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平成17年(ネ)第10103号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所平成16年(ワ)第7716号)(平成17年11月21日口頭弁論終結)
判決
   控訴人        マックストン株式会社
   訴訟代理人弁護士  平山正剛
同  鈴木健二
補佐人弁理士  中畑孝
被控訴人     株式会社オキナヤ
訴訟代理人弁護士  高橋早百合
同 弁理士  伊賀誠司
同     藤井稔也
補佐人弁理士     小池晃
主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の「自然石亀甲金網護岸工法KSネ
ット」を製造,販売してはならない。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,1031万4765円及びこれに対する平成
16年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
(5) 上記(3)項につき,仮執行の宣言
2 被控訴人
 主文と同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は,発明の名称を「施工面敷設ブロック」とする特許発明(第1997
204号,平成4年12月9日出願,平成7年12月8日設定登録,以下,この特
許請求の範囲請求項1に係る発明を「本件発明」,この発明に係る特許権を「本件
特許権」といい,その特許を「本件特許」,その出願を「本件出願」という。)の
特許権者である控訴人が,原判決別紙物件目録記載の「自然石亀甲金網護岸工法K
Sネット」という製品(以下「被控訴人製品」という。)を製造販売する被控訴人
に対し,その製造販売の行為が本件特許権を侵害するとして,本件特許権に基づ
き,損害賠償を請求した事案である。
 原審は,被控訴人の上記行為が本件特許権の技術的範囲に属するとは認められ
ず,また,被控訴人製品が本件特許権の構成と均等とも認められないとして,控訴
人の請求を棄却したため,控訴人は,これを不服として控訴しているものである。
2 争いのない事実等及び争点
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1及び2に記載のと
おりであるから,これを引用する。
第3 当事者の主張
 次のとおり当審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄
の「第2 事案の概要」の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 控訴人の主張
(1) 争点1(被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足するか)に
ついて
ア 原判決は,各種国語辞典によれば,「ブロック」の意味が「コンクリー
トブロック」であるか,「自然石」を含むものであるか不明であるとしながら,い
ずれの意味も採用せず,独自の判断として,本件発明の「ブロック」は,上記各辞
書にさえ全く記載あるいは示唆もされていない「人工素材による成形品から成るブ
ロック」であると認定しているが,これは,「特許発明の技術的範囲は,願書に添
付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」とした特許法70
条1項に違反するものである。
 最高裁平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁も,「特許請求の範囲の
記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見
してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明ら
かであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載
を参酌することが許されるにすぎない」と判示しており,発明の詳細な説明に記載
された事項をもって特許請求の範囲を限定すべきではない。
 広辞苑第4版(甲21)には,「ブロック」が「①かたまり。角塊。『コンクリ
ート・-』『-塀』」の意味であると記載されているから,「ブロック」の語は,
「かたまり」を意味するものであって,「コンクリートブロック」,「ブロック
塀」は,「かたまり」を意味する「ブロック」の語義の理解を助けるための用例と
して掲げられているにすぎない。したがって,本件発明の「ブロック」は,上位概
念として「かたまり」の語義を有し,その下位概念として「コンクリートブロッ
ク」すなわち「コンクリートのかたまり」,「自然石ブロック」すなわち「自然石
のかたまり」が位置付けられるものと理解するのが通常である。以上によれば,本
件発明の「ブロック」の語は,第一義的に「かたまり」と解すべきであって,「コ
ンクリートブロック」の略と解すべき合理的理由はない。
 なお,広辞苑第5版(乙12-2)は,平成10年に発行されたものであり,そ
の発行の時点で,「ブロック」の項に,「②コンクリートブロックの略」の意味を
追加したものであるところ,本件出願当時の発明者及び出願人の思考は,それ以前
に発行されている辞典に従い,「ブロック」が「かたまり」を意味するものと解し
て特定したものと解するのが自然である。
イ 仮に,特許法70条2項の規定に従って本件発明の技術的範囲を確定す
るとしても,原判決は,本件発明の「ブロック」を,上記各辞書に全く記載も示唆
もされていない「人工素材から成る成形品としてのブロック」であると認定してい
る。これは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び願書に添付した図面(以下
「本件図面」という。)による参酌の範囲を著しく逸脱しているものであり,特許
法70条2項に違反する。
 特許法70条2項の立法趣旨は,「本項は,特許請求の範囲に記載された個々の
用語の意義の解釈について規定したものであるから,この規定により,イ)特許発
明の技術的範囲を発明の詳細な説明中に記載された実施例に限定して解釈すること
や,ロ)発明の詳細な説明中には記載されているが特許請求の範囲には記載されて
いない事項を特許請求の範囲に記載されているものと解釈することが容認されるも
のでないことはいうまでもない。」(平成6年改正工業所有権法の解説120頁)
とされているところ,原判決は,本件発明を実施例に限定して解釈したものであ
り,特許法70条2項に違背することが明らかである。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,「ブロック2はセメントと砂の混
練物を主材とする。又はこのブロック2は金属精練によって発生するスラッジや製
紙スラッジ等を固形化したものを使用する。又このブロック2はタイルやレンガブ
ロックである。又このブロックは木質製又は合成樹脂製ブロックである」(段落
【0010】)との記載があり,この記載の趣旨は,種々のブロックが適用可能で
あることを例示によって説明しているものであり,したがって,「ブロック」に
は,コンクリートブロック以外にも,種々の材質のブロックが含まれるものと解す
べきであり,「石」(自然石)のかたまり,すなわち,自然石ブロックも含まれる
のである。
 また,発明の詳細な説明の上記記載中の「木質製ブロック」は,木材又は間伐材
等の立ち木そのものを輪切りにしてブロック化した木ブロックが包含される。旧来
より,このような木ブロックが歩行面の覆工ブロックとして業界において多用され
ていることは,本件出願当時に周知であり,上記「木質製ブロック」の例示は,こ
のような木材又は立ち木を輪切りにした木ブロックを意識して記載したものであ
る。したがって,このような「木質製ブロック」の代表例である木ブロックは,人
工素材から成る成形品としてのブロックではないから,本件発明の「ブロック」を
「人工素材から成る成形品としてのブロック」であると認定した原判決の認定は,
誤りである。
 さらに,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかなとおり,【産業上の
利用分野】と【従来の技術】の欄の2か所において「コンクリートブロック」の用
語を用いているが,その余の【発明が解決しようとする問題点】,【作用】,【実
施例】,【発明の効果】,【図面の簡単な説明】,【符号の説明】の40か所にお
いては,材質を意味するコンクリートを冠しない「ブロック」の用語を用いてい
る。本件発明においては,「コンクリートブロック」の用語と「ブロック」の用語
とを明確に使い分け,材質を意味するコンクリートを冠しない「ブロック」の用語
をもって発明を特定しているのである。したがって,本件明細書の発明の詳細な説
明を参酌しても,本件発明の「ブロック」は,「コンクリートブロック」に限定さ
れず,自然石ブロックも含まれるのである。
エ 原判決が,「河川等の護岸工事における法面覆工の工法としては,コン
クリートブロックを用いる工法と自然石を用いる工法とが,その代表的な例として
挙げられ」(「事実及び理由」欄の第3の1(1)イ,b))と判示しているとおり,
覆工ブロックとして,「コンクリートブロック」や「自然石」を用いることは,本
件出願当時,当業者において自明であり,当業者においては,「ブロック」の意味
は,法面覆工の代表的工法に用いられる,「コンクリートブロック」と「自然石」
を含むものとして普通に認識されており,本件発明の「ブロック」も,この当業者
の通常の認識に従って解すべきである。
オ 原判決は,「本件発明の構成要件Aの『ブロック』は,コンクリートブ
ロックなどに例示されるような人工素材による成形品としてのブロックであり,そ
の成形時に『引留具』を一体成形することを可能とするものであって,これが不可
能な自然石は含まないものであると解すべきである。」(「事実及び理由」欄の第
3の1(1)イ,a))と判示し,成形時に「引留具」を一体成形することが本件発明
に必須の構成であるとしているが,失当である。
 本件特許の本質的特徴は,ネットの経糸又は緯糸にブロックを通し掛けにするこ
とで,それまでのネットにブロックを接着剤で固定していたものより,容易かつ迅
速にブロック敷設が出来るようになったということであるから,ブロックとして何
を用い,そのブロックに引留具をどのように取り付けるかということと,ネットに
引留具を通し掛けにすることは何らの関係もなく,自然石に引留具を一体成形でき
ないからといって,通し掛けが複雑,困難になるわけではない。本件明細書で一体
成形というのは,一つの例示にすぎず,後から引留具を取り付けることも当然に本
件発明の技術的範囲に属するのである。
 「ブロック」に「引留具」を事前に取り付けて事後的に「ネット」に引き通しす
る場合と,「ネット」に「引留具」を事前に引き通して「ブロック」に事後的に取
り付ける場合とでは,「引留具」の取り付け手順が異なるのみで,上記本件発明の
本質的特徴においては全く異なることがない。「引留具」の事前取り付け,事後取
り付けは上記本質的特徴とは何ら関連性を有しないものであり,前者(引留具の事
前取り付け)は本件発明の技術的範囲に属するが,後者(引留具の事後取り付け)
は本件発明の技術的範囲に属さないとする原判決の判断は,合理的理由に欠けるも
のである。本件発明は「ブロック」の材質や「引留具」の取り付け構造について特
許を請求したものでは決してない。
(2) 争点2(被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aと均等か)につい

ア 本件発明の本質的特徴は,請求項1に記載する「ネット」に「ブロッ
ク」を引き通し結合(点結合)する構成により,不陸を有する施工面への馴染み敷
設が容易であり(良順性),施工面を密閉せず,活性な植物育成を図る(非密閉
性)ことができる施工面敷設ブロックを提供する点に存し,「ブロック」が,「コ
ンクリートブロック」ないし「人工素材から成る成形品としてのブロック」である
か,「自然石」であるかの材質の相違は,本件発明の本質的部分には当たらない。
イ 「コンクリートブロック」と「自然石」は,護岸工事等の覆工ブロック
として,当業界において広く用いられているところであり,当業者は現場に応じ,
いずれかを選択して覆工工事を行っているのが実情であり,「コンクリートブロッ
ク」を「自然石」に置換しても,同一の目的・作用効果を達成することができるも
のであるから,上記本件発明の本質的特徴ないし作用効果は,「コンクリートブロ
ック」ないし「人工素材から成る成形品としてのブロック」を「自然石」に材質変
更(置換)しても,何ら変わるところがない。また,上記実情に照らし,当業者が
覆工ブロックとして「コンクリートブロック」ないし「人工素材から成る成形品と
してのブロック」を採用するか,「自然石」を採用するかに何らの困難性を伴わ
ず,容易に想到することができるものである。
ウ 「ブロック」を「引留具」を介して「ネット」に通し掛けし,施工面に
「ネット」をもって敷設する構成の施工面敷設ブロックは,本件出願時において全
く存在せず,公知技術からでは得難い上記格別の作用効果を達成できるものであっ
て,公知技術と同一,若しくはこの公知技術から当業者が容易に推考できたもので
ないことは明らかである。
エ 被控訴人の製品又は「自然石」を,本件発明の特許出願の全手続の経緯
において特許請求の範囲から意識的に除外した事実は全く存在しない。
オ したがって,被控訴人製品の「自然石」の構成は,本件発明の構成要件
Aの「ブロック」と均等なものであるから,被控訴人製品は,本件発明の技術的範
囲に属するものと認められるべきである。
2 被控訴人の主張
(1) 争点1(被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足するか)に
ついて
ア 証拠に示されている各種辞典の記載が示すように,「ブロック」なる用
語は,多様な意味観念を有するものであり,それのみではいずれの意味観念を指す
のか不明確であり,文意・文脈をもって判断しなければならない用語である。この
ような多様な意味観念を有する「ブロック」の用語の意義の解釈において,控訴人
の主張するように必ず上位概念の意味を選択しなければならない理由は全く存在せ
ず,それをもって「ブロック」の用語の意義は明確であるとの控訴人の主張は失当
というほかない。上記各種証拠が示すように「ブロック」の用語の意味観念が多様
であるために,その意味内容を特許請求の範囲の記載の文意・文脈,さらには明細
書の発明の詳細な説明の記載に求めることは当然の帰結である。
イ 本件発明は,上述のとおり,「ブロック」の用語の意義が不明確であ
り,控訴人の引用する判例における,明細書の発明の詳細な説明を参酌する場合の
要件である「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することが
できない」という特段の事情がある場合に該当する。ここで,特許請求の範囲の記
載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないか否かは,当業者から見
た場合を基準とすべきであり,一般的な技術用語としては一義的に明確であって
も,当該発明の技術分野によっては当業者においてその用語自体からの技術内容を
一義的に理解できないときも含まれる。
ウ 控訴人による「ブロック」の用語の技術的意義の解釈は,本件明細書の記
載に基づかない主張であり,かつ,文意・文脈からの用語の意味判断とも取引の実
情ともかけ離れた解釈であって到底採用できるものではない。
 本件明細書の発明の詳細な説明のいずれにも,「自然石」を「ブロック」として
使用する場合についての特有の技術的事項の開示が存在せず,「ブロック」に「自
然石」を含むとの記載も示唆も全くない。特許権は,発明の開示の代償として一定
期間の独占的実施を認めるものであることからすれば,本件発明に「自然石」を用
いることが,本件明細書のいずれにも全く開示も示唆もされていないのであるか
ら,本件発明の「ブロック」に「自然石」が含まれないとする原判決の判示は当然
である。明細書に何らの記載も示唆もない「自然石」について「ブロック」の用語
の意義に含めることとすれば,明細書に開示されていない技術的思想までもが本件
発明の技術的範囲に含まれることとなり,出願人が発明した範囲を超えて特許権に
よる保護を与える結果となる。このような結果は特許法の理念に反し,許されるも
のではない。
 本件明細書の段落【0010】に記載される「ブロック2」の例示として掲げら
れたものは,すべて人為的な成形品たる加工物である。そして,そこには「自然石
のかたまり」すなわち「自然石ブロック」であることに関する記載は全くない。コ
ンクリートブロックと自然石との特質の相違にかんがみると,本件明細書の記載か
ら,「ブロック」が「自然石」をも含むとするのは無理である。
エ 控訴人は,覆工ブロックとして,「コンクリートブロック」や「自然
石」を用いることは,本件出願当時,当業者において自明であり,当業者において
は,「ブロック」の意味は,法面覆工の代表的工法に用いられる,「コンクリート
ブロック」と「自然石」を含むものとして普通に認識されており,本件発明の「ブ
ロック」も,この当業者の通常の認識に従い解すべきである旨主張する。
 しかし,元来,法面覆工にコンクリートブロックを用いる場合は,当該施工現場
の環境や植生を考慮せずに,又は考慮する必要のない現場において,コンクリート
ブロック業界を中心に用いられてきたものである。これに対し,自然石による法面
覆工は,近年の環境問題への取り組みに応じ,施工現場の環境や植生への影響を考
慮して採用されるものであり,その実施のための技術力から,対応が可能な業者の
範囲は限られているものである。すなわち,法面覆工の工法における敷設素材の相
違は,その取扱い業界をも異にするものである。したがって,この業界において,
控訴人が主張するように,「ブロック」を,「コンクリートブロック」と「自然
石」を含むものとして認識されるような取引の実情は存在しない。むしろ,このよ
うに取扱い業界が異なることから,一般に,「ブロック」と表示するときにはコン
クリートブロック等の人工組成物を示し,自然石自体を取り扱うときにはそれと区
別して明確に「自然石」と表記されるのが通常である。
 このような業界の実情を踏まえれば,「ブロック」と「自然石」では,異なった
取扱い業者によって法面覆工の工事が施工されているから,当業者が「ブロック」
なる用語に接したときに,本件発明の「ブロック」に「自然石」が含まれると一義
的に明確に理解できるものではない。したがって,本件明細書の特許請求の範囲の
解釈に当たり,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるのである。
(2) 争点2(被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aと均等か)につい

 被控訴人製品の「自然石」が本件発明の「ブロック」と均等であることに
ついては争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足するか)につ
いて
(1) 特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載
に基づいて定めなければならないところ,その際には,願書に添付した明細書の特
許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された
用語の意義を解釈すべきである(平成14年法律24号による改正前の特許法70
条〔以下「特許法旧70条」という。〕1項及び2項)。
 この点について,控訴人は,最高裁平成3年3月8日判決の「特許請求の範囲の
記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見
してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明ら
かであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載
を参酌することが許されるにすぎない」との判示を引用して,発明の詳細な説明に
記載された事項をもって特許請求の範囲を限定すべきではない旨主張する。
 しかしながら,上記判決は,控訴人引用部分の直前に,「特許法29条1項及び
2項所定の特許要件,すなわち,特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について
審理するに当たっては,この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提とし
て,特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ,この要旨認定
は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づ
いてされるべきである。」との記載があるとおり,特許庁が特許処分を行う前提と
して,出願人が特許を受けようとする発明として特許請求の範囲に記載して提示し
た発明の要旨の認定について判示したものであり,直ちに特許発明の技術的範囲の
解釈に結び付けられるべきものではない。そして,特許発明の技術的範囲は,願書
に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならない
が,その記載の意味内容をより具体的に正確に判断する資料として明細書の他の部
分にされている発明の構成及び作用効果を考慮することは,なんら差し支えないも
のと解すべきであり(最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決・判時781号
69頁参照),特許法旧70条2項は,その当然のことを明確にしたものと解すべ
きである。
 そもそも,特許明細書の用語,文章は,①明細書の技術用語は学術用語を用いる
こと,②用語はその有する普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一し
て使用すること,③特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して
使用すること,④特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とは矛盾しては
ならず,字句は統一して使用することが必要であるところ(特許法施行規則様式2
9〔備考〕7,8,14イ),特許発明の技術的範囲の解釈に当たり,特許請求の
範囲の用語,文章を理解し,正しく技術的意義を把握するためには,明細書の発明
の詳細な説明等を検討せざるを得ないものである。
 もっとも,ある種の化学物質のように,構造式によって一義的に特定することが
できることがあり,そのような場合は,特許発明の技術的範囲を確定するために明
細書の記載を考慮する余地はないが,こうした例外的な場合を除けば,明細書の記
載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すること
は,なんら差し支えないものと解すべきである。
(2) 本件についてみると,特許請求の範囲には,「ネットの経糸又は緯糸にブ
ロックの敷設面に設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合
し」と規定されているところ,「ブロック」は,「①かたまり。角塊。⑦コンクリ
ート-ブロックの略。コンクリートで作った工事材料」(広辞苑第2版),「かた
まり。角塊。『コンクリート‐―』」(広辞苑第3版),「かたまり。角塊。『コ
ンクリート‐―』『―塀』」(広辞苑第4版,甲21),「①かたまり。角塊。
『―肉』②コンクリートブロックの略。『―塀』」(広辞苑第5版,乙12-
2),「①(ア)かたまり,(イ)コンクリート-ブロックのこと」(大辞林第1版,第
2版),「かたまりのもの。(イ)四角な石材。またはコンクリートのかたまり。」
(岩波国語辞典第4版,乙12-1)等といった意味のものとされ,多義的な意味
を有するが,少なくとも,「ブロック」が「コンクリートブロック」の略称の意味
を有することは,本件出願当時,本件の技術分野のみならず一般的にも周知の事項
であったということができ,この事実は,当裁判所に顕著である。それに,本件発
明の技術分野が土木工事であることを考慮すると,「ブロック」といえば,まずは
「コンクリートブロック」の意味と考えるのが通常であるというべきである。
 控訴人は,本件発明の「ブロック」は,上位概念として「かたまり」の語義を有
し,その下位概念として「コンクリートブロック」すなわち「コンクリートのかた
まり」,「自然石ブロック」すなわち「自然石のかたまり」が位置付けられると
し,本件発明の「ブロック」の語は,第一義的に「かたまり」と解すべきである旨
主張する。
 しかし,上記「ブロック」の用語例に従うと,「コンクリートブロック」は,
「かたまり」と同列の後順位にあるものであって,「かたまり」の下位概念ではな
い。そして,少なくとも,上記用語例をみる限り,「ブロック」には,「自然石ブ
ロック」あるいは「自然石のかたまり」の意味は含まれていないから,「自然石ブ
ロック」を「かたまり」の下位概念とするのも誤っているというべきである。結
局,控訴人の上記主張は,既にその前提において失当であるというほかない。
 なお,控訴人は,広辞苑第5版が平成10年に発行されたものであり,その発行
の時点で,「ブロック」の項に,「②コンクリートブロックの略」の意味を追加し
たものであるとし,本件出願当時の発明者及び出願人の思考は,それ以前に発行さ
れている辞典に従い,「ブロック」が「かたまり」を意味するものと解して特定し
たものと解するのが自然である旨主張する。
 しかしながら,上記のとおり,広辞苑第2版では,「ブロック」の項に,「⑦コ
ンクリート-ブロックの略」の記載があり,それを,広辞苑第3版,第4版では,
「コンクリート‐―」の記載としていたところ,広辞苑第5版において,再び,
「⑤コンクリート-ブロックの略」の記載を復活させたものであって,広辞苑の上
記変遷は,「ブロック」が「コンクリートブロック」の略称の意味を有すること
が,本件出願当時,本件の技術分野のみならず一般的にも周知の事項であったとの
事実を少しも損なうものではない。したがって,控訴人の主張は,その前提を欠く
ものであって,採用の限りでない。
(3) 次に,本件明細書において,「ブロック」の語の技術的意義を探究するた
めに,本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面について検討すると,次のとお
りの記載がある(甲2の1)。
ア 【産業上の利用分野】
 「この発明は施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する
敷設ブロックに関する。」(段落【0001】)
イ 【従来の技術】
 「従来,土地造成,道路開設,或いは土手の工事等においては,傾斜面
や路面をコンクリートブロックにて覆工する工事が行なわれている。また・・・」
(段落【0002】)
ウ 【発明が解決しようとする問題点】
 「この発明は施工面に対するブロック敷設が極めて簡単で,従って短い
工期,工費で敷設でき,植物育成も活性にする,更には製造の簡単な施工面敷設ブ
ロックを提供する。」(段落【0004】)
エ 【作用】
 「ネットにブロックに設けた引留具を通し掛けにするのみで多数のブロ
ックをネットに結合した敷設ブロックが容易に形成でき,ネットとブロックは互い
に結合しながら,その界面において実質的に互いに遊離した状態を形成できる。」
(段落【0006】)
オ 【実施例】
 「以下本発明の実施例を図1乃至図4に基いて説明する。1はネット,
2は施工面覆工用のブロックであり,ブロック2には上記ネット1の経糸又は緯糸
1aを通し掛けにする引留具3を設けて,多数のブロック2をネット1に結合す
る。ネット1は例えば合成樹脂製ネットであり,又ブロック2はセメントと砂の混
練物を主材とする。又はこのブロック2は金属精錬によって発生するスラッジや製
紙スラッジ等を固形化したものを使用する。又このブロック2はタイルやレンガブ
ロックである。又このブロックは木質製又は合成樹脂製ブロックである。上記ブロ
ック2の成形時に引留具3を一体成形したものを準備し,このブロック2の引留具
3にネット1の経糸又は緯糸1aを引通し,ネット1に多数のブロック2を結合す
る。」(段落【0008】~【0011】)
カ 【発明の効果】
 「上記施工面敷設ブロックによれば,ネットの経糸又は緯糸にブロック
に設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合する構成としたの
で,施工面に対する馴染性が極めて良好であり,施工面の凹凸を吸収して密着施工
が行なえ,又広域の施工面に対するブロック覆工作業が極めて容易且つ迅速に行な
える。又ネットに結合された個々のブロック間における植物育成も助長することが
できる。又ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けするのみ
で,ネットに多数のブロックを結合する敷設ブロックが容易に製造できる。」(段
落【0015】)
キ 図1ないし図4には,人工素材による成形品としてのブロックに引留具
を一体成形し,その引通し孔にネットの経糸及び緯糸を引き通し,これにより多数
のブロックをネットに結合したものが図示されており,自然石を使用したものは図
示されていない。
(4) 本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面の上記記載によれば,本件発
明は,施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する敷設ブロックに関
する発明であるから,施工面をコンクリートブロックで覆工するに当たって,その
ために用いるブロックが「コンクリートブロック」であることは明らかである。そ
して,発明の詳細な説明の本件発明自体についての記載(実施例以外の記載)にお
いて,「ブロック」の語が「コンクリートブロック」の意味と矛盾するものは見当
たらない。
 実施例の上記記載によれば,「金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッ
ジ等を固形化したもの」,「タイル」,「レンガブロック」,「木質製又は合成樹
脂製ブロック」をも本件発明の「ブロック」としているが,その他は何らの記載も
なく,具体的にどのようなブロックをいうのかについて明らかでなく,要するに,
上記実施例の記載は,「コンクリートブロック」が主体であるが,「コンクリート
ブロック」のみとするのではなく,それに類するものを排除しないという趣旨と理
解するほかない。そして,「コンクリートブロック」は,主として,セメントと砂
の混練物から成るのであり,実施例に列挙されたそれに類するものもいずれも人工
素材から成る成形品である。その一方で,本件発明の「ブロック」に自然石が含ま
れるかについては,本件明細書の発明の詳細な説明にも本件図面にも記載がなく,
示唆もされていない。
 また,本件発明の構成要件Aは,「ブロックの敷設面に設けた引留具」に「ネッ
トの経糸又は緯糸」を「通し掛けにして多数のブロックをネットに結合」するもの
であるところ,上記(3)カのとおり,本件明細書の【発明の効果】欄に,「ネットの
経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネット
に結合する構成としたので,施工面に対する馴染性が極めて良好であり,施工面の
凹凸を吸収して密着施工が行なえ,又広域の施工面に対するブロック覆工作業が極
めて容易且つ迅速に行なえる。」と記載されていることからすると,広域の施工面
に対するブロック覆工作業が極めて容易かつ迅速に行われるとの効果は,引留具に
ネットの経糸又は緯糸を通し掛けするのみで多数のブロックをネットに結合するこ
とができる構成としていることに基づくものと認められる。これに対し,自然石を
ブロックとして用いる場合には,自然石の敷設面に引留具を設けるために,自然石
を加工しなければならないところ,コンクリートブロックとは形状,硬度が異な
り,また,自然石ごとにも,形状,硬度,その他加工上の特性が異なるので,引留
具の取付方法において,本件明細書の発明の詳細な説明に開示されているブロック
覆工作業とは異質な技術を必要とすることになり(乙1,13~15,19),そ
のため,ブロックに関する特許や実用新案の出願に当たっては,当該特許発明ない
し考案が自然石を対象とするものであるか否かが明示されることが多く,自然石と
コンクリートブロックの両方を対象とする場合にもその旨が明記されることが多い
(甲31-1~6,32-1~3,35-1,乙20~22)。これらの事情に照
らすと,本件発明の「ブロック」に人工素材から成る成形品のみならず「自然石」
を含めるのであれば,その旨を本件明細書に明記した上で,自然石から成るブロッ
クに対する「引留具」の取付方法についても,人工素材から成るブロックの場合と
は区別して,本件明細書に記載すべきものである。ところが,本件明細書の発明の
詳細な説明及び本件図面に,「自然石」を「ブロック」として使用する場合に生じ
る特有の技術的事項,例えば,どのような手法,手順で「自然石ブロック」の敷設
面に引留具を設けるのか等について何らの記載や示唆もない。
(5) 以上によれば,本件発明の構成要件Aの「ブロック」は,「コンクリート
ブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品であって,人工素材とはいえ
ない「自然石」を包含しないものと解すべきである。
 これに対し,控訴人製品は,いずれも自然石を使用するものである。すなわち,
長野物件は,原判決別紙物件目録の長野物件説明書記載のとおり,多数の自然石に
アンカ孔を設け,この孔に,スリーブとアンカピンから成るアンカ部材を打ち込
み,このアンカ部材に固定金具を固定することにより,金網把持部を備えた固定金
具を自然石に固定し,その際にこの金網把持部により亀甲金網のねじり部を把持さ
せることにより,多数の自然石を亀甲金網と結合するものであり,岩手物件も,原
判決別紙物件目録の岩手物件説明書記載のとおり,自然石にアンカ孔を設け,この
孔に,スリーブ部材とテーパ状とボルトから成るアンカ部材を打ち込み,このアン
カ部材に固定金具を固定することにより,金網把持部を備えた固定金具を自然石に
固定し,その際にこの金網把持部により亀甲金網のねじり部を把持させることによ
り,多数の自然石を亀甲金網と結合するものである。
 「自然石」が「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形
品といえないことは上記認定のとおりであるから,被控訴人製品は,いずれも本件
発明の構成要件Aを充足するものといえない。
(6) 控訴人のその余の主張について
ア 控訴人は,原判決が,本件発明の「ブロック」を「人工素材による成形
品としてのブロック」であると認定したことについて,特許発明の技術的範囲を発
明の詳細な説明中に記載された実施例に限定して解釈するものであって,本件明細
書の記載並びに本件図面の参酌の範囲を著しく逸脱しており,特許法70条2項の
立法趣旨に違背するなどと主張する。
 しかし,本件発明の「ブロック」が「人工素材から成る成形品としてのブロッ
ク」であるとの認定は,上記のとおり,発明の詳細な説明の本件発明自体に関する
記載及び実施例の記載の解釈から導かれるものであり,実施例に限定して解釈した
ものではないことは,上記判示から明らかである。
 なお,控訴人は,平成6年改正工業所有権法の解説の記述を引用して,原判決の
判断が特許法旧70条2項に違背する旨主張するが,上記(5)のとおり,合理的な理
由により,本件発明の「ブロック」が「人工素材による成形品としてのブロック」
であると認定されているのであるから,控訴人の上記主張は,失当である。
イ 控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】)の記載
の趣旨は,「ブロック」にはコンクリートブロック以外の種々の材質のブロックが
含まれる趣旨を表現していると解すべきであり,上記「ブロック」の種々の例示,
記載趣旨に基づき,請求項1に「ブロック」と規定し,「ブロック」の概念に含ま
れるコンクリートのかたまり(コンクリートブロック)や,「石」(自然石)のか
たまり,すなわち,自然石ブロックを含む趣旨である旨主張する。
 しかし,上記(5)に判示したとおり,本件発明の「ブロック」は「自然石」を包含
しないから,控訴人の主張は,採用の限りでない。
 また,控訴人は,発明の詳細な説明の段落【0010】に例示している「木質製
ブロック」には,木材又は間伐材等の立ち木そのものを輪切りにしてブロック化し
た木ブロックが包含され,このような「木質製ブロック」の代表例である木ブロッ
クは,「人工素材から成る成形品としてのブロック」ではない旨主張する。
 しかし,発明の詳細な説明には,「木質製ブロック」という記載があるのみであ
り,それがどのようなものであるかについての記載は皆無であるから,控訴人は,
本件明細書の記載に基づかない主張をするものであるばかりでなく,「木質」と
は,木の性質を有することであり,「木質製」とは,その意味は必ずしも明確では
ないが,「木質」のものから製造されたといった程度の意味と解されるところ,立
ち木そのものを輪切りにしてブロック化したものは,正に「木」そのものであって
「木質製」といえないものと解される。
 いずれにせよ,控訴人の上記主張は失当である。
ウ 控訴人は,本件明細書において,「コンクリートブロック」の用語と
「ブロック」の用語とを明確に使い分け,材質を意味するコンクリートを冠しない
「ブロック」の用語をもって発明を特定しているから,本件明細書の発明の詳細な
説明を参酌しても,本件発明の「ブロック」は,「コンクリートブロック」に限定
されず,自然石ブロックも含まれる旨主張する。
 しかしながら,上記(1)のとおり,特許明細書の用語はその有する普通の意味で使
用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用すること,特定の意味で使用しよう
とする場合には,その意味を定義して使用することが求められているところ,本件
明細書の発明の詳細な説明において,「ブロック」と「コンクリートブロック」と
が区別して使い分けられているとはいい難く,また,使い分けるための定義も見当
たらない。かえって,例えば,上記(3)アの「この発明は施工面をコンクリートブロ
ックで覆工する場合に使用する敷設ブロックに関する。」(段落【0001】)の
記載をみると,施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する「敷設ブ
ロック」は「コンクリートブロック」以外にはないことが明らかである。その他,
上記(3)オの【実施例】欄の「ブロック2はセメントと砂の混練物を主材とする。又
はこのブロック2は金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化
したものを使用する。又このブロック2はタイルやレンガブロックである。又この
ブロックは木質製又は合成樹脂製ブロックである。」との記載は,上記(4)のとお
り,「コンクリートブロック」以外の人工素材から成る成形品を含んでいるものと
認められるが,「タイルやレンガブロック」あるいは「木質製又は合成樹脂製ブロ
ック」とされており,「コンクリートブロック」ではないことが明確にされてい
る。
 したがって,本件明細書において「コンクリートブロック」の用語と「ブロッ
ク」の用語とを使い分けているとする,控訴人の上記主張は,何らの根拠もないも
のというほかなく,失当である。
エ 控訴人は,覆工ブロックとして,「コンクリートブロック」や「自然
石」を用いることは,本件出願当時,当業者に自明であり,「ブロック」の意味
が,法面覆工の代表的工法に用いられる「コンクリートブロック」と「自然石」を
含むものとして当業者に普通に認識されていたから,本件発明の「ブロック」も,
この当業者の通常の認識に従って解すべきであると主張する。
 確かに,証拠(甲31-1,乙3,14,15)及び弁論の全趣旨によれば,河
川等の護岸工事における法面覆工の工法としては,コンクリートブロックを用いる
工法と自然石を用いる工法とが,その代表的な例として存在し,覆工ブロックとし
て,「コンクリートブロック」及び「自然石」を用いる方法があることは,本件出
願当時,当業者において自明であったと認められる。
 しかし,このように「コンクリートブロック」及び「自然石」を用いる方法があ
り,それがどのようなものであるかを知っている当業者であれば,かえって,「コ
ンクリートブロック」と「自然石」とを混同することはないはずであって,本件明
細書の発明の詳細な説明の上記(3)の記載から,本件発明が「コンクリートブロッ
ク」及びそれに類する人工素材から成る成形品を用いる覆工ブロックに係る発明で
あって,「自然石」を用いる覆工ブロックに係る発明ではないと理解するものと認
めるのが相当であり,控訴人の主張は,採用の限りでない。
オ 控訴人は,本件特許の本質的特徴が,ネットの経糸又は緯糸にブロック
を通し掛けにすることで,それまでのネットにブロックを接着剤で固定していたも
のより,容易かつ迅速にブロック敷設が出来るようになったということであるか
ら,ブロックとして何を用い,そのブロックに引留具をどのように取り付けるかと
いうことと,ネットに引留具を通し掛けにすることは何らの関係もなく,自然石に
引留具を一体成形できないからといって,通し掛けが複雑,困難になるわけではな
いと主張する。
 しかし,上記(3)~(5)で認定したとおり,本件発明の構成要件Aの「ブロック」
は,「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品であっ
て,人工素材とはいえない「自然石」を包含しないのであり,仮に,本件明細書か
ら,直ちに,ブロックの成形時に引留具を一体成形できるものでなければならない
とはいえないとしても,そのことによって,本件発明の構成要件Aの「ブロック」
に自然石が含まれないとの判断を左右するものとはなり得ない。
 控訴人は,「ブロック」に「引留具」を事前に取り付けて事後的に「ネット」に
引き通しする場合と,「ネット」に「引留具」を事前に引き通して「ブロック」に
事後的に取り付ける場合とでは,「引留具」の取り付け手順が異なるのみで,上記
本件発明の本質的特徴においては全く異なることがないなどとも主張するが,その
ことが,本件発明の構成要件Aの「ブロック」に自然石が含まれないとの判断を左
右するものとはなり得ないことは,上記判示と同様である。
カ 控訴人は,その他にもるる主張するが,上述してきたところに照らし,
すべて失当である。
(7) 以上によれば,被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足せ
ず,被控訴人製品は,本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。
2 争点2(被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aと均等か)について
(1) 控訴人は,本件発明の本質的特徴は,請求項1に記載する「ネット」に
「ブロック」を引き通し結合(点結合)する構成により,不陸を有する施工面への
馴染み敷設が容易であり(良順性),施工面を密閉せず,活性な植物育成を図る
(非密閉性)ことができる施工面敷設ブロックを提供する点に存し,「ブロック」
が,「コンクリートブロック」ないし「人工素材から成る成形品としてのブロッ
ク」であるか,「自然石」であるかの材質の相違は,本件発明の本質的部分には当
たらないとして,被控訴人製品の「自然石」の構成は,本件発明の構成要件Aの
「ブロック」と均等なものである旨主張する。
 しかしながら,本件発明の構成要件Aの「ブロック」は,コンクリートブロック
などの人工素材から成る成形品としてのブロックであり,自然石はこれに含まれな
いと解すべきであること,被控訴人製品は,いずれも自然石を使用するものである
から,本件発明の構成要件Aを充足しないこと,本件発明は,上記のとおり人工素
材から成る成形品である「ブロック」を「引留具」にネットの経糸又は緯糸を通し
掛けにするのみで,多数のブロックがネットに結合する敷設ブロックが容易に製造
され,ブロック覆工作業が極めて容易かつ迅速に行われることを,その発明の本質
的特徴とするものであることは,前記認定のとおりである。そして,上記1(6)エの
とおり,覆工ブロックとして,「コンクリートブロック」や「自然石」を用いるこ
とは,本件出願当時,当業者において自明であったことに加え,上記1(4)のとお
り,「ブロック」に自然石が含まれるかについては,本件明細書の発明の詳細な説
明にも本件図面にも,これを示唆する記載がないのみならず,「自然石」を「ブロ
ック」として使用する場合に生じる特有の技術的事項についての記載や示唆もな
く,本件明細書及び本件図面には,「コンクリートブロック」及びそれに類する人
工素材から成る成形品に係る技術のみが開示されているのであるから,少なくとも
この点は本件発明の本質的部分というべきである。
 また,上記のとおり,「自然石」を「ブロック」として使用する場合に生じる特
有の技術的事項についての記載や示唆がない以上,「コンクリートブロック」及び
それに類する人工素材から成る成形品の構成を,「自然石」を「ブロック」として
使用する構成に代えることが容易でないことは,明らかである。
 さらに,本件明細書の上記記載によれば,控訴人は,覆工ブロックのう
ち,「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品を採用し
ているのであるから,「自然石」を特許請求の範囲から意識的に除外していること
は,明らかである。
(2) 以上によれば,被控訴人製品の「自然石」と本件発明の「ブロック」との
差異は,本件発明との本質的部分の差異であり,置換は容易でなく,「自然石」を
特許請求の範囲から意識的に除外しているのであるから,被控訴人製品の「自然
石」の構成は,本件発明の構成要件Aの「ブロック」と均等なものとして,被控訴
人製品が本件発明の技術的範囲に属するものということはできない。
3 以上のとおり,被控訴人製品の製造販売を行う被控訴人の行為が控訴人の本
件特許権を侵害するものということはできないから,控訴人の請求は,その余の点
について判断するまでもなく理由がない。
 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない
からこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官   篠  原  勝  美
  裁判官    宍 戸 充
   裁判官青柳馨は,転補のため,署名押印することができない。
 裁判長裁判官    篠 原 勝 美

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