弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
a労働基準監督署長が原告に対してした平成27年7月27日付け療養補償
給付不支給処分及び同日付け障害補償給付不支給処分をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,b商事株式会社から依頼された自動車修理の作業中に荷台
から転落して脊髄損傷の傷害を負ったこと(以下「本件災害」という。)が業
務に起因するものであると主張して,a労働基準監督署長に対し,労働者災害
補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づいて,療養補償給付及び障
害補償給付の申請をしたところ,同署長から,原告が労働基準法上の労働者と
は認められないとの理由で各給付の不支給処分(以下「本件各処分」という。)
を受けたため,その取消しを求めた事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実には証拠原因を記載しない。)
⑴原告(男性)は,平成17年頃から,b商事株式会社から自動車修理業
務の依頼を受けて,修理作業を行っていた。
⑵原告は,平成22年4月6日午前0時10分頃,a市内に所在するc自動
車工業株式会社のaモータープールにおいて,b商事株式会社から依頼を受
けたキャリアカーの修理作業中に,車両の荷台から転落し,脊髄損傷の傷害
を負った(本件災害。甲1〔11,32,97頁〕)。
⑶原告は,本件災害が業務上の事由によるものであるとして,a労働基準監
督署長に対し,労災保険法に基づいて,平成27年3月30日,障害補償給
付の支給請求をし,また,同年5月14日,療養補償給付の支給請求をした。
⑷a労働基準監督署長は,平成27年7月27日付けで,原告が労働基準法
9条に定める労働者に当たらないとして本件各処分を行った。
⑸原告は,本件各処分を不服として,北海道労働者災害補償保険審査官に対
し,審査請求をしたが,同審査官は,平成27年11月26日付けでこれを
棄却する旨の決定を行った。原告は,これを不服として,労働保険審査会に
対し,再審査請求をしたが,同審査会は,平成28年9月30日付けでこれ
を棄却する旨の裁決をした。
2争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は,原告が労働基準法9条の労働者に該当するかであり,これに
対する当事者の主張は,以下のとおりである。
(原告の主張)
⑴労働者性の判断基準
労働者性の有無は,使用者による指揮監督の有無や報酬の労務対償性等に
よって判断されるが,近年の就業形態の多様化に伴い,かかる従来の判断基
準が純粋に妥当する範囲は狭まりつつある。また,原告は,労災保険法33
条の定める特別加入制度の対象となる者ではないが,これらの者と同様に,
被災する可能性の高い危険な業務に従事しているのであるから,労働者とし
て保護すべき必要性が高い。
以上の事情に鑑み,本件においては,労災保険法の趣旨・目的や個別の事
情を踏まえ,上記の判断基準について適切妥当な解釈を行って労働者性を判
断すべきである。
⑵b商事株式会社の指揮監督下における労働といえること
ア原告がb商事株式会社から業務の指示を受ける際には,原告の都合や手
持ちの仕事の多寡を確認されることはなく,b商事株式会社の都合のみで
修理内容及び完了日時を指定され,原告は,b商事株式会社から業務の指
示があればすぐに作業に取り掛からなければならなかった。原告は,b商
事株式会社から依頼された修理業務を拒んだことはなく,原告とb商事株
式会社の間には,原告がb商事株式会社からの全ての依頼に応じる旨の黙
示の合意があった。したがって,原告にはb商事株式会社からの修理業務
の依頼に対する諾否の自由はなかった。
イ原告は,上記のとおり,b商事株式会社から一方的に修理すべき車両及
び納期の指示を受けて業務に当たっていたのであり,原告とb商事株式会
社の間には,業務遂行上の指揮監督関係があったといえる。b商事株式会
社は,原告に対して作業内容について具体的な指示をしていないが,原告
の業務内容が専門的・技術的な内容にわたるものであったことからすると
当然のことであり,このことをもって業務遂行上の指揮監督関係が否定さ
れるものではない。
ウ原告は,b商事株式会社から,b商事株式会社の敷地内にある事務所(以
下「本件事務所」という。)に常駐し,本件事務所及び車庫で修理作業を
行うよう指示されていた。これを受けて,原告は,午前8時までには本件
事務所に出勤し,午後8時頃まで待機していた。また,原告は,b商事株
式会社に対し,請求書と併せて,日々の業務内容及びそれに要した時間を
記載した納品書を提出することが求められており,b商事株式会社は,こ
の納品書をもって原告の日々の業務時間を把握し,管理していた。
以上のとおり,原告は,b商事株式会社の指揮監督が及びやすい敷地内
の本件事務所及び車庫での勤務を命じられ,b商事株式会社に日々の業務
時間を管理されていたのであり,b商事株式会社から場所的・時間的な拘
束を受けていた。
エ原告は,b商事株式会社から明示的に補助者の使用や他の業者への外注
を禁じられていたわけではないものの,実際にそのような行為に及ぶこと
はほとんどなく,外注を行うとしても,その都度,b商事株式会社から了
承を得ていたのであって,原告の裁量で補助者の使用や外注をすることは
できなかったから,原告の業務に代替性があったとはいえない。
⑶報酬に労務対償性が認められること
b商事株式会社から原告に支払われた報酬に労務対償性が認められるかど
うかは,いかなる名目で支払われたかにかかわらず,その内実に照らして判
断すべきである。
原告は,前記のとおり,修理内容とこれに要した時間を記載した納品書を
b商事株式会社に提出しており,b商事株式会社はこれを基に原告に報酬を
支払っていたのであるから,b商事株式会社から作業時間に応じた報酬を受
け取っていたといえるのであり,報酬には労務対償性が認められる。
⑸その他の補強要素
ア業務に使用する機械がb商事株式会社の所有に係ること
原告が業務に使用していたエアーコンプレッサー,ジャッキ等の機械・
器具は,b商事株式会社が所有するものであった。また,修理業務に要す
る電気料金もb商事株式会社が負担していた。
イb商事株式会社に対する専属性が強いこと
原告は,他社の業務に従事するためにはb商事株式会社の了承を得なけ
ればならず,その場合でも,b商事株式会社に依頼された業務を優先しな
ければならないなど,他社の業務を行うことが事実上困難な状況にあり,
b商事株式会社に経済的に従属している状態にあった。また,b商事株式
会社から原告に支払われる報酬は,年間約400万円から500万円前後
の範囲内でほぼ固定されており,一定額の支払が保障されていたことに加
え,b商事株式会社は,原告に一定の量の業務を安定的に提供して一定の
所得を保障する見返りとして,原告に支払う工賃を他の業者と比べて半額
程度の安価に設定にしていたといった事情も踏まえると,b商事株式会社
から原告に支払われる報酬は,生活保障としての側面が強い。
したがって,原告は,b商事株式会社に経済的に従属し,また,b商事
株式会社から支払われる報酬には生活保障の側面が強く,b商事株式会社
に対する専属性があった。
なお,b商事株式会社は,原告が他社から依頼された業務を引き受ける
ことを特段制限しておらず,原告も,実際に他社からの業務を受注してい
たが,これは,b商事株式会社の業務だけでは上記の所得保障をすること
ができない月があり,そのような場合には,b商事株式会社が原告に対し
て他社の仕事を受けて不足分を補てんするように指示をしていたからであ
る。したがって,原告が他社からの業務を受注していたからといって,b
商事株式会社に対する専属性が否定されるものではない。
ウb商事株式会社も,原告を労働者として取り扱っていたこと
原告は,b商事株式会社から,自社用のタンクから給油を行うために用
いる磁器カード(以下「ガソリンカード」という。)を貸与され,これを
利用して安価に給油を行うことを認められていただけでなく,b商事株式
会社から就業規則の交付を受け,b商事株式会社の社員のみが参加する忘
年会等の行事にも参加を呼びかけられるなど,b商事株式会社及びその従
業員から,b商事株式会社の労働者としての扱いを受けていた。
(被告の主張)
⑴労働者性の判断基準
本件では,労災保険法上の労働者として保護すべき範囲を拡張して解すべ
き事情はない。原告が主張する特別加入制度は,労働者と認められない者に
ついて任意の加入を認めるものにすぎず,労災保険法が適用される労働者の
範囲を拡大するものではないから,仮に原告に特別加入制度が適用されるべ
き事情が存在するとしても,労働者性の解釈に影響を及ぼすものとはいえな
い。
⑵b商事株式会社による指揮監督があったとはいえないこと
ア原告がb商事株式会社からの業務の依頼を拒否することができなかった
事実はない。原告は,他の業者をb商事株式会社に紹介するなどしてその
依頼を断ることも可能であったが,b商事株式会社に恩義を感じていたた
め,これを断ることなく受けていたにすぎない。
イb商事株式会社は,修理業務を依頼する際に,原告に対して具体的な作
業内容を指示することはなく,納期や作業内容についての打合せを行うの
みであり,通常注文者が行う程度の指示等を行っていたにすぎない。原告
は,b商事株式会社から修理の依頼を受けた後は,何ら指揮を受けること
なく,自身の裁量で修理作業を行っていたのであるから,原告とb商事株
式会社の間に,業務遂行上の指揮監督関係があるとはいえない。
ウb商事株式会社は,原告に対して勤務場所を指定していない。b商事株
式会社は,原告の要望を受けて,本件事務所を賃貸したにすぎず,原告が
作業を行っていた車庫も,原告が作業をする際に風雨を防ぐことができる
ように配慮して無償で使用することを承諾しただけであり,原告に対して,
本件事務所及び車庫で作業に従事するように指示したことはない。また,
b商事株式会社は,原告に出退勤の時間を指示したことはなく,タイムカ
ードや出勤簿等で原告の出退勤を管理したこともない。
したがって,b商事株式会社が原告を時間的及び場所的に拘束していた
ことはない。
エb商事株式会社は,原告に依頼した修理業務について,補助者を使用し
たり,他の業者に外注したりすることを何ら制限しておらず,原告は,自
身の判断で,補助者の使用や外注を行うことができた。したがって,原告
に労務提供の代替性がなかったとはいえない。
⑶報酬に労務対償性は認められないこと
b商事株式会社が原告に支払う報酬は,車両修繕費との名目で支払われる
ものであり,所得税の源泉徴収や社会保険等の各種控除も行われていない。
また,b商事株式会社は,原告に支払う報酬について,修理の発注時に原告
と話し合って調整し,最終的に原告から受領した請求書記載の額を支払って
いたにすぎない。
したがって,原告がb商事株式会社から得ていた報酬は,作業の結果とし
ての工賃にすぎず,労務の対価であるとはいえない。
⑷その他の事情
ア原告には事業者性が認められること
原告は,事業のため,自ら軽トラック,溶接機及び自家用軽自動車を購
入し,これを車両修理等の作業に利用していた。また,原告は,b商事株
式会社に対する請求書や納品書,本件事務所に係る賃貸借契約書,税務署
に提出する収支内訳書に「d」という屋号を用いていたのみならず,この
屋号を用いて,配偶者を労働者として雇い入れ,業務の一部を行わせて報
酬を支払っていた。
したがって,原告は「d」の屋号を用いて事業を行う個人事業主であっ
た。
イb商事株式会社への専属性が認められないこと
原告は,b商事株式会社よりも他社からの修理業務を多く受注しており,
売上げも他社からのもののほうが多く,b商事株式会社に対し経済的に従
属していたものではない。
また,b商事株式会社が原告に支払う報酬には固定部分がなく,修理を
依頼する件数も,車両修理という業務の性質上,月によって違いがあるか
ら,報酬額も月によって変動するものであり,原告に支払われる報酬に生
活保障の趣旨があったということはできない。
ウb商事株式会社も,原告を労働者として認識していなかったこと
b商事株式会社は,原告への報酬を車両修繕費の名目で支払っており,
所得税の源泉徴収や社会保険料等の各種控除を行っていない。また,b商
事株式会社の社員配置表や社員台帳,給与を支払う際に銀行と交換する「銀
行振込用FD内容確認リスト」に原告の名前は掲載されていない。さらに,
b商事株式会社では,従業員に慶弔見舞金を支払う場合には福利厚生費か
ら支出しているところ,本件災害に関し原告に支払われた見舞金は,接待
交通費の科目から支出されていた。従業員が毎年受診しなければならない
健康診断も,原告は受診していなかった。
これらの事情からすると,b商事株式会社が原告をb商事株式会社の労
働者であると認識していなかったことは明らかである。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加え,後掲証拠(ただし,下記認定に反する原告本人の陳述
(甲14)は採用することができない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実を認定することができる。
⑴原告がb商事株式会社からの修理業務を行うようになった経緯
原告は,平成10年頃からe車両輸送株式会社で自動車修理業に従事した
のち,同社を退職して,個人で自動車修理業を経営するようになった(甲1
〔35頁〕,甲14,原告本人)。
平成17年頃,原告は,b商事株式会社の従業員であったfから,b商事
株式会社を紹介されるとともに,本件事務所を使用してもよい旨の打診を受
けた。そこで,原告は,「d」の屋号を用いて,b商事株式会社との間で,
同社の敷地内にあるプレハブ(本件事務所)を賃料2万6250円(消費税
及び電気代を含む。)で賃借する旨の契約を締結し,b商事株式会社のキャ
リアカーの修理業務を行うようになった。(甲1〔35,60,101,1
04頁〕,甲14,証人f,原告本人,弁論の全趣旨)
⑵b商事株式会社における原告の修理業務
アb商事株式会社は,キャリアカーに故障が発生した都度,原告に修理を
依頼し,f又はfの部下のgが,原告に対して故障箇所を説明した上で,
原告との間で,納期の調整や作業内容の打合せを行っていたが,発注後は
作業を行う上で具体的な指示を原告にすることはなかった(甲1〔55,
99,103~104頁〕,原告本人)。
イ原告は,fやgから,b商事株式会社から発注された修理業務について
は必ず請けるよう依頼されることはなかったが,fが原告にb商事株式会
社を紹介してくれたことや,b商事株式会社が原告に本件事務所を通常よ
りも低額の賃料で賃貸してくれたことについて恩義を感じていたため,b
商事株式会社から依頼された修理業務を断ることなく行っていた(甲1〔3
5,36,55頁〕,甲14,証人f,原告本人)。
ウfは,原告に修理業務を発注した後は,作業の進捗状況をときどき確認
する程度で,進捗状況を記録したり,原告に作業状況の報告を義務付けた
りすることはなく,また,原告も,b商事株式会社に対して日々の作業の
進捗状況を報告することはしていなかった(甲1〔55,103頁〕,証
人f,原告本人)。
エb商事株式会社には,原告以外にも,キャリアカーの修理を依頼する業
者がいた。また,原告も,b商事株式会社から依頼された業務を知り合い
の他の業者に行ってもらったことがあった。(甲1〔36,55,59,
103頁〕,証人f,原告本人)
オ原告は,b商事株式会社での業務で使用するために,軽トラック(購入
価格90万円),溶接機(購入価格40万4250円)及び自家用軽自動
車(購入価格157万0712円)を購入し,減価償却の対象としていた
(甲3ないし甲5,原告本人)。
⑶原告が修理業務を行う場所及び時間
ア原告は,本件事務所に出勤する時間や本件事務所に待機すべき時間につ
いて,b商事株式会社から何ら指示を受けていなかった。しかし,原告は,
b商事株式会社に恩義を感じていたため,b商事株式会社からの修理業務
の依頼にいつでも対応することができるように,午前7時半ないし8時頃
から午後7時ないし8時頃まで本件事務所に常駐していた。(甲1〔36,
106頁〕,原告本人)
また,b商事株式会社では,出勤簿の押印により従業員の出退勤管理を
行っていたが,本件事務所には出勤簿は置かれておらず,原告は,出勤簿
に押印したことはなかった(甲1〔36頁〕,乙3,証人f,原告本人)。
イ原告は,本件事務所,車庫及びaモータープールでb商事株式会社から
依頼された修理業務を行っていた。このうち,本件事務所については,前
記⑴の経緯でb商事株式会社から賃借したものであり,車庫については,
fが,原告が修理を行う際に風雨を避けられる場所として原告に使用させ
ることとしたものである。(甲1〔35,60,104頁〕,証人f,原
告本人)
⑷b商事株式会社から原告に対する報酬の支払
ア原告は,毎月末,b商事株式会社に対し,請求書とともに納品書を提出
していた(当事者間に争いがない。)。原告に対する報酬は,原告が定め
た算定基準(一部の例外を除いて,作業に費やした時間を基に算出するも
の。)に基づいて決定されていた(甲6,証人f,原告本人)。
b商事株式会社は,基本的には,原告から提出される請求書に基づいて,
請求どおりの額の報酬を支払っていた。この報酬は,b商事株式会社にお
いて「d」に対する「車両修繕費」の勘定科目として処理されており,所
得税の源泉徴収や社会保険などの各種控除も行われていなかった。(甲1
〔36,54,146,147頁〕,乙3,証人f,原告本人)
イ原告は,他の会社に対しても,b商事株式会社と同様に,作業時間を前
提として算出した金額を工賃として請求していた(甲6,原告本人)。
⑸他の業者との関係
b商事株式会社は,原告がb商事株式会社以外の会社から業務を引き受け
ることを制限しておらず,実際に,原告は,h車輌運送株式会社などb商事
株式会社以外の会社からの修理業務も引き受けていた。原告が他の会社から
の修理業務を引き受ける場合であっても,常にb商事株式会社に報告してそ
の了承を求めることはなかった。(甲1〔63,106頁〕,甲3ないし甲
6,乙6,原告本人)
⑹その他の事情
アb商事株式会社の社員配置表や勤務表には,原告の名前が従業員として
記載されていなかった(甲1〔125~126頁〕,甲9)。
イb商事株式会社は,原告に対し,ガソリンカードを交付しており,b商
事株式会社のガソリンカードの貸与者一覧表には,貸与者の氏名として「d
・i」と記載されていた(甲7)。
ウ原告は,「d」の屋号で毎年確定申告を行っていた(甲1〔37,62
頁〕,甲3ないし甲5)。
エ原告は,自らの意思で,自身の妻であるjを従業員として雇用していた
(甲1〔62頁〕,甲3ないし甲5,原告本人)。
2労働者性の判断基準
労災保険法の保険給付の対象となる労働者の意義については,同法にこれを
定義した規定はないものの,同法が労働基準法第8章「災害補償」に定める各
規定の使用者の労災補償義務を補填する制度として制定されたものであること
に鑑みると,労災保険法上の「労働者」は,労働基準法上の「労働者」と同一
のものであると解するのが相当である。そして,労働基準法9条は,労働者に
ついて,「職業の種類を問わず,事業又は事務所(中略)に使用される者で,
賃金を支払われる者をいう。」と規定し,また,賃金について,同法11条が
「労務の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と規定し
ていることからすれば,同法にいう労働者とは,①使用者の指揮監督下に労務
を提供し,②使用者から労務に対する対償としての報酬を支払われる者をいう
と解するのが相当である(以下,①及び②を併せて「使用従属性」という)。
そして,①労務提供の形態については,⑴仕事の依頼,業務従事の指示に対
する諾否の自由の有無,⑵業務遂行上の指揮監督の有無,⑶勤務場所・勤務時
間に関する拘束性の有無,⑷代替性の有無等に照らして判断するのが相当であ
る。また,②報酬の労務対償性については,報酬の性格が使用者の指揮監督の
下に一定の時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には,
使用従属性を補強するものといえる。さらに,上記①及び②のみでは使用従属
性の判断が困難である場合には,③労働者性の判断を補強する要素として,事
業者性の程度(業務で使用する機械や器具の負担関係,報酬の額,商号使用の
有無),専属性の程度(経済的従属性の有無,報酬の生活保障的要素の有無),
その他の事情(報酬について給与所得として源泉徴収を行っていること等使用
者がその者を自らの労働者と認識していると推認される事情)を勘案し総合判
断するのが相当である。
なお,原告は,上記の判断基準が直ちに本件には妥当しないと主張するが,
原告について労災保険法の保険給付の対象となる労働者に当たるか否かを判断
するにあたり,上記の判断基準に拠ることができない特段の事情は認められな
いから,原告の上記主張は採用することができない。
以下,上記判断基準に沿って,原告が労働基準法上の「労働者」に該当する
かについて検討する。
3①b商事株式会社の指揮監督下における原告の労務提供の有無
⑴仕事の依頼,業務指示に対する諾否の自由の有無
b商事株式会社が,原告に対し,依頼した業務をすべて請けるように指示
していた事実はない(前記認定事実⑵イ)ことからすると,原告において,
b商事株式会社からの仕事の依頼や業務指示に対する諾否の自由がなかった
ということはできない。
これに対して,原告は,b商事株式会社から依頼された修理業務を拒んだ
ことはなく,b商事株式会社と原告の間には,原告がb商事株式会社から依
頼された修理については全て応じる旨の黙示の合意があったと主張する。し
かし,原告がb商事株式会社から依頼された修理業務をほとんど断ることな
く行っていたのは,原告がb商事株式会社に恩義を感じていたことが原因で
ある(前記認定事実⑵イ)。のみならず,b商事株式会社には,原告以外に
もキャリアカーの修理を依頼する業者がいた(前記認定事実⑵エ)ことから
すると,b商事株式会社が原告との間で原告の主張する上記合意を行うべき
必要性があったとは認めがたく,原告の上記主張は採用できない。
⑵業務遂行上の指揮監督の有無
b商事株式会社は,原告に修理を依頼するに際し,故障箇所の説明と納期
の調整を行うのみで,その他の具体的な指示は行わず(前記認定事実⑵ア),
また,修理を依頼した後は,作業の進捗状況をときどき確認する以外には,
原告に対して作業の進捗状況の記録や報告を求めることはなかった(前記前
提事実⑵ウ)。これらの事実からすると,原告は,b商事株式会社から,故
障箇所や納期といった通常注文者が行う程度の指示を受けていたにとどまる
のであって,また,納期については,原告の都合も踏まえた調整が行われて
いたのであるから,原告が,業務の遂行について,b商事株式会社から具体
的な指揮監督を受けていたと認めることはできない。
⑶時間的拘束性の有無
ア原告は,b商事株式会社から,本件事務所に出勤する時間や本件事務所
に待機する時間についての指示を受けたことはなく,また,他の従業員と
異なり,出勤簿による出退勤管理も行われていなかった(前記認定事実⑶
ア)。その他,本件全証拠を精査しても,b商事株式会社が,原告の勤務
時間を管理していたと認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,b商事株式会社が原告に対して勤務時間を拘束していたと
は認められない。
イこれに対し,原告は,毎月末,b商事株式会社に対し,日々の業務に要
した時間を記載した納品書を提出しており,b商事株式会社は原告の労働
時間を把握していたのであるから,b商事株式会社による時間的な拘束が
認められる旨主張する。
しかし,原告の主張する納品書のうち証拠として提出されているもの(甲
1〔129,131,134,137,140,141,143,144
頁〕)には,業務に費やした時間が記載されていない。また,本件全証拠
を検討しても,b商事株式会社が,原告の勤務時間を把握するために,原
告に対し,納品書に作業時間を記載するよう指示していたことを認めるに
足りる的確な証拠はない。原告は,一部の例外を除き,作業に対する報酬
をこれに費やした時間を基準として算出していた(前記認定事実⑷ア)が,
他方で,時間を基準として報酬を算出するのに相応しくない作業について
は,原告の判断で納品書に作業時間を記載していなかった(原告本人)こ
とからすると,仮に原告が業務に費やした時間を納品書に記載したことが
あるとしても,b商事株式会社に対して業務時間を示すことで報酬の算定
根拠を明らかにする趣旨で記載していたと考えるのが自然であって,原告
がb商事株式会社による労務管理のために労働時間をb商事株式会社に報
告していたものと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
⑷場所的拘束性の有無
原告は,b商事株式会社から,修理業務を行う場所として,本件事務所及
び車庫を提供されていた(前記認定事実⑶イ)が,他方で,本件全証拠を検
討しても,b商事株式会社が,原告に対し,本件事務所への常駐や本件事務
所及び車庫での業務を指示していたことを認めるに足りる的確な証拠はな
い。かえって,原告は,b商事株式会社に対する恩義から,b商事株式会社
からの修理業務の依頼にいつでも対応することができるように本件事務所に
常駐していた(前記認定事実⑶ア)ことからすると,原告がb商事株式会社
から業務の遂行場所として本件事務所及び車庫を提供されていたからといっ
て,b商事株式会社が原告に対して勤務場所を拘束していたと認めることは
できない。
⑸代替性の有無
b商事株式会社は,原告以外の他の修理業者に対し,キャリアカーの修理
を依頼することができただけでなく,原告も,b商事株式会社から依頼され
た業務を知り合いの他の業者に行わせたことがある(前記認定事実⑵エ)こ
とからすれば,原告がb商事株式会社から依頼されていた業務は,他者によ
る代替が可能なものであったと認めることができる。
⑹以上を総合的に考慮すると,原告がb商事株式会社の指揮監督下において
労務を提供していたと認めることはできない。
4②b商事株式会社の原告に対する報酬の労務対償性の有無
b商事株式会社の原告に対する報酬について労務対償性が認められるために
は,b商事株式会社から原告が受領した報酬が,b商事株式会社による指揮監
督下で行われた労務提供に対する対価であると認められることが必要であると
いうべきところ,原告がb商事株式会社の指揮監督下で労務を提供していたと
は認められないことは上記3で説示したとおりであるから,b商事株式会社か
ら原告が受領した報酬に労務対償性があると認めることはできない。
また,b商事株式会社は,基本的には,原告が定めた算定方法に基づいて算
出した報酬を原告の提出する請求書に従って支払っている(前記認定事実⑷ア)
ことからすると,原告に対する報酬は,賃金というよりはむしろ,作業時間を
前提として算出された工賃であるというべきである。
したがって,b商事株式会社の原告に対する報酬には労務対償性があるとい
うことはできない。
5③その他の考慮事情
上記のとおり,原告については,b商事株式会社の指揮監督下で労務を提供
したものとは認められず,また,b商事株式会社の原告に対する報酬には労務
対償性が認められないため,使用従属性があったとはいえないが,念のため,
以下の点についても判断する。
⑴事業者性
原告は,「d」の屋号を用いて,b商事株式会社と賃貸借契約を締結し(前
記認定事実⑴),b商事株式会社に対して納品書を提出し(同⑷ア),毎年
確定申告を行い(同⑹ウ),自らの意思で従業員を雇用していた(同⑹エ)
だけでなく,b商事株式会社以外の会社から依頼された修理業務についても
作業を行っていた(同⑸)。
また,原告は,b商事株式会社での業務で使用するために,軽トラック,
溶接機及び自家用軽自動車を,数十万円から百数十万円の費用をかけて購入
しているところ,これらの機材は,労働者が使用者の業務で使用するために
自ら購入するものとしては極めて高額であり,自己の事業のために購入した
ものと認められる。
そうすると,原告は,独自の商号や自己の所有する事業用資産を用いて,
独立した事業者として事業経営を行っていたと認められ,その事業者性は極
めて強いものといわざるを得ない。
⑵b商事株式会社への専属性
アb商事株式会社は,原告がb商事株式会社以外の会社から業務を引き受
けることを特段制限しておらず,原告が他の会社の業務を引き受ける場合
であっても,常にb商事株式会社に報告してその了承を求めることはなか
ったこと(前記認定事実⑸),b商事株式会社から原告に対して支払われ
る報酬には固定部分がなく(同⑷ア),その他,報酬に生活保障的要素が
あると認めるに足りる事情もないことからすると,原告のb商事株式会社
に対する専属性の程度は小さいものといえる。
イこれに対して,原告は,b商事株式会社が,原告に一定量の業務を提供
して所得を保障することの見返りとして,原告に支払う報酬を他の業者へ
の報酬の半額程度の低額にしていること,b商事株式会社からの報酬が4
00万円から500万円の範囲内で固定されていることからすると,b商
事株式会社から原告に支払われる報酬は,生活保障としての側面が強いと
主張する。
しかし,b商事株式会社が原告に支払う報酬額が他の業者への報酬より
も低額であったかは必ずしも明らかではなく,また,b商事株式会社が,
原告に対する報酬が一定の範囲内の額となるように,原告に依頼する業務
の量を配慮していたと認めるに足りる的確な証拠はない。仮に原告に支払
われる報酬の額が他の会社と比べて低いといった事実があったとしても,
原告自身は,その理由について,b商事株式会社に対する恩義のためであ
ると供述しており(原告本人),b商事株式会社が原告の生活を保障する
ために一定の量の業務を与えていたなどとは述べていないことなどからす
ると,原告がb商事株式会社から受領した報酬には,原告の主張するよう
な生活保障的要素を認めることはできない。
⑶その他の事情(b商事株式会社の認識)
アb商事株式会社は,社員配置表や勤務表に,原告の名前を従業員として
記載していなかったこと(前記前提事実⑹ア),原告に支払う報酬から所
得税の源泉徴収や社会保険などの各種控除を行っていなかったこと(同⑷
ア),b商事株式会社の取引履歴には,原告に対して支払われた報酬が「d」
に対する「車両修繕費」の勘定科目として処理されている旨の記載がある
こと(同⑷ア)からすると,b商事株式会社は,原告を取引先たる修理業
者の一つとして認識していたにすぎず,自社の従業員として扱っていなか
ったことは明らかである。
イこれに対して,原告は,b商事株式会社が,原告に対し,ガソリンカー
ドを渡していたことをもって,b商事株式会社が原告を従業員として扱っ
ていたのは明らかである旨主張する。しかし,証拠(証人f,原告本人)
によれば,b商事株式会社が,原告に対し,ガソリンカードを使用して給
油を行うように指示したものではないと認められることに加え,b商事株
式会社のガソリンカードの貸与者一覧表には,貸与者の氏名として「d・
i」との記載がある(前記前提事実⑹イ)ところ,原告がB商事株式会社
の従業員であるならば,このような屋号での記載は行われないものと考え
られることからすると,b商事株式会社が原告にガソリンカードを交付し
ていたからといって,b商事株式会社が原告を従業員として扱っていたと
認めることはできない。
⑷その他,原告は,自身の労働者性を基礎づける事情を縷々主張するが,い
ずれも原告を労働者と認めるに足りる事実であるとはいえない。
6小括
以上によれば,原告は,b商事株式会社から依頼されたキャリアカーの修理
業務を行うに際し,b商事株式会社の指揮監督の下で労務を提供していたもの
とはいえず,b商事株式会社から原告に対して支払われた報酬に労務対償性が
あるともいえず,かえって,原告は,独自の商号を用いて独立して事業を行う
事業者であると認められることなどを総合考慮すると,原告には使用従属性が
認められず,原告が労働基準法上の労働者に該当するとはいえない。
したがって,原告の療養補償給付及び障害補償給付の支給請求を認めなかっ
た本件各処分はいずれも適法である。
第4結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第5部
裁判長裁判官岡山忠広
裁判官吉田豊
裁判官牧野一成

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