弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の訴を却下する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は第一次的に主文同旨、第二次的に「原判決を取り消す。被控訴人の
請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を
求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上、法律上の主張は、左記のほかは原判決事実摘示と同一であ
るから、ここにこれを引用する。
 控訴代理人は次のとおり述べた。
 一、 被控訴人は本件訴訟を支配人Aによつて提起し、かつ爾後の訴訟手続一切
も右Aによつて遂行しているが、同人の支配人は登記はなされていても、同人は適
法なる支配人でなく、本件訴訟は結局代理人資格を欠く者によつて提起され、かつ
遂行されてきたことに帰し、現在までの訴訟行為はすべて無効であるから、本件訴
訟は却下を免れない。
 すなわち支配人とは商法第三七条に明定する如く、その商人の営業をなさしめる
ために選任される商業使用人なるが故に同法第三八条所定の広汎なる営業に関する
一切の裁判上又は裁判外の行為をなす権利を有するものであるところ、Aは集金代
行業者であつて、そのためには和解、裁判手続、執行手続等の法律事務を取り扱う
ことを業とする、いわゆる三百代言として弁護士法第七二条、第七三条違反の行為
をしている者で、法人について右行為を行う必要がある場合には支配人登記をな
し、その行為を外見上合法的に偽装しているにすぎないものである。
 従つて被控訴人がAがAを支配人として登記していても、同人は被控訴人の商業
使用人ではなくして、被控訴人が訴外岩見沢合同製菓有限会社に対して有している
売掛金回収のために、同訴外人ならびに控訴人に対して訴訟行為をしたり執行手続
をする便宜上右選任登記をしたにすぎないから、右支配人選任は脱法行為として無
効である。
 二、 前記の理由によりAは被控訴人の支配人ではないから、被控訴人が右Aを
法定代理人として昭和三七年二月一六日岩見沢簡易裁判所昭和三六年(メ)第八号
商事調停事件につき控訴人との間に締結した被控訴人主張の消費貸借予約契約も、
当然に無効である。
 三、 控訴人が訴外岩見沢合同製菓有限会社の代表者であつたことは認めるが、
実際は名目上の代表者にすぎなかつた。右訴外会社が被控訴人に対し三七五万円の
債務を負担していたことは知らない。
 被控訴代理人は次のとおり述べた。
 一、 被控訴会社の支配人Aは被控訴会社の商業使用人であり、昭和三六年九月
二二日の取締役会において適法に選任された支配人である。すなわち同人は支配人
として雇傭され、被控訴会社の営業に関する未回収債権の整理部門を担当している
ものである。しかして右Aは個人として金融業を営み(集金代行なる業務はしてい
ない。)、かつ、他法人の商業使用人を兼ねているが、被控訴人の営業とは何ら抵
触するところがないので、同人が他会社の支配人を兼ね、また自己において貸金業
を営むことについては、商法第四一条に基づき、被控訴人はこれを許諾している。
従つて右Aが被控訴人の商業使用人たる支配人として控訴人との間に消費貸借の予
約をし、かつその履行を求めるため本件訴訟を遂行することは適法である。
 二、 被控訴人が控訴人から本件予約にかかる消費貸借の目的たる金一〇〇万円
の交付を受けて消費貸借が成立したときは、右金員を昭和三七年九月末日に、控訴
人が代表者である訴外岩見沢合同製菓有限会社が被控訴人に対して負担している冷
凍器具、香料などの代金債務三七五万円の代位弁済に充当する約束であつた。
 (証拠関係)
 被控訴代理人は甲第一ないし第五号証を提出し、当審証人Bの証言、当審におけ
る被控訴会社支配人A尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。
 控訴代理人は乙第一ないし第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証を提出
し、甲第一号証、第四号証の成立を認め、その余の甲号各証の成立は知らないと述
べた。
         理    由
 本件訴訟は被控訴人の支配人Aが被控訴人を代理して提起し、第一審の手続はす
べて同人が遂行し、第一審の判決正本は同人に送達され、当審第一回ないし第七回
口頭弁論期日には、いずれも同人が被控訴人の代理人として出頭、弁論をし、当審
第八回口頭弁論期日(昭和三九年三月二六日午前一〇時)に至つて初めて被控訴人
会社の代表取締役Cによつて選任された弁護士Dが訴訟代理人として出頭し、以後
は同弁護士が訴訟を遂行して昭和三九年一〇月二九日口頭弁論終結に至つたもので
ある。
 しかして成立に争いのない乙第三号証、当審証人Bの証言、当審における被控訴
会社支配人A尋問の結果およびこれにより成立を認め得る甲第二、第三号証を総合
すると、被控訴会社ではその営業上の債権の回収に苦慮した結果、債権取立の業務
に明るいといわれるAにその回収を依頼したところ、Aは被控訴人の支配人に選任
されれば裁判上の行為も可能となるので取立を容易に行ない得る旨申し出たので、
昭和三六年九月二二日取締役会においてAを支配人に選任し、同日同人との間に
「雇傭契約書」と題する書面による契約を締結するとともに、同年一〇月二日支配
人選任の登記をなしたこと、右「雇傭契約」の要旨は、Aは被控訴会社の未回収債
権の整理部門の業務を担当し、被控訴会社はその回収した債権額の三〇%を回収の
都度算出してAに給与として支払う、Aが債権回収事務のため出張する場合の旅費
は(イ)宿泊料一八〇〇円、(ロ)日当一〇〇〇円、(ハ)車馬賃一等料金(急行
料とも)の割合で支払う、右以外の諸費用はすべて実費を支払う、というのであ
り、Aの担当する業務は専ら債権取立に限られ、勤務についでも時間的な制約を受
けないものであること、をそれぞれ認めることができ、右認定を左右するに足りる
証拠はない。
 更に、成立に争いのない甲第一号証、第四号証、同乙第一、第二号証、第四ない
し第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証に当審における被控訴人支配人A尋
問の結果および本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、
 (一) 右Aは昭和三四年五月二三日貸金業の届出をなし、小樽市内に自宅のほ
かニケ所の営業所を設け、泰和商行なる名称で金融業および集金代行業(自称)を
営むものであること、
 (二) 右同人は被控訴会社のほか訴外株式会社酒井商店(札幌市ab丁目c番
地)および訴外株式会社さくら商会(小樽市d町e丁目f番地)の各支配人に選任
され、前者については昭和三六年五月二六日、後者については昭和三八年七月一五
日、それぞれその旨の登記を経、右両会社についても被控訴会社と全く同一の条件
で同様の業務を担当しているものであること、
 (三) 右同人は訴外Eから訴外Fに対する飲食代金一万二三〇〇円の取立を委
任され、Eから右債権の譲渡を受けたうえ、みずから債権者として小樽簡易裁判所
に支払命令の申請をなし(同庁昭和三七年(ロ)第三七四号)、その旨の仮執行宣
言付支払命令を得、同年一二月二四日札幌地方裁判所小樽支部執行吏に委任して差
押競売を実施し、また訴外Gから訴外須田印刷製本株式会社に対する約束手形金二
万円につき取立委任のため右手形の裏書譲渡を受けて所持人となり、みずから原告
として札幌簡易裁判所に約束手形金請求訴訟を提起し(同庁昭和三六年(ハ)第六
一六号)、勝訴の判決を得たうえ札幌地方裁判所執行吏に委任して差押を実施した
こと、
 (四) 右同人はそのほか被控訴会社、株式会社酒井商店および株式会社さくら
商会の各支配人として別紙記載のとおり差押または仮差押の申請およびその執行を
なし、また本訴の請求原因となつた岩見沢簡易裁判所昭和三六年(メ)第八号商事
調停事件の申立をなし、同年二月一六日午後一時の調停期日に控訴人の代理人とし
て出頭して調停を成立せしめ、更に本件原判決の仮執行として昭和三八年二月二一
日控訴人に対し差押の執行をしたこと、
 をそれぞれ認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
 <要旨第一>右の諸事実およびAが本件訴訟を遂行した事実によるときは、同人は
報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関する代理人をな
し、その他の法律事務を取り扱い、又他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段に
よつて権利の実行をなしたものであり、これを短期間に反覆した点よりして、これ
らのことを業とするものと認めるのを相手とする。すなわち、わが国では本人訴訟
を許し、弁護士強制主義はとらないが、簡易裁判所において許可を得て代理人とな
る場合および法令による訴訟上の代理人の場合を除いては、訴訟代理人は弁護士で
あることを要する(民訴七九条)ところ、Aが被控訴会社はじめ、訴外株式会社酒
井商店、株式会社さくら商会の各支配人に選任されたことは、弁護士でない同人が
代理人として裁判上の行為をなすことを合法的ならしめるための手段であることは
以上認定の諸事実、とくに被控訴人が同人を支配人に選任するに至つた経緯から容
易に肯認し得るところであり、右は強行法規たる弁護士法第七二条違反行為を隠蔽
するための脱法行為であるというほかはないのである。被控訴人とAとの間の契約
は雇傭という名称を用いてはいるが、実質は債権取立の事務の委託であつて、委任
または準委任というべく、Aが営業主たる被控訴人と雇傭関係にたちこれに従事す
る者(商業使用人)ということはできないのみならず、被控訴人はAが他会社の支
配人を兼ね、また自己において貸金業を営むことを許諾していたことはその自陳す
るところであり、前記のとおり弁護士法第七二条違反の所為あるものであることは
少なくとも未必的に承知していたものと推認すべきであるから、被控訴人はAと意
思を通じ、共同して右脱法行為を行なつたものというべきである。
 そうすると被控訴人がAを支配人に選任したことは強行法規に違反する無効の行
為であるというべく、た<要旨第二>とえ支配人選任の登記がなされていても、Aは
被控訴人のために本件訴訟を遂行する資格を有しないものといわなけれ
ばならない。従つて本件訴訟は訴訟代理人たり得る資格のないものによつて提起さ
れ遂行されたことになり、その訴訟行為はすべて不適法である。すなわち本件にあ
つては弁護士たる訴訟代理人に弁護士法違反の代理行為があつた場合と異なり、非
弁護士が訴訟行為をなした場合に該当するから、その効力について根本的な差異が
生ずる。元来訴訟行為の代理に弁護士の資格を要する実質的理由は、法律実務家と
して訴訟の経済的能率的運営に資することのほかに、弁護士の公益的任務が司法の
公正の維持と社会正義の実現に役立つという配慮によるのであるから、非弁護士が
代理人として訴訟行為をなすことは、単にその本人に不利益が生ずるというだけで
はなく、民事訴訟の体系に連なる問題であるから、たとえ本人の追認、相手方の同
意等があつたとしても、非弁護士によつでなされた訴訟行為の瑕疵は治癒するもの
てはなく、結局非弁護士によつてなされた訴訟行為は無効であると断ぜざるを得な
い。従つて第二審において被控訴人のために弁護士たる訴訟代理人が出頭して弁論
をなしたことによるも無効なる訴訟行為が遡つて有効となるものではなく、第一審
裁判所における訴訟手続は訴の提起を含めすべて法律に違背するものというべく、
単に訴訟代理人に代理権限がなかつた場合のように追認追完を許すことはできない
ものであるから、本件訴は不適法として却下すべきである。
 よつて原判決を取り消し、本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担について
は一般に法定代理人または訴訟代理人の代理権欠缺の場合と異なり、本件において
被控訴人は支配人Aによつて訴訟を提起、遂行する意思を有していたものと認める
べきであるから一般の原則に従い、民事訴訟法第八九条、第九六条を適用して主文
のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 和田邦康 裁判官 田中恒朗 裁判官 藤原康志)
<記載内容は末尾1添付>

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