弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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      主   文
原判決を破棄する。
被告人は無罪。
       理   由
 本件控訴の趣意は、弁護人桐田喜久造提出の控訴趣意書および控訴人提出の控訴
趣意書各記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 右各控訴趣意(事実誤認および法令適用の誤り)について。
 道路交通法第三一条本文は「車両は、乗客の乗降のため停車中の路面電車に追い
ついたときは(中略)、当該路面電車の後方で停止しなければならない。」と規定
している右の「路面電車の後方」とは、路面電車の車体の後端線の手前を意味し、
「停車中の路面電車に追いついたとき」とは、その字義のとおり、進行中の車両が
停車中の路面電車の後方至近距離に到達したとき、換言すれば、追いついた車両が
路面電車の後端線を越えようとする際には、その路面電車が既に停車している場合
のことをいうのであつて、路面電車が停車した時点において既にその後端線を越え
ていた車両は、たとえ乗降口の手前にあつたとしても本条の対象にはならないと解
する。本条の立法趣旨が乗降客の安全、便宜を図るにあることは明らかであるか
ら、かかる立法の趣旨を強調し、右の時点において既に後端線を越えていてもまだ
乗降口の手前にある車両は本条の対象となるとの見解もあろうが、刑罰法規は厳格
に解釈すべきであるうえ、右の如き車両で乗降客に危害を及ぼすおそれあるものに
ついては、いわゆる安全運転の義務を規定する同法第七〇条等による規制の途があ
るのであるから、右の如き見解は当裁判所の採用し難いところである。
 さて本件についてみるのに、原裁判所および当裁判所で取り調べた証拠による
と、被告人が昭和三九年九月八日午前一一時五分頃函館市a町b番地先の電車道路
を国鉄c駅方面から国鉄函館方面に向かい第二種原動機付自転車を運転して進行し
たこと、同所には安全地帯の設けのない「d」電車停留場があること、被告人が右
停留場を通過するのと相前後して同一方向に進行する電車が同停留場に停車し、数
人の乗客があつたこと、該電車は全長約一二メートルで、車体の前部に一ケ所、中
央部よりやや後方に一ケ所(以下「後部乗降口」という)の乗降口を有し、後部乗
降口の後端より車体の後端までは約四メートルあることがそれぞれ認められる。し
かして被告人の第二種原動機付自転車と右電車との位置関係につき、被告人および
証人西村金三は、電車が停車したときには被告人は少なくとも電車の中央部より前
に出ていたとし、本件を検挙した警察官である証人eはそのとき被告人は後部乗降
口の一メートル位後方を進行していたというのであるから、被告人に不利益な証人
eの供述に従うとしても、電車が停車したときには被告人は既にその後端線を越え
ていたことになるし、同証人作成の道路交通法違反現認報告書中の違反事実は間違
いない旨の被告人の供述記載部分も、同証人および被告人の前記供述に照らすと同
証人の右供述以上に不利な事実関係を認めたものとは解せられないし、他に、電車
が停車した時点において被告人がその後端線を越えていなかつたものと認むべき証
拠はなんら存在しない。
 してみると、被告人に本件違反の事実を認め得べき証拠がないことに帰するとこ
ろ、これを肯認した原判決には事実の誤認があり、その誤認が判決に影響をおよぼ
すことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条により原判決を破棄し、同法第
四〇〇条ただし書に則り当裁判所において更に次のとおり判決する。
 本件公訴事実は「被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和三九年九月八日午
前一一時五分頃函館市a町b番地先道路において、第二種原動機付自転車を運転し
乗客の乗降のため停車中の路面電車に追いついた際、乗客が乗降を終わるまで同電
車の後方で停止していなかつたものである。」というのであるが、前述のとおりそ
の証明がないので、刑事訴訟法第四〇四条、第三三六条を適用し被告人に対し無罪
の言渡をすることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 雨村是夫 裁判官 神田鉱三 裁判官 三好達)

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