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判決言渡平成19年2月27日
平成18年(行ケ)第10290号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年2月22日
判決
原告株式会社イーエムイー
訴訟代理人弁護士吉武賢次
同宮嶋学
同高田泰彦
訴訟代理人弁理士永井浩之
同勝沼宏仁
同岡田淳平
被告倉敷紡績株式会社
訴訟代理人弁理士伊藤晃
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80231号事件について平成18年5月23日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
原告が特許権者である後記特許の請求項1∼5について,被告が無効審判請
求をしたところ,特許庁がこれを無効とする審決をしたことから,これに不服
の原告が,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成9年10月1日,名称を「混練脱泡方法及び混練脱泡装置」
とする発明について,特許出願をし,平成16年8月20日特許第3586
741号として設定登録を受けた(請求項1∼5。甲2。以下「本件特許」
という。。)
これに対し被告から,本件特許の請求項1∼5につき特許無効審判請求が
なされたので,特許庁は,これを無効2005−80231号事件として審
理した上,平成18年5月23日「特許第3586741号の請求項1∼,
5に係る発明についての特許を無効とする」旨の審決をし,その謄本は平。
成18年6月2日原告に送達された。なお,その後平成18年7月6日に至
り,職権により字句の訂正等を内容とする審決の更正決定がなされた。
(2)発明の内容
本件特許は,前記のとおり請求項1∼5から成るが,その発明の内容は,
下記のとおりである(以下順に「本件発明1」等という。。)

【請求項1】
被混練材を収容した混練容器を公転させながら自転させ,被混練材を混練す
る混練工程中の少なくとも一部において,前記混練容器内に0.5∼50t
orrの真空圧をかけることを特徴とする混練脱泡方法。
【請求項2】
混練容器を公転させながら自転させる混練工程の前段を大気圧下で行い,後
段を真空圧下で行うことを特徴とする請求項1記載の混練脱泡方法。
【請求項3】
混練容器内を真空圧下に曝す時間は0.5∼20分間であることを特徴とす
る請求項1もしくは請求項2記載の混練脱泡方法。
【請求項4】
一端が開口した容器本体(筐体本体)と,前記容器本体の開口部を気密に密
閉する着脱自在型の容器蓋体(封装体)と,前記容器本体内に振動吸収体を
介して装着配置された支持板と,前記支持板に支持された公転用駆動モータ
と,前記公転用駆動モータの回転を伝動する鉛直方向へ延びる回転軸に略水
平に装着された公転体と,前記公転体の遠心側(外周縁側)に配置され,蓋
付き混練容器を支持して前記回転軸の軸線に対して傾斜した軸線で回転する
容器ホルダーと,前記容器本体及び容器蓋体の少なくともいずれか一方に設
けられた真空引き孔を介して気密化された容器(筐体)内を0.5∼50t
orrに真空化する真空ポンプと,前記容器ホルダーに支持される蓋付き混
練容器の蓋に設けられ混練容器内と連接する排気孔とを有することを特徴と
する混練脱泡装置。
【請求項5】
容器本体が冷却機構を具備していることを特徴とする請求項4記載の混練脱
泡装置。
(3)審決の内容
審決の内容は,別添審決写し及び更正決定写しのとおりであり,その要点
は,本件発明1∼5は,その出願前に頒布された下記刊行物に記載された発
明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,という
ものである。

・特開平6−71110号公報(甲3。以下「甲3公報」といい,ここ
に記載された発明を「甲3発明」という)。
・特開昭62−210009号公報(甲4。以下「甲4公報」といい,
ここに記載された発明を「甲4発明」という)。
・特開平5−200203号公報(甲5。以下「甲5公報」といい,こ
こに記載された発明を「甲5発明」という)。
・特表平5−503031号公報(甲6。以下「甲6公報」といい,こ
こに記載された発明を「甲6発明」という)。
・特開平8−243371号公報(甲7。以下「甲7公報」といい,こ
こに記載された発明を「甲7発明」という)。
・特開平9−29086号公報(甲8。以下「甲8公報」といい,ここ
に記載された発明を以下「甲8発明」という)。
(4)審決の取消事由
しかしながら審決は,以下に述べるとおり,本件特許の進歩性についての
判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本件発明1の進歩性の判断の誤り)
審決は,公自転による被混練材の流動を利用する着想の困難性及び該被
混練材の流動による本件発明1の作用効果の非予測性を看過し,事後的に
本件発明1が単に従来の技術を組み合わせたものであるとしてその容易推
考性の判断を誤ったものである。
(ア)公自転による被混練材の流動について
原告は,粘度と材料を種々変えて以下の実験を行い,また,1分に至
るまでの混練の様子についても実験し,一般に公自転による混練では,
被混練材が材料内部から上表面中心部に浮上し,材料の上表面の中心部
から周壁に向かって薄い層になって流動することを証明した。本件発明
1は,周知技術の裏で生じているかかる自然現象を知得し,この自然現
象と真空引きとを組み合わせることによる効果を予見してなされたもの
である。
①実験報告書「粘度の違いによるエポキシ樹脂流動確認結果(甲3」
3)
甲33は,種々の粘度の被混練材による実験,および,1分に至る
までの被混練材の流動の実験を行ったものである。すなわち,透明
なエポキシ樹脂JER834を主剤に,粘度調整剤JER828によって粘度を
調整した1万cps,10万cps,20万cps,40万cpsの被混練材に
つき公自転を作用させ,その流動の様子を撮影するために,染料と
してJER8345gにエポキシ用着色料R−80マリンブルー5滴を混ぜ
て製作し,撹拌前,撹拌開始後5秒,撹拌開始後20秒の被混練材
の様子を,混練容器の上方から撮影した。
1万cps以下の低粘度のものは,染料を垂らした途端に自然の混合
が開始され,混練の様子が撮影できないため,写真を提示できないが,
1万cps∼40cpsの広範囲にわたって作用する力学が1万cps以下で
も同様に作用すると推察できる。
甲33の写真に示すように,被験材の全部について,撹拌前は被混
練材の中心部にあった染料が,混練の途中では螺旋状の青い筋として
観察され,混練が進むと被混練材の中心部に透明な主剤が集まってい
る孔が観察される。
甲33において,染料の移動の跡が螺旋状の青い筋として観察され
るが,これは容器の回転に伴う伴流であり,渦状になって中心に吸い
込まれることを示すものではなく,撹拌開始後に最初に周壁近傍が青
くなることから,染料が中心部から周壁に向って移動していることは
明らかである。
すなわち,甲33には,種々の粘度の被混練材において,被混練材
の上表面の中心部にあった材料が,周壁に向かって薄い層になって移
動し,周壁に到達した後に中心部に向かうが,中心に到達する前に再
び周壁に引き返すこと,しかも,この被混練材の移動の様子は,審決
が否定した混練開始後の1分以内でも同様であることが示されている。
②実験報告書「シリコーン流動断面確認結果(甲34)」
甲34は,15万cpsのシリコーンを主剤に,主剤の中心部に,TSE
3402A16gに顔料(ランプブラック)15滴を混ぜて製作した染料
を垂らし,撹拌開始後の45秒,120秒,240秒で被混練材を硬
化させ,回転軸を通るように切断して,断面を撮影したものを示して
いる。
甲34は,甲33の種々の粘度の被混練材が材料内部から材料の上
表面に浮かび上がり,材料の上表面の中心部から周壁に向かって薄い
層になって移動していることを示し,かつ,甲31(実験報告書「粘
土による攪拌状況の推移)のような高粘度のものに限らず,低粘度」
の被混練材も,材料内部から材料の上表面に浮かび上がって材料の中
心部から周壁に向かって薄い層になって移動することを示している。
③実験報告書「エポキシ樹脂流動確認結果(甲35)」
甲35は,7万cpsの透明なエポキシ樹脂JER834を主剤にして公自
転を作用させ,その流動の様子を撮影するために,染料としてJER834
5gにエポキシ用着色料R−80マリンブルー5滴を混ぜて製作し,撹
拌開始後5秒,10秒,15秒,30秒の被混練材の様子を,混練容
器の上方から撮影したものである。
甲35においても,被混練材の中心部に垂らした着色料が撹拌開始
後10秒の時点で,周壁に到達し,その後,中心部に戻ろうとするが,
中心に到達する前に再び周壁に向かって移動することにより,被混練
材の中心部に透明な主剤が集まった孔が出現することが示されている。
④混練脱泡の様子(動画:甲36,写真:甲37)
甲36は,公自転による混練脱泡の様子をストロボ撮影した動画で
あり,甲37は,そのいくつかの段階の写真である。
甲36,37は,公自転による混練脱泡は,被混練材が材料内部か
ら材料の上表面に浮かび上がって,周壁に向かって流動し,その際に
気泡が周壁近傍に滞留し,気泡同士が衝突して破裂する様子を示して
いる。
⑤以上の①∼④に沿わない甲3(特開平6−71110号公報,甲)
15(長尾文喜,河口博「6.脱泡型撹拌装置〔日本接着学会「接」
着の技術」vol.19No.4200034∼37頁,甲16(株式会社ア〕)
イ・ケイ・エス技術部A「実験報告書・自転公転型混練脱泡装置に
おける被混練材の流動について,甲17(被告システム開発部主」)
任部員B「実験報告書・遊星攪拌方式による混練物の流動性につい
て)は,いずれも事実を誤って認識している。」
⑥被告が提出した甲22(被告システム開発部主任部員B「粘土に
よる攪拌状況の追試観察報告書)によっても,撹拌開始後30秒,」
40秒の時点では,混練容器の上部では乱れが見えるが(写真5,
7,撹拌開始後50秒,60秒後の写真9,11では,結局原告の)
主張通りの,表面の材料が周壁に向かって移動し,周壁に到達した後
に中心部に向かって移動し,中心に到達する前に周壁に向かって引き
返す挙動を示している。
また甲22が甲31(原告の実験報告書「粘土による攪拌状況の推
移)の追試というならば,甲31に示すように,粘土も最初に癒着」
させた状態で撹拌を開始しなければならない。
(イ)公自転と真空引きの組合せの容易性について
審決は「甲3発明の公自転による撹拌脱泡方法に,脱泡手段として,
周知慣用の技術事項である真空を作用させることを付加することは,当
業者が容易に想到し得るものといえる(15頁下9行∼下7行)と。」
する。
しかし,公自転を作用させることにより,被混練材の流動が上記(ア)
で述べたように材料の内部から上表面に浮かび上がり,被混練材の上表
面を薄い層になって周壁に向かって移動することは,本件発明の出願前
には知られていなかった事実である。
本件発明1は,被混練材が上述したように材料の内部から上表面の中
心部に浮き上がり,材料の上表面の中心部から周壁に向かって薄い層に
なって流動することにより,真空引きをした時に,被混練材の薄い層が
真空に接し,きわめて効率よくかつ微細な気泡まで脱泡することができ
るのである。
上記被混練材の流動の方法を知らない出願前の当業者には,公自転と
真空引きを組み合わせたときの効果は予測できないものであった。
甲24∼甲31(いずれも原告作成の試験結果等の報告書)に示すよ
うに,本件発明1によれば,従来のいずれの技術に比しても,きわめて
短時間で微細な気泡を脱泡することができるようになる。
このように,本件発明1は,本件出願前において当業者に知られてい
なかった公自転の被混練材の流動の事実に基づいてなされたものである
から,本件発明1が従来技術を容易に組み合わせてなし得るものとは言
えない。
(ウ)0.5torr∼50torrの真空圧を混練脱泡工程の一部にか
けることについて
審決は「…本件発明1の「0.5∼50torrの真空圧」に格別,
の臨界的意義も見当たらないことから,当業者であれば通常使用される
範囲を含む真空圧において,被処理材の粘度等に基づいて本件発明1の
真空圧の範囲に選択することは適宜為し得るものといえる(16頁。」
下12行∼下9行「…真空圧やタイミングは,全工程真空をかけた),
り,後段の工程にかけたりすることが普通に行われるものであり,経済
性や脱泡性能等を考慮して適宜選定され得る設計的な範疇に属するもの
であるから「混練工程中の少なくとも一部において真空にする」とい,
うタイミングについての構成を加えることは当業者であれば容易になし
得るものといえる(17頁5行∼10行)とする。。」
しかし,本件発明1は,上述したように,被混練材が材料の内部から
材料の上表面の中心部に浮き上がり,材料の上表面の中心部から周壁に
向かって移動するときに,薄い層になって真空圧に接することにより,
きわめて効率よく脱泡することができるところに眼目があり,真空圧の
数値に限られなくとも,従来の技術に比してきわめて効率よく脱泡する
ことができるものである。
すなわち,本件発明1は,真空圧の数値に限定されなくても,同じ
真空圧であれば従来の静置脱泡,真空プロペラ式撹拌,大気圧公自転
撹拌のいずれの技術に比しても,きわめて高効率(時間)かつ高性能
(泡径)で脱泡できるものであるから,これに照らせば,0.5to
rr∼50torrに限定したことに格別の臨界的意義が見当たらな
いから当業者が本件発明1の真空圧の範囲を適宜選択し得たものであ
る,とは言えない。
また,上述したとおり,本件発明1は,被混練材が材料の内部から材
料の上表面の中心部に浮き上がり,材料の上表面の中心部から周壁に向
かって移動するときに,薄い層になって真空圧に接することにより,き
わめて高効率かつ高性能で脱泡できるため,混練脱泡工程の一部に真空
圧をかければ,その間に従来の技術に比して迅速に脱泡することができ
る。
格別サブミクロンの気泡まで脱泡することを要求されない被混練材も
存在しており,かかる被混練材については,混練脱泡の工程の一部に真
空圧をかけることによって,短時間で数十ミクロン程度まで脱泡し,脱
泡時間を大幅に短縮化することができ,技術的な効果を有する。
したがって,混練脱泡の工程の一部に真空圧をかけた場合は,サブミ
クロンの気泡の脱泡を必ずしもできないから本件発明1は技術的な効果
を奏しない,とは言えない。
(エ)サブミクロン気泡の除去について
審決は,本件発明1がサブミクロンの気泡まで除去できる点について,
サブミクロンの気泡の除去は本件明細書の記載に基づく主張とは言えな
いと指摘した上で,真空プロペラ式撹拌の場合でも時間がかかっても達
成し得るものであり,また,甲19(特開平4−114766号公報)
に記載された事項を根拠に本件発明1が達成し得る効果は格別通常達成
できなかったレベルではないと判断している(18頁29行∼19頁3
0行)が,以下の①∼③に照らして誤りである。
①本件発明1の効果は,被混練材が材料内部から材料の上表面の中心
部に浮かび上がり,薄い層になって真空圧に接することによる効果で
あり,従来の技術のいずれに比してもきわめて高効率かつ高性能に脱
泡することができる点にある。すなわち,所定の条件で本件発明1の
方法によれば,サブミクロンの気泡まで除去でき,一般的に従来の技
術に比して高効率かつ高性能で脱泡できるものである。
②しかるに,真空プロペラ式撹拌の方法については,甲38(山本一
夫,西野宏監修「攪拌技術」佐竹化学機械工業株式会社,1992年
(平成4年)12月18日発行,89頁∼111頁)に示されている
ように,プロペラの周辺では被混練材が循環し,被混練材が表面に浮
かび上がることが少ない。また,甲38の材料のフローに示されてい
るように,真空プロペラ式撹拌の方法では,プロペラ周辺の材料はプ
ロペラ周辺で循環することが主であり,内部の材料(循環の中心部に
ある材料)が外部に出る作用が少ない。
「,さらに,甲39(新しい攪拌技術の実際」株式会社技術情報協会
1989年(平成元年)7月15日発行,24頁∼25頁)に記載さ
れているように,プロペラ式撹拌では,プロペラの軸に沿う軸流より
も,水平回転流が支配的となるから,被混練材が表面に浮かび上がる
作用は小さい。
以上のように,被混練材が表面に浮かび上がる作用が小さいこと,
および,甲38が示すように循環作用が小さいことが重なって,真空
プロペラ式撹拌は本件発明1の効果より大幅に劣ることは明らかであ
る。
③また,甲19(特開平4−114766号公報)については,9頁
左上欄7行∼8行に「…190℃の溶解温度で」と記載されているが,
通常,有機剤を含む被混練材は,190℃に加熱すると変質し,使用
することができなくなる。甲19の技術は,加熱することができる特
定の材料,たとえばホットメルトに使用する材料に限られ,大多数の
材料に使用することができない。このように,甲19の技術は,甲3
発明に適用することが一般的に困難であり,かかる技術と本件発明1
とを比較することは妥当ではない。
さらに,甲19は,加熱,20∼30分間脱気処理,冷却等に時間
がかかり,数分程度で微細な気泡を除去することができる本件発明1
は,効率の点でも,甲19記載の技術に比して,顕著な効果を有する。
(オ)甲5公報を主引例とする審決の判断について
審決は,甲5公報を主引例とすると,本件発明1は公自転を行うのに
対して甲5発明は回転撹拌を行う点(相違点2,及び,本件発明1))
は0.5∼50torrの真空圧を混練工程の一部にかけるのに対して
甲5発明では所定の真空圧(たとえば1∼10torr)を全工程でか
けている点(相違点3)で相違するが,甲5発明に,甲3発明・甲7)
発明・甲8発明に記載の周知技術を組み合わせることは容易であり,0.
5∼50torrの真空圧を混練工程の一部にかけることに技術的な意
味はないとする(20頁21行∼31行。)
しかし,上述したように,甲5発明は,真空プロペラ式撹拌の技術で
あり,前記甲38に記載されているように,材料はプロペラの周辺で循
環し材料が内部(たとえば循環の中心部)から外部に出る作用が小さく,
また,同じく甲39に記載されているように,材料は主に水平に回転す
るため,材料表面に浮上する作用が小さく,本件発明1の効果を奏する
ことができない。さらに,公自転による撹拌によれば被混練材が材料の
内部から材料の上表面に浮上し,材料の上表面の中心部から周壁に向か
って薄い層になって移動するという事実は本件発明の出願前の当業者に
知られておらず,当然に公自転と真空引きを組み合わせることによる顕
著な効果は予測できず,さらにまた,本件発明1の効果は真空圧の数値
限定によらなくても実現され,混練工程の一部に真空圧をかければ,そ
れだけ混練脱泡が迅速化される。
したがって,甲5公報を主引例としたとしても,本件発明1は進歩性
を有する。
イ取消事由2(本件発明2,3の進歩性の判断の誤り)
審決は,本件発明1が本件特許の出願前に当業者が容易に推考できたも
のであり,本件発明2,3は本件発明1に周知慣用技術を付加したもので
あるから,本件発明2,3は本件発明1と同様に本件出願前に当業者が容
易に推考できたものであるとする。
しかし,上記アに記載したとおり,本件発明1は,本件出願前に当業者
が容易に推考できなかったものであり,かかる本件発明1の構成を有する
以上,本件発明2,3も本件出願前に当業者が容易に推考できなかったも
のである。
ウ取消事由3(本件発明4,5の進歩性の判断の誤り)
(ア)本件発明4について
①審決は「…甲5には,甲8発明と同様の撹拌脱泡に関する技術的,
事項が開示されているといえ,甲8発明は公転自転の脱泡機構が一つ
のケーシング内に収容された構造であることから,甲8発明の混練装
置に更に脱泡性能を向上させるために,甲5に記載される「減圧され
た真空槽」を適用することは当業者であれば格別困難なく行えること
である。…(23頁11行∼16行「…本件発明4は,甲第8号」),
証及び甲第3∼5,7号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものである(23頁下10行。」
∼下8行)とする。
②しかし,甲5公報に記載された装置は,回転機構を有する部分は回
転軸9と真空槽1の接触部分に限られ,且つ,被混練材は,内側の容
器3を隔てて,回転軸9のベアリングから遠く配置されており,これ
により,真空引きした場合に,ベアリングの潤滑油が沸騰しても,潤
滑油の飛沫が被混練材に混入することが避けられている。しかるに,
甲3発明,甲4発明,甲5発明のような公自転を行う機構は,多数の
ギアとベアリング等の機械機構を有し,潤滑油が随所で使用されると
ころ,潤滑油は,真空圧をかけた場合に沸騰し,飛沫が被混練材に混
入するおそれがある。このため,公自転を行う装置は,真空引きを行
わないか(甲3,真空引きする場合は,真空ホース14等によって)
自転しながら公転する容器の内部を真空引きするための複雑な機構を
有する(甲4。)
③他方,本件発明4は,ベアリング等の潤滑油を沸騰しにくい潤滑油
にした上で,混練容器8に蓋8aをし,さらに公自転の機構全体を密
閉可能な容器本体1と容器蓋2の内部に収納し,容器本体1と容器蓋
2のいずれかと混練容器8の蓋8aに真空引きのための孔を設けてい
る。
本件発明4によれば,ベアリング等の潤滑油が沸騰しにくいために
ベアリング等の機能が維持され,かつ,仮に潤滑油が真空引きによっ
て飛沫になったとしても,混練容器8の内部は少なくともその外部か
つ容器本体1の内部である空間の圧力以上の圧力を有し,潤滑油が被
混練材に混入することが少ない。
本件発明4は,機構的には容器本体1と容器蓋2のいずれかと混練
容器8の蓋8aに真空引きのための孔を設けることにより,甲4のよ
うな複雑な機構を簡略化し,それでいて甲4の真空公自転の機能を実
現することができる。
④以上によれば,審決は,甲8発明に甲5の真空槽1を適用する場合
の技術的な困難性を看過し,この結果,本件発明4は当業者が容易に
なし得たものと誤って判断したものである。
(イ)本件発明5について
①審決は「本件発明5は,本件発明4を引用し,本件発明4の構成,
に加え,更に「容器本体が冷却機構を具備している」構成を付加する
ものであるが,混練脱泡において冷却機構を備えることは,甲11
〔判決注,特開平1−207121号公報〕や甲12〔判決注,特開
平8−141382号公報〕に開示されるように周知の技術的事項で
あるから,かかる周知事項を甲8発明に具備させることは当業者が困
難なく行えることといえる(23頁下6行∼下2行)とする。。」
②しかし,本件発明4は,上記(ア)で述べたように,真空圧公自転を
行う混練脱泡装置において,甲4に示されているような従来必要とさ
れた複雑な機構を,簡単な機構によって簡略化し,しかも,従来の真
空圧公自転を行う混練脱泡装置と同等以上の作用効果を奏することが
できるため,進歩性を有するものである。
③そうすると,本件発明5は,本件発明4の特徴的な構成を有し,本
件発明4が上述した理由で進歩性を有するものである以上,本件発明
5も進歩性を有するものであるから,審決の上記判断は誤りである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1,2に対し
ア原告は,審決が本件発明1∼3の容易推考性の判断を誤ったと主張し,
その根拠として,公自転による攪拌を行うと,被混練材の内部の材料が上
表面に移動し「薄い層」になって被混練材の上表面の中心部から周壁に,
向かって移動するという現象(以下「薄層流動現象」という)が本件特。
許の出願前には知られていなかったこと,かかる「薄層流動現象」を利用
することにより,被混練材を薄い層状で真空圧に触れさせ,これによって
極めて微細な気泡まで短時間で除去することができるという作用効果を看
過したことを挙げている。
イしかし,かかる「薄層流動現象」を根拠とする主張は,本件明細書及び
その請求項の記載に基づかない主張であるので,主張自体が失当である。
また,原告の主張する「薄層流動現象」が公自転混練(=攪拌)における
被混練材の流動性として正しいと仮定したとしても,その「薄層流動現
象」は,<公自転攪拌+真空引き>技術のなせる技ではなく,公自転攪拌
技術自体のなせる技である。公自転攪拌の技術自体は周知の技術であるか
ら「薄層流動現象」は周知技術により必然的に生じていた現象であると,
いうことができ,本件特許の出願前に既に公然実施されていた公知又は周
知の現象であったということができる。
また,真空脱泡の原理は,被混練材の表面近傍に含まれる気泡を真空引
きにより膨脹させて脱泡するものであるから,気泡の含まれている被混練
材を攪拌して対流を生ぜしめることにより被混練材全体の位置を入れ替え,
常に表面に位置する材料を入れ替えればよいだけのことであるので「薄,
膜流動現象」における材料の流動方向や薄い層状移動は脱泡技術として格
別の意味を持たない。したがって,たとえ原告の主張する「薄膜流動現
象」を是認したとしても,真空公自転脱泡技術の脱泡効果に影響を与えな
いので,その現象は審決の結論に何の影響もない。
ウ「薄膜流動現象」において,被混練材が薄い層で移動するという現象把
握は誤りである。前記甲31,34の実験では色違いの粘土を使用してい
るために,例えば青色の粘土が渦状すなわち層状になって移動しているよ
うに見えるがこれは錯覚に過ぎない。実際には,青色粘土の周辺の白色粘
土も着色粘土に追随して移動している。
エ(ア)原告は甲33,34の実験を行い,1万cpsの粘度の被混練材を使
用しているが,それ以下の粘度のものについては全く実験をせず,1
万cps∼40万cpsの広範囲に亘って作用する力学が1万cps以下でも同
様に作用すると推察できると主張する。しかし,この推察が正しいと
いう根拠はない。原告は,1万cps以下のさらさらの液状被混練材の場
合に「薄膜流動現象」を実験により可視的に示すことは実験技術上極
めて困難である故に,これらの実験を行っていないものと推測できる
が,実証できないのであれば,粘度の異なる被混練材一般について,
「薄膜流動現象」が生じると断定することはできない。
(イ)また,前記甲33の各実験は実験条件(公転・自転回転数)が異なっ
ている。同一実験条件では「薄膜流動現象」が得られなかったからと
推認できる。同一の実験条件で実験した場合に,同一の結果がでると
の保証はない。
(ウ)原告の提出する甲31,33,34の実験,これに対抗する乙1
(Bの実験報告書)の実験及び前記甲16,22の実験を総合して判
断すれば「実験条件(被混練材の比重,種類,公自転の回転数等)が,
異なれば,被混練材の流動性はそれぞれ異なり,混練時間の経過とと
もに非常に不規則な変化を生じ,一定の法則性を持った原告の主張す
る「薄層流動現象」は常に生じるものではない。混練カップの周壁及
び底壁と接する被混練材の外皮部分の流動性と,外皮部分の内側の内
部部分の流動性が異なる場合がある。外皮部分の流動性も上部と下部
とで流動方向を異にする傾向があり,また,内部部分の流動性も一定
方向ではなく複雑な動きをなす場合があり,乱流を生じる場合も見ら
れる」との結論が導き出せる。。
オ原告は,甲3発明の公自転による攪拌脱泡の方法に,脱泡手段として周
知慣用の真空引きを組み合わせることが容易想到とする審決を誤りである
と主張するが,その根拠は,結局のところ「薄層流動現象」が本件発明,
1∼3の出願前には知られていなかった事実であるので,その知られてい
なかった事実に基づいて本件発明1∼3の効果を予測し得なかったという
ものである。
しかし,前記イのとおり,原告の上記主張は本件明細書及び請求項の記
載に基づかない主張であるので主張自体が失当であり,また,被混練材の
流動状態は混練条件によって様々であって「薄層流動現象」なる現象が,
一般的に生じるということはできないから,これを根拠とする原告の上記
主張は失当である。
カ原告は,0.5torr∼50torrの真空圧を混練脱泡工程の一部
にかけることについて,真空圧を一定の範囲に限定したことに格別の臨界
的意義が見当たらないから当該真空圧の範囲は適宜選択し得るとした審決
を誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,結局,真空圧の範囲の臨界的意義に関する審決
の説示について争うものではなく,本件発明1∼3の「薄層流動現象」を
根拠として進歩性を主張するものであるところ,これが失当であることは,
上記オに記載したとおりである。
キ(ア)原告は,本件発明1がサブミクロンの気泡まで除去できる効果を有
し,その効果は「薄層流動現象」による効果であると主張するととも
に,従来の技術に比較して高効率かつ高性能に脱泡することができる
と主張する。
しかし,前記のとおり「薄層流動現象」を根拠に発明の効果を主張す
ること自体失当である上「真空攪拌→大気圧自転攪拌」の場合が真空,
のタイミングを問わない本件発明1に含まれることは明らかであるの
で,サブミクロンの気泡が常に除去できることにはならない。
(イ)原告は,審決が,甲19(特開平4−114766号公報)に基づ
いて本件発明1が達成する効果は格別通常達成できなかったレベルと
見ることはできないとしたのを誤りと主張する。
しかし,審決は,甲3発明に甲19の技術を適用することにより本件
発明が容易想到であるとしているものではなく,本件発明の「真空を
かける」点に関して,甲4公報,甲5公報,甲6公報,甲18(特開
平7−218921号公報,甲19(特開平4−114766号公)
報,甲20(特開平8−131711号公報)に記載があることを認)
定し,これらの公知文献から,真空を作用させて脱泡を行うことや,
真空を攪拌或いは遠心力と併用して脱泡を行うことが周知慣用の技術
事項であると認定するとともに,甲3発明の公自転による攪拌脱泡方
法に,脱泡手段として周知慣用の技術である真空を作用させることを
付加することは,当業者が容易に想到し得るとしているものであり,
かかる審決の説示に誤りはない。
(2)取消事由3に対し
ア原告は,審決は,公自転機構全体を真空槽の内部に収容して真空引きし
た場合に,ギアやベアリングの潤滑油が沸騰し,被混練材に潤滑油が混入
するなど,公自転機構に生じ得る技術的に困難である点を看過していると
主張する。その根拠として,本件発明4は,①ベアリング等の潤滑油が
沸騰しにくい潤滑油にしたこと,及び,②公自転の機構全体を密閉可能
な容器本体1と容器蓋2の内部に収納し,容器本体1と容器蓋2のいずれ
かと混練容器8の蓋8に真空引きのための孔を設けたこと,を挙げている。
しかし,原告が根拠とする①は,請求項4の記載に基づかない主張であ
るので失当であり,②については,審決の述べるとおり,真空槽とするこ
とに伴って気密構造とすることや真空引き孔を設けること,あるいは混練
容器にも孔を開けて連通させることは,設計上至極当然の理であるから,
原告の上記主張は失当である。
イまた原告は,本件発明5は本件発明4に冷却機構を具備したものであり,
本件発明4が進歩性を有する以上,本件発明5も進歩性を有すると主張す
る。
しかし,本件発明4が進歩性を有するという原告主張が失当であること
は上記アに記載したとおりであるから,原告の上記主張も失当である。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
そこで,審決の違法の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2取消事由1(本件発明1の進歩性の判断の誤り)について
(1)本件発明1の要旨の認定
ア本件発明1の特許請求の範囲には,前記第3の1(2)のとおり「被混,
練材を収容した混練容器を公転させながら自転させ,被混練材を混練する
混練工程中の少なくとも一部において,前記混練容器内に0.5∼50t
orrの真空圧をかけることを特徴とする混練脱泡方法」との記載があ。
るが,かかる記載は,審決において引用された甲3公報の【特許請求の範
囲【請求項1】に「…公転させながら自転させることにより,その遠心】
力作用を利用して,該被処理物中の比重の重い液体を外側へ移動させると
共に,該外側への液体移動に伴って該液体中に混入する気泡をその反対方
向に押し出して液体と気泡とを分離する脱泡作用を行う…(下線は判決」
で付加)とあるのとは異なり,公自転により生じる具体的現象や,これに
さらに真空圧を加えた場合の脱泡の具体的機序については何ら述べておら
ず,これらを容易に理解できるに足る記載はない。そうすると,当業者
(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,本件
発明1の特許請求の範囲の記載から,本件発明1が①「公転させながら自
転させ」ること,と,②「真空圧をかける」ことを特徴とする旨把握する
に止まり,それを超えて,公自転にさらに真空圧を加えた場合の脱泡の具
体的機序につき,公自転による撹拌を行ったときに被混練材の内部の材料
が上表面に移動し,薄い層になって被混練材の上表面の中心部から周壁に
向かって移動するという現象が生じることを,容易に理解できるというこ
とはできない。
イこのことは,本件特許の明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載から
も裏付けられる。
(ア)すなわち,同発明の詳細な説明には以下の記載がある。
①発明の属する技術分野
「本発明は,被混練材の混練脱泡方法,及び混練脱泡装置に係り,さ
らに詳しくは被混練材を収容した混練容器を公転させながら自転させ
て混練脱泡する方法,及びその方法の実施に適する混練脱泡装置に関
する(段落【0001)。」】
②従来の技術
「高精密度が要求される構造部材用の素材,たとえば液晶表示装置用
の液晶材料,歯科用印象材,ペースト状薬剤などの混練物の調製・製
造においては,所定の被混合剤を攪拌・混練する一方,混練物に気泡
が残留しないことが望まれている。そして,このような混練物を調製
・製造する手段として,次のような混練脱泡手段が知られている」。
(段落【0002)】
「すなわち,一端が開口した容器本体(筐体本体)と,前記容器本体
の開口部を気密に密閉する着脱自在型の容器蓋体(封装体)と,前記
容器本体内に装着配置された支持板と,前記支持板に支持された公転
用駆動モータと,前記公転用駆動モータの回転を伝動する鉛直方向へ
延びる回転軸に略水平に装着された公転体と,前記公転体の遠心側
(外周縁側)配置され,蓋付き混練容器を支持して前記回転軸の軸線
に対して傾斜した軸線で回転する容器ホルダーとを有する混練脱泡装
置が知られている…(段落【0003)」】
「そして,上記混練脱泡装置によれば,被混合材料を収容した混練容
器を傾斜させた状態で公転及び自転させるので,公転によって生じる
遠心力によって混合材料内部の気泡を外部に放出させながら,混合容
器内の被混合材料を攪拌・混合させることができる。つまり,従来の
混練脱泡手段は,大気圧下で行われるので,設備の簡略性ないし省ス
ペースなどの点で有効な手段と言える(段落【0004)。」】
③発明が解決しようとする課題
「しかし,従来の混練脱泡方法,及び混練脱泡装置によって被混練材
を混練脱泡する場合,次のような問題が提起される。
(イ)混練脱泡後において,数ミクロン∼数十ミクロン程度の細かい
気泡が無数に残っており,脱泡を十分に行えない。この脱泡不十分な
問題は,特に,高精密度素材の調製・製造,精密電気・電子部材の調
製・製造,各種化学材料の調製・製造,歯科用印象材料や薬剤の調製
・製造など,混練脱泡工程を有する場合,由々しい問題である。
(ロ)調製する混練物が高い粘性を有する場合,混練容器が縦長形状
(たとえばシリンジ容器)の場合など,脱泡不十分を招来し易い。
(ハ)大気圧下での適切な混練条件,すなわち公転及び自転の回転数,
混練容器に対する被混合材料の収容量,混練時の温度などの許容範囲
が狭く,条件の選択・設定に多くの時間を要し,また,選択・設定し
た条件の維持が困難で,ロット間での品質のバラツキが生じ易い。
(ニ)脱泡を十分に行おうとすると,混練脱泡処理に数十分ないし数
時間という長時間を要するので,生産性が大幅に低下する(段落。」
【0005)】
「いずれにしても,従来の混練脱泡手段は,高精密素材にも適するよ
うな,十分脱泡された混練物の調製・製造が困難であり,また,生産
性や品質などの点で問題がある。つまり,高精密素材にも適するよう
な十分脱泡された混練物を容易に,安定的に,また,低コストで調製
・製造できる混練脱泡方法,混練脱泡装置の開発が待たれているのが
現状と言える(段落【0006)。」】
「したがって,本発明は,十分脱泡された精密素材を容易に,かつ安
定的に,また,低コストで調製・製造できる混練脱泡方法及び混練脱
泡装置の提供を目的とする(段落【0007)。」】
④課題を解決するための手段
「請求項1の発明は,被混練材を収容した混練容器を公転させながら
自転させ,被混練材を混練する混練工程中の少なくとも一部において,
前記混練容器内に0.5∼50torrの真空圧をかけることを特徴
とする混練脱泡方法である(段落【0008)。」】
「請求項1…の発明は,被混練材を収容した混練容器を…公転させな
がら自転させる混練脱泡操作を所定の真空圧下(減圧下)で行った場
合,上記従来の混練脱泡手段における課題が容易に解決されるとの知
見に基づくものである。…(段落【0013)」】
⑤発明の実施形態
「…上記構成の混練脱泡装置を使用した混練脱泡方法について説明す
る。先ず,内部に被混練材Aを収容して蓋8aを装着し,閉止した混
練容器8を容器本体1内の公転体6に装着配置されている容器ホルダ
ー7に装着する。次いで,容器蓋体2を装着して開口部を封止する一
方,空気導入口などを気密に封止し,混練容器8内に収容した被混練
材Aの種類,要求する調製混練物の特性などに対応した操作条件を設
定し駆動操作をスタートさせる。つまり,真空圧をかけるタイミング,
混練時間,真空圧などを,被混練材Aの種類などに応じて,操作・駆
動条件を設定する(段落【0020)。」】
「この操作・駆動によって,混練容器8は,公転しながら自転する一
方,容器本体1及び容器蓋体2で形成する容器内部が,所要のタイミ
ングで真空圧化し,この真空圧を少なくとも一定の時間かけられた状
態で,混練容器8内の被混練材Aが混練されるとともに,この混練容
器8内の気泡も排除される。所要の混練脱泡の操作を終了した時点で,
本体容器1内に空気を導入して真空圧を解除する。その後に,容器蓋
体2を開放して混練容器8を容器ホルダー7から取り外し,容器本体
1から取り出し,混練容器8の蓋8aを開放して,混練脱泡処理した
混練物を得る(段落【0021)。」】
「上記の操作・駆動において,混練脱泡処理の工程中での真空圧をか
けるタイミングは,全工程中真空圧をかけてもよいが,前段,中段も
しくは後段など工程の一部,あるいは複数回に分けて間歇的に真空圧
を加えてもよい。好ましくは,前段を大気圧下で行い,後段を真空圧
下で行う。なお,いずれの場合も,真空圧をかける時間は任意であり,
…(段落【0022)」】
「必要とする真空圧は,被混練材Aの種類によって決められ,たとえ
ば粘度の高い被混練材Aの場合,混練し難い被混練材Aの場合は,真
空圧を低く設定する。ここで,真空圧とは,大気圧から空気を抜いて
到達した後の真空圧を指し,初期の空気を抜いている過程の圧力では
ない。なお,真空圧が低すぎると真空ポンプ9などの設備費が高騰し
て,経済性が損なわれ易い傾向がある。そして,この真空圧は,50
torr以下,好ましくは0.5∼15torr程度であり,また,
この真空圧をかける時間は,容器本体1の大きさや,真空ポンプ9の
能力,被混練材Aの種類などによっても異なるが,脱泡効果の点から
少なくとも0.5分,好ましくは1分以上であり,生産性の点から,
20分以下,好ましくは10分以下である(段落【0023)。」】
「…図1に図示した混練脱泡装置の構成において,容器本体1が幅5
00mm,長さ690mm,高さ550mmで,0.55kwの真空
ポンプを付設具備させた混練脱泡装置を用意した。また,容器ホルダ
ー7に容量150ccの混練容器8を保持させ,その混練容器8の自
転回転数を400rpm,公転回転数を2000rpmに設定し,こ
の混練容器8内に粘度20,000cpsのエポキシ樹脂に硬化剤を
添加したものを被混練材Aとして60cc収容した。こうした条件設
定の下に,初期の0.5分間は,大気圧下で混練容器8の公転・自転
を行い,その後の2.5分間は5torrの真空圧下で混練容器8の
公転・自転を行って混練脱泡処理を行った。この混練脱泡処理したエ
ポキシ樹脂系を硬化させ,硬化樹脂を切断して断面状態を観察したと
ころ,混練が十分になされており,微細な泡の存在も認められなかっ
た(段落【0026)。」】
「比較のため,上記混練脱泡処理において,容器本体1(混練容器8
を含む)内に真空圧をかけずに大気圧下で同じ時間(3分間)混練し
た他は,同一の条件設定でエポキシ樹脂系の混練脱泡処理を行った。
そして,この混練脱泡処理したエポキシ樹脂系を硬化させ,硬化樹脂
を切断して断面状態を観察したところ,混練は十分になされていたが,
数10ミクロン程度の微細な泡の存在が認められた。また,上記具体
例の場合に比べて硬化樹脂の容量が増加しており,気泡の含有に伴う
容量(密度)増大が確認された(段落【0027)。」】
⑥発明の効果
「請求項1…の発明によれば,被混練材は,十分に混練され,かつ脱
泡も効率よく行われ,高品質の混練脱泡物を安定的に調製できる。つ
まり,被混練材が高粘度であっても,また,縦長の混練容器を使用し
た場合でも,容易に,所要の混練脱泡を行えるし,その混練脱泡の所
。要時間も短時間で足りるので,生産性ないし量産性の向上が図られる
しかも,混練脱泡処理のバッチにおけるバラツキも小さので,安定し
て高品質の混練脱泡物を得ることができる(段落【0028)。」】
(イ)以上の各記載によれば,従来の混練脱泡は,大気圧下で被混合材料
,を収容した混練容器を傾斜させた状態で公転及び自転させるものであり
公転によって生じる遠心力によって混合材料内部の気泡を外部に放出さ
せながら,混合容器内の被混合材料を攪拌・混合させることができるこ
と,しかるに,大気圧下で行う従来の混練脱泡は,数ミクロン∼数十ミ
クロン程度の細かい気泡が無数に残っており,脱泡を十分に行えず,調
製する混練物が高い粘性を有する場合,混練容器が縦長形状(たとえば
シリンジ容器)の場合など,脱泡不十分を招来し易く,また大気圧下で
の適切な混練条件,すなわち公転及び自転の回転数,混練容器に対する
被混合材料の収容量,混練時の温度などの条件の選択・設定に多くの時
間を要し,また,選択・設定した条件の維持が困難で,ロット間での品
質のバラツキが生じ易く,脱泡を十分に行おうとすると,混練脱泡処理
に数十分ないし数時間という長時間を要する,などの問題点があったこ
と,かかる問題点を解決するため,被混練材を収容した混練容器を公転
させながら自転させる混練脱泡操作を所定の真空圧下(減圧下)で行っ
た場合,上記従来の混練脱泡手段における課題が容易に解決されるとの
知見に基づき,本件発明1がなされたこと,本件発明1の実施例によれ
ば,混練が十分になされており,微細な泡の存在も認められなかったの
に対し,比較例によれば,混練は十分になされていたが,数10ミクロ
ン程度の微細な泡が存在していたこと,が認められる。
(ウ)そうすると,本件発明1は,大気圧下で公転及び自転させる従来技
術では,脱泡の程度も不十分で,また条件の選択等も困難であり所要時
間もかかるという課題があるところ,これを所定の真空圧下で行った場
合,これらの課題が容易に解決されるという知見に基づき,①「公転さ
せながら自転させ」ることに加えて,②「真空圧をかける」ことを特徴
とする本件発明1の構成が採用されたことが理解できるに止まるという
ほかなく,なぜ公自転を所定の真空圧下で行えば公自転の際の課題が容
易に解決されるのかという,知見の具体的内容,公自転にさらに真空圧
を加えた場合の脱泡の具体的機序については,何ら記載されていない。
すなわち,前記甲3公報の「…公転させながら自転させることにより,
その遠心力作用を利用して,該被処理物中の比重の重い液体を外側へ移
動させると共に,該外側への液体移動に伴って該液体中に混入する気泡
をその反対方向に押し出して液体と気体とを分離する脱泡作用を行う
…(段落【0012)のような,または下記(2)イ(イ)④(甲20の」】
開示内容)のような脱泡の具体的機序の開示はなされていない。
したがって,従来の①公自転による撹拌を行ったときに被混練材の内
部の材料が上表面に移動し,薄い層になって被混練材の上表面の中心部
から周壁に向かって移動するという現象が生じ,かかる現象が生じるこ
とにより,②の真空圧をかけるという構成を加えれば,被混練材は十分
に混練され,かつ脱泡も効率よく行われ,混練脱泡の所要時間も短時間
で足りるなどの効果が生じるという脱泡の具体的機序を,本件特許明細
書(甲2)の発明の詳細な説明から読みとることはできない。
(エ)さらに,混練技術における通常の真空圧として,下記(2)に認定する
とおり,甲5公報には「所定の真空度(例えば1∼10Torr(段)」
落【0012,3頁右欄35行∼36行)と,甲6公報には「…絶対】
圧は,1000∼2000Paの範囲…(3頁左上欄16行∼17行,」
換算値:7.5∼15torr)と,さらに甲19(特開平4−114
766号公報)には「圧力5∼500mmHg(特許請求の範囲・請,」
求項1,換算値:5∼500torr)とが記載されているから,本件
発明1のように0.5∼50torrの真空圧にすることも通常採用さ
れている真空圧の範囲と同等というべきであって,格別の意義があるも
のとは認められない。
ウ以上のア,イによれば,本件発明1の要旨は,①公転させながら自転さ
せることと②真空圧をかけることにより,混練材の脱泡をする方法である
と認められるに止まるというべきである。すなわち,上記①を行うことに
より,被混練材の内部の材料が上表面に移動し,薄い層になって被混練材
の上表面の中心部から周壁に向かって移動するという自然現象が生じ,こ
の自然現象と上記②を組み合わせたものが本件発明1であるとの開示がな
く,これを当業者が容易に理解できるに足る記載はないというほかない。
,したがって,実際に上記のような自然現象が生じるかどうかにかかわらず
こうした開示のない事項を根拠として,本件発明1が,上記①に上記②を
組み合わせた構成が有する効果を超える,予測できない効果を有するとま
でいうことはできない。
(2)本件発明1の容易想到性
ア審決が認定した甲3発明の内容は,
「被処理物の所要量を収容した容器を公転させながら自転させることに
より,撹拌作用と液体と気泡とを分離する脱泡作用を同時に行う液体の
撹拌・脱泡方法(14頁末行∼15頁2行)」
であり,本件発明1との相違点()は,ⅰ
「本件発明1では『混練工程中の少なくとも一部において,前記混練容
器内に0.5∼50torrの真空圧をかける』のに対し,甲3発明は,
かかる構成を有しない点(15頁10行∼12行)」
である。
イ相違点()につきⅰ
真空を作用させて脱泡を行うことや,真空の作用に攪拌あるいは遠心力
を併用して脱泡を行うことについて,以下の(ア),(イ)のとおり本件特許
,の出願前に開示されていたと認められるから,下記(ウ)に説示するとおり
これらの事項は,気泡の除去という課題を解決する手段として,当業者に
周知の技術事項であると認められる。
(ア)真空を作用させて脱泡を行うこと
。①甲18(特開平7−218921号公報)には,以下の記載がある
・「図2に示す基板1上に…シール2を形成する。…スペーサー3を散
布した。スペーサー3としては粒径6μmのガラスビーズを使用し
た(段落【0020)。」】
・「…基板11表面には噴霧器により液晶12を粒子状にして塗布し
た(段落【0021)。」】
・「…基板1と液晶塗布直後の基板11を大気中で接合する。接合され
た基板1と基板11を真空中に放置することにより液晶12の脱泡す
ると同時に,基板1と基板11を接合した際に液晶内に取り残された
気泡を取り除く。…(段落【0022)」】
。②甲19(特開平4−114766号公報)には,以下の記載がある
・「真空加熱溶融槽を有する塗布装置により,該溶融槽内のホットメル
ト接着剤溶融液を,圧力5∼500mmHg,液温度100∼250
℃,液滞留時間20分以上に保持し,連続的または定量間欠的に吐出
させて塗布することを特徴とするホットメルト接着剤の塗布方法」。
(特許請求の範囲・請求項1)
・「…ホットメルト接着剤A∼Fを…溶解後,…溶融槽内を真空度20
mmHgとし約20∼30分間脱気処理をした。…いずれの吐出メル
トも肉眼で全く気泡の混入が見られず,しかも低温凍結破断面の顕微
鏡観察によっても微細なミクロ気泡の存在はほとんど発見されなかっ
た(第9頁左上欄6行∼下1行)。」
③以上の①,②によれば,脱泡という課題の解決手段として真空を作
。用させることは,当業者にとって周知の技術事項であると認められる
(イ)真空を攪拌あるいは遠心力と併用して脱泡を行うこと
①甲4公報には,以下の記載がある。
・「気泡を含有する高粘性液を収容する密閉容器と,該密閉容器を所定
の半径で回転させる回転駆動手段と,上記密閉容器内を減圧する減圧
手段とを備えたことを特徴とする真空遠心分離脱泡装置(特許請求。」
の範囲・請求項1)
・「本発明は真空遠心分離脱泡装置に係り,特に熱硬化性樹脂等の高粘
性液中に含有されている気泡を脱気する装置に関するものである」。
(1頁右欄下2行∼2頁左上欄1行)
・「従来,この脱泡処理として…真空容器内で減圧して樹脂中の気泡を
膨張させ,樹脂から発泡させることにより除去する方法が採られてい
た。この場合,単に減圧するだけでは発泡し続けて樹脂が樹脂用容器
からあふれ出てしまうため,適度に発泡させたところで減圧を一旦停
止し,樹脂表面に現れた気泡が減少するのを待ってから再び減圧を始
めるという操作を繰り返さなければならなかった。…(2頁左上欄」
8行∼下4行)
・「まず,高粘性液12として気泡を含有する熱硬化性樹脂を高粘性液
,用容器13内に収容した後,これを密閉筐体10内に収容する。次に
駆動モータ6を駆動して回転軸4を所定の回転数で回転する。…密閉
筐体10内の熱硬化性樹脂に作用する遠心加速度の大きさが10G∼
20Gの範囲内になるように回転軸4の回転数を設定した。この状態
。で数分間回転軸4を回転し,遠心力による一次的な脱泡処理を行なう
その後,回転軸4を回転させたまま真空ポンプ18を始動してバルブ
17を開き密閉筐体10内を圧力5×10Torr程度に真空引き−2
する。このようにして遠心分離脱気に真空脱気を併用し,約10分間
二次的な脱泡処理を行なった後,駆動モータ6及び真空ポンプ18を
停止させて処理を終了する(3頁右上欄11行∼左下欄11行)。」
・「以上のようにして熱硬化性樹脂の脱泡処理を行なったところ,従
来は20∼60分間程度の時間を要した処理が数分∼10数分間で済
み,気泡を含まない良質の樹脂が得られた(3頁左下欄下4行∼下。」
1行)
②甲5公報には,以下の記載がある。
・「減圧された真空槽内において有底円筒状の容器を回転させ,この状
態で前記容器の内壁上部に液状樹脂を供給すると共に該内壁に沿って
自然落下した後前記容器内に溜った液状樹脂を撹拌することを特徴と
する液状樹脂の脱泡方法(請求項1)。」【】
・「半導体チップ等の電子部品を汚染や破損から保護するために液状樹
脂からなる封止材で封止する場合,射出器を用いてエポキシ系等の液
状樹脂を半導体チップ等の電子部品に塗布しているが,射出器に液状
樹脂を供給する前に,液状樹脂を脱泡する必要がある。…この場合,
射出器に供給する前の液状樹脂を真空中にて撹拌すると,この液状樹
脂の脱泡が促進される。…(段落【0002)」】
・「…発生した気泡が真空槽1内との圧力差により弾け,その後気泡内
部に存在していた気体が真空ポンプ14によって排気されることによ
り,液状樹脂2が脱泡される。…(段落【0005)」】
・「この発明によれば,有底円筒状の容器を回転させているので,この
容器の内壁上部に液状樹脂が供給されると,容器の内壁上部の全周に
供給されることとなり,次いで容器の内壁に沿って自然落下すること
。により,容器の内壁全体に拡散され,この後容器内に溜ることになる
そして,容器の内壁全体に拡散された液状樹脂の表面および容器内に
溜った液状樹脂の表面に気泡が発生すると,この発生した気泡が真空
槽内との圧力差により弾けることにより,液状樹脂が脱泡されること
になる。また,容器内に溜った液状樹脂は撹拌されるので,液状樹脂
中の再度の脱泡が促進されることになる。このように・・・脱泡し,
ているので,装置を大型化することなく,液状樹脂の真空雰囲気と面
する部分の表面積を大きくすることができる(段落【0008)。」】
・「…この脱泡装置で液状樹脂2の脱泡を行う場合には,…真空槽1内
を大気圧の状態とし,…空の有底円筒状の容器3を収納部材4内の回
転テーブル31上に収納する。次に,蓋5を収納部材4の上部に取り
付け,固定手段7で固定する。…(段落【0011)」】
・「…真空ポンプ14によって真空槽1内が減圧される。…真空槽1内
が所定の真空度(例えば1∼10Torr)に達したら,モータ8を
駆動させると共に,第4のバルブ35を所定量だけ開ける。…容器3
の内壁全体に拡散された液状樹脂2の表面および容器3内に溜った液
状樹脂2の表面に気泡が発生すると,この発生した気泡が真空槽1内
との圧力差により弾け,その後気泡内部に存在していた気体が真空ポ
ンプ14によって排気されることにより,液状樹脂2が脱泡される。
また,容器3内に溜った液状樹脂2は,回転テーブル31と共に容器
,3が回転していることにより,撹拌羽根10により相対的に撹拌され
液状樹脂2中の再度の脱泡が促進される。…(段落【0012)」】
③甲6公報には,以下の記載がある。
・「水性組成物中に固体チャンクの形態で存在する種々の成分の混合物
を脱ガスする方法であって,溶融前に,該混合物に混合物の温度に相
当する水蒸気圧に近い圧力を適用することを特徴とする前記の脱ガス
方法(特許請求の範囲・請求項1)。」
・「本発明に従えば,二つの運搬手段の間にあり且つ混合物の溶融装
置(5)の上流にある真空チャンバー(4)から成る脱ガス装置が提
供される。このチャンバーの中で,混合物の温度に相当する水蒸気圧
に近い圧力が該混合物に加えられ,該チャンバーは,供給原料の貯蔵
タンクから出て該第一の運搬手段(2)によって運搬される該混合物
が該真空チャンバー(4)の中に供給される入り口開口部と,該混合
物が該チャンバーから取り出されて該第二の運搬手段(3)によって
溶融装置(5)に向かって運搬される為の出口開口部から成る。真空
チャンバー内の絶対圧は,1000∼2000Pa(判決注,換算値
;7.5∼15torr)の範囲…にある。…チャンバー(4)は回
転ブレードを備えた撹拌装置(11)を含む。…(3頁左上欄10」
∼20行)
。④甲20(特開平8−131711号公報)には,以下の記載がある
・「従来,液状物質の脱泡は,容器中で高速回転させて遠心分離の原理
で気泡を分離したり,真空中で液を飛ばすなどの装置があった。…」
(段落【0002)】
・「本発明は,連続脱泡装置であって,…真空容器1内にモータ3で回
転する回転筒2を配し,その回転筒2の底に向けて,注入ポンプ4に
よって注入口8より液状物質を入れ,遠心力により回転筒2の上部か
ら真空容器1の壁面に液状物質を飛ばし,脱泡した液状物質を…排出
する(段落【0004)。」】
・「前述の手段により,液状物質は,まず回転筒2内で遠心力を受けて,
比重の軽い大きな泡の部分が中心寄りに集まって分離される。残りは
回転筒2内の壁面にへばりつくように這い上がりつつ,やがて回転筒
2の縁から薄い膜状や放射線状に飛ばされ,効率よく真空容器1内の
減圧にさらされるので,比較的細かい泡まで脱泡される。さらに…内
壁を伝わり落ちていく過程で脱泡される(段落【0005)。」】
・「本発明は,複数の脱泡作用が相乗的に効果的に働くので,極めて適
用範囲が広く,…(段落【0009)」】
⑤以上の①∼④によれば,脱泡という課題の解決手段として,遠心分
離脱気に真空脱気を併用すること(甲4,発生した気泡を真空槽内)
との圧力差により弾けさせ,これと攪拌羽根による攪拌を併用して脱
泡を促進すること(甲5,真空チャンバーと攪拌装置とを併用する)
こと(甲6,液状物質の入った回転筒を回転させて遠心力を作用さ)
せ,これと真空の作用を併用して,複数の脱泡作用を相乗的に作用さ
せること(甲20)が開示されているから,気泡除去のために真空引
きを攪拌あるいは遠心力と併用して脱泡を行うことは周知の技術事項
であると認められる。
(ウ)以上の(ア),(イ)によれば,甲3発明として「被混練材を収容し,
た混練容器を公転させながら自転させ,被混練材を混練する混練脱泡方
法」が開示されているところ,物質からの気泡除去という同一課題の解
決手段として,真空を作用させて脱泡を行うこと(甲18∼19,や,)
真空を撹拌あるいは遠心力と併用して脱泡を行うこと(甲4∼6,2
0)が当業者にとって周知の技術事項というのであるから,当業者は,
混練材からの脱泡を更に向上させるため,上記甲3発明に更に真空を作
用させ,真空を撹拌あるいは遠心力と併用して脱泡を行うことを容易に
想到することができたというべきである。
ウ以上によれば,本件発明1の相違点()の構成を容易想到であるとしⅰ
た審決の判断に誤りはない。
(3)原告の主張に対する補足的説明
ア原告は,粘度と材料を種々変えて実験を行い,また,1分に至るまでの
混練の様子についても実験し,一般に公自転による混練では,被混練材が
材料内部から上表面中心部に浮上し,材料の上表面の中心部から周壁に向
かって薄い層になって流動することを証明した,本件発明1は,周知技術
の裏で生じているかかる自然現象を知得し,この自然現象と真空引きとを
。組み合わせることによる効果を予見してなされたものである,と主張する
しかし,そもそも上記(1)で説示したとおり,本件発明1の要旨は,①公
転させながら自転させることと②真空圧をかけることにより,混練材の脱
泡をする方法であると認められるに止まるというべきであり,上記①を行
うことにより,被混練材の内部の材料が上表面に移動し,薄い層になって
被混練材の上表面の中心部から周壁に向かって移動するという自然現象が
生じ,この自然現象と上記②を組み合わせたものが本件発明1であるとの
開示が何らないというほかないのであるから,実際に上記のような自然現
,象が生じるかどうかにかかわらず,こうした開示のない事項を根拠として
本件発明1が上記①に上記②を組み合わせた構成が有する効果を超える,
予測できない効果を有するということはできない。
なお,そもそも本件発明1は「被混練材を収容した混練容器を公転させ
ながら自転させ」という特定しかないのであるから,上記(2)イに説示した
ように,真空を作用させたり,真空を攪拌あるいは遠心力と併用すること
が気泡除去のため有用であると当業者に知られていた以上は,たとえこれ
が原告が主張するような現象を前提として真空の作用を付加する気泡除去
とは厳密には異なっていたとしても,甲3発明にその真空の作用が付加さ
れて,結果的に更に脱泡性能が向上すれば,それは,本件発明1とは,公
自転により生じた現象にさらに真空の作用を付加させたという点において
差異がないものというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イまた原告は,公自転と真空引きの組合せが容易でない旨主張するが,上
記(2)イの説示に照らし,採用することができない。
ウまた原告は,0.5∼50torrの真空圧を混練脱泡工程の一部にか
けることについて,当該真空圧の限定に臨界的意義が見当たらなくても,
原告が主張する上記アの薄い層の流動現象が生じるため,従来の技術に比
してきわめて効率よく脱泡することができるので,本件発明1における当
該真空圧の範囲は適宜選択し得たものではない旨主張する。
しかし,上記アに説示したとおり,本件発明1は「被混練材を収容した
混練容器を公転させながら自転させ」という特定しかなく,本件発明1の
,要旨は,①公転させながら自転させることと②真空圧をかけることにより
混練材の脱泡をする方法であると認められるに止まるものであり,原告が
主張するような,開示のない事項である流動現象を根拠として,本件発明
1が上記①に上記②を組み合わせた構成が有する効果を超える,予測でき
ない効果を有するということはできないから,原告の上記主張は,そもそ
もその前提を欠く。また本件特許明細書(甲2)を精査しても,上記(1)に
認定したとおり,原告が主張するような流動現象と真空圧の程度との関係
を当業者が容易に理解することができるような記載は見当たらない上,上
記(1)イ(エ)に説示したとおり,本件発明1のように0.5∼50torr
の真空圧にすることも通常採用されている真空圧の範囲と同等というべき
であり,格別の意義があるものとは認められない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エまた原告は,本件発明1の効果は,被混練材が材料内部から材料の上表
面の中心部に浮かび上がり,薄い層になって真空圧に接することによる効
果であり,従来の技術のいずれに比してもきわめて高効率かつ高性能に脱
泡することができる点にある,所定の条件で本件発明1の方法によれば,
サブミクロンの気泡まで除去でき,本件発明1は,一般的に従来の技術に
比して高効率かつ高性能で脱泡出来るものであると主張する。
しかし,そもそも本件特許明細書(甲2)においてサブミクロンの気泡
まで除去できるとの効果の記載自体が存在しない上,上記アに説示したと
おり,本件発明1は「被混練材を収容した混練容器を公転させながら自転
させ」という特定しかなく,本件発明1の要旨は,①公転させながら自転
させることと②真空圧をかけることにより,混練材の脱泡をする方法であ
ると認められるに止まるものであり,原告が主張するような,開示のない
事項を根拠として,本件発明1が上記①に上記②を組み合わせた構成が有
する効果を超える,予測できない効果を有するということはできない。な
お,本件発明1により仮にサブミクロンの気泡まで除去できるとしても,
上記アに説示したとおり,甲3発明に当業者の周知の技術事項である真空
の作用が付加されて,結果的に更に脱泡性能が向上すれば,それは,本件
発明1とは,公自転により生じた現象にさらに真空の作用を付加させたと
いう点において差異がないものというべきであるから,その効果を格別の
ものということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4)よって,原告の主張する取消事由1は理由がない。
3取消事由2(本件発明2,3の進歩性の判断の誤り)について
原告は,本件発明1は,本件特許の出願前に当業者が容易に推考できなかっ
たものであり,かかる本件発明1の構成を有する以上,本件発明2,3は本件
出願前に当業者が容易に推考できなかったものである,と主張する。
しかし,上記2に説示したとおり,本件発明1は当業者が容易に想到できた
というべきであるから,原告の上記主張は,その前提を欠き,採用することが
できない。
よって,原告の主張する取消事由2も理由がない。
4取消事由3(本件発明4,5の進歩性の判断の誤り)について
(1)本件発明4につき
ア原告は,本件発明4は,ベアリング等の潤滑油を沸騰しにくい潤滑油に
した上で,混練容器8に蓋8aをし,さらに公自転の機構全体を密閉可能
な容器本体1と容器蓋2の内部に収納し,容器本体1と容器蓋2のいずれ
かと混練容器8の蓋8aに真空引きのための孔を設けている,本件発明4
は,かかる構成により,甲4発明のような複雑な機構を簡略化し,それで
いて甲4発明の真空公自転の機能を実現することができる,しかるに審決
は,甲8発明に甲5の真空槽1を適用する場合の技術的な困難性を看過し,
本件発明4は当業者が容易になし得たものと誤って判断したものであると
主張する。
イ①しかし,本件発明4において「ベアリング等の潤滑油を沸騰しにく,
い潤滑油にした」点は特許請求の範囲に記載されておらず,本件特許明
細書(甲2)にも何ら記載されていないから,この点を本件発明4の構
成とみることはできない。
②また「公自転の機構全体を密閉可能な容器本体1と容器蓋2の内部,
に収納」する点については,上記2(2)イ(イ)②(甲5公報の開示内
容)に照らせば,混練脱泡の技術分野において,ベアリングを使用する
回転機構全体を密閉可能に収納することは当業者にとって周知の技術事
項というべきであるから,当業者は,技術思想として「公自転の機構全
体を密閉可能な容器本体1と容器蓋2の内部に収納」することを容易に
想到できたというべきである。
③さらに「容器本体1と容器蓋2のいずれかと混練容器8の蓋8aに,
真空引きのための孔を設け」ることは,上記2(2)イ(イ)①(甲4公報
の開示内容)や「…密閉筐体10内にはその上部が開口し高粘性液1,
2を収容するための高粘性液用容器13が着脱自在に設けられている。
また,密閉筐体10には真空ホース14が接続され,…すなわち,回転
軸4の回転中に真空ポンプ18により密閉筐体内を真空引きすることが
できるように構成されている。…(甲4公報3頁左上欄下5行∼右上」
欄7行)との記載に照らせば,混練材を真空圧にさらすために当業者が
格別の困難なく普通に行うことというべきであるから,甲8発明の混練
装置に,更に脱泡性能を向上させるために甲5に記載される「真空槽
1」を適用した際には,真空槽や混練容器に真空引きの孔を設けること
は,その具体化のために当業者が行う設計的事項であるといえる。
④以上の①∼③を併せ考慮すれば,原告がその根拠として主張する本件
発明4の構成がいずれも当業者にとって想到が困難といえないのである
から,仮に本件発明4が甲4発明のような複雑な機構を簡略化しながら
甲4発明の真空公自転の機能を実現することができるという側面を有し
ているとしても,本件発明4が着想困難な構成を有することを前提とし
た原告の主張が失当であることは明らかである。
ウ以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2)本件発明5につき
原告は,本件発明4が進歩性を有することを前提として,本件発明4の特
徴的な構成を有する本件発明5も進歩性を有すると主張するが,上記(1)に
説示したとおり,本件発明4に進歩性を認めることはできないものである。
したがって,原告の上記主張はその前提を欠き,採用することができない。
(3)よって,原告の主張する取消事由3も理由がない。
5結語
以上のとおり,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。
よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官田中孝一

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