弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
理由
【犯行に至る経緯】
被告人は,知人への借金を早く返済しなければならないと思い詰め,自身の生命
保険金で返済することを考えるようになった。そして,脳性麻痺及び難治性てんか
んを患い,昭和51年以降,滋賀県内にあるA病院に入院し,治療を受けていた三
男のBを一人残して死ぬことができないという思いと,自身の生命保険金のみでは
借金を返済することができず,Bの遺産も借金の返済に充てられればという思いと
が高まり,Bを殺して,自分も死のうと考えるようになった。被告人は,平成28
年12月23日,A病院を訪れ,同日午後1時43分頃,Bを病棟から連れ出し,
被告人の車(以下「被告人車両」という。)に乗せ,病院を出た。
【犯罪事実】
被告人は,同日午後1時43分頃から同日午後12時までの間に,滋賀県,三重
県,岐阜県又はその周辺において,B(当時46歳)に対し,殺意をもって,その
頸部にビニール紐を巻き付けて絞め,よって,その頃,同人を絞頸による窒息によ
り死亡させて,殺害した。
【証拠の標目】

【争点に対する判断】
第1争点
判示「犯罪事実」のうち,被告人が,犯罪事実記載の日時・場所にBと一緒
にいたこと及びBが同日窒息により死亡したことについては,証拠上容易に認
められ,被告人も争っていない。
その上で,被告人は,自身がBの頸部をビニール紐で絞めたことはなく,B
はてんかんの発作で死亡した旨供述し,弁護人もこれに依拠して,犯罪事実記
載の日時・場所において被告人がBの頸部をビニール紐で絞めた事実はなく,
被告人は無罪である旨主張する。
本件における争点は,犯罪事実記載の日時・場所において,被告人がBの頸
部をビニール紐で絞めた事実の有無であるところ,当裁判所は,この事実は認
められると判断したので,以下,その理由を説明する。
第2前提事実
被告人の供述を含む取調べ済みの証拠によれば,以下の各事実が認められ,
これらの事実については当事者間に争いがない。
1被告人の三男であるBは,脳性麻痺及び難治性てんかんを患い,昭和51年
以降,A病院に入院していた。
Bの成年後見人である長男Cは,平成27年に,Bの財産を実際に管理して
いた被告人と相談の上,Bの預金から260万円を引き出し,Cの借金の返済
に充てたが,そのことが家庭裁判所に発覚し,平成28年1月,審判によって,
Bの財産管理権が弁護士に移された。
2Cと被告人は,お金を返済すれば財産管理権が戻ってくるものと考え,被告
人が,同年4月頃,知人から同年8月又は11月には返済すると言って200
万円を借り受け,Bの口座に200万円を振り込んだが,結局,Bの財産管理
権がCに戻されることはなかった。
3被告人は,その知人への借金の返済のために,親族等からお金を集めようと
したが,借りることができず,思い悩んでいたところ,同年11月頃,知人か
ら,他に用立てたいことがあるからどうですかなどと返済を求める内容のメー
ルが届いた。被告人は,同年12月20日,知人に電話を掛け,お金を返せな
いことを謝罪したところ,当時,手術を受ける直前であった知人は,「いつで
もいいよ」などと言って,すぐに電話を切った。
4Bは,平成28年12月当時,1日に数回てんかんの発作を起こしていた。
その発作には,数十秒から3分以内に収まる小発作の場合と全身がけいれんし,
唇が紫色になり,眼球が上転するなどの症状が3分以上続く大発作の場合とが
あった。小発作の場合には,様子観察のみで対応するが,大発作の場合等には,
座薬が投与されていた。座薬が投与されるのは,週に1回あるかないかであっ
た。
Bは,特に,薬が切れる午後4時20分頃に,てんかんの発作が起こること
が多かった。その他,喜びや悲しみなどで感情に大きな起伏が生じたときには,
発作が起こることが多かった。
また,Bは,手足が不自由で,手足を少し動かすことはできるが,自分で歩
くことはできず,会話もできなかった。BをA病院から外出させる場合には病
院の許可が必要であったところ,Bは外出を許可される状態にはなかった。
5被告人は,平成27年12月以降,月1回ほどBの見舞いのためA病院を訪
れていたところ,平成28年12月23日午後零時46分頃にも,Bのいる病
棟を訪れた。その後,被告人は,同日午後1時43分頃,Bを車いすに乗せて,
建物の外に移動し,被告人車両に乗せて,同日午後1時58分頃,Bを病院の
敷地外に連れ出した。被告人車両は,同日午後3時1分頃までA病院付近を周
回した後,同日午後3時34分頃,D料金所から高速道路に入り,さらに,同
日午後4時17分頃,E料金所で高速道路を下りた。
6被告人は,同月24日午前3時16分頃,岐阜県大垣市内の交差点路上にお
いて,警察官から職務質問を受けたが,その際,被告人車両の助手席の下に毛
布が置かれており,その毛布の下には,Bの死体があった。
被告人車両の車内からは,ビニール紐2本(いずれもポリプロピレン製,幅
約0.678cmで,全長約13.2mのものと全長約8mのものであった。
以下「本件ビニール紐」という。)が発見され,これらには,Bの人体組織片
が付着していた。
7なお,被告人には,保険金額100万円,死亡保険金の受取人をCとする養
老保険が掛けられており,Bには生命保険が掛けられていなかった。
第3争点に対する判断
1Bの死因
⑴証人Fの供述内容等
ア平成28年12月25日にBの遺体を解剖した証人F及びその所見をまとめ
た捜査報告書(甲56)によれば,Bの遺体の状態として以下の事実が認めら
れる。
Bの頸部には,右耳介付け根下方から左耳介付け根下方に至る長さ約27c
m,幅約0.3cmから約0.4cmの蒼白帯があり,左側後頸部から後頸部
には,左端からやや上方に約4.5cm,幅約0.4cmの蒼白帯が認められ,
この部分には,上下に約0.35cm,幅約0.1cmの紫赤色皮膚変色が約
0.2cmから約0.3cmの間隔を開けて8条認められた。
下顎下面のリンパ節には,うっ血,出血が認められ,左上眼瞼結膜や右上眼
瞼結膜には,数個の溢血点が認められた。胸腺被膜下や肺胸膜下には溢血点が
認められ,諸臓器はうっ血傾向にあり,血液は暗赤色流動性を有していた。
さらに,肺の重量は,左肺が約270gであり,右肺が約285gであった。
イ証人Fは,解剖により確認したBの上記の状態を前提として,その専門的知
見に基づき,Bの死因について,要旨以下のように供述している。
遺体には,頸部をほぼ一周する索条痕があり,それは蒼白帯であって,しか
も8条の紫赤色皮膚変色もあったところ,これは紐状の物によって,相当強い
力で絞められたことによりできたものと考えられる。
また,頸部を圧迫した場合,その動脈は完全には閉塞されず,血液は心臓か
ら頭部に流れ続けるが,頸部の静脈は閉塞されるため,頭部に血がたまり,眼
瞼結膜などの毛細血管が破れ,溢血点等ができ,これは心停止後に頸部を圧迫
してもできないものであるところ,遺体には眼瞼結膜に溢血点,下顎のリンパ
組織にうっ血があり,Bは,その生前に頸部が圧迫されたものと認められる。
さらに,人が急死した場合には,血の塊を分解する酵素が活性化され,血液
が流動性を有し,諸臓器がうっ血傾向になり,胸腺被膜下や肺胸膜下に溢血点
を生ずるところ,Bにもこれらの状態が認められ,Bが絞頸による窒息で急死
したことと矛盾しない。
その他,Bには死因に直結する疾病や損傷は認められず,以上を総合すると,
Bは,頸部を紐状のもので強く絞められ,窒息により死亡したものと判断され
る。
⑵F証言の信用性判断
証人Fは,G大学大学院医学系研究科法医学分野の教授であり,これまで自
ら千件以上の死体の解剖を実施し,鑑定書を作成している。その豊富な経験を
考えると,鑑定人としての適格性には何ら疑いがない。上記アの証人Fの証言
によって認められる遺体の状態についても,同証人が自ら解剖して確認してい
るものであり,その内容に疑問を入れる余地はない。そして,その判断内容は,
客観的な遺体の状態に基づいてなされ,法医学の専門的知識に裏付けられたも
のであり,格別不自然,不合理な点も見られない。
したがって,F証言には高い信用性が認められ,Bが生前,頸部を紐状のも
ので絞められ,死亡したことが認められる。
2被告人による絞頸行為
⑴本件ビニール紐は,遺体発見時に被告人車両の車内にあり,Bの人体組織片
が付着していて,その幅も,Bの頸部を絞めた道具であるとして矛盾しないも
のであった(信用できるF証言によると,紐は強く引っ張ると多少細くなり,
しかも,蒼白帯が残るのは,紐全体ではなく,皮膚に強く接している部分に限
られる。)。
BがA病院に入院し,外出も許可されていなかったこと及びBが脳性麻痺で
手足が不自由であったことを踏まえると,Bの死亡の原因となる頸部圧迫の際
以外にBが被告人車両の車内にあった本件ビニール紐に触れる機会は考え難
く,本件ビニール紐がBを死亡させる際に用いられた索条物であると合理的に
認められる。
⑵また,信用できるF証言によると,Bの遺体には自ら首を絞めて死亡したこ
とをうかがわせる痕跡はなかったことが認められ,しかも,Bは手足が不自由
であったことを踏まえると,自ら首を絞めたとは考えにくく,他人がBの首を
絞めたものといえる。
⑶そして,被告人がBをA病院から連れ出してから警察官による職務質問を受
けるまでの間,被告人車両に第三者が乗車したことをうかがわせる痕跡はなく,
被告人自身,第三者が乗車したことはなかった旨供述していることを踏まえる
と,Bの首を絞めることが可能であったのは,被告人以外想定し難い。
⑷以上よれば,Bの頸部を本件ビニール紐で圧迫したのは,被告人であると認
めるのが自然で理屈に合う。
3被告人の供述
⑴これに対し,被告人は,当公判廷において,概ね以下のとおり供述している。
被告人がBを被告人車両に乗せ,高速道路を走行していると,Bにてんかん
の発作が起こった。はじめの発作はすぐに収まったが,その後に長めの発作が
起こった。被告人は,被告人車両を高速道路の路肩に停め,Bの頬や頸部に手
を当て,呼びかけるなどしたが,やがてBの顔が青白くなり,唇が紫色になっ
た。Bの脈はだんだん弱くなり,顔も冷たくなって,ついに絶命してしまった。
このように,Bは,被告人車両の中でてんかんの発作を起こし死亡したもの
であり,被告人はBの首を絞めていない。
⑵しかし,信用できるF証言によると,てんかん発作により急死した者の肺に
は肺水腫が起こっており,その場合,肺の重量は左右合わせて1000gを超
えるのが通常であるところ,Bの遺体の肺の重量は,左右合わせて約555g
であり,てんかん発作で急死した者の解剖所見と整合しない。
また,被告人の上記供述は,Bの遺体頸部に蒼白帯があったことや被告人車
両の車内にBの人体組織片の付着した本件ビニール紐があったこととも整合し
ない。もとより,愛するわが子がてんかん発作で苦しんでいるのであれば,救
急車を呼ぶなどの何らかの措置をとるのが通常であるところ,本件ではそれも
見られない。
したがって,被告人の上記供述は,信用できない。
4被告人の犯行動機
弁護人は,被告人にBを殺害する動機はない旨主張するところ,当裁判所は,
判示「犯行に至る経緯」のとおり殺害の動機を認定したので,以下,その理由
を説明する。
⑴被告人作成の文書の内容・状態
平成28年12月23日に被告人の部屋の箪笥の上で発見された便箋(以下
「本件便箋」という。)は,複数のものが一綴りで冊子から切り離されておら
ず,そこには,概ね以下のとおり記載されていた(ただし,合綴されていた際
の便箋の順番は定かではない)。
ア1枚目
Hという人から200万円借りてあります。Bと私の保険の中で利子を付け
て真っ先に必ず返してください。それだけはお願いします。身内以上にお世話
になった方です。
イ2枚目及び3枚目
Cちゃん,苦労と迷惑ばかりかけて本当にごめんなさい。そして,しっかり
と支えてくれてありがとうございました。
いつも孤独な居場所のない人生でした。もう疲れた。一人の親を家庭で観る
のも大変な今の時代,家には3人も・・。Bの事も今までと違って,書類や規
制が厳しくなる一方です。貴男は自分の4人の家族をしっかり守って下さい。
本当に,本当に迷惑ばかりですみません。他人様からの温情厚い好意の申出
が何度もありましたが思い切って断りました。いくら相手がいいと言っても引
け目は残ります。私とBで解決します。不甲斐ない親で申し訳ありません。
ウ4枚目及び5枚目
私もいつか解らないけど人生の終わりが来ます。医者にかかっても,痛みだ
けは止めて後は自然体で,何もしないで下さい。悲しまないで笑顔で送って下
さいお金はかけないで!!そう云いながら長生きするかも,エへへ・・その時
は宜しくありがとう。2人だけの兄弟だからIとは今までどおりいつまでも仲
良くね!!力になってやって下さい。ありがとう。
エ6枚目
努力しても家庭運には恵まれなかった,役目は終わった様に思います。年を
重ねることは全て人さけては通れない道・・必ず通る道・・後悔はありません
全ての人に感謝!!ありがとう。
⑵本件便箋の内容の評価
ア本件便箋は,被告人の氏名や作成日等の記載はなく,封筒等に入っていたも
のでもないため,遺書の外観を備えているとはいえないものの,筆者が自身の
死を意識している内容が多く綴られており,被告人が自己の死を考えながら作
成したものであることに疑いはない。
また,そこには,被告人の死後真っ先に借金を返してほしい旨の記載があり,
被告人が借金を返せないことに心を痛めるとともに,自己の生前に借金を返済
できないことを前提とする内容となっている。
さらに,Bも被告人も病気等により死期が切迫していたわけではないにも関
わらず,本件便箋では,借金を「Bと被告人の保険」で返済することを依頼し
ており,これは,近い将来,被告人がBと心中する意思を有していたことを示
すものと解される。
以上のとおり,本件便箋は,被告人が知人への借金の返済の必要性をきっか
けにBとの心中を決意したことを示すものであり,被告人にはBを殺害する動
機があったことが認められる。
イこれに対し,弁護人は,本件便箋には「いつか解らないけど人生の終わりが
来ます」,「そう云いながらも長生きするかも」など被告人が今後も生存する
ことを前提とする記載があり,被告人がBと心中することを予定した文書では
ない旨主張する。しかし,被告人が本件便箋を作成する際,Bとの心中を考え
つつも,それが実行できるかにつき不安に感じていたとすれば,上記文面は,
心中を予定していたものとしても十分理解可能なものであり,現に被告人が職
務質問を受けるまで自殺するに至っていないことを踏まえると,弁護人の指摘
する事実をもってしても,前記認定を妨げるものではない。
ウまた,被告人は,本件便箋は,被告人自身に万が一のことがあった場合に備
えて書いたものであり,Bとの心中を前提としたものではない旨を供述するが,
本件便箋に被告人とBで解決するという趣旨の記載が存在することを合理的に
説明することができず,その弁解は信用できない。
⑶その他の事情
ア被告人は,平成28年12月当時,自ら知人に電話を掛け,借金を返済する
ことができないことを謝罪しており,被告人が当時,借金を返せないことに思
い悩んでいたことがうかがわれる。
弁護人は,知人による強い返済要求がなかったことから,被告人が自殺する
ほどその返済に悩むのは不自然である旨主張しているが,知人に優しい言葉を
かけられ,被告人の生真面目な性格も相まって,自ら思い詰めていたというこ
とは十分にありうるものであり,当該弁護人の主張は採用できない。
イまた,弁護人は,被告人の死亡保険金額は100万円であり,Bに保険は掛
けられていなかったのであるから,Bと心中しても200万円の借金を返済で
きず,借金返済は心中の動機たりえないことを主張する。
しかし,被告人がBの死亡によってCらに入る何らかのお金(預貯金の相続
等が考えられる)を当てにしていたということも考えられ(その意味で,本件
便箋の「Bと私の保険」とは,広く,Bと被告人が死亡することにより入るお
金を意味すると解釈することになる),弁護人の指摘する事実をもってしても,
前記認定は妨げられない。
ウもっとも,被告人がBに対し大きな愛情を有していたことは疑いがなく,純
粋に,借金返済のためだけに,Bを巻き込んだということには疑問が残る。被
告人が40年以上もの間,Bの障害に責任を感じ,「Bに万が一のことがあっ
たら私も死ぬ。」などと述べ,Bと強い同体意識を有していたことに鑑みると,
心中を決意するには,少なからずBを一人残しては死ねないという想いがあっ
たことがうかがわれ,これを否定するだけの事情もない。
⑷小括
したがって,前記のとおり,被告人の犯行動機が認められ,Bを殺害する動
機がなかったとすることはできない。
5結論
以上によれば,被告人が犯罪事実記載の日時・場所において,Bの頸部をビ
ニール紐で絞めたことが認められる。
【法令の適用】

【量刑の理由】
1事件そのものに関する事情
⑴本件犯行態様は,被害者の頸部を,ビニール紐を用いて強い力で絞めるという
ものであり,被害者が抵抗できない状態にあったことを考えると,その行為態様
は危険性が高くかつ悪質なものといえる。愛する母親に突然首を絞められた被害
者の悲しみは大きく,その苦しみも相当なものであったことは想像に難くない。
⑵被告人は,判示「犯行に至る経緯」のとおり,借金の返済に窮して自殺を考え,
Bと心中することを決意したものであるが,客観的に見ると,被告人は当時借金
の返済につきさほど差し迫った状況にはなかった上,同居の家族に相談するなど
の方法もあったのであるから,借金の返済のために万策を尽くしたともいえない。
Bとの心中を考えた経緯には,Bを一人残しては死ねないという想いがあり,家
族の中で被告人のみがBのことを思っていたことがうかがえることに照らして,
それ自体,全く同情の余地がないとはいえないものの,そもそも心中に思い至っ
たのは,専ら被告人が借金に悩み,これを自分一人で抱え込み,短絡的な判断を
したことに起因する。
以上の次第であるから,本件犯行は,長年にわたる介護に疲弊したり,被害者
から暴行等を受けたりした末に殺害に及んだ事案とは一線を画するものであり,
やむを得ないものとは到底いえない。
なお,弁護人は,仮に被告人がBの首を絞めたとしても,それは,てんかん発
作で苦しむBを見て,楽にしてやろうという思いから行われたものである旨主張
する。確かに,Bの当時の状態に鑑みると,被告人がBをA病院から連れ出した
後,Bにてんかん発作が起きたことは否定できないものの,そもそも被告人はこ
れまでにもBのてんかん発作を幾度となく見たことがあるのであり,今回に限り,
楽にしてやろうと考え,殺害を決意したというのは不自然である。その上,F証
言によると,本件犯行の際,Bに呼吸停止を伴うような異常なてんかん発作が起
こった所見は認められない。そうすると,本件犯行の動機を,弁護人の主張する
ようなものであったとすることはできない。
⑶他方で,被告人は,Bとの心中を考えた後も,その決心がつかず,迷ったあげ
く,本件犯行に及んだことがうかがえ,犯行に用いられたビニール紐も被告人車
両に普段から積まれていたものであることを考えると,その計画性は高いものと
はいえない。
⑷以上のとおり,本件犯行は,心中を動機とする殺人(単独犯,被害者1名,凶
器あり)の中で,最も重い部類に属するとはいえないものの,執行猶予を付する
ほどに軽いものともいえない。
2事件そのもの以外に関する事情
被告人は,当公判廷において,一貫して本件犯行を否認しており,反省も謝罪
の言葉もなく,真摯に罪に向き合う姿勢が欠如している。もっとも,被告人が現
在解離性記憶障害に罹患し,本件犯行を覚えていないことも十分に考えられるの
であるから,この点を,被告人に不利に考慮すべきではない。
また,被告人には同種前科はなく,特段の犯罪傾向は認められない上,被告人
を受け入れてくれる家族も存在し,更生のための環境も認められる。
3そこで,上記1の事件そのものに関する事情に,上記2の事件そのもの以外に
関する事情をも併せて考慮し,酌量減軽をした上で主文の刑を量定した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役6年)
平成29年8月8日
岐阜地方裁判所刑事部
裁判長裁判官鈴木芳胤
裁判官佐藤由紀
裁判官森香太

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