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平成28年(行ツ)第115号,同年(行ヒ)第118号選挙無効請求事件
平成28年10月18日第三小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人廣瀬理夫ほかの上告理由及び上告受理申立て理由(ただし,排除され
たものを除く。)について
1本件は,千葉県議会議員の定数及び選挙区等に関する条例(昭和49年千葉
県条例第55号。以下「本件条例」という。)に基づいて平成27年4月12日に
施行された千葉県議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)について,千葉
市稲毛区選挙区,千葉市若葉区選挙区,千葉市美浜区選挙区,市川市選挙区,船橋
市選挙区,野田市選挙区,習志野市選挙区,柏市選挙区,市原市選挙区,流山市選
挙区,浦安市選挙区,八街市選挙区及び印西市選挙区の選挙人である上告人らが,
本件条例のうち各選挙区において選挙すべき議員の数を定める規定(以下「本件定
数配分規定」という。)が公職選挙法(平成26年法律第42号による改正前のも
の。以下同じ。)15条8項に違反するとともに憲法14条1項に違反して無効で
あるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効で
あると主張して提起した選挙無効訴訟である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)都道府県議会の議員の定数については,地方自治法において,条例で定め
るものとされ,変更の要件が定められている(90条1項から3項まで)。また,
都道府県議会の議員の選挙区については,公職選挙法において,一の市の区域,一
の市の区域と隣接する町村の区域を合わせた区域又は隣接する町村の区域を合わせ
た区域のいずれかによることを基本とし,条例で定めるものとされ(15条1
項),当該区域の人口が当該都道府県の人口を当該都道府県議会の議員の定数をも
って除して得た数(以下「議員1人当たりの人口」という。)の半数以上になるよ
うにしなければならず,一の市の区域の人口が議員1人当たりの人口の半数に達し
ないときは,隣接する他の市町村の区域と合わせて1選挙区を設けなければならず
(同条2項),一の市の区域の人口が議員1人当たりの人口の半数以上であっても
議員1人当たりの人口に達しないときは,隣接する他の市町村の区域と合わせて1
選挙区を設けることができるものとされており(同条3項),地方自治法252条
の19第1項の指定都市については,公職選挙法15条1項から3項までの規定を
適用する場合における市の区域(市町村の区域に係るものを含む。)は,当該指定
都市の区域を二以上に分けた区域とし,この場合において,当該指定都市の区域を
分けるに当たっては,原則として,区の区域を分割しないものとされている(同条
9項)。そして,千葉県においては,千葉市が指定都市に指定されている。
このようにして定められた各選挙区において選挙すべき議員の数について,公職
選挙法15条8項は,本文において,「人口に比例して,条例で定めなければなら
ない」とする一方で,ただし書において,「特別の事情があるときは,おおむね人
口を基準とし,地域間の均衡を考慮して定めることができる」としている。
(2)ア本件選挙当時,本件条例の定める選挙区及び各選挙区における議員の数
は,原判決別紙「定数及び選挙区に係る一票の較差等について」の「選挙区」欄及
び「定数b」欄記載のとおりであり,46選挙区に95人の定数を配分している。
なお,公職選挙法271条に基づくいわゆる特例選挙区は存置されていない。
イ本件定数配分規定は,その制定後数次の改正を経た後,平成15年千葉県条
例第41号による改正がされ,その結果,47選挙区に98人の定数が配分され
た。平成15年4月13日に施行された千葉県議会議員一般選挙の当時,特例選挙
区以外の選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対3.53(以
下,較差に関する数値は全て概算である。)であり,人口の多い選挙区の定数が人
口の少ない選挙区の定数より少ないいわゆる逆転現象は33通りであった。
ウ平成18年千葉県条例第63号による本件条例の改正により,45選挙区に
95人の定数が配分されるとともに,いわゆる特例選挙区が全てなくなり,平成1
9年4月8日に施行された千葉県議会議員一般選挙の当時,選挙区間における議員
1人当たりの人口の最大較差(以下「選挙区間の人口の最大較差」という。)は1
対2.23,各選挙区の人口を議員1人当たりの人口で除して得た数(以下「配当
基数」という。)に応じて公職選挙法15条8項の人口比例原則を適用した場合に
各選挙区に配分されることとなる定数(以下「人口比定数」という。)による選挙
区間の人口の最大較差は1対2.56,いわゆる逆転現象は1通りであり,同23
年4月10日に施行された千葉県議会議員一般選挙(以下「平成23年選挙」とい
う。)の当時,選挙区間の人口の最大較差は1対2.51,人口比定数による選挙
区間の人口の最大較差は1対2.60,いわゆる逆転現象は4通り(定数差はいず
れも1人)であった。
エその後,平成24年千葉県条例第101号により,1選挙区を新設し,1選
挙区の定数を1減する改正がされ(以下「平成24年条例改正」という。),46
選挙区に95人の定数が配分された。
オ本件選挙当時における前記アの定数配分においては,平成22年10月の国
勢調査による人口に基づく配当基数に応じた人口比定数と対比すると,46選挙区
中9選挙区において差異がみられたが(人口比定数より1多いのが5選挙区,2少
ないのが1選挙区,1少ないのが3選挙区であった。),人口比定数による選挙区
間の人口の最大較差は1対2.60であったのに対し,選挙区間の人口の最大較差
は1対2.51にとどまり,いわゆる逆転現象は4通り(定数差はいずれも1人)
であり,平成23年選挙の当時から,選挙区間の人口の最大較差,人口比定数によ
る選挙区間の人口の最大較差及びいわゆる逆転現象の数に変化はなかった。
3(1)前記2(1)においてみた公職選挙法等の各規定に照らせば,都道府県議会
の議員の定数の各選挙区に対する配分に当たり同法15条8項ただし書を適用して
人口比例の原則に修正を加えるかどうか及びどの程度の修正を加えるかについて
は,当該都道府県議会にその決定に係る裁量権が与えられていると解される。しか
るところ,都道府県議会の議員の選挙に関し,当該都道府県の住民が,その選挙権
の内容,すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは憲法の
要求するところであり,また,同項は,憲法の上記要請を受け,都道府県議会の議
員の定数の各選挙区に対する配分につき,人口比例を最も重要かつ基本的な基準と
し,各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解される
ことからすると,条例の定める定数配分が同項の規定に適合するかどうかについて
は,都道府県議会の具体的に定めるところが,前記のような選挙制度の下における
裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきものと解
される。
そして,公職選挙法15条8項ただし書を適用してされた条例の制定又はその改
正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に較
差が生じている場合において,その較差が都道府県議会において地域間の均衡を図
るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有する
ものとは考えられない程度に達しており,これを正当化すべき特段の理由が示され
ないとき,あるいは,その較差は上記の程度に達していないが,上記の制定時若し
くは改正時において同項ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠い
ており,又はその後の選挙時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を
基礎付ける事情が失われたときは,当該定数配分は,裁量権の合理的な行使とはい
えないものというべきである(最高裁平成26年(行ツ)第103号,同年(行
ヒ)第108号同27年1月15日第一小法廷判決・裁判集民事249号1頁参
照)。
(2)ア前記事実関係等によれば,本件選挙当時においては,選挙区間の人口の
最大較差は1対2.51であり,いわゆる逆転現象は4通りであるが,その定数差
はいずれも1人であったというのである。そして,本件選挙当時における人口比定
数による選挙区間の人口の最大較差,すなわち,公職選挙法15条8項本文に従っ
て定数を配分した場合の選挙区間の人口の最大較差は,1対2.60となるはずの
ところ,本件定数配分規定の下では,選挙区間の人口の最大較差が上記のとおり1
対2.51と人口比定数による選挙区間の人口の最大較差を下回っている。
そうすると,公職選挙法が定める前記のような都道府県議会の議員の選挙制度の
下においては,本件選挙当時における投票価値の不平等は,千葉県議会において地
域間の均衡を図るために通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお,一般
的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず,ま
た,本件定数配分規定においては,各地方公共団体の実情等に応じた当該地域に特
有の事情を考慮し,選挙制度の安定性の要請をも勘案しつつ,同法15条8項ただ
し書を適用して各選挙区に対する定数の配分が定められたものと解されること,本
件選挙当時において,選挙区間の人口の最大較差は,人口比定数による選挙区間の
人口の最大較差をも下回っていること等に照らせば,平成24年条例改正の当時に
おいて,同項ただし書にいう特別の事情があるとの評価がそれ自体として合理性を
欠いていたとも,本件選挙当時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性
を基礎付ける事情が失われたともいい難いから,本件選挙の施行前に本件定数配分
規定を改正しなかったことが同議会の合理的裁量の限界を超えるものということは
できない。
イしたがって,本件選挙当時における本件定数配分規定は,公職選挙法15条
8項に違反していたものとはいえず,適法というべきである。
4所論は,さらに,本件定数配分規定が投票価値の不均衡において憲法14条
1項に違反する旨をいう。
しかしながら,原審の適法に確定した事実関係等の下において,本件選挙当時,
本件条例による各選挙区に対する定数の配分が千葉県議会の合理的裁量の限界を超
えるものとはいえないことは,前記3(2)において説示したとおりであり,本件定
数配分規定が憲法14条1項の規定に違反していたものとはいえないことは,当裁
判所大法廷判決(最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判
決・民集37巻3号345頁,最高裁平成3年(行ツ)第111号同5年1月20
日大法廷判決・民集47巻1号67頁,最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11
月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁等)の趣旨に徴して明らかという
べきである(前掲第一小法廷判決参照)。
その余の上告理由は,理由の不備・食違いをいうが,その実質は単なる法令違反
をいうものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該
当しない。
5以上の次第であるから,本件各請求をいずれも棄却した原審の判断は,是認
することができる。論旨は,いずれも採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官木内道祥裁判官岡部喜代子裁判官大谷剛彦裁判官
大橋正春裁判官山崎敏充)

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