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平成21年11月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第7635号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成21年8月24日
判決
東京都新宿区《以下省略》
原告株式会社ケミトロン
同訴訟代理人弁護士石川幸吉
東京都港区《以下省略》
被告株式会社アルメックス
同訴訟代理人弁護士星千絵
同吉峯耕平
栃木県鹿沼市《以下省略》
被告アルメックスPE株式会社
同訴訟代理人弁護士小池豊
同櫻井彰人
同萱島博文
同訴訟代理人弁理士永井義久
同補佐人弁理士井上一
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告に対し,連帯して,3億1031万5000円及びこれに対
する平成20年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告アルメックスPE株式会社は,原告に対し,1億2633万8800円
及びこれに対する平成20年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
3仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,「メッキ用搬送方法と搬送間隔調整装置及びメッキ装置」に関する特
許権を有する原告が,被告株式会社アルメックス(以下「被告アルメックス」と
いう。)及び同被告の会社分割により設立された被告アルメックスPE株式会社
(以下「被告アルメックスPE」という。)に対し,被告らが製造販売したメッ
キ処理装置は,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,上記特許権を侵害す
ると主張して,特許法102条3項に基づく損害賠償として,被告らに対しては,
連帯して3億1031万5000円及びこれに対する本訴状送達日の翌日である
平成20年4月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の,被告アルメックスPEに対しては,1億2633万8800円及びこれに対
する本訴状送達日の翌日である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の各支払を求める事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を項目の末尾に記載す
る。)
(1)原告の特許権(甲1)
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許
を「本件特許」という。)を有している。
特許番号第3400729号
発明の名称メッキ用搬送方法と搬送間隔調整装置及びメッキ装置
出願日平成10年12月14日
登録日平成15年2月21日
特許請求の範囲
請求項2(請求項2に係る発明を「本件発明1」という。)
「被メッキ処理物を摺動自在なハンガーを介し吊持してエンドレスの
搬送手段によって搬送するハンガーレールに沿って併設され,前記ハ
ンガーレールのハンガーを持ち上げる又は降下させる昇降手段と,該
昇降手段によって持ち上げられたハンガーをハンガーレールの搬送方
向に向けて前記搬送手段の搬送速度よりも早い速度で移動させる早送
り移動手段と,前記昇降手段と早送り移動手段とを制御する制御装置
とからなること,を特徴とする搬送間隔調整装置。」
請求項3
「被メッキ処理物を摺動自在なハンガーを介し吊持してエンドレスの
搬送手段によって搬送するハンガーレールに沿って併設され,前記ハ
ンガーレールのハンガーを持ち上げる又は降下させる所要長さのレー
ル状の昇降手段と,該レール状の昇降手段に支持されたハンガーをハ
ンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送手段の搬送速度よりも早い
速度で移動させる押送り手段と,前記昇降手段と押送り手段とを制御
する制御装置とからなること,を特徴とする搬送間隔調整装置。」
請求項4(請求項4に係る発明を「本件発明2」といい,本件発明1と併
せて「本件発明」という。)
「メッキ処理物を摺動自在なハンガーを介し吊持してエンドレスの搬
送手段によって搬送するハンガーレールと,該ハンガーレールに沿っ
て設けられる請求項2または3に記載の搬送間隔調整装置と,メッキ
槽とを少なくとも有するメッキ装置であって,メッキ槽に所望の一定
間隔で被メッキ処理物をハンガーを介してハンガーレールで連続的に
搬送させメッキ処理すること,を特徴とするメッキ装置。」
(2)構成要件の分説
ア本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりとなる(なお,括弧内
は,被告らの主張する分説であるが,区切りの仕方は同一である。)。
1A(被告ら1A)被メッキ処理物を摺動自在なハンガーを介し吊持し
てエンドレスの搬送手段によって搬送するハンガーレールに沿って併設
され,
1B(被告ら1B①)前記ハンガーレールのハンガーを持ち上げる又は
降下させる昇降手段と,
1C(被告ら1B②)該昇降手段によって持ち上げられたハンガーをハ
ンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送手段の搬送速度よりも早い速
度で移動させる早送り移動手段と,
1D(被告ら1B③)前記昇降手段と早送り移動手段とを制御する制御
装置とからなる
1E(被告ら1C)こと,を特徴とする搬送間隔調整装置
イ本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
2Aメッキ処理物を摺動自在なハンガーを介し吊持してエンドレスの搬
送手段によって搬送するハンガーレールと,
2B該ハンガーレールに沿って設けられる請求項2または3に記載の搬
送間隔調整装置と,
2Cメッキ槽とを少なくとも有するメッキ装置であって,
2Dメッキ槽に所望の一定間隔で被メッキ処理物をハンガーを介してハ
ンガーレールで連続的に搬送させメッキ処理する
2Eこと,を特徴とするメッキ装置
(3)被告らの行為
ア被告アルメックスPEは,平成18年10月2日,被告アルメックスの
会社分割による新設会社として設立され,被告アルメックスのプラントエ
ンジニアリング事業部に関わる権利義務を承継した会社である。
イ被告アルメックスは,平成15年2月ころ以降,平成18年10月2日
ころまでの間,また,被告アルメックスPEは,同日以降,いずれもメッ
キ処理装置(以下「被告装置」という。)を製造・販売している。
(4)被告装置の構成等
ア被告装置の構成等のうち,当事者間に争いのない部分等は,別紙被告装
置目録記載のとおりである。なお,同目録の第2図搬送概要説明図につい
ては,下部プッシャーとレールの近接状況,第1∼第4各上部プッシャー
の送り爪の数及びS1,S2,*S3枠確認センサーの存否について,当
事者間に争いがあり,同図の記載は,原告の主張に係るものである。
イ被告らの主張に係る被告装置の構成等は,別紙被告装置目録(被告ら)
(第2図搬送概要説明図を含む。)記載のとおりである。また,被告らが
開示する被告装置において先行する被メッキ材(原告及び被告らは,被告
装置目録において「メッキ」をひらがなで表記するが,以下カタカナで記
載する。)Mと次行する被メッキ材Mの相互間隔が狭くなる機構は,次の
とおりである。
(ア)第4下部プッシャー104の後退限及び前進限,昇降装置50の下
限及び上限,第3上部プッシャー203の後退限及び前進限,並びに第
5下部プッシャー105の後退限及び前進限のそれぞれに,近接スイッ
チによる位置センサーが設けられ,移動限位置の検出が行われるように
構成されている。また,各位置センサーからの信号を取り込むシーケン
ス制御装置が設けられている(図示せず。)。
(イ)キャリアーに吊持された被メッキ材Mの幅寸法及び目的の間隔など
に応じて,第4下部プッシャー104による固定レール11から第3昇
降レール8への前進移行のタイミング・時間間隔,昇降装置50による
第3昇降レール8の下限から上限への上昇移動のタイミング・時間間隔,
第3上部プッシャー203による第3昇降レール8に沿う前進移動のタ
イミング・時間間隔,第5下部プッシャー105による第3昇降レール
8から給電レール16への前進移行のタイミング・時間間隔が,上記シ
ーケンス制御装置において予め設定されている。
(ウ)キャリアーに吊持された被メッキ材Mは,上記シーケンス制御装置
による制御信号に基づき,各ステップにおいて,予め設定されたタイミ
ング・時間間隔で移動が行われる。
(エ)前処理機構Aにおいては,先行する被メッキ材Mと次行する被メッ
キ材Mの相互間隔は大きいが,次行する被メッキ材Mがメッキ槽14内
に下降した後,第5下部プッシャー105によって,第3昇降レール8
から給電レール16へ前進移行し,その移行が完了した時点で,先行す
る被メッキ材Mと次行する被メッキ材Mの相互間隔は,目的の狭い間隔
となる。
ウ被告装置の各昇降レール(6∼8)は,本件発明における「ハンガーレ
ール」(要件1A(被告ら1A),要件1B(被告ら1B①),要件1C
(被告ら1B②),要件2A,要件2B,要件2D)に相当する。
(5)特許出願の経緯等(甲1)
原告は,平成10年12月14日,本件特許の出願をし,平成15年2月
21日,本件特許の設定登録がされた。
2争点
(1)被告装置の特定及び構成
(1)−1被告装置の特定及び構成
(1)−2本件発明に対応する被告装置の構成
(2)侵害論
(2)−1本件発明1の侵害の有無
(2)−2本件発明2の侵害の有無
(3)無効論
(3)−1本件発明1の無効理由
(3)−2本件発明2の無効理由
(3)−3本件特許出願時の技術水準
(4)損害論
3争点に対する当事者の主張
(1)被告装置の特定及び構成
(1)−1被告装置の特定及び構成
(原告)
被告装置の構成は,次のとおりである。
ア搬送概要説明図は,別紙被告装置目録の第2図記載のとおりである。ま
た,被告装置には,S1メッキ槽被メッキ材投入部の枠確認センサー,S
2メッキ槽被メッキ材投入部の枠確認センサー,S3作業槽枠確認センサ
ー(複数なので同図上には*で表示)(甲6の1)が存在する。
イ構造の説明について
(ア)循環処理される被メッキ材Mを保持し搬送するキャリアー25は,
前処理機構Aの各ステップについて,予め設定されたタイミング・時間
間隔でのシーケンス制御装置による制御信号に基づいて,メッキ処理機
構Bにおける一定の速度の搬送用ラック15の搬送速度より速い速度で
前処理軌道(別紙被告装置目録の第1図及び第2図に図示される前処理
のための移動軌道)に沿って搬送される。
(イ)前処理シャワー槽4,酸洗槽5,メッキ槽14の周辺の構成につい

①第3昇降レール8は,前処理機構Aの各ステップについて,前記シ
ーケンス制御装置により設定されたタイミング・時間間隔での制御信
号により起動する昇降モータ50Aを駆動源とする昇降装置50によ
って第1昇降レール6,第2昇降レール7と共に昇降され,同時に転
回装置13により転回レール12が同調駆動する。
②メッキ槽14の被メッキ材投入部には,枠確認センサーS1が設定
されており,先行する被メッキ材m1がメッキ槽14内を1ピッチ
(被メッキ材の幅+並列被メッキ材との間隔,以下同じ。)前進した
位置に達すると,これを感知してシーケンス制御装置に対して枠確認
信号を発信し,シーケンス制御装置はその信号を受けて,設定された
シーケンスに基づき第5下部プッシャー105を起動する。第5下部
プッシャー105の駆動により第3昇降レール8上の,被メッキ材m
1を吊持するキャリアー25が給電レール16上に移行される(別紙
被告装置目録の第4の1図)。
③第3昇降レール8と給電レール16にまたがって対応した位置に設
けられた送りモータ105A,送りボールネジ105B,及び送り爪
105Cを有する第5下部プッシャー105は,シーケンス制御装置
の指令によって起動する。キャリアー25の第3昇降レール8から給
電レール16への受渡しは,給電レール16に沿って併設される,複
数のラックピース15Bをアタッチメント15Cでエンドレス状のチ
ェーン15Aに着設した搬送用ラック15の噛合歯15a上に,キャ
リアー25の噛合部材26の先端が載り,プッシャーの作動により同
先端が噛合歯15aとの係合位置に動いて噛合歯15aと噛合するこ
とにより行われる。被告らの主張も,構成としては同一である。
(ウ)キャリアー25に吊持された被メッキ材Mを所望の一定間隔でメッ
キ槽14内を連続して搬送するため,搬送間隔調整機構が次のとおり設
けられている。
メッキ槽14の被メッキ材投入部に枠確認センサーS1,S2,各前
処理作業槽には枠確認センサーS3(別紙被告装置目録の第2図には*
印で表示)がそれぞれ設定されており,被メッキ材Mの搬送通過が確認
され,これを確認したシーケンス制御装置が駆動指令を発して駆動制御
が行われる。
(エ)先行する被メッキ材m1がメッキ槽14内を1ピッチ前進した位置
に達すると,枠確認センサーS1がシーケンス制御装置に対して枠確認
信号を発信し,シーケンス制御装置はその信号を受けて,設定されたプ
ログラムに基づき第5下部プッシャー105を起動し,後続の被メッキ
材m2をm1と所定の間隔で並列するように,これを吊持するキャリア
ー25を搬送用ラック15上に押し出す(別紙被告装置目録の第4の5
図)。
第5下部プッシャー105の上記作動が終了すると,枠確認センサー
S2がこれを感知してシーケンス制御装置に対して枠確認信号を発信し,
シーケンス制御装置はその信号を受けて,設定されたプログラムに基づ
きキャリアー25を持ち上げる又は降下させる昇降レール(6∼8)を
駆動する昇降装置50を起動し,昇降レール(6∼8)を上昇させると
ともに,上部プッシャー機構(201∼203)が搬送方向に1ピッチ
前進作動し,各昇降レールに係合されている各キャリアー25を1ピッ
チ押出し前進させることにより,被メッキ材m3が第3昇降レール8の
メッキ槽投入側端部に移動し,後続の被メッキ材が順次1ピッチずつ前
進する。
各処理槽に設定されたセンサーS3(別紙被告装置目録の第2図)に
よって枠確認が行われて昇降装置50が起動し,各昇降レールと共に第
3昇降レール8は降下してm3をメッキ槽14の投入口端部待機位置に
浸漬するとともに,後続の被メッキ材m4,m5を酸洗槽5に浸漬する。
以上のように,搬送用ラック15により被メッキ材Mを設定したピッ
チで搬送させるために,シーケンス制御装置から発せられる指令により,
搬送駆動機構が制御されて前処理機構Aの搬送機構は搬送用ラック15
の搬送速度よりも早い速度で搬送し,第3昇降レール8から給電レール
16に被メッキ材Mが受け渡されてメッキ処理搬送間隔が調整される。
ウ被告装置の作動は,次のとおりである。
(ア)第1ステップ後段の作動は,シーケンス制御装置による駆動制御に
より,行われる。
(イ)第2ステップの作動は,次のとおりである。別紙被告装置目録の第
4の1図の状態でそれぞれの被メッキ材Mは,シャワー,酸洗,メッキ
の各作業が連続的に施されるが,最終的にメッキ槽中における隣接する
メッキ材M端部間の間隔を詰めて少なくする所定の間隔に調整してメッ
キ槽中に並列することを目的とする。
したがって,被メッキ材m1が,搬送用ラック15の搬送速度により
メッキ槽14の投入口から1ピッチ前進し,後続の被メッキ材m2がm
1と所定の間隔で並列できるスペース位置に移動するまでの時間が基準
となり,そこに設定されたセンサーS1の確認信号が昇降駆動と早送り
駆動を制御する中心となる。
被メッキ材Mのうちm2,m4は,その保持機構に対してシーケンス
制御装置から上記タイミングによる駆動指令がなされると,次の工程
(次の作業槽)に移行することになる。その場合,各作業槽の間には隔
壁があるので,被メッキ材Mのうちm2,m4は一旦上昇して前進し,
次の作業槽に入る(m3は,m2,m4と共に一旦上昇して前進するが,
同じ作業槽に再度入る。)ことになる。すなわち,各作業槽での工程が
行われ,枠確認センサーS3による確認がされると,シーケンス制御装
置からその保持機構に対して上記タイミングによる駆動指令がなされ,
昇降モータ50Aを駆動源とする昇降装置50を制御する制御装置が働
いて昇降装置50が駆動してキャリアー25を保持している第3昇降レ
ール8を上昇させ,第4の2図に示されるように,被メッキ材Mのうち
m2,m3,m4が上昇する。
エ(ア)被告装置では,シーケンスを用いて,昇降手段と早送り手段を制御
し,キャリアー25の搬送速度を調整し搬送間隔を調整している。
(イ)被告装置は,予め設定された時間間隔・タイミングで被メッキ材M
を搬送して先行の被メッキ材Mに追いつくように,まさに搬送間隔を調
整している。枠確認センサー(甲6)は,被メッキ材Mの移行動作確認
がなければ搬送駆動を行わないから,駆動制御が行われているといえる。
(ウ)被告装置では,最終的にメッキ材端部間の間隔を詰めて少なくする
所定の間隔に調整してメッキ槽中に並列していることは事実である。
(被告ら)
ア原告の主張する事実は,いずれも否認する。
イ被告アルメックス,又は,被告アルメックスPEが製造販売してきたメ
ッキ処理装置は,別紙被告装置目録(被告ら)記載のとおりである。
ウ(ア)(1)−1(原告)イ(ア)について,被告装置では,キャリアー25
は,予め設定されたタイミング・時間間隔での「シーケンス制御装置に
よる制御信号」に基づいて搬送されるものではない。
(イ)(1)−1(原告)イ(イ)①について,昇降装置50は,第3昇降レ
ール8のみの昇降装置である。
(ウ)(1)−1(原告)イ(イ)②について,枠確認センサーS1及び枠確
認信号の意味は不明である。第5下部プッシャー105による第3昇降
レール8から給電レール16への前進移行のタイミング・時間間隔は,
シーケンス制御装置において予め設定されており,第5下部プッシャー
は,シーケンス制御装置において予め設定されたタイミングになると起
動し,予め設定された時間間隔になると停止するだけである。シーケン
ス制御装置が,先行する被メッキ材Mの位置をセンサーで感知した信号
に基づいて,第5下部プッシャーを起動させるものではない。
(エ)(1)−1(原告)イ(イ)③について,キャリアー25の第3昇降レ
ール8から給電レール16への受渡しに関しては,被告装置は,第5下
部プッシャー105が前進限に前進した時点で,搬送用ラック15の噛
合歯15aに噛合部材26が係合するものである。
(オ)(1)−1(原告)イ(ウ)について,被告装置には,搬送間隔調整装
置はない。枠確認センサーS1,S2,S3及び枠確認信号の意味は,
不明である。被告装置は,センサーによる被メッキ材Mの通過確認を行
い,これに基づきシーケンス制御装置が駆動指令を発する駆動制御を行
う構成ではない。
(カ)(1)−1(原告)イ(エ)について,枠確認センサーS1,S2,S
3及び枠確認信号の意味は,不明である。被告装置では,被メッキ材M
の前進移行のタイミング・時間間隔は,各プッシャーの前進限及び後退
限,並びに,昇降装置50の上昇限及び下降限を設定し,これらの動作
が順次所定のタイミング・時間間隔で行われるようにシーケンス制御装
置において予め設定されている。被告装置において,各プッシャーによ
るキャリアー25の前進限及び後退限位置,並びに,昇降装置50によ
るキャリアー25の上昇限及び下降限位置にそれぞれセンサーが設けら
れているが,これらのセンサーは,順次各位置までの移行動作が完了し,
次の動作に移行することを許容するための単なる移行動作確認手段だけ
のものである(仮に移行動作確認が行われない場合,装置を停止す
る。)。各センサーが,その位置に到達したことの信号をシーケンス制
御装置に送り,この信号を受けて当該シーケンス制御装置が各プッシャ
ー又は昇降装置50を起動するようなものではない。
また,「メッキ処理搬送間隔が調整されるようになっている。」ので
はなく,間欠搬送される後行の被メッキ材Mを,予め設定された時間間
隔・タイミングで搬送して,連続搬送される先行の被メッキ材Mに追い
つくようにしているだけである。
(キ)(1)−1(原告)ウ(イ)について,第2ステップの目的は,次の作
業槽に入るために各作業槽の間の隔壁を越える必要があるため,キャリ
アーに吊持された被メッキ材Mを上昇させることに尽きるのであり,
「最終的にメッキ槽中における隣接するメッキ材M端部間の間隔を…所
定の間隔に調整してメッキ槽中に並列する」ことは目的ではない。被告
装置における被メッキ材Mの前進移行のタイミング・時間間隔,シーケ
ンス制御装置,センサーについては,上記のとおりである。
(1)−2本件発明に対応する被告装置の構成
(原告)
ア本件発明1に対応する被告装置の構成
1a被メッキ材Mを保持するキャリアー25を,プッシャーによって移
行搬送する昇降及び固定・転回のレール機構と,チェーン15Aによっ
て移行搬送する搬送用ラック15と,プッシャーによって移行搬送する
昇降及び固定・転回のレール機構からキャリアー搬送チェーン24によ
って再び最初の昇降及び固定・転回のレール機構の回帰するエンドレス
の搬送軌道が存在し,
1bこれに沿って,被メッキ材Mを摺動自在なキャリアー25を介して
持ち上げる又は降下させる昇降レール機構が存在する。
1c前処理機構Aの搬送機構がメッキ処理機構Bにおける搬送用ラック
15の搬送速度よりも速い速度で,搬送方向である第3昇降レール8か
ら給電レール16への搬送間隔調整部に移動搬送することにより,被メ
ッキ材Mの搬送間隔を維持している。
1d前処理機構Aの搬送各ステップについて,駆動のタイミング・時間
間隔に関するプログラムを予め入力設定して,前処理機構Aの搬送軌道
の所定箇所に設置された枠確認センサーS3,前処理機構Aの搬送軌道
から搬送用ラック15への受渡部に設置された枠確認センサーS1,S
2が,被メッキ材Mを感知して発する確認信号を受けて前記プログラム
に基づいて搬送機構に対する駆動指令を発するシーケンス制御装置が存
在し,その指令により搬送駆動機構が制御されて,前処理機構Aの搬送
機構が搬送用ラック15の搬送速度よりも速い速度で搬送し,第3昇降
レール8から給電レール16への受渡部において搬送間隔が調整される。
1e上記の各構成によって,被メッキ材Mを吊持したキャリアー25の
搬送間隔を,被メッキ材Mの横向き間隔を被メッキ材Mの側端部に電流
が過度に集中されない所定の狭い間隔幅となる送りピッチに調整して,
搬送用ラック15の噛合歯15aに係合させ,メッキ槽14を含むメッ
キ処理機構Bの搬送軌道に載せている。
イ本件発明2に対応する被告装置の構成
2a摺動自在なキャリアー25を介して被メッキ材Mを吊持して搬送す
る「レール昇降装置50とプッシャーによって移行搬送する昇降及び固
定・転回のレール機構と,チェーン15Aによって移行搬送する搬送用
ラック15と,プッシャーによって移行搬送する昇降及び固定・転回の
レール機構からキャリアー搬送チェーン24によって再び最初の昇降及
び固定・転回のレール機構の回帰するエンドレスの搬送軌道」が存在す
る。
2b前記「搬送軌道」には,被メッキ材Mを摺動自在なキャリアー25
を介して持ち上げる又は降下させる昇降レール機構と,第2昇降レール
7によって持ち上げられたキャリアー25を,搬送方向である搬送用ラ
ック15の方向に向けて搬送用ラック15の搬送速度よりも早い速度で
移動させる,昇降レール機構を作動する昇降装置50の駆動とプッシャ
ー機構の駆動を制御する制御機構によって,被メッキ材Mを吊持したキ
ャリアー25の搬送間隔の調整を行う調整機構によって,被メッキ材M
を吊持したキャリアー25の搬送間隔を,被メッキ材Mの横向き間隔を
被メッキ材Mの側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隔幅と
なる送りピッチに調整して,搬送用ラック15の噛合歯15aに係合さ
せ,メッキ槽14を含むメッキ処理機構Bの搬送軌道に載せる搬送間隔
の調整機構が存在している。
2cメッキ処理機構Bには,メッキ処理液中を被メッキ材Mが横向きで
水平に進行されるメッキ槽14が存在している。
2dメッキ槽14に被メッキ材Mを吊持したキャリアー25の搬送間隔
を,被メッキ材Mの横向き間隔を被メッキ材Mの側端部に電流が過度に
集中されない所定の狭い間隔幅となる送りピッチに調整して,搬送用ラ
ック15の噛合歯15aに係合させ,メッキ槽14を含むメッキ処理機
構Bの搬送軌道に載せて連続的に搬送させ,メッキ処理している。
2e被告装置は,投入部でキャリアー25に吊持されて送り出された被
メッキ材Mを,前処理機構Aで脱脂・水洗等の工程を経て,メッキ処理
機構Bでメッキ槽14のメッキ液に浸漬しながら移動してメッキした後
に引き上げ,後処理機構Cにおいてメッキ液を洗い落とした後,キャリ
アー25から外して乾燥する,構成となっているメッキ装置である。
(被告ら)
原告の主張は,いずれも否認ないし争う。
(2)侵害論
(2)−1本件発明1の侵害の有無
(原告)
ア本件発明1と被告装置の構成の対応関係
(ア)被告装置において,「搬送間隔調整装置」に相当するのは,
①第1昇降レール6,第2昇降レール7,第3昇降レール8によって
構成される「昇降手段」と,
②第1上部プッシャー201,第2上部プッシャー202,第3上部
プッシャー203,第1下部プッシャー101,第2下部プッシャー
102,第3下部プッシャー103,第4下部プッシャー104,第
5下部プッシャー105によって構成される「早送り移動手段」と,
③被メッキ材Mを感知して確認信号を発する,前処理機構Aの搬送軌
道の所定箇所に設置された枠確認センサーS3,前処理機構Aの搬送
軌道から搬送用ラック15への受渡部に設置された枠確認センサーS
1,S2が発する確認信号を受けて,前処理機構Aの搬送各ステップ
について駆動のタイミング・時間間隔について予め入力設定したプロ
グラムに基づいて,前記「昇降手段」,「早送り移動手段」に対する
駆動指令を発する,被告PEが図示しないとする「シーケンス制御装
置」
によって構成される部分である。
(イ)被告装置において,「エンドレスの搬送手段」に相当するのは,
「レール昇降装置50とプッシャーによって移行搬送する昇降及び固定
・転回のレール機構と,チェーン15Aによって移行搬送する搬送用ラ
ック15と,プッシャーによって移行搬送する昇降及び固定・転回のレ
ール機構からキャリアー搬送チェーン24によって再び最初の昇降及び
固定・転回のレール機構の回帰するエンドレスの搬送軌道」により構成
される部分である。
(ウ)被告装置において,「ハンガーレール」に相当するのは,「給電レ
ール16,第1∼第3の各昇降レール6∼8,固定レール9∼11及び
転回レール12と,キャリアー搬送チェーン24を含めた,各レール機
構によって構成される循環搬送軌道」である。
イ要件1A(被告ら1A)
(ア)「ハンガーレールに沿って併設」について
①要件1A(被告ら1A)の「併設」については,ハンガーレールと
搬送間隔調整装置を物理的に別物とする必要はない。本件特許に係る
明細書(以下「本件明細書」という。)には,別物としなければなら
ないとの記載はなく,別物とすることによる特別な作用効果も記載さ
れていない。
②広辞苑によると,「併設」とは,「いっしょに設置すること。あわ
せて設備すること。」となっており,物理的に1つのものを2面的に
機能させても併設になるというべきである。
(イ)「エンドレスの搬送手段」について
ハンガーレールについては,エンドレスの搬送軌道を指称している場
合と,具体的レール形態を指称している場合があり,本件発明1におい
ては,前者を指称しており,ハンガーの移動搬送がエンドレスに循環す
るものであることを意味している。
(ウ)被告装置の充足性
①被告装置には,「メッキ処理物を吊持する摺動自在なハンガー」に
相当する「キャリアー25」,「ハンガーレールのハンガーを持ち上
げる又は降下させる昇降手段」に相当する「被メッキ材Mを摺動自在
なキャリアー25を介して持ち上げる又は降下させる昇降レール機
構」が存在し,この「昇降レール機構」は,「プッシャーによって移
行搬送する昇降及び固定・転回のレール機構と,チェーン15Aによ
って移行搬送する搬送用ラック15と,プッシャーによって移行搬送
する昇降及び固定・転回のレール機構からキャリアー搬送チェーン2
4によって再び最初の昇降及び固定・転回のレール機構の回帰するエ
ンドレスの搬送手段」に沿って併設されているから,被告装置は要件
1A(被告ら1A)を充足する。
②ハンガーレールに相当する被告装置の各昇降レールは,搬送間隔調
整装置を構成する昇降手段と同一の作用効果を有しているから,ハン
ガーレールそのものであると同時に昇降手段でもあり,このように,
本線というべきエンドレスの搬送手段の経路上に昇降手段としての昇
降レール機構が存在することは,まさに「沿って併設され」ているも
のである。
③被告装置においては,被メッキ材Mが吊持されたキャリアー25を,
ハンガーレールに相当する昇降レール6∼8を含む前処理レール機構,
給電レール16,昇降レール19を含む後処理レール機構上を摺動し
て搬送する搬送手段があり,それがエンドレスに構成されている。
④被メッキ材Mを吊垂するキャリアー25は,移送又は搬送手段及び
レール状部材等に吊垂状態に支持されて一方向に搬送され,最初に投
入から前処理機構Aに供給された後,自動的に一つのループを形成す
るように順次移送又は搬送されて投入位置まで戻ってくるのであるか
ら,その間に,持ち上げられたり下ろされたり搬送速度が変えられた
りするが,それでも途切れさせないように,それぞれ移送又は搬送手
段により連続的に搬送され続けられる構成を有しており,これが原告
の主張する「エンドレスの搬送手段」に該当する。
ウ要件1B(被告ら1B①)
(ア)「昇降手段」について
①要件1B(被告ら1B①)には,「ハンガーレールのハンガーを持
ち上げる」と記載され,「ハンガーレールからハンガーを持ち上げ
る」とは記載されていない。
②「ハンガーを持ち上げ」が,レールからの切り離しを意味するか,
単なるハンガーの持ち上げを意味するかは,ハンガーを昇降させる目
的との関係では全く意味を持っていない。本件発明においてハンガー
を昇降させる目的は,前処理工程からメッキ処理工程への移行に際し,
上昇によって処理槽間の隔壁を乗り越えるとともに早送り移動させて
被メッキ処理物の間隔を所定の間隔に調整することにあるものである。
したがって,被メッキ処理物を搬送軌道レベルから昇降させれば,そ
の目的を達成できるものであり,ハンガーの上昇によってハンガーが
レールから切り離されるか否か(本件明細書にはハンガーがレールか
ら切り離されるなどとは記載されていない。)は関係がない。
③要件1C(被告ら1B②)の「該昇降手段によって持ち上げられた
ハンガーをハンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送手段の搬送速
度よりも早い速度で移動させる早送り移動手段」との記載からすると,
持ち上げることによって搬送手段から切り離すとは記載されていない。
④請求項3の「該レール状の昇降手段に支持されたハンガーを…前記
搬送手段の搬送速度よりも早い速度で移動させる早送り移動手段」と
の記載からすると,「持ち上げ」が「ベース軌道から外れた位置での
昇降手段による支持」を意味するものであり,「搬送手段からの切り
離し」を意味するものではないことが明確に示されている。
(イ)被告装置の充足性
①被告装置には,「ハンガーレールのハンガーを持ち上げる又は降下
させる昇降手段」に相当する「被メッキ材Mを摺動自在なキャリアー
25を介して持ち上げる又は降下させる昇降レール機構」が存在する
から,被告装置は,要件1B(被告ら1B①)を充足する。
②被告装置における昇降レール(ハンガーレール)は,そこに吊持し
たキャリアー25(ハンガー)を持ち上げるのであり,まさに「ハン
ガーレールのハンガーを持ち上げる」ものである。
③被告装置のキャリアー25は,昇降レールに固着されているわけで
はなく移動可能に嵌合しているから,昇降レールによって持ち上げら
れ,ハンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送手段の搬送速度より
も早い速度で移動する。
④「昇降手段」は,エンドレスの循環搬送軌道における被メッキ材を,
ベース軌道から外して速度調整を行うための手段であり,被告装置に
おいても,メッキ槽14に浸漬された被メッキ材m2は,第3上部プ
ッシャー203とは別機構となっている第5下部プッシャー105の
早送りによって被メッキ材m1との間隔調整をされる。そして,「持
ち上げ」とは,ベース軌道から外す意味であり,ベース軌道から外し
て特別の速度を与える目的で,「持ち上げ」も「下降」も手法として
同一である。
⑤本件明細書の実施例に準拠した適宜の昇降手段によって,ハンガー
が早送り移動手段に受け渡されれば,要件1B(被告ら1B①)を充
足する。すなわち,本件明細書の第2実施例であるプッシャータイプ
による実施形態から,被告装置の昇降受渡し構成の対応を見ると,
「昇降装置17(被告装置における昇降装置50)のエアーシリンダ
ー16(被告装置における昇降モータ50A)でレール支持部材18
と早送りレール20(被告装置における昇降レール6∼8)とを所定
量上昇させることで,早送りレール20の後ろ端部が後行のハンガー
3i(被告装置におけるキャリアー25)の間隙A(被告装置におけ
るキャリアー25の基部レール機構との嵌着構造部)に嵌装されて,
ハンガー3iがハンガーレール5(被告装置における固定レール1
1)から持ち上げられる」(本件明細書の段落(以下「段落」とのみ
表示する。)【0037】参照),「そして,駆動モータ25(被告
装置における送りモータ203C,105A)を所定方向に回転させ
て歯車24(被告装置におけるボールネジ203B等に相当)を介し
てスライド部材23(被告装置における送りアーム203A等)を搬
送方向に,搬送速度(搬送用ラック15の搬送速度)よりも遙かに速
い速度で摺動させる。同時に,前記スライド部材23と連結された押
出し爪22(被告装置における送り爪104C等)が,ハンガー3i
の係止片3b(被告装置におけるブラケット25A等)に当接してハ
ンガー3及びプリント基板2b(被メッキ材)を搬送方向に素早く移
送させる。」(段落【0038】参照),「先行したプリント基板2
a(被メッキ材m1)と後行のプリント基板2b(被メッキ材m2)
との間隔aが間隔bとなるのを…計測する。間隔bになると,前記押
出し爪22の移動を停止させるべく駆動モータ25が回転を停止され,
また,昇降装置17のエアーシリンダー16のロッドが降下されて早
送りレール20が前記ハンガー3iの間隙Aから離間される。すると,
ハンガー3iがハンガーレール5に再び係合され,タイミングベルト
4aと歯合したタイミングベルト4によって当該ハンガー3iが搬送
方向に摺接移動される。」(段落【0039】参照)となっている。
したがって,上記実施例では,ハンガーレール5を搬送機構の中心
とし,速度と間隔を調整する調整手段を別に装置して搬送構成を1本
化して多様な調整手段の付設を設計できるようにしたのに対し,被告
装置においては,ハンガーレール5自体に加工を加えて搬送設計を固
定化しているにすぎない。
⑥本件明細書の実施例における移載レール6aと,早送りレール20
とは,被メッキ処理物の搬送軌道を構成するものであり,被告装置に
おける昇降レールとは,搬送軌道レベルから上昇させて早送りさせる
機能が同一である。
エ要件1C(被告ら1B②)
(ア)「早送り移動手段」について
①要件1C(1B②)の「前記搬送手段の搬送速度」と要件1Aの
「エンドレスの搬送手段」とを同一のものとすると,「よりも早い」
という比較級の表示が意味をなさないものとなる。
本件発明が,従来装置が「プリント基板のメッキ処理を一定サイク
ルで繰り返すものであって,処理槽中においてプリント基板を連続し
て前処理,メッキ処理,後処理を行うものではないので,メッキ処理
等の高速化にはおのずと限度がある」(段落【0005】,2頁右3
∼6行)ことを解決課題とし,解決手段として,「前記搬送手段の搬
送速度よりも早い速度で搬送方向へ移動させ,先行したハンガーの被
メッキ処理物と当該被メッキ処理物との間隔を制御装置を介して所望
の間隔にして」(段落【0006】,2頁右17∼20行)との記載
があることからすると,要件1C(1B②)の「前記搬送手段の搬送
速度」が「メッキ槽内の搬送手段」を指称するものであることは明ら
かである。
②本件発明における早送り移動の意味は,搬送速度がそれぞれ異なる
前処理,メッキ処理,後処理を連続させるために,最も搬送速度が遅
いメッキ処理槽中における搬送速度(被メッキ処理物の主たる搬送手
段であるタイミングベルトの搬送速度でもある。)を基準として,そ
れより搬送速度が早いものを早送りと指称したもので,早送り移動を
組み合わせて搬送速度を各処理作動に対応して調整し,各処理槽に対
する搬送供給が連続されるようにしたものである。
③なお,本件発明における早送り移動手段の作動は,「先行したハン
ガー3gに支持されたプリント基板2aに対して,後行のハンガー3
iのプリント基板2bとの間隔aを間隔調整する」(段落【002
5】,3頁右38行∼41行)場合,「接近装置6f…を制御し…昇
降装置6eが…移載ポジションに移される。…早送り部材6bをハン
ガー移送部材6dの後端側に…移動させておく」(段落【0026】,
3頁右42行∼48行),「昇降装置6eを作動…ハンガー3iを…
持ち上げて…タイミングベルト4aとの係合が解除される」(段落
【0027】,3頁右49行∼4頁左5行),「早送り部材6bを…
タイミングベルト4による搬送速度よりも遙かに早い速度で搬送方向
に移動させる」(段落【0028】,4頁左6行∼8行),「プリン
ト基板2aの後端とプリント基板2bの先端との間隔bが…になると
…昇降装置6eが降下される。ハンガー3iは…タイミングベルト4
によって…移動される」(段落【0029】,4頁14行∼21行)
という作動経過において行われる(なお,段落【0033】∼【00
40】の第2実施形態も同様である)。
(イ)被告装置の充足性
①被告装置には,「前処理機構Aの搬送各ステップについて駆動のタ
イミング・時間間隔に関するプログラムを予め入力設定して搬送機構
に対する駆動指令を発するシーケンス制御装置」が存在し,「その指
令により搬送駆動機構が制御されて搬送用ラック15の搬送速度より
も早い速度で搬送しキャリアー25を第3昇降レール8から給電レー
ル16に受渡す搬送機構」が存在し,この搬送機構上のキャリアー2
5を,シーケンス制御装置の指令により,その搬送方向である第3昇
降レール8から給電レール16に受け渡す方向に向けて,搬送機構の
搬送速度,すなわち,搬送用ラック15の搬送速度よりも早い速度で
移動させる「搬送手段の搬送速度よりも早い速度で移動させる早送り
移動手段」に相当する「プッシャー機構」が存在しているから,被告
装置は,要件1C(被告ら1B②)を充足する。
②被告装置の各プッシャー機構は,「エンドレスの搬送手段」の構成
部材であって,「エンドレスの搬送手段」そのものではない。被告装
置におけるプッシャーが「エンドレスの搬送手段」であるとともに
「早送り移動手段」であることについては,「エンドレスの搬送手
段」が,「プリント基板を連続的にメッキするメッキ装置に係り…プ
リント基板を均等な間隔で連続的に搬送できるようにして,均一なメ
ッキ処理が行えるようにした」(段落【0001】,2頁左15行∼
18行)メッキ処理のための連続搬送手段を指称することは明らかで
あるから,その搬送経路に昇降手段,早送り移動手段が構成部分とし
て含まれていても何ら矛盾はない。
③被告装置の「エンドレスの搬送手段」の構成によると,その搬送速
度は一律のものではなく,搬送速度の制御調整により被メッキ材を所
定の間隔と速度でメッキ槽内を搬送してメッキ処理するものであるこ
とが前提とされているので,基準となる搬送速度は,メッキ処理のた
めにメッキ槽内で被メッキ材Mを搬送する搬送用ラック15の搬送速
度である。
④被告装置には,第1昇降レール6から第3昇降レール8にキャリア
ー25の搬送を繋ぐ早送り移動手段としての昇降・固定のレール機構
6∼11,プッシャー機構101∼202,転回装置13,転回レー
ル12等によって構成される前処理軌道が存在し,酸洗槽5からメッ
キ槽14に繋ぐキャリアー25の継続供給を維持するための距離間隔
を縮めているところ,メッキ処理機構Bにおいては,キャリアー25
は搬送用ラック15によるメッキ処理軌道を等速度で搬送されるが,
キャリアー25に吊下された被メッキ材Mの横向き間隔が被メッキ材
Mの側端部に電流が過度に集中されない狭い間隙幅となるような所定
の送りピッチで間欠的に順次搬送されるように継続的に供給されなけ
ればならないため,前処理軌道における搬送速度は,上記継続供給を
維持するために,メッキ処理軌道における搬送速度より速くなければ
ならない。
⑤被告装置は,エンドレスの搬送手段を構成する搬送用ラック15の
搬送速度を基準とし,昇降レールによって上昇させた被メッキ材をプ
ッシャーによって早送りして,最終的に後行の被メッキ材m2が第5
下部プッシャーにより給電レールに係合した段階で,先行のm1との
距離が縮められて間隔調整が行われることも同一であるから,被告装
置が本件発明と基本的構成を同じくしていることは明らかである。
オ要件1D(被告ら1B③)
(ア)「制御装置」について
本件発明1の要件1D(被告ら1B③)の「該昇降手段と早送り移動
手段とを制御する制御装置」について,本件明細書には,「先行したプ
リント基板2aと後行のプリント基板2bとの間隔aが間隔bとなるの
を」(段落【0039】,4頁右33∼42行。),「CCDカメラ等
の撮像手段による画像処理装置や,赤外線センサーによるセンサー手段,
等の公知の計測手段」(段落【0028】,4頁左10∼13行),
「で計測する。間隔bになると,前記押出し爪22の移動を停止させる
べく駆動モータ25が回転を停止され,また,昇降装置17のエアーシ
リンダー16のロッドが降下されて,早送りレール20が前記ハンガー
3iの間隙Aから離間される。すると,ハンガー3iがハンガーレール
5に再び係合され,タイミングベルト4aと歯合したタイミングベルト
4によって当該ハンガー3iが搬送方向に摺接移動される。」(段落
【0039】,4頁右33∼42行),「前記押出し爪22は,逆回転
される駆動モータにより,搬送方向と逆方向に移動され,摺動レール2
1の後端側の元の位置に戻される。これを繰り返して,先行したハンガ
ー3gのプリント基板2aに対して,後行のハンガー3iのプリント基
板2bを,所望の一定間隔に揃えて,ハンガーレール5に吊持させ,一
連に連続させて搬送させる」(段落【0040】,4頁右43∼49
行)との記載があり,昇降手段と早送り移動手段に対する具体的な制御
が示されている。すなわち,被メッキ処理物を所望の一定間隔で処理槽
に一連に連続させて搬送させるためには,「ハンガーレール5のある地
点において,例えば,メッキ前処理槽の入り口,メッキ槽の入り口,メ
ッキ後処理槽の入り口,等において,前記搬送間隔調整装置6が設けら
れ…先行した先行したハンガー3gのプリント基板2aに対して,後行
のハンガー3iのプリント基板2bとの間隔aを間隔調整する」(段落
【0025】,3頁右35∼41行)必要があり,そのために昇降手段
と早送り移動手段を制御して,例えば,先行したプリント基板2aと後
行のプリント基板2bとの間隔aが間隔bとなるまで待機させたり,間
隔bになった時点で昇降手段や早送り移動手段を駆動させるように制御
するものである。具体的には,前記赤外線センサーによるセンサー(段
落【0028】)や接近装置6fにおける螺旋軸を回転させる制御装置
(段落【0026】)を指称する。
(イ)被告装置の充足性
①被告装置における間隔調整機構も,本件発明1の「昇降手段」に相
当する「昇降レール機構」と,「早送り移動手段」に相当する「プッ
シャー機構」と,「制御装置」に相当する「前処理機構Aの搬送各ス
テップについて駆動のタイミング・時間間隔に関するプログラムを予
め入力設定して搬送機構に対する駆動指令を発するシーケンス制御装
置」が存在し,その指令により,昇降レール機構を作動する昇降装置
50の駆動と,プッシャー機構の駆動が制御されているから,被告装
置は,要件1D(被告ら1B③)を充足する。
②被告装置における制御装置については,被告装置目録(被告ら)の
作動の説明のうち,第1ステップにおける「被メッキ材m4を固定レ
ール11から第3昇降レール8に移行する一連の作動」は「早送り移
動手段」としての第4下部プッシャー104の制御によって行われて
いるものであり,第2ステップにおける「被メッキ材Mのうちm2,
m3,m4の上昇」は「昇降手段」としての昇降装置50を制御する
制御装置50が働くことが明記されている。さらに,第3ステップに
おける「被メッキ材m2,m3,m4の第4の3図の位置への移動」
は「早送り移動手段」としての第3上部プッシャー203の制御によ
って行われ,第4ステップにおける「被メッキ材,2のメッキ槽14
への浸漬,m3,m4の酸洗槽5への入槽」は「昇降手段」としての
昇降装置50の制御によって行われ,第5ステップにおける「被メッ
キ材m2の第3昇降レール8から搬送用ラック15への移動」は「早
送り移動手段」としての第5下部プッシャー105の制御によって行
われるものであることが明らかである。
カ要件1E(被告ら1C)
被告装置は,搬送間隔調整装置であるから,要件1E(被告ら1C)を
充足する。
キ本件発明の本質的構成は,メッキ処理のための連続搬送手段であるエン
ドレスの搬送手段によって被メッキ処理物を吊下するハンガーを連続的に
搬送するとともに,このエンドレスの搬送手段の搬送速度より,早送り移
動手段の速度を速くすることによって,メッキ処理時における被メッキ処
理物の搬送間隔を調整して被メッキ処理物の均一なメッキ処理が行えるよ
うにする構成にある。
被告装置は,メッキ処理機構Bにおいて,連続して供給される被メッキ
材Mをムラなくメッキ処理するために,被メッキ材Mを吊垂したキャリア
ー25をメッキ槽14に等間隔をもって供給するよう,メッキ槽14の手
前側で,給電レール16の手前側の端部にキャリアー25を待機させてお
き,シーケンサー制御によるタイミングで下部プッシャー105により搬
送用ラック15に待機キャリアーを押し出すことにより,その前に送り出
したキャリアーとの間隔を一定間隔に調整しているものであり,本件発明
1のすべての要件を充足する。
(被告ら)
ア原告の主張は,いずれも否認ないし争う。
イ本件発明1における「搬送間隔調整装置」は,請求項の記載から,次の
構成を必須とすることが明らかである。
(ア)「搬送間隔調整装置」は,被メッキ処理物を摺動自在なハンガーを
介し吊持してエンドレスの搬送手段によって搬送するハンガーレールに
沿って併設されていること(要件1A(被告ら1A))
(イ)「搬送間隔調整装置」は,次の各手段ないし装置を有していること
①前記ハンガーレールのハンガーを持ち上げる又は降下させる昇降手
段(要件1B(被告ら1B①))
②該昇降手段によって持ち上げられたハンガーをハンガーレールの搬
送方向に向けて前記搬送手段の搬送速度よりも早い速度で移動させる
早送り移動手段(要件1C(被告ら1B②))
③前記昇降手段と早送り移動手段とを制御する制御装置(要件1D
(被告ら1B③))
ウ要件1A(被告ら1A)
(ア)「ハンガーレールに沿って併設」について
①「ハンガーレールに沿って併設され」との記載からすると,本件発
明1の搬送間隔調整装置は,ハンガーレールとは別物として,ハンガ
ーレールに沿って併設されていなければならない。ハンガーレール自
体が搬送間隔調整装置の構成部分(昇降手段,早送り移動手段)とす
るような解釈はできない。
②「AがBに併設され」というときに,AとBが同じものであるとい
うことは,日本語としてあり得ない。
③本件明細書には,「前記搬送間隔調整装置6は,図1に示すように,
前記ハンガーレール5に沿って設けられ,」(段落【0020】,3
頁左47∼48行)と記載され,搬送間隔調整装置6と,ハンガーレ
ール5が,【図1】に示されるような位置関係にあることが説明され
ている。
④本件明細書には,「該早送り部材6bを支持して早送り往復移動さ
せる駆動装置(図示せず)及び凹状の往復起動6cを有するハンガー
移送部材6dと,」(段落【0020】,3頁右2∼4行)と記載さ
れ,ハンガーレール5に併設され,かつ,エンドレスの搬送手段とは
別の移送手段が存在することが示されている(移載レール6aを支持
する早送り部材6bは,往復軌道6cなどと共にハンガー移送部材6
dを構成する。)。
⑤本件明細書の第2実施形態においても,搬送間隔調整装置は「エン
ドレスの搬送手段によって搬送するハンガーレールに沿って併設さ
れ」ている。
(イ)「エンドレスの搬送手段」について
①本件発明1における「エンドレスの搬送手段」は,被メッキ処理物
が吊持されたハンガーを,ハンガーレール上を摺動して搬送するため
の搬送手段であり,それがエンドレスに構成されているものである。
②本件発明1における「エンドレスの搬送手段」は,搬送間隔調整装
置がハンガーレールに沿って併設されていること,ハンガーレールの
ハンガーを持ち上げる又は降下させる昇降手段を有すること,実施例
においてもハンガーレール5が具体的なレールの態様として表示され
ていること等からすると,具体的なレール態様であると解され,抽象
的な搬送軌道であると解する余地はない。
(ウ)被告装置の充足性
①原告は,被告装置の昇降レールについて,搬送間隔調整装置の構成
部分である昇降手段として主張するとともに,ハンガーレールとして
も主張するものであるから,搬送間隔調整装置が,「エンドレスの搬
送手段によって搬送するハンガーレールに沿って併設され」ていると
はいえず,被告装置は,要件1A(被告ら1A)を充足しない。
②原告は,被告装置の被メッキ材の取付けからメッキ終了後の取外し
までのすべての工程を対象にした搬送手段(各プッシャーを含む。)
について,「エンドレスの搬送手段」として主張するが,このうち,
各プッシャーについては,送り爪を持った送りアームが前進後退を繰
り返すだけで,始端と終端があり,エンドレスの搬送手段ではない。
③固定レール11や第3昇降レール8も,被メッキ材Mの搬送は第4
下部プッシャー104及び第3上部プッシャー203によって行われ
るものであり,エンドレスの搬送手段によるものではない。
④本件明細書の第2実施例と被告装置を対比しても,原告は実施例の
早送りレール20が被告装置の昇降レール6∼8に該当すると主張し
ているが,被告装置の昇降レール6∼8は,ハンガーレールそのもの
であって,実施例の早送りレール20のようなハンガーをハンガーレ
ール5から上昇させて早送りさせるための昇降手段は具備しない。原
告の主張する「上記実施例ではハンガーレール5を搬送機構の中心と
し,速度と間隔を調整する調整手段を別に装置して」との記載は,単
に実施例にとどまらず,まさに,本件発明の搬送間隔調整装置が,要
件Aでいう「エンドレスの搬送手段によって搬送するハンガーレール
に沿って併設され」ているのに対し,被告装置はかかる「速度と間隔
を調整する手段を(ハンガーレールとは)別に装置して」との構成を
有しないことを原告自身認めているものである。
⑤原告は,被告装置におけるすべての移送手段がエンドレスの搬送手
段であるが,個々の移送手段の搬送速度が一律ではないから,結論的
には被メッキ材をメッキ処理するためのメッキ槽内搬送手段がエンド
レスの搬送手段であると主張するようであるが,これは,本件発明の
搬送間隔調整装置が,エンドレスの搬送手段の搬送速度より早い速度
で移動させることが必須であるため,他の移動手段より速度の遅いメ
ッキ槽内の搬送手段だけを取り出して,エンドレスの搬送手段である
とし,そのほかの移動手段を搬送間隔調整装置であるとする極めて乱
暴な議論である。本件発明1の搬送間隔調整装置は,エンドレスの搬
送手段によって搬送するハンガーレールに沿って併設され,搬送間隔
調整装置に送られてきたハンガーを昇降手段によってハンガーレール
から切り離して上昇させた上,早送り移動手段によって前記搬送手段
よりも早い速度でハンガーを移動させ,所定の位置に来たときに再び
ハンガーレール上に降下させることによって,エンドレスの搬送手段
であるハンガーレール上を先行して移動しているハンガーとの間隔を
調整する(実際は狭くする。)という構成,機能を有するものである
から,メッキ槽内の搬送手段のみをもって,エンドレスの搬送手段で
あるとする理由は全くないし,エンドレスの搬送手段は,装置全体の
搬送手段をいうから,メッキ槽という部分のみをとらえてエンドレス
の搬送手段というのは誤りである。
エ要件1B(被告ら1B①)
(ア)「昇降手段」について
①要件1B(被告ら1B①)の「前記ハンガーレールのハンガーを持
ち上げる又は降下させる昇降手段と」との記載からすると,本件発明
1の搬送間隔調整装置の構成部分である昇降手段は,ハンガーレール
からハンガーを持ち上げたり,降下させたりするものである。「ハン
ガーレールのハンガーを持ち上げる」との記載は,「ハンガーレール
からハンガーを持ち上げる」こと,したがって,ハンガーはハンガー
レールから切り離されるとする以外の解釈はない。
②本件明細書には,「前記ハンガーレールに吊持されたハンガー及び
被メッキ処理物を前記搬送間隔調整装置によって持ち上げるとともに,
前記搬送手段の搬送速度よりも早い速度で搬送方向へ移動させ,先行
したハンガーの被メッキ処理物と当該被メッキ処理物との間隔を制御
装置を介して所望の間隔にして前記持ち上げたハンガーを降下させて
前記ハンガーレールに移し替え」(段落【0006】,3頁15∼2
1行)と記載され,一旦ハンガーレールから離れたハンガーを再度ハ
ンガーレールに移し替える旨が明記されている。また,本件明細書に
は,「該ハンガー移送部材6dを昇降自在に支持する昇降装置6e
と」(段落【0020】,3頁右4∼6行)と記載され,ハンガー3
をハンガーレール5から持ち上げる移載レール6a及び早送り部材6
bをハンガー移送部材6dが保持していることから,ハンガー移送部
材6dが昇降装置6eによって昇降されることによって,移載レール
6aも昇降し,ハンガー3をハンガーレール5から持ち上げたり降下
させたりすることが示されている。
③本件明細書には,「間隙Aに下から進入して係合しハンガー3をハ
ンガーレール5から持ち上げて離隔させる平板体の移載レール6a
と,」(段落【0020】,3頁左48∼50行)と記載され,搬送
間隔調整装置6の昇降装置6eによって移載レール6aが上昇し,
【図3】のAの空間に下から進入し,そのまま上昇することによって
ハンガー3全体をハンガーレール5から持ち上げて,ハンガーの上昇
時にハンガーレールから切り離されることが示されている。
④本件特許の請求項3は,第2実施例を請求項にしただけであり,ハ
ンガーがハンガーレールから離れないことの根拠にはならない。請求
項3でいう「所要長さのレール状の昇降手段」も,本件明細書【図
6】の「早送りレール20」であって,ハンガーレール5とは全く異
なる部材である(【図1】移載レール6aに該当する)。「レール
状」との表現をもって,ハンガーがハンガーレールごと持ち上がる態
様も含むという主張の根拠にすることはできない。本件明細書では,
第2実施例を示した段落【0037】に「前記昇降装置17のエアー
シリンダー16でレール支持部材18と早送りレール20とを所定量
上昇させることで,早送りレール20の後端部が後行のハンガー3i
の間隙Aに嵌装されて,ハンガー3iがハンガーレール5から持ち上
げられる。」と記載され,ハンガー3iがハンガーレールから持ち上
げられることが明記されているし,段落【0039】には「また,昇
降装置17のエアーシリンダー16のロッドが降下されて,早送りレ
ール20が前記ハンガー3iの間隙Aから離間される。すると,ハン
ガー3iがハンガーレール5に再び係合され,タイミングベルト4a
と歯合したタイミングベルト4によって当該ハンガー3iが搬送方向
に摺接移動される。」として,離間していたハンガーが再度ハンガー
レールに係合することも明確にされている。
⑤搬送方法の発明が記載されている本件特許の請求項1には,「先行
したハンガーの被メッキ処理物と当該被メッキ処理物との間隔を制御
装置を介して所望の間隔にして前記持ち上げたハンガーを降下させて
前記ハンガーレールに移し替え」と記載され,本件明細書には,「ハ
ンガー3iは,再びハンガーレール5に係合され」と記載されている
から,本件発明1では,ハンガーを搬送間隔調整装置によってハンガ
ーレールから切り離し上昇させ,その位置から次の所定位置までハン
ガーを移動させ,所定の位置に移動した段階で再度ハンガーを降下さ
せて元のハンガーレール上に移すものである。
⑥要件1C(被告ら1B②)の「搬送方向に向けて」移動させるとの
記載が,原告の主張するように,ハンガーがハンガーレール上に載っ
たまま移動させる意味であれば,ハンガーの上昇時,ハンガーがハン
ガーレールから切り離されている実施例は,すべて本件発明の実施例
ではないことになる。
(イ)被告装置の充足性
①原告は,被告装置の昇降レール(6∼8)について,搬送間隔調整
装置の構成部材である昇降手段として主張するとともに,ハンガーレ
ールとしても主張するものであるが,原告の主張を前提とすると,
「ハンガーレールそのものがハンガーレールのハンガーを持ち上げる
昇降手段」ということになり,ハンガーがハンガーレールから持ち上
がることはないから,上記要件1B(被告ら1B①)を充足しない。
②被告装置では,キャリアー25はハンガーレールである第3昇降レ
ール8に吊下されたまま第3昇降レール8ごと上昇し,上昇した段階
で第3上部プッシャー203により同じ第3昇降レール8上を移動し
て,次のステップの位置に到達したとき,第3昇降レール8に吊下さ
れたまま降下するから,被告装置におけるキャリアー25は,第3昇
降レール8(ハンガーレール)から持ち上げられることはなく,要件
1B(被告ら1B①)の「ハンガーレールのハンガーを持ち上げる又
は降下させる昇降手段」を有しない。
③原告は,本件明細書の第2実施例と被告装置を対比して,実施例の
早送りレール20が被告装置の昇降レール(6∼8)に該当すると主
張するが,被告装置の昇降レール(6∼8)は,ハンガーレールその
ものであって,実施例の早送りレール20のようなハンガーをハンガ
ーレール5から上昇させて早送りさせるための昇降手段は具備しない。
オ要件1C(被告ら1B②)
(ア)「早送り移動手段」について
①要件1C(被告ら1B②)の「該昇降手段によって持ち上げられた
ハンガーをハンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送手段の搬送速
度よりも早い速度で移動させる早送り移動手段」との記載からすると,
本件発明1においては,早送り移動手段とエンドレスの搬送手段とい
う2つの搬送(移動)手段があり,搬送間隔調整装置の構成部分であ
る「早送り移動手段」は,昇降手段によってレールから持ち上げられ
たハンガーを,エンドレスの搬送手段の搬送速度より早い速度で移動
させるものである。
②要件1C(被告ら1B②)の「該昇降手段によって持ち上げられた
ハンガー」については,要件1B(被告ら1B①)で述べたとおり,
「ハンガーが昇降手段によってハンガーレールから持ち上げられた」
ことを意味するものである。
③本件明細書には,「該移載レール6aを支持すると共に搬送方向に
沿って往復移動する早送り部材6bと」(段落【0020】,3頁右
1,2行)と記載され,要件1C(被告ら1B②)の具体的構成とし
て,【図1】の搬送間隔調整装置に設けられた早送り部材6bは前記
移載レール6aを支持するとともに,軌道6c上を往復運動するよう
になっており,ハンガーレール5から持ち上げられて離隔されたハン
ガー3は,この移載レール6aに載せられた状態で早送り部材6bの
作用によって,エンドレスの搬送手段による搬送より速い速度で移動
することができるようになることが示されている。
④昇降手段,早送り移動手段は,搬送間隔調整装置の構成部分として
エンドレスの搬送手段によって搬送するハンガーレールに沿って併設
されていなければならないが,それがエンドレスの搬送手段の構成部
分でもあることは矛盾である上,早送り移動手段の搬送速度はエンド
レスの搬送手段の搬送速度より速くなければならないが,エンドレス
の搬送手段の搬送経路に早送り移動手段が構成部分として含まれても
矛盾がないとする原告の主張は,理解し難い。
⑤本件発明は,エンドレスの搬送手段を有するハンガーレールをベー
スにし,当該ハンガーレールに併設して搬送間隔調整装置を設け,こ
の搬送間隔調整装置が,ハンガーを昇降手段でハンガーレールから上
昇させて,早送り手段で早送りし,次いで元のハンガーレールにハン
ガーを下ろすことによって,先行するハンガーとの間隔を調整するも
のであり,基準となる速度はエンドレスの搬送手段の速度であり,搬
送間隔調整装置の早送り手段の速度V2をこれより早くするのである。
したがって,メッキ処理槽中における搬送速度を基準とするという原
告の主張は,特許請求の範囲の記載を無視したものである。
(イ)被告装置の充足性
①本件発明においては,早送り移動手段とエンドレスの搬送手段とい
う2つの搬送(移動)手段があり,搬送速度はエンドレスの搬送手段
より早送り移動手段の方が速いのであるから,被告装置において,エ
ンドレスの搬送手段を構成するという各プッシャーが,同時に早送り
移動手段を構成するという原告の主張は,上記要件1C(被告ら1B
②)を充足しないことを意味する。
②被告装置は,作業開始点(被メッキ材M投入)から,メッキ槽の給
電レールに移行するまで,各所に設けられたプッシャーにより所定の
速度(V1)で移動している。給電レール16に設けられた搬送用ラ
ック15は,その速度(V2)がそれ以前の移動速度より遅いため,
メッキ装置に移行した先行の被メッキ材m1は,第5下部プッシャー
により給電レールに係合した段階で,移動速度が遅くなり,それより
速い速度で移行されてきた後行の被メッキ材m2はその時点で先行の
m1との距離を縮めるだけのことである。これに対し,本件発明は,
V1の速度のエンドレス搬送手段によって被メッキ材を搬送するハン
ガーレールがあり,その途中でこのハンガーレールに沿って併設され
た搬送間隔調整装置が,一旦ハンガーレールのハンガーを持ち上げて,
早送り手段に載せて,より速い速度V2で被メッキ部材を早送りし,
再度これをハンガーレール上に下ろして元の速度V1のエンドレスの
搬送手段によって搬送するというものである。したがって,両者は基
本的構成において全く異なるものである。
カ要件1D(被告ら1B③)
(ア)「制御装置」について
本件発明1の要件1D(被告ら1B③)の「前記昇降手段と早送り移
動手段とを制御する制御装置」について,本件明細書では「制御装置
(図示せず)とから構成されている。」(段落【0020】,3頁右9,
10行)とされているが,その意味する内容も具体的構成も全く記載さ
れておらず,単に発明の課題を提示したにすぎない。
(イ)被告装置の充足性
①被告装置のキャリアーに吊持された被メッキ材Mは,シーケンス制
御装置による制御信号に基づき,各ステップにおいて,予め設定され
たタイミング・時間間隔で移動が行われる。昇降装置50による第3
昇降レール8の下限から上限への上昇移動のタイミング,時間間隔・
第3上部プッシャー203による第3昇降レール8に沿う前進移動の
タイミング・時間間隔,第5下部プッシャー105による第3昇降レ
ール8から給電レール16への前進移行のタイミング・時間間隔は,
シーケンス制御装置において予め設定されているものであり,先行す
る被メッキ材等の位置をセンサーで感知して起動するものではない。
②被告装置には「昇降手段と早送り移動手段」を有する搬送間隔調整
装置は存在しないから,両者の制御装置を具備するか否かを議論する
限りではない。
③原告の主張する第1ステップないし第5ステップも,被告装置目録
(被告ら)に原告が自らの主張を加入変更したものであって,同目録
の記載ではない。
キ要件1E(被告ら1C)
(ア)被告装置は,要件1A(被告ら1A),要件1B(被告ら1B①),
要件1C(被告ら1B②)及び要件1D(被告ら1B③)をすべて充足
しないから,要件1E(被告ら1C)も充足しない。
(イ)原告の主張は,メッキ槽内を移動する先行の被メッキ材の移動速度
が,前処理槽を移動する後行の被メッキ材の距離間隔が縮まるものであ
れば,ことごとく本件発明1の構成を具備することになり,本件発明1
の要件を無視した議論である。
ク以上のとおり,被告装置は,本件発明1の要件をすべて具備せず,よっ
て,その技術的範囲に属さない。「本件発明の本質的構成」なる表現を使
用し,被告装置がその構成を有する等と抽象的に主張するのは相当ではな
い。
(2)−2本件発明2の侵害の有無
(原告)
ア被告装置は,次のとおり,本件発明2の要件をすべて充足する。
(ア)要件2A
被告装置における「被メッキ材Mを懸垂状態に挟持して搬送軌道に横
移動自在に支持されるキャリアー25」は,「メッキ処理物を吊持する
摺動自在なハンガー」(要件2A)に相当し,「エンドレスの搬送手段
によって搬送するハンガーレール」(同)に相当する「プッシャーによ
って移行搬送する昇降及び固定・転回のレール機構と,チェーン15A
によって移行搬送する搬送用ラック15と,プッシャーによって移行搬
送する昇降及び固定・転回のレール機構からキャリアー搬送チェーン2
4によって再び最初の昇降及び固定・転回のレール機構の回帰するエン
ドレスの搬送軌道」も存在するので,被告装置は,要件2Aを充足する。
(イ)要件2B
被告装置の前記搬送軌道には,「被メッキ材Mを摺動自在なキャリア
ー25を介して持ち上げる又は降下させる昇降レール機構と,第2昇降
レール7によって持ち上げられたキャリアー25を,搬送方向である第
3昇降レール8の方向に向けてプッシャーによる搬送速度よりも速い速
度で移動させる転回装置13と,昇降レール機構を作動する昇降装置5
0の駆動とプッシャー機構の駆動を制御する制御機構によって被メッキ
材Mを吊持したキャリアー25の搬送間隔の調整を行い,被メッキ材M
を吊持したキャリアー25の搬送間隔を被メッキ材Mの横向き間隔を被
メッキ材Mの側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隔幅とな
る送りピッチに調整して,搬送用ラック15の噛合歯15aに係合させ
てメッキ槽14を含むメッキ処理機構Bの搬送軌道に載せる搬送間隔の
調整機構」が存在しており,この構成は請求項2(本件発明1),請求
項3(昇降レール機構)の搬送間隔調整装置に相当するから,被告装置
は,要件2Bを充足する。
(ウ)要件2C
被告装置のメッキ処理機構Bには,「メッキ処理液中を被メッキ材M
が横向きで水平に進行されるメッキ槽14」が存在しているので,被告
装置は,要件2Cを充足する。
(エ)要件2D
被告装置は,メッキ槽14に被メッキ材Mを吊持したキャリアー25
の搬送間隔を,被メッキ材Mの横向き間隔を被メッキ材Mの側端部に電
流が過度に集中されない所定の狭い間隔幅となる送りピッチに調整して,
搬送用ラック15の噛合歯15aに係合させてメッキ槽14を含むメッ
キ処理機構Bの搬送軌道に載せて連続的に搬送させ,被メッキ材Mをメ
ッキ処理しているもので,被告装置は,要件2Dを充足する。
(オ)要件2E
被告装置は,「投入部でキャリアー25に吊持されて送り出された被
メッキ材Mを,前処理機構Aで脱脂・水洗等の工程を経てメッキ処理機
構Bでメッキ槽14のメッキ液に浸漬しながら移動してメッキした後に
引き上げ,後処理機構Cにおいてメッキ液を洗い落とした後,キャリア
ー25から外して乾燥する構成を特徴とするメッキ装置」であることが
明らかであるので,被告装置は,要件2Eを充足する。
イ以上のとおり,被告装置は,本件発明2(請求項4)の構成をすべて備
えている。したがって,被告らにおいて製造・販売した被告調整装置,被
告装置は,原告特許権の権利範囲に属するものであり,原告特許権を侵害
したものである。
(被告ら)
本件発明2は,本件発明1又は本件特許の請求項3記載の搬送間隔調整装
置を具備したメッキ装置を対象とするから(要件2B),本件発明1の搬送
間隔調整装置を具備しない被告装置は,本件発明2の技術的範囲にも属さな
い。なお,本件特許の請求項3は,昇降手段を「所要長さのレール状」に限
定した実施態様項的な構成であるから,本件発明1に属さなければ請求項3
に属することはない。
(3)無効論
(3)−1本件発明1の無効理由
(被告ら)
ア本件発明1の要件1D(被告ら要件1B③)では,「前記昇降手段と早
送り手段とを制御する制御装置」が必須とされているが,かかる記載自体
極めて抽象的,機能的な表現である上,本件明細書や図面には,その意味
する内容も具体的構成も全く記載されていないから,法36条4項,6項
1号及び2号違反による無効理由が存在する。
イ(ア)本件明細書には,「前記搬送間隔調整装置6は,図1に示すように,
前記ハンガーレール5の沿って設けられ,間隙Aに下から進入して係合
しハンガー3をハンガーレール5から持ち上げて離隔させる平板体の移
載レール6aと,該移載レール6aを支持すると共に搬送方向に沿って
往復移動する早送り部材6bと,該早送り部材6bを支持して早送り往
復移動させる駆動装置(図示せず)及び凹状の往復軌道6cを有するハ
ンガー移送部材6dと,該ハンガー移送部材6dを昇降自在に支持する
昇降装置6eと,該昇降装置6eを搬送方向と直交する方向に移動させ
て前記ハンガーレール5に対して接近・離隔させる回転自在な螺旋軸及
び該螺旋軸を回転させる駆動装置(図示せず)でなる接近装置6fと,
制御装置(図示せず)とから構成されている。」(段落【0020】,
3頁左47行∼右10行)と記載されており,「制御装置」の構成は図
示も説明もされていない。
(イ)本件明細書には,制御装置に関して,「そして,早送り部材6bを
駆動装置で往復軌道6cに沿って,タイミングベルト4による搬送速度
よりも遥かに早い速度で搬送方向に移動させる。前記プリント基板2a
に急接近したプリント基板2bとの間隔は,制御装置に接続されてその
一部を構成する,CCDカメラ等の撮像手段による画像処理装置や,赤
外線センサーによるセンサー手段,等の公知の計測手段により測定され
る。」(段落【0028】,4頁左6行∼13行),「プリント基板2
aの後端とプリント基板2bの先端との間隔bが,前記計測手段により,
例えば,10mm以下(メッキ厚の均一化を図るには,0mmを越えて
10mm以下が好ましい)になると,制御装置にて前記昇降装置6eが
降下される。ハンガー3iは,再びハンガーレール5に係合され,タイ
ミングベルト4aに歯合したタイミングベルト4によって搬送方向に摺
接移動される。」(段落【0029】,4頁左14行∼21行)とそれ
ぞれ記載され,制御装置に含まれる計測手段によってプリント基板2a
とプリント基板2bとの間隔を計測し,その間隔が例えば10mm以下
になると制御装置が昇降装置6eを降下させるとあり,昇降装置6eと
制御装置の関係について触れているが,早送り手段と制御装置との関係
については記載がない。段落【0026】,【0030】も制御装置に
ついて触れているが,早送り手段と制御装置との関係については何らの
記載もない。
(ウ)原告が引用する本件明細書の記載(段落【0039】,【004
0】)は,本件特許の請求項3に関するものであり,その記載から本件
発明1の「前記昇降手段と早送り移動手段とを制御する制御装置」の構
成が明らかになっているものではない。被告装置が当該記載の構成を具
備しているとの主張もされていない。
(原告)
ア被告らの主張は,争う。
イ本件発明1の要件1D(被告ら1B③)の「該昇降手段と早送り移動手
段とを制御する制御装置」については,本件明細書において具体的に記載
されている。
(ア)本件明細書には,「先行したプリント基板2aと後行のプリント基
板2bとの間隔aが間隔bとなるのを前述の計測手段で計測する。間隔
bになると,前記押出し爪22の移動を停止させるべく駆動モータ25
が回転を停止され,また,昇降装置17のエアーシリンダー16のロッ
ドが降下されて,早送りレール20が前記ハンガー3iの間隙Aから離
間される。すると,ハンガー3iがハンガーレール5に再び係合され,
タイミングベルト4aと歯合したタイミングベルト4によって当該ハン
ガー3iが搬送方向に摺接移動される。」(段落【0039】,4頁右
33行∼42行)と記載され(なお,上記計測手段については,「…C
CDカメラ等の撮像手段による画像処理装置や,赤外線センサーによる
センサー手段,等の公知の計測手段により測定される。」(段落【00
28】,4頁左10行∼13行)と記載されている。),さらに,「前
記押出し爪22は,逆回転される駆動モータにより,搬送方向と逆方向
に移動され,摺動レール21の後端側の元の位置に戻される。これを繰
り返して,先行したハンガー3gのプリント基板2aに対して,後行の
ハンガー3iのプリント基板2bを,所望の一定間隔に揃えて,ハンガ
ーレール5に吊持させ,一連に連続させて搬送させる」(段落【004
0】,4頁右43行∼49行)と記載されているから,昇降手段と早送
り移動手段に対する具体的な制御が示されている。
(イ)被メッキ処理物を所望の一定間隔で処理槽に一連に連続させて搬送
させるためには,「ハンガーレール5のある地点において,例えば,メ
ッキ前処理槽の入り口,メッキ槽の入り口,メッキ後処理槽の入り口,
等において,前記搬送間隔調整装置6が設けられ…先行した先行したハ
ンガー3gのプリント基板2aに対して,後行のハンガー3iのプリン
ト基板2bとの間隔aを間隔調整する」(段落【0025】,3頁右3
5行∼41行)必要があり,そのために昇降手段と早送り移動手段を制
御して,例えば,上記間隔aが間隔bとなるまで待機させたり,間隔b
になった時点で昇降手段や早送り移動手段を駆動させるように制御する
ものである。具体的には,前記赤外線センサーによるセンサー(段落
【0028】)や接近装置6fにおける螺旋軸を回転させる制御装置
(段落【0026】)を指称する。
(ウ)本件特許の請求項3に関する段落【0039】,【0040】の記
載に対応して,段落【0027】,【0028】では,「昇降装置6e
を作動させてハンガー移送部材6dを…上昇させる。すると,移載レー
ル6aの上端部が前記ハンガー3iの間隙Aに進入して嵌合するととも
に,当該ハンガー3iをハンガーレール5から持ち上げて支持…タイミ
ングベルト4とハンガー3i側のタイミングベルト4aとの係合関係が
解除され…早送り部材6bを駆動装置で往復軌道6cに沿って,タイミ
ングベルト4による搬送速度よりも遙かに早い速度で搬送方向に移動さ
せる」と記載され,昇降装置6eの作動によって当該ハンガー3iをハ
ンガーレール5から持ち上げて移載レール6a上に支持した段階で,早
送り関係の制御装置が働いて早送り部材6bにより搬送速度よりも遙か
に早い速度で搬送方向に移動させるという,早送り手段と制御装置との
関係が記載されている。
(エ)「制御」とは,「機械や設備が目的にかなう動作をするように調節
すること」(広辞苑)であるところ,本件発明の目的は,メッキ処理等
の高速化を図るために,前処理,メッキ処理,後処理を連続して行える
ように,メッキ槽に所望の一定間隔で被メッキ処理物をハンガーを介し
てハンガーレールで連続的に搬送させ,搬送ベルトに吊持されたプリン
ト基板の隣接するプリント基板との間隔を詰めて少なくするとともに均
一にすることにある(段落【0005】,【0008】参照)。
したがって,処理槽中の搬送速度がそれぞれ異なる前処理,メッキ処
理,後処理を連続させ,メッキ槽中における隣接する被メッキ処理物の
間隔を詰めて少なくし,均一にするためには,搬送速度を各処理作動に
対応して調整し,各処理槽に対する搬送供給が連続されるようにしなけ
ればならず,本件発明は,最も搬送速度が遅いメッキ処理槽中における
搬送速度を基準とし,早送り移動を組み合わせて,各処理槽に対する搬
送供給を連続させるため,昇降手段と早送り移動手段の作動タイミング
を制御したもので,「制御装置」の方式は公知であるので,本件発明に
おいては限定せずに制御装置とし,あまり意味のない図示はしなかった
ものである。
(3)−2本件発明2の無効理由
(被告ら)
本件発明2の要件2D「メッキ槽に所望の一定間隔で被メッキ処理物を
ハンガーを介してハンガーレールで連続的に搬送させメッキ処理する」との
記載も,抽象的,機能的であり,(3)−1(原告)と同様の指摘が当てはま
る。
(原告)
被告らの主張は,争う。
(3)−3本件特許出願時の技術水準
(被告ら)
ア本件特許の出願前である平成5年11月22日に頒布された特開平5
−311496号公報(以下「乙2文献」という。)に記載された「自
動表面処理装置における移し換え移送機構」に関する発明(以下「乙2
発明」という。)によると,被告装置における被メッキ材の移送方法は
公知であることが明らかであるから,被告装置が本件発明の技術的範囲
に属するという原告主張は,本件特許が公知無効であることを認めるこ
とに帰着する。
イ乙2発明は,「電気メッキ,無電解メッキ,化学研磨等の表面処理を
行う際に,一連の処理工程に沿って処理すべき物品を自動的に移し換え
て移送するための自動表面処理装置における移し換え移送機構に関する
ものである」(乙2文献段落【0001】,2頁左35∼39行)。
ウ乙2発明の機構の説明は,次のとおりである。
(ア)前処理ゾーン1の上方からメッキタンク12の上方にわたって延び
ているワークレール3には,ワークキャリヤ2(被メッキ材を吊持す1
るもの)が摺動するように取り付けられている。ティーバー4や爪51
は,ワークキャリヤ2がワークレール31を摺動するときのプッシャ1
ーとしての機能を有している。
(イ)ワークレール3は,ティーバー4や爪5とともに昇降機構(図111
示しない)により昇降可能に構成されている。そして,【図1】に示さ
れている下降した状態で,メッキタンク12の後端に入ったワークキャ
リヤ2は,プッシャー機能を有するティーバー4や爪5によってワ11
ークレール3(昇降可能)からワークレール13(固定レール)に移1
し換えられる。
(ウ)ワークレール13(固定レール)に移し換えられたワークキャリヤ
2は,次にプッシャー15に押されてメッキタンク12内を移動する。
プッシャー15は,無端チェーン14に取り付けられて周回するもので
あるが,方向が転回位置に来たとき,スロープ状のガイドバー16によ
り頭部が押し上げられた状態になり,それがワークキャリヤ2がワーク
レールに移し換えられるのに連動して昇降装置17により再び頭部を下
げることによって,ワークキャリヤ2と係合してこれを押す機能を有し
ている。
(エ)先行するワークキャリヤ2がワークレール13に移し換えられると,
ワークレール3が上昇して,次に来るワークキャリヤ2を持ち上げて1
前処理ゾーン1とメッキタンク12の仕切り壁を越えて下降し,【図
1】の状態を作出する。
エ乙2発明における,前処理ゾーン1での作業工程を終了したワークキャ
リヤ2が昇降可能なワークレール3によって上昇し,プッシャー機能を1
有するティーバー4や爪5によって仕切り壁を越えてメッキタンク111
2の上方に移動し,昇降可能なワークレール3によって下降して固定レ1
ールであるワークレール13に移し換えられてメッキタンク12での作業
工程に入り,メッキタンク12では,無端チェーン14に取り付けられた
プッシャー15によって移動するという機構は,個々の具体的な構成にお
いては異なるものの,技術的なベースは被告装置と異ならない。すなわち,
被告装置は,酸洗槽5での作業工程を終了したキャリアー25が昇降可能
な第3昇降レール8によって上昇し,第3上部プッシャーによって仕切り
壁を越えてメッキ槽14の上方に移動し,第3昇降レール8によって下降
し,第5下部プッシャー105で固定レールである給電レール16に移し
換えられてメッキ槽14での作業工程に入り,メッキ槽14では,チェー
ン15に取り付けられた搬送用ラック15によって移動するというもので
あり,技術的な考え方は同じである。
オそして,連続メッキ装置において,均一なメッキの厚さを得るため,メ
ッキ槽内を移動する2つの被メッキ処理物の間隔を狭くし,被メッキ処理
物のエッジに電界が集中して被メッキ処理物の両端部のメッキ厚が増大す
る(ドックボーン効果)のを防止することは,連続メッキ技術の上で当然
の技術常識であり,乙2発明においても,【図2】,【図3】における各
ワークキャリヤ2の距離間隔から明らかである。
また,乙2発明のように,間欠的移送方式と連続移送方式を組み合わせ
た場合,連続移送される先行の被メッキ処理物に対して,後行の被メッキ
処理物を間欠移送によって追いつかせるため,連続移送方式での連続移動
速度は,間欠移送方式での間欠移動速度より必ず遅くなるが,これは,乙
2発明において,メッキタンク12内を移動する距離よりも,これと同じ
時間に前処理ゾーン1からメッキタンク12に移動する距離の方が長いこ
とから明らかである。被告装置も,間欠的移送方式と連続移送方式とを組
み合わせており,連続移送方式での連続移動速度(メッキ槽14における
移動速度)が,間欠移送方式での間欠移動速度(メッキ槽14に入る前の,
第3昇降レール8による上昇→第3上部プッシャー203による前進→第
3昇降レール8による下降→第5下部プッシャー105による前進による
移動速度)より遅くなっており,被告装置は,乙2発明と移動原理を同じ
くするものである。
(原告)
ア被告らの主張は,争う。
イ本件特許出願当時の技術水準は,「プリント基板の連続メッキ方法にお
いては…搬送ベルトに挟持されたプリント基板において隣接するプリント
基板の間隔が必ずしも均等でない場合があり,更に,隣接したプリント基
板の間隔は出来るならば間隔を詰めて少ない方が,メッキ厚を均一にする
ので好ましい」(本件明細書段落【0005】,2頁41∼47行)こと
であったが,次のとおり,乙2発明,被告アルメックスPE従業員作成の
報告書(乙3,以下「本件報告書」という。)には,そのための方法が提
案されていない。
(ア)本件特許の技術的特徴は,連続メッキ処理において搬送間隔調整装
置を設け,ハンガーに吊持された被メッキ処理物が,前処理ゾーンから
持ち上げられ,メッキ処理ゾーンで下降させられて待機し,その後にメ
ッキ槽での搬送手段の搬送速度よりも早い速度でハンガーレールに移し
替えられることにより,隣接するハンガーにおける被処理物と所望の間
隔(サイズに対応した間隔)で連続的に搬送するようにしたものである。
具体的には,「プリント基板2aの後端とプリント基板2bの先端との
間隔b」が,所望の間隔になると「制御装置にて前記昇降装置6eが降
下される。ハンガー3iは,再びハンガーレール5に係合され,タイミ
ングベルト4aに歯合したタイミングベルト4によって搬送方向に摺接
移動される」(本件明細書段落【0029】,4頁17∼21行)もの
である。このように,被処理物を所望の間隔で連続的に搬送するように
したことによって,被メッキ処理物のサイズにかかわらず,同じ条件下
でメッキ処理がなされるのですべて同じ状態に仕上がり,しかも,隣接
する被処理物の間隔を狭く設定することで,側端部にメッキが集中する
のを防止し均一なメッキ皮膜を形成できるのである。
他方,乙2発明は,もともと,間欠移送機構から連続移送機構への移
し換え機構に関する発明であり,本件発明とは目的を異にする。すなわ
ち,乙2発明の前処理ゾーンでは,複数の処理槽が仕切られて個別にな
っているため,ワークキャリヤの間隔は各処理槽の間隔分だけ広くとっ
て間欠移動させるのに対し,メッキ処理ゾーンでは,内部に仕切りのな
い長いメッキ槽内を連続的に搬送するのであり,搬送の形態が相違する
から,ワークキャリヤの間隔が違うことは当然であり,「メッキタンク
12内での距離間隔を狭くする技術的要請」ではない。また,乙2発明
には,搬送間隔調整装置は存在しておらず,メッキ処理中におけるワー
クキャリア2の搬送間隔は,無端チェーン14に予め固定的に枢着され
たプッシャー15の間隔に並べ替えられるだけであり,被処理物のサイ
ズに対応して搬送間隔を調整することはできず,メッキ厚を均一にする
ことを目的とした所望の間隔は考えられていない。乙2発明の【図2】,
【図3】におけるワークキャリヤの距離間隔についての説明は,技術的
には意味がない。
(イ)本件報告書では,連続メッキ装置における技術的要請として,均一
なメッキ厚を得るにはプリント配線板のエッジ(角)に電界が集中しな
いように配慮することは技術常識であるとするが,その引用資料(表面
技術便覧)では,メッキ槽に浸漬されて水平搬送されない浸漬方式にお
いて,遮蔽板を配置することに言及するのみである。また,本件報告書
の引用資料(米国特許第558757号公報)及びその翻訳(甲10)
では,【図1】のプレート状のワークピース4枚がa1,a2,a3の
間隔で区分内に列に取り付けられていることが記載されているだけであ
り,「ワークピースを水平方向に移動させつつメッキ処理する」,「連
続メッキ装置」については記載がない。したがって,当時の技術水準と
して,「メッキ槽において被メッキ処理物を所望の一定間隔に調整」す
る具体的技術手段は,存在しなかったものである。
なお,本件報告書は,乙2発明について間違った説明をしており,ワ
ークレール3とティーバー4が下限位置まで下降したときには,テ11
ィーバー4は前進ができないから,「ワークキャリヤ2のAはワーク1
レール3からワークレール13へ受け渡す」ことができないのに,そ1
の旨の説明をしている。
(4)損害論
(原告)
ア被告アルメックスは,平成15年2月ころ以降,平成18年10月2日
ころまでの間,被告装置を少なくとも50基製造販売し,その売上金額は
少なく見積もっても合計78億2100万円である。被告アルメックスP
Eは,平成18年12月ころ以降,被告装置を少なくとも15基製造販売
し,その売上金額は少なく見積もっても合計31億9000万円である。
イ原告の特許法102条3項による特許発明の実施に対し受け取るべき金
銭の額に相当する額は,売上金額より梱包費及び運賃を控除した金額に実
施料率の4%を乗じた金額であるから,被告らの上記製造販売による原告
の損害額は,次のとおりと算定される。
(ア)被告アルメックスが製造販売した被告装置については,{78億2
100万円(売上金額)−6310万5000円(平均的な梱包費及び
運賃)}×4%=3億1031万5800円となる。
(イ)被告アルメックスPEが製造販売した被告装置については,{31
億9000万円(売上金額)−3155万円(平均的な梱包費及び運
賃)}×4%=1億2633万8000円となる。
ウ争いのない事実等(3)アのとおり,被告アルメックスPEは,被告アル
メックスのプラントエンジニアリング事業部に関わる義務を承継している。
(被告ら)
原告の主張は,争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)−1被告装置の特定及び構成について
(1)前記第2の1の争いのない事実等(4)アのとおり,被告装置の構成等のう
ち,当事者間に争いのない部分等は,別紙被告装置目録記載のとおりである。
また,被告らが開示する,被告装置において先行する被メッキ材Mと次行す
る被メッキ材Mの相互間隔が狭くなる機構は,同争いのない事実等(4)イの
とおりである。
(2)原告は,上記(1)に加え,被告装置の第3昇降レール8は,昇降装置50
によって第1昇降レール6,第2昇降レール7と共に昇降され,同時に転回
装置13により転回レール12が同調駆動するようになっていると主張する
が(第2,3(1)−1(原告)イ(イ)①),第3昇降レール8が,昇降装置
50により,第1昇降レール6及び第2昇降レール7と共に昇降されること
を認めるに足りる証拠はない。
(3)また,原告は,上記(1)に加え,被告装置には,S1メッキ槽被メッキ材
投入部の枠確認センサー,S2メッキ槽被メッキ材投入部の枠確認センサー,
S3作業槽枠確認センサー(別紙被告装置目録第2図には*で表示)がそれ
ぞれ設定されており,①先行する被メッキ材m1がメッキ槽14内を1ピッ
チ前進した位置に達すると,枠確認センサーS1がシーケンス制御装置に対
して枠確認信号を発信し,シーケンス制御装置は,その信号を受けて,設定
されたプログラムに基づき第5下部プッシャー105を起動し,後続の被メ
ッキ材m2を同m1と所定の間隔で並列するように,これを吊持するキャリ
アー25を搬送用ラック15上に押し出す(第4の5図),②第5下部プッ
シャー105の上記作動が終了すると,枠確認センサーS2がこれを感知し
てシーケンス制御装置に対して枠確認信号を発信し,シーケンス制御装置は,
その信号を受けて,設定されたプログラムに基づきキャリアー25を持ち上
げる又は降下させる昇降レール(6∼8)を駆動する昇降装置50を起動し,
昇降レール(6∼8)を上昇させるとともに,上部プッシャー機構(201
∼203)が搬送方向に1ピッチ前進作動し,各昇降レールに係合されてい
る各キャリアー25を1ピッチ押出し前進させることにより,被メッキ材m
3が第3昇降レール8のメッキ槽投入側端部に移動し,後続の被メッキ材が
順次1ピッチずつ前進する,③各処理槽に設定されたセンサーS3(別紙被
告装置目録第2図)によって枠確認が行われて昇降装置50が起動し,各昇
降レールと共に第3昇降レール8は,降下して同m3をメッキ槽14の投入
口端部待機位置に浸漬するとともに,後続の被メッキ材m4,m5を酸洗槽
5に浸漬すると主張する(第2,3(1)−1(原告)ア,イ(イ)②,(ウ),
(エ))。
そして,証拠(甲6の1)によると,被告装置には,脱脂槽,湯洗槽,水
洗槽,前処理シャワー槽,酸洗槽,メッキ槽入口等において,それぞれ枠確
認センサーが設置されていることが認められ,争いのない事実等(4)イ(ア)
においても,被告装置には,各位置センサーからの信号を取り込むシーケン
ス制御装置が設けられ,キャリアーに吊持された被メッキ材Mは,上記シー
ケンス制御装置による制御信号に基づき,移動が行われるとされるところで
ある。
しかしながら,争いのない事実等(4)イ(イ),(ウ)のとおり,第4下部プ
ッシャー104による固定レール11から第3昇降レール8への前進移行の
タイミング・時間間隔,昇降装置50による第3昇降レール8の下限から上
限への上昇移動のタイミング・時間間隔,第3上部プッシャー203による
第3昇降レール8に沿う前進移動のタイミング・時間間隔,第5下部プッシ
ャー105による第3昇降レール8から給電レール16への前進移行のタイ
ミング・時間間隔は,上記シーケンス制御装置において予め設定されている
ことに照らすと,各位置センサーは,各位置までの移行動作が完了し,次の
動作に移行することを許容するための単なる移行動作確認をしているにすぎ
ず,原告の主張するように,枠確認センサーが被メッキ材等の位置を感知し
て,シーケンス制御装置に対して枠確認信号を発信し,その信号を受けたシ
ーケンス制御装置において,設定されたプログラムに基づき第5下部プッシ
ャー105を起動したり,昇降装置50を起動すると解することはできず,
また,これを認めるに足りる証拠もない。
(4)なお,別紙被告装置目録第2図搬送概要説明図の下部プッシャーとレー
ルの近接状況及び第1∼第4の上部プッシャーの送り爪の数については,原
告の主張する位置関係及び送り爪の数を認めるに足りる証拠はないから,こ
れらの点については,被告らによる被告装置目録(被告ら)の第2図搬送概
要説明図に記載された範囲で認めることができる。
2争点(2)侵害論,(2)−1本件発明1の侵害の有無について
(1)要件1A(被告ら1A)について
ア「ハンガーレールに沿って併設」について
(ア)要件1A(被告ら1A)には,(要件1B(被告ら1B①)の「昇
降手段」と要件1C(被告ら1B②)の「移動手段」と要件1D(被告
ら1B③)の「制御装置」とからなる「搬送間隔調整装置」が)「ハン
ガーレールに沿って併設され」と記載されているところ,「併設」とは,
「いっしょに設置すること。あわせて設備すること。」(株式会社岩波
書店平成20年1月11日刊広辞苑第6版)を意味し,通常は,2つ以
上のものが存在することを前提として使用される用語と解されるから,
同要件における「併設」とは,2つ以上のものを一緒に設置すること,
又は,併せて設備することと解するのが相当である。
(イ)上記解釈は,本件明細書の詳細な説明,図面とも整合する。すなわ
ち,本件明細書には,「メッキ装置1は…被メッキ処理物であるプリン
ト基板2を摺動自在なハンガー3を介し吊持してエンドレスの搬送手段
であるタイミングベルト4によって搬送するハンガーレール5と,該ハ
ンガーレール5に沿って併設された搬送間隔調整装置6と,メッキ槽と
を少なくとも設けている」(段落【0012】,3頁左9行∼14行),
「搬送間隔調整装置6は,図1に示すように…ハンガーレール5に沿っ
て設けられ…ハンガー3をハンガーレール5から持ち上げて離隔させる
平板体の移載レール6aと,該移載レール6aを支持すると共に搬送方
向に沿って往復移動する早送り部材6bと,該早送り部材6bを支持し
て早送り往復移動させる駆動装置(図示せず)及び凹状の往復軌道6c
を有するハンガー移送部材6dと…昇降装置6eと…制御装置(図示せ
ず)とから構成されている。」(段落【0020】3頁左47行∼右1
0行)と記載され,本件明細書【図1】においても,ハンガーレール5
に沿って,ハンガーレールとは異なる別の移送手段が示されている。
(ウ)原告は,「併設」については,ハンガーレールと搬送間隔調整装置
を物理的に別物とする必要はなく,物理的に1つのものを2面的に機能
させても併設になると主張する。
しかしながら,対象となるものが1つしかない場合に併設との用語を
使用することは一般的ではなく,また,本件明細書の記載や図面で示さ
れた内容との整合性の観点からも,物理的に1つのものを前提としてい
ると解することは困難であるから,原告の主張を採用することはできな
い。
イ以上の解釈を前提として,要件1B(被告ら1B①)及び要件1C(被
告ら1B②)について検討する。
(2)要件1B(被告ら1B①)について
ア「昇降手段」について
(ア)要件1B(被告ら1B①)には,「前記ハンガーレールのハンガー
を持ち上げる又は降下させる昇降手段と」と記載されているところ,前
記(1)アのとおり,昇降手段を構成部分とする本件発明1の搬送間隔調
整装置と,ハンガーレールとの位置関係を表す要件1A(被告ら1A)
の「併設」の文言の解釈に照らすと,要件1B(被告ら1B①)におい
て,搬送間隔調整装置の構成部分である昇降手段は,ハンガーレールと
は別部材のものとしてハンガーレールに併設されており,同昇降手段に
よってハンガーがハンガーレールから持ち上げられることを意味すると
解される。そうすると,ハンガーは,「昇降手段」により,ハンガーレ
ールから隔離され持ち上げられるものであって,ハンガーレールと共に
持ち上げられるものではないと解するのが相当である。
(イ)上記解釈は,本件明細書の詳細な説明とも整合する。すなわち,本
件明細書には,「メッキ装置1は…被メッキ処理物であるプリント基板
2を摺動自在なハンガー3を介し吊持してエンドレスの搬送手段である
タイミングベルト4によって搬送するハンガーレール5と,該ハンガー
レール5に沿って併設された搬送間隔調整装置6と,メッキ槽とを少な
くとも設けている」(段落【0012】,3頁左9行∼14行),「搬
送間隔調整装置6は…間隙Aに下から進入して係合しハンガー3をハン
ガーレール5から持ち上げて離隔させる平板体の移載レール6aと…か
ら構成されている」(段落【0020】,3頁左47行∼右10行),
「昇降装置6eを作動させてハンガー移送部材6dを所定量上昇させる。
すると,移載レール6aの上端部が前記ハンガー3iの間隙Aに進入し
て嵌合するとともに,当該ハンガー3iをハンガーレール5から持ち上
げて支持する」(段落【0027】,3頁右49行∼4頁左3行),
「昇降装置6eが降下される。ハンガー3iは,再びハンガーレール5
に係合され」(段落【0029】,4頁左17行∼19行)とそれぞれ
記載され,搬送間隔調整装置6の昇降装置6eによって移載レール6a
が上昇して,ハンガー3の間隙Aの空間に下から進入し,そのまま上昇
することによってハンガー3全体をハンガーレール5から持ち上げ,ハ
ンガーの上昇時に,ハンガーがハンガーレールから切り離され,(移送
された後),昇降装置6eによって降下し,ハンガー3が再びハンガー
レール5に係合されることが示されている。
(ウ)原告は,本件発明1においてハンガーを昇降させる目的は,前処理
工程からメッキ処理工程への移行に際し,上昇によって処理槽間の隔壁
を乗り越えるとともに早送り移動させて被メッキ処理物の間隔を所定の
間隔に調整することにあるから,その目的を達成する範囲で解釈すると,
要件1B(被告ら1B①)の「昇降手段」については,被メッキ処理物
を搬送軌道レベルから昇降させれば,「昇降手段」による昇降に該当す
ると主張する。また,原告は,要件1B(被告ら1B①)には,ハンガ
ーレール「から」ハンガーを持ち上げるとは記載されておらず,要件1
C(被告ら1B②)には,持ち上げることによって搬送手段から切り離
すことは記載されていないと主張する。
しかしながら,上記(1)アの本件発明1における要件1A(被告ら1
A)の「併設」の文言の解釈に照らした上,要件1B(被告ら1B①)
の「昇降手段」について検討すると,ハンガーは,ハンガーレールとは
別部材のものとして,ハンガーレールに併設された昇降手段により,持
ち上げられるのであるから,その際,ハンガーはハンガーレールから隔
離されると解するのが相当である。要件1B(被告ら1B①)の「ハン
ガーレールのハンガーを持ち上げる又は降下させる」との文言も,ハン
ガーを,ハンガーレールから切り離して昇降させることを意味し,要件
1C(被告ら1B②)の「該昇降手段によって持ち上げられたハンガ
ー」との文言も,昇降手段によって持ち上げられ,ハンガーレールから
切り離されたハンガーを意味すると,それぞれ解するのが相当である。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
イ被告装置の充足性
(ア)原告は,被告装置において「昇降手段」に相当するのは,昇降レー
ル(6∼8)であると主張し,また,原告は,被告装置において「ハン
ガーレール」に相当するのは,「給電レール16,昇降レール(6∼
8),固定レール(9∼11)及び転回レール12と,キャリアー搬送
チェーン24を含めた,各レール機構によって構成される循環搬送軌道
であると主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,昇降レール(6∼8)は,昇降手
段であるとともに,ハンガーレールにも相当すると主張するものである
から,上記(1)アの「併設」の文言の解釈に照らして,採用することが
できない。そして,被告装置の具体的作動において,被告装置のキャリ
アー25は,ハンガーレールである第3昇降レール8に吊持されたまま
第3昇降レール8ごと上昇し,上昇した段階で第3上部プッシャー20
3により同じ第3昇降レール8上を移動して,次のステップの位置に到
達したとき,第3昇降レール8に吊持されたまま降下するから,被告装
置におけるキャリアー25は,第3昇降レール8(ハンガーレール)か
ら切り離され,持ち上げられることはない。そうすると,被告装置には,
本件発明1の「昇降手段」が存在しないことが明らかである。
したがって,被告装置は,要件1B(被告ら1B①)を充足しない。
(イ)原告は,「持ち上げ」(要件1B(被告ら1B①))とは,ベース
軌道から外す意味であり,被告装置における昇降レール(ハンガーレー
ル)は,そこに吊持したキャリアー25(ハンガー)をベース軌道から
外して特別の速度を与えるものであるから,まさに「ハンガーレールの
ハンガーを持ち上げる」もので,構成としては同一のものであるとか,
被告装置においては,ハンガーレール5自体に加工を加えて搬送設計を
固定化しているにすぎない等と主張するが,ハンガーは,上記「昇降手
段」(要件1B(被告ら1B①))により,ハンガーレールから隔離さ
れ持ち上げられるとの前記解釈に照らすと,原告の上記主張を採用する
ことはできない。
(3)要件1C(被告ら1B②)について
ア「早送り移動手段」について
(ア)要件1C(被告ら1B②)には,「該昇降手段によって持ち上げら
れたハンガーをハンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送手段の搬送
速度よりも早い速度で移動させる早送り移動手段と」と記載されている
ところ,前記(1)アのとおり,早送り移動手段を構成部分とする本件発
明1の搬送間隔調整装置と,ハンガーレールとの位置関係を表す要件1
A(被告ら1A)の「併設」の文言の解釈に照らすと,要件1C(被告
ら1B②)において,搬送間隔調整装置の構成部分である早送り移動手
段は,ハンガーレールとは別部材のものとしてハンガーレールに併設さ
れており,ハンガーは,ハンガーレールとは別系統の搬送間隔調整装置
の早送り移動手段によって,ハンガーレールの搬送手段である「エンド
レスの搬送手段」(要件1A(被告ら1A))の搬送速度よりも速い速
度で移動させられ,これにより,速度が調整され,先行する被メッキ処
理物を吊持したハンガーとの間隔が調整されると解するのが相当である。
(イ)上記解釈は,本件明細書の詳細な説明とも整合する。すなわち,本
件明細書には,「メッキ装置1は…被メッキ処理物であるプリント基板
2を摺動自在なハンガー3を介し吊持してエンドレスの搬送手段である
タイミングベルト4によって搬送するハンガーレール5と,該ハンガー
レール5に沿って併設された搬送間隔調整装置6と,メッキ槽とを少な
くとも設けている」(段落【0012】,3頁左9行∼14行),「搬
送間隔調整装置6は…ハンガーレール5に沿って設けられ…該移載レー
ル6aを支持すると共に搬送方向に沿って往復移動する早送り部材6b
と…から構成されている」(段落【0020】,3頁左47行∼右10
行),「昇降装置6eを作動させて…移載レール6aの上端部が…ハン
ガー3iの間隙Aに進入して嵌合するとともに,当該ハンガー3iをハ
ンガーレール5から持ち上げて支持する。同時に,タイミングベルト4
とハンガー3i側のタイミングベルト4aとの係合関係が解除される」
(段落【0027】,3頁右49行∼4頁左5行),「そして,早送り
部材6bを駆動装置で往復軌道6cに沿って,タイミングベルト4によ
る搬送速度よりも遙かに早い速度で搬送方向に移動させる。…プリント
基板2aに急接近したプリント基板2bとの間隔は…測定される。」
(段落【0028】,4頁左6行∼13行),「プリント基板2aの後
端とプリント基板2bの先端との間隔bが…例えば…以下…になると…
昇降装置6eが降下される。ハンガー3iは,再びハンガーレール5に
係合され,タイミングベルト4aに歯合したタイミングベルト4によっ
て搬送方向に摺接移動される」(段落【0029】,4頁14行∼21
行)とそれぞれ記載されており,ハンガーレール5から持ち上げられて
離隔されたハンガー3が,搬送間隔調整装置の早送り部材6bによって,
エンドレスの搬送手段による搬送より速い速度で移動されることが示さ
れている。
(ウ)原告は,本件発明は,メッキ処理等の高速化に限度があること等を
解決すべき課題とし,「前記搬送手段の搬送速度よりも早い速度で搬送
方向へ移動させ,先行したハンガーの被メッキ処理物と当該被メッキ処
理物との間隔を制御装置を介して所望の間隔に」することを解決手段と
しているから,要件1C(1B②)の「前記搬送手段」は,要件1A
(被告ら1A)の「エンドレスの搬送手段」ではなく,「メッキ槽内の
搬送手段」を指称すると解すべきであり,本件発明における早送り移動
の意味も,搬送速度がそれぞれ異なる前処理,メッキ処理,後処理を連
続させるために最も搬送速度が遅いメッキ処理槽中における搬送速度を
基準として,それより搬送速度が速いものを早送りと指称したものと解
すべきであると主張する。
しかしながら,要件1C(被告ら1B②)の「前記搬送手段」の「前
記」は,特許請求の範囲に他に搬送手段が記載されていない以上,要件
1A(被告ら1A)の「エンドレスの搬送手段」を意味することが明ら
かである上,上記のとおり,本件発明は,ハンガーが,エンドレスの搬
送手段によって搬送するハンガーレールとは別系統の搬送間隔調整装置
の早送り移動手段によって速度を調整され,先行するハンガーとの間隔
が調整されるものであると解されることからすると,要件1C(被告ら
1B②)の「前記搬送手段」を「メッキ槽内の搬送手段」に限定すべき
理由はないというべきであり,原告の主張は採用できない。
イ被告装置の充足性
(ア)原告は,被告装置において,「早送り移動手段」に相当するのは,
第1∼第3上部プッシャー(201∼203),第1∼第5下部プッシ
ャー(101∼105)であると主張する。また,原告は,被告装置に
おいて,「エンドレスの搬送手段」に相当するのは,レール昇降装置5
0とプッシャーによって移行搬送するレール機構と,チェーン15Aに
よって移行搬送する搬送用ラック15と,プッシャーによって移行搬送
するレール機構からキャリアー搬送チェーン24によって再び最初のレ
ール機構に回帰するエンドレスの搬送軌道であると主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,各プッシャーは,搬送間隔調整装
置の構成部分である早送り移動手段であるとともに,エンドレスの搬送
手段にも相当すると主張するものであるから,上記原告の主張を前提と
すると,早送り移動手段がエンドレスの搬送手段そのものに該当し,こ
のような早送り移動手段が,エンドレスの搬送手段である「前記搬送手
段の搬送速度よりも早い速度で移動させる」(要件1C(被告ら1B
②))ことはあり得ない事態となってしまう。また,被告装置の具体的
作動においても,被告装置は,被メッキ材M投入から,脱脂槽1,湯洗
槽2,水洗槽3,前処理シャワー槽4,酸洗槽5を経て,被メッキ材M
がメッキ槽上部に設けられた給電レール16に移行するまで,各所に設
けられたプッシャーにより所定の速度で移動しており,このうち,メッ
キ槽に移行する際に作動する第5下部プッシャー105についても,所
定の速度で移動するものであるが,給電レール16に移行すると,同レ
ールに設けられた搬送用ラック15は,その速度がそれ以前の移動速度
より遅いため,メッキ槽に移行した先行の被メッキ材m1は,第5下部
プッシャー105により給電レール16に係合した段階で移動速度が遅
くなり,後行の被メッキ材m2は,給電レール16に係合した段階で先
行のm1との距離を縮めることになる。このように,第5下部プッシャ
ー105の移動速度は,給電レール16に設けられた搬送用ラック15
の移動速度よりも速い速度であることになるが,そもそも被告装置は,
搬送手段の搬送速度が一定ではなく,各プッシャーは,所定の速度で移
動しているにすぎないこと,被告装置では,「エンドレスの搬送手段」
の構成部分である各プッシャーとは別系統の「早送り移動手段」により
ハンガーを移動させるものとはいえないこと等からすると,被告装置に
おいては,格別に被メッキ処理物の搬送間隔を調整するために速度を調
整しているとみることはできないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができず,被告装置
には本件発明1の「早送り移動手段」が存在しないから,被告装置は,
要件1C(被告ら1B②)を充足しない。
(イ)原告は,被告装置において,基準となる搬送速度はメッキ処理のた
めにメッキ槽内で被メッキ材Mを搬送する搬送用ラック15の搬送速度
であるところ,昇降レールによって上昇させた被メッキ材をプッシャー
によって早送りして,最終的に後行の被メッキ材m2が第5下部プッシ
ャーにより給電レールに係合した段階で,先行のm1との距離が縮めら
れて間隔調整が行われているから,被告装置が本件発明と基本的構成を
同じくしているとか,エンドレスの搬送手段とは,均一なメッキ処理の
ための連続搬送手段であるから,その搬送経路に昇降手段,早送り移動
手段が構成部分として含まれていても矛盾はない等と主張するが,上記
の「前記搬送手段」(要件1D(被告ら1B③))の解釈に照らすと,
メッキ槽内における搬送用ラック15の搬送速度を基準となる搬送速度
と解することは相当ではなく,また,前記(1)アの「併設」(要件1A
(被告ら1A))の意味に照らすと,エンドレスの搬送経路に昇降手段,
早送り移動手段が構成部分として含まれていると解することも相当では
ない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(4)そうすると,その余の点について検討するまでもなく,被告装置は,本
件発明1の要件1B(被告ら1B①)及び要件1C(被告ら1B②)を充足
しない。
3争点(2)−2本件発明2の侵害の有無
(1)本件発明2の要件2Bには,「該ハンガーレールに沿って設けられる請
求項2または3に記載の搬送間隔調整装置と」と記載されているところ,上
記のとおり,被告装置は,請求項2(本件発明1)の搬送間隔装置の要件を
充足していない。また,請求項3については,同請求項には「被メッキ処理
物を摺動自在なハンガーを介し吊持してエンドレスの搬送手段によって搬送
するハンガーレールに沿って併設され,前記ハンガーレールのハンガーを持
ち上げる又は降下させる所要長さのレール状の昇降手段と,該レール状の昇
降手段に支持されたハンガーをハンガーレールの搬送方向に向けて前記搬送
手段の搬送速度よりも早い速度で移動させる押送り手段と,前記昇降手段と
押送り手段とを制御する制御装置とからなること,を特徴とする搬送間隔調
整装置」と記載されているが,同請求項は,請求項2(本件発明1)の昇降
手段を「所要長さのレール状」と,早送り移動手段を「押送り手段」とそれ
ぞれ限定したにすぎず,本件発明1と同様に,「ハンガーレールに沿って併
設され」,「ハンガーレールのハンガーを持ち上げる…昇降手段」,「前記
搬送手段の搬送速度よりも早い速度で移動させる」ことを要件としているが,
上記のとおり,被告装置は,これらの要件を充足しておらず,請求項3の搬
送間隔調整装置の要件を充足していない。よって,本件発明2の要件2Bを
充足していないというべきである。
(2)したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告装置は,本
件発明2の要件を充足しない。
4よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の本件特許権の侵害
に基づく損害賠償請求は理由がないといわざるを得ない。
第4結論
以上により,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとして,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
清水節裁判長裁判官
菊池絵理裁判官
岩崎慎裁判官

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