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裁判例


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主文
1原判決主文第1,2項に係る関係控訴人らの各控訴をいずれも棄却する。
2別紙控訴人目録2記載の控訴人らの各控訴に基づき,原判決主文第3,4項
に係る同控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。
(1)同控訴人らの被控訴人が平成6年7月14日付けでした国営新愛知川土
地改良事業計画の決定に対する異議申立てについての各決定の取消しを求め
る訴えのうち,それぞれ他人宛の各決定の取消しを求める訴えをいずれも却
下する。
(2)同控訴人らの被控訴人が平成6年7月14日付けでした国営新愛知川土
地改良事業計画の決定に対する異議申立てについての各決定の取消しを求め
る訴えのうち,同控訴人らそれぞれの自己宛の決定の取消しを求める請求を
いずれも棄却する。
3別紙控訴人目録3記載の控訴人らの各控訴に基づき,原判決主文第5項に関
する部分を取り消す。
(1)被控訴人が平成6年7月14日付けでした上記土地改良事業計画の決定
に対する異議申立てについてのP1,控訴人P2及び同P3宛の各決定をい
ずれも取り消す。
(2)上記目録3記載の控訴人らの被控訴人が平成6年7月14日付けでした
上記土地改良事業計画の決定に対する異議申立てについての各決定の取消し
を求める訴えのうち,上記(1)以外の部分に係る訴えをいずれも却下する。
4訴訟費用は,被控訴人に生じた控訴費用の41分の22と別紙控訴人目録1
記載の控訴人らに生じた控訴費用とを同控訴人らの負担とし,被控訴人に生じ
た原審費用の52分の15及び控訴費用の41分の15と同目録2記載の控訴
人らに生じた原審費用及び控訴費用とを同控訴人らの負担とし,被控訴人に生
じた原審費用の52分の3及び控訴費用の41分の3と同目録3記載の控訴人
らに生じた原審費用及び控訴費用とを被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人ら
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人が平成6年1月24日付けで行った国営新愛知川土地改良事業
計画の決定(以下「本件事業計画決定」又は「本件決定」という。)及び平
成6年7月14日付けでした本件決定に対する控訴人らの異議申立てについ
ての各決定をいずれも取り消す。
(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2被控訴人
(1)本件各控訴をいずれも棄却する。
(2)控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1本件は,滋賀県内の愛知川の下流域の八日市市ほか8町(平成6年当時のも
の。以下,市町村については,当事者の住所表示以外は,平成17年3月まで
の市町村とその名称による。)にわたる水田地域(約7500ha,約930
0戸)を施行地域とし,同施行地域の農業用水を確保するために,愛知川の上
流に設置されたα1ダムの更に上流の同ダムから北東方向に約7キロメートル
の地点に農業用用排水施設としてα1第2ダム(以下「α1第2ダム」又は
「第2ダム」ともいう。)を新設することを主な内容とする国営の新愛知川土
地改良事業(以下「本件事業」という。)につき,被控訴人が平成6年1月2
4日付けで事業計画の決定(本件決定)をし(なお,以下,本件決定による事
業計画を,「本件事業計画」又は「計画」ともいう。),これに対する異議申
立てを同年7月14日付けで却下及び棄却の各決定をしたことについて,第2
ダムの建設予定地の下流域に所在するα2東部地区等に居住する控訴人らが,
本件決定は,建設予定地周辺の貴重な自然環境を破壊するものであり,それに
至る手続には,土地改良法(平成13年法律第82号による改正前のもの,以
下「法」ともいう。),同法施行令(ただし,本件決定当時のもの。以下
「令」ともいう。)や他の関係法令等に反する違法がある上,本件決定は,令
2条各号で規定されたその必要性,技術的可能性,経済性等の基本的な要件も
欠き,いずれの観点からも違法であるなどと主張して,被控訴人に対し,本件
決定及びこれに対する異議申立てについての各決定の取消しを求めた事案であ
る。控訴人らは,当審において,更に,本件決定には,通達等で定められたボ
ーリング調査等の地質調査を欠くなどしたためダムの規模を誤って設計した重
大な瑕疵があるなどの主張も追加した。
2原判決は,控訴人らの本件決定の取消しを求める部分及び原判決別紙原告目
録1記載の控訴人らの上記の異議申立てについての各決定の取消しを求める部
分に係る訴えをいずれも却下し(原判決主文第1,2項),同目録2記載の控
訴人らの前記の異議申立てについての棄却の各決定の取消しを求める部分に係
る訴えをいずれも却下し,前記の異議申立てについての却下の各決定の取消し
を求める部分の請求をいずれも棄却すると共に(同主文第3,4項),同目録
3記載の控訴人らの異議申立てについての棄却の各決定の取消しを求める請求
をいずれも棄却した(同主文第5項)。
3原判決に対し,原審の原告52名のうちの41名が控訴をし,残りの原審原
告ら11名の関係では,訴えの却下又はそれぞれの請求の棄却をした原判決が
確定した。その後,当審で控訴人P4の関係の訴えが取り下げられた。
4基礎となる事実は,原判決の「事実及び理由」中の第2のⅠ(原判決2頁2
2行目から8頁14行目まで)の控訴人らと被控訴人関係部分記載のとおりで
あるから,これを引用する。
5争点
(本案前)
(1)本件決定に対する取消訴訟を提起できるか否か。
(2)異議申立てを経ていない控訴人らが異議申立てについての決定の取消し
を求めることができるか。
(本案)
(1)本件却下決定が違法であるか否か。
(2)本件事業計画を定める手続上,基本的な要件判断の手続過程に重大な瑕
疵があるか(当審主張)。
(3)専門的知識を有する技術者の調査報告(法87条2項,8条2項,3
項)は十分なものであるか,調査報告内容の判断過程に重大な瑕疵があるか。
(4)その他,本件決定に至る手続に,事前に環境影響評価をする必要がある
か。法85条2項の公告手続及び同意取得手続に違法があるか。同意が錯誤
により無効であるかどうか(当審主張)。
(5)本件事業計画が令所定の基本的な要件に適合しているか否か。
ア必要性の要件(令2条1号)に適合しているか。
イ技術的可能性の要件(令2条2号)に適合しているか。
ウ経済性の要件(令2条3号)に適合しているか。
エその他,①環境配慮義務を尽くすこと,②周辺住民等の生命,身体,
財産に対する配慮義務を尽くすこと,③その他の産業と調和することが
実体的要件かどうか,そうであれば,それらに適合しているか。
6争点に関する当事者の主張
(本案前の争点(1)(2)について)
(1)原判決の「事実及び理由」中の第2のⅢの1(原判決9頁18行目から
11頁17行目まで)の控訴人らと被控訴人関係部分記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(2)被控訴人の補足主張
控訴人らの本件訴えのうち,控訴人ら全員の本件決定の取消しを求める部
分は不適法であり,別紙控訴人目録1記載の控訴人らの各異議決定(各却下
決定及び各棄却決定)の取消しを求める部分は,同控訴人らはそもそも異議
についての決定を受けていないから不適法である。
(本案の争点について)
(1)争点(1)別紙控訴人目録2記載の控訴人らに対する本件却下決定が違法
であるか否か。
ア次に当審主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の第2のⅢ
の2のうち原判決11頁19行目から14頁12行目までの控訴人らと被
控訴人関係部分記載のとおりであるから,これを引用する。
イ控訴人らの補足主張
(ア)別紙控訴人目録2記載の控訴人P5(原審の原告番号48,以下,
「控訴人48」ともいい,他の控訴人についても,別紙控訴人目録記載の
原審の原告番号に従って同様に表示することがある。)は,3条資格者
である。同控訴人は,昭和35年4月31日に八日市市α33523番
・田2287平方メートル(甲195),同α33517番・田781
平方メートル,同α43793番畑235平方メートルの所有権を取得
した(甲145の2)。同控訴人は,本件決定に対する異議の申立ての
時点で,その所有の上記の田の所有名義人であった。同控訴人は,他の
土地の所有名義が父のP6であったときからその農地の耕作をし,実質
的には父に代わって耕作の業務を営んでいた。
(イ)別紙控訴人目録2記載の控訴人らは,3条資格者ではなくても,本
件事業に関係のある土地又はその土地に定着する物件の所有者,本件事
業に関係のある水面につき漁業権又は入漁権を有する者,その他これら
の土地,物件,又は権利に関し権利を有する者のいずれかに該当するか
ら,本件決定に対する異議申立適格を有する。
a法及びその関連規定は,土地改良事業の施行地域の周辺住民の生命,
身体,財産に対する配慮義務,他産業との調整義務,環境配慮義務を
課している。更に,法は,土地改良区が施行する土地改良事業につい
て,法9条において「土地改良事業に関係のある土地又はその土地に
定着する物件の所有者,当該土地改良事業に関係のある水面につき漁
業権又は入漁権を有する者その他これらの土地,物件,又は権利に関
し権利を有する者」に法8条6項の公告に係る決定に対する「異議の
申出」を認め,土地改良事業計画の変更に関して法48条9項におい
てこれを準用し,換地計画に関して法52条の3において同旨の規定
をおいている。また,市町村施行の土地改良事業についての知事の認
可について,法96条の5において同趣旨の規定をおいている。国が
施行する本件事業の本件決定に対する異議申立適格も同様の範囲の者
に認めるべきである。
b控訴人3,9ないし11,13ないし15,20,33,43,45,47ないし50
は,いずれもα1ダムの下流の愛知川沿岸,α1ダムの後背地,第2
ダムの下流に当たる愛知川沿岸,又はα5頭首工の下流域に,宅地,
建物及び農地などを所有して生活しており(甲80,18の12頁),
第2ダムの建設によって,生命・身体,財産等が侵害されるおそれが
ある。また,控訴人3,9,14,15,20,33は,いずれも,愛知川上
流漁業協同組合の組合員であってα1ダムの上流・下流で漁業を営む
者であり,本件事業が実施されると河川の流量の減少,富栄養化,濁
水及び河川の掘削等による河川環境の悪化により漁業ができなくなり,
その利益が侵害される。
ウ被控訴人の補足主張
別紙控訴人目録2記載の控訴人らの各自それぞれに対する異議決定の取
消しを求める請求は,いずれも異議申立適格がないとして却下したそれぞ
れの異議についての決定が相当であるからいずれも理由がない。
(ア)控訴人48(P5)は3条資格者ではない。法3条に規定する耕作の
業務を営む者とは,当該耕作の業務による損益が自己に帰属する者をい
い,同控訴人所有の農地も父のP6が土地改良区の賦課名義人で,農業
委員会への農業所得の申告もP6名義でしており,P6が耕作の業務を
営んでいた。同控訴人が土地改良区の組合員となったのは,平成9年1
0月31日をもって組合員資格の得喪の通知をした後である(法43条
1項)。
(イ)河川法23条,24条の各許可について,河川流域の住民等がその
取消しを求める法律上の利益を有するとしても,それは河川法において
保護される利益であって,法(土地改良法)によって保護される利益で
はない。法(土地改良法)上の構造物の新築の場合も,河川流域の住民
等がそれを不服とするときは,河川流域内構造物共通の問題として河川
法上の処分に関する訴訟で争われるべきである。河川法95条による国
と河川管理者との協議の成立が本件決定の要件となっているものでもな
い。のみならず,第2ダムの建設予定地付近の河川は,河川法の適用を
受ける河川ではなく,普通河川である。
(ウ)控訴人3,9,14,15,20,33は,愛知川上流漁業協同組合の組合
員であるから異議申立適格を有すると主張するが,同控訴人らは基礎付
ける事実の立証をしていない。
(2)争点(2)本件事業計画を定める手続上,基本的な要件判断の手続過程に
重大な瑕疵があるか(当審主張)。
ア控訴人らの主張
(ア)被控訴人は,本件決定に先立って行われるべきであった計画調査及
び全体設計調査において,第2ダムの建設予定地の地形調査及び地質調
査について,土地改良事業設計基準(昭和56年4月1日付け農林水産
事務次官通達の「設計・ダム」,以下「本件設計基準」ともいう。)に
違反して,ダム地点の地形図を作成するための実地測量を怠り,貯水容
量の算定の基礎となる池敷については,実地測量も航空測量も実施せず,
そもそも測量による地形図の作成をしないままに,既存の縮尺2500
分の1のα2作成の公共測量図を使用してその地形等から貯水容量を推
認し,更に,ダム地点の地下地質調査としてのボーリング調査,弾性波
探査及び横杭の調査もすべて怠った。本件設計基準で定められたこれら
の各調査は,貯水容量の算定,ダム規模の設計及び総事業費の算定のた
めにも必要不可欠なもので,被控訴人自らこれに従うべきことを自認し
ている計画基準・手続準則である。現に,被控訴人も,当初は,実地測
量による縮尺500分の1の地形図の作成,弾性波探査(5測線,1.
3キロメートル),ボーリング調査及び横杭調査をする予定で,その旨
の説明をし,平成4年2月の時点まで,それらの調査が必要であると認
識し,それらの調査箇所も具体的に検討し,その準備までしていた。
(イ)にもかかわらず,被控訴人は,結局,それらの調査をしないまま,
近畿農政局において全体実施設計の作業を進め,平成5年2月4日付け
で京都大学のP7教授及びP8教授に法87条2項,8条2,3項所定
の調査とその報告書の作成委嘱をし,同年3月,近畿農政局において全
体実施設計書が作成され,その後,前記両教授の「調査報告書」(乙
7)が提出され,平成6年1月24日,被控訴人は,本件決定をした。
(ウ)このように,本件事業の全体実施設計は,必要性,技術的可能性及
び経済性の各要件の判断に必要不可欠な本件設計基準で定められた前記
の各調査をせず,現地の地形,地質に基づかないもので,ダムの規模や
貯水容量,建設地点の地質,岩盤の強度,透水性等の基本的な認識を大
きく誤り,その結果,令2条所定の必要性,技術的可能性,経済性等の
要件の有無について確認されないままされたのであって,全体設計調査
そのものがされなかったに等しい。かような瑕疵は,法の定める土地改
良事業計画の変更手続では是正できない重大な瑕疵というべきである。
しかも,本件決定に至る手続にこのような重大な瑕疵があった結果,
本件決定は,建設予定地の地形及び地質の状況を大幅に誤り,ダムの規
模の設計も誤り,その総事業費の算定も大幅に誤った。地形については,
ダムの貯水池となる谷部の幅を誤って広く推定し,ダム地点の地形をよ
り急なものと推定するなどの誤った判断をし,ダム地点付近の地盤につ
いては,表層部全体に軟弱で透水性の高い地盤が深さ約20メートルに
わたって被さっているだけでなく,ダム堤趾部の右岸側には高い透水性
を示す地盤が深さ約80メートルまで達し,更にその上流部のダム軸の
右岸側にはCM級の軟弱地盤の塊が存在することを看過した。その結果,
計画による貯水可能量を確保するためには,ダムの規模を大幅に変更せ
ざるを得なくなり,総事業費は計画よりも大幅に増大することになった。
このように,被控訴人は,通達等で定められた各調査を怠ったため,令
2条の経済性の要件を算定する際の総事業費をあまりにも過小に算定し,
それを前提に本件決定をした。
イ被控訴人の主張
(ア)本件決定及びそれに対する各異議についての各決定の違法性の判断
の基準時は,処分時である。ダム建設の各段階で実施される調査は,そ
の段階に応じて調査の事項,範囲,方針,精度などが自ずと異なってく
るもので,その間の測量技術の向上等に伴う精度の差も生じることから,
事業着手の後の工事実施調査で新たな事実が判明したとしても,それら
は,計画時点における本件決定の適法性には,何らの影響も及ぼさない。
(イ)控訴人らが違反していると主張しているのは,本件設計基準の運用
通知の解説部分に記載された調査等がその記載どおりに実施されていな
いというもので,同解説部分は,甲214の1頁にもあるように,あく
まで一般的な技術基準であり,個々のダムの設計・施工に当たっては実
情に則して,適切にこの基準の運用を図るべきである,とされている。
同解説部分は,そこに記載された内容の調査を常に実施することを求め
たものではない。
(ウ)計画に先立って行われた計画調査及び全体設計調査の段階では,第
2ダムの貯水池容量の算定の基にする池敷地形図について,測量を実施
してこれを作成せずに,既存のα2の縮尺2500分の1のα1基本図
(乙96,以下「本件基本図」という。)を使用した。本件決定の後の
工事実施調査において,航空測量により作成された縮尺1000分の1
の池敷地形図と現地に立ち入った実地測量の結果,貯水池となる池敷の
谷部の幅が計画による推定よりも概して狭く,一方,建設予定地の地形
が計画による推定よりも緩やかであったことが判明した。このように相
違が生じた原因は,本件基本図の縮尺と航空測量による前記の池敷地形
図との縮尺の相違もあるが,農林水産省では平成9年度にその運用基準
が制定されたGSP測量やデジタルマッピングの導入,CADによる面
積測定などの測量技術の進歩に伴う精度の向上によるものと推察される。
また,全体設計調査の段階では,ダム地点の地下地質調査,すなわち,
ボーリング調査,弾性波探査及び横杭も実施しなかった。しかし,これ
は,地表地質調査を行った結果,河床両岸には連続的に,のり面には散
在的に堅固な岩盤が露出していることや,室内岩石試験の結果から,予
定地の地質は極めて良好(堅固)であることが確認できたからである。
本件設計基準においても,ボーリング調査は,河床部などで明らかに健
岩の露頭がみられる場合などは省略されるとされている。後に実施され
た工事実施調査等においても,建設予定地は,チャート主体の堅固な岩
盤であることが判明しており,計画時にはダム軸の河床堆積物を地形勾
配等から約5メートルと推定していたが,工事実施調査における弾性波
探査の結果でも5メートルを上回ることはないと推定された。また,本
件決定の後の工事実施調査において,ダム軸から約40メートル下流の
地点でのボーリング調査で河床堆積物の厚さが約10メートルあること
が判明し,その結果,設計上の判断から,ダム軸における基礎掘削深を
上記地点の河床堆積物の最大の深さに合わせる必要が生じ,基礎掘削深
を計画よりも深くすることになった。しかし,全体設計調査の段階で仮
にボーリング調査を行うとしても,ダム軸について行うのが一般的であ
り,それ以外の箇所は,工事実施調査の段階で行われるのが通常の手順
であるから,ダム軸でボーリング調査を行わなかったことと基礎掘削深
が計画時のそれよりも深くなったことは全く無関係である。また,工事
実施調査でも,強度や透水性などの地質性状に問題は認められなかった
ことが確認されており,結局,地下地質調査を省略したことで何ら不都
合は生じていない。第2ダムの計画堆砂量も,全体実施設計書(乙16
の1,95頁以下)においては,本件設計基準で定められた100年の
堆砂量を見込んでいる。
(エ)ダム地点について,全体設計調査の段階までに実地測量による縦断
測量や横断測量も実施しなかった。しかし,本件設計基準においても,
事業計画の決定の後に予定されている工事実施調査の段階を含めた調査
内容として,ダム地点地形図についての縮尺500分の1から1000
分の1などの条件の各地形図の作成が求められ,その図化方法が実地測
量によるとされているのであり,必ずしも全体設計調査の段階までにそ
れらが求められているのではない。被控訴人としては,計画策定の段階
では,ダムサイトが強固な岩盤で形成される急峻な地形であり,航空測
量により作成した500分の1の地形図(乙16の6・図面番号2-
2)により,本件設計基準で定められた全体設計調査の目的が達成可能
と判断し,実地測量までは実施しなかった。
(オ)本件決定の後の平成13年度及び平成14年度の工事実施調査によ
って,河床部の基礎地盤が決定時の推定よりも一部深かったこと,貯水
池となる池敷の谷部が当初推定していた幅よりも狭く,一方,建設予定
地の地形が計画による推定よりも緩やかであることが判明し,第2ダム
の堤高を9メートル程度(谷幅が狭かったことにより3.5メートル,
基礎地盤の一部掘り下げにより5.5メートル)高くすることを余儀な
くされた。しかし,本件事業の着手の後に判明した上記事実は,ダム建
設の一般的な手順に従って後により詳細で精度の高い調査を実施したこ
とにより判明したもので,本件決定の違法性の判断に何らの影響も及ぼ
さない。
(3)争点(3)専門的知識を有する技術者の調査報告(法87条2項,8条2
項,3項)は十分なものであるか,調査報告内容の判断過程に重大な瑕疵が
あるか。
ア次に当審主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の第2のⅢ
の2のうち原判決47頁21行目から48頁2行目までの控訴人らと被控
訴人関係部分記載のとおりであるから,これを引用する。
イ控訴人らの補足主張
本件決定の前提となった専門的知識を有する技術者の意見書(乙7)は,
法87条2項,8条2項,3項所定の手続,内容に反した重大な瑕疵があ
り,それゆえ,本件決定には,法8条2,3項に違背する違法がある。
(ア)法87条2項が準用する法8条2項は「省令の定めるところにより,
農用地の改良,開発,保全又は集団化に関し専門的知識を有する技術者
が調査して提出する報告に基かなければならない」とし,同条3項は
「前項の調査は,当該土地改良事業のすべての効用と費用とについての
調査を含むものでなければならない。」と定めているが,これらの規定
は,国営土地改良事業の計画決定に際し,その計画決定の適正さ,公正
さを担保するため,計画決定権者とは別の専門技術者による調査及び科
学的・技術的な検討を実施させ,その結果を記載した調査報告書に基づ
いて計画決定をすべきことを要求している。
すなわち,土地改良事業は,農業者がその第一次的受益者として事業
費用の一部を負担するが(土地改良事業の私的側面),同時に,国土資
源の効率的利用を促進するという公益的観点(土地改良事業の共同的,
社会的側面)も有し,国及び地方公共団体の公金が投入されることと定
められ(法126条),広範囲にわたる土地を対象とし,事業規模も大
きく,事業による自然的,社会的,経済的影響を伴うから,事業の直接
的受益者のみならず第三者の利害関係に対しても様々な影響を及ぼすの
で,土地改良事業の実施に当たっては,そもそも,その事業実施の必要
性に合理的根拠があるか,事業の実施が技術的に可能か(周辺の住民の
生命・身体,財産等の安全性確保を含む。),事業による効果が投入さ
れるすべての費用を上回るか(公金投入について国民経済からみた効率
性の確保),事業費用について農業者の負担能力を超えないか(農業者
からみた事業費用の負担の妥当性)などが適正に検討されなければなら
ず,法8条4項1号,令2条1ないし6号所定の基本的な要件について,
計画決定権者の判断基礎となる事項の範囲や判断根拠となる具体的事実
について専門的知識を有する技術者による調査を実施させ,この調査に
より多面的,かつ,正確で客観的な資料をあまねく収集させ,その分析,
検討に基づく適切な評価,比較衡量を専門的,技術的観点から実施せし
め,これに基づく調査報告書を作成して提出させることにして,計画決
定権者による客観的な適正妥当と公正な判断に基づく決定処分を担保す
ることとしたのである。
(イ)したがって,国営土地改良事業においては,法8条2,3項の手続
規定を形式的に履践するだけでは足りず,手続規定が要求する調査,検
討,審査が実質的に行われ,かつ,計画決定がその実質的調査,検討,
審理に基づいてなされたものと認め得るものでなければならない。そう
すると,法8条2,3項が,計画決定権者による決定に先だって専門的
知識を有する技術者の調査及び報告に基づくことを定めた趣旨,目的が
上記のとおりであることに照らせば,仮に当該計画決定手続において計
画決定が形式的になされたとしても,その手続における決定が専門技術
者の調査報告書に基づくことを要求した法8条2,3項の趣旨,目的に
反すると認めうる瑕疵があるときは,当該手続は違法というべきである
(行政庁の行政処分に先立って諮問機関に諮問し,その決定を尊重して
処分をしなければならない等の手続規定がある場合の行政処分の違法性
についての最高裁昭和50年5月29日第1小法廷判決・民集29巻5
号662頁,最高裁昭和46年1月22日第2小法廷判決・民集25巻
1号45頁等参照。)。
そうすると,仮に本件決定に至る手続において専門知識を有する技術
者の調査やそれに基づいて作成されるべき調査報告書の作成が形式的に
されたとしても,それが法8条2,3項の趣旨及び目的に反すると認め
うる場合には,本件決定自体が違法となる。
(ウ)上記の土地改良事業の各要件,基準を審理するために,専門的知識
を有する技術者が調査し検討すべき事項内容は次のとおりであり,土地
改良事業に関わる多様で広範囲な利害調整,自然的,技術的,社会的,
経済的要素事項にわたっている(同法施行細則(以下「細則」とい
う。)15条)。
①当該土地改良事業の施行を必要と認める場合には,その理由及び必
要の程度,不必要と認める場合にはその理由。
②当該土地改良事業の施行を技術的に可能と認める場合には,その理
由,不可能と認める場合には,その理由,及びこれらの場合において
更に適当な方法があると認めるときは,その施行方法。
③当該土地改良事業を当該土地改良区が行うことの当否に関する技術
的意見。
④当該土地改良事業のすべての効用と費用との比較及びこれらの算出
根拠。
⑤当該土地改良事業が令2条4号の要件に適合しているかどうかにつ
いての意見
⑥当該土地改良事業が同法7条4項に規定する土地改良事業である場
合には,当該土地改良事業計画において定めれた非農用地区域が同法
8条5項各号に掲げる要件に適しているかどうかについての意見
⑦当該土地改良事業の施行が他の事業と関係があると認められる場合
には,関係のある事業間の調整方法についての意見
⑧その他当該土地改良事業計画書に記載された事項の当否及びその理
由並びに不適当とするする場合には,当該事項に代わるべき他の事項
⑨当該土地改良事業によって生ずべき土地改良施設がある場合には,
その管理方法に関する技術的意見
(エ)ところが,本件決定に至る過程においては,計画調査及び全体設計
調査としての第2ダムの建設予定地の地形調査及び地質調査について,
本件設計基準に違反して,ダム地点の地形図を作成するための実地測量
がされず,池敷については,実地測量も航空測量も実施されずに既存の
縮尺2500分の1のα2作成の公共測量図が使用され,更に,ダム地
点の地下地質調査としてのボーリング調査,弾性波探査及び横杭の調査
も実施されず,このようにして,貯水容量,ダムの規模を大きく誤った
全体実施設計がされた。
(オ)そして,平成5年2月4日付けで近畿農政局から委嘱を受けた農業
土木の専門家である京都大学農学部農業工学科のP7教授,農業経済の
専門家である同大学農学部生物資源経済学のP8教授は,前記のように,
本件設計基準に違反して必要な調査をせずに貯水容量やダムの規模を大
きく誤った全体実施設計の過程の資料に基づいて調査し,平成5年2月
22日及び23日に現地調査を実施し,それに基づく調査報告書を作成
して,近畿農政局に提出した(提出年月日不明)。調査報告書の内容も,
上記の点についての具体的な言及がなく,法の趣旨及び目的に沿わない
不十分なものであった。
(カ)以上のとおり,本件事業計画には,法が要求している調査,費用,
効果の検討を被控訴人が実施せず,現地の地形,地質,地盤の実態と著
しく異なる事実を元に決定されたという重大かつ客観的な瑕疵があると
ころ,これを看過した前記各教授の調査及び調査報告書の作成手続には,
法所定の手続違背があり,また,その内容も現地調査に基づかないもの
であるがゆえに,実態と著しく齟齬した内容となっている。
そうすると,本件決定に先立って作成された調査報告書が形式的に存
在するとしても,この専門的知識を有する技術者の調査,検討の手続及
び調査報告書の内容には,法8条2,3項が定める本件決定の客観的な
適正妥当性と公正さを担保するものと認めることができない重大な瑕疵
があるのであって,これを前提とした本件決定それ自体も違法となる。
ウ被控訴人の補足主張
控訴人らの補足主張は争う。
(4)争点(4)本件決定に至る手続において,法85条2項の公告手続及び同
意取得手続に違法があるか。同意が錯誤により無効であるかどうか(当審主
張)。事前に環境影響評価をする必要があるか。。
ア次に当審主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の第2のⅢ
の2のうち原判決45頁7行目から47頁19行目まで及び原判決44頁
1行目から45頁6行目までの控訴人らと被控訴人関係部分記載のとおり
であるから,これを引用する。
イ控訴人らの補足主張
(ア)3条資格者から取得された同意書は,本件事業の申請の際に,本件
事業の必要性,技術的可能性,経済性等の各要件についての検討がされ
ないままその取得がされたもので,同意をした者らには要素の錯誤があ
ったから,それらの同意は,いずれも無効である。
(イ)滋賀県の要綱による環境影響評価も,河川法95条による河川管理
者との協議も,本件事業計画の決定の前にされるべきであるのに,それ
が行われなかった。
ウ被控訴人の補足主張
控訴人らの上記主張は争う。
(5)争点(5)本件事業計画が令所定の基本的な要件に適合しているか否か。
ア次に当審主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の第2のⅢ
の2のうち原判決14頁14行目から43頁24行目までの控訴人らと被
控訴人関係部分記載のとおりであるから,これを引用する。
イ控訴人らの補足主張
(ア)必要性(令2条1号)について
a本件事業の計画では,農業用水の必要水量を年間2億0080万立
方メートルと予測した上で,現況の水源施設の利用可能量を年間1億
7490万立方メートルとし,そのうちα1ダム及びα6頭首工から
1億2100万立方メートルが,補助水源から5390万立方メート
ルが利用可能であるとし,第2ダムと調整池による新規開発水量が年
間2590万立方メートルとしている。それらは,昭和30年から昭
和62年までの33年間において,有効雨量については2番目に少な
く,連続旱天日数については3番目に多かった昭和39年におけるデ
ータを「10年に1回の渇水時」におけるデータとして,同年におけ
る水需要を基準に算定された。
bしかし,平成元年から平成11年までの実際の取水実績は,α1ダ
ムでは,年間8143万6000平方メートルから1億0112万2
000立方メートルであり,平均すると年間9168万7000立方
メートルである。また,年間総取水実績の平均値は,1億4227万
7000立方メートルで,旧事業の昭和55年の計画変更時の計画取
水量の年間1億7750万立方メートルを大きく下回っている。した
がって,毎年の水不足があるとか,通常の年は水不足であるとはいえ
ない。
cまた,計画による水需要の予測は,「10年に1回の渇水時」のそ
れであって,例年のそれではない。実際,本件施行地域の農地に必要
な農業用水が,例年,恒常的に不足している状態はない。10年に1
度の渇水年以外の通常の年は,年に2500万立方メートルもの水不
足はなく,年に2億0080万立方メートルもの用水は必要とならな
い。通常年の粗用水量は,1億8705万8000立方メートルない
し1億7529万4000立方メートルであって,現況の水源施設の
利用可能量は,補助水源ベースで2500万立方メートル以上の余裕
がある状態である。なお,平成6年のような,異常な渇水時(現況利
用可能量の10分の1を超える渇水の時)には,造成された水利施設
では対応できなかったもので,土地改良区の組合員が平成6年の渇水
時に際して求めた用水量は,そもそも第2ダムが造成されても対応で
きないものであった。
d本件事業の施行地域の農地は,年々減少しており,この点からも,
計画による水需要の予測は過大である。その農地は,平成14年3月
末時点では7190haとなり,本件決定の策定時の7500haよ
りも少なくとも約4.2パーセント減少しており(甲199),21
0haの保留地の面積を含めなければ土地改良区の賦課金面積は69
80平方メートルにすぎない。実質的には,すでに土地改良事業の計
画変更の要件とされる5パーセントを充たす状態になっている。なお,
本件事業の施行地域の受益地の算定には,保留地を含めるべきではな
い。保留地は,α7地区,α8地区,α9地区として固定された地域
であり,いずれも地下水が豊富であるなど賦課金を支払ってまでダム
用水を使用する必要のない地域である。米の作付面積も,昭和54年
は5万0200ha,平成10年は3万8300haと減少しており,
施行地域である1市8町の米の生産額も,昭和54年は717億円,
昭和58年は693億円,平成10年では511億2000万円と減
少している。野菜類も昭和54年から平成10年までに3分の2から
2分の1に減少している。
e本件決定によれば,第2ダムが建設されると,10年に1回の渇水
年において,α1ダムからの取水が,9100万立方メートルであっ
たのが9740万立方メートルになり,α6頭首工からの取水が,2
200万立方メートルであったのが2360万立方メートルになり,
また,補助水源(取水渠,地下水ポンプ,湧水等)からの取水が,2
800万立方メートルであったのが5390万立方メートルになると
する。しかし,このメカニズムが不明である。新規開発水量2590
万立方メートルでは,本件事業計画の目的である903箇所の既設小
揚水場を廃止したり,隔日給水を解消することはできない。
(イ)技術的可能性(令2条2号)について
aこの要件の判断基準は,全体実施設計要綱(乙60),国営土地改
良事業の工事の設計及び施行の基準に関する訓令(乙61)及び本件
設計基準に適合しているかどうかだけによるものではない。法及び令
2条2号は,農業目的に限定せずに,更に,当該地域の自然的,社会
的,経済的諸条件によって事業目的実現の可能性の有無を自然科学的
に検証することを求めている。また,水質については,農業用水とし
ての水質を確保すれば足りるのではなく,環境基準(環境基本法16
条に基づく昭和46年12月28日環告第59号),排水基準(水質
汚濁防止法3条1項に基づく昭和46年6月21日総令第35号)の
適用が予定されている(乙45の水質障害対策)。また,第2ダムに
ついては,工学的に建設可能かどうかのみならず,貯水可能かどうか
も問題になるというべきである。
b第2ダムの建設予定地の愛知川水系の環境基本法(平成5年11月
19日施行)による環境基準はAAであり,第2ダム建設の後もこの
基準を遵守しなければならず,これに違反するのであれば,技術的可
能性の要件を欠くというべきである。農業用水としての適応性を充た
すだけの同法の環境基準ならばD類型にすぎない。α1ダムによる濁
水の発生とそれが長期化する現象は,深刻な問題となっており,愛知
川本流全域の環境基準はAA類型であるのに,α1ダムのダム湖の水
質はこれを達成できていない。第2ダムの予定地は,濁水発生の可能
性の高い流域で,しかも,その湖水交換率が1.5ないし2.7と極
めて低く,湖水の滞留期間が長いため,第2ダムの建設により,より
深刻な富栄養化が生じることが予想される。その対策として,バイパ
ス水路建設やれきフィルターによる浄化が検討されているが,多額の
工事費がかかる上,それによっても上記の環境基準の維持は不可能で
ある。第2ダムが建設されると,その水質は,農業用水としても,そ
の技術的利用可能性を充たさない可能性が高い。
c第2ダムによる河川水の貯留により,茶屋川や御池川が河川維持流
量を維持できなくなり,河川環境が死滅し,その生態系は死滅し,回
復不能の影響を受ける。
すなわち,第2ダムから神崎川の合流地点までの約2.8キロメー
トルの間は,関西電力α10発電所の取水口(水利権による1.59
立方メートル/秒)があり,α6地区ダム水収支計算総括表(計画)
第2ダム容量及び全体実施設計書(乙16の7)によると,第2ダム
の長期貯留が継続する非かんがい期には,ほとんど水が流れない状態
になり,河川環境が死滅することは明らかである。また,かんがい期
には数年にわたってダム湖に貯留された富栄養化された汚濁水が流下
することになる。
また,α5頭首工における取水も,安定水利権の条件,すなわち,
基準渇水流量から既存の水利権者の水利権量及び河川維持流量を控除
した流量の範囲内であるとの条件を充たす必要がある。しかし,全体
実施設計書(乙16の7・111頁)によると,御池川について,α
5頭首工地点の基準渇水流量,すなわち10年に1度の渇水年の渇水
流量(1年のうちの355日はこれを下回らないという水量)は,0.
172立方メートル/秒であり,本件決定による御池川の下流の河川
維持流量が0.24立方メートル/秒であるから,安定水利権の設定
可能範囲はすでにマイナスである。また,第2ダムへの導水路からの
取水は,最大10.0立方メートル/秒とされており,その取水は過
大である。御池川は,非かんがい期の間,渇水状態となると予想され
る。
このように,第2ダムの建設により,茶屋川や御池川は,河川環境
が著しい悪影響を受け,それは回復不能となる。
d第2ダムの建設予定地が河川法の適用のない普通河川であるとして
も,「普通河川からの取水行為が同一水系内の下流の河川法の適用の
ある河川の流況に著しい影響を及ぼす場合等は,取水地点まで河川指
定を行い,河川管理者としてのチェックが可能となるようにすべきで
あろう。」(河川法解説・乙88・113頁)とされている。したが
って,本件決定においては,河川指定を前提として,河川法23条の
水利使用の許可条件を充たすものでなければ,技術的可能性の要件を
充たさないというべきところ,第2ダムの建設によって,茶屋川や御
池川は,河川維持流量を維持できなくなり,前記のような状態になる
のであるから,同許可条件は充たされていない。なお,平成9年改正
の後の河川法は,流水の正常な機能の維持,河川環境の保全も目的に
明記した(同法1条)。
e第2ダムを建設しても,計画どおりに貯水できない可能性が高い。
計画基準年とされた昭和39年の第2ダム建設予定地の下流流下量計
算書(乙39の2)によっても,第2ダムへの年間流入量の合計(総
貯留可能量)は1510万4000立方メートルであって,計画の2
450万立方メートルにははるかに及ばないし,大まかな水収支をみ
ても,第2ダムへの総流入量は,4985万2000立方メートルで
あるのに,その総放流量は,5929万3000立方メートルである。
また,乙53の別添4の表のとおり,基準年よりも有利な条件であっ
た昭和62年においても,第2ダムの貯水可能量は1455万100
0立方メートルと算出され,基準年のそれよりも更に少ない。このよ
うに,第2ダムは1年かかっても計画用水量の2450万立方メート
ルを貯水できない事態が頻繁に発生する。被控訴人が主張する昭和3
0年から昭和62年までの降雨実績に基づく水収支計算総括表(計
画)α1ダム+第2ダム容量(乙87の1)においても,かんがい期
の水収支は,33年間のうちの16年が赤字であり,その不足の程度
も100パーセント以上が5年,50パーセント以上が5年にもなる。
この計画では,数年に1度の割合で発生する赤字年の不足分を解消す
るために,前年あるいは前々年の流入水も使用する,すなわち数年間
にわたる貯留を状態とするきわどい用水計画となっている。被控訴人
が主張する同様のα6地区ダム水収支計算総括表(計画)α1ダム容
量においても,かんがい期には,ほぼ毎年,α1ダムが満水でなくな
り,ダム貯留水だけが流されることが分かる。このような状態が非か
んがい期にまでわたって続く年は,下流には維持流量しか流されなく
なり,そのような年が33年間のうち10年もある。同表(計画)第
2ダム容量においても,第2ダムが満水でない期間は,α1ダムより
も更に長期間生じる。
f本件決定の後に実施された工事実施調査等の各調査により,計画に
おけるダム地点の地下地質の把握が誤っており,岩質が柔らかく,堤
体の長さを当初計画よりも大きくしなければならないこと,河床の部
分が透水性のある岩質であるため堤体の深さを約6メートル(乙90
及び92の各1ないし4)深くしなければならないこと,地形の把握
に誤りがあって,貯水池となる池敷の谷幅が計画より狭く,計画で予
定していた2480万立方メートル(堆砂量90万立方メートルを除
く。)の貯水量を確保するためには,常時満水位(FWL)を計画策
定時の標高479.5メートル(乙16の1・104頁)から標高4
83メートル付近にする必要があり,堤高を約3.5メートル高くし,
結局,ダムの堤体の高さを合計約10メートル高くしなければならな
いことが判明した。このように,計画のままでは,貯水量の確保がで
きなくなり,第2ダムの基礎地盤の透水性が高いため堤体等の安全性
にも重大な問題が生じ,用水計画も達成できず,予定していた効果も
ないことが判明した。
本件決定による計画は,貯水容量の決定,基礎地盤の設定,ダム規
模の設計がいずれも根本的に誤っていたもので,その計画内容は,そ
もそも実現不可能なものであった。
(ウ)経済性(令2条3号)について
a本件決定の経済性の要件は,費用便益分析がされ,投資効率が少な
くとも1を上回らなければならない。しかし,被控訴人が主張する経
済効果の判断の基礎となった根拠事実や調査過程,論証過程が不明で
あって,基礎的な数値の信頼性も確認することができない。
b被控訴人の効果の算定においては,本件事業の年総効果額のうち,
更新効果(それまで行われている農業生産を維持する効果)が65.
4パーセントであるとされており,維持管理費節減効果が21パーセ
ント,作物生産効果が11パーセントとされていることに比較しても,
更新効果が異常に高い割合を占めている。
c被控訴人の本件事業による効果の算定は過大である。まず,平成3
年ないし平成4年に廃止の対象となる揚水機付井戸が903台もあっ
たことはなく,平成4年当時で726台にとどまる。近畿農政局作成
の昭和30年から昭和63年までの施行地域内の揚水機付井戸の設置
数の集計(乙24)は採用できず,土地改良区の調査の結果を踏まえ
て,743台しか確認できない。また,揚水機の単独再建設費や揚水
機にかかる賦役時間が理解不能なほど過大に評価されている。また,
その算定は,控訴人らがした揚水機の現況と稼働実態,揚水機をめぐ
る賦役の状況及び揚水機の単独再建設費の調査等から明らかである。
現在の揚水機の稼働実態や水源計画からみて,903台の揚水機をす
べて廃止することは全く現実的ではない。なお,揚水機の再建設費に
ついて,渦巻きポンプについてはより効率的な水中ポンプを建設する
ものとし,瓦葺きの建物をより経済的なコンクリートブロックの構造
物に変更することは,すでに一般的であったもので,それを前提に算
定すべきである。
d被控訴人の総事業費の算定は,その後の支出の経緯からみても,過
小であることが明らかである。すなわち,総事業費476億円のうち
第2ダム本体の事業費が381億円とされており,その工事は未だ着
工されていない。しかも,平成13年度までに,α11調整池及びα
12調整池の築造費用や環境評価業務等で,前記の総事業費の32.
1パーセントに相当する合計153億2710万円が支出された。更
に,安全対策費用,環境影響防止費用,濁水対策防止費用,更には濁
水対策としてのα13トンネル建設費用(約100億円)も計上され
なければならない。このような経緯からも,本件事業の完成までには,
事業費は,更に,逐次,大きく増大することが明らかであり,これら
の工事費の増加要因も,投資効率の算定において計上すべきである。
のみならず,前記のとおり,本件決定の後の工事実施調査等により,
ダム地点及び池敷一帯の地形,地質の把握に誤りがあったことが判明
し,ダムの規模が計画時から少なくとも約10パーセント大きなもの
になり,その結果,コンクリート素材等の使用量の増加,工事期間の
長期化等のため,総事業費は476億円から1100億円に増加する
ことになった。被控訴人は,計画の後に水事情の変化があったとして,
第2ダムの有効貯水量を約30パーセント減少させ,総事業費を約8
00億円に納めたいとの意向を示したが,いずれにしても,その総事
業費が更に膨大に膨れあがることは明らかであった。
このように,いずれにしても,投資効率は,1をはるかに下回るこ
とは確実である。
eまた,被控訴人が主張する経済効果の判断においては,代替案,特
に琵琶湖逆水案(以下「逆水案」ともいう。)と比較することによる
最経済性の検証もされていない。本件事業による投資効果から被控訴
人が算定した妥当投資額は497億8100万円であるが,逆水案に
よると,227億円の投資額をもって同一の効果をあげることができ,
投資効率は2.1929となる。逆水案の方がはるかに経済的である。
(エ)その他
本件事業計画の決定の要件として,そのほか,環境配慮義務や周辺住
民の生命,身体及び財産に対する配慮義務を尽くすことも含まれるもの
と解されるところ,それらの義務も尽くされていない。
ウ被控訴人の補足主張
(ア)必要性(令2条1号)について
a土地改良事業計画を策定する際の用水計画の計画基準年は,10年
に1回程度発生する干ばつ年を対象とすることが原則とされており
(土地改良事業計画作成便覧・乙79・338頁),農業用利水ダム
の必要貯水量は,本件設計基準によって,10年に1度の渇水を目処
として決定するものとされている(乙80)。本件決定においては,
昭和30年から昭和62年までの33年間において第4位になる昭和
39年が計画基準年とされ(全体実施設計書・乙16の7・92頁),
その総用水不足量は,2590万立方メートルとされた。これは,同
期間における降水記録,愛知川の流量記録等を基礎として,α1ダム
の貯水量・河川流量・地下水揚水量などの時期別利用可能水量を算出
し,上記時期別必要水量を考慮し,これら時期別の不足水量を積み上
げる手法で算出したものである。第2ダムの貯水容量は,同期間の愛
知川の実測流量,降雨量等を基礎として,連続水収支計算をし,十分
用水が供給できるとの結果が得られた。それらの算定の基礎資料は,
全体実施設計書(乙16の7)において明らかにされている。α1ダ
ムからの利用可能量が旧事業の昭和63年の変更時に9545万立方
メートルであったのが,本件決定による計画では9740万立方メー
トルになっているのは,第2ダム建設によってその貯水が期待できる
ため,予測不能な降雨量の減少に備えた節水によるその後の無効放流
やかんがい期後の残水などの無駄を減少することができることによる。
b平成元年から平成11年の取水実績については,基幹水源(α1ダ
ム及びα6頭首工)からの取水実績が計画における計画取水量の年間
1億2100万立方メートルを上回る年も多くある。また,補助水源
(α1ダムとα6頭首工以外)による取水についても,その量は,計
画取水量の年間5390万立方メートルに相当し,これらも異常な水
管理及び不安定な揚水機付井戸によって確保されてきた。すなわち,
小河川からの取水実績(平均値)は,補助水源に位置付けられている
年間699.5万立方メートルのほかに小河川からの反復利用である
年間1178.7万立方メートルがあり,揚水井戸による年間100
3.8万立方メートルのほかに,既設小揚水機による揚水が年間16
62.5万立方メートルある。また,取水渠による取水実績(平均
値)は年間528万立方メートルとされているが,これは,計画に位
置付けられている7つの取水渠のうちα6とα14の2つが未だ設置
されておらず,既設のα15取水渠は地下水位の低下により十分な取
水ができない状況下のものであった。
c本件決定の当時,多くのほ場において極めて深刻な用水不足が生じ
ており,かんがい用水確保のため極めて多大な労力と費用を要してい
た。施行地域における隔日送水などによる節水管理日数は,昭和58
年から平成12年までの間に985日(年平均55日)に及び,かん
がい期間の3分の1以上(3年に1度は2分の1以上)の節水管理を
行っていた。平成12年は,かんがい期間50日のうち節水管理日数
が93日にも及び,土地改良区の4台の車両が用水管理や苦情対応の
ため1日約300キロ走行する状況であった。また,土地改良区が認
定した揚水機付井戸については組合員から徴収する賦課金により助成
していたが,水系によっては補助だけではまかない切れない水管管理
費用(認定外揚水機付井戸の維持管理費用等)が上乗せされるため,
組合員にとっては重い負担となっていた。また,各農家では,転作に
より水田の基盤が乾燥し,水持ちが著しく悪くなり,復田後に減水深
が大きくなるため,代かきを2度行ったり,シートを用いるなどの対
策に追われ(乙31の9頁,14頁,32の6頁),各水系の末端農
家でも,かんがい期には常時持ち回りで配水管理作業を強いられる状
況にあった。また,各農家では,揚水機付井戸約1000箇所に依存
せざるを得なかった。揚水機付井戸は,揚水量が不安定で維持管理に
多大な労力及び恒常的な出費を要した。更には,水争いが生じたこと
もあった。このような状況は,水稲収穫と米の品質に影響し,農業の
生産性の向上を阻害していた。平成6年の渇水年は,八日市市及びα
16において1等米の比率がかなり低下した。
d廃止が予定されている903箇所の揚水機付の井戸からの用水は,
α1ダムからの隔日給水の実施によって不足する用水を補うために必
要となっていたもので,新規開発量の2590万立方メートル分があ
れば,ダムからの送水が24時間可能となり,廃止予定の前記揚水機
付井戸からの揚水は必要がなくなる。
e本件事業の施行地域の耕作放棄率は,全国のそれと比較しても極め
て低く,耕作放棄による地域営農への影響はほとんどない。確かに,
平成14年3月末の時点の受益面積は7190haとなり,計画策定
時の受益面積から約310ha減少した。しかし,このような農地減
少があったとしても,それは結果論にすぎず,計画策定の時点でこれ
を予測することは不可能であった。また,将来,受益面積の変動によ
り事業計画変更の必要が生じた場合には,法の規定に基づき変更の手
続を行うことになる。
fなお,平成14年4月1日施行の行政機関が行う政策の評価に関す
る法律,農林水産省政策評価基本計画(平成14年3月29日農林水
産大臣決定),農林水産省政策評価実施計画(同日同大臣決定)に基
づき,近畿農政局が同年に第三者委員会(以下「第三者委員会」とい
う。)を設けた。第三者委員会においてまとめた意見でも,本件事業
の着手後10年以上が経過し,営農形態の変化や受益面積の減少が生
じていることなども踏まえ,環境との調和への配慮や限られた水資源
の有効活用の観点などから,節水対策を含めた総合的な検討を行うよ
うに求めているものの,本件事業の施行地域で農業用水不足の状況が
深刻であることは認めている。
(イ)技術的可能性(令2条2号)について
a第2ダムを始めとする本件事業計画における施設については,いず
れも,全体実施設計要綱(乙60),本件設計基準の要件,本件訓令
に適合しており,令2条2号の技術的可能性の要件も充たしているこ
とは明らかである。
bこの技術的可能性の要件は,農業用用排水施設としての機能の発揮
の可否という観点から検討されるべきものである。河川維持流量の確
保の可否や河川環境への影響の有無は,河川法上の許可の問題とはな
り得ても,令の同要件の判断に当たって考慮対象となるものではない。
水質が問題になり得るとしても,農業用水としての技術的利用可能性
が問題になり得るにすぎない。なお,α1ダムの下流の水質について
も,飲料水に使用できる最も厳しい環境基準であるAA類型のもので,
α1ダムにより著しい水質汚染は生じていない。
c第2ダムの貯水容量については,昭和30年から昭和62年までの
愛知川の実測流量,降雨量等を基礎として,連続水収支計算をして,
十分用水を供給できるとして決定された。連続水収支計算とは,10
年に1度程度の渇水年の基準年にはダムの貯水容量の全量を使用する
ことになるが,他の年には全量は使用せず,かんがい期終了時に貯水
残が生じるので,そこから貯留を始めることになる関係で,これらを
前提として水収支を算定するものである。単年度内の流入のみによる
貯留でなければならない理由はどこにもない。昭和39年では,第2
ダムへの流入量は年間1510万4000立方メートルであるが,受
益農家の需要を充足するための年間1億2192万4000立方メー
トル(乙87の1ないし3の水収支計算総括表(2)の⑬ダム依存量)
は,α1ダム(同表の(22))と第2ダム(同表の(23))の各貯水量に
よって充足される(乙87の1ないし3,乙16の7・127頁)。
d茶屋川や御池川の河川維持流量の問題は,河川法の適用がある関係
では同法上の許可の要件ではあるが,令2条2号の技術的可能性の概
念に含まれるものではない。しかも,第2ダム建設予定地の茶屋川や
α5頭首工地点は,そもそも河川法の適用を受けない普通河川である。
また,河川環境の問題も同号の要件の問題ではない。しかも,第2ダ
ムは,非かんがい期にはα10発電所の既得水利権量(1.59立方
メートル/秒)を超える水量を貯留し,それを下回るときは貯留せず
にそのまま下流河川に流すことになり,かんがい期には貯留した水を
河川に注入することになる。
愛知川本川の第2ダムからα1ダムまでの約10.5キロメートル
の間の流況は,複雑である。すなわち,α10発電所取水口は,第2
ダムのダムサイトの下流約500メートル地点にあり,放水口は,第
2ダム下流約4.5キロメートルの地点にある。更に,第2ダム下流
約1キロメートルに八風谷川(流域面積5.6平方キロメートル)の
合流地点が,第2ダム下流約2.8キロメートルの地点に神崎川(流
域面積29.2平方キロメートル)との合流地点が,第2ダム下流5.
3キロメートルの地点に御池川の合流地点がそれぞれある。同発電所
取水口の直下流では,第2ダムの有無に関わらず,年間を通じると,
その流況はほとんど変わらない。また,御池川からの導水は,御池川
の河川維持流量として0.24立方メートル/秒は頭首工から導水せ
ずにそのまま流下させ,河川流量がそれ以上の時にそれを超過した流
量分を第2ダムに導水するものである。御池川の上記の河川維持流量
は,本件決定による計画において,昭和30年から昭和62年までの
河川流量の実測値を基に算出された渇水流量(1年間で355日はこ
れ以下とならない流量)の平均値をもって,検討され設定された。
e本件決定の後の平成13年度及び平成14年度の工事実施調査によ
って,河床部の基礎地盤が決定時の推定よりも一部深かったこと,貯
水池となる池敷の谷部が当初推定していた幅よりも狭く,一方,建設
予定地の地形が計画による推定よりも緩やかであることが判明し,前
記のとおり,第2ダムの堤高を9メートル程度(谷幅が狭かったこと
により3.5メートル,基礎地盤の一部掘り下げにより5.5メート
ル)高くすることを余儀なくされた。
しかし,前記の工事実施調査やその後のボーリング調査等の結果,
建設予定のダム軸においては,CM級岩盤が地表から約10メートル
以内の地下浅所に分布しており,ダム軸の右岸に分布する泥岩優勢混
在岩層はCM級であり,建設に伴う各種荷重に対して十分な強度を有
すること,透水性についても,ルジオン値(Lu)が20を超える部
分は浅所のみであり,その大部分は基礎掘削で除去される部分であり,
それよりも深い部分も,グラウチング工法による止水(基礎地盤内に
セメントミルクを圧入して基礎地盤内の亀裂を充填する工法)等によ
り十分対応が可能であることが確認された(乙90ないし97)。重
力ダムは,一般に,CM級以上の等級の岩盤を基礎として利用すると
されており,第2ダムの基礎地盤には,十分な強度を持つ堅固な岩盤
が浅所に分布している。なお,ダムの堤体の下流側の堤趾部は,通常,
堤体の上流側のダム軸の下部に止水ラインが設定される関係で,透水
性は問題にならないし,ルジオン値が20を超えるゾーンを有する地
盤でも,これまで多くのダムの建設がされている。このように,第2
ダムの構造上の安全性に問題はなく,計画どおりの重力式コンクリー
トダム型式の建設工法は可能である。
本件事業の着手の後に判明した上記事実は,ダム建設の一般的な手
順に従って後により詳細で精度の高い調査を実施したことにより判明
したもので,本件決定の違法性の判断に何らの影響も及ぼさない。
(ウ)経済性(令2条3号)について
a令2条3号は,事業に要するすべての費用が,その結果生ずる直接
効果(増産効果,労働力の節減等)及び波及効果(雇用機会が増大し,
建設事業の需要を促すなどの経済効果も含む。)によってつぐなわれ
なければならないことを意味する。それ以上に,その事業が,あらゆ
る面においてもっとも経済的であることまで要求するものではないこ
とは,文理上明らかである。経済性の要件を充足する複数の方法があ
る場合にそのうちのどちらを選択するかは,合理的な政策判断に委ね
られている。
b本件事業の経済効果の測定は,「土地改良事業における経済効果の
測定方法について」(昭和60年7月1日付け60構改C第688号
構造改善局長通達,乙14,以下「測定方法通達」ともいう。乙83
は平成6年11月の改訂によるもの。)及び他の関係通達に従って,
平成4年に,投資効率を算定する方式で行われ,本件事業による妥当
投資額が総事業費を上回って,その投資効率は1.04とされ,本件
事業は,令2条3号の経済性の要件も充足することが確認された。な
お,平成6年度以降に技術的に算定が可能になった「被害軽減効果」
や「地域資産保全・向上効果」等も考慮すれば,投資効率はそれより
も更に大きくなる。いずれにしても,本件事業は,上記の経済性の要
件を充足している。
c被控訴人がしたほ場事業による効果の算定は適正である。平成3年
当時の揚水機の数は,近畿農政局作成の乙24があるほか,土地改良
区には直接の資料が現存しておらず,土地改良区による把握は不十分
なもので一部に過ぎない。土地改良区自身も同趣旨の回答をしている。
揚水機付井戸は,更新費や電気代の負担を伴うもので,ダムからの水
が十分配水されていれば,廃止に至ると考えるのが合理的であり,旧
事業と本件事業との関係についても,本件決定による計画においては,
旧事業の事業費と効果を考慮する必要はない。
d被控訴人がした総事業費の算定も適正である。総事業費は,計画作
成時点において,計画された工事を実施するのに必要なすべての費用
を実施できる費用として積み上げていくものである。控訴人ら主張の
濁水対策防止費用(バイパス)を始めとする計画には含まれていない
施設等の費用は,加算すべきではない。計画策定時には想定し得なか
った要因で事業費に変動が生じた場合には,法の規定にしたがって土
地改良事業計画の変更の手続を行うことになる。
e逆水案があるとしても,令2条3号の要件の判断には影響がない。
のみならず,逆水案と第2ダムの建設を比較しても,現在の水利施設
・システムを有効利用できるかどうかの点,用水を安定的に供給でき
るかどうかの点,用水管理が簡易かつ容易であるかどうかの点,技術
的可能性,事業費負担及び管理費負担を受益地全体で均等割で行える
のかの点(逆水案では,受益地をダム掛かり地域と逆水掛かり地域に
分断することになり,事業負担金を均等に徴収できなくなる。)等に
照らし,第2ダム建設の方が優れていることは明らかである。
(エ)その他
控訴人ら主張の環境配慮義務を尽くすこと,周辺住民等の生命,身体,
財産に対する配慮義務は,法(土地改良法)に基づく義務として課せら
れておらず,それらは本件決定の実体的要件ではない。
第3当裁判所の判断
1本案前の争点(1)(本件決定に対する取消訴訟を提起できるか否か)につい

国営土地改良事業は,3条資格者が,事業施行地域にかかる土地改良事業計
画の概要(農業用用排水)を定め(法85条1項,2項),関係市町長の意見
聴取を行い(法85条5項,5条3項),計画概要・予定管理方法等を関係市
町の事務所の掲示場に掲示することにより公告し(法85条2項,法施行規則
55条,8条),3条資格者の同意取得を行って(法85条2項)3分の2以
上の同意を得て,公告した事項及び同意があったことを証する書面並びに関係
市町長の意見を記載した書面を添付し,滋賀県知事を経由して,農林水産大臣
に事業の施行の申請を行い(法85条1項,6項,法施行規則57条の3),
農林水産大臣が滋賀県知事と協議した上で国営土地改良事業として実施するこ
との適否の決定を行い,その旨を申請人に通知し(法86条1項,2項。),
適当とする旨の決定を行ったときは,省令の定めるところにより,農用地の改
良,開発,保全又は集団化に関し専門的知識を有する技術者(以下「専門技術
者」ともいう。)が当該土地改良事業のすべての効用と費用とについての調査
を含む調査をして提出する報告に基づき(法87条2項,8条2項,3項),
法1条の目的及び原則を基礎として定められた政令である令2条1ないし6号
所定の基本的な要件に適合するように事業計画を定め(法87条3項,8条4
項1号,令2条1ないし6号),官報に公告するとともに関係市町の各事務所
において縦覧に供し(法87条5項,法施行規則59条,16条),上記事業
計画に対してされた異議申立てにつき専門技術者の意見を聞いて決定し(法8
7条7項),その後に初めて工事に着手することができ(法87条8項),上
記事業計画の施行については行政不服審査法による不服申立てができず(法8
7条9項),事業計画に不服がある者は上記異議申立てにつきされた決定に対
してのみ取消しの訴えを提起することができる(法87条10項)こととされ
ている。
上記によれば,法は,国営土地改良事業計画の決定について行政不服審査法
による不服申立てをすることができないものとする一方,農林水産大臣のした
事業計画の決定に不服のある者は,これに対する異議申立て及び異議申立てに
ついての決定に対する取消しの訴えを提起することができるとし,しかも,規
定の文言からして,行政事件訴訟法10条2項本文の例外としての裁決主義,
すなわち原処分である土地改良事業計画の決定の取消しの訴えの提起を許さず,
裁決である異議申立てについての決定の取消しの訴えのみを認めていると解す
るのが相当である(最高裁昭和61年2月13日第1小法廷判決・民集40巻
1号1頁参照)。このような不服申立方法を規定したのは,土地改良事業が,
各種各様の利害関係を有する自治体,個人の意見を集約する手続の必要性と内
容における専門性・技術性のため,最終的に事業の内容を定めることとなる土
地改良事業計画の決定について,さらに,専門技術者の意見を踏まえた農林水
産大臣の異議の決定を経た上で審理判断されることとする方がより合目的的で
あるからと解される。そして,このような裁決主義が採られている以上,上記
の異議申立てにつきされた決定に対する取消しの訴訟においては,その異議に
ついての決定の固有の違法事由のみならず,土地改良事業計画の決定自体の違
法事由も主張することができるものと解され(行政事件訴訟法10条2項の反
対解釈),土地改良事業計画の決定自体が違法であることを理由として異議に
ついての決定を取り消す旨の判決が確定したときは,原処分である土地改良事
業計画の決定自体も取り消されたものとして,その効力を失うものと解するの
が相当である(行政事件訴訟特例法の当時の裁決取消訴訟についての最高裁昭
和50年11月28日第3小法廷判決・民集29巻10号1797頁参照)。
行政事件訴訟法33条2項の規定は,同法10条2項が適用になるいわゆる原
処分主義が妥当する処分の取消訴訟において,裁決がその固有の違法事由によ
って取り消された場合についての規定であると解すべきであり,裁決主義が採
られ,裁決の取消訴訟において原処分に取消事由となる違法があると判断され
てその裁決を取り消す判決が確定した場合には,適用がないものと解される。
その場合には,原処分に取消事由があるとの司法の判断がすでに確定したこと
により,処分庁が更に異議申立てについての判断をするまでもなくなると解さ
れる。
したがって,土地改良事業計画に不服のある者が原処分である土地改良事業
計画の決定そのものに対して取消しの訴えを提起することはできない。
よって,控訴人らの本件決定の取消しを求める訴えはいずれも不適法であり,
却下を免れない。
2本案前の争点(2)(異議申立てを経ていない控訴人らが異議申立てについて
の決定の取消しを求めることができるか。)について
前記1についての説示のほか,原判決51頁8行目から54頁3行目までの
控訴人らと被控訴人関係部分の記載を引用する。
3そうすると,控訴人らのうちの別紙控訴人目録1記載の控訴人らについては,
いずれも,本件決定に対して異議申立てをしたことも,自己宛の異議について
の決定を受けたことも,更には異議についての決定を受けた者の承継人である
とも認められないから,同控訴人らの異議についての決定の取消しを求める部
分に係る訴えは,不適法である。また,別紙控訴人目録2及び同目録3記載の
各控訴人らの訴えのうち,それぞれ,他人宛の異議についての決定の取消しを
求める部分(ただし,同目録3記載の控訴人P9がP1宛の異議についての決
定の取消しを求める関係を除く。)は,いずれも不適法である。なお,控訴人
P9については,弁論の全趣旨により,P1の承継人として法113条により
同人宛の異議についての決定の効力を受ける関係にあったと認められる。
4本案の争点(1)(本件却下決定が違法であるか否か)について
(1)本件決定に不服のある者は,前記のとおり,行政不服審査法3,4,6
条に基づく異議申立てができるもので,その異議申立適格は,同法に明文規
定はなく,不服申立てについての一般原則によるべきであって,行政事件訴
訟法(平成17年4月1日施行の平成16年法律第84号による改正後のも
の,以下同じ。)9条1項及び2項と同様に,処分の取消しを求めるにつき
法律上の利益を有する者に限られるというべきである(景表法の不服申立て
についての最高裁昭和53年3月14日第3小法廷判決・民集32巻2号2
11頁参照)。そして,法律上の利益を有する者とは,当該処分の根拠法令
となった行政法規により法律上保護された利益をその処分によって侵害され
又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解するのが相当である。本
件決定に対しては,法3条所定の3条資格者は,法がそれらの者の法的利益
を個別的に保護しようとしているものと解され,異議申立適格を有するもの
というべきであり,3条資格者と認められる別紙控訴人目録3記載の控訴人
P2,同P3及びP1は,異議申立適格を有するが,同目録2記載の控訴人
らは,いずれも,3条資格者と認められず,異議申立適格を有しないという
べきである。同目録2記載の控訴人らは,いずれも自己宛に異議申立ての却
下決定を受けたもので,同控訴人らのそれぞれの自己宛の異議申立てについ
ての決定の取消しを求める訴えはいずれも適法である。
(2)上記の点の理由説示は,原判決54頁4行目から58頁24行目までの
控訴人らに関する説示と同じであるから,これを引用する。
(3)控訴人48のP5の異議申立適格について補足すると,次のとおりである。
甲145の2,187の15の1,195,乙66ないし68及び弁論の全
趣旨によると,同控訴人は,平成6年3月,本件決定に対して同控訴人が異
議の申立てをし,同年7月にその却下決定を受けたが,当時,同控訴人が所
有する農地についての土地改良区の組合員で賦課名義人であったのは,その
父のP6で,それらの農地の農業所得の申告もP6がしており,同控訴人は,
土地改良区の組合員ではなく,その賦課名義人でもなかったこと,同控訴人
が所有していた農地についても,それを耕作の業務の目的にしていたのはP
6であって同控訴人ではなかったこと,同控訴人が土地改良区の組合員とな
ったのは,その後の平成9年10月31日からであったことが認められる。
そうすると,前記の異議の申立てやそれについての決定当時,同控訴人が所
有する農地は法3条1項1号所定の所有権に基づき耕作の業務の目的に供さ
れていたものとはいえず,また,同控訴人が同条1項2号所定の本件事業に
参加すべき旨の申し出等の手続をしたことも認められず,他に同控訴人につ
いて法3条1項各号所定の事由は認められないから,結局,同控訴人は,3
条資格者とは認められないというべきである。
(4)なお,更に補足すると,本件係属中の平成17年4月1日施行された平
成16年法律第84号による行政事件訴訟法9条2項によれば,前記の異議
申立適格についても,同項の趣旨を踏まえて解すべきことになると解される。
また,法は,1条において,「この法律は,農用地の改良,開発,保全及び
集団化に関する事業を適正かつ円滑に実施するために必要な事項を定めて,
農業生産の基盤の整備及び開発を図り,もって農業の生産性の向上,農業総
生産の増大,農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善に資することを目的
とする。」(1項),「土地改良事業の施行に当っては,その事業は,国土
資源の総合的な開発及び保全に資するとともに国民経済の発展に適合するも
のでなければならない。」(2項)と規定しており,これらの規定によれば,
法は,農用地の改良等に関する事業を適正かつ円滑に実施することで農業生
産の基盤の整備や開発を図り,農業の発展,効率化を促すことにあるととも
に,併せて土地改良事業が国土資源の総合的な開発及び保全に資するととも
に国民経済の発展に適合することを目的とするということができ,法に基づ
く土地改良事業は,地域の土じょう,水利その他の自然的,社会的及び経済
的環境上,農業生産の増大,選択的拡大,生産性の向上,構造の改善に資す
ることが必要であると解される。これらの諸点にかんがみると,法3条所定
の3条資格者は,法90条,91条等により事業の費用の一部を負担するな
どの関係にあることから,事業計画の決定によって法(土地改良法)により
保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当す
ることは明らかであるが,事業計画に対する異議申立適格は3条有資格者に
限定すべきであるとまで断定できるか否かについては明らかではない。しか
しながら,法(土地改良法)が改正されて事業の施行に当たって「環境との
調和に配慮しつつ」との文言が追加されたのは平成14年4月1日施行の改
正法の後であって,少なくとも本件において,法の趣旨や行政事件訴訟法9
条2項の趣旨,更に控訴人らの当審における主張・立証に照らしても,別紙
控訴人目録2記載の控訴人らそれぞれについて,本件決定によって,法によ
って保護された漁業による営業上の利益を侵害され,あるいは愛知川の沿岸
に居住することその他法によって保護されたその生命,身体,財産その他生
活上の利益を侵害されるおそれがあることまでの具体的な主張・立証はなく,
結局,前記の判断を左右するに足りないというべきである。
5本案の争点(2)(本件事業計画を定める手続上,基本的な要件判断の過程に
重大な瑕疵があるか)について
(1)農林水産大臣は,国営土地改良事業として実施することを適当とする旨
の決定を行ったときは,省令の定めるところにより,専門技術者が当該土地
改良事業のすべての効用と費用とについての調査を含む調査をして提出する
報告に基づき令2条1ないし6号所定の基本的な要件に適合するように事業
計画を定めなければならず,令2条は,土地改良事業の施行に関する基本的
要件として,次のとおり規定する(5,6号省略)。
①当該土地改良事業の施行に係る地域の土じょう,水利その他の自然的,
社会的及び経済的環境上,農業の生産性の向上,農業総生産の増大,農業
生産の選択的拡大及び農業構造の改善に資するためその事業を必要とする
こと(1号,必要性)。
②当該土地改良事業の施行が技術的に可能であること(2号技術的可能
性)。
③当該土地改良事業のすべての効用がそのすべての費用をつぐなうこと
(3号,経済性)。
④当該土地改良事業の施行に係る地域内にある土地につき法3条に規定す
る資格を有する者又は当該土地改良事業の施行により造成される埋立地若
しくは干拓地につき農業を営むこととなる者が当該土地改良事業に要する
費用について負担することとなる金額が,これらの者の農業経営の状況か
らみて相当と認められる負担能力の限度をこえることとならないこと(4
号,費用負担の妥当性)。
(2)上記②の技術的可能性の要件として,土地改良事業のうち本件事業のよ
うないわゆるかんがい排水事業(農業用用排水施設の新設変更を行うもの)
でダムの建設を伴う場合,地質・地形等の自然的条件を基礎とした工学的な
見地から見てダムの建設予定位置が適切か,当該地域の気象条件や流域の地
形条件等から見て当該土地改良事業計画で要求される農業用水の水量が当該
ダムに安定的に貯留することができるのか,当該ダムに貯留される水が農業
用水として適切な水質基準を満足するものとして確保できるのか,当該ダム
に貯留した水が既往のあるいは当該事業で新設又は改良される農業用水路等
を通じて農用地に適切に配水されるのか等の農業用用排水施設としての技術
的問題が解決され得ることが必要であり,その科学的検証が要求される。
また,上記③の経済性の要件は,事業に要するすべての費用がその結果生
ずる直接効果(増産効果,労働力の節減等)及び波及効果(土地改良事業の
施行によって雇用機会が増大し,建設事業の需要を促す等の国民経済的効果
を含む。)によってつぐなわれなければならないことをいう。
次に,上記④の費用負担の妥当性は,総事業費額,国及び地方自治体の負
担割合を基礎に,受益者の農業経営の状況からみて相当と認められる負担能
力の限度を勘案して定められる。
(3)そして,通常,法に基づく手続の前に,土地改良事業計画直轄調査実施
要領(昭和27年地局第686号)に基づき,都道府県知事から国営事業を
前提とした調査を希望する旨の申請が行われ,農林水産省地方農政局長が調
査及び全体実施設計(土地改良事業計画の案における工事計画に係る詳細な
設計)を行うところ,これらの手続や経済性の要件についての通達の定め等
については,甲212ないし214,乙8,14,15,19,31,59
ないし63,80,82(7頁),95,129,証人P10の証言及び弁
論の全趣旨によると,次のとおり認められる。
ア「国営かんがい排水事業実施要綱の制定について」(事務次官通達,甲
213,乙59,以下「本件次官通達」という。)では,その第1の2に
おいて,国営かんがい排水事業(本事業)は,法,令,法施行規則その他
の法令に定めるもののほか,この要綱に定めるところによる,その第3
「調査及び全体実施設計」において,地方農政局長は,本事業の採択に先
立ち,原則として,次により調査及び全体実施設計を行う,とされ,更に
次のとおり定められている。
(ア)調査は地方農政局長の上申に基づき,構造改善局長が別に定めると
ころにより,本事業の実施の必要性,技術的可能性,経済的妥当性につ
いて検討を行うものとし,本事業の土地改良事業計画の案を作成するも
のとする。調査に必要な経費は,本事業の事業費には含まれないものと
する。
(イ)全体実施設計は,構造改善局長が別に定めるところにより,前記の
土地改良事業計画の案における工事計画に係る詳細な設計を行うものと
する,全体実施設計に必要な経費は,本事業の事業費に含まれるものと
する。
その上で,農林水産大臣は,調査及び全体実施設計の結果に基づき,
予算の範囲内において,本事業の採択を行うものとする(第5),など
とされている。
イ全体実施設計要綱(構造改善局長及び畜産局長通達・甲212,乙60,
以下「本件局長通達」という。)においては,全体実施設計は,土地改良
事業計画における工事計画に係る詳細な設計であって,これに基づき直ち
に工事に着手できるような精度を有するものを作成して,事業着手後の総
事業費の著しい変動を防止し,事業の円滑な進展に資することを目的とす
るとされ(第1),国営事業については,地方農政局長が全体実施設計を
行い,構造改善局長の承認を受けるものとするとされ(第4),第3「全
体実施設計の作成」において,土地改良事業の全体実施設計は,国営事業
にあっては土地改良事業計画書(案)(国営土地改良事業地区調査実施要
領(平成元年7月7日付け元構改C第717号構造改善局長通達の第9)
等に準拠して行う(1),全体実施設計は,土地改良事業計画設計基準
(本件設計基準)及び関係法令等に準拠して行うものとする(3),全体
実施設計を行った結果,土地改良事業計画書(案),土地改良事業計画概
要書等で定められた重要な事項に変更をきたす場合は,別途事業計画の再
検討を行うものとするとされ,その重要な事項の変更とは,(ア)事業計
画全体又はその大部分に対して影響を及ぼす事業計画の基本となるべき事
項の変更,(イ)物価変動以外の理由で事業費に相当な変動をきたす場合,
とされている(4)。その上で,国営事業については,地方農政局長が全
体実施設計を行い,構造改善局長の承認を受けるものとする(第4・1),
などとされている。
ウ本件設計基準(土地改良事業計画設計基準(設計ダム))は,土地改良
事業の工事の設計及び施行の基準に関する訓令に基づいて発せられた昭和
56年4月1日事務次官通達(昭和56年構改D第233号)と同日付の
構造改善局長の「土地改良事業計画設計基準(設計ダム)の運用につい
て」を,条文化した箇所とその解説部分とで構成した内容になっている。
本件設計基準は,ダムに関する専門的知識を有する学識経験者からなる委
員及び幹事によって数次にわたる改定案の作成や検討がされ,昭和56年
3月のかんがい排水審議会の答申を経て改定されたもので,本件設計基準
(以下,特に断らない限り,解説部分も含む。)は,昭和56年7月25
日発行の構造改善局の出版物としても公表されている(甲214,乙62,
80,95,129)。本件設計基準では,次のとおり定められている。
(ア)「基準」とは,ダムの設計及び施工において,準拠すべき基本的な
事項並びにこの基準で取扱う用語の定義等を条文化したもので,「解
説」とは,基準の内容を更に詳しく,具体的に記述するものであって,
基準の根拠,現在定説となっている設計及び施工の方法,その他の注意
事項等を列挙したものである(甲214のvi,以下,同様に同甲号証の
箇所を示す。)。
(イ)調査の段階をダムの建設段階に対応させて,それぞれの段階で区分
し,まず計画調査,次に全体設計調査,そして工事実施調査,そのほか
に補足調査を行うものとし(iii),事業計画の決定までに計画調査と
全体設計調査を行う(6頁)。
計画調査の次に行われる全体設計調査は,ダム建設の可能性が十分あ
ると判断された段階から,ダム建設に当たっての技術上の基本的な事項,
即ち基本的な設計,施工,及び概算工事費等の検討を行うため必要な資
料を収集するもので,通常この段階で検討された技術上の基本的な事項
によってダム建設の最終的な計画が策定される。今後必要な事項に対し
て行われる工事実施調査や補足調査によりこの段階での計画の変更や修
正が行われるであろうが,少なくとも基本的な設計については変更を来
さないよう十分な調査を行う必要がある(8頁)。
全体設計調査の後に行われる工事実施調査は,基本的な設計に基づい
て詳細な設計,工事費の算定及び施工の検討に当たっての必要な資料を
収集するもので,全体設計調査の結果を基礎として更に質,量ともに精
度を深めていくものであるので,全体設計調査に基づいて検討された基
本的な設計はあくまでも途中段階の域を出ないから,工事実施調査は,
この設計をできるだけ確実なものにするため,計画調査及び全体設計調
査の結果を踏まえ,観念的には,「点」の資料を「線」に結び更に
「面」的な資料に拡大するための調査と考えられる(9頁)。
(ウ)地形は,貯水容量やダムの諸元決定とダムの安全確保に関連する基
礎地盤の問題点の早期把握の面から重要である。地形調査は,全体設計
調査の段階で,計画調査で決められた地点の概略調査を行い,ダムタイ
プ,各諸元を決め,構造物のレイアウトと概略設計を行う。トラバース
測量,三角測量,水準測量が挙げられる。
貯水池及びその周辺については,計画調査の早い時期に,貯水池容量
算定,ダム諸施設の配置,代替道路及び工事用道路計画等のため,貯水
池を中心とする十分な広さをもった地域の測量を行い,設計に必要な精
度をもった計画用基本地形図を作成しなければならない。その測量の最
小限度の範囲として,ダム堤頂標高に堤高の20パーセントを加えた標
高を含む地域,ダム取付け部の外方約50メートル,ダム上下流端から
約100メートルを含む地域(地形が緩やかで影響が下流に及ぶときに
は更に適宜延長する。),掘削長大斜面が予想される地域が挙げられる。
池敷地形図については,その縮尺は池敷面積が50~100haの場合
には1000分の1~2000分の1のものとすべきで,その等高線の
主曲線は1,2,5メートル間隔をとる(16頁)。
ダム地点については,縦断測量,横断測量を行い,全体設計調査及び
工事実施調査の段階まで含めて,縮尺500分の1~1000分の1で
1メートルないし2メートル等高線の地形図を実地測量により作成する。
ダム地点縦断図は縮尺200分の1~500分の1,ダム地点横断図は
縮尺200分の1~500分の1,池敷地形図は縮尺500分の1ない
し5000分の1で,コンター間隔は平地1.0メートル,その他2.
0~5.0メートル,図化方法は原則として航空測量による(15頁)。
地点調査は,貯水池周辺,ダム地点及び材料採取地点について行う。
(エ)ダム地点の地質調査の全体設計調査の段階までの目標は,ダム築造
の可能性を明確にし,概算工事費を算定することである。十分な耐荷力
をもつ地盤であるかどうかの検討,堤体あるいは洪水吐等の基礎掘削線
の概定,基礎処理計画の概定を行わなければならない。全体設計調査の
段階までに,地表地質調査のほか,地下地質調査として一般的に,弾性
波探査,ボーリング調査,横杭を行う。弾性波探査は,弾性波の伝播速
度から土被りの厚さ,亀裂や風化の程度,断層の存否等を知ることがで
きるもので,広域の地質状況を比較的短日時で経済的に知ることができ,
初期の調査に適しているが,種々の適用性の限界もあり,その測線の配
置は,ダム軸方向に3測線,これと交差して河川方向に河床部で1測線,
両側斜面で各1測線程度とする。ボーリング調査は,地下地質状況を直
接観察でき,孔内で種々の試験を行うことができるので,最も有効な地
下地質調査の手段であり,その配置は,堤軸に沿って両岸斜面部で各2
本,河床部で2~3本(50メートル間隔に1本)程度とする。河床部
などで明らかに健岩の露頭がみられる場合などは省略する。河床が狭く
河川沿いに断層が推定される場合は,両岸から傾斜ボーリングを斜交さ
せる。その他,重力ダムの堤趾部等に追加する(ボーリングはすべて透
水テストを含む。)。横杭は,最も調査費を要する手段なので,効果的
に行わなければならず,特に地盤強度を重視しなければならないような
コンクリートダム等の調査に用いられる。左右両斜面で各1~2杭(コ
ンクリートダムの場合)程度とし,坑内で変形・剪断試験を行う(21
頁)。そして,更に地盤試験も実施し,それらの成果として,地質地形
図,同断面図(縮尺500分の1~1000分の1)を作成し,地質状
況の他,透水度弾性波速度値を盛込み,計画基礎掘削線を入れる(22
頁)。
貯水池周辺の地質調査では,全体設計調査の段階で,表層地質調査に
よって5000分の1の地質図を作成し,透水性地盤の分布を明らかに
し,漏水量を概算する。
エ土地改良事業における経済効果の測定方法については,「土地改良事業
における経済効果の測定方法について」(昭和60年7月1日付け60構
改C第688号構造改善局長通達,乙14,測定方法通達),諸係数につ
いての「土地改良事業における経済効果の測定に必要な諸係数について」
(同日付け60構改C第690号構造改善局長通達,乙15,「係数通
達」という。)及び「経済効果の測定における年効果額等の算定方法及び
算定表の様式について」(同日付け60構改C第689号構造改善局長通
達,乙19,以下,測定方法通達及び係数通達と共にこれらの各通達を一
括して「測定方法等の各通達」という。)によって算定する扱いになって
おり,そこでは,経済効果の測定方法として,投資効率による測定方法と
所得償還率による測定方法の2つが挙げられ,令2条3号所定の経済性の
要件の関係では,国民経済的側面からの評価として,投資効率による測定
方法によって評価する扱いになっていた。そして,後記の方法によって算
出された投資効率が1.0以上であれば事業計画は妥当性を有し,令2条
3号の要件を充たすものとされ,更に,その大きさは,経済的優位性の順
位を示すものとされていた(乙63・農林水産省構造改善局計画部監修・
解説土地改良の経済効果)。
投資効率方式とは,土地改良事業を経済的な投資事業とみなし,これを
擬制的に経済的側面から評価するするもので,その事業及び関連事業の実
施に必要な費用(事業費)の総額と,妥当投資額,すなわち事業により生
ずる年効果額をその事業の耐用年数間に生じる総効果額に換算した額を対
比することにより,投資効率を測定するものである。妥当投資額は,年総
効果額を資本還元(将来収益を生むと予想される資産の価値を評価するた
め,出資元本に対する配当や利子など予想収益を利子率で除して現在の価
値価格を算定すること)したものである。具体的には,次の算式により算
出される。
妥当投資額
投資効率=
総事業費
年総効果額
妥当投=-廃用損失額
還元率×(1+建設利息率)
年総効果額は,当該事業及びその関連事業の実施後に発生することが見
込まれる作物生産効果,営農経費節減効果,維持管理費節減効果及び更新
効果のそれぞれについて算出した年効果額を合算して算出するものとされ,
廃用損失額は,事業により既存の施設が廃用されることに伴う損失額で,
還元率及び建設利息率は,係数通達により算定される。
(4)本件決定に至るまでの経緯,手続,近畿農政局における各種調査及び全
体実施設計書の作成等については,前記の基礎となる事実(原判決2頁22
行目から8頁14行目),前記認定事実,甲1,4,17ないし20,22
7ないし229,乙1の7,16ないし18,20,25,31ないし34,
96(いずれも枝番を含む。),証人P11及び同P10の各証言並びに弁
論の全趣旨を総合すると,次のとおり認められる。
ア本件施行地域一帯においては,すでに昭和27年から昭和58年までの
間に,昭和43年と昭和55年に計画変更を経て,農業用水の不足を解消
するために,α1ダムの建設や配水のための幹線用水路の建設等を内容と
する国営愛知川土地改良事業(旧事業)が施行され,α1ダム等の農業用
用排水施設が完成した。
イしかし,昭和60年12月ころ,本件施行地域における農業用水の更な
る安定的な水源確保のため,α6土地改良区から,滋賀県に地区調査の陳
情がされ,昭和61年3月,関係市町からも完了地区調査の要望書が提出
され,同年4月,滋賀県知事から農林大臣(当時)に完了地区調査の申請
がされた。そして,昭和62年2月,関係9市町長や土地改良区理事長ら
で構成する新α6地区用水事業推進協議会が設立され,同年5月,同協議
会及び愛知川沿岸土地改良区の要望を受けて,滋賀県知事は,農林大臣
(当時)に対し,第2ダム建設のための国営土地改良事業計画地区調査の
申請をし(同月27日付け滋耕第630号),昭和63年4月,予算措置
がされて,同年度から,近畿農政局において土地改良事業計画直轄調査が
実施されることになった。その調査の一つとして,第2ダム調査計画とし
て,ダムサイト候補地を実地測量して縮尺500分の1の地形図を作成す
ること(約60日),有力候補地1箇所でボーリング調査(約60メート
ル,約60日)を実施し,ボーリング調査ができない場合には弾性波探査
(約10日)を実施することが予定された(甲227の3枚目には,「地
形図作成の場合,測量のための雑木の刈払いが必要である。」と記載され
ており,現場に立ち入って測量する実地測量が予定されていたことが明ら
かである。)。その後も,地区調査として,ボーリング調査(1孔・ダム
軸河床部)及び弾性波探査(1測線・ダム軸)を行うこと,全体実施設計
において調査ボーリング(5孔)及び弾性波探査(4測線)を実施するこ
とが予定されていた。このことは,前記協議会やα2議会への資料でも示
されていた(甲227~229)。
ウなお,事業概要の中の第2ダムの規模は,平成元年3月時点では,堤高
90メートル,堤長190メートル,有効貯水量2000万立方メートル
であり,平成2年3月時点では,堤高90メートル,堤長約200メート
ル,有効貯水量約2300万立方メートルであった(甲228,229)。
エ以上のような経緯で,近畿農政局において,昭和63年から平成4年ま
でに,本件事業に係る地区調査及び全体実施設計がされ,平成5年3月付
けで全体実施設計書(乙16の1ないし7,以下「本件全体実施設計書」
という。)が作成された。
オその過程で,建設予定地及びその周辺について計画調査及び全体設計調
査が実施された。しかし,地形調査は,ダム地点の地形につき,航空測量
がされて縮尺500分の1のダム地点地形図(乙16の6・図面番号2-
2)が作成されたが,ダムサイトが強固な岩盤で形成される急峻な地形で
あり,前記のダム地点地形図によりダムタイプの決定やレイアウト及び概
略設計ができるとされ,実地測量による縦断測量及び横断測量とも実施さ
れず,それによる地形図は作成されなかった。更に,貯水池全体にわたる
広範囲の池敷予定地については,実地測量も航空測量もされず,貯水池の
容量の算定のための測量による池敷地形図(貯水池を中心とする十分な広
さをもった地域の測量によって作成される地形図)は作成されず,昭和5
3年に国土地理院に承認された既存のα2の縮尺2500分の1の公共測
量図であるα2の本件基本図(乙96,昭和53年近公第86号,6枚)
を利用して貯水池周辺の地形を把握し,その貯水池容量の計算も,本件基
本図を用いて計測・算出し,これに基づいて全体実施設計書が作成された
(乙16の1・103頁)。
そして,地質調査は,露頭調査等の地表地質踏査がされたほか,昭和6
2年においてダムサイトにつき0.5平方キロメートルの(縮尺1000
分の1),池敷(原石山を含む。)につき2.5平方キロメートルの(縮
尺2500分の1)各地表地質調査が,平成4年においてダムサイトにつ
き0.2平方キロメートルの(縮尺500分の1,1000分の1),池
敷(原石山を含む。)につき2平方キロメートルの(縮尺2500分の
1)各地表地質調査が実施された(乙16の1・50頁)。また,室内岩
石試験として,昭和62年と平成4年にそれぞれ,建設予定地と原石山か
ら岩塊を採取して円筒コアをくり抜いて供試体とし,比重試験,吸水試験,
安定性試験(昭和62年のみ),一軸圧縮強度,超音波伝播速度(平成4
年のみ),圧裂試験(平成4年のみ)が行われた(乙16の1・50頁以
下)。しかし,ダム地点における地下地質調査としてのボーリング調査,
弾性波探査及び横杭は,全体設計調査の段階で,昭和63年当時から具体
的に予定されていたにもかかわらず,地表地質調査を行った結果,河床両
岸には連続的に,のり面には散在的に堅固な岩盤が露出していることや,
室内岩石試験の結果から建設予定地の地質は極めて良好(堅固)であると
確認できたとして,いずれも実施されず,これらを実施しないまま,本件
全体実施設計書が作成された。
また,第2ダムの規模についても,前記のとおり,堤高については地区
調査の段階から一貫して約90メートルとされていたほか,各種調査結果
による大きな変更はなかった。
カ本件全体実施設計書は,Ⅰ事業計画概要,Ⅱ工事の実施設計,Ⅲ工事費
明細及び数量計算書,Ⅳ添付図面,Ⅴ添付資料から成る書面で,それぞれ
極めて詳細な内容で,Ⅱの工事の実施設計だけでも668頁にわたる相当
大部なものである。そして,Ⅰ事業計画の概要として,第2ダムの規模に
ついて,堤高90メートル,堤長205.0メートル,堤体積34万70
00立方メートル,総貯水量2570万立方メートル,有効貯水量248
0万立方メートル,満水面積96ha,洪水量毎秒730立方メートル,
総事業費を476億円とするなどの内容を掲げ,Ⅱ工事の実施設計として,
第1章主要構造物及び施設概要,第2章工事の実施設計,第3章施
工,第4章工事の年度割予定,第5章効用,第6章権利関係及び他
の事業との関係に区部されている。
(ア)そのうち,Ⅱの第2章の工事の実施設計においては,第1節コンク
リートダムとして,ダムサイトの選定理由,ダム型式の選定理由,計画
洪水量の決定,堤高の決定,堤体の設計,洪水吐の設計,付帯構造物の
設計等が詳細に示されており,その中で,地形としてはコンクリートダ
ムが有利であり,地質について,ダムサイト付近は,愛知川層群箕川層
の砂岩,泥岩(ホルンフェルス化)及びチャートが分布する,これらは,
いずれもCM級以上の堅固な岩盤であるため,左右岸とも,急峻な地形
を呈する,河床部では,φ10~50ミリの砂岩,粘板岩,チャート,
花崗岩の円礫及び砂が堆積しているが,ダム軸付近での堆積物の厚さは
5メートル程度と推定される,いずれにしても,今後の調査を要するが,
現在のところダム基礎として良好な地盤が得られ,重力式コンクリート
ダムもフィルダムも共に建設が可能であるが,築堤材料の供給の面から
コンクリートダムが有利である(乙16の1・58頁以下),透水性に
ついて,両岸とも急勾配の支沢が発達するが,EL500メートル付近
でも流水が確認されることから地山地下水位は概して高く,透水性に対
して不安はなく,貯水深が約80メートルに及ぶものの,セメントグラ
ウトによる通常の工法にて十分対処可能であるとなどとされている。そ
の上で,地質,基盤の透水性等から,最低床掘標高を現況河床より約5
メートル掘り下げてEL394.5メートルとし,右岸アバットの掘削
線を現況地盤より約5メートルの位置に求め,計画洪水位,余裕高,そ
れに本件設計基準や河川構造令施行規則12条に従うなどして,非越流
部天端標高をEL484.5メートルとし,非越流部天端標高と最低床
掘標高の差の90メートルを堤高としたこと(乙16の1,112ない
し117頁)等が説かれている。
(イ)更に,詳細設計に当たって留意すべき事項として,今後の調査測量
及び試験の項目があり,測量として,ダムサイト平面測量ならびに縦横
断測量,貯水池内平面測量(航測),工事用道路及び付替道路路線測量
等が挙げられ,地質調査として,ボーリング調査及び孔内載荷試験,透
水性試験,弾性波探査,調査横杭の掘削及び岩盤試験等が挙げられ,弾
性波探査については,位置,測線長,優先度が,ボーリング調査につい
ては,位置(30箇所),深度,ルジオン試験(9回~25回),孔内
載荷試験(4箇所各9回),岩石試験(4箇所各6回),優先度が,横
杭調査については,位置(3箇所),延長,平板載荷,ブロック剪断,
優先度がそれぞれ具体的に挙げられている(乙16の1・246頁以
下)。
(ウ)Ⅱの第5章効用等においては,経済性の要件審査のための測定方法
通達による前記の記算式において,作物純益額を3億5033万700
0円,営農経費節減額を8640万2000円,維持管理費節減額を6
億2811万9000円,更新効果を19億1591万円とし,資本還
元率を0.0561,建設利息を0.0650,廃用損失額を1億48
55万1000円として,妥当投資額を497億8100万円と算出し
た。また,ダムの規模を堤高90メートル,堤長205メートル,堤体
積34万7000立方メートルとして,Ⅲの工事費明細及び数量計算書
において,その工事費を合計300億6600万円,そのうち第2ダム
本体の工事費を234億0400万円,幹線水路付帯工事を62億11
00万円,水管理施設費用を3億0100万円,雑工事費用を1億50
00万円とし,更に,測量及び試験費,用地買収及び補償費,船舶及び
機械器具費,営繕費,宿舎費,工事諸費を合算した上,関連事業のほ場
整備事業費3億円を加えた総事業費を479億円と算定し,投資効率を
1.04(正確には約1.0392)とした。
なお,維持管理費節減効果の額については,近畿農政局が本件全体実
施設計をする過程で,揚水機の維持管理費の算定において揚水機場の数
ないし揚水機付井戸の台数を誤ったため,この関係で,本件全体実施設
計書における上記の6億2811万9000円は誤りで,被控訴人主張
の算定に従っても6億2666万2000円であることが,原審係属中
に判明した(乙16の2,20,31,54の6の各該当部分の数値に
は誤りがある。被控訴人の原審の最終準備書面56頁参照)。これによ
り投資効率を修正すると,約1.0387となる。
キ本件施行地域の土地改良区や市町においては,平成4年2月ころから同
年12月ころまでの間に,本件事業の概要を記載したパンフレットの配布
や事前説明会の開催によって,本件施行地域内の農家に対し,本件事業計
画の概要が説明されると共に,本件事業計画に対する同意のとりまとめ作
業がされた。
そして,本件施行地域の法3条の資格者であったP12ら24名は,平
成5年1月18日,本件事業の申請をする予定であるとして,法85条2
項により,本件事業の事業計画概要書,本件事業によって造成された施設
の予定管理方法等,事業費の負担区分の予定及び地元負担の予定基準を,
同日から同月22日まで,八日市市,α2,α17,α18,α19,α
20,α21,α16,α22の各役場の掲示場に公告をした(乙1の2,
1の7)。
ク被控訴人は,平成5年2月4日,法87条2項,8条2項所定の専門的
知識を有する技術者として,農業工学専攻の京都大学教授のP7及び農業
経済専攻の同大学のP8教授を選定し,両教授に対して本件事業について
の調査と報告書の作成の委嘱をした(乙31・33頁)。
ケ前記のP12ら24名は,平成5年3月8日,それまでに本件施行地域
の3条資格者9273名のうちの95パーセントに当たる8820名の同
意が得られたとして,その同意があったことを証する書面等を添えて,被
控訴人に対し,本件事業の申請をした(乙1の1)。
コ平成5年3月17日付けで,被控訴人に対し,近畿農政局から,本件事
業の事業計画書(案)(乙8)が提出され(5近計第25号(事)),被
控訴人は,平成5年10月25日ころ,滋賀県知事と協議をし,平成6年
1月21日,本件事業を実施することが適当であるとの決定をし,申請者
らに通知し(乙5の1~4,6の1,2),P7及びP8の両教授は,被
控訴人からの前記の委嘱に基づき,本件事業についての報告書(乙7,調
査報告書)を提出し,被控訴人は,平成6年1月24日付けで,本件決定
をした。
サなお,その後,P13らは,同年2月23日から同年3月10日までの
間に,本件決定に対し,289件の異議申立てをし,被控訴人から異議の
判断についての報告を求められたP7及びP8両教授は,平成6年3月2
8日付けで,報告事項については問題がないと考えられる旨の報告書(乙
13)を提出した。
(5)以上の認定事実によると,被控訴人側の通達とその解説部分である本件
設計基準においては,ダム池敷の地形調査として,計画調査の早い時期に,
ダムの貯水池容量の算定等のため,貯水池を中心とする十分な広さをもった
地域の測量を行い,設計に必要な精度をもった計画用基本地形図を作成しな
ければならないとされ,更に,ダム地点の地形調査としても,全体設計調査
の段階で実地測量による地形図を作成すべきものとされていたものと解され
る(実地測量によるダム地点の地形図の作成については,甲214の15頁
の表2・2・3-1には工事実施調査までの段階での記載となっているが,
同甲号証の15ないし18頁の記載及び前記認定のように近畿農政局が昭和
63年度に予定していたことが明らかであるから,このように解される。)。
更に,ダム地点の地質調査として,地表地質調査のほか,地下地質調査とし
て,弾性波探査,ボーリング調査及び横杭を行い,その成果として,地質平
面図,断面図を作成し,地質状況の他,透水度弾性波速度値を盛り込み,計
画基礎掘削線を入れること等が明確に定められ,それらによって,ダムの規
模,貯水池容量を算定すると共に,概算工事費の算定をすることとされ,こ
れらの各調査の結果をも踏まえて,全体実施設計がされ,必要性,技術的可
能性,経済性,負担の妥当性の基本的な要件適合の判断がされ,事業計画の
決定がされる手順となっていたことが明らかである。前記のとおり,本件全
体実施設計に至る調査においても,当初,実地測量による地形図の作成とダ
ム地点のボーリング調査及び弾性波探査が具体的に予定され,α2議会への
資料でもそのことが示されていたのである。
しかし,本件全体実施設計に至る前記の調査では,まず,ダム地点につい
ては,航空測量がされて縮尺500分の1の地形図(乙16の6,図面番号
2-2)が作成されただけで,実地測量はされず,それによる地形図,縦断
図及び横断図も作成されなかった。また,貯水容量の算定の基礎となる貯水
池の範囲となるダム池敷全体については,そもそも航空測量も実地測量も全
く実施されず,本件設計基準で定められた設計に必要な精度をもった測量に
よる地形図も作成されず,昭和53年に国土地理院に承認された既存のα2
の2500分の1の本件基本図により地形を推認して第2ダムの貯水容量を
算定してダムの規模を決定し,更に,ダム地点の地下地質調査については,
ボーリング調査,弾性波探査及び横杭のいずれも全く実施されないまま全体
実施設計がされ,本件決定に至ったことになる。これらは,本件設計基準に
おいて,ダムの規模,貯水容量,更に総事業費を算定し,必要性,技術的可
能性,経済性,負担の妥当性の基本的な要件を判断するために,全体設計調
査の段階で行うべきものとされたうちの極めて重要な調査を省略して実施し
なかったことを意味し,本件設計基準に反するものであり,また,そのまま
全体実施設計をした点で本件局長通達にも反するものであったといわざるを
得ない。
被控訴人は,全体設計調査の段階で前記の各調査をしなかったことについ
て,ダム地点の実地測量をしなかった理由は,ダムサイトが強固な岩盤で形
成される急峻な地形であり,航空測量により作成した地形図により全体設計
調査の目的が達成可能と判断したからであり,貯水池の予定地全体の池敷に
ついて航空測量も実地測量も実施しないでそれによる地形図も作成しなかっ
た理由について,本件基本図があり,それは,測量法に基づき国土地理院の
承認を得た公共測量に係る公共測量図であり,高度の精度を備えたものと思
料されたからであるとし,ダム地点の地下地質調査をすべて実施しなかった
理由は,地表地質調査の結果,河床両岸に連続的に,のり面に散在的に,そ
れぞれ強固な岩盤が露出していることや,室内岩石試験の結果から,予定地
の地質は極めて良好(堅固)であることが確認できたからである,本件設計
基準においても,河床部などで明らかに健岩の露頭がみられる場合などはボ
ーリング調査は省略されるとされている,と主張する。しかし,被控訴人の
これらの主張内容自体,いずれも,自らが定めた本件設計基準が求める前記
各調査を省略する合理的な理由になるとは考えられない。被控訴人がボーリ
ング調査が省略されるとして指摘する本件設計基準の箇所(甲214の21
頁)は,ボーリングの配置を省略する箇所についての記載と解され,しかも,
被控訴人は,前記の主張をしながら,ボーリング調査を省略する判断をした
際の資料や判断過程等について,具体的な主張・立証をしておらず,むしろ,
乙16の各写真や乙17,甲222からすると,ダム地点付近で川は蛇行し
ており,両岸の地形は単純な地形ではなく,河床部などもそのような状況で
はなかったのではないかと推認される。被控訴人は,ボーリング調査以外の
前記の各調査をしなかった合理的な理由があったことについても,更に具体
的かつ的確な主張・立証をしていない。
本件決定は,ダムの規模,貯水容量の算定,総事業費の算定に必要不可欠
なものとして,本件設計基準で定められた極めて重要な調査である前記各調
査を欠いたままの全体実施設計に基づくものであったといわざるを得ない。
(6)ところで,本件設計基準は,通達とその運用についての解説にすぎず,
そこに定められた計画調査や全体設計調査は,法律で要求されたものではな
いから,被控訴人側で本件設計基準で定められた実施測量や地形図の作成,
地下地質調査を前記認定のように実施しなかったことそれ自体が直ちに違法
になることはない。
しかし,本件設計基準は,本件次官通達及び本件局長通達によって,土地
改良事業計画の工事計画に係る詳細な設計である全体実施設計をする際に各
地方農政局長が準拠すべき統一的な手続準則として農林水産省自らが決定し
たもので,前記認定のとおり,その解説部分も含めて構造改善局の出版物と
して公表されたものである。しかも,本件設計基準は,前記認定のとおり,
学識経験者からなる委員等による検討やかんがい排水審議会の答申を経て改
定されたもので,「基準」,「解説」についての前記認定の説明や甲214
の「改定の要旨」の内容に照らし,解説部分も通達と実質的に一体となるも
のとして決定されたことが明らかである。そして,そこに定められた各調査
は,被控訴人が土地改良事業の実質的要件を審査してその施行の可否を判断
する際の前提となる事実関係を把握するためのものであり,各調査の手順や
内容についての定めは,地方農政局長が行うこれらの調査の統一的,具体的
な手続準則となり,土地改良事業の手続がこれに従って統一的に行われるこ
とにより,その後にされる本件決定等の処分の適正が保障されるものといえ
る。また,令2条3号の経済性の要件についての測定方法等の各通達も,被
控訴人側自らが設定した経済性の要件を具体化した基準・指針であって,同
様に,それらの各通達に従って経済性の要件が統一的に審査されて手続が進
められることにより,その後にされる本件決定等の処分の適正が保障される
ものといえる。
すなわち,これらの各通達に従った統一的審査により,前記技術的可能性
の要件につき,地質・地形等の自然的条件を基礎とした工学的な見地から見
てダムの建設予定位置が適切か,当該地域の気象条件や流域の地形条件等か
ら見て当該土地改良事業計画で要求される農業用水の水量が当該ダムに安定
的に貯留することができるのか,当該ダムに貯留される水が農業用水として
適切な水質基準を満足するものとして確保できるのか,当該ダムに貯留した
水が既往のあるいは当該事業で新設または改良される農業用水路等を通じて
農用地に適切に配水されるのか等が科学的に検証され,令2条所定の基本的
な要件である経済性の要件については,前記のようにして設計されたダムの
規模や貯水容量を前提として,前記の測定方法等の各通達により算定した妥
当投資額や総事業費が算出されて,それらの各通達による投資効率が1.0
0以上となるか否かによって審査されることになる。
そうすると,合理的な理由がないのに本件設計基準で定められた極めて重
要な調査を省略するなどして手続を進めた場合には,それにより土地改良事
業計画の内容に誤りが生じ,更にそれを前提とする令2条所定の基本的な要
件の審査に誤りが生じることがあるし,また,土地改良事業計画決定に至る
手続が適正でないとの評価を受け得ることもあるものというべきである。
(7)しかるところ,前記の認定事実と証拠(甲203,211,215ない
し221,227ないし230,232,乙16,82,90ないし99,
102ないし106,109ないし117,128(いずれも枝番を含
む。))及び弁論の全趣旨によると,本件決定の後に判明した事実関係等と
して,次のとおり認められる。
ア環境影響評価法が,平成11年6月12日に施行され,本件事業につい
ては,平成12年12月15日,近畿農政局建設部長と,α1町長との間
で,①近畿農政局は,第2ダム建設工事について,環境アセス調査を実
施し,環境アセスに係る所用の手続を了した後,地元(東部地域)の同意
を得た上で着工するものとする,②α1町長は,近畿農政局が行う環境
アセス調査の実施に協力するものとする,③近畿農政局は,環境アセス
の実施に際して土地の立ち入り等を行う場合は,α1町長の協力のもと,
土地所有権者及び地上権者等関係者の同意を得た以降,実施するものとす
る,との合意がされ,その旨の覚書(甲234)が作成された。
イ近畿農政局において,平成13年度から平成15年度まで,本件事業の
工事実施調査等が行われ,ダム池の範囲となる広い範囲の航空測量が実施
されて1000分の1のダム敷池地形図(乙97)が作成され,更に現地
の実地測量も実施された。そして,地質調査については,本件決定までに
実施されなかったボーリング調査,弾性波探査等の地下地質調査も実施さ
れ,平成14年3月にその報告書である「第二ダム地質調査その3業務」
(甲215)が作成され,平成15年2月に「平成13年度新愛知川農
業水利事業基幹施設技術調査(第二ダム地質調査その4)」(甲216),
「同(第二ダム地質調査その5)」(甲217)及び「同(第二ダム地質
調査その7)業務」(甲219)が,平成15年3月に「同(第二ダム地
質調査その6)」(甲218)がそれぞれ作成され,その後も同様の報告
書が平成16年3月まで次々に作成された。これらの調査の結果,第2ダ
ム建設予定地の地形,地質がより明らかになった。
ウそれらの結果によると,建設予定地の地形について,ダム貯水池の範囲
となる広い範囲についての前記の航空測量によって新たに作成された池敷
地形図(乙97,第二ダム地形図と題する8枚)と,現地に立ち入って実
地測量を行ったことにより,昭和53年の承認番号のα2の縮尺2500
分の1の本件基本図による等高線による地形の把握は一部不正確であり,
本件全体実施設計書における推定よりも,貯水池となる谷部の幅がより狭
く,一方,建設予定地の地形がより緩やかであることが判明した。更に,
ダム軸から約40メートル下流地点のボーリング調査により,同地点の河
床堆積物の厚さが約10メートルあって,それを除去する必要があり,河
床部の堤体を支持できる基礎岩盤が策定時の推定よりも深い部分にあるこ
とが判明した。そして,ダムの設計上,ダム軸における基礎掘削深をこの
地点の河床堆積物の最大の深さに合わせる必要が生じ,それにより,本件
決定の当時に前記のように策定されたダムの規模や形状は,相当程度の変
更を余儀なくされることになった。すなわち,上記のとおり,河床部の基
礎岩盤が計画策定時の推定よりも一部更に深かったことから基礎地盤を一
部より深く掘り下げる必要が生じ,それによりダムの堤高は約5.5メー
トル高くなることになり,また,貯水池となる谷幅の地形が計画策定時の
推定よりも狭かったことにより,計画による総貯水量2570万立方メー
トルを確保するためには,堤高を更に3.5メートル高くする必要が生じ,
結局,第2ダムの堤高を約9メートル高くし,それに応じて堤長も相当長
くする必要があり,ダムの規模は,少なくとも約10パーセント以上は大
きくなることが判明した。そして,それに伴ってダム建設のための総事業
費も大幅に増大することになった。
エ近畿農政局は,平成16年2月10日,関係市町等に対し,総合的検討
の結果を説明した。その説明では,受益面積が計画時から減少し,営農形
態も変化したことを踏まえた粗用水量,地下水の取水状況等からの現況利
用可能量を基に,貯水容量を算定して検討するなどし,第2ダムの規模等
について「貯水容量20パーセント以上の増減」に該当する変更事由があ
ると共に,新たに判明した予定地の地形及び地質調査の結果を踏まえると,
ダム建設費についても,増嵩して「労賃又は物価変動を除く事業費の10
パーセント以上の増」に該当することが確実になり,本件事業の計画変更
の必要があると判断した,ということであった(甲203)。また,同年
3月12日,α2の町議会においても,本件事業の再評価の結果,必要と
される用水量が減少し,第2ダムの予定貯水量の20パーセント以上が必
要でなくなること,ダム本体建設地のボーリング調査等の地質調査の結果,
側面において岩質が柔らかいため堤体の長さをより長くする必要が生じ,
河床部が透水性のある岩質のためより深くする必要が生じ,貯水池の谷幅
が計画時よりも狭いことが判明したこと等から,ダムの規模を大きくする
必要が判明し,ダムの建設費が倍増し,約1100億円となるとの試算も
されたこと,国は,今後,事業計画の変更について関係機関と協議をしな
がら進める方針である等の説明がされた。
オ今後,被控訴人側において,本件事業の施設計画案について更に検討が
進められる予定であるが,その内容はまだ定まっていない。また,事業費
がどれだけ増大するのか,被控訴人としても明確に主張できる状態ではな
い。
(8)以上の認定事実,前記(7)掲記の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,
このように現場の地形及び地質等からダムの規模が本件決定の内容よりも少
なくとも約10パーセント以上大きくならざるを得なくなったのは,前記の
とおり,被控訴人が自らが定めた本件設計基準で極めて重要なものとされて
いた測量に基づく地形図を作成せず,ボーリング調査,弾性波探査及び横杭
の地下地質調査に基づく地質図を作成するなどして予定地の地形や地質を正
解に把握してダムの規模と貯水容量等を設計しなかったためであって,これ
は,本件決定においてダムの規模を誤ったことにほかならず,本件決定の当
時,本件決定の内容には,すでにこのような瑕疵があったものというべきで
ある。
(9)被控訴人は,貯水池となる谷部等の地形が計画策定時と一部異なること
が判明したのは,本件基本図と工事実施調査の段階で作成された航空測量に
よる池敷地形図との縮尺の相違もあるが,測量技術の進歩に伴う精度の向上
によるものである,ダム軸における基礎掘削深が計画よりも深くなったのは,
ダム軸から約40メートル下流の地点のボーリング調査の結果から同地点の
河床堆積物の高さが約10メートルあると判明し,設計上の判断から河床堆
積物を除去する必要が生じたためであり,全体設計調査の段階で仮にボーリ
ング調査を実施していたとしても,それはダム軸の地点で行うのが一般的で
あり,ダム軸における河床堆積物の厚さを推定した判断は覆っていないから,
結局,ボーリング調査や弾性波探査を行わなかったことと基礎掘削深が計画
よりも深くなったこととは無関係である,また,基礎地盤を掘り下げる要因
は,設計上の判断から河床堆積物を除去する必要が生じたためであって,透
水性の対策によるものではない,などと主張する。
しかしながら,貯水池となる谷の地形については,そもそも本件設計基準
によって測量を実施することにより地形図を作成することが求められていた
もので,それが実施されずに既存の本件基本図によったために計測を誤った
ものといわざるを得ない。本件基本図は,昭和53年に国土地理院で承認さ
れた地図であり,全体設計調査の段階でも既に相当期間が経過したものであ
った。しかも,被控訴人は,DSPやデジタルマップ等で測量技術が向上し
たと主張するが,本件基本図との関係で,それがどのように池敷の地形の把
握に影響したのかについての具体的主張・立証はない。また,本件設計基準
による全体設計調査におけるボーリングの配置は,堤軸に沿って両岸斜面部
で各2本,河床部で2~3本(50メートル間隔に1本)程度であり,本件
設計基準どおりにそれが実施されていれば前記のような結果は生じていなか
ったといえる。しかも,被控訴人は,当審における第6回口頭弁論期日にお
いて,控訴人らから釈明を求められていたこの点に関し,被控訴人第5準備
書面で,河床部のダム基礎地盤が計画時の推定よりも一部深かったことが認
められたと主張しただけであったが,その後,第7回口頭弁論期日において,
被控訴人第7準備書面において,ダム軸における河床堆積物の厚さは計画時
の推定とその後の工事実施調査による結果と変わっていないとし,ダム軸か
ら約40メートル下流の地点でのボーリング調査の結果で同地点の河床堆積
物の厚さが約10メートルあることが判明し,その結果,設計上の判断から,
ダム軸における基礎掘削深を上記地点の河床堆積物の最大の厚さに合わせる
必要が生じて,ダム軸における基礎掘削線が当初よりも深くなった,などと
主張し,その設計上の判断については更に具体的に主張していない。むしろ,
前掲の甲215ないし221や弁論の全趣旨によると,本件設計基準どおり
に,河床部で2~3本(50メートル間隔に1本)のボーリング調査がされ,
弾性波探査や横杭も実施されていれば,基礎掘削深についても,策定時によ
り精度の高いものになっていたものと推認され,被控訴人の主張は採用でき
ない。
(10)以上の認定・判断を総合すると,本件決定は,それまでの手続に本件設
計基準によって極めて重要なものとされていた調査等をしなかったことによ
り,ダムの規模を誤って設計した瑕疵があるというべきで,それは,本件決
定の基本的な要件である経済性の要件について,測定方法等の各通達による
審査に極めて重大な影響を与えるほどのものであったといわざるを得ないの
であって,この瑕疵は極めて重要であって,本件決定は取消しを免れないと
いうべきである。
ア被控訴人は,本件決定の違法性の判断の基準時は,あくまで処分時であ
って,ダム建設の各段階で実施される調査は,その段階に応じて調査の事
項,範囲,方針,精度などが自ずと異なってくるもので,その間の測量技
術の向上等に伴う精度の差も生じることから,事業着手の後の工事実施調
査で新たな事実が判明したとしても,それらは,計画時点における本件決
定の適法性には,何らの影響も及ぼさないし,令2条3号所定の経済性の
要件は,「当該土地改良事業のすべての効用がそのすべての費用をつぐな
うこと」とあるだけで,その内容自体からも,相当に広い政策判断も予定
され,被控訴人の裁量判断に委ねられる部分も相当あると主張する。
イ確かに,前記認定のとおり,本件設計基準においても,全体設計調査に
基づいて検討された基本的な設計はあくまでも途中段階の域を出ないもの
で,その後に実施される工事実施調査や補足調査により計画の変更や修正
が行われるものとされており,本件全体実施設計においても,本件決定の
後の工事実施調査においてより詳細な各調査が予定されており,また,令
2条3号所定の経済性の要件は,被控訴人の政策的な裁量判断に委ねられ
る部分も相当あるもので,測定方法等の各通達による投資効率の算定は,
被控訴人の裁量判断の基準・指針であって,しかも,その算定には事業に
よる間接効果を含まないから,前記各通達による投資効率の算定結果が1
を下回る結果となっても,法と令の関係では直ちに前記要件を欠いて違法
ということにもならない。
ウしかしながら,本件決定における前記の瑕疵は,前記のとおり,本件設
計基準に従ってダムの規模や貯水容量等の基本的な設計をするために極め
て重要な調査をしなかったためにダムの規模を誤って設計したというもの
で,当然に,本件決定当時の本件決定内容の瑕疵といわざるを得ない(な
お,本件決定の違法性の判断の基準時は処分時であり,それと異なる控訴
人らの主張は採用しない。)。また,法及び令が定めた経済性の要件自体
については,政策的な裁量判断に委ねられる余地が相当あるとしても,そ
の審査の基準として測定方法等の各通達を定めたのは被控訴人側であって,
それによる投資効率の算定式は,事業による間接効果を含まない一方,総
事業費の算出が現実に生じる総費用を完全に把握する算定方法でもないこ
とを考慮すると,総体的に,経済性の要件の審査基準として合理的である
というべきである。そして,前記認定事実によれば,測定方法等の各通達
は,被控訴人が事業計画の策定をする際の経済性の要件の審査基準として,
極めて重要なものとして取り扱われていたことが明らかである。
そして,本件決定当時,仮に本件設計基準で定められた前記の各調査等
がされて第2ダムの規模が前記のとおり少なくとも約10パーセント大き
くすべきであることが判明していたとして,それに基づいて前記の測定方
法等の各通達に従って妥当投資額を総事業費で除した計算式で投資効率を
算定し直すと,妥当投資額の算定は,基本的には本件施行地域に予定され
た新規開発貯水量の農業用水を安定的に供給できることによる効果として
評価され算定されるものであり,これらが被控訴人主張のように各通達に
従って適正に算出されたものであったとしても前記のとおりダムの規模が
大きくなったことにより特に増大することがなく,本件事業の総事業費の
方は,それによって増大する関係になると考えられる(なお,控訴人らは,
経済性の要件について,被控訴人の妥当投資額の算定は過大な算定であり,
総事業費は過小な算定であると主張して争っているが,その点を判断する
までもなくこのようにいえる。)。そして,本件決定当時において,本件
全体実施設計によるダム本体の工事費234億0400万円だけに限って
これを単純にダムの規模の拡大に伴って10パーセント増加するとしてそ
の他の点は被控訴人主張のとおりの算定であるとして試算したとしても,
その投資効率はすでに1を下回ることになり,実際には,前記のとおりの
ダムの規模の拡大により,事業費は更に増大するものと推定される。本件
決定の時点で,前記の算式による投資効率が1を下回ることがほぼ確実で
あると判明していれば,前記の乙63の文献によっても,被控訴人側にお
いて本件決定の内容について根本的な再検討を迫られる事態になっていた
ものと推察される。
エのみならず,土地改良事業を開始する際の基本的な要件についての法の
定めをみると,土地改良区の施行する事業についての法8条4項が令2条
所定の前記の基本的な要件を適否の決定の消極的要件とする旨を規定し,
農業協同組合等の行う事業や市町村の行う事業において同項が準用されて
いるのに対し(法95条3項,96条の2第5項),国営及び都道府県営
の土地改良事業についての法87条3項は,前記の基本的な要件に「適合
するものとなるように定めなければならない。」と前記の基本的な要件を
積極的要件として規定しており,土地改良事業の事業計画の変更について
の法の定めをみると,土地改良区の行う事業についての法48条9項,農
業共同組合等が行う事業についての法95条の2第3項,市町村が行う事
業についての法96条の3第5項,48条9項がいずれも法8条の規定を
準用し,法8条4項によって,都道府県知事が事業計画の変更の適否を決
定するに際して令2条所定の経済性の要件その他の前記の基本的な要件に
適合するものでないときを除いて適当とする旨の決定をすべきものとして,
それらを事業計画変更の要件としているのに対し,国営又は都道府県営の
土地改良事業計画の変更に関する法87条の3は,法8条4項や開始の場
合の法87条3項を準用しておらず,国営事業である本件事業計画の変更
をする場合には,経済性を含む前記の事業計画の基本的な要件は,その法
律上の要件とされていないことになる。これらの法の各規定に照らすと,
国営及び都道府県営の土地改良事業については,令2条各号所定の基本的
な要件は,事業の開始の際の積極的要件とされているのみならず,事業計
画の変更の際には最早基本的な要件とはされていないのであるから,当初
の事業計画の策定の際の基本的な要件の審査は特に重要なものとして位置
付けられているといわなければならない。
そうであれば,国営の土地改良事業に係る本件決定に前記のような瑕疵
があり,本来は経済性の要件の審査において測定方法等の各通達によれば
投資効率が1を下回ることがほぼ確実になって,被控訴人においても本件
決定内容の根本的な再検討を迫られるような計画内容であるのに,後に事
業計画の変更があり得る,あるいは予定されているとして,その瑕疵が本
件決定の取消事由とまではならないと解するのであれば,本件事業につい
て,遂には,経済性等の基本的な要件を適正に審査する機会が喪失されて
しまい,法が87条3項で経済性の基本的な要件を規定した趣旨も,それ
に応じて被控訴人側で測定方法等の各通達を定めた趣旨もいずれも没却さ
れてしまうことになりかねず,そのようなことになれば,国や地方自治体
の多額の公金を含む多額の費用の投入が予定されている大規模な国営の土
地改良事業である本件事業について,法及び令が国民経済的な観点から規
定した経済性の基本的な要件が無意味になってしまいかねないというべき
である。
オこのようにみてくると,本件決定には,前記のとおりダムの規模を誤っ
て設計した瑕疵があったというべきであり,その瑕疵は,令2条3号所定
の経済性の要件の審査について極めて重要な影響を与えるほどのものであ
って,これらの手続経過も適正手続に反するものとして違法といわざるを
得ず,本件決定には取消事由となる瑕疵があるというべきである。
6本案の争点(3)(専門的知識を有する技術者の調査報告(法87条2項,8
条2項,3項)は十分なものであるか,調査報告内容の判断過程に重大な瑕疵
があるか。)について
(1)被控訴人は,土地改良事業計画を法8条4項1号の政令で定める基本的
な要件に適合するものとなるように定めなければならないところ,法87条
2項が準用する法8条2項は,「省令の定めるところにより,これを定める
につき,農用地の改良,開発,保全又は集団化に関し専門的知識を有する技
術者が調査して提出する報告に基かなければならない」とし,事業計画の決
定自体がこの報告に基づかなければならないものとされている。そして,法
8条3項は「前項の調査は,当該土地改良事業のすべての効用と費用とにつ
いての調査を含むものでなければならない。」とし,「専門技術者委嘱の要
領について」(昭和40年12月25日・40農地B第4184号通達,乙
25)では,専門的知識を有する技術者の資格,委嘱の範囲,調査及び報告
についての要領が定められており,その中で,専門的知識を有する技術者の
資格として,当該事業計画の樹立に携わり又は関係し,更に関係すると予想
される者については,特に法令上の制限はないが,専門技術者の委嘱の趣旨
からして避けるのが望ましいとされている。前記の法の各規定の趣旨は,土
地改良事業について施行者側で各種調査等が進められ,全体実施設計に至る
資料等が作成されていても,専門的知識を有する技術者が,第三者的な立場
でそれらを審査し,調査が不備なところを指摘し,検討を加えるべきところ
には時には批判的に検討を加え,別の観点からも検討すべきところは更に調
査・検討の上,その内容を報告することにし,事業計画の決定がそれに基づ
かなければならないとして,第三者による実質的審査を経ることを法律上の
手続要件として,事業計画の決定が適正に行われるようにしたものと解され,
前記通達の専門的知識を有する技術者の資格についての前記の定めも,同趣
旨に基づくものと解される
したがって,法8条2,3項による専門的知識を有する技術者による調査
報告の手続は,形式的に履践されるだけでは足りず,実質的に履践されなけ
ればならず,当該調査報告が,手続規定の要求する調査,検討,審査に基づ
かないとか,その判断が事実的基礎を欠くとか,事実の誤認があるとの事由
がある場合には,その土地改良事業計画決定は,法8条2,3項が定める専
門技術者の調査報告を経たものといえず,違法というべきである。
(2)前記の認定事実と証拠(乙7,13,31,証人P10の各証言)及び
弁論の全趣旨を総合すると,次のとおり認められる。
アP7及びP8の両教授は,被控訴人からの前記の委嘱に基づき,近畿農
政局において作成された本件事業計画書(案),本件全体実施設計書(乙
16の1ないし7,作成中のものも含む。),本件事業によって造成され
た施設の予定管理方法等を記載した書面(乙2の2),事業費の負担区分
の予定及び地元負担の予定基準を記載した書面(乙2の3)等の基礎資料
に基づき調査し,更に2日間の現地調査を行い,更に近畿農政局からの説
明に基づいて調査に当たり,審議の上,調査報告書(乙7,B5判で本文
9頁)を提出した。
イ同調査報告書は,細則15条の各項目に沿って記載され,その内容の概
略は,本件事業が,社会経済的にも必要性が十分あると認められ,河川流
量,地区内雨量,地形・地質状況,現況施設の実態及び実情を加味したも
ので,自然的条件からみても,社会経済的条件からみても,その施行が十
分可能で妥当なものと認められ,本件事業及び関連事業の施行後に見込ま
れる年増加見込効果額を基に妥当投資額と総事業費とを対比し,投資効率
を算定すると妥当投資額を総事業費で除した投資効率が1を上回り,更に
本件事業によって社会経済的に及ぼす間接的な効果も考えられるので,本
件事業は国家投資の面からみても妥当なものであると認められる,などと
した上で,「その他土地改良事業計画書に記載された事項についての技術
的意見」として,ダムの形式,座取り及び減勢工等の基本的な構造及び形
式については,地形条件等から適切と考えられるが,実施にあたって,地
質調査の精査を行い,ダム軸,基礎処理等について検討の上細部設計等を
行うことが指摘され(8頁),結論として,この事業の技術的,経済的な
必要性及び可能性について検討を加えた結果,この事業の必要性は十分認
められ,その可能性についても支障となるべき事項は考えられないことか
ら,早急に施行されるべきである,などと記載されている。また,勧告と
して,環境保全については,適切な自然環境保全上の配慮に努められたい
旨,事業効果について,本事業は本地区における農業生産基盤の基幹事業
であり,可及的速やかに事業効果を発揮させる必要があり,関連事業を含
めて強力に事業を推進し,早期完成が望まれる,とされている。
(3)しかし,前記認定と乙7によると,調査報告書には,前記のように,本
件設計基準で定められた池敷について測量による地形図が作成されなかった
ことやボーリング調査等の地下地質調査が実施されず,それによりダムの規
模や総事業費が相当に変わり得ること等の記載はない。のみならず,他の事
項についても,独自に具体的な検討を加えた形跡も見当たらない。経済性の
要件について,総事業費やダムの規模との関係での明確な考察も見られない。
また,被控訴人からも,P7教授らの前記の調査や報告について,総事業
費やダムの規模について,具体的な資料や数値に基づいてどのような検討や
調査がされたのかについて,更に具体的な主張・立証もない。
(4)そうすると,前記の調査報告書は,近畿農政局において作成された本件
事業計画書(案),本件全体実施設計書(作成中も含む。)等の基礎資料に
基づいたものであって,本件設計基準で定められた池敷についての地形図が
作成されなかったことやボーリング調査等の地下地質調査が実施されない状
況で把握された誤った事実を前提にしたものであり,それによりダムの規模
や総事業費が相当に変わり得ること等についての検討や考察がされず,その
点において,法令上要請される専門家としての必要な調査・報告を欠いたと
いうべきである。
(5)前記の認定判断を総合すると,調査報告書の作成やそのための調査も,
法87条2項,8条2,3項の前記のような趣旨を実質的に充たさないもの
であるといわざるを得ず,本件決定は,この観点からも,法の前記各規定に
実質的に反するもので,違法であるというべきである。
7以上のとおりであり,本件決定には取消事由である瑕疵があるというべきで
あり,P14,別紙控訴人目録3記載の控訴人P2及び同P3の本件決定に対
する異議の申立てはいずれも理由があり,異議の判断についてのP7及びP8
両教授の前記の報告内容も誤ったものといわざるを得ず,これらの異議申立て
を棄却した異議についての各決定も違法であって,取消しを免れない。
そうすると,同目録3記載の控訴人らの請求のうち,控訴人P2及び同P3
については,それぞれ自己宛の,控訴人P9については,P1宛の異議につい
ての各決定の取消しを求める部分は,その余の諸点について判断するまでもな
く,本件決定に取消事由である瑕疵があるから理由があり,それぞれの上記異
議についての各決定を取り消すべきである。
8結論
(1)別紙控訴人目録1記載の控訴人らの各請求は,いずれも不適法である。
(2)同目録2記載の控訴人らの各請求のうち,本件決定の取消しを求める部
分に係る訴え,並びに,それぞれ他人宛の異議についての各決定の取消しを
求める部分に係る訴えは,いずれも不適法であり,それぞれ自己宛の異議に
ついての決定(いずれも却下決定)の取消しを求める請求は,これを却下し
た異議についての決定が相当であるから,いずれも理由がないことに帰する。
(3)同目録3記載の控訴人らの各請求のうち,控訴人P2及び同P3につい
ては,それぞれ自己宛の,控訴人P9については,P1宛の異議についての
各決定の取消しを求める部分は,理由がある。しかし,同控訴人らのその余
の請求に係る訴えは,いずれも不適法である。
(4)上記(1)ないし(3)の判断によると,次のとおりになる。
ア控訴人らの関係の原判決の主文第1,2項に関する部分は,相当である
から,同部分に関する控訴人らの各控訴を棄却すべきである。
イ原判決主文第3,4項の別紙控訴人目録2記載の控訴人らに関する部分
は,同目録2記載の控訴人らがそれぞれの自己宛の異議決定の取消しを求
める部分の請求を棄却した判断は相当であるが,それぞれの他人宛の異議
決定(却下決定)の取消しを求める部分に係る訴えは,不適法であるから,
同控訴人らの各控訴に基づいて,その趣旨に原判決を変更すべきである。
ウ原判決主文第5項の別紙控訴人目録3記載の控訴人らに関する部分につ
いては,同目録3記載の控訴人らの各控訴に基づき,同控訴人らの各請求
を棄却した原判決を取り消し,控訴人P2及び同P3については,それぞ
れ自己宛の,控訴人P9については,P1宛の異議についての各決定をい
ずれも取り消し,同控訴人らのその余の請求に係る訴えをいずれも却下す
べきである。
(5)訴訟費用については,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条ただ
し書,65条,67条に従って,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官若林諒
裁判官八木良一
裁判官三木昌之

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