弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は、被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の理由は、弁護人長屋潤の控訴趣意書を引用する。
 事実誤認の論旨について、
 よつて案ずるに、本件工事現場の地形及び土質は、原審鑑定人Aの鑑定書、原審
証人A、同B、Cの各証言並に原審検証調書及び当審鑑定人Dの鑑定書によれば、
高さ四、五メートル、長さ六十メートルの丘陵を切り取り幅二十五メートルの道路
を開通する工事であつて、その土質は、上部に約一、五メートルの粘土質細砂層、
その下部に砂質粘土層が殆んど水平に層を為して重なり、膠結度が低く、地盤とし
ては、ぜい弱であるため、掘さく工事を為すに際しては、崩壊の危険があることが
明らかに認められる。従つてかかる工事を為すに際しては、労働安全衛生規則第百
十六条第一号に規定してある通り、作業個所の上部を切り落し、安全なこう配を保
持し、又は適当な土留を設けると災害の危険を防止し得るが、切り取り個所にこう
配を設けることなく、垂直の断面の下部の一部をくりぬいて土砂を崩壊させる方法
によるときは、切り取り個所において工事に従事している労働者は、土砂の崩壊に
より、身体又は生命に危害を受ける危険のあることは、明らかである。前記規則第
二号において、前記第一号のような安全な工事方法によることができ<要旨>ないと
きは、看視人を置き、作業を監視させることを要する旨を規定しているが、前記の
第一号によることができない場合とは、地形の性質上、上部から安全なこう
配を保持して土砂を落すことのできない場合か又はかかる工事が可能であるとして
も、緊急やむを得ない事情があつて、かかる安全な工事方式によることができない
場合を指すものと解すべきである。而して緊急やむを得ない事情とは工事の完成が
時間的に切迫して居り、若しこれに遅れるときは、他人の生命、身体、自由若しく
は財産に重大な危難を及ぼす場合で、工事の危険より他にそれより高度の危険又は
財産上の損害がある場合で、かかる事情がない限り、、前記第一号の安全な方式に
よる工事をしなければならないものである。単に第二号の方式によれば、工事の能
率が上り、工事の時間が短縮せられるとか、又は工事の費用が少くてすむとか或は
土砂運搬を請負つている人夫が短時間に多くの土砂の運搬ができて、土砂運搬の請
負代金が多く取得できるという事由があるだけでは、前記の第一号により難い事由
があるということにはならない。
 本件について、これを見るに、被告人は、株式会社Eに雇われ、本件工事の現場
監督主任として、経理及び労務管理その他工事施行に関する一切の権限を委任され
ていたもので、本件工事は、名古屋市a区bの直線道路約一キロ四〇〇メートルの
一部であつて、請負契約締結日は、昭和二十五年一月三十日、竣工期限は、同年三
月三十一日、工費七百万円で、右道路は、同年十月同市Fグランドで開催された国
民体育大会に必要なものとされていたものである。而して、工事に要する日時は、
約二箇月であつて、若しこれに寸刻でも遅れると工事の目的に反するものであつた
ことは認め難いから、工事の完成が時間的に切迫していたものとは解することがで
きない。本件記録を精査するも、右の二箇月に完成するには、前記規則第二号の方
式によらねば、他に方法がなかつたとは到底認められない。却つて原審証人G、同
B、同C、同Hの各証言を綜合すれば、本件工事において、被告人が自ら計画的に
前記第二号の方法による工事を採用したのでなく、人夫が土砂運搬するのに、トロ
ッコ一杯を単位として賃金を取得する約定になつていたので、こう配を作つて切り
崩して行く方法では、能率が上らず、従つて賃金も少いため、第二号の方法を採用
したものであつて、被告人その他の工事監督人が監督に当つて、一応は、これを制
止しようとしたが、被告人等としても工事の完成を急いでいたため、これが制止に
ついて適切妥当な方法を執らなかつたことが認められる。第二号の方法によらね
ば、予定通り工事が完成しないとか又はE又は名古屋市に重大な損害を与える虞れ
があつた事情を認めるに足る適切な証拠はない。又前記第二号の方式によらねば、
Eが本件工事によつて損失を受ける虞れがあつたとしても工事に従事する人夫の危
険をおかしてまで右方式を採用することはできないものと解すべきであるから、第
一号方式によることができない場合であつたと認むべきではない。
 従つて、以上のような事情の下においては、前記第一号所定の方式による工事方
式を採用すべきであつて、これを採用しなかつた被告人には過失の責任がある。更
に前記第二号所定の工事方式によるとしても、看視人をつけ、適切妥当な監視をな
さしめなければならないのに、原審証人I、同J、同K、同L、同M、同B、同C
の各証言を綜合すれば、現場に看視人を置いてはいたが、専心監視に従事すること
なく、他の仕事をしながら監視したり又は、人夫が危険な方法で掘さくをし土砂を
運搬しようとしているのを見て、これを制止するに適当な方法を採らなかつたこと
が認められる。又トロッコの線路と切り崩しをしている個所との距離も十分でなか
つたことは、原判決挙示の証拠で認められる。従つて、本件工事について、前記第
一号の方式を採用することができないので、第二号の方式によつたとしても、十分
の注意義務を尽したものとは認められない。以上の通り原判決が被告人に対し過失
ありと認定した事実に誤認はなく、論旨は、理由がない。
 業務過失傷害致死罪が成立しないとの論旨について、
 労働安全衛生規則第百十六条第百十七条の義務を怠り、労働基準法第四十二条第
百十九条第百十九条第一号に触れる本件行為は、刑法第二百十一条の業務上の過失
罪に触れる行為と認めることができるものであつて、前者は後者の特別法関係に立
つものでなく、刑法第五十四条第一項前段の一所為数法に触れる行為と認めるのが
正当である。本件のような工事を為す使用者は、前記の労働基準法及び労働安全衛
生規則に定むる注意義務に従う業務上の義務があるから、これを怠れば、前記の労
働基準法によつて処罰されると同時に刑法第二百十一条の業務上の過失罪に該当す
るのは当然である。而して被告人に前記業務上の過失があつたことは、前記説明の
通りであるから、原判決が労働基準法違反の罪と業務上過失致死及び傷害の罪とを
認めたのは正当で、論旨は、理由がない。
 被告人に責任能力がないとの論旨こついて、
 労働基準法第四十二条第百十九条の使用者企業の軽営者ばかりでなく、被告人の
ように、経営者から委任されて、工事の現場監管主任となり、工事の経理、労務管
理その他工事施行に関する一切の権限を有するものも指称するものであることは、
労働基準法第十条によつて明らかである。原審が取り調べた証拠によれば、被告人
は、本件工事の施行につき、株式会社Eの代表者から委任を受け、自己の自由裁量
により、本件工事の施行を監督していたことが明らかであつて、右代表者の指揮命
令によつて働いていたものではない。右代表者は、被告人を監督していたに過ぎな
いのである。果して然らば、右会社の代表者に本件刑事責任があるなしに拘らず、
被告人に労働基準法違反の責任があることは疑を納れる余地がない。又被告人は、
本件工事の監督主任として、工事の施行に関し、前記説明の通り、業務上の注意務
があつて、これを怠つていたから、被告人は行為者として業務上過失致死傷罪の責
任を負担すべきである。前記会社の代表者と連帯又は連座して責任を負担するもの
ではない。論旨は、理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費
用は、同法第百八十一条により、被告人に負担させる。
 (裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)

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