弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士中野峯夫の上告理由は別紙記載のとおりである。
 上告理由第一、二点について。
 論旨第一点は上告人は原審において本件農地に関する買収計画及買収処分の違法
を主張したのにかかわらず、原判決はこの点に関する判断を遺脱し、必要な審理を
尽していないというのである。
 しかしながら上告人の本件請求は本件農地の売渡計画に関して被上告人がした訴
願裁決の取消を求めるものである。自作農創設特別措置法(以下単に法と略称する)
による農地の買収と売渡とは別個の手続をもつて行われ、買収手続に違法があつて
も直ちに売渡手続が違法であるとはいえないのであつて、上告人も原審においては、
本件裁決取消請求の原因としては、本件農地の買収計画及び買収処分が違法である
との点は主張しなかつたものであることは、原審における弁論の趣旨全体から見て
明らかである。(この点は、第一審判決及び原審判決の事実摘示からも明らかであ
るのみならず、記録にあらわれた原審弁論の経過、殊に第一回口頭弁論において、
原審裁判長は特にこの点を明瞭ならしめるために上告人に釈明を求めたに対し上告
人は「本件農地について、買収計画が立てられ、買収処分行為がなされたがその行
為の違法を攻撃するものでない」と陳述しているところからみても極めて明瞭であ
る)従つて原判決が右買収計画及び買収処分の違法なりや否やについて判断を与え
なかつたことを以て所論のように違法ありとすることはできない。又論旨第二点は
原審において判断を受けなかつた叙上の点に関し、縷々として右買収計画及び買収
処分の違法なことを主張するに過ぎないのであるから、採用の限りでない。
 同第三点について。
 論旨はかりに本件農地の買収計画及買収処分が適法であるとしても、本件売渡計
画は違法であるというのである。上告人の主張によれば、本件農地は昭和二〇年ま
でD(上告人の妹の夫)が耕作し同年四月から二元年五月まで訴外Eが耕作し、二
一年五月からDが再び耕作し、同年九月から上告人が耕作して来たというのである。
自作農創設特別措置法施行令(以下単に令と略称する)一七条一項一号によれば遡
及買収の場合は二〇年一一月二三日現在の耕作者に売渡すことを原則とし同項五号
は右の期日の耕作者が一時転借人である場合には一定の事由による転貸人に売渡す
ことを規定している。上告人はDと上告人とは同居の親族であり、売渡を受ける者
としては上告人はDと同じ地位に立ち右五号により転借人に優先して売渡を受ける
べきものであるというのである。Dが訴外Eに本件農地を転貸したのは右Dが応召
したためであり、換言すれば法五条六号の事由によるものである。令一七条一項五
号で転貸人に売渡すこととしているのは、このような事由によつて転貸を余儀なく
された者の権利を保護するためであり、従つて、DはEに優先して売渡を受け得る
ものであることは論旨のとおりであり、原判決も是認するのであるけれども、転貸
人を保護する理由の有無は転貸人ごとに異り、令一七条一項五号も法五条六号の事
由に基く転貸人のみを保護している趣旨と解すべきである。かりに所論のように上
告人がDから適法に耕作権を譲り受けたものとしても、上告人はDの右のように保
護されるべき地位までも承継するものとは考えられない。換言すれば上告人がDの
親戚でありかつその耕作権を譲り受けたものとしても、令一七条の適用に際しては
同人と法律上同じ地位に立つものとはいえないのである。以上説明のとおりである
から、Dが本件農地の買受申込をしていない以上令一七条一項五号によつてEに優
先する耕作者は何人もないものと云わなければならない。論旨はまた、農地の買収
にあたつても二〇年一一月二三日を基準とするは例外であり現時買収を原則とする
と同じく、売渡に際しても売渡時現在の耕作者に売渡すことを原則とすべく、従つ
て本件農地は上告人に売渡さるべきであるというのであるが、令一七条一項一号は、
二〇年一一月二三日現在の事実に基いて買収した場合においては、右基準日現在の
耕作者に売渡すことを原則とし、例外として右の小作農が売渡の相手方として不適
当な場合には都道府県農地委員会の承認の下に買収時期の小作農に売渡すことにし
ているのである。すなわち論旨は法令の規定と反対の主張をしているのであつて到
底これを採用することができない。そして原判決は昭和二〇年一一月二三日現在の
小作人Eが自作農として精進する見込のある事実を証拠によつて認定しているので
あるから上告人が右例外の場合として売渡の相手方と定められる余地は全くないの
である。
 論旨はまた、本件遡及買収は昭和二二年一二月法律二四一号による改正前の附則
二項によつたものであるけれども、その後の売渡について右改正後の法六条の二の
趣旨をくんで行わるべきものであると主張し、訴外Eは右六条の二第二項一号、二
号、四号の趣旨に従つて売渡の相手方とすべきではないというのである。しかし、
右各号はいうまでもなく、遡及買収から除外すべき場合の規定であつて、本件のよ
うに買収については訴の提起なく、本件農地が国の所有に帰属することについて争
のない場合、右各号が売渡の相手方を定めるについて基準となるものでないのみな
らず、売渡の相手方については前記令一七条一項の規定があり、前記のとおり訴外
Eが自作農として農業に精進する見込のある者である以上所論のような理由により
本件売渡計画を違法とすべきではない。
 以上説明のほか論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する
法律」一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関す
る重要な主張を含む」ものと認められない。
 以上説明のとおり論旨はすべて理由がないから民訴三九六条三八四条、九五条、
八九条に従い、裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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