土,盛り土等によって土地の物理的形状の変更が行われている。また,
本件開発地の北西側が外部の道路と接する部分において,地盤の段差を生じ
させ,さらに,擁壁等により,本件開発地の西側が外部の道路と接する部分
における地盤の掘り下げ工事が行われ,土地の物理的形状の変更が行われて
いる」旨主張する。
ところで,開発行為とは,主として建築物の建築又は特定工作物の建設の
用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいうところ,前掲証拠及び弁
論の全趣旨によれば,平成22年9月の工事は,本件許可に係る工事が完了
した後,本件開発地東側入り口ゲートの工事,提供公園北東側にある階段沿
い・敷地塀の北側端部の縮小,敷地内フェンスの南側への後退,ドライエリ
ア立ち上がり壁の上部の一部撤去,駐輪場入り口ゲートの北側への後退など
の外構工事(建物本体以外の外回りの工事)をしたものであることが認めら
れ,平成22年9月の工事終了後の状況を見ても,これらの工事が土地の区
画形質の変更に関する工事であると評価することは困難である。その他,平
成22年9月の工事について,本件土地の区画形質の変更に関する工事であ
ることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,Aの平成22年8月23日付け工事完了届出書の提出,渋谷
区都市整備部都市計画課土地利用審査係による同月24日の検査,渋谷区長
による同月26日付け完了公告及び同日付け検査済証の交付は,いずれも事
実に基づき適法に行われたものというべきである。
3訴えの利益の有無
(1)控訴人らは,「開発行為は,開発許可に係る工事の完了をもって終了す
るのではなく,当該土地の区画形質の変更が存続する限り継続しているもの
と解すべきであり,当該開発工事が終了した後も,半永久的に原型からの区
画形質の変更がされた状態の土地として,それが存在する都市計画区域の都
市インフラの基盤の上に厳然として存在し続けるものであるから,本件開発
行為は,なお行政訴訟による審査の対象とされるべきである」旨主張する。
(2)しかしながら,法29条に基づく開発許可は,あらかじめ申請に係る開
発行為が法33条1項各号所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判
断する行為であって,これを受けなければ適法に開発行為を行うことができ
ないという法的効果を有するものであるが,許可に係る開発行為に関する工
事が完了した時は,開発許可の有する上記の法的効果は消滅するものという
べきである。そして法81条1項1号は,都道府県知事等は,法若しくは法
に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反した者に対して,
違反を是正するため必要な措置を採ることを命ずることができるところ,開
発許可の存在は,上記の違反是正命令を発する上において法的障害となるも
のとはいえず,また,仮に開発許可が違法であるとして判決で取り消された
としても,違反是正命令を発すべき法的拘束力を生ずるものでもない。そう
すると,開発行為に関する工事が完了し,検査済証の交付もされた後におい
ては,開発許可が有する本来の効果は既に消滅しており,他にその取消し又
は無効確認を求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないことになるか
ら,開発許可の取消し又はその無効確認を求める訴えは,その利益を欠くに
至るものというべきである。控訴人らは,平成5年の最判が法29条などの
定める開発行為と開発許可の意味を誤って解釈していると主張するけれども,
控訴人らの独自の見解であって,当裁判所において採用することはできない。
(3)控訴人らは,本件許可が無効であること又は取り消すべきものであるこ
とについて,当審においても様々な主張をしているが,前説示のとおり本件
許可に係る工事が完了(なお,前掲2(1)の証拠及び弁論の全趣旨によれば,
平成22年9月の工事も完了していると認められる。)し,本件許可の無効
確認又は取消しを求める法的利益が消滅した以上,本件許可の適法性につい
ての判断の必要をみない。
4以上のとおり,控訴人らの本件訴えは,いずれもその利益を欠くに至ったと
いうべきであり,これを却下すべきものとした原判決は,結論において正当で
あるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官鈴木健太
裁判官小宮山茂樹
裁判官吉田徹

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛