弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人伊達利知、同溝呂木商太郎、同伊達昭、同沢田三知夫、同奥山剛の上
告理由第一点について。
 一 相続税法(以下「法」という。)によれば、相続税は、相続又は遺贈によつ
て取得した財産(以下「取得財産」という。)の価額の合計額をもつて課税価格と
するが(法一一条の二)、相続開始の際被相続人の債務で確実と認められるものが
あるときは、その金額を取得財産の価額から控除する(法一三条一項、一四条一項)。
そして、右取得財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、また、取
得財産の価額から控除すべき債務(以下「控除債務」という。)の金額は、その時
の現況によるものとされている(法二二条)。これらの規定に徴すれば、相続税は、
財産の無償取得によつて生じた経済的価値の増加に対して課される租税であるとこ
ろから、その課税価格の算出にあたつては、取得財産と控除債務の双方についてそ
れぞれの現に有する経済的価値を客観的に評価した金額を基礎とするのであり、た
だ、控除債務については、その性質上客観的な交換価値なるものがないため、交換
価値を意味する「時価」に代えて、その「現況」により控除すべき金額を評価する
旨定められているものと解される。したがつて、控除債務が弁済すべき金額の確定
している金銭債務の場合であつても、右金額が当然に当該債務の相続開始の時にお
ける消極的経済価値を示すものとして課税価格算出の基礎となるものではなく、あ
たかも金銭債権につきその権利の具体的内容によつて時価を評価するのと同様に、
金銭債務についてもその利率や弁済期等の現況によつて控除すべき金額を個別的に
評価しなければならないのであり、かくして決定された控除すべき金額は、必ずし
も常に当該債務の弁済すべき金額と一致するものではない。
 所論は、法二二条の定める債務の評価は、債務として確実に存在するもののうち、
係争中の損害賠償債務などのように相続開始の当時まだ弁済すべき金額の確定して
いない債務についてその弁済すべき金額を確定するためのものであつて、弁済すべ
き金額の確定している債務については改めて評価をする余地はないと主張する。し
かし、控除債務の金額を評価する趣旨は前記のとおりであり、所論は右評価に関す
る法の建前と相容れないものといわなければならない。すなわち、所論のあげる弁
済すべき金額の確定していない債務の評価についていえば、評価の対象となる債務
は確実と認められるものにかぎる(法一四条一項)のであるから、右のような弁済
額未確定の債務は、弁済すべきことが確実と認められる金額の限度で法二二条にい
う取得財産の価額から控除すべき債務として評価の対象となるものであり、そのよ
うな金額の債務として評価した結果により、控除すべき金額がきまることとなるの
である。所論は、右の点を誤解するものというほかなく、採用することができない。
 二 そこで、弁済すべき金額が確定し、かつ、相続開始の当時まだ弁済期の到来
しない金銭債務の評価について考えると、その債務につき通常の利率による利息の
定めがあるときは、その相続人は、弁済期が到来するまでの間、通常の利率による
利息額相当の経済的利益を享受する反面、これと同額の利息を債権者に支払わなけ
ればならず、彼此差引きされることとなるから、右利息の点を度外視して、債務の
元本金額をそのまま相続開始の時における控除債務の額と評価して妨げない。これ
に対し、約定利率が通常の利率より低い場合には、相続人において、通常の利率に
よる利息と約定利率による利息との差額に相当する経済的利益を弁済期が到来する
まで毎年留保しうることとなるから、当該債務は、右留保される毎年の経済的利益
の現在価値の総額だけその消極的価値を減じているものというべきであり、したが
つて、このような債務を評価するときは、右留保される毎年の経済的利益について
通常の利率により弁済期までの中間利息を控除して得られたその現在価額(なお、
右中間利息は複利によつて計算するのが経済の実情に合致する。)を元本金額から
差し引いた金額をもつて相続開始の時における控除債務の額とするのが、相当であ
る。通常の利率より低利の債務を負担する関係は、これを経済的にみれば、一方に
おいて、通常の利率による債務を負担すると同時に、他方において、通常の利率に
よる利息と約定利率による利息との差額に相当する給付を毎年受けるのと同様であ
つて、この場合には、債務の元本金額をそのまま控除債務の額と評価する反面、右
の毎年受けるべき給付については、その現在価額を取得財産の価額に算入し、両者
の差引きによつて課税価格を算出することとなるが、先に述べた低利の債務の評価
減ということは、経済的には、右のような各別の評価による差引計算を債務そのも
のの評価として行うことにほかならない。
 三 これを本件についてみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下
同じ。)によれば、上告人らの被相続人であるDは、昭和二九年一月二八日株式会
社Eから一億二九〇〇万円を利息年一分の約定で借り入れ、同三七年一一月七日そ
の弁済期までなお五一年を残して死亡し、本件相続が開始したが、当時の通常の利
率は、金融市場の趨勢からみて年八分とするのが相当であつた、というのである。
そうすると、上告人らは、右相続債務につき年一分の約定利息を支払つてもなお、
弁済期までの五一年間毎年借入額の七分(通常の利率と約定利率との差)である九
〇三万円相当の経済的利益を留保しうることとなるので、これについて年八分の複
利計算により五一年間の中間利息を控除した現価を元本金額から差し引くと、一八
三五万三三六五円となることが計算上明らかであるから、これをもつて相続開始の
時における本件債務の評価額とすべきである。
  しかるに、原審は、右利率差によつて生ずる経済的利益の額を元本金額から差
し引いたものが本件債務の評価額となることを認めながら、右差し引くべき経済的
利益の額の算定については、通常の利率と約定利率との差である年七分の割合によ
り中間利息を控除すべきものとし、結局、本件債務の額を四〇九万二六五〇円と評
価している。しかし、右経済的利益について中間利息を控除するのは、それが弁済
期までの間通常の利率で運用されることを前提とするものであるから、本件におい
ては年八分の割合によつて計算するのが当然であつて、これと約定利率との差によ
るべき理由はなく、原審の計算方法は、誤りといわざるをえない。してみると、原
判決は法二二条の規定の解釈適用を誤つたことに帰し、右誤りが判決の結論に影響
を及ぼすことは明らかであるから、その違法をいう論旨は理由がある。
 よつて、その他の論旨に対する判断を省略して原判決を破棄し、更に審理させる
ため本件を原審に差し戻すこととし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に
従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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