弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を免訴する。
         理    由
 被告人の上告趣意について。
 本件公訴事実の要旨は、昭和二三年五月下旬A労働委員会の委員の委嘱方法につ
きB労働組合(以下B労組と略称する。)C分会と福島県知事との間に意見の不一
致あり、またB労組は、昭和二二年九月中央労働委員会に対し、賃金制の改訂等数
項目について調停の申請をなし、同二三年三月二五日、B労組と経営者会議との間
に仮協定が成立したが、同年三月下旬、右C分会は、D発送電株式会社に対し賃金
制の改訂等十項目の要求をなし、紛争中のところ、このような状勢の下において、
右C分会は同会は同月三十一日拡大執行委員会を開催し、以上の諸点に関し、その
主張を貫徹するため、断乎電源ストライキを決行することを決定し、同年六月九日
同分会傘下の発電所において、その発電装置の各部を操作してその発電を停止せし
めたが、その際、被告人は同分会の執行委員長として右電源ストライキの決行及び
その実施に参劃したというのであつて、原審はこれを電気事業法三三条一項に該当
するものとして有罪の判決をしたのである。職権で調査すると、右電気事業法は、
昭和二五年政令三四三号公益事業令附則二項によつて廃止され、同令は同年一二月
一五日から施行されたが、同令附則二一項は「この政令の施行前にした行為に対す
る罰則の適用については、第二項及び前項の規定にかかわらず、なお従前の例によ
る。」と規定していた。ところが、昭和二七年法律八一号ポツダム宣言受諾に伴い
発する命令に関する件の廃止に関する法律によつて、昭和二〇年勅令五四二号に基
く命令、即ち所謂ポツダム命令は、別に法律で、その廃止又は存続に関する措置が
なされない場合においては、同法施行の日たる昭和二七年四月二八日から起算して
一八〇日間に限り法律としての効力を有するものとせられたが、右一八〇日の最終
日は同年一〇月二四日に当るところ、同日迄に公益事業令に関する立法上の措置は
何らなされることなくして経過したのであつて、従つて同令は、右一〇月二四日限
り失効したものと解すべきである。よつて、本件公訴事実については、犯罪後の法
令により刑が廃止されたときに当ると解すべきであるから、被告人の上告趣意につ
き判断を与えるまでもなく、刑訴施行法三条の二、刑訴四一一条五号により、原判
決を破棄し、刑訴施行法二条、旧刑訴四四八条に則り当裁判所において更に判決を
することとし、同四五五条、三六三条二号により被告人に対し免訴の言渡をすべき
ものとし、主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の反対意見を除き、裁
判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔及び同本村善太郎の本件についての反対意見は、
次のとおりである。
 本件公訴事実は、要するに、被告人は昭和二三年六月九日昭和六年法律六一号電
気事業法三三条一項に該当する違反行為をしたというのである。
 しかるに、右電気事業法は、右犯行後昭和二五年一一月二四日政令三四三号公益
事業令に吸収されるとともに(電気事業法三三条一項は、公益事業令八三条一項に
吸収)、同令附則二項により廃止されたが、同時に同附則二一項(罰則の経過規定)
において、この政令の施行前にした行為に対する罰則の適用については、第二項及
び前項の規定にかかわらず、なお従前の例によると規定されているから、被告人に
対する本件公訴事実については、なお従前の電気事業法三三条一項を適用すべく、
右公益事業令の罰則(八三条一項)を適用すべきものでないこと明白である。従つ
て、その後右公益事業令が失効したとしても、その失効により刑の廃止があつたと
して本件被告人を免訴すべきでないこと多言を要しない。
 しかのみならず、元来わが現行の刑事法においては、犯罪行為の可罰性とこれに
科すべき刑罰は、犯罪行為時法によるべきであつて、判決時法によるべきではなく
(刑法改正の綱領四〇、改正刑法仮案六条参照)、ただ判決時に犯罪後の法律に因
り刑の変更があつたときは、刑法六条の規定により例外として軽き刑罰を科し、ま
た、判決時に犯罪後の法令により刑が廃止されたときは、刑訴法の規定により免訴
の言渡をなすに過ぎない。そして、刑訴三三七条二号に「犯罪後の法令により刑が
廃止されたとき。」(旧刑訴三六三条二号に「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタ
ルトキ」)とは、読んで字のごとく、既に発生成立した刑罰が犯罪後発布された法
令により廃止(放棄)されたときを指すものであつて、刑罰を規定した法令そのも
のが犯罪後一時失効し又は犯罪後単に将来に向つて廃止されたに過ぎないような場
合をいうものではない。されば、電気事業法を吸収しこれとその内容を同じくする
公益事業令が多数説の説くごとく、昭和二七年一〇月二四日限り失効したとしても、
それは、同令が単に将来に向つて一時失効しただけで、犯罪後発布された法令によ
り既成の刑罰を廃止(放棄)したものではないから(しかも、同年同月同日に効力
を有していた右旧公益事業令は、同年一二月二七日法律三四一号電気及びガスに関
する臨時措置に関する法律により新らたに法律が制定施行されるまでの間罰則をも
含め全面的に法律としてそのままその効力を維持されたのであるから、その失効期
間は僅か六〇余日に過ぎないのであつて、この点からいつても公益事業令の失効は
既成の刑罰を廃止(放棄)したものと見ることはできないばかりでなく、むしろ、
反対に、従前の刑罰を廃止(放棄)しない国家意思であること毫も疑を容れない。)、
仮りに本件につき旧公益事業令の適用があるものとしても、刑訴三三七条二号(旧
刑訴三六三条二号)に該当しないこと明白である。
 裁判官霜山精一は退官につき合議に関与しない。
 検察官 安平政吉、神山欣治出席
  昭和二九年一一月一〇日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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